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041.願い

 そんな騒動があった後、子竜はお父様に許可をもらった。最初は驚かれたものの、連れてきてしまったものは仕方が無いし、すでにラズロ――精霊王との関わりもあって、慣れも出来てしまったのだろうか?


 意外とあっさりと許可が下りたのである。


 そうして、子竜は従魔のチョーカーをつける条件で、私の部屋の新たな住人となった。私の部屋に置かれた、柔らかなクッションの詰まった小さなカゴが、子竜のベッドだ。


 そして、さらにお父様にお願いしたのは、サウザン王国への打診だ。


「アネスタの砂漠が全て緑地になったのをご存じですか?」


「ああ、もちろん。視察を送っていたから、とっくに知っていたさ」


「さすがお父様!」


 私はお父様に飛びついた。


「こらこら。さすがに良い年の娘のする仕草ではないぞ」


 そう言いながら窘めるものの、私の子供っぽい仕草がお父様は嬉しかったようで、穏やかに笑っていた。


「サウザン王国もな、そんな方法があるのであれば是非導入したいと言って、すでに魔道具のスプリンクラーとかいったか? あれとエリスの作った栄養剤も購入して下さったんだよ。だから、もうすでに運転を始めていて、結果が出始めていると、ちょうど感謝の礼状も来ていたんだ」


 その言葉に私は目を丸くする。


 ――そうか。それで緑竜が力を取り戻したのね。だから、さっき来てくれたんだわ。


「お父様! 教えてくれてありがとう!」


 私は早速またラズロに空を飛んで、こっそりサウザン王国の、緑になりつつある大地を見に連れて行ってもらおうと部屋へ駆けていったのである。


「ラズロ! ラズロ!」


 私は自室の扉を勢いよく開ける。


「なんだにゃ?」


 ソファで寝ていたラズロが顔を上げた。


「意地悪ね! アネスタだけじゃなくて、サウザンももう、緑化が進んでいるって言うじゃないの! どうして見せにつれていってくれなかったのよ!」


「……越境してそこまでいくつもりにゃ?」


「だって、自分の成したことだもの! この目でみたいのよ。国境で良いわ。だったら、どちらの土地も見えるでしょう? ね、子竜ちゃん、あなたも見てみたいわよね?」


「ピィピィ」


 子竜も羽をパタパタさせて「行こう行こう」と乗り気のようだ。


「まったく、このおてんば姫はしょうがないにゃ……」


「ん? だぁれがおてんば姫ですって?」


 じとっと顔をのぞき込めば、つつっと顔をそらすラズロ。


「じゃあ、みんなで外に出るにゃ」


「ええ!」


「ピィ!」


「あっ。そうだわ。どうせだから万能薬を持って……」


 私は万能薬をショルダーバッグに詰め込んで、あとから彼らを追いかけた。


 そうして、私達が揃って外に出ると、ラズロが翼の生えた聖獣の姿に変わった。


「さ、乗るがいい」


 私は乗馬服のままだったから、再びラズロに跨がって、大空に向かって駆けていく。


 さっき飛んだときよりも、もっともっと高度が高い。


 ギリギリ越境したとしてもバレないようにとのラズロなりの配慮のようだ。


「すごい……砂漠なんて全然無いわ。一面、緑ばかり……」


 そう。


 眼前に広がる景色は、高い山、広がる海、それらを除けば、ほとんどが肥沃な大地へと変わっていたのだ。


「地平線全部が、山か緑の大地なんて見たことがないわ……!」


 私達がいるのはちょうどアネスタとサウザン王国の中央、国境付近だ。


 あの、いつもユリウスと会う場所、その真上にほぼ近い場所だ。


「ここでポーション……万能薬を降らせたらどうなるのかしら! ねえ、ラズロ、水の精霊に手伝わせて!」


 ショルダーバッグに入れてきたポーション瓶の蓋を私は全部開けてしまう。


 そして、私は叫んだ。


「水の精霊ウンディーネさん、手伝って! アネスタも、サウザンも、全部に薬を撒きたいのよ!」


 すると、ラズロが命じるでもなく、以前の彼女達が現れて、私の周りを舞い踊る。


「奇跡の『錬金術姫』さん。お招きいただいてありがとう。お手伝いをするわね」


 そう言って、私の周りをくるくる回る。


「じゃあ行くわよ! 水球(ウォーターボール)!」


 すると、いつものように、次々と私の万能薬がポーション瓶からするりと出てきて、水球状になる。


 そして、私の周りにふわふわとたくさんの虹色の水球が浮かんだ。


「さあ! 領土関係なく、届くだけずっと遠くまで、みんなのところまで届いてちょうだい!」


 私が叫ぶと、水球達は空に浮かんでいって、そしてアネスタとサウザンの領土の隅々にまで行き渡ろうかというように、散り散りに飛んでいく。


「……癒しの霧雨(キュアミスト)!」


 私が両手を広げてまぶたをつむり、「全てに行き渡れ」と水球達に祈った。


 天井には青空、地上には緑の大地。


 サアアアアア……、と、「万能薬」の霧雨が降っていく。


 日の光を受けて、霧雨はキラキラと七色に煌めく。そして、その七色の光は、大陸半分に大きな半円を描く虹になったのだった。


「なんて綺麗」


「なんて優しい祈り」


「もっともっと届くようにてつだわなくっちゃ!」


 水の乙女達も、うっとりとしながら手伝ってくれる。


 ――この薬が、ユリウスにも、ユリウスの大切な人にも届きますように!


 あの人はどこからあの場所に来るのだろう。


 どこでどんな生活をしているのだろう。


 会いたい。


 この、出会いの場所を中心に撒けば、きっと必ず届くことだろう。


 そう願って、私は万能薬を散布した。


 ――ああ、そうだ。


 リルルにお願いして、ユリウスにこの緑化が成功したことも伝えよう。


 辺境に生まれたって。


 錬金術師という職業だって。


 人を喜ばすことは成せるのだ。


 愛しているわ。ユリウス。


 この思いが、愛する気持ちが、癒やしの力と一緒に届きますように――。

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