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040.竜達との出会い

「エリス! エリス!」


 ある日、ラズロが勢いよくまだ眠っていた私の布団の上に猫の姿で飛び乗ってきた。


「……ん……朝から何……重い?」


 目を開けてみると、その正体はラズロだった。


「ラズロ……。今朝は急にどうしたのよ?」


「緑竜がな? 力を取り戻し始めたにゃん!」


「えっ!? 本当?」


 私はガバッと上体を起こした。


「本当にゃん! さっきにゃ、竜族の長の赤竜から聞いたのだがにゃ。ようやく力が戻り、卵も生まれているらしいにゃ。新しい命も生まれるにゃん」


 あまりに嬉しそうにはしゃぐラズロの愛らしい様子に、つい、薄い夜着のまま、彼を胸に抱きしめる。


「それは良かったわ! きっと砂漠が緑地に変わりつつあるから、緑竜にもいい影響が出たのね!」


 ぎゅうっとだきしめると、ラズロがなぜかジタバタする。


「きょっと待つにゃん、エリス。私は良いがそなた私が元々はどういう存在か忘れてはいにゃいか……」


 ラズロがわたわたしていたかと思うと、ぼふんと人型を取り、ぼふっと寝具の上に起こした状態を押し倒される。


「……そなた、私を煽りすぎだぞ……」


 そんな私は夜着のまま、見目麗しくたくましい男性と化したラズロに、ベッドの上に押し倒された格好になってしまっていた。片方の手は私の顔の真横に置かれ、彼の体を支えている。すなわち、覆い被されているのだ。


 そして、もう片方の手の甲が、ついっと私の頬を撫で降りていく。


「な、ななな……!」


 私は、寝具をかき集めて、心許ない胸元から顔を必死に隠す。多分顔は羞恥で真っ赤だろう。かあっと首から上に血が一瞬で上り、熱かった。


「……そんなに恥じらうなら、はじめからするな」


 ふう、とため息をつくと、ラズロはぽふんと猫型に戻り、私を解放してくれた。


「まあ、命の恩人でもあり、ここまでの才能のある娘、嫁に欲しいことこの上ないのだがにゃあ。……他の男に惚れている者を無理強いするほど、野暮でもないのにゃ」


 つん、と鼻を上向けてそういうと、ひょいっと飛び去る。


「……ラズロ?」


 最後の言葉が、本気か冗談かわからず、私は呆然として彼を見ていると気が変わったようにラズロがにやりと笑う。


「そうだ。付いてくるといいにゃ。そなたの成した偉業、その目で実際に見せてやろう。着替えをしたら、あとで屋上へ来るにゃ! ああ、乗馬服がおすすめだにゃ」


 そうして、マリアに乗馬服に着付けてもらったあと、約束のとおり私は屋上へと向かった。すると、白銀のライオンの姿に、翼をはやした状態のラズロがそこにいたのだ。


「さあ、乗るといい! 見事に緑地になったアネスタの大地をその目で実際に見せてやろう!」


 そう言うと、私が乗りやすいように身をかがめてくれる。


「嬉しいわ! じゃあ、失礼して……」


 私は、ラズロの背に跨がり、内股でしっかりと体を固定する。


「たてがみをしっかりと掴んでおけ。万が一に落ちたら目も当てられないからな!」


 そう言うと、バサリと背中から生えた翼を羽ばたかせる。そして、何度か羽ばたくとだんだんとラズロの体が屋上から離れていく。


「ちょっと! 落ちる前提みたいに言わないでちょうだい!」


 私は慌てて背中に生えた立派なたてがみを手綱代わりに、しっかりと掴むのだった。


「さあ、行くぞ!」


 そう宣言すると、ぐんっと高度が上がっていく。


「わあっ! どんどんお城が遠くなっていくわ!」


 城が小さくなり、森や林、街道が見える。城の周りの城下町はまるで模型のようだ。


「これからこの領土全部を一望させてやろう!」


 ぐんっと推進力が体全体にかかるのを感じると、あっという間に景色が変わっていく。青い空に浮かぶ雲を追い抜いて、雲をくぐり抜けては景色がまた一転する。


「すごいわ……!」


「そなたの功績を見せてやろう! ほら、下を見るがいい!」


 すると、眼下に広がるのは青い海と、広く、広く、広がる緑の大地。青と緑のコントラストが美しかった。ここはかつて、ずっと広い砂漠が広がっていたはずの土地だ。


 牧草地には白い羊や山羊といった家畜が草を食んでいるのが小さく見えた。


 畑になった土地もあるようで、種まきをしている人々も見える。


 あるのは、永遠かと思うくらいに広がる牧草地。地平線の先まで緑が広がっている。


「砂漠が……ないわ!」


「これが、そなたが成した偉業だ……そして」


 もうひときわバサリと羽ばたいて、ラズロが高度を上げていく。


「竜達よ! この大地に緑を取り戻し、緑竜族を助けた姫がいる。さあ、現れるがいい!」


 すると、空のあちらこちらから、赤、青、黄、黄緑、緑の巨大な竜達が飛んでくる。


「ちょ、ちょっと待ってよ! 竜なんて呼んじゃって平気なの?」


「はっはっは。何を言うかと思えば。おびえる必要など無い。そなたは、竜達にとっては恩人なのだからな」


 まるで襲ってくるかのように四方から竜が飛んでくるので、私は身を縮こめる。だというのに、ラズロはそれを愉快そうに笑い飛ばすのだ。


 そして、五匹の竜が私達を取り囲んだ。


「精霊王。それがお主の言っていた錬金術師の娘か」


 私達を取り囲んだ竜のうち、赤い竜が低い声で問いかける。


「ああそうだ。エリス。名乗るといい」


 そうは言われても……と思っても、促されてはしかたがない。竜達も、興味深そうに私を見ていた。


「私はエリス・フォン・アネスタ。錬金術師です。この大地に水と栄養と、そして種を撒き、アネスタの砂漠を緑に変えました。次は、この実績を以て、サウザン王国の砂漠も緑地化する計画です」


「ふむ。我は赤竜。炎を司る竜だ」


「我は青竜。水を司る竜だ」


(わらわ)は風竜。風を司る竜です」


(わし)は土竜。土を司る竜だな」


「そして私が緑竜……あなたに助けていただきました。ありがとうございます。あなたのおかげで、一族のものは力を取り戻し、新たな命も生まれ、育とうとしています。これも皆、あなたがアネスタの大地を一新してくれたおかげです」


 そうして、緑竜を筆頭に竜達が一斉に私に向かって頭を垂れた。


「えっ……ちょっと、頭を上げてください!」


 さすがにこんな大きな竜達に頭を下げられても恐れ多すぎて、私は首を横に振って、頭を上げるように頼んだ。


「いや、そうはいかない。我らはあなたに恩義があります。今後あなたの身になにかあれば、我々はあなたのために馳せ参じると誓いましょう」


 緑竜がそう言うと、その大きな陰から、小さな個体がこちらに飛んで来た。


「ピィ」


 パタパタと空を飛ぶ子竜の姿は愛らしい。


「その子は我が子。何かあればその子が我々を呼ぶでしょう。身近においてやってください」


 パタパタと飛ぶ緑色の子竜は、人なつっこく私の周りをくるくると回る。


「良いのでしょうか? 大切なお子様をお預かりして」


「……ええ。その子の命も、あなたのおかげで生きながらえたもの。あなたのお役に立ててください」


「わかりました。大切に預からせていただきます」


「ええ」


「ピィ!」


 そうして、子竜を残して、竜達は飛び去っていった。


 私達も、子竜を伴って、自分達の城に戻ったのだった。

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