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004.ツッコミどころ満載の婚約破棄

 ――でももう、私には関係ないもんね!


「……もう一度お伺いしたいのですが、殿下」


 私はいたって冷静な声で問いかける。


「なんだ」


 問いかける私の言葉に、ぶっきらぼうに応える声。


「いやぁだ、未練ったらしーい」


 それと、何か勘違いした甘い声が混じっている。


 しかしまあ、ちょっとそこはおいておこう。


「なぜ、私は婚約破棄をされるのでしょうか? それと、国王陛下は……」


 すると、私の言葉を遮るように、殿下が声を荒らげた。


「辺境育ちの小娘が私の妃になんて、ふさわしくないからだ! 最初から嫌だったのだ!」


 それは初耳だった。


 だったらそうと言ってくれればよかったのに。


 とっとと、実家に帰っていたし、そうすればあんな苦労もしないで済んだのに。


 大体私は……あとでいうけれど、元々思い残し、気になっていた人がいたのだ。そんなほんの小さな恋すら捨てて王都へやってきたというのに。


 そういえば、さっきも少し思い出したけれど、よくよく考えてみれば、彼の対応はかなり冷ややかなものだった。優しい言葉や心のこもった贈り物など受け取ったこともなかったことを思い出す。


 ただ、私は初めての婚約なので、それが当たり前なのか当たり前じゃないのか、右も左もわからないで王宮にいたので判断も付かなかった。


「家と家との婚約なんてこんなものかしら?」と。


 けれど、よくよく思い出してみれば、実家から付き添ってきてくれている侍女のマリアがなんだか苦言を呈していたような気もする。


 それにしても。


 なぁんだ。嫌だったんだ。


 酷いなあ。


 だったら、最初から親に面と向かって拒否すればいいじゃないの。何で私が今ここで割を食らわなきゃならないのよ。


 むしろ私は、大人達から突きつけられる王妃教育のノルマをこなすのに必死になっていた気がする。しかもこの殿下、からっきし勉強にご興味のないご様子で、「将来は王をサポートするように」と言われて、お妃教育に加えて帝王学まで課せられていたのだ。


 あ、また愚痴が出た。


 そして、話がずれたかもしれない。


 と、不満を心の中でだだ漏らしている間にも、殿下の面白くもない演説はまだ続くらしい。


「しかも成人式を迎えてみれば、手を汚しあくせく働く地味な技師である錬金術師だと?  田舎者の錬金術師が私の未来の王妃? はっ。まっぴらごめんだ!」


 殿下が私を不躾に指さしたあとは、ミリアを手のひらで指し示す。


「それに比べて、ミリアに与えられた職業は聖女。清廉なる力で人々を癒す、これこそ未来の王妃にふさわしい職業。彼女こそ未来の王妃。父には、あとで説得するつもりだ」


 ――えっと、えっと。ちょっと待って。突っ込みどころ満載なのだけど?


 ああ、まず、我が国の職業制度を説明しておこうかしら。


 この国では十六歳で成人となるんだけれど、職業は自分で決められるものではないのだ。成人式を教会で行い、その際に職業の啓示によって決まる。ただし、王族などの一部の人は除かれるけれど。


 そして、職業とは『神に与えていただくもの』だから、『職業に貴賎はない』はずだ。


 ああ、話を戻さなくちゃ。


 まずは、『田舎者』からかしら?


「田舎者とおっしゃいますが、アネスタ家と婚姻を結んだ意味がおわかりで?」


「はぁ? 所詮田舎の金を持った一貴族だろう。その、垢抜けず、魅力のない身なりも気に食わんのだ!」


 ――ちょっと頭が痛くなってきた。


 ひとまずここは、容姿を卑下されたことはおいといておきましょう。


 落ち着いてね。


 すーはー、すーはー。


 殿下は国王陛下が決めた婚約を、許可なく破棄宣言しているよね?


 幾ら息子とはいえ、この封建社会の中で、国王陛下を説得するって?


 お父様は確かに国王陛下で国の統治者。


 けれど、あくまで殿下は国王陛下の息子に過ぎない。


 そして、ご兄弟がいらっしゃるから国王陛下の御心一つで、王太子の座すらすげ替えられるのですが? 事実、彼にはヴィンセント殿下という歳の近い弟君がいらっしゃる。


 自分のお立場という物がおわかりなのだろうか?


 次に、私の身なりが気に食わないそうで。


 王太子妃とか王妃になる人は、金食い虫であってはならないのですが、わかっているのだろうか? そこに際限なくお金をかければ、国を傾けるってことを知っているのかな?


 ミリアさん……? 確か彼女、男爵家のお嬢さんだったはず。それにしてはずいぶん背伸びして派手なドレスを着ているし。ああ、殿下からのプレゼントかも?


 だったらますます良くない傾向だと思うんだけれど……。


 生地はおそらく質の良い小花柄の繊細な絹織物。それに、七分丈の袖には繊細なレースが、今流行の三段重ねで縫い付けられている。そして、腰には光沢のある生地で大きなリボンが腰に飾られている。


 アクセサリーには彼女の色に合わせたのだろう。ピンクトルマリンか何かの宝石をふんだんにあしらった揃いのイヤリング、ネックレス、ブローチ、頭飾りとあしらっていて、到底男爵家で買えるような代物ではなかった。


 ちなみに私、彼女の家名を知らなかったりする。


 由緒正しき男爵家なら私も王妃教育の一環として覚えてもいるんだけれど、なんだかお金で爵位を買ったらしい。そんなこんなで新興の家らしいと、以前噂に聞いた。


 お金で買ったということは、もしかしたら実家のお金で買える?


 そういう人たちの懐事情のほうまでは良くしらないのだけれど……。


 まあ、とにかく、妃教育の一環としてほぼ全貴族の名前と家紋を覚えさせられていた私ですら、彼女の家名は覚えてはいなかった。


 さて。


 私が嫌なのは仕方がないとして。


 どう考えても彼女は家格的にも王太子妃には合わないのではないだろうか?


 合わないというか、なれるのかな? 妃教育ってかなりハードなんだけど。

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