030.特級品の美容品
ところで、話はそれだけでは終わらない。
――ポーションが特級品になるなら、石けんとかも同じようにならないかしら?
私に手に負える量は限られているし、まずは一般品をみんなに普及させようというのが目的だったから、魔力をセーブして作っていた。
でも、ポーションをうっかり「万能薬」にしてしまった時のように、私の本来の聖なる魔力を存分に与えたら、すごい性能の物が出来るような気がして、好奇心がうずくのだ。
みんなに披露をした次の日、早速私はマリアと二人、プラスラズロだけで昨日と同じ作業をやってみることにした。
「まずはフローラルウォーター。化粧水とアロマオイルね!」
私は、大きめのビーカーを取り出し、私はその中にバラの花びら入れ、その上から水魔法で純水を満たす。
「どうなるのかにゃ」
ラズロは好奇心からなのか、しっぽがゆらゆらと機嫌良く揺れている。
――さあ! 今度は全力で行くわよ!
「抽出」
すると、ビーカーの中に、バラ水とその上に少し油分が浮いた。
「すごい香気です……。なんていい香りなんでしょう」
「こういう香りが苦手にゃんだが、これは嫌いじゃないにゃん」
マリアとラズロが感嘆の声をあげる。
それもそのはず。驚いたことに、アトリエ中を包み込むようにバラの香りが漂ったのだ。そして、化粧水に至っては、真珠の粉でも混ぜたかのように細やかに光り輝いていた。
「これは……この抽出した化粧水とオイルからかしら? それともどちらかだけの香り?」
そこが気になって、私は手順を先に進めることにした。
空のオイル用の小瓶と、フラスコを用意して、成分を抽出した液体に命令する。
「分離」
すると、オイルは瓶に、フローラルウォーターはフラスコの中に移動した。私は、それを交互に嗅いでみた。
「香りは微妙に違うけれど、どちらもとても良い香りだわ。力を抑えたときとは全く違う……」
私はそう呟いてから、マリアを手招きして一緒に香りを確認してもらった。マリアは、ラズロにも嗅がせてあげようという心からなのか、しゃがんで一人と一匹で仲良く嗅いでいる。
「これ、どちらも前回のものとは比べものにならないくらいに良い香りです……!」
マリアは言葉で絶賛し、ラズロは機嫌が良いようで髭を前のめりにしながら何度も嗅ぎ比べをしていた。
「でしょう? うーん。私の魔力で品質が変わっちゃうのかしら?」
「そうなんじゃないのかにゃ? この間と変えたところと違うのは、魔力をセーブするかしないかだけにゃんだろう?」
「ええ、そうねえ……」
先日みんなの前で作った物は、前の世界で試しに手作りしてみた物とあまり相違ない質のものが出来ていた。けれど、私の魔力を存分にふるって作ってみたものは、香りの華やかさがまるで違うのだ。
とはいっても、やたらとバラ臭いとかそういうのではなくて、「薫り高い」とでも称したら良いのだろうか? 上質な香りのものに変わっていた。
「ポーションといい、化粧品といい……姫様のお力は本当にすごいのですね」
マリアは感心しきりといった様子で、まだ香りを嗅いでいた。表情は感極まって恍惚とした表情をしている。
「次は石けんよね……こっちも魔力を存分に与えたら、違う品質になっちゃうのかしら?」
あともう一つ、石けんが残っていることを思い出して、そちらに興味がわいてきた。
「こんなに香りのよいオイルが出来たのだから、どうせならローズオイルを入れた石けんを作ってみたいわね……」
灰汁は前回作ったものが残っていたから、それを使うことにした。
そして私は、パームオイルとシアバター、残っていた灰汁を四角い型に入れて、香り高いローズオイルをたらす。それから均一になるようにかき混ぜて……。そして、錬金術を使って固形石けんへと変える!
――でも、今度は全力で!
「固化!」
すると、私の手から流れ出る魔力が金色に輝いて、液状だった物が固形になって石けんになっていく。しかしそれは、私の魔力の影響なのか、白ではなくわずかに金色の輝きを持つものに仕上がったのだった。
「……やっぱりこちらも違う出来になるのですね……」
「すごいにゃん。キラキラしているにゃん!」
マリアとラズロは感心しきりといった様子で、目を丸くしていた。




