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029.美容品の量産計画

 私はマリアと共にお父様の執務室へ向かった。一人、代表として家に仕えている錬金術師でさっき見学していた者も一緒に連れている。ちなみに彼は我が家の錬金術師達の長ガルムだ。


 そんな彼に石けんやスクラブ、化粧水とローズオイルを持ってもらっている。


 コンコン、と私は扉をノックして来訪を知らせる。


「お父様。エリスです」


「ああ、入れ」


 すると、マリアが扉を開けてくれるので、私は執務室に入室した。ちょうどお兄様方もお父様の執務の手伝いをしていたらしく、二人ともちょうど部屋にいた。


「お父様。試作品ができたんです!」


 私は一緒に連れてきた錬金術師に試作品を提出するように促した。すると、彼は家族みんなに一礼をしてから、試作品をお父様の目の前に並べた。


「これはまた、色々作ってきたね……これは石けん?」


 下の兄のコンラートお兄様が興味深げにその品を眺めてから、ココナツ石けんを手に取った。


「はいそうです。今までのものは獣の脂を原料とした物でしたが、我が国でよく採れるココナツオイルやパームオイル、シアバターといったものを代わりに使ってみたんです」


「へえ。今までのものより手触りもいいし、何より香りがいい。父上、これ、手に取って嗅いでみてくださいよ」


 コンラートお兄様がそう促すと、お父様も長兄のアドルフお兄様もめいめいに石けんを手に取ってそのさわり心地や香りを確認する。


「へえ。これは女性が好みそうな香りだな。何かの花かい?」


「はい。バラの精油を抽出して、それを加えた物です。ベースのオイルにシアバターを入れたので、香りがいいだけではなく、お肌も髪もしっとり艶やかになるはずです」


 アドルフお兄様に尋ねられた私が回答する。


「それらの石けんは見学に来ていた侍女達も夢中になっていまして。製品化すればきっと我が領の良い特産品となりましょう」


「なるほど……。それで、あと残りの物は?」


「はい。まずはこちら。バラと水で作った化粧水で、女性の肌に潤いを与えます。バラ以外の花でも作れまして、それぞれの花によって保湿以外にも様々な美容効果を与えることが可能です」


「ほう。女性は社交の場に出ることもあって、美容関係の新製品となればこぞって欲しがることだろう」


 お父様はすでに製品化や販売の算段を考え始めているようだ。


「そしてこちらはスクラブ。オイルに砂糖を混ぜただけの物ですから、錬金術師でなくても作ることが可能です」


「ほう?」


「これは肌に残った老廃物……不要な物を取り除き、きめ細やかで弾力のある肌質を得ることが出来ます。マリアに使ってもらいましたが、その肌触りは侍女達にも大変好評でしたよ」


「ガルム。そなたから見てどうだった?」


「はい。これらはその場にいた女性達を虜にしていました。そして、姫様の作成していた手順は私を筆頭にその場にいた錬金術師達がメモを取っていましたから、量産体制を整えるのも可能でしょう」

「ふむ。ならば、我が領の名産品とすることも可能か……」


 思案にふけるように顎を撫でるお父様。そんなお父様に、アドルフお兄様が声をかける。


「父上。まずは領内の貴族を中心に販売し、裕福な庶民、そして、……ノルデンの王都ではなく、サウザン王国の王都向けに輸出してはいかがでしょう?」


 ――ん? それはどういうことだろう? 国内じゃなくて国外向け?


「ああ、それはいいね」


 次兄のコンラートお兄様も同感といった様子で頷いている。


「えっと……どういう?」


 私はよくわからずに首を傾げた。


「例の婚約破棄だよ。我がアネスタ家に恥をかかせてくれた王都や王家に、こんな良い物を与えてやる必要ないじゃないか!」


 アドルフお兄様が語気荒く訴え、テーブルを叩く。


「気持ちはわかるがそこまで熱くなるな。……だがまあ、一理あるか。彼らは『田舎者の錬金術師』が生み出した『洗練されていないはずの品』など不要だろうがな」


 そう言って「あっはっは」とお父様が快活に笑う。


「アドルフ、コンラート。そなた達の気持ちはよくわかった。……エリス。当事者のそなたはどうだ?」



 ――どうって言われてもなぁ。


 ああでも、私の発明のおかげで彼らの生活水準が上がって幸せそうにするのは……。


 あんまり嬉しくないかも。


 いや、しゃくに障る。



「そうですね。まずは領民達を優先に。そしてまだ余るようでしたら、外貨を稼ぐためにも、そして、万が一の時のために隣国との友好を深めるためにも、お兄様達のご意見通りがいいと思います」


「そうか、そうか。じゃあ、開発者であるエリスの意思を尊重してそのように取り図ろう」


 お父様は、労るような温かな目線で私を見つめてから、決断を下してくださった。


「では、ガルム。量産体制については、そなたに任せることにする。よいな?」


「はっ!」


 こうして、私が開発した新製品は、私達の領を除いてノルデン王国には出さずに、サウザン王国に輸出することに決まったのだった。


「そういえば、お願いしていた設計図……加熱機能付きの浴槽ってどうなっていますか?」


 私は草案をお父様に預けていたので、それについて尋ねてみた。


「ああ、あれは、うちに仕える魔道具師に見せてみたらな。実現可能だし、これは画期的だといって張り切って作り出しているらしいぞ」


「わあ! それはとても嬉しいです!」


 喜ぶ私を見て、お父様が目を細めた。


「そうそう。こんな発想はなかなかないと、しきりに感心しておった。そうだ。他にも不足に思う物があれば言って欲しいといっていたぞ」


「はい!」


 ――やったわ。これで、今のところ不満だったことが解消するわ!


 私は喜びを胸にお父様の部屋を後にしたのだった。

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