028.スクラブ
「あとは、スクラブかしら」
「すくらぶ……ですか?」
それは聞いたことのない名前のようで、みんながきょとんとした顔をする。前の世界にあった、体や顔の余分な角質を落とすためのスクラブは、まだこの世界にはないから、この反応はあたりまえね。
「ええ。お肌の余分な角質という成分を取り除くの。角質っていうのはそうね。お肌に溜まった老廃物よ。ああ、あんまり頻繁にやると肌を傷めるから、これはたまにやってね?」
そこで私は誰に試してみてもらうか思案する。すると、偶然マリアと目が合った。
「マリア、被検体になってちょうだい」
「えっ! 私ですか!?」
名指しされてマリアが、自分を指さしてびっくりした顔をする。
「そうよ、あなた。さあ、この椅子に座ってちょうだい」
ちょうど近くにあった椅子を持ってきてもらって、マリアを座らせる。
「さて、スクラブを作っちゃおうかしら。すごく簡単なのよ」
私が作ろうと思っているのはシュガースクラブだ。大体砂糖とオイルを重さ的に半々くらいになるようにビーカーに入れて、それを撹拌棒でぐるぐるとよく混ぜた。
「はい、これで完成。この、お砂糖の粒が、優しく肌を磨いてくれるのよ」
「はっ……はい……」
マリアは観衆達に注目されて緊張しているのが目に見えてわかってしまう状態だ。表情もとても硬い。
「マリア。もう少し力を抜いて、ね?」
「はっ、はい」
彼女の両肩を軽く叩けば、上がっていた肩の力が抜け、ぎこちなかった表情も和らいできた。
「そうそう。じゃあ、始めるわね」
まず、私の両手でココナツオイルの石けんをたっぷりと泡立てて、マリアの顔をまんべんなく洗う。
「マリア、これでいいわ。水で顔を洗って泡をすすいでちょうだい」
「わかりました」
マリアは、別の侍女が差し出してくれた桶で、顔をすすぎ、タオルで水気を拭った。
次に私は、オイルの混ざった砂糖をマリアの肌、顔に載せる。私は砂糖を溶かしながらマリアの顔を優しくマッサージしていく。
「な、なんだか恐れ多くて……」
本来なら立場が逆だからだろうか、マリアは恐縮した感じで眉を下げる。
「何言っているの。私の開発を手伝ってもらっているんだから、これもお役目のうちと思ってちょうだい」
そんなマリアに私はくすくすと笑いながら、くるくるとマッサージする手を止めない。すると、しばらくしてようやく砂糖のざらつく感触も感じなくなってきた。
「うん。砂糖も溶けたみたいね。これで十分だわ。マリア、水で顔を洗って余計な油を取り除いてきてちょうだい」
「わかりました」
マリアは、再び顔をすすぎ、タオルで水気を拭った。
「さて、次はさっき作っておいた化粧水ね」
スクラブで磨いた顔に、バラから作った化粧水をパシャパシャとたっぷりマリアの肌に載せていく。そして、肌に良くなじむまで優しく肌を叩く。
「さあ、マリア。まだお役目はまだ終わらないわよ?」
マリアが不思議そうな顔をする。
「え? ええと……?」
「さあみんな! シュガースクラブと化粧水の効果を肌で感じてみて!」
そう。マリアの次のお役目とは、結果の披露だ。
「うわぁ! すべすべです!」
「もちもちしていますね!」
「手が肌に吸い付くようです!」
マリアの頬に次々に触れていく侍女達は、触った感想を述べていく。
その横で、錬金術師はというと。
「これなら錬金術師でなくとも作成できるな」
「だが、あの女達の様子を見ろ。肌の質感に夢中になっている」
「これはやはり、ご領主様に我が領での生産をお勧めした方が良さそうだ」
なんて話したりしていた。
そんなとき、くいくい、とケットシー姿のラズロが私のスカートの裾を引っ張った。
「発想はすごいがにゃ? そうじゃなくて、そなたの特殊な能力はつかわにゃいのか?」
そんなラズロの様子に、クスッと笑って私は彼の高さに合わせるべくしゃがみ込む。
「まずは、みんなに普通のものを見せた方がいいわ。そうじゃないと、お手本にならないもの。特別な物はあとでまた別に作るわよ」
そして、その耳元にこっそりと内緒話をした。
「にゃるほど」
そして、評判も上々なようで、「これらの品が欲しい!」と口々に女性達がいうものだから、お父様の元へ報告に行くことにした。




