027.石鹸
「さて、次は植物油が原料の石けんを作るわよ」
そこで私は、うーんと考える。
ココナツオイルが原料なら、そのままその甘い香りを活かした物を作ればいいわよね。パームオイルだったらさっき採ったローズオイルで香りをつけてもいいかも!
シアバターを入れたら、きっと使った後も肌も髪もしっとりするはずだわ!
「まず、ミネラルたっぷりの海草を原料にして灰にして、その灰汁を採るわ」
壺の中に海草を入れて、私は手をかざす。
「変成」
勿論これは、燃やすだけでもいい。だけど、私は火魔法を使えないので、錬金術で海草を燃やして灰にする課程を魔力に頼ったのだ。
「さて、これで灰になったわね」
私をぐるりと囲む、興味津々の観衆達に、壺の中身を見せて回る。
「この中に、水を入れて灰汁を採るわ。水魔法で水を入れて……純水作成!」
すると、灰が入ったままの壺の中が水で満たされる。
「ここは加熱して取り出してもいいんだけど、私は火魔法が使えないから錬金術に頼るわ。抽出!」
こうすることで、水の中にカリウムが溶け出すのだ。
「そして、石けんを作るのに必要な成分だけを取り出すわ。分離!」
すると、前もって用意しておいた大きめのビーカーの中に、カリウムを含んだ灰汁だけが取り出された。
――うーん。この世界の錬金術って、便利。
前世でもこれって作ることが出来るんだけど、本来なら加熱したり漉したり、時間がかかるものだ。それを一瞬で出来ちゃうなんて、なんて便利なんだろう。とはいっても魔力のコントロールなんかは必要だから、その訓練が必要って問題はあるけれど。
領土全体に定期的にポーションの雨を降らせるために、ポーションを何度も作っていたら、その辺りのコントロールは上手くできるようになって、抽出以外の錬金術の魔法もすんなり出来るようになったのだ。
って、話が少しずれたわね。
そうそう。石けんを作るために、カリウムを含んだ灰汁を採ったところだった。
私は厨房で使う四角いケーキ型の中に、液体状のココナツオイルと灰汁を入れる。
もう一つの型には、シアバターとパームオイルと灰汁と、数滴のローズオイルをたらす。
それぞれ均一になるようにかき混ぜて……。そして、錬金術を使って固形石けんへと変える!
「固化!」
すると、みるみるうちに液体状だったものは、前世でよく見た固形石けんの大きい版みたいなものに固まっていく。
「マリア。これを、いつも使う石けんくらいの大きさに切り分けてくれるかしら?」
「承知しました」
ここについては、「刃物を使う作業を姫様にさせるなんて!」とマリアが譲ってくれなかったので、お言葉に甘えることにした。
そして、ココナツ石けんと、シアバター入りのローズ石けんが完成したのだ!
「みんな! いつもよりも香りの良い石けんのできあがりよ!」
マリアが切り分けて、バラバラに取り分けてくれた石けんを、私は片手に一つずつ、掲げてみせる。
観衆からは、「わぁっ!」と歓声が沸き上がった。
「みんなも自由に手に取ってみて。今までの物よりとても良い香りがするから」
「「「いいんですか!?」」」
侍女達は美容に対する好奇心からか、そして錬金術師達は新しい物の性能を見たいのか、それぞれ期待に満ちた顔をする。
「そうね、マリア。そして侍女の子達も彼女を手伝って、いくつか空の桶を用意してちょうだい。それに水を入れるから、石けんを直に使って使い心地を試すといいわ」
すると、わあっ! とまた歓声が上がる。
「さあさあ、どうぞ」
マリアを筆頭とした侍女達がアトリエの外に用意してくれた桶の中に、私がたっぷりと水を満たす。そして、期待に沸いている観衆達に、切り分けた石けんを配って回った。
「いつものに比べて、泡立ちがとてもいいわ」
「それにまず、香りがとても素敵!」
「こっちのはとても甘い香りだわ」
「こっちのはとてもフローラルでかぐわしいわよ!」
女性達には、ココナツ石けんもローズ石けんも大好評のようだ。
「我らの領地は南部の海沿いであれば、原料になる海草もオイルも十分に産出できる。姫様のこの発明を、他の錬金術師達にも教えて産業にしたら、一大産地になるぞ!」
「ああ! 是非ともご領主様に申し入れよう!」
錬金術師達は、是非ともこれらを産業化したいと騒いでいた。




