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026.化粧水

 そして翌日。


「お父様!」


 お父様の執務室の扉をノックして許可を受けた私は、早速執務机越しにお父様と対面する。


「急にどうした。しかも、なんだかすごい勢いを感じるのだが……」


 私があんまりにも勢いよく、しかも前のめり気味にお父様に向かっている物だから、お父様は少し引いてしまったようだった。


「あっ。ごめんなさい。えっと、お父様にお願い事があって……」


「願い事?」


「はい。実は……」


 私は、新たに湯浴み用魔道具(要は風呂釜だ)、化粧水、オイル、石けん、スクラブを開発したいのだと、昨日思いついたことを説明した。


「ほう。ずいぶん色々と思いついた物だな」


「だって、不自由なんですもの」


 私は単純に思ったことを実行したいと思っただけ。けれど、お父様は意外そうにしながらも面白そうに話に乗ってきてくれた。


「だが、普通の者は、当たり前に周りにあるものを当たり前としか思わず受け入れるものだ。それを、

『不自由』と感じるのは独特の優れた観察眼。一種の才能だよ、エリス」


 交易も盛んな私の領を治めるだけあってか、お父様は非常に乗り気になってくれた。


 ――まあ、そこは前世の知識故のチートってところかなぁ。


 お父様に褒められたものの、その「観察眼」とやらは、私の才能ではなくて知識によるものだから、少し申し訳なさを感じてしまう。


 でもでも。


 これが上手くいったら、お父様にもメリットはあるもの!


 私はお父様の耳元に口を近づける。


「ねえ、お父様。これが上手くいったら……」


 そして、こっそりと告げる。


「これらを他の魔道具師や錬金術師達に作り方を教えたら……?」


「量産体制ができ、我が領の特産品に……?」


「そう! 大正解よ、お父様!」


 私は大きく笑って答えた。


「それは素晴らしい! では、明日にでも早速素材を揃えるよう命じよう。あとは、湯浴みの魔道具については、魔道具師の手配が必要だな!」


「はい、お願いします!」


 察しのいいお父様で助かったわ! そう思いながら、私は早速自室に戻って、魔道具の草案作りに取りかかるのだった。


 ◆


「あら? 何でこんなに人がいるの?」


 私は石けんの作成と、オイルの抽出を兼ねて化粧水を作ろうと思ってアトリエに来たところだった。すると、アトリエの入り口が侍女やら我が家に仕える錬金術師やらが押しかけてきていたのだ。


「マリア、これは一体どういうこと?」


 一番身近なマリアに尋ねると、侍女は美容品ということで興味があるということ、錬金術師は、新しいものの開発に興味があって押し寄せてしまったということだった。


 その回答に、私は嬉しくなってふふっと笑いがこぼれた。


「みんな好奇心旺盛で、勉強熱心でいいことだわ。邪魔しない程度に見学していってね」


 そう言って私が見学の許可を出すと、観衆はわっと歓声を上げたのだった。


 喜ぶみんなを横目に、私はマリアにアトリエの扉を開けてもらって中に入る。


 ――でも、お手本にしようと見に来た錬金術師がいるってことは、ポーションの時のようにうっかりチートな性能が出ないようにしないといけないわね。



 私は心の中で、そう注意をすることに決めたのだった。


「お願いしていたものはみんな用意しておいてくれたかしら?」


「はい。バラの花びらをたくさんと、シアバター、ココナツオイル、パームオイル。お砂糖に、ご当主

様に取り寄せていただいた海草を用意してあります」


「じゃあまず、バラの花びらから化粧水とオイルを抽出しましょう」


 作業台の前に並んだ器具から、大きめのビーカーを取り出し、私はその中にバラの花びら入れ、その上から水魔法で純水を満たす。


 ――さあ。普通性能で出来てちょうだい!


「行くわよ。……抽出(エクストラクト)


 すると、ビーカーの中に、バラ水とその上に少し油分が浮いた。


 結果も変な光り方もせず、普通に出来た。


 それにしても本来なら加熱して蒸留してやるこの工程を、魔法の言葉の一言で済ませられるというのは、正直、何度やっても私もびっくりする。


 ちなみに私が今やろうと思っているのは、いわゆる芳香蒸留水――別名フローラルウォーターを魔法で作ろうという試みだ。


「うん、上手くいったわね。じゃあ、小さな瓶を用意して……」


 浮いたローズオイルを取り分けるための小瓶を用意する。そしてその蓋を開けて命じた。


分離(セパレート)


 ローズオイルに向かってそう言うと、すでにローズウォーターとなっている水の上に浮いていた油分だけが丸い水滴のようになって宙に浮かび、そして、私が手に持っている小瓶の中にポトンと落ちた。


「さて。水の方はバラの有効成分が抽出されて、貴重なローズウォーターになっているから、こっちも選り分けてしまわないとね」


 私は、空のフラスコを二個用意した。


分離(セパレート)


 今度は、ローズウォーターに命じると、ビーカーの中にバラの花や残留物を残して、ローズウォーターだけが二個のフラスコの中に移動した。


 私は、オイルの入った瓶と、フラスコに蓋をする。


「こっちがバラの精油。そして、こっちがローズウォーターで化粧水ね。どちらもとてもいい香りがするわ。ちなみに、他の花でも出来るわよ」


 すると、観衆達がわっと声をあげる。


 侍女達は、化粧水やオイルの香りを嗅いでみたいと。


 錬金術師達は、私が今やって見せた手順をメモするのに必死な様子だ。


 私は、特に侍女達の様子を微笑ましく思った。


「待って、待って。全部出来たら、何人かの子にお試しで使ってもらうから、ちゃんと待っていてね」

 そう制すると、ようやく観衆はおとなしくなってくれたのだった。

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