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024.癒しの霧雨

「言っただろう? 私は精霊王。水の精霊達にそなたの水魔法の手伝いをさせる。ウンディーネ達、姿を見せるが良い!」


 ふとラズロがいた私の横を見てみると、角を生やした大きな白銀のライオンの姿になったラズロがいた。そして、彼の周りに水色の水を纏った乙女達が何人も舞っていた。


「これは精霊王様。御自らお呼びとは、これは何事で」


 乙女達のうちの一人が恭しげにラズロに礼を執る。


「私の横にいるのは私が守護するエリスという」


「まあ! 精霊王様が人の子を守護されるとは……よほどのことで?」


 不思議そうな顔をしてから、精霊達が、今度は私の周りを興味津々といった様子で舞い踊る。


「ああそうだ。奴らとの争いで傷ついた私を癒やしてくれたのだ。それを、これから彼女はこの領土中に行き渡らせようとしている」


 ――ん? 奴ら?


「まあぁ! 精霊王様を助けてくださったなら、私達の恩人でもあるのですね!」


「そういうことになるな」


 私の疑問とは余所に、興奮したらしい精霊達が私に興味を持った様子でさらにくるくると回ってきては、次は私だとでもいうように次々に顔をのぞき込まれる。


 やがて最初に代表して挨拶した子が一人私の前で止まり、恭しげに礼を執った。


「精霊王様の恩人の方。あなたがやろうとしていること、私達に手伝わせてください」

 そう申し入れを受けて、私は嬉しくなって口角が上がるのを感じた。


「それは心強いわ! 鐘が鳴ったら、ここにあるポーションを領土中に雨のように降らせようとしているの。そのお手伝いをしてくれないかしら?」


 そう言って私は自分の周りに置かれているテーブルいっぱいに並んでいる、すでに蓋の開いたポーション入りの瓶を指し示す。


「まあ。これなら水を司る私達でも操ることができるものね。その申し入れ、受けさせていただくわ! ね、みんな!」


「「「ええ!」」」


「ラズロ、ありがとう! これなら心強いわ!」


 なにせ、水を司る精霊達がこんなにたくさん手伝ってくれるのなら、これからやろうとすることも上手くいきそうだと、頼もしく感じた。だから、彼女達を呼んでくれたラズロに礼を言って、そのたてがみに顔を埋めるようにして彼を抱きしめた。


「ま、まあ、私は精霊王。……その私を救ったのだ。相応の礼は必要だからな」


 少々照れくさそうに、つんと鼻を上向かせてそっぽを向きながら答えた。


 カーン、カーン……


 そうこうしていると、お父様に周知してもらった時刻になったことを告げる鐘が鳴り響き始めた。


「じゃあ行くわよ! 水球(ウォーターボール)!」


 すると、次々と私の「万能薬」になってしまったポーションが、ポーション瓶からするりと出てきて、水球状になる。そして、私の周りにふわふわとたくさんの虹色の水球が浮かんだ。


「さあ! 領土みんなのところまで届いてちょうだい!」


 私が叫ぶと、水球達は空に浮かんでいって、そして領土の隅々にまで行き渡ろうかというように、散り散りに飛んでいく。


「みんな! 彼女の領民一人一人に届く様に手伝うわよ!」


「「「ええ!」」」


 精霊達も、私が飛ばした水球達を追いかけるようにして飛んでいく。


「……癒しの霧雨(キュアミスト)!」


 私が両手を広げてまぶたをつむり、「全てに行き渡れ」と祈るような気持ちで万能薬でもある水球達に命じた。


 雲一つない青空の下、サアアアアア……、と、「万能薬」の霧雨が降っていく。


 日の光を受けて、霧雨はキラキラと輝き、やがて領土全体に虹がかかる。


「えっ? なんだ? 俺の怪我が……」


「口を開けて飲んでごらん! 私の咳が治ったわ!」


「この雨は一体何なんだ!?」


「これは、ご領主様のところの姫様がなさっているそうだぞ!」


「聖女様だ……!」


「癒しの聖女様だ!」


 領都に住む者達が、私のいる城へと集まってきた。その熱狂ぶり、感激ぶりを見てお父様が許可を出し、城門は開放されて、私のいるバルコニーの下に民衆が大勢集まってきた。


「姫様、万歳! 聖女様、万歳!」


「姫様! 我がアネスタの癒しの聖女様だ!」


「帰ってきてくださってありがとうございます!」


 そうして私は領民達から熱狂的な支持と歓迎を受け、一回目の領土一帯をまとめて癒すという計画は無事成功に終わったのだった。


「ありがとう、ラズロ。そして水の乙女達」


 私は歓声を浴びながらも、手伝ってくれた彼らをねぎらった。


「……ん~。手伝わなくてもできたような?」


「ちょこっとフォローしてあげただけよね?」


 口々に精霊達が首を傾げながら答える。


「それでも、あなた達が手伝ってくれると言ってくれたから、自信が持てたのよ。ありがとう」


「そういうことならば、いつでも呼ぶといいわ。あなたのこと気に入ったもの。ね、精霊王様、いいでしょう?」


「……別に構わない。エリスと良くしてやってくれ」


「「「はぁい!」」」


「じゃあね!」


 そう言って、水の精霊達は姿を消していったのだった。

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