023.ポーションの使い道
私はポーションを作れるようになって、その復習とばかりに、ポーションを作ること数日が経った。ちなみに、他にも「毒消しポーション」とか「麻痺消しポーション」を作ってみても、どれも例の「万能薬」になってしまうのだ。
「これはこれで困りもののような……」
私は眉根を寄せてそれらの「万能薬」になったポーションを見つめる。
「万能薬なら、どんな症状だってたちどころに治るんだから、いいんじゃにゃいのか?」
ぼやいていた私とは対照的に、ラズロはずらりと並ぶ「万能薬」を満足そうに眺めていた。
「ところでこのいっぱいになった『万能薬』、どうするつもりにゃ?」
ラズロが、痛いところを突いてきた。
「そこなのよね。……いくら今たくさんあるからと言っても、私が作れる数は限られているし、やはり価格的に高価になってしまうだろうから、富めるものだけに使えるようにしかならないっていうのは、なんだか違う気がして」
私はそこにためらいを持っていて、私特製の「万能薬」を流通させることを出来ずにいたのだ。「流通させようか?」と言うお父様にもまだ、止めてもらっている。
「じゃあ、万人に届ければいいにゃ。この性能ならば、多少薄めたところで優れた治癒力はなくなるわけでもないだろうに」
「万人に……?」
そこで、「うーん」と私は考え込んでしまう。なぜかというと、領主の娘としては、売ると言うより領土に住むみんなに施してあげたかったからだ。でも、そのいい方法がなかなか見つからず、しばらく思案にふける。
しばらくして、自分の手を見る。
――私が使えるのは、聖魔法。これで「万能薬」を作れた。あとは……。
そこで、ふと思いついた。
「水魔法! 水魔法よ、ラズロ!」
「にゃ?」
その方法については思いつきもしなかったのか、ラズロが首を傾げた。
「水魔法でどうするのにゃ?」
「みんなに、領民全員に降り注ぐように、『万能薬』だって、水を含んでいるわ。だったら、水魔法でこの『万能薬』を操ることも出来ると思わない? 雨のように降らせたら、みんなに行き渡るじゃない!」
「それは名案にゃ!」
「早速お父様に提案しなきゃ!」
私は急いで執務室にいるであろう、お父様の元へ駆けつけるのだった。
「……あの『万能薬』を領土に降らせる?」
私の提案を聞いた最初、お父様は驚きで目を瞬かせた。
「はい! 私、あれをいつか流通させるのはいいのですが、まずは領民の健康が先だと思ったんです。私の水魔法であの『万能薬』を操れば、領土全体に雨のように降らせることも可能なはずです!」
興奮している私は、前のめり気味にお父様に提案した。
「エリス……その領民を思う優しい心。父として良い娘に育ってくれてとても嬉しいぞ。……そうだな。雨を降らせる要領で行き渡らせるというのであれば、領民は屋外に出ていないと効果はないだろう」
「あっ。そうでした……」
私は、考慮不足があったことに改めて気づかされて、どうしようかと思案を巡らせる。
「いやいや、そこは問題ない。領土中にふれを出し、決めた時間にお前の計画を実行すればいい」
そう言って、お父様が私を励ますかのように優しく私の肩に手を載せた。私はその温かさにほっと落ち着く。
「ありがとうございます、お父様」
こうして私は、たくさん出来てしまった「万能薬」を領土にすむ領民達みんなのために放出することになったのだった。
そしてその当日の朝。
「やってみるといったけれど、本当に領土全体まで行き渡らせることができるかしら?」
私は住まいである領主の城のバルコニーに立って、時刻を知らせる鐘が鳴るのを待っていた。
「ん? 力に自信がないのかにゃ?」
ラズロが不思議そうに尋ねてくる。
そりゃあ不思議に思うのは当然かも、と思い直す。提案したのは私だし。出来て当然と思うわよね。
「魔力も魔法威力についても、もともと王都付近に雨を降らせたりしていたから、そこそこ自信はあるんだけど、領土全体となると、本当に出来るのかは正直わからないの。初めてのことだし」
そう。ぶっつけ本番だというのに気がついたのだ。
――雨を降らすとかで練習をすれば良かったかもしれない……。
とはいえ、後悔するには時すでに遅し。
お父様が出したふれは領土中に行き渡っている。
「……ふーむ。じゃあ、ちょっと手伝ってやるかにゃ」
「え? 手伝う?」
私はラズロの言葉に首を捻った。




