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022.ユリウスの家庭事情

「……というわけでね、錬金術師の基礎って言われる、ポーションを作ることに成功したの!」


 相変わらず、私は国境近くにある二人の秘密の場所で、ユリウスと落ち合い、おしゃべりに興じていた。


「それはすごいじゃないか!」


 それに対して、私は「それだけじゃない」とばかりに、「ノンノン」と人差し指を左右に振ってみせる。


「ところがね? 私の聖魔法寄りの魔力の影響なのか、すっごいのが出来ちゃったのよ!」


「すごいって?」


 私の思わせぶりな言葉に、ユリウスは首を捻った。


「鑑定士的に言わせると、『万能薬』になっているっていうのよ」


「万能……薬?」


 ユリウスは目を丸くする。きっと驚いているのだろう。


「そう、『万能薬』。あっ。あんまり言いふらさないでね? お父様の言いつけなの」


「わ、わかったよ」


 ユリウスは、一瞬目を丸くしてから、私が気づくか気づかないかぐらいの程度にぎこちなく笑って頷く。


(……それがもし本当なら、父上や母上の病も治るかも……?)


 当然、そのユリウスのぎこちない表情の理由が、そんな胸の内に浮かんだ思いによるものなど、私は気づきもしなかったけれど。


「その『万能薬』って、そんなに性能がいいのかい?」


 ユリウスが私に尋ねてきた。


「ええ。この子……ラズロっていう私の従魔なんだけれど、私のハイヒールですら治らなかったあの子の深い傷もたちどころになおってしまったのよ」


 私は、気を利かせてなのか、遠くの花畑で暇つぶしをしているらしいラズロを指さして答えた。


 それを聞いて、ユリウスの顔色が曇る。


「……実は、私の父母が、それぞれなかなか治らない病にかかっていて」


「えっ!」


 私は驚いてユリウスのほうに顔を向ける。


「相応の対価を払うと言ったら、譲ってもらえないだろうか!」


 ユリウスも私の方を見て、そして、すがるように私の両方の肩を掴む。その瞳は必死さでいっぱいで、嘘偽りを言っているようには見えなかった。


「……私達の間で、対価なんて……」


「それはダメだよ、錬金術師さん」


 そこで、ユリウスがくすりと笑う。懇願して肩を掴む手の力は緩んでいた。


「次に会うときに、譲ってもらえないだろうか?」


「わかったわ。大切な……友達からの頼みだもの」


 そうして、再び出会ったときに、私は彼に私特製の万能薬を渡したのだった。


「ありがとう、恩にきるよ。……そうだ。お礼は後日改めて贈らせてほしい。いいかな?」


「ええ、いいわ! 友達だもの。今すぐなんて野暮は言わないわ!」


(……友達、か)

 そんな複雑な思いをユリウスが抱えているとも知らずに。


 その後、リルルにユリウス宛ての手紙を送ってもらった。勿論、内容はユリウスのご両親の容態についてだ。


「万能薬」と鑑定士に太鼓判を押されたといっても、彼らの症状に適合するかは使ってみないとわからない。だから、気になってその後の状況を問う手紙を送ったのだ。


 すると、『おかげで両親の病は、どちらも回復した。感謝している』と。そして、『いつかお礼をしたいから、また会いたい』と返信をもらうことが出来た。


「良かったぁ……」


 心からの安堵の声を漏らす、私。


 そして、私はまたユリウスに出会える日を心待ちにするのだった。

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