015.期待とおそれ
次の日、私は自室で錬金術に関する勉強をしていた。
私の部屋には真新しい書棚が増えていて、お父様によりそこに錬金術や魔道具に関する本がずらりと並べられているのだ。きっと、約束してくれた言葉通り、国内外から集められるものは全て集めてくれたのだろう。
――錬金術師になったと伝えたら、彼、どう反応するかしら?
と、そう考えたらドキッとした。
『また会いたい』
その言葉を思い出して胸が高鳴ったのと、錬金術師であることを婚約破棄の口実にされたのが相まって想いが交錯したのだ。
でも、彼はあの人のように王太子というわけではないし。職業に貴賎をつけたりしないわよね?
――彼は、今もあそこに来られるのだろうか?
と、そう思い至ったけれど。
「……まずは勉強が先よ。あ。」
――そうだわ。手紙を書くのは何も勉強をおろそかにするばかりじゃない。
錬金術師になったということや、その素材を取りに行くことを伝えるのは……別に、勉強をおろそかにしているわけじゃないわよね?
今までの話を伝えようと紙とペンを手に取って手紙をしたためる。
『ユリウスへ
こんにちは。
あなたが会いたいと伝えてくれて、とても嬉しかったわ。私も会いたい。
そういえば、私、職業が決まったの。錬金術師よ。これから頑張るつもり。
またあの場所で会えないかしら。ちょうどあそこに薬草が生えているのよ』
そう最後の言葉を綴った矢先、ふっとまた脳裏に例の件がよぎった。
「辺境の垢抜けない田舎娘」という卑下の言葉が胸を刺す。
――それでも、会いたい。
四年会わない間に彼は変わっているだろうか?
それとも、変わらず純粋な少年のような容姿なのだろうか。
いや、全く変わらないということもないだろう。
私は、姿見の前に立ってみる。
長い銀の髪に、すみれ色の瞳。それは変わらない。
けれど、あの少女の頃とは変わって、女性らしく曲線を描くようになったこの体。でも、あの王太子に言わせれば、垢抜けないというこの容姿。
――彼はどう思うのだろうか。
確かに、やたらと着飾るのが良いとされる王都風に言えば、「垢抜けない」というのはそうなのかもしれない。
でも、この辺りならばむしろ、王都風の衣服を着て髪を結った方が悪目立ちする。
――それに、以前会っていた頃だって、私はこうだったもの。
不安だった思いも、だんだん穏やかなものになってきた。
そして、自然体で会えばいい、そう思えた。
それに、この素材。私の銀の髪と紫水晶の瞳は、褒められこそすれ、けなされたことはない。そう、あのヴィンセント殿下のように。
あの、彼――ユリウスだって、幼い頃に褒めてくれたわ。
――思い切って会ってみなければわからないじゃない。
そう、意を決しリルルに手紙を運ばせたのだった。




