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011.再会

 私は、懐かしい実家の自室で、衣服を着替えたり髪を整え直したりと、マリアに身なりを整えてもらう。それから、居間でお父様達を待つことにしたのだった。


 居間のソファで旅の疲れを癒やしていると、館の侍女がお茶を入れに車輪付きの小さなテーブルを引きながら私のもとへやってきた。


「姫様、どうぞ」


「ありがとう」


 私は紅茶を淹れてくれたことにたいする礼を言う。


 ちなみに、マリアには旅を一緒にしてもらった疲れもあるだろうから、数日の休みを与えているので、侍女といっても違う女性だ。


 やがて、しばらくすると荒々しい複数人の足音が聞こえてきた。多分、お父様とお兄様達二人だろう。


「エリス! よく帰ってきた!」


 やはりお父様達で、私の顔を見るなり破顔したように豪快な笑顔を見せる。それから、私の方にやってきて、お父様の大きな腕の中に抱きしめられた。


 我が家はお父様を筆頭に、お兄様が二人、そして、最後に長女の私という家族構成だ。祖父母も早くにお亡くなりになったそうで、私は会ったことはない。


 お母様は私が生まれて程なくしてなくなってしまったそうだ。そんなお母様の顔も知らない私を不憫がって、私はお父様方にとても大切にしてもらっていた。たった一人の女の子ということもあるのかもしれない。


「全くかわいそうに。旅は不自由なかったか?」


 親子の抱擁を交わしながら、お父様が私に尋ねてくる。


「はい。馬も見事な速さでしたし、馬車もとても快適でしたわ。宿にも何も問題はありませんでした」


 そう答えて抱擁を終えると、次は長兄のアドルフお兄様だ。


「全くかわいそうに。婚約破棄だって? しかも王太子が勝手に言い出したそうじゃないか」


 よしよし、と、もう子供でもないのに、頭を撫でる癖は直らないらしい。


 そして最後に次兄のコンラートお兄様。


「お帰り。例の件はなんと言って良いか困るところだけれど……ともあれ、またこうしてエリスに会えるのはとても嬉しいよ」


 穏やかな口調と微笑みで迎えてくれた。


「お父様、お兄様達……ありがとうございます」


 そうして挨拶が終わると、それぞれが空いている席に腰を下ろしたので、そばに控えていた侍女は、お父様方の分の紅茶も淹れてからその場を辞していった。


「それで、婚約破棄の件だが」


 お父様が単刀直入に口火を切った。


「はい。私が辺境出身の田舎育ちだったのが元々お気にめしていなかったようでして。そこに、成人式で技術職とされる錬金術師になったのが……口実というところでしょうか?」


 実家に帰ってきて、私はようやく本音を漏らした。


「田舎って……国のために厳しい辺境を守る我らに失礼だろう!」


 烈火のごとく怒り出しそうになったのは、アドルフお兄様。


「まあまあ、そこは一旦ちょっとおいておこう。……で、エリス。()()っていうのは?」


 そうアドルフお兄様を御したのはコンラートお兄様だ。


「はい。……どうも、私、浮気されていたようなのですよね。もう、次の方を決めていらっしゃるようで。ああ、そうでした!」


 私が目をパチパチとさせて、最後にぽんと手を打っていうものだから、三人の注目が集まってくる。


「陛下の許可は取っていないと言っておられましたわ。新興の男爵家のお嬢さんで、職業が聖女だったのを理由に推すおつもりのようですが……。ちょっと家柄的にもお作法的にも無理があると言いますか……」


 やんわりと、婚約破棄の状況と、相手の彼女の人となりを伝えた。


「……全くずいぶんと馬鹿にしてくれたものだな。エリスも気乗りしない様子だったから、何度も断ったというのに。それでもどうしてもというから、エリスを王都へ送ったはずだが。それを、どこの馬の骨ともわからん男爵令嬢とは名ばかりの女にすげ替えるつもりか?」


 お父様は、私の待遇を聞いて眉間に深くしわを寄せている。


「とーっても親密そうでしたわ。べったりと、お胸まで触れるほどの距離で腕を組んでらっしゃるのよ。たくさんの貴族の方々がいらっしゃる夜会の場でしたから、さすがにびっくりで」


 私がさらに付け加えると、アドルフお兄様が肩を竦める。


「作法も礼儀もわきまえてないのか?」


「それよりも、色仕掛けの方に必死、ってとこなのかもね? でも、エリスにとってはちょうど良かったんじゃないのかい?」


 苦笑いをしながら、なんだか楽しそうにくすくす笑い出しているコンラートお兄様。


「ちょうどいいと申しますと?」


「……そういう堅苦しいのは抜き」


 その一言で、にっと二人で笑い合った。


「全くその通りです。婚約者になれと連れて行かれたものの、あの王太子ときたら愛想も悪く。しかも、当人が将来王になるというのにまともに勉強もしないとかいうありさまで、私、帝王学まで学ばされていたんです。即位後は王の補佐をしなさいって。もう勘弁です」


 私は王都での口調から実家での砕けた口調に戻して、今までの不満を漏らす。


「私は婚約者同士の交流なんてどの程度かわからないし、右も左もわかりませんでした。それをいいことに遊び呆けて、浮気相手まで作っているのですよ? それが、職業判定の結果をいい口実にと婚約破棄を言い渡されたんです。しかも公衆の面前で、ですよ?」


「よくそんな場を泣きもせずに耐え抜いたものだな。……って、前以上に気が強くなったか? 王宮とはそういう風に性格が変わるほど辛い場所だったか?」


 向かいに座っていたお父様が、立ち上がって身を乗り出し、眉根を寄せて私の方に顔を寄せてくる。


 ――っと。記憶が戻って、ちょっと性格が混ざったのを気がつかれてしまった?


「王宮での生活もそうですが、一番は婚約破棄で吹っ切れたのかも。ヴィンセント殿下にエスコートをしてはいただけたけれど、アネスタ家の恥にならないよう、毅然と退室せざるをえませんでしたから。……とても、色々と考えさせられたのです」


 私はそう言って、性格に変化があったことを理由づけた。だって、あの前世を思い出したから性格が変わったなんて言えないし、理解もされないだろうし。


 その説明を、なんとかお父様は信じてくれたらしい。


「そうか、辛い思いをさせたな」


 お父様が、私の両頬を優しく包み込む。それに対して、私は笑顔で首を横に振って見せた。


「もともと望まぬ婚約だったんだもの。そして、行ってみたら酷い仕打ち。ならばいっそ、潔く喜ぶべきかと思うんです」


「そうか、そうか。お前がそう言えるなら、それでいい。……まあ、このアネスタ家を侮辱してくれたことに関しては、おいおい考えることにするけれどな。よいか?」


 そう言って、今度はお父様の視線が二人のお兄様達に移る。


 三人は真剣な顔で何事か頷きあうのだった。

いつも感想、誤字訂正ありがとうございます!

個別にお礼が出来ておりませんが、ありがたく拝見しております。

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