竜の助と仲直りの約束
ボクは広い草原でたくさんの猫たちと日向ぼっこをしていた。もちろんこれも夢だ。知ってる。だってボクは猫アレルギーだもん。こんなにモフモフされたら困る。
でも夢のなかなら、モコモコの毛をふわふわ触ることが出来る。天然のソファみたいで夢の中だけど夢見心地だった。
空を見る。どこまでも蒼い。海の水と同じくらい綺麗だ。空気も美味しくて、何だかチーズケーキのような甘さを感じる。
こんな時間がずっとずーっと続けばいいのになぁ。なんて思った。呑気に深く目を瞑って羊を数えてみる。羊が一匹・羊が二匹・羊が三匹……。
「がおぉおおおお‼‼」
「わぁあああああ!?」
ボクは突然の鳴き声に驚いて、叫び返してしまった。ビックリした猫たちは、ササ―っとその場から居なくなってしまう。目の前には、ボクの夢に出てくるお馴染みの小さな竜。竜の助の姿があった。
静かな空間を乱されたことでボクは完全に怒ってしまった。
「もう、あっち行ってよ! バカの助っ!」
ちょっと言い過ぎたかな。竜の助の肩がすくんでいる。ちょっともじもじしながら、何か言いたそうにこっちを見てくる。
(あれ、これ覚えがあるぞ……)
そうだ。幼稚園で竜斗君に構ってほしくて後ろから大声を掛けた。ほんの出来心だ。悪気なんて無かったのに竜斗君は怒った。
もしかしたら竜の助もそうなのかな。ボクと同じで不器用なだけなのかもしれない。でも、「バカの助」は言い過ぎだよね。
謝らなきゃ。
でも、相手が先に謝ってこないと謝れない。どうしてだろう。どうしてボクは素直になれないの? ちょっとだけ自分が嫌いになった。
くすぐったくて足元を見ると、一匹の白猫が、蒼い瞳でこっちを見ていた。白猫は、ボクたちの間に入ると、まるで人間のように話し始めた。
「たった一言で仲直りできるのに。それをしないなんて損しているわ。だって、二人は友達でしょ。せっかく出会えたのに。ちょっとしたことで関係が途絶えてしまうなんて、こんなに悲しいこと他に無いわ」
白猫の言うことは正しかった。ボクは竜の助の目を見た。竜の助もボクの目を見た。今ボクがどんな顔をしているのかは、竜の助の表情で何となくわかる。
「ごめんね」
声が重なる。
それが可笑しくって、ついついお互いに笑っちゃった。白猫にお礼を言おうとしたけれど、その時にはもう居なかった。ボクたちはもう一度、下らないことでケンカをするかもしれない。
だからこそ、たった一つ。約束をしようということになった。
ボクは、
「良いことをされたらありがとう。悪いことをしたと思ったら、心を込めて、ごめんなさい。って言うんだ。貰った方も、快く許すんだよ」
と約束の提案をした。竜の助も大きくうなずいて、
「わかった!」
そう言った。
自分で言っておいてなんだけど、ちょっと勇気が湧いてきた。夢から醒めたら、竜斗君に謝ろう。そしてあの日言えなかった、「ありがとう」も言おう。
竜斗君もボクの大切な友達だから。
ちょっとよそ見をすると、竜の助は物凄く大きくなっていた。竜の助はボクを見下ろすと、
「裕也。これが最後だよ」
そう言って、背中に乗せてくれた。大きな大きな背中。ごつごつした立派な鱗。竜って一瞬で大きくなるんだ。凄い! ボクは竜の助に向かって、
「大人になったんだね!」
と言った。
「君もね。裕也!」
きっとこれが、竜の助との最後の夢。そんな予感がした。だったら、醒めるまで心地のよい空の旅をしよう! 竜の助との約束。絶対に守るからね! ボクはもう立派な大人だから!
おしまい
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