竜の助とパンケーキ
ボクね。幼稚園の年長になってから、よく夢を見るんだ。ボクと同じくらい小さな竜の夢。あんまりにもたくさん見るから、ソイツに名前付けちゃった。竜の助って。
竜の助は、食いしん坊だ。夢の中で大きなパンケーキがふよふよ浮いていたらパクリと一口で食べちゃう。ボクには分けてくれない。ボクは竜の助に怒った。
「どうしてボクには一口もくれないの!」
夢の中でもパンケーキは食べたい。でもボクはどうしてもこの夢の中では空を飛べない。竜の助のように立派な翼が無いから。竜の助は、
「いつも君が幼稚園でやってることだよ」
って言う。
確かに友達のお菓子を横取りしたりはするよ? だって最後まで食べないから嫌いな食べ物なのかと思って……。ボクは悪くないもん!
ボクは竜の助のヘビのような口元をビローンと引っ張って八つ当たりした。
「やい、竜の助。この、このぉ!」
「やめろー! やめろー!」
そうしたら竜の助は小さな手足でボクをポコポコ叩いて来る。当然夢だから痛みはない。けど何だか腹が立つから竜の助のお腹に頭突きをした。
少し苦しそうに「うぅ」って声を出す竜の助。ちょっとだけ悪いことした気持ちになる。けど、謝るのは格好悪い。そう思ったボクは、
「参ったか!」
そう言って腕組みをした。ちょっとドキドキしていた。相手は竜だ。炎を吐くかもしれない。ちっちゃいけど尖ったつめで引っ掻かれるかもしれない。そう思うと気が気でなかった。
竜の助はそんなボクを見て、
「ホントは謝りたいんでしょ」
意地悪そうな顔をしてそう言ってきた。こういう態度が、ボクを謝らせるタイミングを奪うんだ。幼稚園でも似たような奴がいる。同じさくらんぼ組の竜斗君だ。
アイツとは性格がちょっと合わない。でも、気が付いたら二人で遊んでる。嫌いなわけじゃないけれど、二分後くらいにはケンカばっかりしてる。不思議な仲だ。
竜の助は空を飛んだ。「ふっふっふ」と笑いながら短い腕を組んでボクのことを見降ろしている。そのまま天に昇っていった。竜の助が見えなくなったころに、シャーという何かが引っ張られる音がした。まぶしい!
「――おはよう、裕也」
それはママの声だった。現実に戻って来ちゃった。まだアイツと決着がついていないのに。それでも、朝の挨拶はちゃんとする。それをすると、幼稚園の先生に褒められるから積極的にするようにしている。
「おはよう。ママ」
ソファでコーヒーを飲んでいるパパにも同じように言って、着替えとか歯磨きとかいろいろ済ませた。今は幼稚園のバスが来るのを待っている。
ママは、竜斗君とボクの関係を知らない。いつもニコニコ笑顔で幼稚園に通うボクを見て、
「行ってらっしゃい!」
そう言って見送りしてくれる。あーあー。昨日は竜斗君のお菓子を盗っちゃたんだよなぁ。アイツ顔を真っ赤にして怒ってた。まるで竜の助の鱗みたいに。
顔を合わせるのが気まずい。でも、幼稚園に着いたとき真っ先に駆けつけてくれたのはボクと同じくらいの身長の竜斗君だった。竜斗君はボクを見ると、
「おはよう!」
そう声をかけてくれた。なんだか謝らないといけない気がして。でもそれが出来なくて。何事もなかったようにさくらんぼ組の部屋に入って二人で遊んだ。
二人で花の絵を描いている時。
「昨日のさ」
竜斗君が言った。
「昨日のこと。やっぱり裕也君が悪いと思うんだ」
「ムキ―、なんだよ‼‼」
突然過去のことを言われて腹が立ったボクは、竜斗君の花の絵を破いてしまった。そうしたら竜斗君は今度は泣いていた。この時の気持ちはわからない。ただ、
(ざまぁみろ!)
そんな気持ちが湧いてきた。先生に怒られたけれど、正直何が悪いのかわからない。いろいろあって、家に帰って来た。夕ご飯はオムライス。ケチャップでチューリップを描いたらパパもママも褒めてくれた。
(へへ。嬉しい)
時間はあっという間に過ぎて、夜の九時になった。良い子のボクは寝なきゃいけない時間だ。今日も竜の助、現れるかな。ちょっとワクワクしながら布団にもぐった。ママが干してくれた布団はふかふかで心地が良い。
スーッと異世界に連れていかれるような感覚を味わいながら、ボクは夢の入り口をノックした。
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