4.更なるライバル
翌日、学園で私は王太子であるカエサルの様子を遠くから伺っていた。
相手が相手なだけに気軽に話しかけられないし、遠くから観察するくらいしか出来なかった。
実際に見るカエサルは、ゲームで見るより何倍もイケメンだった。
一番好みな顔だった為、遠くから見ているだけでドキドキしてしまう。
(悔しいけど、顔は素敵ね…。敵なのにドキドキしてしまうなんてダメよね…)
私は先程から鼓動がうるさく鳴り続ける胸元に手を当てて、僅かに頬を染めながらカエサルの事を眺めていた。
顔は好みだが性格は絶対に無理なので、好きになることは絶対にない、と心の中で呟いていた。
「何を見てるの…?」
「ちょっとカエサル殿下の観察を…」
突然背後から話しかけられて思わず普通に答えてしまったけど、慌てて振り返るとそこにいたのはルディスだった。
ルディスは目を細めながら私の視線の先を眺めていた。
「へぇ…君って殿下の事が好きなの?」
「ま、まさかっ!ちょっと顔がタイプだったから見てただけです…」
私は誤魔化す様に慌てて答えた。
「君って殿下の顔がタイプなのか」
ルディスは少し不機嫌そうに呟いた。
何故そんな態度を見せるのか私には良く分からなかったけど、変な場面を見られてしまい恥ずかしくなった。
「私はそろそろ教室に戻りますね。失礼しますっ」
私は挨拶を済ませると、逃げるようにその場を後にした。
(び、びっくりした…。あんな場所をルディス様に見られてるなんて思わなかったわ。次からは周りには警戒しなきゃ…)
***
それから放課後になり、私は帰りの支度をしていた。
結局、今日出来たことと言えば、遠くからカエサルの様子を眺めていたくらいだ。
のんびりしている隙にカエサルにナーシャを奪われてしまうのは嫌だったので、私は思い切って一学年のクラスの前に向かった。
生憎グロウも同じクラスなので、気付かれたらその時はグロウに会いに来たと誤魔化せばいいだろう。
私は教室の前まで行くと、扉からちょこっと顔を覗きながら中を確認した。
するといきなりナーシャと視線が合ってしまった。
ナーシャは私に気付くと、にこっと笑顔を見せてこちらに向かって近づいて来た。
(やばっ、目が合っちゃった。どうしよう…)
「ライラ様、昨日はお店に来てくれてありがとうございました!」
「いえいえ、こちらこそ楽しかったです。また遊びに行きますね」
「本当ですか?嬉しいですっ!ぜひ、またいらしてくださいね。私、楽しみに待ってます」
ナーシャは本当に嬉しそうに笑顔を浮かべていて、私は思わず見惚れてしまっていた。
もし、グロウがナーシャと結婚したら、ナーシャは私の妹に…!
それって最高じゃない?
私がそんな妄想に耽っていると、扉の奥にいる人物と視線があった。
その瞬間ドキッと胸の奥が飛び跳ね、息をするのも忘れてしまいそうになる。
視線が合った相手とは、メインヒーローである、カエサルだったからだ。
「ナーシャの知り合いか?」
「はい、グロウ様のお姉さまでライラ様です。昨日私がお手伝いしているお店に来てくれたんですっ」
ナーシャはカエサルに聞かれると、嬉しそうに私の話をし始めた。
私はそんな光景を眺めながら、声を掛けられずその場に留まっていた。
「ああ、君があのライラ嬢か…」
「え…?私の事知っているんですか?」
ナーシャに紹介されるとカエサルは私の方に視線を向けて来たので、再び視線が絡みドキドキしてしまう。
カエサルが私の事を知っているなんて、少し驚きだった。
「まぁね…」
きっと私がグロウの姉だから、知っているのだろう。
そういう事ならば、グロウとカエサル殿下って仲が良いのかな…?
ただのクラスメイトで親しくないのであれば、あんな言い方はしないだろう。
「あれ…?姉さん、どうしたの?」
そんな時、聞きなれた声が耳に響いた。
私はその声を聞いて、少しほっとした。
「グロウとたまには一緒に帰ろうかなーって思って呼びに来たんだ」
「姉さん、ごめん。僕、この後少し図書館に寄る用事があるんだけど…」
「そっか、じゃあ私は教室で待ってるね!」
「わかった。用事を済ませたら姉さんの教室に行くよ」
「それでは私はこれで失礼します…」
私は小さく会釈して挨拶を済ますと、教室を後にした。
カエサルとナーシャの関係は良くわからなかったけど、親しそうな雰囲気なのはなんとなく感じた。
クラスメイトだから当然なのかもしれないけど…。
それ以上にカエサルが私の事を知っていることに驚きだった。
グロウが何か話したのだろうか…?
とりあえずグロウが来たら聞いてみよう。
そう思って自分の教室に戻った。