2.ライバルの出現
今日は休日なので私は街に来ていた。
遊びに来たわけではなく、あくまで調査の為に私はここに来ている。
これも全て私の可愛い弟、グロウの為だ。
私の前世の記憶が正しければ、ヒロインであるナーシャは休日は街のカフェで手伝いをしているはずだ。
ゲーム知識が早くも役立つなんて転生者であることに感謝した。
私は一人で街に出ると、ヒロインが働いているカフェを歩きながら探すことにした。
ヒロインが手伝いをしているカフェは王都の中心にある。
ちなみに現在私は王立学園に通っている為、実家のある領地を離れ、王都にあるタウンハウスで暮らしている。
住居地区から商業地区までは少し離れているが、歩いても行ける距離にある。
そして私達が暮らすモンテロード国は貿易も自由な国なので、人の出入りも多く毎日賑やかだ。
そのため流行にも敏感で新しい物は割とすぐに手に入れられるし、お洒落なカフェやおいしいレストランなども多数存在している。
その為、特に予定を決めずにぶらぶらと街を歩くだけでも、新たな発見が出来たりして楽しかったりする。
ヒロインが働いているカフェはこの街のどこかという事は分かっていたが、それがどこなのか詳しい場所まではゲーム内では説明されていなかった為、歩いて探すしかない。
分かっているのはカフェの名前が『ローズ』ということだけだった。
「あれ…?ライラ嬢?こんな所で会うなんて奇遇だね」
突然、背後から声を掛けられたので私は振り返った。
そこにいたのはルディス・シルヴィスだった。
彼は公爵家の嫡男であり、攻略対象者の中の一人だ。
サラサラな金髪に深い緑の瞳。
端麗な顔立ちをしていて、スラッとした長身。それでいてどこか色気を感じる。
令嬢達からは絶大な人気があるのもわかる気がする。
ちなみに『君と恋する物語』では一番の人気キャラだった。
(さすが乙女ゲームね。イケメンの無駄遣いしてるなぁ…)
「こんにちは、ルディス様」
私は少し警戒をしながらも、笑顔を作り挨拶を返した。
(こんな場所で会うって事は…もしかして、ヒロインに会うために…?)
私はルディスとは同級生ではあるが、クラスが違うのであまり話した事はない。
しかし、弟のグロウとは学年は違うが友人らしい。
その為、私の事も知っていて声を掛けて来たのかもしれない。
「ライラ嬢は今日は一人で来てるの?」
「はい…。ちょっとカフェを探してまして…。名前は分かるんですけど場所が良く分からなくて…」
私が困った様に答えるとルディスは「もしかして『ローズ』かな?」と尋ねて来た。
「はい、そうです…!もしかしてルディス様も…?」
「ああ、俺もこれから行こうと思っていたんだ。良かったら一緒に行かないか?」
「私も一緒に行って宜しいんですか?」
私が問いかけると「もちろん構わないよ」と快く言ってくれた。
(やっぱりかー…、まずいわね。とりあえず一緒に行って状況を確認する所からね…)
ルディスも既にヒロインの事を狙っているのかと知ると、私は少し動揺してしまった。
こんな男に言い寄られたら、ヒロインだって簡単に好きになってしまうかもしれない。
早急に対策を考えないと…。
そんな事を考えながら、私はルディスの方に視線を向けた。
私が一緒に行ったらヒロインに誤解されるのではないだろうか。
もしかしてルディスはあまり気にしていない…?
それとも…余裕があるのかな…?
そりゃあ、こんな容姿を持っていて、更には公爵家嫡男なんて肩書もあるのだから余裕があって当然よね。
でも…誤解された方が私的には都合がいい。
ルディス様には悪いけど…弟の為だ…!
(ルディス様、ごめんなさいっ…!)
「それなら…お言葉に甘えてご一緒させていただきますっ!」
「うん、じゃあ行こうか」
ルディスはにっこり笑ってカフェまで案内してくれた。
私はルディスの好意を利用しているような気がして、少し罪悪感を感じてしまった。
実際そうなんだけど…。
だけど今はそういう事は考えないようにしよう、と自分に言い聞かせた。
(まずは、ルディス様とヒロインの関係がどこまで進んでいるのか確認しなきゃ…!)
***
「着いたよ…」
「わぁ…、素敵なカフェですね…!」
それから暫く歩き、目的地に到着した。
ゲーム内では何度も見ていたけど、実際自分の目で見ると全然違う。
外層からレトロな感じで、ゲーム内で見るよりもずっと可愛いらしく見えた。
店内を覗くとお客さんも結構入っていて、賑わっている様だ。
席に案内され、ルディスとは対面する様に座わった。
「ルディス様は、このカフェには良く来られるんですか?」
私は店内を見渡しながらルディスに問いかけた。
聞けることは今のうちに色々聞いておいてしまおう。
「俺はここに来るのは今回で2回目だよ。君は場所を知らなかったみたいだから初めてかな?」
「はい。クラスの子が噂していたのを聞いて、ちょっと来てみたいなーって…」
「学園でも噂になってるのか、彼女が聞いたら喜びそうだな」
「彼女…?」
「ああ、1学年下の子なんだけど…ここで手伝いをしているんだ」
「そうなんですか。手伝いなんて偉いですね」
ああ、決まりだわ。
ルディスは完全にナーシャ目当てでここに来たに間違いない。
その言葉を聞いて、はっきりとそう分かった。
「いらっしゃいませ!ルディス様…!また来て頂けたんですね、嬉しいですっ」
「こんにちわ、ナーシャ」
目の前にはメイド服を着た可愛らしい女の子が立っていた。
ストロベリーブロンド色のふわふわした髪で、笑うと愛らしさが引き立って見える。
そこにいたのはヒロインであるナーシャだった。