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18.仕返し

 外は徐々に薄暗くなってきた。

 それは日が落ちてきたからではなく、森の奥深くに入って来たからなのだろう。

 生い茂る木々により光が遮られて、空気も一層ひんやりとしていた。

 だけど所々空の合間から届く木漏れ日が、幻想的に見えて違う世界に来たような錯覚を感じさせていた。


(やっぱり、こういう場所ってなんかいいな)



「あれ、姉さん起きてたの?」


 寝起きなのか少し気怠そうな声でグロウが声をかけてきたので、私は窓からグロウの方へと視線を移した。


「うん、私の方が少し早く起きたみたい。おかげでグロウの可愛い寝顔が見れちゃった」

「……っ…!」


 私が嬉しそうにそうに答えると、グロウはどこか恥ずかしそうに照れている様子だった。

 そんな顔を見ていると私の表情は徐々に緩んでいく。


「もしかして照れてるの?可愛いなぁ…」

「照れてない…、ってか可愛いって言うなよ。くそっ…」


 私が可愛いと漏らすと、グロウは悔しそうに顔を顰めていた。

 最近グロウにいじめられることが多かったせいか、私は仕返しにからかってやろうと考え始めていた。


「ふふふっ、焦っちゃって可愛いんだから」


 こんな焦っているグロウを見るのは本当に久しぶりな気がして、ニヤニヤが止まらなかった。

 顔を赤く染めて焦っている姿を見ていると、昔のグロウを見ているようで次第に嬉しい気持ちにもなっていった。


(やっぱりグロウは可愛い子ね…!)


「うるさい、黙って…」

「………」


 私は言われた通り、黙りながらニコニコしてグロウを見ていた。

 ニコニコというよりはニヤニヤと言った方が正しいのかもしれない。

 この緩んだ顔はわざとでは無く、勝手にそうなってしまうのだから仕方がない事だ。


「その顔やめて。気持ち悪いし、なんか腹立つ…」

「ひどい!私の笑顔がいいって言ってくれる人だっているのに…!」


「は…?」


 完全に調子に乗っていた私は、いつかルディスに言われた言葉を思い出してつい口に出してしまった。

 するとグロウは席を立ちあがり私の隣に腰かけた。


「な、なに?」


 驚く私にグロウはにこっとわざとらしく笑うと、私の両頬を掴み引っ張った。


「……っ!いしゃいっ(痛い)!!」

「姉さんのこんな顔もすごく可愛いよ?」


 私はグロウの手を引き剥がし涙目で睨みつけた。

 

「痛い、酷いっ…!グロウの意地悪…!」

「痛かった…?ごめんね?」


 グロウはそう言うと私の目元に溜まっている涙を指で拭った。

 そして額にそっと口付け、その瞬間触れられた場所から熱くなっていくのを感じる。


「ちょっと何するの?こんな所でやめてっ…」

「ここじゃなければいいの?」


「だって、前に人いるし…」


 こんな所を誰かに見られたらまずい。

 そう思うと私は声を潜めて呟いていた。


 周りから見れば仲の良い姉弟にしか見えないのかもしれない。

 だけどグロウに気持ちを打ち明けられてから、妙にグロウの事を意識してしまっていた。

 昔は私の方からこういうことをしていたはずなのに…。


「だったら、姉さんが大人しくしてればいいんじゃない?」

「……っ…、何!?」


 グロウは私の方に顔を寄せると耳元で囁いて来た。

 しかも耳元に息を吹きかけられ、私はびくっと体を跳ね上げてしまう。

 そして慌ててグロウから離れようとすると、手首を掴まれた。

 グロウの手を必死に剥がそうとしても、力の差があるせいで全く剥がれない。


「姉さん、馬車の中なんだから大人しく座っていた方が良いんじゃない?」

「誰のせいだと思っているのっ…」


 私はグロウの手を剥がすのを諦めると、ムスッとした顔でグロウを恨めしそうに睨みつけた。

 いくら私が睨みつけてもグロウは動じることなく、それどころか満足そうに私の事を眺めていた。

 それが無性に悔しく感じてしまう。


「そもそも、俺の気持ちを知っていながら他の男の話をしようとした姉さんが悪い」

「そ、それはっ……」


「――だけど、これから2か月の間は俺が姉さんを独占出来るな。俺、絶対に諦めるつもりはないから。さっさと諦めて俺に落ちてよ」

 

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