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16.夏休みの始まり

 学園は1年を通して前期と後期の2期制になっている。

 前期が終わると2か月程の長期休暇に入る。


 そしてまさに今日から2か月の休みに入ろうとしていた。

 前世の言葉で言えば夏休み。

 そう思うとテンションが上がって来るものだ。


 この世界にも四季が存在する。

 そしてこの時期はまさに夏だった。


 私はこの休暇の間は、叔母のいる別荘へ行くことを決めていた。

 そしてずっと楽しみにしていた。


 王都から馬車で約一日かかる距離にあり少し遠いが、都会とは違い自然に囲まれた地。

 そして別荘の近くには綺麗な湖がある。


 都会もいいけど、こういった自然に囲まれた場所でのんびり過ごすのもいいものだ。

 折角の楽しい夏休みだし満喫しなくては…!


 しかし、私は馬車に揺られながら眉間に皺を寄せて、目の前にいる人物を不満そうに見つめた。


「文句があるなら父さんに言えよ」


 本当は私は一人で行くつもりだった。

 なのに何故か目の前にはグロウの姿がある。


「姉さんがもう少しちゃんとしてたら、一人で行けたのにな…残念だったな」

「……っ!」


 言い返せない自分が悔しい。


 最近グロウがどんどん私の知らない人に見えてくる。

 こんなに意地悪な子だった…?

 昔はあんなに素直でヘタレで可愛かったのに…。

 あの頃のグロウが恋しく感じてしまう。


「ねえ、グロウって…ずっと猫を被っていたの?」

「は?」


 私はむっとした顔で問いかけた。


 今と昔を比べると、余りにも態度が違い過ぎる。

 どっちのグロウが本物なのだろう。


「だって…、昔はもっと緩い感じで可愛かったのに…!」

「まあ、その方が何かと都合が良かったからな」


「都合がいい?」

「弱弱しくしてれば姉さんは優しくしてくれるし、泣けば心配して傍にいてくれるだろ?」


「ちょっと待って!…じゃあ良く泣いてたのは演技だったの?」


(まさか…、さすがにそれはないよね…?)


「俺が少し泣けば姉さんは簡単に騙されていたよな…」

「……っ!!なんて子なの…。あの可愛かったグロウは幻影だったの…」


 私はグロウの言葉に肩をがっくりと落とし、残念そうにブツブツと独り言を呟いていた。


「グロウにそんな悪どい特技があったなんて…!」


「なんで俺がこんな面倒な事をしてたか分かってる?」

「知るわけないわ…」


「全部、姉さんの隣に居る為だよ」

「え…?」


「弟っていう立場を利用した。そうすれば無条件で俺は姉さんの一番傍に居られるからな」

「そ、それは当たり前だよ。だって弟だもん」


 私にとってグロウは大事な弟だ。

 それ以上でもそれ以下でもない。


「俺は姉さんにとって弟以上の存在になりたい。その気持ちは今でも変わってないから」

「そんなこと言われても困るよ…」


「俺だって今すぐどうこうなりたいって訳じゃない。姉さんは今まで通りにしてくれてたらいいよ」

「え…?どういうこと?」


 グロウは淡々とした口調で続けていた。

 動揺しているのは私だけで、なんだか悔しい気持ちになってしまう。


「姉さんの事、絶対に好きにさせてみせるから…」


 グロウは自信ありげに言った。

 突然そんな事を言われてしまうと私は困惑してしまい、戸惑っていた。


「絶対ないよ…、そんなこと」


 私が小さな声でボソッと呟くと、突然向かい合って座っていたグロウが私の隣へと移動して来た。

 慌てて隣に座るグロウの方に顔を向けると視線が絡んだ。


「そうやって油断していればいい。絶対に好きにさせるから…」


 そして私の耳元で囁く。

 グロウの吐息が耳に伝わりビクッと体を跳ねさせてしまう。


「……っ!」


(なんなの…!グロウが小悪魔に見える……)


 最近口論してもうグロウに押されて勝てる気がしない。

 私は諦めて馬車の窓から外を眺めていた。


 先ほど出発したばかりだから、到着まではまだまだ時間はかかるだろう。

 私はグロウと目を合わせたくなくて、暫く窓の奥の景色を眺めていた。


 馬車に揺られる振動と、ゆったりとした時間の流れで、次第に眠気を感じ始める。

 気怠い体を椅子の背に預けながらゆっくりと瞼を閉じた。

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