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14.難しい事

 静かな中庭に私とルディスはいた。


(ルディス様の話したい事って、何だろう…)


 私はルディスが話すのをじっと待っていた。

 ルディスは暫くの間黙っていて、これから話すことについて考えているのだろうか。

 そんな事を考えているとルディスは私の方に視線を向けた。


「ごめんね、何から話そうかな。そうだな、まずは幼い頃の話から始めるね」


 ルディスはそう切り出すと、昔の事を思い出す様に語り始めた。

 私はその言葉に小さく頷き、黙ってルディスの話を聞くことにした。


「俺は幼い頃から父の仕事の関係で良く王城には訪れていたんだ。そこでカエサル殿下やアイリス様と出会った。二人とは年齢も近かったっていう事もあって、自然と打ち解けられた。幼い頃は良く一緒に遊んだりしていたんだ。もちろん、今でも良い関係のまま付き合えていると思っているよ」


 その話を聞いて、カエサルと親しそうにしていたことも頷けた。


(子供の頃からの知り合いだったのね…)


「そして俺が二人に出会った時には、既にアイリス様には決められた婚約者がいた。生まれた時点で決められていた婚約。君も貴族令嬢であるから分かるかな?貴族が横のつながりを重んじる様に、この王国を守っていく為には隣国との関係も大切だってことを、ね。王家に生まれてしまった以上は仕方がない事なんだと思う」


「はい…」


 何より家柄を大事にする貴族が多いのは知っている。

 貴族の大半が政略的理由で婚姻を結んでいるのはその為だろう。

 自由が無いとは言わないけど、富や名声を守るために犠牲にしないといけない事も多々あるはずだ。


 そう思うと、貴族よりも自由に生きられる平民の方が私は幸せなんじゃないかと思ってしまう。

 前世での私は一般的な家に生まれた普通の庶民だった。

 だから余計に貴族に対しては、堅苦しくて面倒臭いなと思う事は多い。。


 確かに貴族はお金があって裕福な暮らしを送れる。

 だけど、それが幸せだと言われるとそうでもない。


 社交界にだって行かなければならないし、マナーも覚えなければいけない。

 位が高くなればなるほど、強いられる事も増えていくのだろう。

 それが王族ともなれば、どれほど大変なものなのか、私には想像はつかない。


 今のルディスの話を聞いて、私はアイリス王女に対して可哀そうだと思ってしまった。

 幼い頃から厳しい教育を受けて来たのだろう。

 そして生まれた時点で婚約まで決められ、自分の人生を国の為に捧げなければならないなんて…哀れとしか思えない。


(私…、王女に転生しなくて良かった…)


 不謹慎かもしれないが、そんな事を思い一人でほっとしていた。


「アイリス様の婚約者は隣国リクレムの第二王子。年齢はアイリス様の5歳年上で既に側室が決まっている。アイリス様が言うには、王子が心から愛している女性を側室に迎えるとの事らしい」

「そんな…」


「王子が他に心を寄せている女性がいることは、だいぶ前から知っていたみたいだ。自分が望まれていない事も。だからずっと悩んで苦しんでいたのだと思う。俺やカエサル様はそんなアイリス様の話を聞いて、励ます事位しか出来なかったけどね。婚約は国同士が決めた事であり、本人達の意思でどうにかなる問題では無いからな…」


「辛過ぎますね…」


 私は心痛な面持ちで、そんな言葉しか言えなかった。


 婚約を無かったことに出来ない以上、アイリス王女が幸せになれることは無いのだから…。

 しかも相手の王子は別に好きな相手を作って自分だけ楽しくやっているなんて、腹立たしく思えて来る。


「だけど、俺はアイリス様の傍に居すぎた。その結果、アイリス様は俺に依存し始めるようになってしまったんだ。カエサル様は前々からその事を気にされていて、離れた方が良いと何度も言ってくれたんだ。だけど悲しそうな顔を見せるアイリス様の姿を見ていると…、放っておくなんて出来なかった」


 ルディスの瞳は遠くを見ていて、まるで後悔している様にも見えた。

 アイリス王女にそんな感情を持たせてしまったことに対しての後悔なのだろうか?


「ルディス様は…、どうしてそんな顔をしているのですか?」

「え…?」


 私が問いかけるとルディスは少し驚いた顔を見せた。


「今の話を聞く限り、ルディス様がしていることは何一つ間違ってはいないと思います。王女殿下の事を大切に思っているからこそ、そこまでの行動を取れたって事ですよね?きっと傍で話を聞いているだけでも、大きな支えになっていたんだと思います。その気持ち、王女殿下にもきっと伝わってますよ!たしかに…、公には言えないかもしれない。でもっ、相手だって浮気をしているんですから…お互い様です!私は二人のこと応援します!例え…、結ばれない関係だとしても…」


 話し終えると胸の奥がぎゅっと締め付けられる様に切なくなり、私の目元からはじんわりと涙が滲んでいた。


 決して結ばれることはない二人だけど、心の中では繋がっているに違いない。

 そもそも相手の王子も勝手に浮気をしているわけだし、アイリス王女が浮気をしたとしてもお互い様だろう。


(小説の中に出てくる話みたい。なんだか素敵ね…、こんな事言ってしまったらダメだけどっ…)


「えっと…ライラ嬢。何か勘違いをしているよね?」

「勘違い…?」


 ルディスは困った様な表情を浮かべると、私の目じりに溜まった涙を指で拭ってくれた。


「俺はアイリス様の事をそんな風に恋愛対象として見ていたわけではないんだ。俺にはその頃兄弟っていなかったから、なんていうかな…アイリス様の事は姉の様な存在だったんだと思う。だから守ってあげたいって思ったんだろうな…」

「姉…ですか?で、でもそこから愛が…!」


「悪いけど、愛は生まれないかな…」


 ルディスは、ははっと苦笑していた。

 私は勘違いしていたことに気付くと急に恥ずかしくなっていく。


「ごめん、涙まで流してくれたのに…」

「いえっ、私が勝手に勘違いしてました。ごめんなさい…」


「謝らないで…。アイリス様に出会う前から婚約者がいることは知っていたし、最初から好きにはなってはいけない相手だと理解していたからね。でも、結果的に俺の所為で誤解をさせてしまった事は申し訳ないと思ってる。何度もその事を説明してはいるんだけど、中々伝わらなくてね。それでカエサル様に相談したら婚約者を作ればすぐに解決するだろうと言われて、行動をしているのだけど…中々上手くはいかないものだね」


 ルディスは自嘲する様に弱弱しく笑っていた。

 私はルディスが何度も振られていることを知っていたのでなんて声を掛けて良いのか分からなかった。

 私が困った顔をしているとルディスは優しい顔で「そんな顔しないで」と呟いた。

 その言葉を聞いて私は思わず苦笑してしまった。


「私も…。今のルディス様と同じような事、していたのかもしれません。自分がしたことが原因で誤解させてしまって…。きっと直ぐにその事は勘違いだって分かってくれるとは思うけど、これからどう付き合って行ったら良いのか分からなくなってしまって…」


 私はつい最近自分の身に起こった事を思い出した。

 状況は違うけど、心境としては似た所もあるのかもしれない。


「俺で良ければいつでも相談して…。どうやら俺は話しを聞く事だけは上手いみたいだからね」

「ありがとうございます。でもこの悩みは私自身で解決しないといけないことだと思うので、気持ちだけ受け取っておきますね…」


「そうか…、でもどうにもならなくなった時は、俺の事を頼ってくれると嬉しいかな」

「はい!その時は遠慮なく頼らせていただきますねっ!」


 私は笑顔で答えた。


(ルディス様って本当に優しくていい人過ぎるな…)



「やっぱり…いいな」

「……何がですか?」


「ん…?君のその笑顔…」

「……っ…」


 ルディスは私の瞳を真っすぐに見つめ、優しそうに微笑んでいた。

 突然の言葉に私はドキッとして顔に熱が走り、徐々に頬が赤く染まっていく。

 だけど夜なので、きっとこの私の照れている顔はルディスには気付かれていないかもしれない。

 そう願った。


「どうしたら…君を手に入れることが出来るのかな…」

「え…?」


 不意に伸びて来た大きな手が私の頬に触れた。

 突然頬に触れられて、私の鼓動は心なしか速くなる。


「ふふっ、なんてね…」


 ルディスはまるで冗談を言ったかのように小さく笑うと、私から離れた。


「ずっと外にいたら体が冷えてしまうね、戻るか」

「はい…」


 今のは一体なんだったのだろう。

 もしかしてからかわれた…?


 だけど胸の高鳴りはしばらく鳴り止むことはなかった。

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