11.舞踏会
王城に到着すると、多くの着飾った人々の姿と賑やかな話声が会場には響いていた。
王家主催のパーティーだけあって、集まっている貴族の人数も相当なものの様に感じた。
(緊張してきた…)
私は片手で数える程度しか社交界には参加した事が無かったので、慣れてはいない。
そして以前参加した時は、隣には家族がいた。
だから緊張しながらも、どこか安心して参加していたのかもしれない。
しかし、今はどうだろう。
ルディスとは最近喋る様になったばかりで、それなりに親しい間柄でもない。
今になって怖気づいてしまっているが、もう今更帰る事なんて出来ない。
ここに居る間は、私はルディスの隣に並ぶパートナーとしていなければならないのだから…。
「ライラ嬢、大丈夫…?」
「あ、はい。すいません、大丈夫です…」
私が表情を強張らせて、見るからに緊張していますという表情をしていると横から心配そうな声が聞こえて来た。
私は泣きそうな顔でルディスの方に視線を向けた。
「そんな顔をしなくても平気だよ。それにしても、今日は人が多いな。疲れたりしたらすぐに言ってね」
「ありがとうございますっ…」
ルディスは優しい口調で「行こうか」と告げ、私達は大広間の方へと進んで行く。
私はルディスの横を歩いていると、通り抜ける度に多くの視線を感じていた。
それは私に向けられたものというよりは、ルディスに向けられたものだと思う。
目立ってるのは明らかにルディスだろう。
他にパートナーと来ているはずの令嬢達も、ルディスの存在に気付くと視線を釘付けにし、僅かに頬を赤く染めて見惚れている様だ。
こんな光景を見てしまうとルディスの人気は本物だと分かる。
頼まれたとはいえ、隣にいるのは本当に私で良かったのだろうかと思ってしまう。
「どうしたの…?」
私が思わずルディスの横顔をじっと見つめていると、その視線に気付いたのかルディスは優しい声で聞いて来た。
私は思わずドキッとしてしまい笑って誤魔化した。
「ここからは人が多いから、はぐれない様に俺に掴まっていていいよ」
「え…?そんな事をしたら…他の令嬢達からにらまれてしまいます…」
私が困った様に答えると、ルディスは苦笑した。
「今日はライラ嬢が俺のパートナーだよ。もう一緒に来ている以上、同じだと思うけどな」
「た…確かに…。では…失礼します…」
私はドキドキしながらもルディスの腕をぎゅっと掴んだ。
するとそこで視線が絡んでしまい更にドキドキしてしまう。
顔の奥がじわじわと熱くなってくるのを感じて、恥ずかしくなり慌てて視線を逸らした。
「ふふっ、本当に君は可愛らしい人だね…」
「慣れてないんです…。察してくださいっ…」
私がぼそっと声を漏らすとルディスはそれ以上は何も言わなかった。
何も言われない事が逆に気になり、恐る恐る顔を横に傾けると、優しく微笑んでいるルディスの瞳とぶつかり再び慌てる様に視線を逸らした。
(こんなの無理っ…!やっぱり…断ればよかったかも……、これじゃ心臓が持たないわ…)
***
それからメイン会場に入るとそこは煌びやかなシャンデリアに照らされ、楽し気な音楽に包まれた空間が広がっていた。
多くの人々が集まり、皆優雅にダンスを踊ったり、楽しそうに喋っていたりして、そこは日常とは異なる場所の様に見えた。
そして辺りを見渡していると見覚えのある顔を見つけた。
そこにいたのはナーシャだった。
ストロベリーブランドの髪は珍しいので直ぐに分かった。
髪色に合わせているのか、淡いピンク色を基調にしたドレスには白いレースがふんだんに使われており、可憐さが際立っている様に見える。
ナーシャの楽しそうに微笑む横顔は普段以上に目を引かれてしまう。
そしてその奥にいたのはグロウだった。
やっぱりグロウはナーシャと一緒に来ている様だった。
屋敷を出る時にグロウとは顔を合わなかったけど、しっかりと正装を決めているグロウは普段とは全く雰囲気が違っていた。
元々グロウはすらっとしたモデル体系なので、こういう服を着るだけで一段と大人っぽく見える。
私の知ってるグロウではない気がして、変な感じがした。
「あの二人、お似合いだな…」
私が二人を見ていることに気づいたのか、ルディスは私の耳元で小さく囁いた。
「そ、そうですねっ…」
突然耳元で囁かれ、ぴくっと体を震わせてしまう。
そして僅かに耳元が熱くなっていくのを感じていた。
「折角だし俺達も踊ろうか…?」
「あの…、私ダンス下手なんですけど…いいですか?」
「うん、大丈夫だよ。じゃあ行こうか…」
「はい…」
ルディスに手を引かれてホールの中心の方へと移動した。
曲が始まり、ゆっくりと踊り始めた。
皆楽しそうに踊ってるけど、私だけはそうではなかった。
緊張しすぎで変な汗が出てくるし、表情もきっと必死過ぎて変な顔をしているのだろう。
「そんなに緊張しないで大丈夫だよ…」
「は、はいっ…」
ルディスは優しく声をかけてくれたけど、私の顔は終始引き攣ったままだった。
そんな必死な私の姿を見ながら、ルディスはどこか楽しそうにしている様子だった。
***
「ごめんなさい…。足…、何回も踏んでしまいました…」
「ふふっ、全然問題ないよ。それよりも少し疲れたんじゃない?休憩しようか…」
何曲か踊ったあと、疲れたので私達は休憩をする為になり、外のバルコニーの方へと移動した。
既に外は闇に包まれいたけど、王城の周りには外灯がいくつかある為それほど暗さを感じなかった。
人が集まる室内から外に出ると夜風がとても心地良く感じる。
「やっぱり今日は君をパートナーにして良かったよ」
「そんな…私、迷惑ばかりで全然役に立ってないですよね…」
「そんなことはないよ。ダンスはあまり得意ではないみたいだったけど、必死に踊る君の姿はとても可愛かったよ。こんなにも楽しいと思える夜会は久しぶりな気がするよ」
「……楽しんでもらえたなら良かったです」
ルディスはきっと気を使ってそう言ってくれているのだろう。
あんなに何度も足を踏んでしまったのに嫌味一つ言わない上に、優しい言葉までかけてくれるなんて。
本当にルディスは優しい人なんだなと感じた。
「ルディス…?」
突然、背後から女性の声が響いた。
「これはアイリス様…」
「こちらにいらしたのね。貴方の事をずっと探していたのよ」
そこにいたのは見覚えのある顔だった。
銀髪のふわふわした髪に碧い瞳。
幼さも少し残しながら大人の雰囲気も持っている美女。
そして特に胸に視線がいってしまう。なぜなら胸がとても大きいからだ。
(う、羨ましい…)
彼女はアイリス・イル・モンテロード
名前でわかる通り王太子であるカエサルの姉であり、この国の第一王女だった。
「ねぇ、ルディス。折角だから私とダンスを踊りませんか?」
「アイリス様、申し訳ありません。今日は私には彼女がいますので…」
ルディスが困った様に答えると、アイリスは私の方に視線を向け、まるで見定めするような目で見て来た。
「王女殿下様、お初にお目にかかります。ローファン伯爵家のライラと申します。以後お見知りおきを…」
「貴女が…。ライラさん、少しだけルディスを借りても宜しいかしら?」
「え…?」
突然そんなことを言われてしまい、私は思わずルディスの方に視線を向けた。
するとルディスも困った様な表情をしていた。
(もしかして困ってる…?だけど、さすがに王女様の言葉には逆らえないし……)
「私は…構いません」
「そうですか、ライラさんが宜しいと言ってくれました。ルディス行きましょ?」
アイリスは私の言葉を聞いて満足そうに微笑むと、ルディスの腕にぎゅっと抱き着き体を寄せていた。
「ライラ嬢、申し訳ない。暫く失礼させてもらうね」
「はい…」
渋々といった表情を浮かべながら、ルディスはアイリスに連れられてダンス広場へと戻って行った。
アイリスはルディスに気があるのだろうか。
今の態度を見ていれば間違いないだろう。
アイリスにルディスを連れて行かれてしまったので、私はぽつんと一人になってしまった。




