序章 7月21日④
教室に着き、夏休み前最後のホームルームが終わった。
宿題を配られた瞬間だけ教室は静まり返ったが、今は先程の静けさは嘘のように騒がしい。
「須藤は応援団に入ってた?」
「俺は入ってないぞ。八重野は?」
「私ももちろん入ってないよ。夏休みに練習するの大変そうだし」
うちの学校は夏休み明け割とすぐに体育祭がある。そのため夏休み前に団長を決め、応援団員を募集して夏休みに練習するのが例年の流れとなっている。
「じゃあ夏休み中にもし出会ったらよろしくな」
「考えとくね~」
「おい!」
あはは~と笑いながら八重野は教室を出ていった。
このあと漫研の集まりがあるため、俺も出るかと席を立った。
最後に二条さんの席を見る。友達と何かを話しているみたいだ。2学期からは俺もあんな風に……。
そんなことを考えながら俺は教室を出た。
漫研の部室前についた。この部室は普段移動教室のため、あまり使われていない。
部室の扉を開ける。そこには5人の部員がすでに集まっていた。
「お、来たな零矢」
「どうも。お久しぶりです」
漫研は俺含めて6人の部員がいる。各学年2人ずつのメンバー構成だ。
先程声をかけてくれたのが部長の3年生、牧翔吾さん。
俺を除いたら唯一の男性部員だ。
「じゃ、全員揃ったから夏休みの予定を発表する」
みんなが部長に注目する。
「8月1日に花火大会をします。以上!」
「「「はーい」」」
想像通りというか、去年と同じ予定だったので2・3年に驚きはない。
1年生2人は初めての夏休みでの部活行事は何をするのかと期待があったのか少しぽかんとしていた。
「今日は解散するけど、何か言うことある人? 秋山なんかある?」
部長に名指しされたのは副部長で3年生の秋山律歌さん。
「特になし」
「でしょうね!」
1年生はまたしてもぽかんとしていたが、他の部員からするといつものパターンなのでスルーした。
「今日は解散! みんな夏休み楽しもうぜ!」
部長の解散の挨拶を聞いてそそくさと帰り支度を始めた。
「あ、あの、須藤先輩!」
後ろから声をかけられた。声の主は1年生の七森小雪。
「どうした? 七森」
「あの、えと、夏休みって活動しないんですか? あ、普段もしてないですけど……」
「おう! いつもどおり活動はないぞ」
「で、ですよね」
七森は自分の胸の前で人差し指をくねくねさせていた。
「七森と岡尾はこんなに活動してなくて不満とかないか?」
七森の後ろにちょこんと座っていた同じく1年生の岡尾ひろみにも声をかけた。
「私は活動しないって聞いていたので嬉しいですよ」
「わ、私は……はい」
「七森は漫画好きって言ってたもんな。別に無理しなくていいぞ?」
「無理なんてそんな! わ、私はこの部活の雰囲気が好きですし、それに……」
ちらっと俺の目を見てすぐに逸した。
「な、なんでもないです。ごめんなさい」
「お、おう。そうか。なんかあったらいつでも相談してこいよ」
あ、ありがとうございます。と小声で言って小森は部室から出ていった。
「先輩も罪な男ですね」
「どういう意味だよ」
岡尾がニヤニヤした表情で俺を見てきた。
「まぁまぁ、また1日に会いましょう」
終始にやけながらそう言った岡尾に軽くチョップをして自分の鞄を手にとった。
いたーい。パワハラだー。と訴えかけてきた岡尾を無視して俺は帰路についた。
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