ルート1 そんなに言うなら
「ありがとうございました! またのお越しをお待ちしております」
帰っていくお客様に頭を下げる。今、俺はバイト中だ。
ちなみに結論から言うと、7月23日は普通に来た。昨日は外をふらついて神を探しつつ外の世界に異変がないか調べた。俺が見た限りでは現実世界と何ら遜色ない。そのまま家に帰り、家族とご飯を食べて風呂に入って好きな漫画を読んで寝た。
起きて日付を確認したら7月23日となっていた。現実世界かと錯覚するほどには普通の1日を過ごした。そして7月23日も終わりに差し掛かり、現在に至る。
俺は1年前から勤めている働き慣れたこのバイト先で忙しいピークを乗り切っていた。時計の針は21時を指そうとしていた。そろそろ退勤の時間だ。
「いやー、今日は忙しかったね。さすが夏休みって感じ」
ふぅーと汗を拭うふりをする五関。
「夏休みっていうか、日曜日だからだろ?」
「あ、そうか! さすがれいやっち」
「こんなんでさすがって言ってくれるのは五関ぐらいだよ」
「えー急に褒めないでよ。照れる」
へへっと照れ笑いを浮かべる五関。その笑みを見て、ふとここ最近要や店長たちに言われたセリフを思い出し、思わず顔を背ける。
「目を離すとすぐにイチャイチャしだすね、君達2人は」
声のした方を見る。そこにはこの店の看板娘で、高校生組全員のお姉さん的存在でもあるあかり先輩がいた。
「イチャイチャなんて、そんな……」
頬を赤らめながら否定する五関。……それは否定になっているのか?
かく言う俺もそんな五関を見て何も言えないでいた。
そんな俺達の様子を見て、あかり先輩は手を口元に持っていき 「もしかして」 と前置きを入れて
「あれ、本当に付き合った?」
「「付き合ってません!!」
「……そこは全力で否定するんだね」
俺たちが同時に否定したことにフフッと微笑むあかり先輩。この人はどんな仕草をしても絵になるなと思わず見惚れる。
「ほら、2人とも21時だよ。お疲れ様。後は任せてタイムカードきっておいで」
「あ、ありがとうございます。お疲れ様でした! ほら、れいやっち帰るよ」
「はいよ。お疲れ様でした。お先に失礼します」
「あ、須藤。ちょっと」
あかり先輩にちょいちょいと手招きされる。近づくとラベンダー系の甘い良い匂いがして思わずドキッとする。
「なんですか?」
「夜遅いからしっかりと五関を送ってあげなよ。それと……」
あかり先輩はそこで言葉を区切り、耳元で囁くように続きの言葉を言ってきた。
「告白は夜がオススメよ。頑張って」
「な!?」
パチッと綺麗なウインクを決めてじゃあねと頬を撫でられる。この一連の流れが俺の鼓動を早めるのには十分すぎた。顔が熱くなるのを感じ、俺は早足でバックヤードに向かった。
二条さんという心に決めた人がいる俺でも、あかり先輩ほどの美人にあんなことをされたら意識せざるを得ない。それにしても――――
(あかり先輩も俺と五関のことを言うんだな)
あかり先輩も含めるとこれで4人目。イフルートが始まってからだと要を除いて3人目。もし仮にこれをゲーム要素として考えるなら、あかり先輩たちは言えばNPCで、村人Aみたいなヒントを出してくれるキャラクターてことか? そう考えると、ここまで露骨な五関推しは納得できる。
バックヤードに着くと、五関が座って待ってくれていた。
「あ、遅かったね。あかり先輩となに話してたの?」
「世間話だよ。それより五関さ……」
「うん? なに?」
みんながそんなに言うなら、俺も覚悟を決めよう。
「明日、暇だったりする? よかったら俺と遊びに行かないか?」
「え?」
どうやら想定外の誘いに五関は一瞬固まっていたが、すぐにハッと我に返って
「行く行く! 絶対行く!!」
と前のめりに言ってきた。
「お、おお。じゃあ帰りながらどこ行くか決めるか」
「そうだね!!」
終始目を輝かせて嬉しそうにしている五関を見て不覚にもドキドキしてしまう。
俺は店のエプロンを外してそのまま鞄に入れてから五関と一緒に帰路についた。
誘ってからずっと緊張していたが、帰り道ではいつも通りの五関に俺の緊張は夏の夜空に消えた。
そして7月24日を迎える。
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