1召喚されたの?
えー?
ここは何処?
私は
私だ。
それは分かっているんだけど。
さっきまで幸せなヲタ人生の最高潮の瞬間を東京ドームで味わっていたのに、
私が居るのはどう見ても
森
だよね?
辺り一面、木が生えてるし、なんか草のいい匂いとかするし、森林浴って感じだし。
最近仕事忙しくて、ストレスもあってクレーム来るかもとか、ミスしてないかなとか、判子もらいわすれたかなとか考えてたら夜もあまり眠れなくて、睡眠不足だったから、寝ちゃった?
ライブ中に?チュー来たのに?
投げチュー来たのに?
失神したのか?投げチューで。
そうか。私ってそういうやつだったのか。
いやいや。腰砕けて尻餅くらいはついた事あるけど、そんくらいはありそうだけど失神はないでしょ。いくらなんでも。
ってえ?
えーっ?
「大丈夫ですか?どこか痛いとことかないですか?ずっと気を失ってたみたいだから心配したんだけど。意識はありますか?名前言えますか?」
低い囁くようなボイス、ちょっと掠れているのが、こうお腹の奥を痺れさせるような感じの、声だけでイッちゃうっておばさまたちが恥じらいもなく騒いでる、声の主、アイドルユニット、ヘブンズゲイトの神崎 京也その人が、私の顔を覗き込んでいた。
ヘブンズゲイトは4人組のアイドルユニット。今日はドームでライブ中だった。
そして今、センターを張る超イケメンアイドル神崎 京也はなんだかよくは分からない謎の森の中に私早瀬 成子と共にいた。
近い!顔が近すぎる。そして尊い。尊すぎる。顔がいい。良すぎる。
夢?
夢にしてはまつ毛一本までクリアに見えるのカラーだし素晴らしすぎる。
覚めるな夢。ここは頑張って眼なんか覚まさないんだから。
強く心に念じる私。
しかも
いい匂い。
なんかものすごくいい匂い。
匂いの正体は、私の身体の上にかけられたマント。
あ、これさっきまで京也が着ていた衣装のマントだ。キラキラしたラインストーン付き。
はあ、思わず息を吸ってしまう。
たまらない。
もはや変態だが、気にしない。夢の中なんだから自分の好きにするのだ。そう、夢くらいは自分の好きに。
って思った時、
「大丈夫?しっかりしてください。頭とか打ってないですか?痛くない?
えっと、名前言えますか?」
咄嗟に私は答えた。
「神崎 京也。」
隼くんが笑った。笑ってしまっている。そして
「違う。俺の名前じゃなくて
あなたの名前を訊いてるんです。」
「名前、言えますか?」
私の名前。うーん。
私が考えている間に
「早瀬 成子さん?」
「ですよね?」
「違いますか?」
ああ、これ夢だわ。やっぱり。
私の名前隼くんが知ってる訳ないじゃん。
夢見てるんだ。私このまま死ぬのかな。さっきまでライブ中だった気がするけど、なんか今の状況わけわからないし、多分心筋梗塞とか起こして死地にいるんだわ。死ぬときって一番好きな人の顔で仏様がお迎えに来てくれるって聞いたことあるし、もう確定だな、ああ、そうか、私死ぬんだ。
お疲れ様、私、こんな早くに死ぬなんて思わなかったな。こんなことになるなら、貯金とかしないでもっと遠征とかするべきだったし、あんなブラック会社さっさと辞めるべきだったな。好きな事思い切りできないで、死んでいくのか、ああ、無念だ。
だけど、このシステムは好きだ。一番好きな人の顔でお迎えにっていう天界のシステム。多分私は徳を積んで天国に行くんだろう。意地悪な事とかしたことないし。お年寄りとか困っている人には親切にしてきたし、徳を積んでチケット運を良くしようという欲ボケた気持ちからだったからだが偽善も善であると聞いたことあるし多分チケット運用の徳積み作業がここにきて発揮されているんだ。ああいいことしておいて良かった。こうして幸せに死ねるんだから。
「京也君。ありがとう。今までずっと好きだった。」
馬鹿みたいにお礼を言ってしまった。
仏様なのよね?
天使かな。
私を天界にお迎えに来たんだよね。
ヘブンズゲイトのライブで昇天なんて、文字通りの形の絶命の仕方だ。なんか笑えないな、多分過労で死ぬんだろう。最近の仕事の忙しさとストレスだな。原因は心当たりが有りすぎる。
「ヘブンズゲイトでいてくれてありがとう。15周年ライブ観れて良かった。15周年おめでとう。」
ずっと言いたかった言葉、彼らがいたから頑張ってこれた今まで、こうして死んじゃうけど、ずっと伝えたかった言葉、仏様でも天使様でも構わない、京也の顔してるんだし、もうそういう存在ならきっと本人にも伝えてくれるだろう。言った。
言えた。良かった。緊張せずきちんと伝えられた。多分最後のチャンスだから頑張った。以前の私なら京也を前にしたら折角のチャンスがあっても、緊張してテンパって、何も話せない固まってしまって不審な動きしかできなかった、こうして最後のチャンスよくやった、自分。褒めてあげるよ自分。偉い。
そんな私に
「ありがとう。」
優しい微笑み。アイドルだ、やはり。完璧なまでに美しい微笑みだ。営業スマイルでもなんでも構わない。私に向けられてるんだから。神様ありがとうございます。もう仏だか神だか天使だか頭の中がごっちゃになってるけど。お礼を言わずにはいられなかった。何事も感謝の気持ちが大切である。
ありがとうがこっちだよ。ありがとう。
「早瀬さん、大丈夫ですか?早瀬さんですよね?」
「はい、早瀬 成子です。でも。どうして。だって。」
頭が混乱している。
「死んでないと思いますよ。多分。死んでると思ってませんか?」
「俺たち多分死んではいないらしいと思いますよ。」
え?え?これ夢じゃない?死ぬときにみる夢みたいのじゃないの?
死んだんでもないの?
夢でもないってことなのかな。
すっかり死んだんだわあと感動して白雪姫みたいな気分で横になってたままだったが、むくっと身体を起こしてみた。上半身を起こしてみようとする。
「大丈夫?無理しないで。」
京也が抱き起してくれた。
身体動くじゃん。
これって、もしかして
もしかして異世界召喚?異世界転生だと赤ちゃんから始まるはずだし、今の身体は早瀬 成子のままだし。
しかもひとりじゃない。
推しの
大好きな大好きな推しの
神崎 京也くんと一緒に
異世界召喚。