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数日後、ジャックは建設現場で働いていた。これが新しいジャックの生きるための仕事だった。
彼は大きな綿の入った袋を担いでいた。綿の入った袋は、家の中を温かくしてくれるのである。
トラックに積まれた、綿の入った袋をすべて運び終わると、また次のトラックがやってきた。今度は重たい壁だった。
ジャックはトラックから降ろされた壁を持ち上げると、壁のない家の中に入って行って、壁をはめ込んでいく。――バチンッ、と大きな音が鳴ると、またトラックの側へいく。
一日中物を運んで、壁をはめ続けた。それはまるで、プラモデルを組み立てているみたいだった。ジャックは家がすこしずつ出来て行く様子がおもしろかったので、どんどん物を運んでいった。
建設現場で働いている人達も、はじめのうちは、声をだして、息を合わせ、建材をどんどん運んでいったが、だんだんと皆、飽きてきてしまうのだった。
仕事が終わったあと、冷たくなった手を脇に挟んで、ジャックはいったん家に戻った。この日は、雪が降らなかったので、彼は、道具をもって、いつものように公園へ向かうのだった。
公園に向かう途中、また家を抜け出したパディシャと会った。パディシャは、大道芸の準備をしているジャックのところへ歩いて来て、声をかけるのだった。
「おい、また会ったな」パディシャは公園を歩いているジャックに声をかけた。
「やあ、久しぶり」ジャックは重たい道具を担ぎながら言った。
「元気か」
「おかげさまで」
「ふん……」猫は不満そうにジャックの前を歩いた。「なぁ……なんで、あのとき帰っちゃったんだよ」
「あの時って?」
「おいらとチャーリーのところへ行った時だよ」
「あぁ、そのことか」
「なんで帰っちゃったの?」
「なんでって言われてもな……」
「お願いすればチャーリーの弟子になれた、って言ってんだよ」
「チャーリーの弟子?……まぁ、それも悪くはないけど、ぼくはいいよ」
「そうなのか?……」
「うん……」
パディシャは立ち止って、荷物を運ぶ彼の後ろ姿をじっと眺めていた。
ジャックはいつもの広場に荷物を置くと、ロープをだして、舞台をつくった。すると彼のお客さんが集まってきて、彼が曲芸をはじめると、まばらな拍手がおこるのだった。
おしまい