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アパルトマンの外に出ると、雪はさらに大粒に変わっていた。冷たい風がびゅーびゅーと吹いて、白い息がすぐにどこかへいってしまうのだった。
《どうして出て行っちゃったんだろうな……ぼくは……》
ジャックは後悔しながら、家へと向かう通り道にある、いつもの公園へ向かった。
広い公園には誰もいなかった。アスファルトの歩道や芝生は、境目がわからなくなるくらい真っ白になっていて、街灯に照らされた白樺の木にも雪が積もっていた。街灯りで星はほとんど見えなかったが、東の空に輝くシリウスだけはしっかりと眺めることができた。
ジャックが立ち止まって星を眺めていると、――ザ、ザ、ザ、ザ……、という音が聞こえてきた。彼はなんだろうか、と思って、白樺が並ぶ道を眺めた。すると、前から長い髪を風になびかせた小さな子供が歩いてきた。毛糸の帽子とマフラーで顔をかくして、ダッフルコートを着ていた。
友達の家で遊んでいる間に日が沈んでしまったのだろうか、とジャックは思って、その子供の脇を通り過ぎようとした。すると、子供がジャックに声を掛けてきた。
「ねぇ、あなた、ちょっといいかしら?」子供はマフラーの位置を直しながら言った。
「ぼくかい?」
「えぇ、あなたしかいないじゃない。あなたに聞きたいことがあるの」
ジャックは辺りを見渡した。
「たしかに、そうだね。それで?」
「わたしね、ラッキーを探してるの」
「ラッキー? 犬か何か?」
「いいえ、ラッキーはね、どこにでもいるんだけど、見つけようとしてもなかなか見つからないの、姿形もいつも違ってね。自分の目では見れないときまであってね、だからあなたに聞いてるのよ、あなたの目なら、わたしのラッキーを見かけたかもしれないでしょ?」
「きみが言ってるラッキーって? せめてどんな特徴か言ってもらわないと……」
「わからないわ、とにかくラッキーはラッキーなのよ」
「うーん……ごめんね……ぼくはちからになれないよ」
「あら、そーう? いいわ、ありがとー」
「どういたしまして、それときみ」
「なーに?」
「なるべく早く家に帰るんだよ」
「うん、わかった! じゃーね」
「バイバイ」
子供は彼を通り過ぎると大声で言った。
「ラッキー、おーい、ラッキー、出ておいでー」
ジャックは彼女が見えなくなるまで、ときどき振り返って確認するのだった。