記憶
カイルは気づいたら見知らぬ空間にいた。ここに来るまでの記憶が消されている。おそらく自らを天井人と名乗ったシンという青年の仕業であろう。Nといいシンといい得体の知れないものに掌で踊らされていることは百も承知であるが彼らを信じるしかない。
カイルの目の前には家と思われる建物があった。カイルが元居た世界にはない造りであり、薄い板を組み合わせてあるようであった。一応玄関には背丈の半分ほどの門があり、侵入を拒んでいるようでもあった。
カイルは声を出そうとするが相変わらずのどがつぶれておりかすれ声しか出ない。
しばらくすると門の奥の扉が開き、白い髪の女の人が出てきた。
「ようこそ。久々の客人。」
女の人は目を輝かせて出てくる。
「私はアリア。話は聞いてるよ。現実に戻りたいんでしょ。」
カイルは話せないので頷く。
「そのまま戻っても戦えないだろうから鍛えてあげる。」
アリアは道に沿って歩き出す。
カイルはとりあえずついていく。
カイルは建物はたくさんあるのに人の気配すらないというのに違和感を覚えた。ここはおそらくアリアのための専用の空間なのであろう。
しばらくついていくと大きな広場があった。
「早速だけど私に一撃与えられたら合格。」
アリアは無防備に両手を広げる。
こちらも大した装備はないが見た目はそれほど強そうではなかったので距離と詰めようとしたときバランスを崩し倒れこむ。いつの間に片足がなくなっていた。カイルは青ざめる。
「思った以上に素の力がないね。「才」もここまでない人間は初めて見た。」
アリアは治癒魔法を使いカイルと元に戻す。
「ただ、あなたにはこれまでの記憶がある。必死になれば成長できるはず。」
カイルはアリアの魔分を捕捉できないか目を凝らす。しかし、何も見えないうちにカイルは切り刻まれる。
「手加減はするけど耐える努力はしてね。」
アリアは終始笑顔である。その笑顔は先希を思い出させる。
カイルは痛みに耐えながら攻略方法を探す。徐々に力の塊をなんとなく認識できるようになる。ただそれはあまりにも早く、カイルに痛めつけるのと回復を交互にこなすのに抵抗することはできなかった。
アリアもだんだん飽きてきたのか休憩をはさむようになる。
カイルはあおむけになりながらあることに気づく。この世界に来てから太陽が微動だにしていなかったのだ。
「この世界の1日は8,760,000時間。ここの1日は元の世界の1日とリンクしてるからとことん修行できるよ。」
アリアはこちらの心を読んだのかこの世界の仕組みを教えてくれた。
カイルは眩暈がした。




