追放
対魔軍養成機関にてカイルは転機を迎えていた。代表教育者のサムから適正なしの烙印が押されたからだ。
「私はまだ頑張れます。まだカリキュラム1週目ではないですか。」
「もうあなたの適正はすべて見させていただきました。職業適性「皆無」、魔分適正「皆無」。」
サムは魔界からの侵略者撃退を目的とした人材育成のためにこの対魔軍養成機関を設立した。創始者である。そして、カイルはその機関で侵略者と戦うすべを学ぶべく修練に励んでいた。
突然のお告げにカイルは動揺していた。
「確かにどちらかの適正のみで英雄となった者もいます。しかし、どちらの適正もないとなるとここに置いておくことはできません。ここは国王様より支援され成り立っています。可能性あるものを優先しなければなりません。」
「私は勇者の血統だ。そんな訳はない。」
カイルは3代前に勇者のとして覚醒したものもいる名家の出身であった。そのせいもあってか自身に何かしらの「才」があることを疑ったことはなかった。
「それならば私に一撃を浴びせてみなさい。」
サムは剣をカイルの目の前に置き無防備に両手を広げる。
カイルは剣を拾い、サムを切り付けようとするが動かない相手にも拘わらずその太刀筋は空を切った。
カイルはあきらめ養成機関をあとにする。とても真っ直ぐ屋敷に帰る気が起きず立ち尽くした。道中数人とすれ違ったが全員が自分より幸せに見えた。
「少年ちょっといいか。」
カイルは意識を取り戻すと目の前に白いローブを被った怪しい人物がいることに気づいた。カイルがいる町は比較的治安が良いほうであるが最近は悪事を働く者も少数いると聞いており自然と身構える。その声は魔法により加工がされており男とも女ともいえない中性的なものとなっていた。
「怪しまないでくれ。私は神の使者Nだ。」
「それで怪しむなっていうのは無理でしょ。」
カイルは突っ込むと自然と後ずさりする。
「今日は君に力を借りに来たんだ。」
Nは淡々と話しだす。
「こことは別の世界で君は必要とされている。その世界では君は力を発揮できる。」
カイルは少し興味を持ち始める。この世界では「才」の概念があり、得手不得手がすぐわかってしまう。菲才の者にとって夢を見ることさえかなわない残酷な世界である。
「君にいるのは覚悟だけだ。その気があるならう頷いてくれ。」
カイルが頷くと特殊な術式が起動するのを感じた。
「むこうにいったら先希という者を探してくれ。」
カイルは最後の言葉を聞くと同時に意識が遠のいた。
意識が戻るとカイルは高い建物の屋上にいることに気付く。
それは元居た世界では考えられないほどの高さで体に当たる風の強さからもそれを感じることができた。
集中するとなぜか最後に聞いた名前である先希という人物はすぐ下の階にいることがわかる。
カイルは助けを求められているように感じたので急いで階段を降りる。ドアにはカギがかかっていたが力ずくで破る。ドアを開けるとそこには5人の黒づくめの男と黒く大きい立方体があった。恐らく黒い物体が先希である。
「お前。どこから入ってきた?」
男の1人が銃をカイルに向けるがそれはカイルが発する黄白色の魔分に触れ、溶けてなくなった。
「化け物め。」
後ろにいた男達がカイルに向かって銃を乱射する。もちろん銃弾はカイルに届く前に焼失する。
カイルは男達1人1人に手加減した一撃を食らわせ気絶させる。そして、黒い物体に近づく。
「助けて。」
黒い物体から声が聞こえるような気がする。
カイトは使える魔分すべてを使い。黒い物体を溶かしだす。黒い物体はなかなか手ごわく意識が遠のく。
どうせ元の世界で可能性のない身。何がなんでも自分を頼ってくれるものがいるなら助けたい。
何とか黒い物体を溶かしきるがそれと同時に意識を失い、閉じ込められていた者を確認することはできなかった。




