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エターナル・ワールド・ストーリー  作者: 蒼雲騎龍
K編
95/222

ウィリアム続編・新たなる魔域

ウィリアム編~続編・新たなる魔域へ




ウィリアムは、若き捜査官レナと共に悲しい事件を解決した。


そして、レナの副官就任の日である。 レナの持ち込んだ依頼を請けてから、ざっと8日目であった。 ミレーヌの屋敷にて、レナやウィリアム達を招いたパーティーが行われたのだ。


「あの~、行きたくないんですがねぇ~」


夕方、アクトルとスティールに両腕を抱えられ、ズルズルと引き摺られるウィリアム。 どう見ても理解の行きかねる一行が、居住区の通りを歩いている。 通りを擦れ違う住民などが、ウィリアム達を見てヒソヒソと・・。


その一行の中で。 スティールのお陰で随分明るく成ったメイドの女性が、クローリアとエレンの間で笑って何か話していた。 レナの持ち込んだ事件を解決した報酬が多かったので、スティールが“子猫”と云っている女性に綺麗なワンピースを買ってやった話だろうか。


ウィリアムは、スティールに小声で。


(ミレーヌさんに、アノ事をご相談しますか?)


(おう。 お前が姐さんの機嫌を取れ。 世話代の代わりに、貢物じゃ)


その返事を受けて、深い溜め息を漏らすウィリアム。 今日は仲間と別れ、朝から図書館巡りや街中の散策を楽しんでいたのだが。 パーティーの招待を知らされたアクトルとスティールに、出会い頭ソッコーで捕まったのだ。


(メンドクセぇぇ~・・。 もう、嫌じゃぁぁ~・・・・)


心底萎えるウィリアム。 せっかく、依頼として事件以外の仕事を回して貰える約束を、かの斡旋所の主であるブレンザに取り付け。 明日に依頼を聞きに行くと云うのに・・。


(冒険者らしくしようよ・・)


そう愚痴るウィリアムの気持ちは、皆の服装にも掛かって来る。


何せ。 スティールとロイムは、貸衣装から正装の一式を借りて貴族の様だし。 クローリアですら、淡い栗色のドレスの上に、女神の刺繍が入ったカーディガンを着るめかし様。 アクトルは、サイズが合わずに断念しただけで、ウィリアム以外は楽しむ気で全開だ。


エレンは、直々にミレーヌの招待を受けたので、一緒に来た。


ウィリアムは、鬱葱とした空気を払うのは構わないが。 自分を巻き込むのは勘弁と云う思いだけだった。


さて、10日ぶりぐらいにミレーヌ屋敷を訪れると。 あのローウェルの屋敷には、今だに役人が見張りとして立っていた。


「・・・」


急に黙るエレン。 身体の弱った実の母親は、ミレーヌの指定した寺院にお預けのままであり。 育ての母親であるルイスは、獄中だ。 後10日もすれば、罪が決まるだろう。


屋敷を鋭く一瞥したスティールが。


「潰してしまえっ、こんな屋敷っ!」


同じく屋敷を見たメイドの女性も、ローウェルのお陰で女性としては酷い扱いを受けていた方だ。 屋敷をもう見たくないと云う素振りが見られた。


アクトルは、直ぐに。


「行こう」


と、ウィリアムを引き摺る。


ミレーヌの屋敷に着いて、玄関先で執事の初老男性と挨拶を交わした一行。 どうやら、ミレーヌの知人で、ミレーヌのお陰で結婚をする男女が居て。 親戚筋のミレーヌを頼り、ミレーヌの屋敷の社交場と別の広間を借りたいと申し出て来たらしいのだ。 だから、レナの事も有るし、捜査関係者との顔合わせや、色々を考えて会う機会を作ったらしい。


スティールは、音楽の流れる右手を見て。


「んじゃ、向こうはその結婚パーティーですか?」


奥ゆかしい身動きで会場を向く執事の男性は、頷き。


「はい。 いらっしゃる皆様、本当にお綺麗な女性が多く、とても驚きました」


その話をを聞いた瞬間、スティールは、もうエレンと子猫ちゃんの肩を抱いていて。


「行こうか」


と、会場の方に行こうとする。


非常に嫌な悪寒を感じたウィリアムは、驚くままにスティールの腕を掴み。


「ちょちょっ、お話はどうするんですかっ?!」


「ええい、お前に任す」


「スティールさんっ」


「大丈夫だよ。 どうせ大勢居るんだ。 ミレーヌの姐さんの友人って言えば、先ずバレないってさ」


そんな二人の遣り取りを見た執事の男性は、軽く笑い。


「別に構いませんよ。 ミレーヌ様は、広い会場に様々な人を呼んで居ります。 楽師の一座や旅芸人も居りますので、皆様がご一緒でも、何の問題も有りませんよ」


アクトルは、酒を望む顔で笑み。


「飲めるのかな?」


「はい、十分に用意しております」


アクトルは、ロイムやクローリアに。


「小難しい事は全てウィリアムに任せて、俺達も行くか」


と、云うと、ウィリアムに向き。


「アレの見張りは任せろ。 色々話有るかも知れないし、お前はゆっくりしてこい」


ウィリアムは、完全にハメられたと思い。


(なんだよ、俺だけかよっ!!)


と、ヤケ気味に成りながら。


「あの~、ミレーヌさんはどちらですか? 会場ですか?」


執事の男性は、左の扉に向いて。


「今、向こうでレナ様と貴方をお待ちです」


(ま・待ち構えてるのかよ・・・)


磔台に上る気分のウィリアムは、仕方なしと思い。


「では、失礼して」


「ご案内します」


執事の男性に案内され、入った部屋は食堂の脇の客間だった。 部屋の中には、ミレーヌやレナに加え、ミレーヌの部下数人が居た。 その部下の中には、レナの召集した配下の男性も見受けられ。 ミレーヌは、レナごと、レナの部下も吸収したのだと解った。


実は、レナを引き受けるミレーヌに、予算の上乗せが在った。 ミレーヌの部下が多ければ、レナが率先して現場で汚れる事は少ないと言う事からである。 ミレーヌは、ウィリアムに相談したのだが。 ウィリアムは、それを受けた方が得策だと含ませた。


さて・・、ウィリアムの顔を見たミレーヌは、パッと表情を明るくして。


「あらっ、ウィリアムちゃんっ!!」


その大きな声。 部屋に入ったウィリアムは、瞬時にむず痒い顔に。


ミレーヌの参謀副官を長年務める初老の男性は、ウィリアムの顔を見ながら。


「あはは、ミレーヌ様のお気に入りが来た様ですな」


と、からかう様に云う。 正直、ウィリアムには大迷惑な話だ。


ミレーヌの前に来たウィリアムは、


「お気に入りでは、世間的にマズイと思いますが・・」


と、言うのだが・・。


ズンズンとウィリアムに踏み込むミレーヌは、顔を感情豊かな怒り顔に変え。


「それでイイのよっ!」


と、自分勝手な気持ちを押し込んで来る。


呆れるしか無いウィリアムであり。


レナや役人のそれぞれは笑っていた。


ミレーヌは、後はパーティー会場にて呑ませる方向で役人達を行かせ。 レナと二人で、ウィリアムに話し合いを申し出た。




                      ★★★




「ウィリアムちゃん、今夜は泊まって行く? レナも一緒だし、丁度イイでしょ?」


と、乙女ちっくなミレーヌ。


苦虫をガジガジ噛む様な渋い顔のウィリアムは・・。


(何が、“丁度いい”んだ? 何をするんですか?)


と、思いながらも。


「いえ、今日は意地でも帰りますよ。 明日は、斡旋所に行く用事が在りますからね。 それより、レナさんの副官就任、おめでとう御座います。 ま、ミレーヌさんには、俺よりも似合った相手ですから。 これからも、お二人で頑張って下さい」


ミレーヌは、もう悶える様な仕草で。


「んっ~もうっ! ウィリアムちゃん以上の相手なんて、この世の何処にも居無いわっ?!!」


「・・・」


頭痛のする頭を抑えるウィリアムと、あまりのイケイケぶりに笑うしか無い困ったレナが居た。


が。


ウィリアムは、レナに。


「ですが、あの事件の関係者には、細かく気を配って下さいよ。 特に、犯人と成った方の家族、そして・・一人で残された旦那さんに」


レナは、直に顔を真面目にして。


「はい、解ってます」


「ジェミリーさんの愛情は、非常に強いものでした。 残された旦那さんは、一人に成ってその大きさが重く圧し掛かります。 この罪にも似た重さは・・一生を左右するはずです。 出来るなら、死ぬ前のジェミリーさんに会えたら・・。 そう、思ってしまうほどです」


レナは、ウィリアムの気持ちの深さに心が揺さぶられた。


(この方は・・何処まで深い方なのでしょうか)


行きずりの冒険者とは、決して思えない。 恐らく、ジュエミリーが死ぬ前に出会えていたら、ウィリアムは全力で自殺を阻止したかも知れない。


ミレーヌは、深い深いため息を吐いて。


「はぁぁ・・・。 ね? ウィリアムちゃん、愛する女性を一人にしちゃいけないって解ったでしょ?」


白けるウィリアムは、ミレーヌを見て。


「それより、俺達はこれからも仕事を請けて、度々ここを留守にします。 出来るなら、スティールさんの預かった女性の身の振り先をお願いします。 流石に、俺より女性に優しいスティールさんの御蔭・・。 随分、笑うように成りました。 ですが、土地に居付く事無い自分達では、その世話だけは無理ですから」


「解ってるわ。 まだ少しほとぼりを冷ます必要あるけど・・。 彼女なら、いい仕事先見つかると思うわ」


ミレーヌは、其処は力強く言う。


レナは、笑顔を見せ。


「ウィリアムさん達は、本当に優しいですわ」


と、言うのだが。


ウィリアムは、暗くなる庭を望む様に横の窓を見て。


「そうですかね・・」


「ええ。 誰の目から見ても」


すると。 ウィリアムは、パーティー会場の方を見て。


「なら、仲間に感謝しますかね」


と、涼しい言い方をして見せる。


「え?」


と、聞き返したレナ。 一瞬、ウィリアムが別人に変わった様な印象を受けたのだ。


ウィリアムは、ミレーヌやレナに身体を戻すと。


「いえ。 俺一人だったら、今の状況まではしなかったでしょうね。 事件を解く事はしても、あまり人のその後に力を貸すのはしませんでしたから。 スティールさんも、ロイムも、アクトルさんも、不思議と俺の心を動かす様な事をしてくれるんですよ。 おそらく、気が合うんでしょうね」


レナとミレーヌは、ウィリアムの素朴な気持ちを聞いたような気がした。


緩い笑みを浮かべたウィリアムは、


「意外に、俺もまだまだ変わる要素を持ってるんですね。 人と交わるって、本当に凄い事なんだと実感させられます。 ・・無論、御二人も含めてね」


何処か、自虐的なニュアンスがウィリアムの言葉に含まれ。 ミレーヌですら、笑えなかった・・。


ミレーヌは、真面目な顔をして。


「ね、ウィリアム君」


「はい?」


「レナが只者じゃ無いって、何処で解ったの?」


「あ~・・・話しませんでしたっけ?」


ウィリアムは、自分を注目するレナを見てから。


「最初の話し合いを持った時に、違和感の様なものは感じましたかね。 手下が誰も居無い上に、私室が本だらけ・・。 でも、その割にお荷物部署と言われていながら、何の手柄も失敗も無い。 話を聞く内に、記憶力が良く。 人の内輪揉めなどを個人で解決されていた・・。 ちぐはぐ過ぎて、ある意味凡人の平静とは違う様な・・・。 でしょ?」


「なるほど・・。 確かに、他を探しても同じ人は居無いわねぇ・・」


「えぇ。 例えば、人がバカと云うにしても、“バカ”と思わせる要因が在る訳でして。 しかしそいつは、普通にバカか、変わったバカか、その他良く解らないバカとか、色々在ります。 見て、聞いて、人として知り合って見ると、その本質が見えて来ます。 ま、人の目を当てにした噂など、真偽を確かめる判断材料の一部に過ぎない訳ですよ。 問題は、自分の目で見て、聞いて、知って、どうか・・じゃないですか?」


ミレーヌとレナは、確かにそうだと頷くしか出来ない。


ウィリアムは、レナを見て軽く失笑すると。


「でも、レナさんにはしてやられましたね。 確かに、貴女に逢うまで、貴女の事を理解するなど無理ですが・・。 ブレンザさんと釣るんで、二重に騙された訳ですか。 事件の事を匂わせる事すら引っ掛けに使うだなんて、中々の策士ですね」


レナは、褒められている様な気分になり、頬を赤らめ。


「いえ・・、誰かに気付いて欲しくて・・必死でしたから」


ウィリアムは、ミレーヌとレナを見て。


「多分、お二人はお似合いですよ。 丁度、お互いに欠けた部分を補える。 ミレーヌさんの配下は、しっかりした仕事の出来る人が多いし、レナさんの手足には丁度イイ人材だ。 これで、俺も手を貸す機会が無くなる訳だし、気楽に別の仕事を回して貰えそうです」


“まぁ”


っと言う様な顔をした二人。 ウィリアムに、憎まれ口を言われた様で笑えた。


ミレーヌは、直に。


「ねぇ、ウィリアム君。 冒険者で、綺麗な顔立ちのヒュリアって若いコ知ってる?」


「あぁ・・、斡旋所に居ましたね。 随分と気品の在る顔立ちをした方でしょう?」


「そう、お金持ちの御曹司なんだけどね。 昨日、貴方より優秀だって、私の所や他の捜査官の所へ売り込みに来たわよ。 何か有ったの?」


ウィリアムは、あの気位の高そうなヒュリアの顔を思い出し。


「さぁ~。 地元で一番の実力だとか言ってましたから・・、今回の我々の事が気に入らないんじゃないですか?」


ミレーヌは、何処か疑る面持ちで。


「でもぉ、ブレンザは・・」


“アレは、顔だけがイイだけで、中身はペテン師と同じさ。 顔の良さだけを売り、人でなしを平気に出来る。 信用の置けないと言う言葉が、そのまま人に成ったのと同じだ”


「って。 正直、私は遠慮したわ」


何もフォローのしようが無い話に、ウィリアムはやや横を向き。


(へっ。 噂通りに“バカ”って事ですか。 逢う必要の無い、噂をそのまま信用出来る逸材ですかね)


と、心の中で毒を吐いた。 ミレーヌの元に、自分を売り込む彼の姿が想像できた。 何とも、順序の違う行動であると思える。


レナは、ウィリアムに近寄り。


「ウィリアムさん、私・・。 今日から、ミレーヌ様の下にお世話になりますの」


と。


ウィリアムは、何か誘惑染みた匂いを嗅ぎ。


(だ・・、だから何だよ?)


と、言葉を繋げられなかった。


パーティー会場では、例の如くスティールがハッちゃけていて。 美人・ブス関係なく口説こうとするし、アクトルは酒を水の様に飲むし。 ロイムは、呑まされて泣きじゃくる始末。


クローリアは、うっとりと新婦を見ながらスティールを粛清していた。


ウィリアムは、何も言わず。 静かに、静かに、酒を呑む。


酔ったミレーヌがスティールにキレても・・。


泣き上戸のロイムと、笑い上戸のレナが意味の解らない会話をしても。


アクトルがスティールの死に損ないの姿を肴に、愚痴ろうとも・・・。


スティールの逃げ回るのを見て、近所から来た子供などが追いかけっこをして大騒ぎに成っても・・。


(知るか。 俺の知った所じゃないっ!!!)


迷惑を全て黙殺して、深夜までチビチビと呑み続けた・・・。


ウィリアムが意地でも宿に帰ったのは、自分の言った事を通す為か。 それとも、ウィリアムでも怖いものが有るからなのか。 スティールの“子猫ちゃん”は残したが。 決して太っている訳でもないのに、意外に量感の有るクローリアの寝たままを抱き上げて帰るウィリアムは。


「結構・・・重いなぁ~」


スティールの死骸に近いものを引き摺り、酔い潰れたロイムを背負うアクトルは、それこそ不適切発言だと思って苦笑いを浮かべた。





                      ★★★





次の日。


昼間。 人通りの多い、港の見える段々の街を望める大通り上で。


「う゛ぅ・・痛い・・・」


頭を抑えるクローリアが太陽の明るさを嫌い、フードを深く被った。


「・・・」


もう歩く死体の様なロイムは、かなり気分か悪そうである。


澄ましているのは、ウィリアムのみ。 今日は、全員が完全武装した旅回りの姿であり。 ウィリアムは、クローリアが呻こうが、ロイムが泣き言を言おうが無視である。


昨日の乱れっぷりは、ウィリアムも少々お怒りと云う所なのだろう。


アクトルは、服を乱しながらも様に成るスティールへ。


「しかしよぉ、お前達もよくもまぁ~・・好き勝手に出来るよなぁ」


二日酔い丸出しの眠たい目を見せるスティールは。


「仕方ねぇ~だろうがよぉ~。 レナちゃんのお祝いだし、結婚だって云うんだろう? ハデに、ぷわぁぁぁ~~~っとやらにゃ~」


其処へ。 ウィリアムは、やや鋭い目を向け。


「へぇ~・・お祝いですか」


ウィリアムにキツい視線を向けられたスティールは、少しヤバそうだと察知し。


「おっ、おうよ。 なんかぁ?」


ウィリアムの左眉が、ピクピクと動いていて。


「結婚式のお祝いで、新婦を口説こうなんてしますかねぇ~。 しかも、すこぉ~し新婦さんも乗りそうでしたし?」


気まずさをダイレクトに感じ始めたスティールは、居心地悪そうに他所を見ながら。


「じょ・冗談に決まってんだろうがぁよ。 あの・・その・・何だ。 初夜前に、ヨメさんがこ~何だ。 ノリ気の方が・・いいだろうが。 新郎だって、その方が・・その~何だ。 緊張しないで済むだろうがよ」


アクトルは、もしクリスティーとの結婚が現実に成ったあかつきには、この不逞の義兄弟を監禁する事を誓った。


さて。


斡旋所にて、ブレンザに会うと。


「ふぅ。 おや、今日は・・随分とまぁ~変わった様子じゃぁ~ないかい?」


普段通りに煙管を咥えるブレンダは、ロイムやクローリアを見てそう言った。 朝風呂をしたウィリアム以外、身体から酒気が漂っている。


ウィリアムは、詰まらなそうな顔を見せて。


「ま、自業自得ですよ。 それより、次のお仕事は決まっているとか? 伺いたいので、説明をお願い致します」


煙管を口から離したブレンザは、ウィリアムを見下ろし目を合わせて。


「実は、少々危険な仕事だよ。 北の森に出向いて、この時期にのみ実る“樹香”(じゅこう)を採取して来て欲しい」


ウィリアムは、仲間達以上に顔つきを正し。


「“樹香”ですか・・。 調子の合う様に、昨日調べたモノです」


ブレンザは、様々な視線でウィリアム達を見る屯組みや、仕事に炙れた冒険者達を見回して。


「実は、北の山に広がる渓谷森林地帯には、近年モンスターが多くてね。 2年前・・いや、もう少し前だったか。 イービルループだかが出来てて、モンスターを大量に運んで来ちまった。 スカイスクレイバーやバブロッティ他、腕の有る冒険者達の御蔭で、絶対数は相当減ったがねぇ。 繁殖も確認され、以前の平和な森じゃなくなっちまったって訳さ」


ウィリアムは、その情報を先に仕入れていたので、驚きはしなかったが・・。


「では、欲しい“樹香”を教えて下さい」


その一言が出た所で、ブレンザは、ジっとウィリアムを見た後に。


「・・・、出来るだけ」


と。


漠然とした言い方で、ロイムやスティール達は見合い。 周囲の冒険者達も、少しザワついた。


だが、ウィリアムは・・。


「・・なるほど。 狩人などが安全に取りに行けない場所なので、需要が激高してる訳ですか。 少しでも長い間、採取の依頼を出したくない訳ですね? ですから、出来るうる限りの量を・・」


ブレンザは、意思を読まれても素直に。


「済まない。 実力に見合うのが、今はお前さん達しか居無い。 他のヤツ等じゃ、確実に犠牲が出るんだ。 ウィリアム。 お前さんなら、多種の樹香を集められるだろう」


ウィリアムは、サラリと返す口調で。


「報酬は?」


「採取量に関係無く。 成功で、5000。 量と種類に応じて、最高は、15000。 危険手当は、追加に含む。 只、持ち寄った樹香は、商人達も見るから。 内容次第では、それ以上に成るかも知れない。 昨日、香料や薬の大店・仲買達から、相当の額の提示が有ったよ」


スティールは、久しぶりに腕が鳴る依頼だと思い。


「イイねぇ、俺は乗った」


アクトルも、即座に。


「俺も」


仲間を見たウィリアムに、ブレンザは続け。


「それと、森の様子を見て来て、在りのままを報告して欲しい。 今回は、内容が内容だ。 一時的なチームの増員も、此方としても考えてある」


スティールとアクトルは、以前に二人で此処を訪れた際に。 その当時のスカイスクレイバーやバブロッティの活躍を聞いていた。 そして、その仕事に加わった別チームとも、実際に話を聞いて知っていた。 何チームもの参加で、やっと押さえ込んだモンスター。 ブレンザが心配するのも、確かに頷ける。


ウィリアムは、ブレンザを見て。 いや、見据えて。


「それは、ブレンザさんが認めた腕の・・・ですか?」


「あぁ・・。 その辺の素人や、モンスターを見て逃げ出すアホウじゃ困る」


その声に、周囲が瞬時に静まった。


今、斡旋所に居る仕事に行かない冒険者達には、この発言にチクリとする心当たりが在るのだろう。 実情を知るブレンザに云われては、首を竦めるしか無いと云う処だった。


頷くウィリアムに、ブレンザは続け。


「色々の事情で、チームがバラけた者を4人集めた。 どれも、腕は悪くない。 ウィリアム、アンタがリーダーなのは絶対としてあるから。 しっかり纏めとくれ」


「了解しました。 で? その方々は?」


「うん。 二人は、“根降ろし”だ。 今、こっちに向かってる頃だろう。 他の二人は、この街へは朝来たばかり。 食事を取ってる」


ウィリアムは、急ぐ事でも無いので。


「では、待ちましょうか」


ブレンザは、ウィリアムの方が、地理以外の全てに於いて把握していると思い。


「あぁ。 後ろの奥に待合場が在るから、其処に居てくれ。 一応、朝に作らせた書面依頼を渡しておく」


また、感情の蠢きが微塵も無い、若い配下の男性が紙を出す。


ウィリアムは、サークルカウンターに出された紙を受け取り。


「では、奥にて待ちますか」


と、裏手に回り出す。


屯する者達、思う様に仕事をこなせないチームには、ウィリアム達ですら眩しい存在だった。 ダレイの殺人事件を解決し。 何の事件か解らないが、レナの持ち寄った事件も解決。 役人と一緒に居たウィリアム達だ、人だかりに集まった冒険者達には、その姿が見られていただろう。


短期間に、幾つもの依頼をこなし。 回される依頼。 自分達で選び、望む依頼。 今回の様な、特別な依頼をこなせると成れば、斡旋所側からして好ましい。 嘗ては、殆どの有名チームがこの階段を駆け上る。 ウィリアム達もまた、同じ要素、同じ道を行く。


しかも、彼等なりのスタイルと、駆け抜け様で・・。




                      ★




ドアの無い区画だけされた待合の場。 向かい合った固めのソファーや、窓側に並ぶカウンターと木材の円椅子。 チームで、思い思いの場所に腰を下ろした一同。


カウンターに向かって座り、依頼の紙を見るウィリアムは。


「確かに、依頼主側が焦ってますねぇ。 樹香の種類の指定より、とにかく少しでも量が欲しいとあります。 これは、チョット気合いが必要ですね」


アクトルは、スティールと水瓶から水を汲み。 使い回しのカップを使って水を飲みながら。


「何故、そう解る?」


ロイムやクローリアですら、気が向いた。


紙を見るウィリアムは、


「森の事は、狩人や地元の薬師などが一番知っています。 狩人などは、大型のモンスターでも無いなら、逃げる対処ぐらいは心得てますからね。 普通にモンスターの居る森ぐらいなら、こんなに逼迫した現状を窺わせる文面など無いハズ。 おそらくですが、森の現状は、頗る宜しく無いんじゃ~ありませんかね」


スティールは、アクトルを見て。


「アーク、久しぶりに来たな」


「おう。 事件絡みばっかりの仕事だったが、今回は大暴れ出来るかな?」


まだ二日酔いの続くロイムは、ローブの肩口を片側やや崩しながら。


「ウィリアムぅ、“樹香”ってな~に~」


クローリアは、ややシャッキリしない顔で。


「今しがた、主さんは・・“実る”とか。 特別な果実かしら?」


皆の視線が、疑問の回答を得たくてウィリアムに向かった。


「“樹香”とは、樹液の固まった物の俗称ですよ。 松脂マツヤニとか、色々在りますが。 特に、発酵度の進んだ物を指します。 用途は、香水・薬・料理・アロマ蝋燭の蝋・・、それからハープなどの弦楽器の潤滑剤などなど多岐に。 初夏の樹香は、ある程度水分を保っていて、効用の高いものが多いんですよ。 真冬か、今頃が収穫期ですね」


軽く考えたスティールが。


「つ~か。 輸入とかしないのか?」


「一応は、交易で流通はしてますよ。 ですが、特定の産地が限定された物以外は、それなりに自給出来る自然が各国に残ってますからね。 普段から、そんなに無理に大量輸入しなければ成らない現状では無い・・。 そんな感じですかねぇ~。 俺の住んでいたコンコース島でさえ、近隣の島などの自前で確保は出来ますし」


「ほぉ~」


アクトルは、此処で。


「でもよ・・、この状況は2・3年前からだろう? 輸入してもイイ感じはするがな~」


ウィリアムは、依頼の書類を読み終えた処で、皆の方に身を回して向くと。


「それもそうですが、栽培も少々難しいんですよ。 まぁ、各国で自前の需要分を確保して、若干の余りを流通させているに過ぎない現状ですからね~・・。 いきなりこんな風に欲する国が出来ても、簡単には量が増えるとは行きません。 樹香は、出来の早い物で3年。 長い物では・・100年に一度みたいなものも在りますし」


アクトルは、すんなり頷き。


「そりゃ~無理だ。 うん」


モンスターにビビるロイムと、それをからかうスティール。


だが。


ウィリアムは、皆を前にして。


「ですが・・、気に成るのは“イービルループ”ですね」


クローリアは、僧侶なだけに真剣な顔で。


「ですわ。 封印されたから良いものの、開いた事事態が大事です」


ウィリアムも同意見で。


「です。 大体、マーケット・ハーナスにカオス・ゲートが開いたなんて、伝説の創世記時代ッスよ。 モンスターも殆ど居なくなったハズの森で、何で開いたのか・・・。 戦争遣ってるのは、西の大陸の真ん中だけで、こっちは平和ですからねぇ」


ロイムは、背筋に寒気を覚え。


「それって、自然的に出来た~って訳じゃないって事ぉ? なんか、怖い」


スティールも、流石にロイムをからかう気も無く。


「つまりは、誰かが開いた?」


アクトルは、後を取り。


「若しくは、その要因を作った、か。 持ち込んだ・・、か」


腕組みして頷くウィリアムは、平静より真剣な眼差しで床を見つめ。


「どうにせよ、勝手に開いたとは考え難い。 誰かが開いたのなら、その目的は何でしょうかね? 世界的に、平和な今を転覆させようとか・・。 大事なら、勘弁願いたい処ですね」


その言葉に、仲間一同は目を凝らした・・。

どうも、騎龍です^^


一部のメモリーに物語の一部が残っていたので、合間を繋ぐ意味で掲載します。 ウィリアム編ですが、モンスターとのバトルが大半なので、今時期に調整してお送りします。


ご愛読、ありがとう御座います^人^

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