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エターナル・ワールド・ストーリー  作者: 蒼雲騎龍
K編
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K特別編 秘宝伝説を追って 第一部 ⑬

         K長編・秘宝伝説を追い求めて~オリヴェッティの奉げる詩~第1幕




            ≪不穏と平穏の狭間 Kとライナの・・・≫




K達を乗せた船が、ホーチト王国の王都マルタンで停泊して3日目に成る。


マルタンの街の影に蠢く悪意を動かしたのは、誰でもないKだろう。 そう、ジョンソンを体術の闇型ヤミカタと呼ばれる急所を突く仕業で殺したのだ。


正式には、“秘殺誅・気孔死”(ひさつちゅう・きこうし)と云うもので。 生命波動の流れの集まるツボを壊す所業である。 暗殺者ですら使えぬ秘術で、気の巡る気脈を正確に突くなど・・。


Kはその技を用いた。 用は、ジョンソンがお尋ね者だからだ。 生死を問わないお尋ねの賞金首に成っていたのである。 オリヴェッティやリュリュの手前、生活に困って居る訳でも無いし。 名を広める事もしたくなかったから、暗殺したしただけ。 それに、斡旋所の主とは、ポリアの一件で知り合う仲に成った。 ジョンソンの賞金を受け取りに行けば、どんな事態が待つか解らない。


そう、係わり合いを嫌ったが故であった。


だが。


事態は、別の一面を秘めていた。


その部分がKに向かって集まる切欠は、斡旋所でである。


北の山まで行かないと大雪など滅多に無いマルタンが、寒波の影響で雪の朝を迎えた午前中。


「あ~、チームに加盟な。 え~っと」


マルタンの斡旋所の主をしている男は、Kとポリアの出会いの話でも書き記した大男である。 硬太りの厳しい中年と見受けれるのは、顔がゴツくて年齢が顕著に解る風貌では無いと云うだけ。 実年齢は、もう50半ば近くへ踏み込んでいる


一階の広いフロア。 その中央に在る円形カウンターの内側に陣取る主は、ガッシリとした古い木の椅子に座って仕事をしていた。


朝から、チームの加盟や削除の仕事に追われ。 今さっきは、雪掻きの急募依頼を駆け出しの冒険者20名程に回したばかりであった。


また、別のチームのチーム解体と、新チーム結成を受け。 黒い表を見せるノートに書き込んで居る。 


其処へ。


「お父さん、依頼の張り紙が出来たわ」


と、女性の穏やかで優しい声がして。


「マァマ~、ジィジィ~あわぁ~」


と、幼い子供の声までする。


カウンター前に集まった3人の冒険者達と共に、主(通称:マスター)も女性の声のした方を向く。


「おう、オリビア。 済まないな」


主は、僧侶の服を着て1歳を過ぎたぐらいの子供を抱く女性から紙を受け取った。


「これ、頼む」


同じ円形カウンターの内側で、下働きとして手伝う30前後のバンダンをする男性に紙を渡す主。


だが、書く手を動かさず。


「ライリー、ママとお手伝い偉いな~」


厳しくふてぶてしい面構えをした主が、目じりを緩めて女性の抱き抱える子供に笑った。


見ている冒険者達からするなら、


“気持ち悪い”


なのであろうが。 孫が出来たからには、この一癖持った主とて“お祖父ちゃん”に成る訳で。 こうゆう一面も出て来る訳だ。


そう、子供を抱えるのは、Kが率いる合同チームに助けられたオリビアであり。 二階で、張り紙を作ったり、二階の特別依頼の場を任されているのは、オリビアの夫で“グランディス・レイヴン”のリーダーであるサーウェルスなのだ。


サーウェルスは、半年此処で主の補助として暮らし。 動き易い季節の半年だけは冒険者として動く事を決めた。 時折、腕の足りないチームに一人で加わったり。 力仕事に精を出して身体を鍛えている。


以前のサ-ウェルスに比べ、落ち着きと見識が備わりつつあり。 何時も悪い口しか見せない主だが、サーウェルスが行く行くはこの斡旋所の主と成ると思っていた。


サーウェルスとオリビアは、まだ20の半ばを過ぎるぐらいで若い。 斡旋所の主であるオリビアの父親は、なんだかんだ言いながらも30半ばを過ぎる頃までは、冒険者を許す気でいた。


だから・・。


“フン。 子供が出来た身分で、未だに冒険者とは情けない。 とにかく、お前達の身に何か有ったら、ライリーはワシが引き取る。 だが、一人じゃライリーも可愛そうだ。 後、3・4人は兄弟を作れ”


こんな事を夜に言う主は、孫の存在が満更でも無く。 娘夫婦に長く居て貰いたいから云うのだろう。 サーウェルスやオリビアの方が、言い草に呆れて慣れて来た。


この一年後。 ポリア達がフラストマド大王国に向かったと聞き。 その後を追って冒険に出たサーウェルスとオリビアのチームは、セイルとユリアが関わる一件で活躍するのは、ご承知の通りである。


さて。


チームの決裂をして、二つに分裂したチームの処理を終えた主。


「はぁ・・。 暖炉3つも炊いてるのに、寒さが堪えるなぁ・・。 いい加減、雪も打ち止めにして欲しい所だ」


と、焼けた石を入れた火鉢に手を寄せる。


カウンターの内側に屈んで、火鉢に手を向ける下働きの男も。


「ですね。 そう云えば、朝に聞きましたが。 あのジョンソンが殺されたそうですよ」


「あ゛? あの海運業の・・えげつないヤツか?」


「はい・・。 しかも、受付の人と、毎朝料理を作りに来る若い料理人も一緒に・・。 金とか奪われていて、強盗じゃないかって」


主は、その時点で目を細め。


「強盗・・。 だとしたら、相当な腕だな・・。 あのジョンソンとか云うヤツ、斡旋所に来てた意地汚いが腕の立つ“はぐれ”を2・3人雇ったハズ。 そいつ等を出し抜いて盗むんだからな、相手は手練てだれの賊だろう・・」


すると、オリビアが子供を連れて二階に上がったのを確かめた下働きの男は、カウンター周りに誰も来ていないのを確かめた上で。


「ダンナ・・、実はですね。 強盗を働いたのは、その用心棒を引き受けた奴等じゃないかって話ですゼ? 朝、チョイト小耳に挟んだ情報ですが、昨日から姿が見えないらしいんで」


主は、話が随分だと更に前屈みに成り。


「おいおい、そいつぁ~物騒だな。 ま、アイツ等は金に意地汚い亡者だ。 月極めで十分に貰っても、目の前にそれ以上の金を見せられたら、多い方に飛び付く輩。 そんなヤツを雇う方がどうかしてる」


「ですね」


其処に、離れた場所から。


「うはぁ~っ、雪がいっぱぁ~い」


「本当だ。 北の大陸とは、こうも雪が多いものなのか?」


「いやいや。 普通なら、この辺は年明けに少し降る程度。 今年は、異常に寒い」


「ですわね。 私も、旅をしていて此処までの雪は、スタムスト自治国か、フラストマド大王国の王都でしか経験が在りませんわ」


と、色様々な声がする。


身を上げた主と下働き。


入って来たのは、オリヴェッティ達である。


リュリュは、広いフロアを見回して。


「うわぁ~、なんか広ぉ~い」


と、物珍しそうに云う。


主は、その言い草に。


(ガキか?)


と、呆れた。


だが、壁に貼られた張り紙を見る冒険者の内、魔術師の数名がリュリュを一瞬見返ったのは・・。 おそらく、Kやオリヴェッティと同じ理由だと思われる。


オリヴェッティは、カウンター前に進み出て。


「すみません、お願いが在りまして」


と、ルヴィアとビハインツの加盟を打診したのである。


理由を聞く主は、適当に説明された話を聞き。


「ほぉ~、船で仲良くなぁ・・。 ま、大雪で足止め喰らってる中だ。 どうだい、雪掻きの仕事でもしてみないか?」


と、誘いも付ける。


ビハインツは、ランプの明かりが灯っていても薄暗い館内から、雪が降る外を見て。


「何十年来の大雪だものなぁ・・、手伝ってもいいぞ」


と、云った。


オリヴェッティは、一日だけならと引き受ける気持ちを持ったのだが・・。


主は、オリヴェッティのチームを確かめた時、チームの参加している名前に驚くべき人物が居るのを見つけ。


「なぬっ?!!!!!」


と、思わず大声を・・。


驚いたのは、オリヴェッティやら他の冒険者達。


震える手をそのままに、顔を上げた主は鼻水まで垂らしたままに。


「こ・この面子の“ケイ”って・・、かっかか顔に包帯をした・・・黒服の?」


オリヴェッティは、凄まじい技能を有するKだけあると思い。


「まぁ・・、やはり有名な方なんですのね? はい、一時だけですが、東の大陸へご一緒するために入って頂きました」


だが、その実力の一端を聞いていた主からするなら、“有名”などと云う範囲では無い。 かのポリア達と別に二組の冒険者チームを合同で率い。 自分の娘とそのチームを救出してきたバケモノである。 あの魔の森マニュエル、そしてモンスターの巣窟と化した山に分け入り、怪我も無く帰って来た。 サイクロプスや、悪鬼巨人のギガンテスを一刀一撃の下に倒したその神技的な剣術で、悪党冒険者のガロンを殺した男だ。


「あ・・あ~・・・」


Kは、有名に成る事を嫌って、途中で合同チームを抜けている。 彼の詳細な話を率先して語るのは、タブーであった。


(おどろいた・・、こんな所で名前が・・。 ヤツ、あれから世界の彼方此方に出没してるのか・・・)


加盟の作業をし始めた主は、


「で? ヤツは、今何処に?」


「船ですわ。 港に停泊している船の中で、ゆるりと寝て過ごしていると思います」


「・・・、そうか。 会ったら、俺が礼を言っていたと伝えてくれ。 娘と孫をありがとう・・・とな」


ルヴィアは、何事かと思い。


「意味が解らぬ。 何の事だ?」


加盟を終えた主は、冷や汗を掻いたハゲ頭を撫でながら。


「本人に聞くか、ポリアにでも聞け。 “風のポリア”・・、ヤツを良く知るお嬢様よ」


「かっ・・風のポリア・・・。 あの、一気に有名に成る階段を駆け上がった貴族の?」


そう。 ポリアがフラストマド大王国の貴族で、5大公爵家の筆頭の家柄である事は、つい最近の秋に明らかと成った事実だ。


結婚をさせられそうに成ったポリアは、結婚式の当日。 自分の父親であり、リオン王子の下で全軍を預かる軍事総都督を始めとする幾つ物もの肩書きを頂く人物と剣を交え。 集まった来賓者達の前で打ち負かしたと云われている。


ポリアは、堂々とウエディングドレスのままに会場を仲間と去ったとか。 リオン王子の手引きで国外に脱出したとか。 様々な噂が出回った。


一つハッキリと云える事は、ポリアが自由の身と成って冒険者を続けている事だ。


一年後、サーウェルスやオリビアが出会うまで、ポリアは更に更に旅を続けて行く。 


ルヴィアは、風のポリアと面識が在る云うKに驚くのだが・・。


此処で、リュリュが。


「そうだぞ~。 ケイさんは、すご~く偉いんだじょ~。 ポリアちゃんとか、マルヴェリータちゃんとか~、びじ~んのおねいさんと、いっぱい、いっぱぁ~いお知り合いなんだじょ~」


と、さも自分が偉いと云う雰囲気で胸を張る。


「・・・」


オリヴェッティとルヴィアは、どう反応していいか解らないままで硬直する。


一方のビハインツは、


「噂に聞くが。 ポリア殿って、そんなに綺麗なのか?」


リュリュは、何故か顔を赤らめ。


「すぅぅぅぅぅぅ・・・・・っごくびじ~ん」


と、恥ずかしそうに体を揺り動かすリュリュを見て。


(か・・カワイイ・・。 ・・はっ)


オリヴェッティは、思わず気持ちが緩んだ事に気付き。 一人で、オタオタとして咳払いをしてみたり。


「?」


ルヴィアは、オリヴェッティが急にリュリュを見つめたり。 直後にオタオタし出して何事かと思う。


其処で。


少し離れた壁際。


「ホラ。 今、向こうで話しに出てる風のポリアって人を助けて有名に成ったのが、その包帯を顔に巻いた黒尽くめの男だ。 確か・・、“ケイ”とか名乗ってた様な・・・」


「なるほど・・、すみません」


白い僧侶が着るローブに、赤いマントを羽織ったフードを深く被る人物は、女性の声で魔術師の女性に一礼をした。 朝から斡旋所に現れたこの女性は、何故かKの事を聞き回っていた。


広いフロアでは、声が響く。 主の出した声は、フロアに響いていた。


(港・・・船・・・・)


そう聞えただけでも、女性には収穫だったのか。 そのまま、外に向かって行く。


「おいおい、本当に雪掻きを引き受けてくれるのか?」


主と、オリヴェッティ達が話し合いをし出す頃には、その顔を隠した女性は外に出た。


「・・・」


外に出た女性僧侶を、冷たい仕打ちをする様に冷気と風が吹き付ける。


緩い港を見渡せる高台のカーブ前に有る斡旋所の館。 その館を出た女性は、入念に左右を伺いながら。 左手の街中へ向かう通りでは無く、斡旋所の裏手に回る道へと消えて行く。


彼女が、あのジョンソンに抱かれていたライナだ。


だが、何の為に・・・Kを。




                      ★





昼を過ぎた頃。


港では、雪を伴った海風が吹き荒れ。 港の船は、大きく揺れていた。


ウィンツは、自分と共に船に残った船員達で船を港に固定する作業をしていた。 大型の碇を幾つも沈めて、それを船の彼方此方から降ろして重みで固定をさせる作業と同時に。 ロープで、船が横滑りしても左右に振れない様にする。 こうする事で、台風の様な暴風でも大丈夫なのだ。


その仕事に付き合うK。


「・・・」


船員達が見ている前で、強風に吹き付かれても全くヨロめく様子も無い彼。 力自慢の船乗り4・5人で持ち上げる石の碇を、腰の軽い動きと片手だけで海に投げ下ろす。


防寒着で更に膨れているブライアンは、Kの姿に。


「アンタ・・、何してそうなるんだよ」


Kは、足が不自由ながらに気張ろうとするブライアンを見返し。


「そんな体で、男の意地を通すアンタの方が大したモンだよ。 病んでるのは、胃か? 酒は、量を少なくしてお湯や牛乳で割れ。 茹でた野菜や、豆か・・貝のスープを飲む様にしな。 まだ、病気は初期だ。 足の骨はもう元に戻せないが・・、胃は戻る」


片手で掴める太さとは思えない大縄を降ろすKは、無理を押して手伝うブライアンに言う。


ウィンツの部下は、皆が一癖在りそうな顔だ。 だが、目が変わりつつある。 ウィンツと共に放り出された身なのだが。 自分達を守るウィンツに人間として義理人情を感じているのだろう。 無給ながら、目が活き始めている。


Kは、ウィンツにクラウザーの面影を見て。


(流石・・一番の弟子だ・・・)


と。


これから、ウィンツ達は、長い使い捨ての人生から這い上がる可能性を秘めた道を踏み出す。 Kは、そんなウィンツ達に、なんとなく同情していた。 包帯を巻く前の彼では在り得ない事だっただろうが。 だが、Kも自分の気持ちを偽る気も無い。 人は、時が流れて変わるのだ。


頭に雪を載せるKは、凍り付く甲板の手摺などを見て。


「しかし、此処でこの大雪は珍しい・・。 こんなに長く雪が降るとはな、明日までは船の出港は無理だろう?」


ブライアンも、荒れる海を見て。


「確かに・・。 海に氷が出来たら、大型船でないと出港はとても無理だ」


「流氷の所為か?」


白い息で顔が一瞬煙り見えない寒さだ。 ブライアンは、何度も頷き。


「んだ。 流氷は小さいだろうが、更に海に氷が張る。 小さい船では、氷を割って進めず氷に乗り上げちまうさ。 斜めになった船は、風に弱い。 簡単に転覆もあるんださ」


「なるほど、そりゃ怖い。 足の速い小型船は大変だ」


ブライアンは、理解力の鋭いKには話しし易いと感じ。


「そうさ。 それに、アンタの言った通り。 重い氷は、海面に硬い部分を沈ませてる事も有るんだ。 小さな流氷も、小型船や木造の中型船ならバカに出来ねぇ。 ぶつかったら、船が壊れる。 先ず、大型船が先行して、航路の氷割りをしなきゃならんが。 港を見回した限り、一番大きな船は、この船ともう一隻ぐらい。 クラウザー様のこの船は、どうしても先に出なきゃならんだな」


Kは、碇を沈め終わったので。


「クラウザーが判断するさ。 助けた船長ウィンツと一緒に、オッサンも頼むよ」


と、云うと。


「あぁ、勿論だぁ。 クラウザー様の下で働けるなんて、一生の思い出だ。 キャプテンの師匠だし、恥は掛けられねぇよ」


Kは、下に降りたウィンツを見に、ブライアンと縄梯子に向かった。


ブライアンは、片足が不自由ながらに縄梯子を降りる。


続いて降りたKは、吹き上げた海水が風と寒さで霙の様に凍りながら吹き荒ぶ様子に。


「すげぇ~な、フラストマドの北側の海辺みたいだ」


と。


だが。


その吹き上げる波の飛沫が、ミスト状の白い氷の飛礫を作る港の通り上で。


(ん? ・・・人か?)


Kは、この13番港に曲がって歩く人影を見つけた。 まだ、大型船数隻分の距離を離した向こうだが。 Kは、気配を感じ微かな姿を見つけていた。


(この吹雪で戻る客が居たか・・・)


思ったKだが、近づいてくるその姿の揺り動きが、どうも微妙で気になる。


しかも・・・。


姿をハッキリ見えた時。 その誰かは、右手に割れたワインのガラス瓶を持っていた。


尋常な様子では無いと感じたKは、作業をしているウィンツ達に声を掛けずにその誰かに近づいて行く。


Kと近づいて来た誰かが互いに4・5歩を歩けば擦れ違える距離に来て。


「・・・」


白いフードから金髪の漏れる何者かは、ローブと羽織るマントの胸の部分を押さえてながら、少しだけ上向いた。


Kは、誰か解った。


(野郎の・・・情婦か)


自分が殺したジョンソンだ。 恨みを持たれる事も当然在り得る。


Kの前に居るのは、ライナと呼ばれていた女性だった。 ライナは、割れて先の尖った黒いワイン瓶を両手に持った。


途端。 彼女の羽織っていたマントが風で飛ばされた。 強風は、彼女のフードにも入り込み、金髪を吹き上げフードを捲り上げる。


Kもまた、黒いコートの裾などを風に激しくはためかせながら、黙って彼女を見た。


だが、更に・・。


ローブの内側には、胸元に開く隙間を結びとめる内紐が在る。 ライナの着るローブは、その内紐が切れてたかどうにかしているのであろう。 港に吹き付ける強風によって、彼女のローブの胸元までが開かれたのだ。 白い肌をした首筋から下がった彼女の豊満な胸の上部が、ローブが開かれた事で晒け出た。


その胸元を見つめたKは、目を細めた。


「・・・あな・・」


風で喋る事すら大変な中。 ライナが、“貴方”と言おうとした時である。 Kが、ゆったりとした動きで一歩を踏み出した。


「っ! 動かないでっ」


驚いたライナは、手に持った割れたワイン瓶を前に突き出し構えた・・・。


が。 彼女の視界から、忽然とKが消えた。


「っ?!!」


二重に驚いた彼女の右側から。


「失礼するぞ」


と、男の声がして。


驚いたままに右側へと振り向いたライナは、胸に触れられる感触を覚えた。


「・・・」


包帯を巻いた顔をするKの姿を、目と鼻の先程に間近に見たライナは、震える顔のままに俯く。 すると、自身の左胸の乳房から少し上の所に、包帯男の指が置かれていた。


(わ・・わたし・・死ぬのね)


ライナは、今の状態をジョンソンの時と重ねた。 このまま、突き飛ばされ海に・・・。


しかし・・。


Kは、ライナの肌の上を指で撫で擦り。 そして、指を胸から離すと・・。


「これは・・・」


と、呟いた。 一指し指と中指を幾度か擦り合わせたKは、ライナを見る。


その声は、風に掻き消されそうだが。 ライナには、ハッキリ聞えた。


「・・そ・そうよ」


と、恐る恐る顔を上げたライナ。


Kは、彼女の目を見つめて事態を悟り。


「どうやら、俺の仕業で何か起こったか・・。 堂々と会いに来ない所を見るに、面倒事か・・事件か?」


ライナは、言葉も発せず。 涙を一筋流して頷いた。


「・・、解った。 話を聞こう。 街に出る」


作業に追われたウィンツ達は、白く吹き荒ぶ霧の中の出来事を誰も知らなかった。




                       ★




雪が降り続いて、一番困っているのは商業区の店だった。 街中に隙間無く立てられた建築物は、雪の重みに耐えられるが、雪を降ろす場所は通りでしかなく。 通りに雪が降り積もり過ぎたり。 屋根上で凍ってしまうと、天窓などが開かず天日干しなどの作業が出来なくなる。


しかも、屋根が斜めに成っている屋根の平屋の様な小さい店では、雪に埋没してしまう可能性も。


雇われた冒険者達の一団は、住居区に役人と向かって雪降ろし作業をするが。 大部分の冒険者達は、商業区に回された。


オリヴェッティにべったり甘えるリュリュは、此処でも暴走しようとしてオリヴェッティに手を焼かせた。 若い別の冒険者に言い寄るし、雪を魔法でブッ飛ばそうとする。


だが、いざ作業に入るとリュリュは別格。


店の屋根に上るのは、裏から風の力で飛び上がるし。 スコップで雪を掬う処か、風で吹き飛ばそうとする。 スコップを使わせても、ビハインツの3倍の馬力とスピード作業して、石の天井にスコップを突き刺す失態のおまけ付き。


「うぬぬ・・、負けられん」


気合いを吐いたビハインツは、馬車馬の様にリュリュと雪降ろしを競い。 夕方にはヘロヘロにへばってしまった。


それでも、汗を掻いたオリヴェッティやルヴィアに纏わり付くリュリュは、流石は神竜の子供だけあって元気過ぎる。


「ねぇ~ねぇ~、オリヴェッティのおね~さん。 今夜も、何処かに食べにいこ~」


甘え付かれ、その美しい美少年の面持ちで強請られるとオリヴェッティも弱い。


「今夜もですか? 一度、船に帰らないと・・」


「イイじゃん、オヤドに寝泊りしなきゃいいんでしょ?」


「う~ん・・、そうだけれども・・」


オリヴェッティは、Kにビハインツとルヴィアの加盟を言いたくて、困った。 4日は停泊すると決まっているので、もう一日は宿に泊まれる。 だが、長くKを1人にしておくのも悪いと思える。


しかも、オリヴェッティにはもう一つの不安が・・。


今朝、リュリュがオリヴェッティのベットに潜り込んで居た。 その上、自分の身体に抱き付き、胸に甘えていたのである。 驚くのは当然だが、リュリュは知能が発達した幼児と同じ。 母親の元を離れている今は、母性を感じられる親しい誰かに甘えたがる。


オリヴェッティがリュリュの甘えを受け入れてしまった心情には、そのリュリュの実情を知る故の女性的な甘やかしが有り。 更に、航海中に見たあの記憶の石の中身の影響も有るだろうか。 赤ん坊に弄られる様に、リュリュが寝ながら自分の胸に甘えてるのが驚きでも嫌では無い。


しかも、リュリュの傍に居ると、自然魔法を扱うオリヴェッティは、自然の風のエネルギーそのものに抱かれる感覚を覚え、何とも心地良いのだ。 下手をすると、癖に成りそうな安心的な快感が有る。 愛した異性と共に抱き合い、全てが許されて心穏やかに眠れるのと似ていると云えようか。


そんな訳で、オリヴェッティはリュリュをKに預けたいのである。 手遅れに成る前に・・・。


(はぁ・・。 でも、この目に弱い・・・、私って年下好みなのかしら)


オリヴェッティは、自分を見上げるリュリュの目が怖かった・・。

どうも、騎龍です^^


ご愛読、ありがとうございます^人^

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