K特別編 秘宝伝説を追って 第一部 ⑫
K長編・秘宝伝説を追い求めて~オリヴェッティの奉げる詩~第1幕
≪十数年に一度の大雪の中 様々な皆の一時≫
夜が明けた。
クラウザーは、カルロスと共に早朝も終わる頃に船へと戻って来たが。
「ケイ、此処に居るのか?」
と、一人で寝続けるKに元に来て云う。
「あぁ。 御偉いジサマは、今日もどこぞに顔でも出すんか?」
ソファーに横に成ったままのKへ、クラウザーは肩を竦め。
「隠し事が出来んの。 夜中に、海が荒れていて戻った船も在るらしい。 他の船長や商人が来る寄り合い場が在る。 其処に、少し泊まろうかとな」
背凭れ側に向かうKは、
「分散した自分の船団でも?」
「・・、あぁ。 ワシの息子が、孫を乗せてな」
「なぁ~る。 声が少し焦って早口だ。 この船は、弟子にでも任せたらどうだ? アンタより、ツキ以外は良さそうな・・な」
クラウザーは、焦りを悟られたと思いながらも。 少しも嫌に思わず。
「ウィンツにか・・。 ま、ワシの船団なら、そうしたな。 だがこの船は、他人の船だでよ」
「そうか・・・」
深読みをするクセに、こうゆう所では突っ込んだ質問をしない。 なんとも、歯痒さを覚えるほどに節度が利いている。
「・・・」
黙って動き、Kを一人にしたクラウザーは船長室に上がった。 操舵室に踏み込めば、ウィンツやブライアンが掃除をしようとしている。
「おいおい、ウィンツ何を? 俺の船じゃねぇんだ。 金も出さないのに、下働きなんぞ・・」
だが、ウィンツは、モップを手に動き出し。
「親方、色々ありまして。 俺・・コイツ等と共に解雇されちまった」
「あ゛?」
クラウザーは、ウィンツが沈めた船を含め責任を取らされて、借金を背負わされた形で奴隷化されると思っていたのに・・。 それが、アッサリと解雇と聞いては驚くしかない。
少しぎこちない雰囲気のウィンツは、
「ホラ・・、向こうで寝てる男が・・・俺を自由に・・」
「ケイが?」
「そう。 ま、その・・・フラストマドにまでは、このまま行きたいんだ、親方。 俺達を、その間だけでいいから働かせてくれ」
突然の驚きも、納得と軽いため息で解すクラウザーは、
「ふぅ~・・。 色々、起こす男だわな。 まぁ、昔よりは人間臭くていいか。 ・・解った、カルロスと留守にするから、船の事は他の手下と一緒に頼む」
ブライアンは、有名なクラウザーに会えて感激し。
「ありがとうございますっ。 あっ・ありがとうございますっ!!」
と、苦労を刻む肥えた身体を小さくするほどに頭を下げた。
クラウザーは、もう捨てたハズの昔の船団を組んでいた頃を思い出しながら、下へ先に向かったカルロスを追う形で操舵室を後にする。
(なんだかな・・。 身体が・・少し熱いゼなぁ)
必死で働いてた若い頃の自分。 そして、ウィンツの若い頃を思い出し、心に温もりが湧いた気がする。
階段を降りて、Kが寝ている部屋に行く隠し扉をチラリと見たクラウザーは、食えない笑みを出し。
「バカ」
と、声を出さずに言った。
さて、こんな中。
朝から苦労してるのは、オリヴェッティ。
リュリュは、Kが居ないので張り切る様に暴走を見せ。
「ヤダあ~、ボクまだ子供なのぉ~。 オネ~サン達とオフロってのに入りたぁ~い」
と、朝風呂に行こうとしたルヴィアやオリヴェッティと一緒に女の浴場へ来ようとするし。
「ヘェ~、“フリーサービス”って、全部食べてイイんだぁ~」
と、自由に料理を取って食べる“オープンスタイル”で用意された一般客向けの料理を、全て一人で食べようと頑張り。
更に。 その、見た目の良さで別の客の貴婦人を誘惑するし。
オリヴェッティは、面倒を見るのに疲れ。
(ケイさん・・・躾って・・どうしますの?)
と、青筋を額に浮かべていた。
ルヴィアは、リュリュのエネルギッシュと云うか、猛烈な行動力に呆れを通り越し。 目が点に成る程の脱力感を覚え。
一方で、ビハインツは逆に感心し。
「うむむ、こうも奔放に生きれるとは素晴らしいっ。 俺も、是非見習わねば・・・」
と、頷いている。
宿の従業員に睨まれながら、身を縮めて外に出たオリヴェッティは、ビハインツの案内で先ず服を買える店に向かった。
この世界では、それぞれ新品の服を買うのは仕立て屋などを巡り、体系に合わせて服を揃える店で買うか。 古着を直して安く売る、文字通りの古着屋に行くかのどれかに成る。 オリヴェッティは、新品など何年も買った事が無く。 寒い一時期を過ごすのみだからと、安い古着屋へ連れて行って貰う事に。
古着屋と云っても、吹き抜けの広く高さも或る倉庫の様な場所に、何万と云う古着を無造作に畳んで、飾り気の無い陳列棚に置いてあるバザールの様な場所も在れば。 洒落た店構えで、仕立て屋などが直営するしっかりとした店も在る。
女同士で、ルヴィアとオリヴェッティは気が合い。 長々と店を覗いては、リュリュを着せ替え人形の様にしたり。 ガウンやマフラーやコートなどを試着して回り、久々に女性らしい事をする。
リュリュは、相変わらず女性の衣服に興味を持ったり。 他の冒険者風の客や、住人の女性に擦り寄っては、オリヴェッティとルヴィアに怒られたりしていた。
ビハインツは、リュリュと一緒に行ってみたが・・・。 変体でも見るかの様な女性の視線に、一撃で粉砕された。
リュリュに蒼いマフラーと、手編みのミトン風の手袋を買い与え。 自身とルヴィアには、下着と上に羽織るコートローブを新調し。 ビハインツは、頭に被る帽子と、鎧の下に着込むベストを買った。
午前で疲れたリュリュとビハインツは、王立図書館に行く昼過ぎは、昼寝時。 図書館の待合場でグースカ寝始める。
出店で買った温かい紅茶で暖を取り。 ルヴィアと共に、モンスターや古文学を調べるオリヴェッティは、Kの言っていた事を復習したり。 東の大陸に必要な知識を探したり。
ルヴィアと探したい事や、調べたい事を話し合い。 お互いに、分厚い本を持ち集めては、調べながらアレコレと。
「ルヴィアさん、一つ聞いても?」
二人が席を並べる前のガラス張りの窓の外は、断続的に雪が降る。 飢えられた背のかなり低い樅の木が、真っ白に雪化粧していた。
「ん? 何だろうか?」
「ケイさんが戦う時に見せた黄金のオーラって、なんでしょうか?」
「私も、それが・・。 似た様なものでは、“体気仙”(たいきせん)と呼ばれる格闘体術の一つが、それだ。 体内に流れる生きた生命波動を、魔法の様な使い方で具現化出来るようだ」
「なるほど。 それを体得出来れば、ケイさんの様に使えると?」
「いや・・、其処が解らない。 この・・、“体気仙”の説明を読む限り、あのように攻撃的な用途では無く。 主に、ダメージ軽減や、恐怖に対する緩衝効果。 手や足にオーラを纏わせ、普通では格闘技の効かぬゴーストモンスターにぶつける事で、それなりのダメージを与える事が出来る様だがな」
「そうですか・・。 ケイさんは、完全に攻撃に使用していましたね」
「あぁ。 呼吸をする様にこの体術を会得出来るとだが。 魔法の様に、至近距離の敵になどに波動を飛ばして、攻撃の手段には出来ると書いては在ったが・・・、あのケイ殿のソレは、尋常ではない」
更にルヴィアは、古い文献を漁り。
「しかし、“影の線”が知りたいとも言って居られたが・・。 このような一文と、挿絵・・。 天文学的な説明は、然程の量の無い半ページだけだな」
一緒に調べてるルヴィアも、“影の線”については、今日に初めて知った。 太陽が月の影に隠れる時は、恐ろしき天変地異が起こる時と在り。 航海をする船乗りは、様々な気象の変化を観察する必要が在ると書いてある。
“影の線”が通る道の簡単な地図には、モンスターの活動が活発化し。 過去に異常とも云える事件を引き起こしたと説明が・・。
調べれば調べる程に、半端な説明ばかりが見つかり。 Kの知識力の深さが、更に解る気がした。
夕方、図書館を出る頃には。
(ルヴィアさんやビハインツさんも、チームに誘ってみようかしら。 もし、宜しければ・・・)
と、決めた。
今夜。 もう一泊してゆっくりしながら、この気持ちを伝えて見るを考えたオリヴェッティだった。
★
寒波の影響でか。 雪が止む切れ間が見えず。 曇天の空は、闇を早める。
あの、ジョンソンが死んだ部屋は、別の遺体も揃い。 二体の遺体が、部屋に転がる。
一つは、ワインを飲んで死んだジョンソン。
だが、ジョンソンがKに脅されたソファーの上には、何と受付に立っていた中年の男性の遺体も転がっていた。 黒い正装の上着とコートを貫いた刺殺痕は、刃渡りの長い中型剣以上の物で刺された痕だ。
部屋には、誰も居ない。 用心棒も・・。
いや、奥のジョンソンの遺体の場所まで来れば、もう一つ遺体が・・・。 ライナと言う女性を、ジョンソンが嬲り尽くしていたベットの上。 背の低い若者で、身なりの中々良さそうな者が死んでいる。
一体、あれから何が在ったのだろうか・・。
そして、ライナと云う女性は、何処に消えたのだろうか。
白い雪が、古い街を純白に染める。 だが、その雪の下には・・、誰にもまだ悟られない事件が蠢いていた。
その一端は、歓楽街の片隅で動いている。
雪が降る飲み屋の集まる大通り。 冒険者や、旅人に、働く一般人が混じり。 ガヤガヤと往来の喧騒を生み出す。 店の看板を照らすランプや、街頭の灯りで昼間の様に明るい中・・。
白い女神の刺繍が入ったローブを着て、フードを深深と被る女性らしき者が。
「スミマセンが・・」
と、微かに声を震わせながら、白い息を吐いて冒険者5・6人の一団に声を掛けた。
「あん? なんだぁ?」
結構酔った女性剣士は、自分を心配する仲間を止めて、僧侶らしき女性の声に応じる。
「私、人を探してます・・。 ユリアンと云う40歳前後の剣士を知りませんか?」
酔っている女性剣士は、
「知ってるか?」
と、仲間に聞く。
「いやぁ」
「さぁ」
と、仲間が返すと。
「悪いぃ~、知らないねぇ・・」
すると、女性の声をした僧侶は。
「では、顔に包帯をした冒険者らしき人は?」
と。
すると、背の低い痩せた中年のマントを羽織る者が。
「顔に・・包帯? そんなの・・去年だったか? 居たなぁ・・・」
すると、また別で、戦女神の刺繍を入れたマントに、腰へ剣を佩く神官戦士で、ガッチリとした体格の女性が。
「あ~、ホラ。 風のポリア達と・・一緒に居たヤツじゃないか? グランディスの面々を助けたとかの、あの時だ」
と、云えば。 別の魔法遣いらしき男性が。
「あ~、そうなの? 俺、解らない。 今年の頭に此処に来たから」
と、返す。
去年と聞いて、女性の僧侶は。
「私、数日前に街中で見掛けたのですが・・」
リーダーらしき酔った剣士の女性は、
「それならぁ~斡旋所にでもいきなぁ~・・。 明日、聞いてみるといいさぁ~」
と、呂律の回らない口調で返す。
「そうですね・・。 すみません」
僧侶らしき女性は、頭を下げた。
白い息を吐き、杖も持たずして歓楽街の人混みに消えゆ女性僧侶。
その姿を見送る酔った冒険者達は、直ぐに宿屋街の方へと進み出す。 その話題に上がるのは、一気に有名に成る階段を駆け上がり出したポリア達の事であった。
だが・・。 別の通りでは。
「チョットいいか?」
眉間に痘痕が見える中年の冒険者が、3人連れの冒険者に声を掛ける。 太い刀身のバスタードソードタイプの剣を腰に帯び。 印象としては、炙れて斡旋所に屯する冒険者の風体だった。
「何でしょうか?」
話を受けたのは、礼儀正しそうな青年剣士で。
痘痕を持つ見栄えの宜しく無い冒険者の男は、
「女を捜してる。 僧侶・・・杖も持ってない女だと思うのだが。 見た事は無いか?」
すると、片刃の長柄ニードルランスを短くして背負う憮然とした女戦士が。
「何でそんな女を捜すんだ? 何か、悪い事でもしたのかい?」
と。
「アンタ達には、関係無いさ」
若い剣士は、尋ねて来た男性に一礼し。
「その様な女性は、斡旋所にも居ませんでしたよ。 面倒は困るので、これで失礼します」
と、痘痕男の脇を通り抜けた。
若く背の低い少女の様な魔術師が、恐々とした顔で痘痕男を見て何かを呟く。
(チィ)
歩き去る3人の冒険者を睨んだ痘痕男は、情報が無い事に苛立って居る様な感じだった。
・・・。
さて、船の中。
ウィンツは、Kと一緒に船内ラウンジに居て。
「なぁ、アンタの過去ってどんなだったんだ?」
と、パンを齧る。
クラウザーは、船内で音楽や演劇をを行い。 船に残る客を楽しませる芸人達には、軽い褒賞を出していた。 その報酬目当てにして、旅を続ける楽師や歌手が、中一階で歌を歌っていた。 その音楽を聴きに、客が一階の廊下やラウンジに集まっていた。
ウィンツを前にして、テーブルに座りパンを食べ、ゆったり時を過ごすKは、その集まる客達を見ながら。
「忘れた。 チョイト病気に罹って、この通り」
と、包帯を巻いた顔を指差す。 洗い晒しの包帯を顔に巻いているKだ、ウィンツも。
「辞めたのは、病気が元で記憶に影響が?」
「んま、そんな所か。 それに、殺伐とした生活なんて、長く続かねぇ~よ」
「確かに・・。 所で、お仲間は・・今日も街に?」
「多分なぁ~。 気が通えば、あのアンタの船に居た二人も仲間に誘うかも・・・知れん」
「いいのか?」
「いいんじゃぁ~ないか? 俺は、なんだかんだ云ってもリーダーじゃ無いし、お宝の有無が決着したら、どうせ抜ける。 クラウザーだって、同じだろうし・・。 リュリュだって、いい加減家に帰さないと・・。 オリヴェッティの今は、仲間が皆有限だ。 しかし、あの二人を加えれば、一人残されずに済む。 丁度イイんじゃないかと思うがな」
「イイ女だろう? アンタ、男として狙わないのか?」
ウィンツは、マキュアリーの手前で言えた自分では無いが。 思わず口から出た。
Kは、面倒臭そうに。
「もういい。 今は、長く一緒に居る物を欲しくない。 人も、物もな」
Kは、ゆるやかに言う。
だが、聞いたウィンツには、少し物悲しく聞こえた。 何処か、吐き捨てる様な印象を受けたのだ。
オリヴェッティもまた、Kやクラウザーやリュリュが、一時期だけしか一緒に居ない事は承知していた。 だからこそ、自分で招いた誰かを見つけたいと思う事は当然だと思う。 親しい誰か、気の合う誰か、自分と長く冒険者として居てくれる誰かだ。 そして、自分が、相手に・・仲間にと認めた誰かが必要だった。
その点に於いて、あのルヴィアやビハインツはピッタリの相手だったのかも知れない。 今まで、彼方此方のチームに入って、一時を過ごすだけの日々とは違っている。 オリヴェッティも、形として誘い易い二人であった。
Kは、オリヴェッティのマイナス面も見抜いていた。 学者として、一族は汚点を背負い。 はっきり名前を出して、チームを組む事すら憚られていたオリヴェッティ。 だが・・、いや。 もう歴史と云う時の流れほ中で、オリヴェッティの家の汚点すらも過去の事だ。 知らない・・または、忘れている者も多いだろう。
固執してしまっているのは、世間の仕打ちを受けた本人のオリヴェッティであり。 そして、オリヴェッティの過去が、そうさせている。 もう、今にそんな事を拘るのも時代遅れだとKは解っていたのかも知れない。 だから、彼女を態とリーダーに据えたのだろう。
オリヴェッティが自分の手で、これからの自分の道を作り易い様に・・。
Kがオリヴェッティにリュリュを任せるのも。 オリヴェッティにリーダーとしての自由を与えるのも。 オリヴェッティに歩かせる為なのかも知れない。
今まで、流れながら何処かのチームになんとか入れて貰っていたオリヴェッティには、行動の自由も無ければ行き先を決める決定権も無い。 増して、誰を信用し、また誰に一緒に秘宝を探す旅を打ち明け、共に目指して良いか解らなかったハズだ。
オリヴェッティ自身が、秘宝に関する情報を持たない分、全ては絵空事の様な物だったから。 それは仕方の無い事だったのかも知れない。
今。 オリヴェッティは、初めて立っている。 自分の足で冒険者達と話し、自分の意思で何かを見極めようとし出している。 この傍に、ご意見番の様にKが居てやるのは意味が無い。
そう。 Kと出会ったオリヴェッティは、精神的に、冒険者としての独り立ちの時期を迎えていたのだ。
この夜も街で宿を求めたオリヴェッティは、個室二部屋と二人部屋を取った。
ビハインツとルヴィアを個室にして、リュリュの面倒を見る上で二人部屋にしたオリヴェッティ。
「わぁ~い、オネ~サンといっしょ~」
リュリュは、オリヴェッティと一緒に泊まれると喜んでいる。
塔型の宿で、全10階。 一階のロビー奥には、浴場と軽く休憩して飲食出来る共同リビングだけがある宿。
外で食事を済ませた一行は、宿に泊まって。男女に分かれて風呂を共にした。
オリヴェッティは、入浴後にルヴィアとビハインツの二人に話が在るので。 出たら、暖炉で暖める共同リビングに居て欲しいとだけ告げた。
オリヴェッティは、ルヴィアと二人で風呂に。
裸の二人が身体を洗う中。 一度乾燥させたバラの花びらが入れられた大きな浴槽から、バラのいい香りが大浴場に漂う。 身体を洗い、桶で湯を汲むオリヴェッティに。 手に石鹸と塩の泡を混ぜた物を付け、直接身体を撫で擦るルヴィアが。
「話とは・・“仲間”にか?」
身体中を洗った洗剤で塗れさせたオリヴェッティは、頷きながらお湯を浴びる。
「えぇ」
「なら・・、そんなに改まって告げる事でも無かろう?」
お湯を汲むオリヴェッティは、白濁としたお湯を掬いながら。
「私ね。 ・・チョット目的が在って冒険者してるの。 今日、“影の線”の事調べたでしょ?」
「あぁ。 それが?」
「私の一族って、超魔法時代以前から栄えて、海賊に落ちた“海旅族”の秘宝を追ってたの・・。 私も、その秘宝を探してる・・。 没落したウチで、最後に残った遺品。 ・・・それが、その秘宝の手掛かりなの」
「面白そうな話ではないか。 秘宝か・・・、一体、どんな物なのだろうか・・」
遅めの時間帯で、他に浴室へと入る女性が居らず。 オリヴェッティは、濡れた髪の毛を裸体に纏うルヴィアが、確かに綺麗だと思いながら。
「地元じゃ、私の家は気の狂った一族だと云われたわ。 家も土地も本も失って・・、放り出された。 秘宝の事を他の土地の学者に聞こうとして、女だから軽く見られて襲われた・・。 何度・・・人に魔法を使ってしまったか・・。 誰に聞いていいか解らず・・・5年も各地を旅して回ったわ。 騙された事も一度や二度じゃないし・・」
お湯を浴び始めたルヴィアは、手を止め。
「随分危険な目に遭っているな・・、良く無事でいたものだ」
すると、オリヴェッティは唇を噛み。
「そんなキレイな身体じゃ・・ないわ」
「・・・そうか」
同じ女だ。 オリヴェッティの様子から、何が在ったかは解る。 オリヴェッティの人格を知るだけに、ルヴィアは憤りも同時に覚えた。
オリヴェッティの洗い流した褐色の肌は、お湯の拭いを掛けられ艶やかな肌理を見せる。 湯が石鹸を洗い落として現れる、艶かしい肉体。 褐色の肌をした胸だが、その乳房は桃色で若々しく見える。 知的な優雅さも漂うオリヴェッティ・・、こんな美人が一人で旅をするのだ。 確かに、危険も付き纏うのは当然だろう。
一方。 ルヴィアも、また・・。 服を着ている時のスマートな身体つきとは思えない肉付きの良さを伺わせる裸体。 女性として、育ちの良さから魅せるその凛とした姿は、異性の目を惹くに十分。 オリヴェッティの苦労は、なんとなく感じ取れた。
そしてルヴィアは、オリヴェッティの髪の間、肩と腕の境目に傷を見つける。
「この傷は? 変わった傷跡・・・? これ・・歯型か?」
「えぇ・・」
「人に噛まれたのか?」
「・・」
黙ったオリヴェッティ。
ルヴィアは、よもやKがしたとは思えず。
「それは、ケイのした事・・では無いであろうな?」
「え? あ・・勘違いしないで。 コレ・・18の時の傷よ。 襲われた男性に数日監禁されたの・・。 私を自分の妻にしようとして・・・、傷物にするつもりで、噛み付いてきたわ」
「なんと横暴な・・・」
「・・、正直・・怖かった。 肩や、足や・・腿の内側も・・。 乳房とか噛み切られないだけ・・マシだったのかも」
「良く・・助かったな?」
「その監禁した学者に妹さんが居て・・、彼女が私を逃がしてくれたわ。 でも、怖い体験だなんてそれだけじゃないわ。 ホラ・・、一緒のチームに入るのだって、男性ばかりのチームに入るのって・・無理でしょ? 他にも・・旅の仲間を見つけようと思って・・・逆にチームを組んだ相手に・・狙われた事もあるし・・・」
「オリヴェッティ・・お主そんなに」
少し泣きそうなオリヴェッティは、笑顔を浮かべ。
「ケイさんにも言ってない話だから・・内緒」
歪んだ顔の作り笑いを浮かべるルヴィアは、
「解ってる」
先にと、湯船に滑り込むオリヴェッティ。
「直ぐ・・・秘宝が見つかるかは解らないわ。 でも、私は、探したい。 ケイさんが、曽祖父の残した詩の意味を教えてくれた」
洗い流した身体を、オリヴェッティの隣へと沈めたルヴィアは、肩を並べ。
「あの男か・・。 幽霊船を一撃で沈めるなど、普通では無い。 嘘を教えられても、信じたくなるな」
「・・・在るのか。 無いのか。 行き着く先まで、行って見たいの。 ケイさんが居る今なら、行けそうな気が・・・する」
ルヴィアは、オリヴェッティが何故に仲間の誘いを改めたか解った。
「私は、いいぞ」
「えっ?」
「一緒に、何処までも・・。 どうせ、政略結婚だの、権威増幅の見合い結婚だのが嫌で、家を捨てた私だ。 世界の何処か、歴史に埋もれた秘宝を探すなど願っても無い」
ルヴィアは、オリヴェッティを見て。
「探そうじゃないか。 その秘宝とやらを・・」
オリヴェッティは、長年一族が探した物であるから。
「ウチの一族は・・・百数十年も探したわ・・。 もしかしたら、二人で御婆ちゃんに成るかも」
「ふっ」
と、笑ったルヴィアは、
「最後は、杖でもついて行かねばなるまいか?」
見合った二人は、互いに杖を持った自分を想像して、お互いで笑い出した。
風呂から出た二人は、待っていたリュリュとビハインツに合流。 ある程度を話したオリヴェッティは、ビハインツにもチームへの誘いを掛けた。
「面白そうだな。 まぁ、キミがリーダーなら文句は無い。 あの包帯を巻いた男も気に成るし、加えて貰おうかな」
と。
リュリュは、
「やった~、オネ~サンがふえたぁぁ~」
ガウンローブに身を包むルヴィアは、リュリュに。
「そんなに嬉しいか? なら、貴族の躾を教えてやっても良いぞ」
オリヴェッテゥは、幅の広い椅子に座りながら。
「それって、厳しいのですか?」
「あぁ。 ビシビシと」
(え゛?)
話の雲行きがおかしく成る事に、違和感を覚えたリュリュははしゃぐ途中で止まり。
「まぁ、是非お願いしたいわっ」
と、声を弾ませてオリヴェッティが了承した事にビビリ。
(あれ? なんか違う・・・)
この背筋に冷たい物が流れる気分はなんであろうか。 此処に、Kは居ないのに・・。
どうも、騎龍です^^
ご愛読、ありがとうございます^人^