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エターナル・ワールド・ストーリー  作者: 蒼雲騎龍
K編
84/222

K特別編 秘宝伝説を追って 第一部 ⑪

         K長編・秘宝伝説を追い求めて~オリヴェッティの奉げる詩~第1幕




         ≪深夜の真実・後 雪の中の隙間風 寒さの沁みる夜は死が香る≫





クラウザーの過去を知ったウィンツは、全てを聞いた上で、Kに聞く。


「俺に・・・何が出来る?」


粗方を話し終えたとソファーに横に成るKは・・・。


「ウォーラスは、酒と疲れで身体がボロボロだ。 もう・・今年を生き延びたら・・・、来年は越せないだろうな。 だが、未だに海に未練を持ってる。 ヤツは、自分の中に残した物を継がせる誰かを、何かを探してる気がする。 アンタ・・・、ウォーラスに体当たりでぶつかってみないか?」


「“ぶつかる”・・・だと?」


「あぁ。 俺は、正直な事を継げて、ヤツにアンタを紹介する。 ウォーラスの気持ちがどう動くかによっては、何らかの行動を見せるだろう。 クラウザーの愛弟子で、一番の腕を持つアンタに気持ちをぶつれれたら・・、ウォーラスも心残りが少なくなる。 俺がぶっ壊したヤツの船団と地位だがな。 一つの納得は、得られる・・いや、着けれるかも知れない」


椅子をKに向かわすウィンツは、心に疑問の湧くままに。


「最近、・・その・・・逢ったのか?」


「夏に・・チラっとな。 正直、不憫だった・・。 落魄れた姿より、船乗りとしての気持ちを残してる事に。 俺はあの時不正こそ暴いたが・・、人一人救ったかどうかすら解らない。 持って逝くモノが多いにしても、心残りは少ない方がいい。 クラウザーの心残りを含めて、出来る事はしてやりたい」


「親方も・・・?」


「ん。 クラウザーも、普通にしてるが保って・・・2・3年。 それ以上は、運と体力次第だろう。 目の様子や、身の動きからして、腹の中に腫瘍コブが出来始めてるんだろうな。 いい年だしな・・・」


ウィンツは、クラウザーの身体故に慌て。


「ならっ、今直ぐに医者へっ」


「いや。 多分、前に一度手術してる筈だ。 恐らく再発なら、身体の彼方此方に出来始めてるさ。 もう、医術や魔法でどうこう出来る段階じゃない。 クラウザーとて、生じ普通の身体じゃない。 酷使して、鍛え抜いた身体だ。 一旦落ち目に入ると、無理を無理の上塗りして来た苦労が噴出す。 緩やかに、しかも確実に悪くなって行くんだよ。 無駄に闘病を強いるより、好きな事をさせた方がイイ」


ウィンツは、丸で諭されている様なKの語りに。


「だから・・、親方は船を降りると?」


「・・元々、クラウザーに夢が在った。 船乗りに成って、まだ誰も見つけた事の無い宝を探す夢がな。 俺と一緒のオリヴェッティも、その夢を追ってる。 在るのか・・無いのか・・、決着を見てみたいんだろうよ」


「そうか・・・」


落ち込むウィンツに、Kは。


「気にするな。 もう時代は、アンタ達の世代から若い者に移行している。 今更、ウォーラスやクラウザーが出張った所で、それは逆行だから意味無い。 あんた等は、あんた等なりの。 老いたクラウザーやウォーラスは、それなりの夢を見るのさ」


「そうか・・・。 アンタ・・、何処か親方に似てるな」


ウィンツは、Kの成熟した様子がクラウザーと似てると思った。


Kは、手を軽く上げてヒラヒラさせ。


「よせよ。 俺は、まだジジイじゃない」


と、語り疲れたかの様に、目を閉じた。




                     ★




夜は、真実を人の横に置くと云う。 陽の差す昼間は、明るみに出される様な真実・・・。 だが、夜は違う。 見えぬ宵闇の中、心の中に問うのだ。 味わった何かを、選択して過ぎ去った過去を、そして・・・その正邪を。


クラウザー自身。 何度その時を味わっただろうか。 毎日思う苦悩が、時と共に薄らぐ分。 ふと思い出す時は、涙を伴う時が在る。


(ウォーラス・・・)


Kに名前を出されて以来、クラウザーの脳裏にその面影が漂う。 骨張った厳しい顔つきなのに、やや面長で目が可愛い。 バカを付けていいぐらいに真面目なのに、商売と云う裏表の道を純粋に突き進もうとした男。


雪の降る夜は、空気が凍り。 されど、シーンと静けさの聞えそうな、その張り詰めた空気に、降り注ぐ雪が音成らぬ音を奏でる様な雰囲気が在る。 その静けさが、昔を思い出せる様に、心の記憶の扉を開かせる。


大きな円形の施設の北西。 船長達が寝泊りする部屋の一室。 灯りは既に消え。 物音など、離れた所でまだ起きる船長達が話す声が微かに聞こえる程度。


「・・・」


窓のガラス戸の向こう側から、雪の降る音が聞える中。 クラウザーは、目を覚ましていた。


(ケイ・・、ウォーラスをどうする?)


ふと、また気に成った。


クラウザーが30に成る頃まで生きた師、サミュエル。 ガリガリに痩せた身体からは、想像も付かない程の体力を見せる船長で。 元は海賊だったり、強制労働を強いられた囚人の鉱夫だったりしたと云われる人物だ。


その男とクラウザーの出会いは、指して特別な経緯でもない。


弟子にしてくれそうな船長を探し、19歳のある日に、フラストマド大王国のアハメイルに遣って来たクラウザー。 寒さも治まった春先、誰の紹介も無く、大型船の船長達に断られ続けたクラウザーは、野宿をするしかなくて港の片隅に蹲って寝ていた。


街が眠る頃合に成ると、酒の匂いをさせ、街から帰って来る船員達。


そんな遅い夜更けに、クラウザーへ。


「おい、アンちゃんよぉ」


と、掠れた酔い声が掛かった。


クラウザーが見上げると、其処には老い耄れ染みた一人の男が。 片目が略潰れ、口元は左側に歪んでいた。 ガリガリに痩せた顔は、亡霊の様に見える。 篝火の灯る船の前で、男は蹲っているクラウザーに。


「アンンタかい? 今日一日、彼方此方の船に弟子入り頼んでたのは? 船乗りなんざ~、不当とお友達に成る仕事だぁ? お前みたいなイイ面構えした若いのは、商人でも目指せ。 その方が、利巧だぞぉ~?」


だが、クラウザーにも目的が在った。 だからクラウザーは、云った。


「自分は、親も家も何も無い。 商人なんか、俺が育った孤児院を襲った人買いと同じ仲間だ。 俺は、船乗りに成りたい。 世界の海を渡り、まだ誰も見つけたことの無い宝や、歴史を見たいんだ。 小船を操る事は出来るけど、大きい船は知らない。 この手に、どんな船でも操れる技術を刻みたいんだ」


クラウザーの見る男の貧相な顔は垢染みて、取って付けた様なゴマ斑の髭。 ヨレヨレで変な臭いのするキャプテンハットをしたその男・サミュエルは、


「・・・来い。 コキ遣われて殺されるまでに、技術を覚えな」


と、クラウザーを掬い取ってくれた。


次の日。


「おい、クラウザー。 お前の兄貴を紹介してやる」


サミュエルは、船員の中でも滅多に夜遊びに出ない堅物を、船の片隅で過ごしたクラウザーに紹介した。


「おい、ウォーラス。 コイツが新入りだ、挨拶しろ」


髪の毛を短くして、赤い布で巻いた若者が。


「俺はウォーラス、よろしくな」


と、手を差し出した。


その若者の顔つきは、丸でクラウザーより年上のの様な老け顔なれど。 その双眸は、真っ直ぐな少年と云って良く。 生真面目そうで純朴な若者と見取れる、それがウォーラスだった。


麻布のズボンに、半そでのボロシャツを着たクラウザーは、その差し出された手をガッシリ掴んだ。


「クラウザーだ、よろしく」


その様子を見てたサミュエルは、クラウザーに。


「いいか、クラウザー。 ウォーラスはまだ17歳だが、お前より2年も早く船乗りをやってる。 兄弟子は兄弟子だ。 年上だろうと、お前は下だぞ」


云われたクラウザーは、頷いて再度。


「兄さん、よろしくお願いします」


と、頭を下げた。


それから、クラウザーの船乗り生活は始まった。


だが、不思議と周りの船員から見ても、クラウザーが素人とは思えなかった。 船上で使う言葉に慣れているし、力仕事も難なくこなす。 特に、荷物の積み込みの速さと正確さは、新入りで既に玄人だった。 揺れる船内の倉庫。 荷物の重さを理解し、置く所を考えないと航海中に荷物が動く。


ウォーラスは、毎日教える事を毎日同じ速さで理解してゆくクラウザーに、人間として興味が湧いた。


賭博や娯楽で国を成り立たせる国に荷物を運び、また別の積荷が在る故に数日の停泊をした。 その最初の夜。


別の国の王族が来たので、盛大な花火がカジノが行われる本殿に打ち上げられた。


「キレイだな・・」


港の船で、他の船員の仕事を押し付けられていたクラウザーが、手を止めて云う。 港から見える花火が、クラウザー初の花火だった。


一緒に働いていたウォーラスは、


「此処の国じゃ、何かと花火は打ち上がる。 クラウザー・・、お前は船乗りに志願する前は、何をしてた?」


青い繋ぎの様な衣服に身を包むクラウザーは、ロープを束ねながら。


「17までは漁師してたんだ。 俺、天涯孤独の身で、漁村に拾われたから」


「そうか・・、若い頃から偉いな」


「船乗りになりたくて、最初マーケット・ハーナスに行ったけど。 船着場で半年働いたのに、誰も口利きしてくれなくて乗れなかった。 だから、こっちに・・。 ウォーラスの兄さんは、どうして船乗りに?」


「ん? 俺か。 俺の家は、実言うと商人なんだ」


「え? 商人・・・、それなのに・・船乗りを?」


クラウザーにとって、商人とは偏った世界の住人と思えていた。 過去に見た人買いや、漁村に魚を買い付けに来る偉そうな男達。 そして、マーケット・ハーナスで、貴族みたいに威張る商人達しか見ていなかったからだろう。


ウォーラスは、花火の上がる星空を見上げ。


「俺の家は、マーケット・ハーナスでも中流だ。 更に上に上るには、船を自前で動かす力が必要なんだ。 世界の交易路は、海も陸も決まりきった流れで固まってる・・。 だけど今や、陸は馬車しか無いだろうが。 海は、新しい魔力水晶体を使った高速船が使われ出してる。 あれをいっぱい持って、高速船団を組織すれば、もっと早い輸送が可能と成る。 食料や水の補給をしないで、北の大陸から東の大陸に物を運べるかも知れない」


クラウザーは、輸送の事はまだ良く解らず。


「それって、凄い事なのか?」


すると、ウォーラスは胸を張り。


「当たり前じゃないかっ。 今、北の大陸から東の大陸に行くには、コンコース島を経由する航路だけだ。 その日数は、どんなに早くても半月以上。 下手をすれば、一月近く掛かる」


「なるほど・・。 まだ俺は、北の大陸の沿岸輸送しかした事無いからなぁ」


「そうか。 まだ、来て一月足らずだもんな」


ウォーラスは、港の先に見える海を指差し。


「クラウザー。 世界の海は、季節毎にその顔を変える。 この北の大陸の最西端であるこの国から、更に西。 東の大陸に向かう海が、夏の終りから秋に掛けて穏やかなに成るのは、知ってたか?」


「いいや。 そうなのか?」


「あぁ。 その時期だけは、かの悪名高い大渦潮も収まり、荒れ狂う波も比較的穏やかなんだ。 寒波が押し寄せる冬の到来まで、この航路は東と北の大陸を繋ぐ最速航路。 秋の実りを早めに収穫して、互いの大陸に輸送すれば利益は上がる。 ウチの親方は、昔からの風と波に頼るこのボロ船を使うが。 俺は、違う物を遣いたい。 そして、世界に先駆けた新しい交易商売をしたいのさ」


クラウザーは、そんなウォーラスを見て共感した。 そして、商人も人それぞれだと知るのである。


「兄さんも、大きい夢が在るな。 確かに、未知の先を行く話だ」


語った事で少し興奮気味のウォーラスは、落ち着き払うクラウザーに。


「クラウザーっ、お前には夢が在るか?」


すると、クラウザーは力強く頷き。


「在る」


「何だ?」


「俺は、或る冒険者達を連れた学者に会った。 その人は、海賊と謳われた昔の民の秘宝を探している様だった。 その男から、世界の広さと謎の多さを聞いた・・。 俺も、何時か海に出て世界を巡りたい。 そして、誰も見つけれなかった宝を探し出したい。 その為には、金も船も必要だ。 だから、世界最高にして、最大の船団を作りたい。 何時か、宝を見つける為に・・」


どでかい夢だった。 大風呂敷を広げても、まだ面積が足りない様な・・。 だが、聞いたウォーラスは、自分以上に夢を広げるクラウザーを気に入った。


「クラウザー、なら・・競争だ。 どっちが、先に夢を実現するか」


「解った。 負けないぞ、兄弟子でも勝ち負けは譲れない」

 

「俺だって。 後から入った弟弟子に、先を越されるかよ」


二人は、この日から仲間を超えた親友になった。 そして・・。 一年・・また一年と季節や時が過ぎる。


腕のいいサミュエルは、飛び込みの仕事が多かった。


或る時は、急な荷物の運びを依頼され。 荒れ狂う台風が近づく中、難しい輸送を強いられ。


またある時は、誰も行きたがらない場所に荷物を取りに行かされ、幽霊船に狙われた。


また或る時は、季節外れの嵐を避けた古い遠回りの航海路を行く事に成り。 当時暴れていた海賊に襲われ。 逃げながらも、剣を取って戦った。


クラウザーは、フラストマドやマーケット・ハーナスに戻ると。 女遊びの傍らに、剣術を学び出していた。 元々の筋は良かったのだろう、上達も早かった。


ウォーラスも、隠れて何かを習っていた様だった。


海賊に襲撃された時。 簡単に船を奪えると思っていた海賊達は、ウォーラスやクラウザーを軸に徹底した反撃をする船員達に撃退され。 船を巧みに操るサミュエルの腕で、まんまと逃げられたのである。


そんなこんなの航海を幾度と経験する二人。 


この二人が本当に有名に成ったのは、幽霊船から逃げ、海賊船を撃退した直後。


海賊から荷物を守ったサミュエルに感謝した商人が、サミュエルに自前の酒場で好きなだけ飲めと申し出てくれた。 この時偶々だが、サミュエルの付き合いで大衆酒場に二人が揃って付き合った。


其処で。


「おいっ、罪人のジジィが居るぜ?」


「うはぁ~クセークセー、囚人臭ぇぇ~」


と、別の船乗りが騒ぎ出す。


サミュエルは、腕は確かだが過去の傷を汚点にされ。 商人直々の“お抱え”に成る船長や船員のエリート達からは、かなり嫌われていたのだ。 生じ腕がイイだけに、仕事で比較されるのが嫌なのだろうし。 危険な時期の航海を渋るお抱え達に代わり、サミュエルなど個人営業の船長達に仕事が回る。 そこで、難なく航海されては、逆にお抱え達は腕を疑われる。 


そんなこんなで、サミュエルは評判を落されながらの船長人生を送っていた訳だ。


しかし、クラウザーとウォーラスの二人は、強烈な個性を光らせる双璧だった。 だから、やっかみすらも、名声に変わって来ていた。


さて。


酒場で絡まれるクラウザーは、元々の気質で騒ぐだけの輩など相手にもしないし。 真面目なウォーラスは、サミュエルが反応しないのに、自分がしゃしゃり出るのは出来ないと我慢してた。


だが。


遂に、他のサミュエルの手下船員が挑発に乗って怒り、広い酒場を巻き込む乱闘に発展。 だがこの時。 剣術で鍛えたクラウザーと、密かに格闘技を嗜んでいたウォーラスは、乱闘を鎮圧してしまう。


その武勇伝によって名が揚がる事に拍車を掛ける様に。 二人は、“船員取締り”・“副船長”・“仕船船長”(船団内の一隻を預かる船長)と格上げされ。 腕もいいから、更に更に名前を売った。


ウォーラスが22歳。 クラウザーが、24歳に成る頃。 二人は、サミュエルの持つ一番早い船を二隻別々に任されていた。


真面目なウォーラスは、港に戻ると一族の支店に勤める商人や親類の者が出迎える。


クラウザーは、家族が居ない代わりに、夜の店や街角に立つ女達が出迎えに来る。 顔の整ったクラウザーは、歓楽街の知れ者に成っていた。


二人が、完全に船を任され個別に運行する様に成ると、サミュエルはクラウザーに自分の代行を頼む様に成る。


ウォーラスは、独立して自分の家の家業を手伝うと読んでいたからだ。 クラウザーの方が、職人気質の様な義理人情は在ると見込まれたのかも回りは言ったが。 それは違う。 ウォーラスには、商人と云う自由の利かない家がある分だけに、利益を外した余裕に拘れないとサミュエルが解っていたのだ。


そして、二人の別々の道へと進む日が訪れる。


船長として、一年を過ごした二人に、サミュエルは引退を告げた。 もう、酒・煙草の御蔭で、身体がボロボロであった。


引退を言った夜。 二人が初めて一緒に乗ったボロ船で、サミュエルは二人とワインを交わし。


「クラウザー。 もし、海旅族の事を知りたいのなら、もっと海を学べ。 古く昔から伝わる航海の歴史には、不可解な物や、何百年に一度しか起こらない事を伝える用語も多い。 お前は、利巧だが学が無い。 俺と同じだ。 自分で、もっと学んで考えてみろ」


と、言う。 そして、ウォーラスを見ると。


「ウォーラス。 お前は、過去に傷を持った俺の事を今日まで師事してくれた。 正直、嬉しかった。 お前の家は、商人だ。 時として、汚れ事やまつりごとで面倒を抱えるかも知れん。 お前の良さは、その真面目さで。 悪さも、その真面目さから来る硬さだ。 “堅い”のはいいが、“硬い”のは良くない。 もしもの時は、クラウザーを頼れ。 柔軟な考え方は、時として頑な思いより強い。 立派に、夢をして退けろ」


所々の言葉を崩すサミュエルの過去は良く解らなかったが、学の無い人物では無かった。 二人の事を、良く見抜いていた。


サミュエルは、陸に上がって一人の余生を送る。


クラウザーやウォーラスは、何かと金や食べ物や薬草などを携えて訪ね。 看取ったのは、クラウザーとウォーラス二人でだ。


この直後。 数日して、ウォーラスとクラウザーは、リドリーの待つ晩餐会に招かれる。


二人の師が亡くなったのは、親友同士の二人が互いに顔を合わせなくなる3ヶ月前の事だった・・。





                      ★





夜の長さは、不思議なものである。 永遠の様に感じられたり、夜明けが待ち遠しかったり。


一人で眠れないのは、クラウザーだけではない。


個室で寝ていたオリヴェッティも、一人で色々と考えていた。


(あぁ・・・、どうしよう。 ビハインツさんと、ルヴィアさんを誘ってもいいのかしら・・。 でも、秘宝の話は・・・どうしよう)


Kは、全て自分に任せると言った。


リーダーは、オリヴェッティだと決めているKとクラウザー。


文句を言われる事は無いのかも知れないが、オリヴェッティはリーダーなど初めて。 何処までが良くて、何処までが悪いのか解らない。


“仲間を増やしていいのか”


と、Kに聞くのもなんだか違う様な・・。


しかし、これから先。 探す秘宝を巡り、Kやクラウザーに迷惑を及ぼすのも悪い。


(はぁ。 誘うつもりで街に連れ出したのに・・・、コレじゃ馬鹿だわ)


リュリュを寝かし付けてから、部屋に戻ったオリヴェッティだが。 妙に暇な空気に返って眠れなくなってしまった。 アレコレと考える事は、今までで初めてのことばかり。 何とも、考えが纏まらない。


オリヴェッティは、潔さも決定も早い方だと思っていた。


だが、慣れぬ事では、こうにも悩むものかと困ってしまった。


しかし、何より一番不思議なのはリュリュである。 人を嫌い、街すら襲った風の神竜ブルーレイドーナ。 その子供であるリュリュのKに対する信頼度は、一見しても深い。 何故なのか、オリヴェッティの今の所の最大の謎である。


さて・・。


その夜の深夜は、大雪が降る夜だった。 静かに雪に閉ざされつつ在る街の一角で、凶暴な牙が蠢いていた。


街が完全に寝静まった頃である。


「ふぅ・・・」


Kが昼過ぎに脅しを掛けたジョンソンが、あの一件の在ったリビングの奥の一室。 下着姿の女性を行かせた部屋から、バスローブ一枚を羽織っただけで出て来た。 ランプも灯っていない暗いリビングには、もう誰も居ない。


「はぁ・・はぁ・・・」


ベットの上では、全裸の金髪女性が激しい情事の直後で、息も荒くして失神しかけていた。 露になった豊満な胸には、白い液体が垂れて見えている。


女性を散々に弄んだジョンソンは、


(クソったれっ!!!! まだ、身体の震えが治まらねぇ・・・。 あのバケモノっ、今頃に姿見せやがってっ)


と、内心でKを憎み。 そして、慄いた。


ジョンソンは、まだ30前の頃に、マーケット・ハーナスで暗黒街を作ろうと画策した事が在る。 麻薬や盗品の密売や、暗殺を請け負う代わりに、街に勢力圏を作ろうとしたのだ。


その阻止をしたのが、Kである。


Kは、200人と云ったが、正式には290人もの刺客や殺し屋、堕ちた冒険者を金で掻き集め。 Kを街の港に在る倉庫に呼び出して、ジョンソンは殺そうとした。 だが、結果は正反対。 雇った刺客や殺し屋達は尽く破れ、失禁をして命乞いをしたジョンソンは、役人に捕まった。


実は、今のジョンソンは脱獄逃亡犯なのである。


Kに一度潰された時は、仰々しく“ジョンヘンダーソン・ハホルビー・マインアンダーソン”と言う貴族風の偽名を使っていた。 今名乗っている“ジョンソン・マイランダー”とは、適当に本名を捩ったに過ぎないのだろう。 似たような名前を付けていた御蔭で、悪辣な商業の遣り方と繋がってKにバレたのだ。


Kに昼過ぎに会って、ジョンソンは殺されると思った。 指先一つで突き飛ばされた後、震えの治まらない彼は、“ライナ”と呼んだ女性をベットに引き込んだのである。


(あの死神が此処に・・。 クソっ、この国でも潮時かぁっ?!!)


恐れ、苛立ち、混乱が彼を襲い。 長く情事に耽った彼は、喉が渇いてリビングへと出て来たのだ。


(ちきしょうめ・・・)


窓の手前に備えられた台の上。 デキャンターに残された若い白ワインを持って、苛立ち任せでコルク代わりのガラス栓を引き抜き。 そのまま一気に呷ったジョンソン。 そして、明かりが漏れる寝室を脇目に、ニヤりと不気味な笑みを浮かべ。


(へっ、あの女中々じゃねぇ~か。 元僧侶の割りに、大した乱れっぷり。 どうせ殺すにしても、飽きるまでは甚振ってやる・・。 恐っかない目に遭った後なだけに、あの身体は・・・)


と、卑しいニタリ顔を見せる。


だが・・。


果汁そのものの味わいが強く甘さを残したワインが、喉を通って腹に染みて行く・・。 もう一口飲もうとした、直後だった。


「う゛おあ゛っ!!!」


突然、身を潰される様な痛みを覚えたジョンソンは、喉から下の胸を抑えて声を絞った。 叫ぶと云うより、激しい激痛で呻きもがく様な嗚咽を出したのである。 デキャンターを床に落とし、ガックリと膝を折って蹲って行く。


「ガハァッ・・・うがぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・」


目の両端が裂けそうなぐらいに眼を見開くジョンソンの瞳は、一気に充血して今にも飛び出しそうな様子を見せた。 激しく苦しみ。 Kに突き飛ばされた自分が壊したテーブルが、そのままに成っていて。 そのテーブルの残骸に倒れ込み、もがき足掻く彼だった。


そのジョンソンが苦しむ異様な音に気付いたライナと言う女性は、まだ荒い息のままに布団を身体に当て。 ベットを降りた。


「ど・どうした・・の?」


暗がりのリビングを見たライナは、何かを掴み上げる様に伸ばしたジョンソンの手だけを見て。


(な・何っ?!!)


と、ベット一つでもう間一杯と云う寝室の入り口。 壁掛けのグラスランプを引き抜いて。


「ね・・ねぇ・・・」


と、ジョンソンに近づいた。


その顔が見える所まで後半歩と云う所で、ライナの鼻に血の匂いが漂って来る。


(ままさ・まさかっ?!)


一歩踏み出し、灯りが届いてジョンソンの顔が見えた彼女は、グラスランプを落さない様に持つのが精一杯だった。


「はっ・・はぁ・・・はぁぁぁ・・・」


あまりの光景を目の当たりにし、急激に乱れ詰まる呼吸。 恐怖に膝が笑って、その場にヘタリ込むライナ。


ジョンソンは、もう絶命していた。 目、鼻、口、耳・・顔のあらゆる穴から血を噴出させ、眼球を飛び出させる様に・・。


ライナは、アルコールの匂いを嗅ぎ、傍に転がるワインがポトポトと零れるデキャンターを見て。 昼間に、Kが言った言葉を思い出す。


(ひ・ひひ・・昼間の・・・あの人が・・・・)


脳裏には、包帯を顔に巻いたKの姿が浮かんでいた。

どうも、騎龍です^^


年内にK編終わるかなぁ~^^;


ご愛読、ありがとうございます^人^

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