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エターナル・ワールド・ストーリー  作者: 蒼雲騎龍
K編
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K特別編 秘宝伝説を追って 第一部 ⑧

        K長編・秘宝伝説を追い求めて~オリヴェッティの奉げる詩~第1幕




            ≪師弟再会 だけど、まだ残ってる問題がぁぁ≫





木の板に乗り、海面をリュリュの起こした風で滑って戻って来たK。


リュリュ達が乗る襲われた船へ、横付けされた救出用の船から伸びるロープ一本を、片手と足だけで登って来た包帯男に、ルヴィアもビハインツも掛ける言葉を失っていた。


「ケイさ~ん、かぁぁぁっちょええぇぇ~」


帰還したKを見て、はしゃぎ跳んで喜ぶリュリュ。


だが、甲板に下りたKは、外見がボロボロに腐食した金属の箱をリュリュに見せ。


「面白いモン見つけたゼ。 次の立ち寄り都市で、お前の胃袋を満たしてやるよ」


「えっ?! なになに?」


「中身は、帰ってからだ」


そんな兄弟の様なKとリュリュを見るオリヴェッティは、緊張感が全く無いと困り果てた顔で居て。


(あの・・・何しに来たのでしょうか? 問題が・・・忘れ去られていると思いますが・・・)


と、別の悩みを見出した。


さて。 はしゃぐリュリュと、幽霊船を蹴散らしたKに。


「あ~・・・、話いいかな?」


と、ウィンツが声を掛ける。


箱を下ろしたKは、ウィンツの顔を見て事態を理解してないと解った。


「なんだ。 聞いてないみたいだな」


Kに緩やかな足取りで近づきながら、Kの姿を見回したウィンツ。 もしかして、Kもモンスターなのではないかと疑りたくなる。


「何が、だ・・ろうか? 先ず・・・君達は・・何だ?」


Kは、ルヴィアやビハインツを見て。


「乗り込んでる面子は、これで全員か?」


「いや、船首の方に十数名。 操舵室に・・船員が一人居る」


応えたウィンツに、Kは視線を合わせ。


「アンタが、クラウザーの弟子か」


と・・。


恩師の名前が出た事で、ウィンツの顔は一変。


「あ゛っ? おや・親方を・・知ってるのか?」


「あぁ。 この船の巻き添えに狙われたのは、クラウザーの乗る客船さ」


「あ゛っ?!! ほっ本当かっ?!」


ウィンツは、目を本当の魚の様に丸くして驚く。


薄く微笑むKは。


「幽霊船の動きが、どうもおかしかったからな。 二隻の船が狙われてると踏んで、それとなく助けに来た」


急に狼狽えるウィンツは、


「だ・だが・・・俺達は助けなんか・・・」


「あぁ。 そう。 呼んでない。 俺達も、表向きは助けに来た訳じゃない」


ルヴィアは、話が転じて意味が解らなくなり。


「おいっ、い・意味が・・」


Kは、操舵室らしき場所に居るブライアンを見つけたりしながら。


「表向きとして、俺達は幽霊船を潰しに来た。 アンタ達を助けるのは、表向きでは“ついで”・・だな」


その意味を理解出来たのは、船長であるウィンツのみ。


「嗚呼・・。 航海法に触れない様に、俺達を助けに来たのでは無いとするのか・・。 なんてこった、此処まで来てクラウザー様に・・親方に手間を掛けさせちまった・・」


恩義と責任を感じるウィンツは、ガクリと項垂れる。


Kは、笑みを絶やさず。


「それより、面倒だからこのオンボロ船を沈めてしまえ」


直ぐにKを見返すウィンツは、魂胆を知る。


「我々は、あくまでも難破して遭難した者に成った方がいいのか?」


「そりゃそうさ。 幽霊船を相手にしても、この船を生かしちゃ~・・在らぬ嫌疑をクラウザーが背負うゼ? 船は先に大破し、俺達は偶々にアンタ達を助けた・・・。 その流れが、一番面倒が無い」


ウィンツは、グッと言葉を飲み込んだ。


船を預かる船長として、船を沈める責任は大きい。 そして、海の男たるプライドも有る以上、仁義や培った責任感からジレンマを生むのは当然だった。


だが、Kは。


「アンタの働きは、十分さ。 それとも、此処で死人出たのか?」


「あ・・いや」


ウィンツは、一度難破し。 島で船を修理した事などを全て語った。


Kは、小船を奪って逃げた二人を聞いて、何とも面倒だと云う困った顔をすると。


「おいおい、マジかよ。 この先の小島とラグーンに有る場所は、人食いカマスのバラクーダが回遊してる所だぞ? そんな人の漕ぐ小船で、あのデカいカマスの群れから逃げ切れんのか?」


ウィンツは、それを聞いて。


「あっ! あの辺りは・・確かに」


と、その事を思い出した。 幽霊船の御蔭で、すっかりその事を忘れていた。


Kは、後頭部を掻き。


「其処まで面倒は、流石に看切れねぇってよ」


横で、リュリュも真似をし。


「ねぇ~ってよぉ~」


ウィンツは、一人重症のジョベックを思い出し。


「あ、その争いで怪我した船員が居るんだっ。 僧侶・・居ないか?」


Kは、薬師でもある。 様々な薬を持っているので。


「じゃ、俺が応急の処置だけしよう。 早く、客を下の船に。 夜に成ると、モンスターが血の匂いを嗅ぎ付けるぞ」


「あぁっ、解った」


ウィンツは、自分のプライドを曲げる決意をした。 恥を忍んでも、男としてクラウザーに土下座するまでは、どうしても生きなければと思った。


ニーブガイストに壊された船体脇から、木の板を船に渡して客と船員を移動させる。


一方で、かなり出血していたジョベックは、失血による昏倒寸前。


Kは、傷を見て。


「あ~ぁ、コイツはヤバい。 どれ、さっさと縫って応急処置しちまおう」


と、紙の束を留める針と糸を取り出し。 消毒薬代わりの酒に浸すと、伸ばした親指から中指ぐらいまでの長く裂けた傷を、手早く縫い付けた。


夕方の朱色が、海を染め出す頃。


「いいぞ~、リュリュ。 北にぶっ飛ばせ」


全員を乗せた前の船にリュリュが立ち。 後ろの船に舵を取るKが乗り。 満員と成った船が、風に押されて海上を走り出す。 背後には、船体の船底に穴を開けられ、沈み行くシーフランク号が見えていた。


ただ・・、オリヴェッティは。


(お客さんと船員の方々・・・耐えられるかしら・・)


モンスターや肉食の魚類に襲われない為にも、有る程度の速さで行く必要が在る。 疾風の如く走り出した船からは・・。


「ひゃああああーーーーーっ!!! 落ちるぅぅぅーーーーーーっ!!!」


「うおおおおおおーーーーーっ!!!!」


「怖いよぉーーーーっ!!!!」


と、様々な声が上がった。


ま、Kは・・・無視したが。




                      ★




夜に海が染められ、深い藍色の闇に染まった水面には、満点の星空から降り注ぐ光が淡く届く頃。


「帰って来たぁーーーーーーーーっ!!!!!!」


クラウザーの乗る船の甲板で、松明を持った下働きの船員が、戻って来たK達の船を見て一声を上げた。


直ぐ様その一声は、空洞の金属パイプである連絡官を通じて、ブリッジである操舵室に響いた。


全てに於いて半信半疑のカルロスは、その一報に肝を冷やしたものだ。 何故なら、K達が逃げたんじゃないかとか、幽霊船なんか嘘じゃないかと陰口を言っていたのが、カルロスだったからだ。


盛大なパーティと音楽。 そして、真剣勝負のカジノや、数字当てゲームに沸いていた地上部の船内には、その船員の上げた一声も聞こえていなかっただろう。


助けられたシーフランク号の客や船員を見たのは、無料配布の食事を受け取りに来た最後の地下乗客の一部のみ。 クラウザーは、食事配布の頃合を早めにしたのが、そうゆう形に成った。


さて。


助けられた客は、地上部後方の非常用ドアから船内に入り、バーラウンジの片隅へ抜ける。 そのまま客通りの殆ど無い通路を通って、宿泊出来る客室の広がるに階層に上がり、クラウザーの用意した各部屋へと案内された。


クラウザーは、Kの戻った事を聞くや。 カルロスを呼んで、後の事やパーティーなどを仕切らせる傍ら。 足早にウィンツの顔を見に行った。 やはり、内心では心配して堪らなかったのだろう。


怪我をしたジョベックを救護室に運んだウィンツは、僧侶に手当てを任せて廊下に出た。 5階の別室である救護室から出たウィンツは、伸びた廊下の向こうから来るクラウザーを見て。


「嗚呼・・・」


と、クタクタと身を崩し、その場の床に平伏する。


そんな彼の目の前まで来たクラウザーは、嘗ての弟子を見た。


(コイツ・・随分と疲れて・・・)


人の顔には、苦労が滲み出るものだ。 ウィンツの姿を見ただけで、人生経験の長いクラウザーは、その苦労の一抹を見抜いた。 何処と無く気力の萎えた雰囲気や、膝を素直に折った様子は、クラウザーに弟子の苦労を教えるに足りる。


「ウィンツ・・、大変だったな」


クラウザーは、穏やかに、そして抱きしめる気持ちを言葉にして掛けた。


すると、俄かにすすり泣くウィンツは、顔を上げ。


「真に・・真にありがとうございました・・。 乗客と船員のいの・命・・まま守れましたぁっ。 おやか・・いえっ。 クラウザー様には、なんとお礼を・・」


今の彼を見るまでのクラウザーの目には、意気揚々と自分を超えて見せると言った若きウィンツの姿しかなかった。 だが、この目の前に居るのは、確かに苦労を重ねた愛弟子である。


「ウィンツ。 今更、ワシに“様”付けてどうする。 ワシも、お前と同じ雇われの身だ。 “親方”で構わぬさ。 さ、身を上げろ。 老い耄れに、いい年した船長が土下座なんかするな」


久しぶりに叱られた気のするウィンツは、汗と汚れの付いた顔を上げて。


「親方・・済まない」


ヨロヨロと立ち上がるウィンツにクラウザーは近づき、怪我などを確かめながら。


「怪我なんかは無さそうだな・・。 さ、上に行こうか。 後で、案内した船員達の部屋も教えておこう」


「はい。 助けてくれたお返しです。 次の街までは、自分に何でも言って下さい・・」


「はは、助けられた今に言うか? お前もまだ若いな」


笑うクラウザーを見て頭を下げるウィンツは、もう居ないKを思い返し。


「親方。 我々を助けたあのケイって人は・・・何者ですか?」


「フッ。 人間の分際で、化け物みたいに強い冒険者さ。 数年前に、チョイト縁が有ってな。 今回、お前を助けて貰った」


「そうですか・・。 明日にでも、再度礼を言わせて貰いたい」


「ふはは、大して気にしない男さ。 大きな噂にしたがらないから、軽くでいいぞ」


と。


助けられ密かに客と成った者達は、酷い船酔いの様な状態の者が殆どだ。 この船の船員達が生活する三階の奥。 乗組員共同生活場に連れられたウィンツの船に船員達も、客同様に殆ど潰れてしまった。


さて。


「所で、何処まで着いて来る気だ?」


秘密の隠し部屋に戻ったK達は、リュリュのマントに隠して連れて来たマキュアリーにそう言った。


「・・・」


神妙なマキュアリーは、どうにもウィンツが心配ならしい。


Kは、窓の傍に佇むマキュアリーを脇目に、どっかりとソファーに座ると。


「大丈夫だ。 クラウザーは、弟子を悪い様にするヤツじゃない。 アンタ等ハルピュイアは、一部の金持ちの男共からすると、性欲を満たす道具としか見られない。 余計な面倒を起こさない為にも、さっさと島に帰れよ」


Kの言っている事は、確かな現実だった。 だが、マキュアリーは黙っている。


リュリュは、ハルピュイアのマキュアリーをソファーから見て。


「ケライノアと似てるね~。 向こうは、翼が赤いけど」


Kは、リュリュに向き。


「お前、あっちの種族は知ってるのか?」


「うん。 ママに誰か逢いに来た。 なんか、珍しいモノが手に入った~って」


「ほ~。 そんな交友あるのか」


「さ~。 ホラ、ママって風の神様みたいだし~」


「あぁ~・・確かに、な」


そんな二人を他所に、疲れたオリヴェッティもマキュアリーが気に掛かる。 危険を冒してまで、この船に来たがったマキュアリーの事が、同じ女ながらに解りかねなかった。


(一体・・・どうしたのかしら・・・)


しかし、Kは大体の理由を推し量れていた。


(全く・・。 生き物ってヤツは、色恋沙汰から逃げられない定めなんかねぇ~)


静かに、しかも意地らしい娘の様なマキュアリー。 彼女が此処に居るのは、恋しい男に何かまだ言いたい事が有るのだ。 彼女をもう見ない包帯男は、それを薄々と素振りなどで解った。 だからか、もう一肌脱ぐ必要が有ると実感していた。


部屋に戻り、皆が一息着く・・。


魔法を遣い通しだったリュリュは、軽く菓子を食べる途中で寝てしまった。


別室の狭いバスルームで、身体を拭いたオリヴェッティ。 衣服を黒のドレス風ワンピースに改めると、Kの煎れた熱い紅茶を飲んで、ベットに入る。


ソファーに寝るリュリュに毛布を掛けたりしたKは、窓辺に立つマキュアリーに。


「ま、ゆっくりしろ。 明日は、助けたオッサンにでも挨拶して帰れよ」


と、言い残し。 クラウザーの居る船長室の方に消えて行く。


「・・・」


Kを見送ったマキュアリーは、立ったままに顔を羽根の中に隠す様に眠るのだった。




                         ★




船長室に上がったKは、クラウザーとウィンツが共に居るのを見つけた。


弟子が助かったからだろうか、随分と元気なクラウザーが居て。


「おう、カラス。 ウィンツを助けてくれて、感謝するぞ。 全く、嬉しいね。 航海中じゃないなら、ワインでも浴びたいくらいだ」


ウィンツは、Kに。


「本当に助かった。 他の船員に代わって、礼を言うよ」


と。


Kは、二人を見比べ。


「師匠より、弟子の方が礼儀を弁えてるな・・。 フッ」


と、鼻先で笑う。


Kの表現に、壁の無い笑みを浮かべた二人。


だが、Kは更に続けて。


「しかも、弟子の方が色男だ。 連れ帰った女に、随分と惚れられてる。 まぁ~ったく、師弟揃って女好きだな」


と、余ってる客椅子に腰掛けた。


急に意味の解らない話になり。 クラウザーは、ウィンツとKを交互に見て。


「あ? 何の話だ・・」


ウィンツも、Kを見てからクラウザーを見てやり。


「俺は・・・別に」


と、イマイチ飲み込めず口を濁した。


ニヤリと笑うKは、そんなウィンツを見ながら。


「窓に佇む女は、誰かさんを慕ってて帰るに帰れない様だ。 人の欲望に晒されない為にも、何とかしてやったらどうだ?」


この話に、ウィンツは直ぐ意味が解り。


クラウザーは、全く解らなく成る。


「あ・・いや、俺は・・・そそ・そんなつもりは・・その」


気恥ずかしさから、しどろもどろの弁解を言い出すウィンツ。


そんな彼の脳裏には、マキュアリーの顔が浮かんでいたハズだとKは解る。 だが、Kは、此処で少し真顔に成り。


「ハルピュイアなどの種類ってのは、子孫を残す為に時として望まない男とでも交わる。 一昔前、鳥獣人と交友の有った村では、繁殖の道具として若い男を差し出す風習まであったそうだ。 だが、下に居る彼女は、望んで出来る。 アンタ、一肌脱いでやったらどうだ? 殆ど人間が虐げている彼女達だが、偶には人が幸せをくれてやってもいいんじゃ~ないか?」


と、真面目な口調でウィンツを見て言う。 言い方は砕けているが、その語りは穏やかながらも、諭す様なニュアンスが含まれる。


一方で。 話を聞くクラウザーは、まだマキュアリーが居る事を知らない。


「おい、一体どうゆう事だ? “ハルピュイア”だって? この船に・・乗ってるのか?」


「あぁ。 下に居る」


クラウザーは、驚いてウィンツを見る。


「ウィンツ・・お前まさかっ?」


Kは、軽く笑って。


「ハッ。 おいおいクラウザー、ヘンな勘違いするなよ。 どうやら、嵐で難破してたアンタの弟子の船を見かけたのは、若いハルピュイアらしい。 村で、二人は仲良くなったらしいな。 あのテリトリー以外の人を警戒するハルピュイアが、態々航海路までの案内を買ってくれたとさ」


急に俯いたウィンツは、クラウザーに。


「・・そうです。 マキュアリーと言うハルピュイアの娘で、幽霊船が来なかったら・・。 俺達は、彼女の案内で一般航海路に戻れたでしょう。 俺達の命の恩人・・です」


クラウザーは、少し驚きながらも頷きを見せて。


「ほう・・ハルピュイアになぁ・・。 お前、そのお嬢さんにホレたのか?」


恥ずかしい事をストレートに聞かれたウィンツは、むず痒い顔で返答に困る。


様々な経験を積んだ人生の長いクラウザーだ。 そんなウィンツを見て、この男も満更でも無いと読めた。 が。 それが解ると、今度は同じ男ながら情けないと困った顔をしたクラウザーは、40を過ぎたウィンツを見てやり。


「何だぁ~、お前よ。 好きなら、そうと彼女に言えよ。 俺の手の下に居て、学んだのは航海術だけかよ」


なんとも反論のし難い言われ様だ。 ウィンツは、自分が若くしてクラウザーに弟子入りし立ての頃は、一夜の浮夜を流す兄弟子が腐る程に居たのを思い出す。 懐に金が入ると、夜の酒場に繰り出して。 夜の女性とベットまで共にし、毎朝化粧の匂いを漂わせる強者が一杯いた。


このクラウザーとて、それこそ結婚した後は身持ちも硬かったが。 その前までは、“毎日、夜を過ごす女性の顔が違っていた”などと武勇伝を囁かれた男だ。


“酒と女は、海の男には付き物”と言う世界で生きたウィンツなれど。 彼は、どうも硬い性格の様だった。


Kは、クラウザーを見て。


「おいおい、クラウザーさんよ。 何だ、この晩生な弟子は。 師匠だろ? その辺も教えとけよ」


と、軽口を叩けば。


「あ? あんなモン、男が男に教えられるかよ。 女と夜の冒険するのは、男の醍醐味だろうが」


と、クラウザーが返す。


するとKは、ニヤリと口元を曲げて。


「ちげぇねぇな」


と、伝法に返した。


しかし、だ。 顔を神妙にするウィンツは、徐にクラウザーへ。


「だが、親方・・」


と、マキュアリーの身の上や、ハルピュイアの生涯を語り。


「俺は・・未だ身体の何処かに、船長としての未練を残してる。 男親として一緒に居てもやれないのに、そんな無責任は出来ない」


と、言うのだ。


所が、いきなりクラウザーは、ウィンツの話を鼻で笑って飛ばす。


「ハッ。 なら、定期的に船で逢いに行けばいい話しだろうが。 それこそ、ラブロマンスの出来上がりだぞ、ウィンツ。 お前、彼女に聞いてみろよ。 相手がどうして欲しいか、聞いてから考えろ」


と、言ったクラウザーは、冷めた紅茶のカップを手にすると。 急に顔を平静に戻して。


「お前に言っておくが。 俺の船には、下世話な金持ちも多い。 ハルピュイアなんぞ乗せてるのを知ったら、金ずくでも欲しがるバカも居るだろう。 早く、彼女を島に戻す事を考えるこった。 お前の恩人を、汚らしい欲望に晒させるのも気に食わん」


後を繋ぐKも。


「そうだな。 この船の金持ち連中と来たら、冒険者の女にやたら色目遣いやがる。 面倒が起きる前に、な」


「で・でも・・・」


俯くウィンツ。


クラウザーは、弟子の不甲斐無い姿に呆れ。


「おい、ケイ。 そうゆうのは、もっと早く言えよ」


呆れ笑い気味のKは、


「あ? 言ってどうなる?」


「それなら、二人を個室にでも閉じ込めてしまえばよぉ~」


「お~、それいいなぁ~。 窓も出入り口も板で打ち付けちまうか?」


「おうよ。 どうせ改修するんだ、こんな船なんぞな、派手に痛め付けてやっていいんだゼ?」


Kとクラウザーの会話は、なんともいい加減と言うか、奔放と言うか。


だが、その後に言うクラウザーは、また真顔で。


「ウィンツ。 お前、何時から人の気持ちを解らなく成った? 明日も明後日も手伝い要らない。 そのハルピュイアの問題を解決するまで、船員として働くのはお預けだ」


Kは、そう言うクラウザーの顔が、何処か喜んでいると思えた。 久しぶりに、親方としての自分を取り戻しているのだろう。


(さぁ~て、どうなるやらなぁ~・・・)


ほくそ笑んだKは、俯いているウィンツを見ていた・・。




                        ★




次の日。


朝になり。 前日の盛大なパーティーで疲れた乗客達は、殆どが寝静まっているか。 部屋に篭っているかだった。


早朝が終り。 太陽が見上げる角度に向かっているのを、ウィンツは見晴らしのいい甲板後部の展望高台で見ている。 疲れで中途半端に眠っただけで、朝早くに起きてしまった。


(全く・・、歳を取った所為だろうか。 親方も砕け過ぎてる・・・)


先程ジョベックの様子を見に行った彼は、起きて来ていたブライアンと会って話をした。


実は、クラウザーがマキュアリーの事を聞いた直後に、ウィンツだけ使わない客室に寝泊りを決めた。 人気の無い奥間に成る部屋で、4階の個室を宛がってしまった。 他の船員達と一緒で良かったのに、何とも驚きの処置である。


他人の姿の全く無い展望高台で、ウィンツはマキュアリーの事を思いながら海を見つめてると・・。


「ウィンツさん・・」


耳に纏わり付く忘れられない声・・。 考えていたマキュアリーの物だった。


(はぁ・・)


ウィンツは、複雑な気持ちで振り返った。


「起きたか、・・おはよう」


目の前には、緑のローブを足元まですっぽり被ったマキュアリーが居た。 ウィンツは、彼女の全身を見て思わず。


「はは。 そうしていると、人の娘みたいだ」


と。


ニコっと微笑むマキュアリーは、ウィンツの横に来た。


「この船、おっきいですね。 こんな大きい船、初めて見ました」


「そうか? ま、一番大きい部類の船だからな。 俺でも、この船の船長はやった事ない」


海を見て、二人の沈黙が流れる。 何も話さない沈黙は、心を、言葉を、体中に溜め込む時間なのかも知れない。


そして・・。


マキュアリーが、少しして。


「・・ウィンツさん、お願い・・・聞いてくれませんか?」


「あ? あぁ。 命の恩人である君の願いなら、何でも聞くさ」


マキュアリーは、ウィンツを見て。


「私ね、人間って、島の人以外・・みんな怖いって思ってた。 お母さんを攫ったのも人だし・・、魚を買い付けに来る他所の人も、私を見る目が怖かった・・」


「そうだな。 人間は、怖い。 我が儘な欲望で、・・掟や、法や、プライドを無くすと何でもする・・。 悪いモンスターの見本みたいかも知れないな」


「でも、イイ人も居るよ・・。 私・・見つけた」


「あぁ。 島の人達は、イイ人達だな・・。 ん? “見つけた”? ・・誰だい?」


「うん。 ウィンツさん・・・」


素直にマキュアリーに言われ、恥ずかしくなるウィンツは。


「俺か・・。 イイ人・・かな?」


「うん。 カッコいい」


お世辞にも見栄えのする自分じゃないと、ウィンツは十分に解っている。 “カッコいい”などと言われ、むず痒い気持ちが身体を駆け巡る気がした。


「カ・カッコいいか?」


「うん。 私には・・。 だから・・お母さんの事はいいの・・。 只・・ウィンツさんとの子供が欲しい・・・」


マキュアリーは、そっとウィンツの腕に寄り添う。


自分の胸辺りと同じぐらいの背が低い、小柄なマキュアリーだ。 ウィンツは、可愛いマキュアリーを見て。


「俺の・・か?」


「う・・うん・・。 島では、みんな好き嫌い言う暇が無いから、年に一度の祭りで、若い村の人と・・。 でも、私は怖い。 お母さんの事も有るから・・、好きな人以外は・・怖い」


ウィンツは、女性との経験が無い訳では無かった。 酔った勢いだの、寂しさから憂さを晴らす夜なら、今までに何度か過ごしている。 しかし・・、恋愛での情事は無かった。 だが、マキュアリーを泣かせる事は、男として嫌だった・・。


彼女の肩を抱いたウィンツは、吹っ切れた。


「いいぞ。 年に数度かも知れないが・・・島に会いに行く。 俺も・・君が好きだ」


と、自分の傍に引き寄せた。


そんな二人の姿を、高みの窓から見守っているのは・・。


「なぁ~んだ、遣れば出来るじゃ~ないか」


と、K。


「おいおい、俺の弟子の中でも一番出来るヤツだぞ。 バカにするな」


と、真面目な顔のクラウザー。


船長室の裏窓から、心配したクラウザーに釣られて二人を見ていたが・・。 その顔を、横のクラウザーに向けるKは。


「そいつは優秀な事で。 相手がハルピュイアって所も、新しいねぇ~」


クラウザーも、Kを見て。


「“新しい”って、何だ?」


「いんや。 ハルピュイアと人間のロマンスなんざ~そうそう無い。 天使種族やエルフ種族の様に、何れ共に生きる時代が来るかもなぁ~って・・な」


と、Kは、ウィンツとマキュアリーの居る方に顔を振ったのである。


「・・、悪くない話だな」


クラウザーは、Kもイイ事を言うと微笑んだ。


Kは、其処で。


「さてと。 後は、お宝でも拝みますか~」


と、手を擦る。


「あ? あぁ、幽霊船の中に有った箱の事か?」


「そう。 箱の形状は、かなり古いものさ。 恐らく、超魔法時代の後期かも知れない」


「ほぉ~、そいつは拝みたいな」


「見るか?」


「勿論」


二人が秘密の隠し部屋に移動する時。 甲板の外では、ウィンツとマキュアリーが寄り添い歩いていた。

どうも、騎龍です^^


ご愛読、ありがとうございます^人^

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