K特別編 セカンド 5
K特別編:理由
13、事件の全容
その事実は、ジュリアも含めた全員の驚愕の事実に。
「ま・・真か? ケっ・・ケイ・・・」
と、ジュリアは包帯男を見たり、ハルフロンを見たり。
「ああ、記憶の石の中でチャグリンが言っていた。 エリザベートを呼び出すのに、ハルフロンの名前を使ったとな。 “お腹の子供の名前を決めた”と云ったらノコノコ出て来た・・・とかなんとか」
頷くハルフロン。 重い声で。
「私とエリザベートは、結婚を誓い合った仲だ・・」
それを知らずにジュリアの兄は・・・。 ジュリアの心の中に、知らずに必死に求婚し続けた兄の姿が浮んだ。 死ぬ間際に書いた遺書を見た記憶が蘇り、ジュリアは思わずに。
「なんで言わなかったのですかっ!!!! あ・・兄は、それさえ・・その事実さえ聞いていればっ!!!」
「すまない・・・」
苦しむ顔でハルフロンが、頭を下げる時。
それを見ていたKが。
「ジュリア、言うのは無理だったみたいだ。 当時のエリザベートとハルフロンには、言えない事情が在ったんだ・・」
ジュリアにはサッパリ解らない。 子供まで出来て結婚をしないなど・・・。
「解せぬっ!! どんな理由が在るのだっ!!!」
ジュリアの心に蟠る不信と怒りが言葉にて迸る。 Kは、口を噤みかけた苦渋のハルフロンを見て。
「ハルフロンは、当時はフラストマド王国で大學を修めた官僚期待者だった。 今の教皇王・エロールロバンナのお傍周りとして、法学職員に着いていた。 エロールロバンナは、当時は法務の管理長官。 つまりは、大臣と副大臣の下で、法務部のトップ」
「それは問題では無いだろうっ!!!!」
怒声のジュリアだが。
「いいや、それが・・・ある」
Kは、顔を覆うハルフロンを見て、続ける。
「当時の教皇王は、女性の教皇女王メリッサ。 彼女は、非常に美貌を好む人物らしかった。 男でも女でも、美しい者を傍に侍らせていたらしい。 エリザベートは、そのメリッサの一番のお気に入り。 だがこの女王メリッサは、自分の周りに侍らせた者の結婚は許さない悋気激しい性格だった・・・。 もし、あの当時で、ハルフロンとエリザベートとの結婚は、ハルフロンもエリザベートも国外追放級の怒りを買ったろう。 しかも、ハルフロンは孤立厳しい当時のエロールロバンナを支える歳の近いの唯一の男・・・。 エロールロバンナ以外の教皇王候補は、皆が地位意識過剰で独占的な者ばかり。 国民が、エロールロバンナの教皇王就任を期待している中で、エリザベートは自分の我儘を通す事を出来る人物ではない」
ハルフロンが、此処で呻く様に・・。
「ああ・・・何度・・・何度結婚しようと思ったか・・・。 エリザベートは・・私が、法務副大臣になって、エロールロバンナ様の・・教皇王に成られた時に・・結婚しようと・・。 まさか・・まさか・・身篭って・・・・あああ・・・」
堪えきれずにその場に崩れた。 床に頭部を擦りつけ、激しく慟哭して震える。
ジュリアは、自分の怒りと兄や父親の無念。 そして、二人で必死に堪えていたハルフロンの心に板挟みの念が生まれて言葉を失う。
Kは、ジロリとゴルドフを見る。
「しかし、お前の弟は全てを金で売った。 当時、メリッサの傍に居た美人達は、メリッサからの寵愛を失う事に怯えてチャグリンを飼い馴らした。 そして、エリザベートをチャグリンに調べさせて、ハルフロンとの関係を知る。 それだけじゃ無いな。 メリッサに、エリザベートの男の存在を囁き不審を買わせた。 エリザベートは、身と宿した子供を守る為に職を辞めようとしたそうだが。 その前に、メリッサからエリザベートを捕まえて詮議すると影の命令が出た。 秘かにエリザベートは、あの事件の日に掴っていたんだ。 メリッサは、チャグリンが連れてきたエリザベートが身篭っているのを知り、激高した。 そしてその身柄を有ろう事か・・、拉致したチャグリンに・・・くれてしまったのさ。 だろう? ゴルドフ?」
力の抜けたゴルドフは、覇気を失った顔でガクリと項垂れ。
「あのバカな弟は・・爵位を剥奪されても教皇庁の偉い奴等に取り入って居た・・。 あの日、仕事から戻ると驚く事に・・地下牢にチャグリンが居て・・。 俺に」
“アニキ、何時も迷惑掛けて来たから礼をするぜ。 すげえ~いい女が手に入ったんだ。 始末する前に楽しもうぜ”
「と。 何事かと思えば・・エリザベートだった。 だが、事を為す前にあのバカ、彼女の声を聞きたいと・・轡を外したんだっ!!!! 俺が・・・止めろ・・叫んだ時は・・お・・遅かった。 エリザベートは・・自決したんだ・・。 あああ・・・、あの時に、“何事か”と一時の興味に負けずに弟を斬るべきだったっ!!!!!」
長年に渡って苛み続けたゴルドフは、床に蹲る様に前のめりに崩れる。 ゴルドフは、その後に弟から後ろ盾のメリッサの存在を知らされ、役人としての正しい行動すら取れず。 言いなりに成って金を送金し続けていたと云うのだ。
漸く事情が把握出来たKは、それを見下ろして。
「そうか。 それで、チャグリンは強引にアンタを共犯にした訳だ。 その上で、逃亡を図って遠くから金をせびり続けたのか・・・」
ゴルドフの頭が、床荷に伏したままに大きく縦に振れた。
「おおお・・・こ・・こんな・・こんな事が・・・」
事実を聞いたロザリアは、余りの事実と嘆きに皺枯れた顔を両手で覆う。 権力と狂気的な欲望によって、自分の二人の子供は死んでしまったのだ。
その時だ。 其処に。
「みな、全て私の責任だ」
と、別の声が聖堂に響いた。 威厳を含む、男の大らかな声だ。
一同が声に見返す中で、Kは相手を見ずしてゴルドフを見下ろしながら。
「遅い、今頃。 エロールロバンナ」
ジュリアが、壇上に現れている教皇王・エロールロバンナを見るなりその場に平伏した。
他の皆も、その場に膝を着く。
教皇王エロールロバンナは、皆の目が集まったのに頷き。
「皆、身を戻すが良い。 今は、臣下の礼処ではない」
と、壇上から床に降り立った。
「陛下・・」
レイチェルが、思わず声を出す。
エロールロバンナは、ジュリアと一緒のレイチェルを見て。
「良い。 今日は、井出達が女の子らしくて良いな」
と、微笑んでから、Kに顔を動かして歩く。 長椅子の間を、ハルフロンの方に。
Kは、脇目にエロールロバンナを見て。
「今の言葉、自分に責任が在るって事は。 アンタ、あの時のなんか知ってるな?」
教皇王を前にしても、Kは姿勢を崩さない。
聖騎士が、Kに。
「貴様っ、陛下に対しその口の聞き方は何だっ!!」
と、声を出すのだが・・。
「良い、その者は我が命、この国の恩人なのだ」
と、聖騎士を窘めてから、ハルフロンの前まで来ると。
「ハルフロン、御主ににも謝らねばな」
臣下の態度のハルフロンは、涙を抜いてない蒼褪めた顔をエロールロバンナに向けて。
「な・何事で・・御座いましょうか・・」
エロールロバンナは、先ずハルフロンの眼を見据えてから、Kに目を動かして。
「そうだ。 私が、あの事件の数日前にエリザベートに言ったのだ」
“今暫くは、ハルフロンとの事は黙ってくれ。 メリッサ様が、せめて教皇王の位から退くまで、後2年は・・・”
「とな」
話を聞いたKは、エロールロバンナに目を向けて。
「ほお~、内部権力闘争の犠牲に成る可能性高いのに? 良く言えたモンだ」
エロールロバンナは、グッと目を閉じる。
「孕んで居るとは・・しらなんだ・・・」
ハルフロンは、その事実に打ちのめされるが如く俯いた。
其処に、遂に堪え切れなくなったロザリアが声を出した。
「おお・・・なんと云う事・・。 エロール・・・エロール・・・そなた、教皇王に即位する風当たりを避けるのに・・・我が子を・・・あああ・・」
泣き出したロザリアの声は、か細く老いて居ながらにして深い悲しみに打ちひしがれる母親の声だ。
エロールロバンナは、幼き頃からの愛称名で呼ばれた事に驚き顔をロザリアに。
ジュリアとレイチェルに支えられて、長椅子に座るロザリアは嘆く。
「あの御仁は?」
思わず問うエロールロバンナ。 何か懐かしい響きを含む声に心が震える思いが身体を貫いたのだ。
Kが、短く。
「知りたいか? 多分、後悔するぜ」
ハルフロンが、涙を堪える詰まる声で。
「お・恐らく・・エリザベートと・・ジョージ殿の・・御母上かと・・」
「なんと・・・」
驚く顔のエロールロバンアだが。
Kは、ロザリアが声を上げたのに黙る必要も無いと思ったのだ。
「そうだ。 あの姉弟の母親にして、50年近く前に行方知れずになったシスター・ロザリア・・・。 アンタの姉、その人さ」
「なっ」
「えっ」
「まさかっ!!!」
エロールロバンナ・ハルフロン、そしてゴルドフ。 名前を聞いて、驚き出す。
「50年前、スラムの男と愛し合い。 子を宿したロザリアは、スラムに消えて居たのさ。 自分の弟に、子供の未来を滅茶苦茶にされるとはな。 因果にも酷い事実も在ったモンだ」
吐き捨てる様に言い放つK。
エロールロバンナは、信じがたい事実に首を振り、震え出す声を絞り。
「う・・嘘・・では?」
ロザリアを見るKは、特徴的な指輪をしているのを顎で勺って。
「偉人・ロザリアは杖を持たず。 一族伝来の魔法の発動体を埋めた指輪をしていた。 あの指に填まる白銀製のエメラルドが填まった指輪・・。 御宅も一族なら聞いた事在るだろう? かなり有名な話じゃないか」
エロールロバンナが杖を持つ手を震わせて、恐る恐るの歩みでジュリア達の居る席の列に来ると・・。
ジュリアは、老母の右手薬指に填まった指輪を見る姿勢で、やって来たエロールロバンナに。
「陛下・・事実です。 百合の王冠を抱く宝石の装飾は・・・フューリナム家の・・家紋で御座います。 へ・陛下の・・」
「あ・・・あああ・・・わ・・私は・・・」
指輪を見たエロールロバンナが、俄に放心する様にして事実に衝撃を受けて虚空を見つめるままに、その場に砕けて行く。
「陛下っ」
「陛下っ!!」
聖騎士と、兵士がエロールロバンナに走り寄る。
ゴルドフは、自分が殺そうとした人物が誰か確信し。 Kを見上げた。
「お・・俺は・・危うく・・へ・・陛下の姉君を・・」
Kも、済ました眼差しでゴルドフを見返し。
「良かったな・・殺さないでよ。 一つ、罪は未然で終えた」
ゴルドフは、頷くようにその場に泣き出して平伏した。
ハルフロンも、教皇王エロールロバンナも、その場から動けなくなった。 拗れて捻れて絡まった糸を解いた真実は、永遠に苦しむ因果の巡り合せだった。
Kは、停滞する時を見て。
「ジュリア、動け」
と、静かなる激を飛ばす。
様々な事実に衝撃を受けたジュリアだが、Kの言葉に意志を貫かれた様にハッとした。 そして・・。
「レイチェル、ロザリア様を頼む。 私は、兵を連れてくる。 近衛聖騎士殿達にも動いて貰わねば成らないから、この場に居なさい」
と、ロザリアから離れた。 エロールロバンナを心配する聖騎士の脇に出て、
「陛下を見守ってくれ。 秘かに、手配をしてくる。 事が一気に知れては、混乱し兼ねない」
男性の聖騎士は、ジュリアを見返し。
「頼む。 陛下の身が気に成る故に、此処にて待つ」
頷き返すジュリアは、手早く動いた。 自分の悲しみを振り払う様に・・。
全ては、緘口令が敷かれて。 聖騎士の直轄指揮の下。 法務副大臣と、長官が、ジュリアの説明を受けて、ゴルドフとその他の縛られた者達の身柄を引き受けて詮議に掛かった。
ハルフロンは、自身知れなかった真実をKの持つ“真実の水晶”から知り。 深い衝撃を受けて部屋から出て来れなくなった。
記憶の水晶に拠る事実。
さて、20年もの長き間。 ずっと停滞した時間が動き出したのは、少し季節を遡る春先だ。
ジョージとチャグリンは、北の大陸に在るスタムスト自治国で遂に再会する事に成る。 森の中で再会し、ジョージはチャグリンに決闘を挑んだ。 労咳《肺結核》を拗らせていたジョージだが、その剣の腕は逆に長年の冒険者生活で磨かれたのか鈍っては居なかったようで。 決着は直ぐに着いた。
チャグリンを捕らえて本国に帰ろうと、ジョージは思い描いていた。 全ての調査を改めてしてもらおうと決めていたのだ。 だから、母より譲り受けていた記憶の石に、チャグリンが語ったその事実を見聞きして封じた。 チャグリンは、他にもメリッサが遣わした密書まで持っていたのである。 ボロボロに成っては居たが、密命文書としてエリザベートに不審容疑を掛ける為の文章だ。 万が一、誘き出すのに失敗した時に、権力を行使する事も厭わない証であった。
だが、マニュエルの森付近での事、咳き込み血を洩らすジョージの臭いを嗅ぎ付けたモンスターに襲われて、逃走を図ったチャグリンは食い殺されたのである。 密書も、その戦いの中で失ってしまった。
ジョージが、モンスターと苦戦の戦いをしている所に通り掛かったのがK。 難なくジョージを助けたのだが。 診て見たジョージの身体は、もう生きる力を失っていた。 街に連れ帰ったKは、血を吐いて咳き込むジョージの看病をしたが、もう体内が病気で滅茶苦茶に成っているジョージを救う手立てが無かった。 身体が、薬の力を吸い込む力すら失っていたのだ。
死を覚悟したジョージは、雨の日の午後。 Kを枕元に呼んで。
「す・・済まない・・。 たっ・・頼みが・・ある・・」
と、チャグリンの告白を綴じた“記憶の水晶”を渡し。 母親の事も何もかも語った。 その思いは、当時の闇に封印された姉の事件を正して欲しいと云うものだった。
14、追い込まれる者
Kは、夕方に成ってハルフロン大司祭の私室を訪れて、失意の彼を叱り付けた。
「ばかやろうっ!!!! ジョージの思いを知って何してやがるっ!!! 大臣集めて評議会する準備でもしやがれっ!!!!」
封印文書は、大臣の評議会と総括評議会に於いて承認されれば、その中身を再度調べられる掟が在るんだそうな。 ジョージは、それを願っていた。 幾度かジョージは祖国に帰り。 ジュリアの一族の仕打ちや、教皇女王メリッサの権力関係者周りが、何事も無かったかの用に権力の椅子に座っている事に強い憤りを覚えていたのだ。
Kに叱られ、ハルフロンは嘆きの腰を上げた。 Kが思うとおり。 これは、残された者が責任を持って対処すべきであり。 ダラダラとやっている問題では無かった。
表の教皇庁は、何やら一部の聖騎士や大臣達が慌てていると思われるぐらいだったが。 裏側では、もうゴルドフと昔の事件に付随した騒ぎで、別の何かが出やしないかと大臣クラスの面々は躍起に成って動き出す。
その日は、大臣達は教皇庁に泊り掛けに成った。 無論、Kを含めた全員がである。
ジュリアは、聖騎士として動く傍ら、Kと一緒に事情聴取に向かったり、ハルフロンの元に赴いて、他の大臣との連絡の繋げ役をしたりと休む間が無かった。
緊急時に措いて、要人達が集まる特別な塔。 教皇庁の北東に位置する“危亡の塔”に、夕方から全ての大臣・長官・などが集まり、大臣達が聖騎士などを通達係りに遣って、慌しく相談や密談を行う。 無論、ハルフロンやジュリアも。
レイチェルは、エロールロバンナとロザリアの双方の間に入って宥めていた。 ロザリアは、もうエロールとは姉弟とは接することを望まず。 エロールロバンナは、逆に姉に戻って欲しいと願う。
子を失った母親の悲しみは深く。 知らずとは云え、利用した相手が実の姉の子で、事件に巻き添えにさせた事実は拭えない。
開けては成らない蓋を開けたような・・・そんな様相に変わり出す。 だが、Kは開いた。 いや、暗躍した者がのうのうと蔓延り、傷ついた者達が放置され、そして全てを有耶無耶にするのが気に入らなかったのかもしれない。
深夜。
大臣達は全員一致で大臣評議会を開くことを了承した。 何より、シスター・ロザリアの子供であるエリザベートが、実はゴルドフの弟に拉致されて自決した事実と。 ジュリアの父や兄が犯人と決め付けて、ハイリッヒの死と父親の解職処分として終わった判決文は、変えなければ成らないと云うのは全員が同意した所だ。
しかし。
難色を示すのは、旧教皇女王・メリッサの息の掛かった者が多く残る総括部。 中でも、総括評議会は絶対に開かせないと言い張り。 封印文書の開示は認められないと言い張るのが、大臣などの間に入り、税金の運営や議会を取り仕切る総括府の長、マルフェイスである。
ゴルドフの逮捕で、昔のあの事件が浮き彫りに成ると悟った彼は、もう気が狂ったかの如く怒り。 教皇庁評議会の開催にケチを付けて来た。
青い礼服に身を包むジュリアは、聖騎士二人にKを伴って真夜中も過ぎた遅くにマルフェイスに掛け合った。
嘗ては、ジュリアの父親が勤めていた総括私室と呼ばれる広々とした部屋。 階段状の高みに設置された総括の座る半円円卓デスクから、ジュリア達は8段の階段下に見下ろされる形で交渉する。
だが、あの干からびそうなマルフェイスが、烈火の如く怒り。 掟に背いて封印文章を軽々しく開示するなど容認出来ないと言い放つのである。 ジュリア達は、事のあらましを説明し、総括評議会を開く様に説得を試みていたが。 全くの平行線状態だ。
そこに、黙って聞いていたKが口を開いた。
「おかしい話だ。 コイツは、脳ミソが腐ってるのか?」
と、声を・・。
「何者だっ!!! 私に口答えする気かぁっ!!!!」
マルフェイルスは、法衣を纏っている姿で席を立ち。 Kに激しい言葉を投げつけた。 何時もなら、立っても風采の上がらないマルフェイスだが、今は悪魔の如き顔で恐ろしい雰囲気さえ漂う。
ジュリア達も、マルフェイスにこんな怖い様子が隠れているとは想いにも寄らなかった。
しかし、Kは階段前に歩み出て。
「封印文書は、その内容が世間に知られると国の信用に関わるから隠す仕様だ。 その意味は、国家を脅かす真実について。 だが、アンタは真実が明らかに成ったのに、それを書き換える事をさせない。 その答えは・・、御宅も昔に一枚噛んでる・・・って事か?」
と、マルフェイスを揺さ振ったのである。
「うぬぬぬぬ・・・何様だキサマっ!!!! この私を誰だと思っているんだっ!!!!」
マルフェイスの様子が更に険しく成った。
しかしジュリアにして見れば、昔に父の事を告発したマルフェイスが未だに疑わしかった。
「マルフェイス殿っ!!! 元は、私の父を財務違反・資金流用罪で告訴したのはキサマだったなっ!! まさか、御主もあの時の一味なのかっ?!!!」
「なっ、何を申すかぁっ!!!!! ジュリアっ!!! お前の父親が多額の不正資金の流用をしたのは確かだっ!!! 今更っ、私に責任転嫁する気かあっ?!!!!」
見てる聖騎士の二人が、どうしていいか解らなく成った。
Kは、マルフェイスに背を向けると。
「ジュリア、もういい」
「なにっ?!!」
急に背を向けてKが去る素振りを見せたのに、ジュリアは驚いた。
Kは、半身でマルフェイスを見上げて。
「オッサン、悪いがな。 何時までも其処に座れないぞ。 多分、2・3日の運命だ」
と、言い放つ。
マルフェイスは、その言葉に過剰な反応で。
「何を抜かすかっ!!!! 根拠が何処に在るっ!!!!」
するとKは、口元に笑みを浮かべた。
(な・・なんだ・・この余裕は・・・)
ジュリアは、Kにはもう全て解っていると云った余裕が見えたのに理解が出来なかった。
Kは、睨むマルフェイスの目を見返し。
「お前、現・教皇王エロールロバンナの姉の実子が事件の被害者だって知らないのか?」
マルフェイスは、その言葉にギョっとする。
「なんだとっ?!!」
聖騎士二人の手前で、ジュリアはKに寄って。
「それはまだ・・一部しか知らないぞ」
Kは、ジュリアの近くに目線を動かして頷き。 それから、またマルフェイスを見ると。
「マルフェイス。 恐らくお前が渋っても、気を取り戻した教皇王はこの件を再検討捜査にするだろう。 内容が内容だからな。 お前に疑惑も在るし、事件の真実が解っても渋る以上。 お前に何らかの関わりが在るつ考えるのの妥当だと思うが?」
マルフェイスの顔が、見る見る苦渋の満ち始める歪んだ表情に変わり出す。
Kは、それを見上げて確認し。 口元にまた笑みを浮かべて・・・。
「お前にまで影が在る以上、大臣達では荷が重いか? なら、面白い人物を出してもいいぞ。 お前が絶対に逆らえない、二人の人物の片割れだ」
ジュリアを含めた聖騎士3人が、その話にKを見る。 総括が逆らえないのは、後にも先にも教皇王のみと思っていたからだ。
だが。
「ふざけるなっ!!! 二人も居るはず・・・・・」
と、言いかけたマルフェイスの脳裏に、ある役職が浮んだ。
(あ゛・・・)
弾劾統務長官。 教皇王の次の力を持つ隠れた役職である。 しかし、誰がそうなのか。 本当に実在しているのか・・。 マルフェイスは見たことが無かった。
Kは、声が止まったマルフェイスに一瞥すると、背を向けて。
「教皇王が事実の衝撃で動けない今、代わりが必要だろう? お前の首も、それまでだ」
マルフェイスは、怯える中で苦し紛れで思いついたままに、
「お前の様な輩があの人物を知っている訳が無いっ!!!! 恐喝もいい加減にしろっ!!!!」
と、張り裂けんばかりの奇声染みた声で怒鳴る。
しかしKは、ジュリア達に撤収を促しながら。
「アホ~。 その事実は、本来は教皇王とアンタしか知らない筈だし。 その事柄に着いては、一般的に口にしては成らない緘口の法律が定められているだろうに。 その、“俺の様なヤカラ”が知ってる訳無い。 普通なら・・・な」
マルフェイスに向けたKの口元が、不気味に微笑んだ。
マルフェイスの眼が、眼球が零れ落ちそうに成る程に開いたのは、Kの云う意味を理解したからである。 今、教皇王は部屋から出て来れない様子だ。 しかも、議会や評議会も影ながら混乱している。 其処に、総括の自分が混乱を収拾する処か、拍車を掛ける行動をしている。 もし、包帯男が、本当にアノ人物を知っているとして相談したならば、動き出す可能性は確実的だ。
「まッ待てぇっ!!!!!」
階段を降りて追い駆けようとしたマルフェイスの視界の中、Kとジュリア達は廊下に消えた。
「あああ・・・・うぬぬ・・・」
歯軋りをして切羽詰った顔のマルフェイスは、その場に崩れた。
さて、夜中の人気の無い暗い回廊を歩むKと、聖騎士3人。
ジュリアは、意味がまだ理解出来ず。 先頭を歩くKに歩み寄って。
「お主、一体何者なのだ? 教皇王様とハルフロン大司祭様以外で、他に誰と知り合いなのだ」
赤い絨毯が真ん中に敷かれた回廊は、高層の塔と塔を結ぶ為の物だ。 今は、雨が降り出して、窓から聴こえる雨音がする。
歩くKは、どうせ解る事と思いながら。
「これは、御宅達の国の法律で禁じられている。 だから、表立って喋れば、俺達冒険者ですら罰せられる以上。 アンタ等教皇庁内部の人間なら、その課せられる罰は非常に重い」
と、魔法陣床の前に辿り着き、Kは扉を開いてジュリア達を見た。
「中で。 ただ、簡単に他に口外すれば、自分達の地位を無にするのだけ覚悟しろ」
と、魔法陣の上に向かう。
「さ、口外しない自信の在る者だけ入れ。 そうでないなら、此処で一先ずお別れだ」
鎧を纏わないままに、青い聖騎士の紋章を背に入れた、ピアリッジコートと呼ばれる礼服を纏うジュリア。 ドレスとコートを上品に合わせた貴族服姿のジュリアは、躊躇無く迷わず中に踏み込んだ。 スリットの入る膝から下の足が、歩む度に宵闇からでも覗ける。
しかし他の二人の騎士は、まだ成り立ての若者と、苦労人の年配者。
年配者の方が、鎧の音を鳴らさずのままにジュリアへ。
「ジュリア殿、我々は其処まで知っても立ち振る舞いが出来ぬ。 公爵家のそなた以外、聞かぬ方が良いと思う。 我々は、権力に勝てる器では無い」
ジュリアは、その判断に何も違和感は無かった。 爵位の低い者や民間出の聖騎士は、只でさえ大変な格差社会の中を渡り行かなければ成らない。 政治の闇を知って絶望したり、危険に落ちる事もままある。 知らないままに居た方がいい時も存在するのだ。
「解った。 では、引き続きハルフロン大司祭様に付いて、命を受けてくれ」
ジュリアが二人に云えば。
「ああ、ジュリア殿も気を付けてな」
「すみません」
返す二人に一瞥したKが、ジュリアのみが入ったドアを閉めた。
・・・・・。
さて、真っ暗に成った中で二人きりに替わり。 Kは、ハルフロン大司祭と教皇王エロールロバンナに出会う経緯を語る。
Kがまだ、闇の冒険者をやっていた頃だ。 ある仕事で、護衛に付いて他国へと行く爵位のある人物を護送する仕事を請けた。 任務は成功したが、その後にその護送した人物は殺された。 更に問題は、K自身が命を狙われた事に端を発する。 その内、貴族社会内部にある怪しい動きが、教皇王の暗殺と、国家の要人の総入れ替えを目論んだ陰謀で在る事実にKは辿り着く。 手始めに、無実の市民やスラムの人々を攫って資金源を作っていた、暗躍する悪徳商人を叩き潰した。 そして、教皇王暗殺を請けた暗殺者達を全滅させて。 その全てを秘かに知り合ったハルフロン大司祭を通じて、教皇王と、この首都に居る弾劾総務長官に伝えたのだ。
ジュリアも、朧気に聞いた事のある弾劾総務長官の役職に驚いた。
「お主・・そんな事に・・・」
Kは、魔法陣を動かさずに止めて、壁際に腕組みして寄り掛かり。
「あの時、教皇王暗殺の首謀者は、メリッサの妹・・、セルフォワージュが画策していた」
「なっ・・なんだと・・・、あの“鉄女帝”と囁かれた傑女様ではないか・・」
「はっ、“悪魔女帝”だぜ。 姉譲りの美男好きでさ。 人買いに手を貸して、気に入った若いのを痛振り・嘗め尽くして、飽きたらバッサリ殺してた。 ありゃ~モンスターだったね。 人間の・・」
Kは、記憶を思い出しても身震えが来ると見せる。
暗闇に眼が慣れて来たジュリアは、何かを感じて。
「お・・お主・・まさか、斬ったのか?」
Kは、平然と。
「ああ。 鞭を使えば君より強かった。 だが、エロールロバンナには、あの悪魔を殺せない。 あの男は、優しすぎる。 だから、ハルフロンの命で、俺が斬った。 生かしても、のうのうと生きて犠牲を増やすだけだ」
そう語るKの瞳を見るジュリアは、女としてKが可愛そうに思える。
(この男、人の為に一体どれだけの業を肩代わりしてやって来たのだろう。 貴族の罪や汚れの掃除は、貴族と国が成さねば成らぬのに・・・。 哀れ・・哀れ過ぎる)
恐らく、Kの歩んだ道でこんな業は一度や二度では無い筈だ。 人の汚れを掃除して、手を罪に染める。 自分の為など、殆ど無い筈だ。
「済まない・・我が国の恥の尻拭いをさせたのだな・・」
謝られたKは、寧ろあっけらかんとして。
「ま、金はたんまり貰ったし。 他の仕事で、時には迷惑を掛けてやろうかと何時も考えてるからいいがな。 でも、ジュリアの様な美人に謝られるのは、悪い気持ちしないね」
と、最後の言葉尻で、悪戯っ子の様に口元を微笑ませるKが、ジュリアには可愛く思える。
「そうか。 私も、お主の様に出来た男に頭を下げるなら・・文句も無いわ。 マルフェイスの様な輩には、疲れるがな・・。 で? その、弾劾総務長官にお会いに成るのか?」
Kは、真っ暗に近い中で、虚空を見つめると。
「なあ・・・ジュリア・・」
「ん?」
「いや・・な。 二十年前、あの事件の発端がメリッサに在るとすると、だ。 君の父親を失脚に追い込んだあのマルフェイスとか言う男・・一枚噛んでる気がする」
ジュリアも腕組みし。 Kと同じく壁に凭れて。
「うむ。 私も、そう思う」
Kは、ジュリアを横目に見て。
「君の父親が黙っていた理由・・・知って大丈夫か?」
そのKの言葉に、ジュリアは何か不思議な思いがしてKの視線に自分の視線を合わせる。
「どうゆう・・・意味?」
「いやな。 君の父親が、どうしても君に話せなかった・・。 マルフェイスを捕らえると成ると、その理由まで掘り下げるだろう・・このまま行けば。 だが、君の家はもう名誉は回復する。 その、言えなかった理由・・・知ってどうこう成る問題じゃないし。 此処までで、いいんじゃ~ないかなと・・。 後は、俺とハルフロンや教皇王などと秘密裏にやって然るべきと思う」
「・・・わ・妾に、此処で身を引けと?」
普段使わない位の高い女言葉に変わるジュリア。 少し、冷静で居られなくなっている様にKには見える。 何処までも突っ走ってしまいそうな雰囲気が見え隠れしたのを、Kは感じ取って居た。
「いや、表向きの仕事を片付ければいいと思うが。 踏み込み過ぎると、いい物見ないぜ・・。 経験上だがな」
ジュリアは、Kの言わんとしている意味が、今、解る。
「お主、もしや・・・父上の晩年の葛藤に妾が・・・関係あると? 兄の事や、濡れ衣だけでなく?」
Kは、ゆっくりと頷く。
「普通、さ。 自分の家の没落の原因は、当主に教えるだろう? 因縁だし、根源だしな。 何より、理由だ。 だが、君の父親は頑なにそれを秘密にし続けたのだろう?」
「・・・あ・うむ・・・」
ジュリアの思う最大の謎は、父親が疑いを掛けられて以後。 無実は主張したが、徹底的に争わなかった事だ。 何か、教皇女王メリッサに弱みが在ったのか、それとも重大な過失が在ったのか。
Kは、ジュリアを見据えて。
「汚れるのも、暗部を知るのも一部でいい。 本人が知らなくてもいい事だってあるさ。 俺は、これから一人で動く。 ジュリアは、教皇王とハルフロンを助けて、家名に付いた泥を拭え」
ジュリアにすると、Kの言い方には何か自分に対して情が滲むと感じた。 だからか。
「考えておく・・・。 だが、どうしても知らずに居れない時は・・教えて欲しい。 父と兄の苦悩は、妾の苦悩だ。 私は、当主を継いでしまった・・。 だから」
凭れるのを止めてKは、魔法陣の中央に移動して。
「聞いて後悔するくらいなら、聞くな。 泣かれても困るんだ。 あの、エロールロバンナみたくな」
と、ぶっきら棒に言う。
弱く笑うジュリアは、頷き。 壁から離れて。
「了解しておる。 伝説の勇者殿」
「はっ、勇者ぁ?」
Kは、ジュリアの褒めに呆れて下に動かす為に出っ張りを踏んだ。
下がる魔法陣。
しかし。 雨が降り頻る外へ、教皇庁より急いで走り出す馬車が見える。 黒い鉄色の強固な印象の馬車の車体側面には、杖を逆さに、した紋章が掘られている。 マルフェイスの家紋だった。
次話、数日後に掲載予定
どうも、騎龍です^^
最近、台風で天井が壊れたり、風を引いてインルフと疑って見たり^^;
何もかもが怖い^^;
さて、次でK編は終わると思っています。 (内容が濃すぎるので、エラく長い話に成る可能性が・・・) *>*
更新が数日遅れるかもしれませんが、完結話に致します^^
ご愛読、ありがとうございます^人^