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エターナル・ワールド・ストーリー  作者: 蒼雲騎龍
K編
76/222

K特別編 秘宝伝説を追って 第一部 ③

          K長編・秘宝伝説を追い求めて~オリヴェッティの奉げる詩~第1幕




               ≪不思議な少年は、驚きの人?≫





オリヴェッティは、緩やかに目を覚ました。


(あ、朝・・・)


隠し部屋の豪華なダブルベットに寝ていた彼女は、白いシーツの上で身を起こす。


(・・・寝てる)


ソファーに寝ているKは、動かない。


クラウザーの姿も無い。 おそらく、船長室に戻って居るのだろう。


起きたオリヴェッティは、黒いカーディガンだけ肩に掛け。 船長室に向かう廊下へと出て行く。


(昨日は、夢を見てるみたいだった・・・)


いままでどう足掻いても解らなかった事が、Kとクラウザーに由って次々と解り。 今まで行く道が見えなかった闇の様な道筋に、一筋の光明が射した様な思いがする。 心の震えが止まらず、ベットに横に成った後に涙が溢れた。


暗い廊下に入り、左に曲がって少し歩くと。 上りの階段が見えた。


(大丈夫かしら・・・)


船長のクラウザーしか知らない部屋に泊まっている以上、どう身動きしていいのかも解らない。 だがら、階段上の明るい船長室と思われる部屋へ、階段の手摺りが見える手前からゆっくりと上に上がり出す。


「・・・」


柵状の手摺りの隙間に顔が届き、オリヴェッティは部屋を覗いた。 やや狭いが、一人の部屋としてはまぁまぁと云う広さの部屋が見えた。


机を前に、背凭れの高い椅子に座っていたクラウザーは、ヒョッコリと顔を出したオリヴェッティを見つけ。


「おう、どうしたお嬢さん」


クラウザーの態度が普通なので、部屋に上がったオリヴェッティ。 クラウザーの前まで来て、


「あの、食事やトイレとかどうしたら?」


すると、椅子をオリヴェッティに向け大らかに構えるクラウザーは。


「自由でいい」


「え? あっ、でも・・・」


「大丈夫だ。 部屋の入り口は、大波の揺れの影響で壊れたと云えば良い。 今回の航海が終わったら、どうせ船体自体を改修に回すからな。 部屋との出入りだけ派手にしなければ、それで構わん」


「・・そうです・・か」


曖昧な返事のオリヴェッティの気持ちを察したクラウザーは、柔らかく笑い。


「ま、あんまり気を詰める必要は無い。 ただ、航海日程が延びる。 一月ばかり延びるから、暇を持て余す覚悟だけはしておいてくれよ」


「え? ギャンブル王国・シェバステグナー(巨大な盛り場の意味で、王国を示す通称の一つ)を出た以上。 真っ直ぐカクトノーズへ行くのでは無いのですか?」


クラウザーは、雪が舞う窓の外を見て。


「それがな、ツキの無い事に、予定より早く寒波と嵐が降りて来た。 北の大陸の最西端は、季節によって海が凄まじい変化を見せる。 このまま西回りでカクトノーズの首都に向かえば、この大型客船でも無事では済まん」


「海が・・そんなにですか?」


「おうよ。 昨日、君が寝た後。 あの包帯カラス(ケイ)と話し合ってな。 “シュウェーブ・バーンテック”が起こる可能性が、非常に強いと判断したまでよ。 乗客を殺す訳にも行かぬしの」


「シュウェーブ・バーンテック・・。 あの、3大陸の彼方此方で、挟まれた海域でのみ起こると云う、大渦潮の事ですか?」


「あ~、それは違う。 強風と海流のぶつかり合いで出来る巨大な渦潮の事は、一般に“ヴォルテクサー”と呼ばれている。 しかし、この先の海域は、3つの海流と吹き荒れる強風がぶつかる影響からだろうがな。 巨大な渦潮ヴォルテクサーが起こっては、大波に押し込まれて打ち消される。 その繰り返しから、揺り動く波が激しくぶつかって、爆発する様に突き上げる現象が起こる。 それが、“シュウェーブ・バーンテック”だ。 大渦潮に入っただけでも、凄まじい大波と渦で揉み砕かれてしまうし。 なんとか渦を避けても、鋭く大きな槍と変わらない波の突き上げが、激しく海面を襲う。 そんな場所に船が入ったら・・、解るであろう?」


「はい・・。 どちらにしても、船は大破しますね」


「そうだ。 こんな寒い海で、その様な場所に投げ込まれたら、人など瞬時に死んでしまう。 だがら、来た大陸の沿岸を沿うルートを逆戻りして、マーケット・ハーナス方面から南下する計画に変更した」


「なるほど。 それでは、日程が更に一月はかさみますね」


「あぁ。 先ほど、ワシ等の船より前に旅立った船が、こちらに引き戻して来た。 伝書鳩で交信をして見たら、どうやら、相当に波が荒れていたとな」


「そうですか、安全は何よりも大事ですものね」


「ま、秘宝は寝て待て。 だな」


オリヴェッティは、了承をして。 直ぐに。


「あの、只の間借りでは悪いので。 代わりに、何か手伝えませんか? 下のお手伝いとか、私で良ければ致しますけれど」


「おう。 なら、各部屋の清掃でもしてくれるか? 老婆と若い娘の二人でやってるから、結構大変なんだ」


「こんな大きな船を、たった二人でですか?」


「あぁ。 普段は、客が居る部屋だけだからな。 多くても、半分と埋まらない。 だが、引き返せば、客の数は4割ほど増すだろう。 新たに応援を雇うにしても、クルスラーゲの交易城塞都市、“クルーセルダシア”にまで戻る必要が在る」


「解りました。 直ぐに、お手伝いさせて下さい」


こうして、オリヴェッティは働く事に。 のんびりするKとは対照的で、室内清掃の女性二人と共に、和気藹々と暇を潰したのである。 二人は、祖母と孫の間柄。 クラウザーの知り合いで、働かせて貰っているとの事だった。


泣く子も黙る海の兵のクラウザーの紹介と在り、オリヴェッティに変な色目を使う船員も少なく。 夜になれば、クラウザーとKの苦労話や、経験談を聞ける。 オリヴェッティにとって、何とも穏やかで心地の良い数日だっただろうか。


穏やかに成ったオリヴェッティの顔は、微々たる変化を見せ始めた。 美しさと云うべきか、気品が見え始めたのである。


クラウザーは、言わぬが不思議だった。 彼女に手を出す事も無く、飄々と生きる影の男が・・。 確かに、変わっていたのである。




                       ★



それから、10日後。


北の大陸の南岸を、一路東へと逆戻りし。 ギャンブル王国の首都を経由して、宗教王国クルスラーゲの交易都市である、クルーセルダシアにまで戻って来た。


港に船が碇を下ろすと、大勢の客が降りた。 補給と船内清掃。 そして、これから先の航海の日程を、停泊する各船の船長達が話し合うなどの用事が多く。 クラウザーの船も、3日間の逗留が決まっていた。


さて。 過去に例を見ない最大規模の大船団の船長として、大商人にも引けを取らない莫大な財産を築いたクラウザーだが。 その財産の半分以上は、個人的に随分と散らしている。


例えば、こうゆう不測の事態が起こると、一番大変なのは地下に泊まる者達。 ゴロツキなどはいいが。 世界を回っては、日雇いの鉱夫などで生きる者や、貧しい移民は生活費に困る。


クラウザーは、こうゆう時。 貧しい者には身銭を与え。 食料補給と入れ替えで捨てる物を、無料で料理として振舞うなどをする。 クラウザー自身が、非常に苦労していた一時を忘れていないからだ。 ケチな船長とは違うから、尚の事好かれるのであろう。


街に散って行く人々、船に残る者達それぞれに。


船員は、交代で船を見守る警備に付く。 港を守る役人3人も応援に来て、逗留の準備が整う。


良く晴れた冬晴れの下。 冷たい風に吹かれ、Kは甲板に居た。 高い船体の上からは、港を一望出来る。


そんな彼を探し、甲板に出て。 Kを見つけたオリヴェッティは、甲板を歩きながら。


「ケイさん、街へ出ますか?」


冬風に前髪を揺らすKは、オリヴェッティに向く事も無いままに。


「あぁ。 どうだ、斡旋所にでも行くか? クラウザーの加盟は後に、先にチームを結成するのは構わないぞ。 誰か、一緒に加えられる者も居るかも知れんし」


「はい。 私も、それを考えていました」


遣って来たオリヴェッティに向くKは。


「そうか。 クラウザーは、チームの名前なんかに拘りは無いとさ。 注文を付けるとしたら、俺のリーダーだけは嫌だとよ」


と、笑う。


オリヴェッティは、困った笑顔で。


「そうなると、私がリーダーですか」


「当然だろうに。 財宝を求めるのは、君とクラウザーだ。 俺は、探す手伝い人。 浮浪者と変わらないゼ」


オリヴェッティは、こんなに知識の深い浮浪者が居るものかと呆れてしまう。 だが、Kに感謝してる事には変わりは無い。 お陰で、クラウザーの様な素晴らしい人物にも逢えた。


「では、早速船を下りましょう」


「あぁ」


船体脇に掛けられた移動階段を降り、港に降りた二人。 積荷を運ぶ馬車や、滑車付きの台に物を乗せて運ぶ人が多く見られ。 その間を縫う様に、冒険者や旅客が移動している。


Kは、オリヴェッティに。


「斡旋所の在る場所は、解るか?」


「ええ。 実は、シェバステグナーで船に乗るのでは無く、此処で乗ろうとしたんです。 ですが、新米の方や、仲間を募るチームが居なくて・・。 もう少し先にまで行って見ようと、乗船を止めたんです」


「そうか。 なら、案内は不要だな。 ま、カクトノーズまで無理して仲間を増やす必要は無ぇ~し。 クラウザーは、ああ見えて片手剣を結構扱える。 二人だけの結成でも、十分だ」


「はい」


大きな船着場を幾つも持った港を行くと、なだらかに蛇行して上るレンガ舗装の道に為る。 クルスラーゲの南部沿岸は、神々の戦いの時に。 大地震とハリケーンに因る津波で、岸壁から内陸に伸びる山が削り取られた台地と言い伝えられる通り。 非常に国土が凹凸している。 平面の様な土地でも、高台から見下ろせば斜面であり。 土が非常に固く、水捌けの悪い場所である。 街や村なども、そうした土地に合わせて作られている為、非常に坂や段々が多い。


オリヴェッティとKの少し前で。


「しかし、馬車が無いのは不便ね、アナタ」


「あぁ。 まぁ~良い運動だと思って行こう」


貴族風のドレスと礼服に身を包む夫婦が、斜面の坂を上りながら言い合っている。


オリヴェッティは、Kに。


「此処の斜面では、港で動く馬車が消えるのが不思議ですね」


「あ? あぁ、馬車か。 向こうの岸壁に空いた洞窟の奥から、移動魔法床で上に上げてる」


「あら、知らなかった」


「クルスラーゲ産の馬は、早く走るのには適すがな。 馬力の弱さと、足のモロさもピカ一。 この急な坂を行かなくて済む様に、そうしてるらしいな」


「はぁ~、勉強になります」


乾燥する冬なのに、大地まで乾燥して硬い分、冷えだけは足元から上がってくる。 旅人や旅客は、暖かい場所を求めて足早になり。 海からの突風が吹く中で、女性は皆スカートを抑え。 どうも歩きずらそうな様子だった。


Kは、髪やスカートまで抑えるオリヴェッティを見て、


「女は、そうゆう所、面倒だな」


「ですわ」


切り立った岩盤の壁と海に面した岸壁に挟まれた坂道を上りきると、レンガ造りの建物が視界に飛び込んで来る。


すると。


「久しぶりの地べただ」


「そうだね」


とか。


「ねぇ~、飲みにいこ~」


「いいな。 クルスラーゲって、ワインが有名だったよな」


とか。


「少し見物して行くか?」


「いいわね」


「此処って、大きい都市だからな。 色々、見物出来る名勝とかありそうだ」


など。 上りきった者達が、それぞれに話し合いながら街中に散っていく。


Kとオリヴェッティは、開けた広場に出て。 活気が喧騒と成って聞こえる中。


「ケイさん。 チームの名前は・・・本当に自由でいいのですか?」


「あぁ、君がリーダーだ。 好きに付けてくれ」


「はい、では行きましょう」


行き交う馬車や人を避け、広場を突っ切ると、緩いアーチを描いた石橋が見える。 橋の下には、また広場や街並みが見え。 街が複雑な段を重ね、道が入り組んでいるいるのだと理解できるのだった。


馬車に追い抜かれながら、橋を渡ると。 ドーム型の丸い店の前に、冬でも咲く花の小さな花壇を設け。 庇代わりの楠が、日陰を作る店が見えた。 その次には、橋から末広がりで奥へ奥へと左右に街並みが広がり、幾つも分岐した道が、複雑な街の中へと伸びてゆく。


右手の店沿いに、奥へ行くと。


【出会いの酒場・ダブルブッキング】


と、看板を掲げた3階建てのレンガ造りの店が見え。 その隣は、宿屋街に入る入り口だった。


オリヴェッティは、迷わずその酒場へ向かう。 Kもまた、何の異論も見せない様子。


冷たい風の吹く街から、酒場に入れば。 昼前にも関わらず、結構な人数の客が居る。 カウンター前では、冒険者や旅人が多く。 吟遊詩人や踊り子の姿も見られた。 港に戻った船からの客が、暖炉の在る酒場へと雪崩れ込んだ様だった。


オリヴェッティは、前に来た時よりも活気溢れる店内に、少し目を見張った。


一方で、Kは。


「随分と騒がしいな。 ま、酒場・・・」


と、言葉と共に一方向に顔を巡らせた所で、何故か止まる。


オリヴェッティは、Kに。


「ケイさん、何か食べますか? 朝からまだ紅茶だけでしたよね?」


と、云うと・・。


Kは、オリヴェッティに。


(なぁ、風のエネルギー感じないか? 風のそのもののエネルギーだ)


と、何時の間にか顔を近づけては、そう囁いて来る。


「え?」


顔が間近になったので、思わず驚いたオリヴェッティ。 焦って顔を離し、店内を見回しながら・・。


「あ、いえ・・。 外の強い風が・・・」


と、言い掛けたのだが・・。 Kが見た方向と同じ所で、ピタリと顔と言葉が止まる。


「あ・・、あの方。 ローブの上からマントを羽織ったあの方から、風のエネルギーのそのものの様な・・。 純粋なエネルギーを感じますわ。 なんだか、とても微かな感じなんですのに・・」


Kは、オリヴェッティに。


「待ってろ」


と、云うと、その人物に近付いていった。


入れ替わり立ち代り、果汁や紅茶や酒を貰う客がごった返すカウンター中央。 その人の溢れ動く所から右に少し離れた場所に、不審なエネルギーを発する何者かは居た。 カウンターに向き、Kには背中しか見えない。 白いマントに、青いローブを羽織り。 ローブのフードを深く被る何者かは、グラスに入った黄色い果汁を飲んでいた。


Kは、その人物の右脇に立ってカウンターに就くと。


「オメェ、何で此処に居る?」


と、いきなりの伝法な言い方をしたではないか。


すると、フードを被った人物もKに向き。


「ケイさんに会いに来た~」


その声は、若々しい少年の声で。 言い方は、親しげである。


Kは、頭一つ低い相手に向き、やや目を細めては。


「お・ま・え・なぁっ。 4・5歳のガキが、ノコノコ一人で出てくるなよっ」


と、声を抑えながらも叱る様な口調で言う。 どうやらKは、相手を解っている様子。


すると、相手の人物はKにしがみ付き。


「ねねっ、コノ果汁代、奢ってぇ。 お金持ってないし~、丸一日飛びっ放しだったの」


Kは、呆れた目で相手を見つめ。


「お前、端っからそのつもりだったのか?」


「うん。 てか、ケイさんの乗ってる船が港に着いてて、ケイさん甲板に居たからさ~。 酒場で待ち伏せしてみた~」


「なぁっ・・。 通りで、なぁ~んか偉い力を抑えたエネルギーが匂ってると思ってたら・・。 お前かよっ」


「ねぇ~ねぇ~、ケイさん。 一緒に、ぼ~けんしよ~よ」


そう強請られたKは、急に頭痛を催し。


「あぁ・・、最悪のお荷物だ。 つ~か、お前の母親は、この事知ってるのか?」


「うん。 ケイさんの所に遊びに行くって、デンゴンをモンスターに頼んで置いた」


ギョっとしたKは、なんともいい加減な伝言だと恐ろしくなった


「バッ・バッカたれ。 頼んだって、ガルーダか誰かにか?」


「おい~」


軽いノリで云う少年の様な人物。


Kは、完全に力が抜けて行く様な疲れを覚える。


(おいおいおい。 コイツの居ない事知った母親が、まさか人里襲うとか止めてくれよ・・・)


Kは、起こり得る事態を急速にアレコレ想像しては、相当厄介な事まで思い浮かび、背筋が寒くなる。


Kと何者かが、なにやら親しげに話し始めた様子を見たオリヴェッティは。


(知り合いなのかしら。 もしかして、駆け出しの誰か?)


と、思い。 二人に近付いて行く。


さて。 若い声の相手と本気で話し始めたKは、流石にやや怒り気味に。


「お前、マジ帰れよ。 面倒事に成ったら、どうする気だ?」


「だいじょ~ぶ。 ケイさんの事だけは、ママも信用してる」


「タレバカっ、そうゆう問題じゃねぇっ」


其処に、オリヴェッティが。


「ケイさん、この方とはお知り合いですか?」


と、間近に遣って来る。


その声を聞き、オリヴェッティへと振り返る何者かは、指でフードを上げた。 そして、オリヴェッティを見ると、


「うわぁ~、びっじ~ん。 ケイさん、酷いなぁ~。 ポリアさんが居ながら、新たにこんなキレ~な人をぉぉぉ~」


Kは、ポリアも彼女じゃないので。


「おいおい、勝手な誤解すんな。 って、何でお前がポリアを知ってんだ?」


「話せば、ヒジョ~に長いッス」


何者かに、“美人”と評されたオリヴェッティだが。 その何者かを見て、


「まぁ・・」


と、逆に目を奪われた。


フードを上げた相手は、15歳をどうかと思われる若者だった。 だが、白い女性の様な肌をし、蒼い髪は長く、背中の服の中にまで伸びている。 蒼翠(そうすい・青緑)に光る透明な瞳は、吸い込まれてしまいそうに美しい。 柔らかい声も耳に心地よい、そんな美少年がその何者かであった。


オリヴェッティは、チームを組むのは何時でも出来ると。


「ケイさん、下で何かを一緒に食べませんか? お金なら、有ります。 ケイさんが航海中の船で、3日程カジノバーのディーラーを勤めた分と。 私が清掃で得たお金を、朝にクラウザーさんか貰ってます。 お知り合いなら、積もる話も御在りでしょ?」


Kは、若者を此処で甘やかせば付け上がると思い。


「な・・」


“無い”言い掛けたのだが。


「はいはぁ~いっ。 積もり積もって山になってまぁ~すっ」


と、若者が先んじて反応し、言ってしまうし。


また。 オリヴェッティも微笑んでは、美しい若者を見つめ。


「私は、オリヴェッティ。 これから、ケイさんとチームを組む予定なの」


と、言ってしまうのだ。


二人の様子を見たKは、


(ヤバっ)


と、思ったのだが。 それは、もう後の祭り。


若者は、Kより先に動き。


「いいなぁ~。 ボクもチームに入りたぁ~い。 ボク、リュリュ。 オリヴェッティのお姉さん、ボクもチームに入れて、ね?」


と、オリヴェッティに甘え付く。


Kは、ワナワナと震え出し。


(オメェ~よぉぉぉ、帰れってっ!!!!!)


と、怒りを募らせるのだが・・。


オリヴェッティは、若者リュリュを見つめ。


「危険な旅に成るかもしれないわ。 怪我しちゃうかも知れないのよ?」


と、親身に、優しく云うも。


「だいじょ~ぶ。 ボク、自分を守るぐらいカンタ~ン。 オリヴェッティのお姉さんの事も、ボクが守ってあげるよぉ~。 こ~みえて、ボクって強いよぉ~。 武器要らないしぃ~」


と、格闘をする真似事を見せるリュリュ。


もう全てがイヤで、顔に手をやるKは。


(あぁ・・。 お前のは、人間離れした身体能力で暴れるだけだろが・・。 魔法も遣えるだろが、威力もハンパないだろうに・・。 此処で遣ったら、街がすっ飛ぶよ)


と、ゲンナリ。


オリヴェッティは、リュリュに微笑み。


「へぇ~、リュリュ君て強いんだ。 とにかく、何か食べよ」


「わぁっ、オリヴェッティのお姉さんってやっさし~。 ドッカのミイラとは、イレモノが全然ちがうぅ~」


そのリュリュと云う若者の様子に、Kは、これからの旅の前途多難を予期した。 母親が来たら・・・大騒動に成るだろう。 リュリュは、そうゆう者なのだから・・。




                        ★




「・・・。 それ食ったら、帰れよ」


Kは、4人分ぐらいの食事を食べるリュリュに言う。 もう、6つの大皿が空いていた。


「ヤダ・・もぐもぐ・・。 ぼ~けんするまで、・・もぐもぐ・・・帰らない」 


リュリュと云う若者は、ニコニコしながらオリヴェッティの脇で、凄まじい食欲を見せていた。


3人が居るのは、酒場の下に在る一階の食堂。


Kとオリヴェッティは、2階の酒場から入ったのだ。 酒場の下が飲食店で。 その更に下。 地下一階が、斡旋所である。 酒場の上にも、夜だけ開く酒場なども在った。


不貞腐れる様なKは、苦虫を噛み潰してジャリジャリ云わんばかりに渋い顔。


オリヴェッティは、凄い食欲のリュリュを見て呆れていた。


紅茶にケーキをチビチビとやるKは、頬杖をして窓脇からリュリュを見ながら。


「お前、な。 ・・思い出作りなら、大人になってからでイイだろうに。 何で、今からすんだよ」


リュリュは、激しく動かしていたスプーンを止め。


「大人に成ったら、ケイさん死んでるじゃん。 知り合い居ないんじゃ、詰まんない」


「・・、それもそうね」


Kにしては、気疲れからか精彩の無い返事である。


オリヴェッティは、二人の会話に驚き。


「ケイさん・・、何処か悪いのですか?」


「んあ?」


「リュリュ君が大人に成る頃には、死んでるって・・」


意味に気付いたKは、ホロ苦い笑みで。


「チョイと意味が違うよ」


「え?」


「あ~、細かい話は、船に戻ってからしよう。 コイツを連れてるんじゃ、街の宿屋じゃマズイし」


「えぇ~? 風が入らない船に泊まるのぉ~?」


と、リュリュが批難の視線をKに向ける。


Kは、ムカっとした目で。


「お前の母ちゃん来たら、首根っこ掴んで直ぐ出せる場所がイイんだよっ」


「ふぇ~ん、キビシ~」


「当たり前だ、バカ」


Kは、リュリュと云う若者に、偉く厳しい態度を見せる。 オリヴェッティには、少し不可解であった。


そして、オリヴェッティは。


「所で、ケイさん。 リュリュ君をチームに加えても、問題は無いのですか? 見た所、杖も武器も持っていない様ですが・・」


すると、Kは窓の外を見て。


「君の好きにしろ」


「え?」


「俺がリーダーなら、許可しない。 だが、リーダーは君だ。 君の判断で、決めてくれ。 どの道、コイツの面倒は俺が見る。 ま、戦う事に関して言うなら、コイツは一流過ぎる程だ」


オリヴェッティは、まだ少年の様なリュリュを見ては。


「はぁ・・、そっ・そうですか」


と、逆に判断が出来なく成り、生返事しか返せない。


口元に食べかすを着けるリュリュは、オリヴェッティに向き直り。


「オリヴェッティのお姉さん、ね~入れて。 大丈夫、迷惑掛けないからぁ~。 ホラ、お金無いけど、コレなら在るし」


リュリュは、そう言っては懐を漁り。 握った手をオリヴェッティに差し出す。


「え? ん・・何?」


突き出された手の中の物が気に成ったオリヴェッティは、受け取る仕草で両手を広げると・・。 石ころの様な物が、4つ程乗った。


「・・・、何ですの?」


光る色の混ざる石で、所々に結晶か見えた。


Kは、それを脇目に見て。


「お前、お袋さんの懐からくすねて来たのか?」


「違うっ、ボクが拾ったのっ」


その一言を聞いたKは、今度はちゃんと石を見て。


「ほ~。 だが、いい原石だ。 ルビーに・・サファイアとエメラルド・・・。 残りは、ピングダイヤか。  カット次第で、万単位の金に成るな。 無論、1個だけで」


オリヴェッティは、手に持っているのが宝石の原石だと解り。 何処にどうしていいか解らず、驚きの顔をKに向けて。


「いっ・・一個で、万ですか?」


Kは、紅茶のカップを手にしながら。


「斜めから見て、光の入りがいい。 中に亀裂が入ってない、純度の高い一品だよ。 カッティングが良ければ、その辺の店で売ってる同型の物より高値で売れるかも」


「まぁ・・・」


オリヴェッティは、本気で驚き。 リュリュを見ては、


「リュリュ君。 こんな高価な物を、一体何処で?」


また食べ始めたリュリュは、


「もぐもぐ・・山で。 崩れた崖とか見れば、結構落ちてる」


何とも信じ難い話で、目を見張るオリヴェッティだが。


Kは、のんべんだらりと云った口調で。


「んだろ~な。 お前の居る山は、人の手が入れない鉱物資源の宝庫だしなぁ~。 ま、そんな欠片、お前の御袋さんの貯蓄から見たら、砂利みたいモンだろうしな~」


リュリュも食べながら。


「そうそう・・んぐ。 ママ、すんごいデカい原石持ってるよ。 岩みたいなの」


Kは、軽い調子で笑う。


オリヴェッティは、そんなKも、こんな原石を持って来たリュリュの事も解らなく。


(何? え? 何?)


と、疑問ばかりが浮かんで困り果てた。


オリヴェッティが困っている中、リュリュは。


「ケイさん、モグモグ・・。 人間の食べるリョーリって、“マジ美味し”だね」


「お前、そんな言葉を何処で覚えるんだ?」


「ママ繋がりで、ポリアさん達から」


「ハァ~? つか、ポリア達ってそんな言葉使わんだろう?」


「でも、酒場とかで見る周りのボーケンシャとか使ってるよぉ~」


「はぁぁ~・・、お前さ。 もう少し、マシに覚えろよ」


「だってぇ~、響きがイイ~ん」


「不良クソガキだな」


「おませさんと云って」


「バカ、。 大人びた事を“おませ”って云うんだ。 お前のは、悪い真似」


「きびし~」


「フン」


「でも、塩以外で何かを食べるって凄いね。 なんか、しんせ~ん」


そんな言い草を聞いたオリヴェッティは、リュリュが普段に何を食べているのか気に成ってしまい。


「リュリュ君、何時もは何を食べてるの? お母さんの手料理?」


すると、リュリュは。


「ん~、ド~ブツの生肉とか~」


その自然すぎる言い草に、Kは思わず紅茶を吹き。


「ブッ!! っく、バカっ。 本当の事を、・・ズケズケ言うな。 クソ、窓に掛かった」


と、手拭で窓を拭く。


リュリュは、ぷうっと膨れ。


「だぁってぇ、マジじゃん」


オリヴェッティは、“生肉”と聞いては捨て置けず。


「んまぁ、自分の子供に生肉だなんて・・」


Kは、話がややこしく成ると思って。


「おいおい、オリヴェッティ。 後で全て話すから、聞き流せ」


「でもっ、生肉なんて食べたらっ・・」


Kは、窓を拭きながら。


「解ってる、言わんでも。 だが、そうゆう次元の問題じゃないんだ」


と、窓を拭き終わって、また紅茶を口に含んだ。


その瞬間。 リュリュは不思議そうに二人を見ながら。


「でも、モンスターとかの一部も美味しいって」


と、言ってしまい。


Kは、吹かずに強引に飲み込んだ紅茶を気管に入れ。


「うぐっ・ゴホゴホゴホ・・・」


と、噎せては激しく咳き込み。


オリヴェッティは、凄まじい爆弾発言を聞いては、リュリュを見て硬直する。


そんな二人の事など、露知らず。 リュリュは、Kに皿を向け。


「ねね、このアジツケって云うんでしょ? コレ、何で出来てるの?」


激しく咳き込むKは、それ処では無い。


「う゛っ・・ゲホゲホっ・・おま・・おまぇ・・ゴホゴホ・・。 しっ・・仕舞いにゃ・・ごほっ・っく。 シバクぞ・・」


「え? なぁんでぇ?」


辛さからKは、本気でギラっと睨み。


「つ・次、ナめた事云ってみろ。 ふっ・・・船に縛り付けてやる」


怒られたリュリュは、怒られる意味が解らない。 横で、カチンコチンに固まっているオリヴェッティを見ては。


「何? 何がいけないの?」


と、聞くのだった。


リュリュを見たくないKは、もう頭痛が慢性化しそうである。 脇目には、今のリュリュの発言を聞いてしまったのか、近くのウェイターが立ち止まって居るのが見える。


(はぁ・・、お荷物を抱えるのは、オレの宿命か?)


Kは、手をやってはリュリュに、“黙って食え”と、ジェスチャーした。


結局、リュリュの持って来た原石は、全てオリヴェッティの懐に仕舞わされた。


オリヴェッティは、意味が解らないままにチームの編成をし。 リーダーを自分としたチーム、“アーリストゥン・シェバイス”(曇らない心眼)と云う名前を付けた。


無論、リュリュもメンバーに加えたのである。

どうも、騎龍です。


ご愛読、ありがとう御座います^人^

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