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エターナル・ワールド・ストーリー  作者: 蒼雲騎龍
K編
75/222

K特別編 秘宝伝説を追って 第一部 ②

        K長編・秘宝伝説を追い求めて~オリヴェッティの奉げる詩~第1幕





               ≪道は一つ カクトノーズへ≫





夜。 船の一階では、パーティーも盛り上がり。 一般客の大半がショーや劇を観て居る頃。


クラウザーは、Kとオリヴェッティを連れて、随分と広々とした素晴らしい部屋に案内する。 Kが部屋の明かりを点けた。


オリヴェッティは、その豪華絢爛な部屋に案内され。


「あのっ!! わ・私達・・・お金無いんですよ」


と、クラウザーに怯えた声で云った。


だが、中に入るKは。


「大丈夫だ。 どうせ、“開かずの間”だろ? 此処」


と。


クラウザーも中に入り。


「おう、そうだ」


と、言ってから、Kの点けた灯りの入ったシャンデリアを見上げ。


「使ったの半年前のわりに、魔法の水晶も生きてやがるな」


Kが魔法を発動させたのである。 Kは、開かれた入り口で突っ立つオリヴェッティに。


「早く入れ。 此処に人が入るのを見られるのはマズい」


「えっ? あっ、はいっ」


オリヴェッティは、Kに言われて慌てる様に中に入る。


オリヴェッティが入った後、直ぐに廊下を確認してドアを閉めたクラウザー。


部屋の奥の窓脇に荷物を置くKは、


「オリヴェッティ。 この部屋の場所は、他言無用。 誰にも喋るなよ」


赤と金の糸で、薔薇の刺繍が施された素晴らしいソファーを見入るオリヴェッティは、Kに急に言われて。


「あ、え? えぇ・・」


と、なんとか了解を。


Kは、窓の外を舞う雪を見てから、オリヴェッティに向き。


「この部屋は、訳有りの人を匿う部屋だ。 等級三ツ星以上の客船には、大抵こうゆう部屋が有る」


部屋を見回すオリヴェッティは、


「訳有り・・ですか」


「あぁ。 今、西の大陸以外は、国の情勢は穏やかだがな。 ドンパチやってた昔、諍いの起こってた国から、然るべき身分の方々が逃げて来たりした事有ったのさ。 王家の一族や、貴族の亡命。 今だって、命を狙われる人物も、偶に紛れて来る。 様々な状況に合わせ、切羽詰った時に匿う場所が必要に成るのよ。 な、クラウザー」


暖炉に火の代わりに、船内の一部で使う蒸気で温められた風を取り込む穴を開けたクラウザーは。


「その通りだ。 数年前、どこぞのお姫様を連れて、御主が俺の持ってた客船に転がり込んで来たのが

。 それが実にいい例だ」


Kは、過去に触られ、知らん顔の様に。


「そうだったか?」


戯言と聞いた気のするクラウザーは、目を細めては呆れ。


「おいおい。 その姫様を食い散らかして、更に大事へしたのはどいつだ?」


「覚えてない。 求めて来たのは、向こうだし」


オリヴェッティとクラウザーは、二人して。


“覚えてるとし思えないが?”


と、細めた目でKを見た。


オリヴェッティは、部屋を見回し。


「しかし、この様に隠された部屋が在るとは・・。 ですから入り口が、壁の曲がった行き止まりに隠されいる訳ですね?」


Kは、すんなり。


「そ」


クラウザーは、奥の階段から船長室に行けるので。


「では、待っててくれい。 湯ぐらいは持ってくる」


Kは、部屋の奥に廊下が在るのを見て。


「なんだ、船長室と繋がってるのか? なら、船長室から来ても良かっただろうに。 まさか、アンタ以外知らんの?」


クラウザーは、40半ば程も年の離れたKにタメ口で言われると、平静のドスの利いた声に成り。


「当たり前だろがよ。 この部屋の事は、作った大工、船長、持ち主のみの情報だ」


「ほぉ~、覚えてなかった」


「お前ぇ・・、本来ならな。 この部屋は、一度使ったら部分改修して、入り口を変えるのが掟なんだぞ」


「部屋の存在自体の秘密を、限定した範囲にする為にか」


「そうだ」


「なら、何でこの部屋にしたんだ? 他の空き部屋でいいじゃないか」


クラウザーは、此処で微笑み。


「あの宝の話だ。 お前と長く話すに、一々下の部屋では面倒であろうが。 俺は、通い妻などしたくない。 70過ぎてるんだぞ」


「はっ、プライド優先かいな」


「当たり前だ」


クラウザーは、Kにニヒルな笑みを見せ。 部屋の奥に在る廊下に消えて行く。


見送ったKは、一人用のソファーに向かいながら。


「クラウザー、随分と嬉しそうだな。 ま、60年近く追い求めた宝だからな。 それも、当然かぁ」


オリヴェッティは、自分達一家以外に、失われた秘宝を探す人が居るのだと知り。


「あのお方は、何で秘宝の事を・・」


ソファーにドッカリ座ったKは、オリヴェッティを見て。


「不思議か?」


オリヴェッティも、Kと話すべく3人掛けのソファーに腰を下ろし。


「えぇ。 だって・・、他の学者に幾ら聞いても、秘宝の事は御伽噺の様にしか思って居なくて・・。 海の漁師や、船乗りにだって聞き回ったのに・・」


血の滲む様な苦労と、女の身を狙われた過去。 答えが見つからず、一途に求める意地と一家の過去が無ければ、直ぐに諦めてしまうと思えた。


Kは、唐突にシャンデリアを見上げながら、オリヴェッティの耳慣れぬ言語で何かを喋る。 まるで、詩文を読む様で。


「ケイさん、その言葉は・・・、うたですか?」


オリヴェッティに目を戻し、深く背凭れに身を預けてK。 優雅に足を組むと。


「君の持ってる紙に書かれた詩さ」


「え?」


「この語りは、似た様な発音で子守唄に変わってる地域がある。 昔の詩として伝わっているがな」


オリヴェッティは、全く意味が解らなくなって。


「昔から伝わる子守唄・・・、それが秘宝の手掛かり? もしかして、私の一族は、何か間違っていたのでは?」


Kの話を聞いて、彼女がこう言うのも無理は無かった。 何故なら、世界に古代の詩が幾つか伝わっている。 豊穣を願う詩、神々を讃える歌、子守唄、ハーヴェストを喜ぶ詩がそれだ。 今の言語に訳されている地域も在るが。 吟遊詩人や歌姫は、昔の古代語のままに歌う。 その古代語も、地方や大陸で異なっており。 理解するには、中々複雑な知識が必要となって来る。


衝撃を受け、今にも泣き出しそうに瞳を潤ませるオリヴェッティ。 オリヴェッティは、自分の一族が間違い。 何も無い只の詩を、さも秘宝の手掛かりだと思い込んでしまったのではないかと思えた。


Kは、緩やかに微笑み。 左肘を肘当てに預けると。


「その逆だ、オリヴェッティ」


「え?」


「この詩は、海旅族が立ち寄ったと言い伝えの残る漁村や、港にのみ伝わる。 君の曽祖父ハルベールは、海旅族の事を調べ回っていた。 それが、ある時酔っ払って、今の言語で唄われていた子守唄を、古代語に変えてみたらしい。 すると、内容はちぐはぐで、文章に成らない事が解った」


「そんなっ。 では、この詩は一体?」


「ハルベールと云う人物は、古代語に変換する事で気付いたんだ。 元は別の詩だった物が、言語を知らない現地人に因って、間違った子守唄に摩り替わっていたのではないか・・・とな」


告げられた瞬間。 オリヴェッティは、恐らく曽祖父が気付いた時に感じた震えと衝撃を、自分も感じた気がする。 震える手つきで紙を持ち上げ、焦る手で広げる。


(この詩文・・、そう云えば子守唄じゃないわっ)


[星の泣く夜 金色の太陽 高き空に光る   明ける陽は 子の後に昇りて望み その佇む丘は 我が鏡を埋し場所]


書かれた詩文の様な文字を見るオリヴェッティ。 意味が解らないが、フッとKに顔を上げて。


「では、この意味が解るクラウザーさんは、貴方と同じ学者なのですか? それとも、貴方が・・・」


「いや、俺が教えた訳じゃない」


「でっ・でも、あの人は曽祖父の事を知っている素振りだったわ・・」


Kは、中々帰って来ないクラウザーなので。


「クラウザーって男は、すんげ~苦労人だぁ」


唐突に話を変えられた。 オリヴェッティは、返す言葉を心の中で粗探しして。


「・・、それは、見てからに・・・」


「ん」


頷くKは、一呼吸置いてから。


「実は、な。 クラウザーは、親の顔を知らん。 生まれた夜に、孤児院に預けられたとさ」


「まぁ・・」


「だが、クラウザーの苦労にしてみれば、それは始まりに過ぎない。 6歳の頃、人扶出しに奴隷を斡旋する人攫いに孤児院を襲われ。 親代わりだった夫婦を殺された上に、孤児院の子供達共々と誘拐されたそうだ。 クラウザーは、その孤児院の最年少で。 殺された中年の夫婦とは、一緒の部屋に寝ていたらしい」


「じゃ・・・殺される現場も?」


「あぁ・・。 夫婦の男性は、直ぐに殺され。 殴り倒されたクラウザーの前で、奥さんは酷い仕打ちの上に殺された・・。 クラウザーの心に、初めて怒りと殺意が湧き上がった瞬間だったらしい」


「・・・、酷い」


オリヴェッティは、想像も出来ない有様だったと声が掠れた。 口元に手を当てた時、自分の身に襲い掛かった学者の事を思い出す。


「だな。 誘拐された後も暴れたクラウザーは、反抗する子供として、劣悪な環境で12まで育った。 そんな環境下で、必死に生きたその希望は、親代わりだった二人。 そして、攫われた仲間達との絆だけだったとさ」


「酷い扱いだったのでしょうね・・。 想像もつかないわ」


「大抵の人がそうだろう。 だが、12歳に成ったクラウザーは、遂に誘拐した悪党達を討つチャンスを得た。 生まれて初めて、人を殺した時だ」


「人攫いを?」


「おう。 こっそり逃げ出したクラウザーは、悪党達が飲む酒瓶に毒を混ぜた。 飲んだ奴等がのた打ち回る中で、仲間や一緒に囚われていた子供達を逃がし。 その山間に隠れた人攫いの塒である屋敷に、火を放ったみたいだ。 毒で苦しんだ人攫い達は、殆ど全員が死んだとよ」


オリヴェッティは、自分の過去が霞みそうな過酷な話だと俯く。


Kは、更に話を続け。


「逃げたクラウザーは、追っ手を恐れた。 仲間などは、大きな街の在る方に先に逃がし。 最後まで残ったクラウザーは、育ての親を殺した奴等に態々止めを刺すまで残っていたからな。 だから、一人だけ山越えをした。 血に飢えた獣から逃げ、モンスターから身を隠し。 漸く15日後に、北の大陸の東方、マーケット・ハーナスの街道に出たとか。 其処から、漁村に流れ着き。 身寄りの無い子供として、寺院に助けられた」


「それから、船乗りを?」


「あぁ。 クラウザーの云うに、其処で船の操りを覚えた様だ。 そして、16歳の頃。 君の曽祖父のハルベールと会う」


「えっ? 曽祖父と・・本当に知り合いだったの?」


「そうだぁ。 マーケット・ハーナスの東側沿岸には、小さな小島が多い。 まだ、詩文の意味を解らないハルベールは、小さな島々を探検したいと漁村に滞在し。 そのハルベールに、小船を操る船頭として雇われたのが・・・」


と、Kが云い掛けた処で。


「ワシだ」


と、クラウザーの声がする。


オリヴェッティが、クラウザーの姿を確認する。 卵型の湯気上がる薬缶を右手に、菓子やパン等の物をバスケットに入れた物も持っていた。


Kは、一階で貰ったパンを何時の間にか持っていて。


「クラウザー、話代わってくれ。 腹減った」


「ん。 紅茶は、向こうの引き出しだ。 カップは、その隣の棚だ」


「おいさ。 茶の用意は、俺がしよう」


二人の動きは、とても自然だった。 オリヴェッティから見ても、この年の差の離れた二人の男は、お互いにお互いを認め合っている様な。 そんな印象を受けた。


さて。


席を代わったクラウザーは、オリヴェッティの全身を見回し。


「君は、ハルベールとは随分違うの」


恐縮と初対面の緊張から、オリヴェッティはぎこちなく。


「そうでしょうか・・。 あ、男性と女性の・・性別の違いも在りますから・・多分」


自分で何を言ってるんだか・・。 そう思うオリヴェッティだが。


クラウザーは、好々爺の笑みで。


「いや、それ以前の問題さ」


「え?」


「君の曽祖父ハルベールを見て、村の誰もが協力を断った」


オリヴェッティは、話が見えず。


「それは、一体どうゆう?」


「ん。 君の曽祖父のハルベールは、冒険者のチーム一つを丸々雇って来た。 神経質そうな、少し怒り顔の紳士・・。 それが、ハルベールの第一印象だったよ」


オリヴェッティは、顔も知らぬ記憶に名前だけしかない曽祖父を想像し。


「あ・・。 何か、ご迷惑でも?」


クラウザーは、涼やかに少し鼻で笑い。


「フッ。 その存在自体が、ま・・迷惑と云えた。 何せ、外部の人間と言ったら、魚を買う商人が来るだけの漁村だ。 いきなり来て、沿岸に見える島の全てを捜索するから、仕事そっちのけで協力してくれと云われてもな。 皆、日課の様な漁師仕事も在るし。 急に来た学者サマに協力するほど、社交的な開かれた村では無かったからさ」


オリヴェッティは、済まなそうに俯いては。


「あぁ・・・、そうですか。 父から聞いた話では、曽祖父のハルベールと云う人が、家財の全てを投じてしまったと・・。 秘宝を一番強く信じた人で、その為なら見境が無くなる人だったと聞いています」


「なぁ~る。 そのまんまだな」


「私の祖父も、父も、秘宝を探しながらトレジャーハンターをしていました。 小さな発見の功績は、ハルベール以前の先祖に塗られた、数々の不名誉で掻き消され。 僅かに見つけた財宝は、借金に消えました。 私が女だったばっかりに、返済能力は無いと判断され、家も・・本も・・全て取り上げられました。 私には、もう・・この紙切れ一枚しか無く。 唯一の財産です」


二人の間に、Kが紅茶を入れて出す。 貴婦人の装飾が入った白と桃色のカップがオリヴェッティで、雄雄しき騎士の紋が入った白と蒼のカップがクラウザー。


クラウザーは、苦労の人生を歩んでいる若き学者の彼女を見て。


「大変じゃな。 生まれる場が違えば、貴族も、商人も、様々在ろうに。 ま。 それが人の運命かも知れぬ」


「・・・ですね」


場がしんみりした。 Kは、パンを手に、壁に避けられた椅子に腰を下ろす。


クラウザーは、そんな何も云わぬKを横目に見て。


(随分変わった・・。 前なら、話を進める催促でもしたのに、の)


と、思ってから。


「さぁ、続きを話すか」


オリヴェッティは、そう云われて。


「あ、はい」


と、顔を上げた。


「島に行きたがったハルベールは、村民に断られた。 だが、ハルベール達が泊った宿場が、村の入り口に在ってな。 その宿屋の裏庭に在った納屋に間借りしていたのが、若い頃のワシじゃった。 16のピチピチしたイケメンだったよ」


何とも穏やかな顔で、そんな事を平然と云うクラウザー。


Kは、パンを噛みながら横を向き。


(テメェで、ピチピチとか云うか?)


と、呆れ笑い。


オリヴェッティも、いきなりの話にキョトンとする。


オロヴェッティの顔が和らいだのを見て、クラウザーは話を続ける。


「そなたの曽祖父が、困り果てて宿に泊まった。 その宿を営むのは、寺院に使える司祭殿の弟でな。 しかも、寺院と宿屋は併設され、同じ敷地に在った」


オリヴェッティは、経験上から。


「寺院と宿が一緒だったり、付随するのは、村では、結構多いですね」


「うん。 さて、その夜の事じゃ。 宿の食堂に食事をしに来た司祭殿は、ちょうど居合わせたハルベールの話を聞き。 同じく食堂の外れに居たワシに、船頭を斡旋して来よった。 ワシも、司祭殿一家には、相当に世話に成ったからな。 500シフォンで、船の船頭を引き受けた」


「なるほど、それで知り合いだったのですか」


「あぁ。 島を回る中、流石に学者として優秀なハルベールは、島に伝わる昔話や、民謡を細かく書き留め。 船の上で、色々と思案しとったわい。 小さな孤島でも、隠れたモンスターも居る。 村の者は、態と魚の一部を海に撒き。 モンスターが人を襲わん様にしていたがな。 時折、迷って来る交易船が島に漂着し。 モンスターに襲われてしまう事も在った」


「では、祖父も?」


「ワシの記憶しているだけで、10回は襲われたな。 一緒の冒険者チームは、まぁまぁだった。 ハルベール自身が魔想魔術を扱えたから、なんとか切り抜けてたって印象だったよ」


「・・・」


オリヴェッティは、歴代の一族の中でも、特に優れた魔力を持っていたとも云われる曽祖父を思った。


クラウザーも、また。 当時を思い出す事に懐かしさを覚えるままに。


「大雨や、冒険者達の怪我も有った。 全ての島を回って・・二月ほど掛かったか。 ワシの居た漁村に来る前にも、一月ほど別の村で滞在していたらしいが。 十分に用意したと云ってた、二十万シフォンもの旅費を使い切る手前頃だったな」


オリヴェッティは、額が額だと驚き。 口に手を当てるのが精一杯。


Kも。


(学者としては優秀でも、計画性と云うか拘ら無さ過ぎる性格なんだろうな。 すげぇ額だ)


と、苦笑が滲む。


クラウザーは、湯気を上げる紅茶を啜り。


「いい匂いだ」


と、Kにカップを持ち上げて見せてから。


「さて。 島を見回り終えてから、数日後のある夜。 ハルベールは、何故かワシを起こして、一緒に酒を飲ませた。 旅に疲れて来たハルベールは、最初に村へ来た頃の人物とは少し違っていてな。 秘宝に関する詳細な説明を、ワシに話した。 正直、冒険談込みだったから驚きだったな。 冒険者にすらしなかった話を、ワシにしたんだ」


オリヴェッティは、気さくさを感じるクラウザーを見て。


「なんとなく、解る気がしますわ」


「フフフ、そうか? ま、武術の心得も無いワシだったが、櫂を片手にモンスターとも遣り合った。 ある意味、戦友の様な間が出来上がりつつ在ったのかも知れん」


「三ヶ月は、長いですものね」


「あぁ。 彼を見ていて、怒ってるか、平静か。 当時のワシは、見分けられる様に為ってたからな。 あはは」


オリヴェッティは、クラウザーと云う人物の魅力に触れ出した気がする。 なんとも飄々とする部分と、豪儀と云うか豪快と云うか、大きさをも持っている人物だと思える。 確かに、一緒に行動を共にするなら、こうゆう人物は信用出来て安心だろう。


微笑を取り戻したオリヴェッティに、クラウザーは。


「先ほど見せて貰った紙。 あれに書かれていたのは、その村で唄われていた子守唄だ。 あの夜、酒を飲みながら、ハルベールは言った」


“この歌、不思議な事に他にも在るんだ。 海旅族が利用していた海岸近くの漁村で、此処とは大陸の正反対。 西のギャンブルで成り立つ王国付近でだ・・。 大陸の左右に分かれた場所でも、海を挟んだだけなら、隣同士。 恐らく、何らかの繋がりが在りそうだ”


「とな」


「それが、この詩ですか?」


「あぁ。 子守唄を書いた手帳を見るハルベールに、ワシは言った。 似たような詩で、歌の曲調も一緒なら、言葉に何か共通の意味が在るんじゃないか・・とな。 ハルベールは、それに同意して笑った。 だが、詩を見ている内に、何かを閃いたのだろう。 急にグラスを置き、他の国の漁村で書き取った子守唄と合わせ、何度も見比べた。 そして、当時のワシに言ったのさ」


“オ~ルモ・ソシア・フォモナム”


「とな。 その意味は、ワシには解らないがな。 喜んでいたのだけは、確かだった」


オリヴェッティは、世界共用の古代の言語だと解り。


「“良く遣った、友よ”?」


と、言語訳を呟けば。


Kは、口のパンを飲み込み。


「・・当時のハルベールって人の気持ちからすなら、“でかした、相棒”。 ・・かもな」


クラウザーとKは、お互いで見合っては食えない笑みを口に浮かべた。 クラウザーは、Kからオリヴェッティに顔を移しながら。


「フン、なるほど。 様子を思えば、まぁ、そんな所か」


と、言ってから。


「何かに気付いたハルベールは、一気に酒を呷って」


“私は、これから研究だ。 好きに飲め”


「と、部屋に消えた。 次の日も、次の日も、ハルベールは何処にも行かず。 部屋に篭りっきりに為った。 ワシは、それが5日も続いたから心配に成って、朝の漁をした後に宿に尋ねて行った。 すると、冒険者達が、先に村を去る所だった」


オリヴェッティは、紙を見ながら。


「これに気付いた?」


クラウザーは、頷く。


「冒険者は、もう用無しだったらしい。 俺を部屋に迎えたハルベールは、発狂しているんじゃないかと思うほどに元気でな」


“見つけたっ!! 次の手掛かりを見つけたんだっ!!! あはははははっ、秘宝は目前かもしれん”


「と、喜んでいたよ。 深くは話してくれなかったがな。 どうやら、集めた子守唄を古代語に直して、食い違いやらなんやらを調べたとか言ってた。 最初、子守唄を古代語に変換すると、支離滅裂な文章に成るから、古い文句じゃ無いって言ってたのにな」


と、クラウザーは、オリヴェッティがテーブルに置いた紙を見つめ。 急に少し淋しげな目を送り。


「せっかく、何とか訳せたのに・・・。 海に詳しく無かったから、この詩の意味が解らなかったんだろうな」


オリヴェッティは、広げて置いた紙に書かれた詩を見つめながら。


「意味? 私も、この書かれている意味が解りません。 教えて頂けませんか?」


クラウザーは、Kに向き。


「言うか?」


Kは、パンに夢中で。 急に畏まった口調で、


「いえ。 若輩は、先輩に花を持たします」


と、言うのである。


「なぁ~にをぉ? 急に畏まった口調で、何を言いやがると思えば・・。 面倒だと素直に言えばいいだろうに、食えない奴め」


「じゃ、面倒」


「全く、何とも素直じゃ無い若輩だ」


「クラウザー、女を待たすな。 嘗てのベットの中で、女を待たせたか?」


「いやぁ」


引き合いが厭らしいと思うオリヴェッティは、何とも笑えない。


しかし、クラウザーは、ニコリとオリヴェッティを見て。


[星の泣く夜 金色の太陽 高き空に光る   明ける陽は 子の後に昇りて望み その佇む丘は 我が鏡を埋し場所]


「この詩の最初の一行」


“星の泣く夜”


「とは、流星の事だ。 遥か昔から、俺達船乗りは星を観察し、その位置で航海図を作った。 “星が泣く”と表現される流星は、5年に一度来る大量流星の“アドゥリマナ”の事さ」


オリヴェッティは、その流星群は知っていた。 今から7以上年前、魔法学院に居た頃に見ている。


「解ります。 学院に居た時に見ました」


「そうか、魔法遣いだったな」


「自然魔法です」


「ふむ。 だが、その流星が見えるのは、東の大陸のみとは知っておったか?」


「えぇ、一応は・・」


「ん。 さて、次の二行“金色の太陽 高き空に光る”だがな。 流星の見える夜で、金色の太陽とは無茶苦茶の様だが。 これも古い航海用語だと知ってなければ、不味い。 “金色の太陽”とは、第二の月を指す」


「“第二の月”・・。 あの、各月の最後の10日だけ東の空に現れる、一般の月より小さな月ですよね?」


クラウザーは、紅茶の入ったカップを取り上げ、


「ん~、実にイイ匂いだ」


と、Kに視線を投げてから。


「そうだ。 金色の太陽とは、航海士が目安にし易く。 暗い夜でも、太陽の如く夜空に輝く第二の月を讃えた言葉だ。 この文句も、かなり古い昔から使われていたらしい」


クラウザーとKの下らない遣り取りの時に、何とも口を挟めず。 合間を保つ為に、貰ったパンを持ったオリヴェッティだったが。 クラウザーの話に興味を惹かれ、持ったそのままの姿で。


「あのっ、その続きは?」


と、急ぐ様に云うと。


クラウザーは、ニコリとまた笑い。


「パン」


「え?」


「握り潰しているよ」


「あっ」


Kに貰ったパンを、グッと握り潰していた。


クラウザーは、笑みを絶やさず。


「やはり血は争えんな。 腹の虫が時折鳴っているのに、興味が先行とは。 貴女も、まさしく学者の血だな」


「・・・」


恥ずかしくなって、顔を赤く染めながらパンを齧ったオリヴェッティ。


Kは、クラウザーの持って来た菓子パンをカリカリに焼き上げた物にまで食べ進め。


「おいおい、ジサマが若い女子おなごをからかってど~するよ」


「いいじゃないか。 女子の可愛い所は、老人で見てもイイモノだ」


「かぁ、好き者が」


「御主に言われたく無いわい」


オリヴェッティは、脱線する二人を見て。


(似た者同士だわ、この二人。 私、一緒に居て大丈夫かしら・・・)


菓子パンを齧るKは、


「後の意味は、・・“明ける陽は”とは、文字通りの太陽。 “子の後に昇りて望み”とは、流星と第二の月が同時に現れた朝に、陽の昇った方角を見る。 最後の“その佇む丘は”とは、太陽の影が通る線上の中に在る丘と云う意味。 “我が鏡を埋し場所”は、太陽と第二の月と流星を映す場所。 そんな所は、世界でも一箇所。 カクトノーズの北。 諸島が集まり、太陽の紋章の如く形作られた“サニー・オクボー諸島”だけだ」


一気に言われ、オリヴェッティは意味が解り切れず困惑。 クラウザーに至っては、


「お前。 さっき、“若輩は~”なんたらと云っただろうが」


「フン。 老いたジサマは、喋りも耄碌でトロい」


「このっ、若造がぁ」


其処に、オリヴェッティが。


「あのっ!!!!!!」


と、声を。


Kは、何故か神妙になり。


「お爺様、最後の説明が必要みたい」


と、クラウザーに手を差し出す。


口元をワナワナさせるクラウザーは、


「お前ぇぇ、尻拭いだけワシか?」


「好きだろ? 尻拭い」


「喧しいわいっ!!!」


クラウザーはのその様子は、フテ腐れるジサマそのもの。 本気で怒るものでは無い。


オリヴェッティは、そんなクラウザーへ。


「あの、“太陽の影が通る線上”とは、一体何ですか?」


顔をオリヴェッティに向け、平静に戻すクラウザーは。


「ん。 この世界で航海をするのに、重要な気象事実を把握する必要が在る。 その中でも、“太陽の影”と呼ばれるものは、非常に重要だ。 実はな、太陽が月に隠れる時、何故か決まって同じ線上を通る。 月と太陽が、何百年に一度、重なるのだよ」


「それは、解ります。 ですが、“影の線”とは初耳ですわ」


「そうか。 確かに、一般的には必要無い知識じゃな。 だが、この符合も非常に不思議なんじゃがな。 月に隠された太陽が通る線は、決まってモンスターが暴れる。 海に素潜る漁師の話では、その部分の海は非常に深く。 人が潜れない上、一度沈んだ全てが浮かび上がれない“死海の淵”とも呼ばれる」


オリヴェッティは、今まで聞いた事も無い話に、また食べるのを忘れ。


「そんな意味が・・。 あぁ、何もかもが初めて聞く事ばかりです」


「その線上の何処かには、何でも嘗ての大昔。 夥しい数のモンスターを、なんと魔界から呼び寄せる巨大な搭が生えたなどと云う伝説も在る」


「カオス・ゲイト(ファンタム・ゲイト)が・・、そんな事が?」


オリヴェッティにふと見られたKは、クラウザーの話の補足の様に。


「今も移動しながら、南西の海域を動く魔の島・アグラッド・フォーバナー。 その太陽が月に隠される時になると、何故かあの島は、“影の線上”に移動するって話だ。 魔の神竜が眠るモンスターの巣窟、生けるモンスターの子宮とも謳われた島が、その線上に移動する以上。 何か在るんだろうな」


クラウザーも少し顔を引き締め。


「航海士として、その影の線を通る時は、非常に注意せんといかん。 太陽が月に隠れていない普段でも、その線上は闇の力の支配を受ける。 大型のモンスターで、船を沈めるクラーケンやテンタクルスを始め、幽霊船や、ホラーニアン・アイランドに気を付けねばな」


オリヴェッティは、読んだ本からの知識を引いて。


「それは、あの・・移動する島の事ですか?」


「あぁ、そうだ。 魔の島以外にも、モンスターの力で漂流する島が在る。 亡霊や死霊の巣窟で、襲われたら大変だ。 島の接近に早く気付けたらいいが。 只の島と見間違えると、忍び寄る様に行く手を塞ぎ。 船を破損させ、動きを止める。 島に船が密着して止まったら、一巻の終わりじゃ。 モンスターに襲われ、生きる全てが殺される。 何度か、死滅した船を見掛けた事が在るわい」


驚くばかりのオリヴェッティは、更に最後の行に踏み込み。


「詩の最後の行ですが・・。 “我が鏡を埋し場所”とは、どうして島なのでしょうか?」


「オリヴェッティ、君は、カクトノーズの北方。 海岸から120里に在る太陽の島々へ行かれた事は、無かったのか?」


「すみません。 学院時代は、勉強と生活費を稼ぐ下働きの毎日で・・」


「そうか。 先ほど、あの口の悪いカラスが言った“サニー・オクボー諸島”とはな」


Kは、その自分の形容のされ方に苦笑い。


(根に持ってるなぁ~)


だが、クラウザーは続け。


「別名を、太陽紋の島とも云い。 中心に在る“目の島”から、四方八方に大小の島々が点在している。 だがな。 目の島の中心は、すり鉢の様に成っていて。 その場所は、丸い鏡の様に雨水を貯めた湖がと成っている。 その湖は、夜になると光る海月クラゲの影響からか、白く濁った様に光るんじゃ。 だが、その水面は全てを映し。 流星も、太陽も、第二の月も映す上に、影の線の基点に為ると云われてる。 そして、その湖を囲むのは、森と草原に覆われた丘で。 更に更に、その周辺で一番高い場所なんじゃ」


「なるほど、それは詩の通りの場所ですね」


Kは、其処でまた補足を入れて。


「オリヴェッティ。 カクトノーズの図書館は、歴史書の宝物庫と渾名されるぐらいに書物が多い。 だが、なんでもサニー・オクボー諸島の詳細は、シークレットで閲覧出来ないとか」


「あ、確かに。 神々の操った魔法辞典などとも合わせて、人の目の触れない書物にあの島の歴史が在りましたわ」


「実は、あの島。 海旅族の拠点の一つだったとも言われる。 島には、倒潰した神殿跡も在るって云うしな。 行って見る価値は、大有りだ」


オリヴェッティは、そうゆう事だと更に不安が浮かぶ。


「でも、そうなると・・」


「島に上陸出来るか、不安か?」


「はい・・」


これには、今度はクラウザーが。


「立ち入り禁止区域では無いぞ。 ワシも、数年前に行ってる」


オリヴェッティは、此処で更なる疑問が脳裏を過ぎる。


「上陸は出来るのに、歴史は閲覧不可って・・・。 なんだか、ヘンですね」


Kは、包帯から覗ける口元をニヤリとさせ。


「色々、ジジョーが在るんだろうよ。 ま、大方の理由は、何処の国でも同じ話さ」


クラウザーとオリヴェッティの見るKは、事態を見透かして居る様な余裕が見えた。


そして、行き先は決まった。 それは、世界でも指折りの古い歴史を持ち、魔法を扱う全ての者が通った学院の治める国。 魔法学院自治領カクトノーズ。


今まで誰も見つけられず、そして信じて来なかった秘法を探す旅が、此処から始まるのである。

どうも、騎龍です^^


ご愛読、ありがとう御座います^人^

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