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エターナル・ワールド・ストーリー  作者: 蒼雲騎龍
K編
70/222

ポリア特別編サード・中編・最終話

ポリア特別編~悲しみの古都オールドシティ~中篇・古都で惹かれ合う絆・最終話





             ≪その襲撃は、悪魔が来る前の足掻き≫





雪が降る深夜の街中、ハソロとポリア達一行を乗せた馬車は警察部を後にした。


黒い大型の馬車の中は、3列のシートに成っていた。 一番後ろに座ったのは、システィアナを抱えたゲイラーである。 1列目には、ハソロと彼を挟む様にヘルダーとイルガが座る。 その席に向かい合う2列目には、ハソロと向かい合うポリア、隣にマルヴェリータが座った。


さて、動き出す馬車は、小降りの雪の中を大通りへ。


ポリアは、ハソロから手短にアルロバートの状況や話を教えて貰えた。


「ロバート・・、そんな酷い事に・・・。 嗚呼、クシュリアントになって云ったらいいのかしら」


俯くポリアは、心が痛かった。


代わって、マルヴェリータがハソロへ。


「では、その3番目の被害者であったソービシェムと言う方が、密かにスタムスト自治国の商人と通じていたと?」


疲れの見える顔を頷かせるハソロ。


「うむ。 彼の話を信じるなら、その様だな。 明日、アルロバート以外の者が隠れている場所に行き、接触を試みてみようと思う」


イルガは。


「そう云えば、アラン様もあの遺跡や周辺を捜索したいと仰っていましたな。 故人を余り悪く言いたくは無いが・・。 ソービシェムと云う博物館の館長殿は、嘗てはアラン様などの研究や収集品を盗み。 それを自分の功績にしていたとか・・・。 もしかして、アラン様を中心にして、二つの事件が一つの環の如く見えておったのかもしれませんな」


ハソロは、年の近いイルガに頷き。


「私もそう思う。 アラン殿の発見か、研究推測をソービシェムが盗み。 宝を求めた彼は、どうしてか隣国の商人と結託した・・。 一方で悪党達は、たまたまアラン殿と面識の深い優秀な学者を狙って殺人事件を起こしていて。 その中で、遺跡に向かったアラン殿とオッペンハイマー様の事を噂などで知り、その身柄を攫おうとした・・。 恐らく、こうゆう形に成っていると睨んでおる」


だが。 ポリアは、まだ不可解なままの図形が気に成り。


「でも、ロバートですら、殺人事件の現場や遺体に残された図形の事は知らない・・。 つまり、あの図形の謎は、此処まで来ても残ったままなんですね」


ハソロは、其処が一番痛い所。


「ですな・・、一体何なのか。 そもそも、何が目的で、何の意味があの図形に在るのか・・。 今一、悪党達の魂胆が解りません」


ポリアは、一番心配する所に踏み込み。


「あの・・・、ハソロさん」


「? どうしました?」


「いえ、その・・事件の断片が見えて来た今なので、率直にお聞きします。 ダグラスの一件は、どうなりますか?」


この話に、ゲイラーも顔を上げた。


ハソロは、深く呼吸をしてから。


「・・、そうですな。 アルロバート達が雇い入れたと思われるゴロツキに襲われた事は、客観的に見ても彼等の勘違いであり。 暗躍していた者達が他国の手先と解った今ですし・・。 ま、事件の解明だけして、逃げた男女二人はお咎め無しに成りましょうな。 密かに手を回し、ソービシェムが死んだ事をスタムスト側の商人に伝え。 国境を侵して動く事に対して、此方から牽制をして終わると思います。 深夜に斬られた冒険者の二人も、深く聞き込んだ処によれば、叩けば相当に埃の舞う輩ですし。 今更逃げたダグラスと言う人物を追えど、此方としては面倒なだけ。 もし事件として手配して、徹底的にやると外交的に微妙ですからな。 ま、政治的に内々で済まします」


「そうですか・・・」


ポリアの顔には、複雑な思いに喜ぶ事も、安堵する事も出来ぬと言う雰囲気が広がっている。


ポリアの俯き加減な様子を見つめるハソロは、その麗しいポリアに、年甲斐も無く少し意地悪してみたく。


「どうです? お探しになり、詮議不問の事をお伝えしますか?」


と。


だが。 言われたポリアは、意外にもキツい眼の真面目な顔をして。


「いえ、このままで。 知らずのままなら、逃げるダグラスは・・怯えて生きるでしょう。 それが、殺した相手と云うより、事件を犯した罪に対する償いの代わりに成ると思います。 悪人だからと簡単に殺めては、普通の人間はいずれ心が・・。 人が、壊れます。 知らないままに逃げるダグラスにとって、怯えが枷に成りましょう。 このまま、もう人を殺めず居て欲しいので・・・」


と、云うのだ。


ハソロは、静かに。


「随分・・悩んだ様ですな」


ポリアは、無言でまた俯いた。


ゲイラーは、ポリアの判断が正しいと思える。 だがら、異論も何も言わなかった。 ただ・・。


「?」


システィアナが、ゲイラーの手を握る。 その優しい温もりは、今のゲイラーには、暖炉の温もりより有り難いものだった。


(システィ・・、やはり俺の女神だな)


そう思えると、女の為に罪を犯したダグラスの事が、少しだけ理解出来た。


話題を変え様と思ったイルガは、ハソロに。


「しかし、これから悪党達も益々遣り難く成るでしょう。 何処かに潜伏するかも知れませぬ。 ですが、一体何処を探せばよいやら・・、面倒ですな」


「その事、その事だ。 犯人達は、各都市に入る門を護り立つ衛兵に見つかっていない。 この都市は、絶壁と石壁を利用して守られる城塞都市の側面も持っている。 なのに、奴等は神出鬼没に姿を現し、そして逃げる。 どこか、身を隠す場所が在るのだろう。 その場所を特定しなければ・・・」


ポリアは、神妙なままに少し顔を上げ。


「一番怪しいミズリーとショーターに、誰か見張りを付けるのがいいと思います。 こっそり泳がせれば、何かするかも」


ハソロもそれは解っていた。 だが、相手は兵士で役人でも微妙な気配りが必要だ。 そして、何よりも・・・。


「ふ~ん・・それはそうなんだがなぁ。 面倒な事に、兵舎に二人は居なかった。 とにかく、戻った彼等を見つけ次第、ローラブラムス様が軟禁すると仰っていたがな。 兵士の中にも、貴族や騎士の威厳を嫌って、ショーターに靡く者も居るとか。 下手な行動は、返ってどうなるやら・・」


其処に、御者が小窓を開き。


「そろそろ、オッペンハイマー様のお屋敷です」


ハソロは、小窓に向いて。


「ん、門前で停まってくれ」


「はい」


ポリアは、一日が何時もの倍以上の様な気がした。


「今日は、なんだか疲れました」


ハソロは、あの悪党達と死闘とも言える戦いをしたのだから、それは当然だろうと。


「しかし、あれだけの相手を戦って、今まで起きるのですからな。 ポリア殿も、お仲間の皆も若い。 私も、もう10年若ければと思いますよ」


ハソロの弱音に、イルガやポリアが弱く笑った。



                     ★★★



だが。 この日は、まだポリア達を休ませてくれなかった。


馬車が停まったので下りるポリア達。 見送りに、屋敷までと降りたハソロだったが・・。


兵士と役人がそれぞれに護るオッペンハイマー邸。 その玄関先の庭先で、焦ってウロウロしていた役人のが、開かれた大門を潜って来るポリアとハソロを見つけた。 屋敷全体が、この遅い時間帯にも関わらず、煌々としていたので。 見つける事が容易だったのだ。


(あっ!! ハソロ様だぁぁっ!!!)


見つけたのは、あの貴族で世間知らずのイエナスである。 ハソロに目掛けて駆け寄って行く彼の姿は、新たなる闇の扉が開かれた証明である。 


ポリアが、“屋敷全体に随分と灯りが灯っている”と珍しがって仲間に言った時。


(ん?)


ハソロは、雪の上を転げるぐらいに焦って来るイエナスを見つけ。


「お~い、イエナス君じゃないか。 どうした、そんなに急いで」


だが、イエナスは落ち着く処の様子ではない。


「たっ・たたた・・大変ですっ!!!!!!! ハソ・・はぁっ!! ハソロさまっ!!!」


その慌て振りは、ハソロやポリア達に新たな緊張を齎した。 ポリアとハソロは見合い、イエナスの元に急ぐと。 雪の上で転んだイエナスは、オッペンハイマーの屋敷を指差し。


「ハソロ様っ!! ごごっ・ご家族がぁぁっ、にげ・逃げて来ましたぁぁっ!!!」


イエナスの前に着いたハソロとポリアは、尋常では無い事態が起こったのだと理解した。 イエナスをそのままに、屋敷へと駆けてゆく。


屋敷の玄関を破る勢いで開いたポリア、その後に続くハソロ。 ロビーには、オッペンハイマー夫妻やフロマーなども居て。


「あぁっ・・アナタぁぁぁぁ・・・」


と、ハソロを見ては呻く細身の中年の女性が居る。 床に膝を着いて崩れかかる彼女の黄色いネグリジェには、ベットリと血が付着し。 その何かを抱える腕の中には、まだ10歳に満たない男の子と女の子が顔面蒼白で蹲っていた。


「どうしたっ、ノイスっ?!!」


女性に駆け寄ったハソロに、もう疲れきった様子のオッペンハイマーが。


「ハソロ殿の屋敷が襲撃されたらしい。 この方々は、用人のミハエルと言う人物の御蔭で逃げれたとか。 さっき、兵士数名が屋敷に向かった・・。 あぁ・・、まだ犠牲が出るっ」


「なぁっ・・・なんだとぉ?!!!!」


ハソロは、あまりの事に目の前が真っ暗と成った。


一方で。


話を聞いたポリアは、またもあの悪党達かと全身の血が逆流しそうな怒りを感じ。


「みんなっ!! 行くわよっ!!!!」


ゲイラーは、直ぐに外に引き返しながら。


「おぅっ!!!! 今度こそ捕まえてやるさっ!!!!!」


ポリアは、放心し掛けたハソロに。


「ハソロさんっ。 御者の方は、お屋敷の場所を知っていますかっ?!」


すると・・。 ハソロは、ワナワナと震えながら顔を左右に振り被り。


「私が・・私が案内するっ!!! ミハエルはっ、わたしの腹違いの弟なんだぁっ!!!!!」


ハソロは、もう気が狂いそうな様子で叫び上げた。


ハソロとポリア達は、馬車に引き返した。 まだ、何も終わってはいなかったのだ。




                      ★★★




ハソロの家は、オッペンハイマーの屋敷から、住宅区を縦断する大きな中通りを少し走った所に在り。 住宅区の東寄りの場所に在った。 馬車の中でハソロは、必死に祈る様にして震えていた。


その屋敷の近くに来た馬車が、急にスピードを落とす。 そして、小窓が開き。


「ハソロ様っ、路上に使用人のミッチが倒れておりますぞっ!!」


ギョっとした顔を上げたハソロより先に、ポリアが、


「馬車を止めてっ!!! 私達が先行するっ!!!!!」


と、鋭く言い。 既に起きているシスティアナとイルガを見て。


「システィ、此処を怪我人の収容場にするから、イルガと此処に居て。 イルガ、御者の人とシスティをお願い」


「はぁ~い、悪い人やっつけて~」


「御意。 此処は守り抜きます」


馬車の扉を開いたポリアは、仲間に声のトーンを少し落として。


「マルタ、ゲイラーと二人で、ハソロさんを守りながら来て。 ヘルダー、私と先行するわよ」


こうなると、ポリアのチームは一気に一丸となる。


飛び出すポリアと続くヘルダー。 後をゲイラー・ハソロ・マルヴェリータの順で出て。 マルヴェリータは、準備する光の小石をポリアとヘルダーに投げ渡し。 ゲイラーに一つ渡した。


左右を大きな屋敷と庭が垣根や堀で仕切られる住宅に囲まれた太い通りの上。 ポリアは、足早に馬車の前に倒れる人物に走り寄った。 其処には、降りた御者も居て。


「駄目だ、死んでる」


と、ポリアに言う。


ポリアは、剣を引き抜きヘルダーと頷き合う。


御者の男性が。


「ハソロ様の家は、少し先の黒い外壁に囲まれた左手のお屋敷だ」


ポリアは、左手を上げて応えると、ヘルダーと屋敷に走る。


ゲイラーの後ろに居たハソロだが、馬車に掛かるランタンや光の小石の明かりで見えた年寄りの使用人ミッチの遺体を見て。


「あぁっ・・ミミミ・・」


言葉もままならないままに、雪の残る路上に倒れた人物へ駆け寄った。


その小柄な年寄りの使用人の背中と、腕に見える斬られた傷は、共に致命傷と思えて深く。 此処まで逃げて来るのが、おそらく精一杯だったのだろう。


「ミッチ・ミ・・ミッチぃぃ・・」


もう子供の様に声を詰まらせては、呻き泣くハソロ。 その様子を見るゲイラーは、罪だの罰だの必要無く。 悪党達を八つ裂きにしてやりた気持ちで、胸が張り裂けそうである。


「マルヴェリータ・・、リーダーが・・、居て欲しいな。 Kさえ居たら・・・此処まで酷くは成らんだろう・・。 俺達は、どうしても無力だっ」


「ゲイラー・・、無いもの強請りよ・・」


言ったマルヴェリータですら、その思いは解る。


さて、先行したポリアとヘルダー。 ハソロの屋敷とは、真向かいに成ると思われた屋敷が明かりを付け、頻りに此方を伺う人影が窓前に居るのを見て。


(何か在ったのねっ?!)


ポリアは、先に来たハズの兵士が全く見当らないのに、嫌悪に似た不安を抱く。 自分達が此処に到着する前に、何か在ったのかも知れないと思えた。


ヘルダーと二人で、塀の切れ間に開いた敷地に入る門を潜った。


「・・・」


ポリアは、敷地の奥を指差す。


(了解)


頷くヘルダーは、広く左手に広がっている庭に向かう。


ポリアは、庭中央からヘルダーを確認しながら庭全体を伺う。


ヘルダーは、雪を被った欅や公孫樹の木が並ぶ塀沿いに奥へ。 途中で夥しい血の跡を見つけ、血を辿って兵士二人の遺体を見つけた。


(くっ、また犠牲者が・・。 我々が一緒に来れれば良かったのに・・・)


ヘルダーは、光の小石を動かした。 直ぐにポリアが来て、遺体を確認。


「死んで間もない・・。 ヘルダー、屋敷内に入るわ」


ヘルダーは、鉄扇を一本だけ左手に頷いた。


冷たい風が雪の積もった庭を滑る。 ポリアとヘルダーは、オーソドックスなレンガ調の屋敷に近づいた。 二階や庇付きのテラスも見える。 だが、明かりが全く見えないのが不気味だった。


(玄関が開いてるわ・・。 血の臭いもしてる・・、あぁ・・・ミハエルは無事なの?)


ポリアの心の中では、焦る気持ちと、敵の待ち伏せを考えて慎重に行かなければ成らない気持ちがジレンマを生む。 両開きの扉が限界まで開いて、暗黒の口を開けている様な感じだった。


そっと中に踏み込んだポリアとヘルダーは、左右の壁伝いに行く。 4歩行く所で、行く先の左手に扉が見えた。 木枠にガラスを嵌め込んだ扉だった。


其処で、スッとポリアの肩にヘルダーの手が乗った。


(俺が見る。 援護を・・)


頷くだけのポリアは、その扉の前まで行って辺りを注意した後に、光を扉に当てる。


ヘルダーは、ポリアの行動に合わせて扉の前に向かい。 扉に向かって右の壁に着いた。


「・・」


「・・・」


頷き合った二人。


(よしっ)


ヘルダーは、サッと扉を開いて屈む。


「死ねぇぇっ!!!!」


突然に闇を破って、殺気を含んだ声を発した覆面男がポリアに向かって出てくる。


屈んでいたヘルダーは、サッと起き上がりながら曲者の鳩尾に鉄扇を握った拳を突き入れた。


「わっ・ぶぐぅっ!!」


驚くと同時に拳を打ち込まれた曲者の男は、痛みに脱力して蹲る。 そして、ヘルダーの手刀が首筋に落ちた。


此処で、闇に隠れていた曲者数人は、潜んでいる事が気付かれていると察知したのだろう。 屋敷の中で潜んでいた場所から飛び出し、ポリアとヘルダーに襲い掛かって来た。


ヘルダーの開いた扉は、倉庫の様な場所だった。 光を遮らない棚と棚の間の先には、居間と繋がるキッチンが見える。 竈や水瓶が奥の土間に在り、薪なども薄っすらと。 冷たい冷気が蟠る倉庫は、雪を地下に入れて一年中低温で保てる貯蔵庫代わりだ。


ヘルダーは、後ろからゲイラーの持つ光が近付いて来ているのを確認すると。 そのまま貯蔵庫に踏み込み、棚の影に隠れていた曲者に襲い掛かる。 すぐさま武器を握った曲者の腕を、鉄扇で斬り払い。 そのまま奥に走って、暗闇の土間に飛び降りた。


すると、


「わぁっ!!!」


「このヤロウっ!!」


と、出てきた曲者達。


ヘルダーは、一人で悪党を相手にする気構えで戦い始めた。


一方、ポリアは廊下に残り。 ナイフを手に突っ込んで来た別の曲者の手を、逆手に持った自身の剣の柄でカチ上げる。


「イデェェェっ!!!!!」


硬い剣の柄で打たれては、誰でも痛い。 ナイフを宙に飛ばして喚いた曲者の顔を、ポリアは正拳で殴り倒す。


「このぉアマぁっ!!!」


屋敷の中から、勢いに任せて廊下に出て来た後続の曲者だが。 何の支障も無い様子で曲者を殴り倒すポリアを警戒し。 襲い掛かるタイミングを見失って、3歩前で立ち止まった。 


ポリアは、止まった曲者を睨み。


「来ぬのか? なら、此方から行くぞっ!!」


と、殴り倒した曲者の上に踏み出す足を乗せ、更に廊下の奥に踏み込んだ。


「うげぇっ!」


思い切り腹を踏み台にされた曲者は堪ったものでは無いだろうが、ポリアの怒りはそれ位で鎮まるものでは無い。 怒りを込めて、


「この下衆がぁっ!!」


と、一喝。 慌ててナイフを突き刺してくる曲者の手を斬り払い、絶叫を上げる曲者の腹を蹴り飛ばす。


屋敷の中で、凄まじい音を上げて乱戦が始まった。


だが、相手が下っ端の曲者では、暗い中でも分はポリア達に在る。 一階の戦いなど、ものの少しで終わった。 曲者8名が、彼方此方で再起不能に成って転がった。


戦い終えて、一階の部屋を隈なく見回ったポリア。


テラスや土間のキッチンなどから、裏庭まで見たヘルダー。


二人が見回って、兵士の遺体が3体程見つかった。 だが・・、ミハエルは見当らない。


入って来たゲイラーは、縄で曲者を次々と縛る。 喚く輩は、それこそ腕の一本でもへし折る凄みも付いて来た。


ポリアは、二階への階段をヘルダーと共に駆け上がる。 上がった階段と平行する廊下と、右手に折れる廊下が在る。 二人は手分けして各部屋を見回る事に。


ポリアが一番奥の部屋に辿り着き。 赤いシーツの掛かったベットを見ては、女性の趣味傾向が匂う部屋に入った。


すると・・。


「よぉ。 まぁ~た俺達のお邪魔しに来たってか?」


暗い部屋の窓を背に、顔を布で隠した小柄な黒いマントの人物が立っていた。


ポリアは、その男は悪党の仲間だと思って斬り込もうと身構えるのだが。


覆面の男。 いや、昼間はヘルダーと戦った丸い針型のダガーを遣うハンセンは、少し足を動かし。


「動くな、コイツが死ぬぜ」


と。


ポリアが下に目を動かせば、ハンセンの足元には、傷だらけで顔や衣服を血に染めたミハエルが呻いていた。 首に足を乗せられている。


この状況でハンセンは、絶対強者と成ったと確信した。


「うひぃひひ、今度は勝たせて貰う。 武器捨てろ。 胸、腹、顔って穴を開けてやるよ」


此処に来てこうゆう卑猥な意思が動くのは、やはり内面が堕ちているからだろう。


しかし、ポリアは冷静だった。 寧ろ、この状況で逆に閃いた。 持っている剣を見せると、


「解ったわ、そっちに投げる」


ハンセンは、これには勝ったと思ったのだろう。


「うはははっ!! その名剣を俺に遣すってかぁっ?! コイツはイイぜっ!!!」


と、狂喜の声を上げる。


しかし、ポリアの心の中では。


(ブルーレイドーナ様、お願いします)


(良い閃きだな、良いぞ)


と、会話が行われた。 この意味を、ハンセンが理解出来る訳も無い。


「それっ」


ポリアは、ハンセンに受け取り易い高さ・速さで剣を放った。


「よぉ~しっ!!!!」


針型のダガーを左手に持ち替えたハンセンは、右手でその剣の柄を受け取った。 いや、・・受け取ってしまった。


インテリジェンス・ウェポンは、持ち主を定める。 そして、その持ち主以外を拒絶する。 その拒絶の仕方は様々だ。 呪いだったり、魔法を発動させ持てない様にしたり。


ブルーレイドーナの力は、“風”を基礎とするエネルギー。 当然、ポリア以外が持てば、風の力に因る反発を招く。


ハンセンが剣を持った瞬間、烈風の様な風の圧力がハンセンを襲った。


「っ!!!! うおわぁぁぁーーーーーーっ!!!!!!!!!」


飛ばされたハンセンは、上に持ち上げる様式の窓に背中から突っ込み、窓ガラスを粉砕して二階から外に投げ出される格好と成った。


ポリアは、ミハエルに走り寄りながら。


「下に悪党が落ちたわっ!! 誰か抑えてっ!!!!!」


と、全身の力を使う位の大声を上げる。


(外かっ?!)


別の部屋を見回っている所で、ハンセンの笑い声を聞いたヘルダーは、急いで引き返しポリアの間近に来ていた。 だが、その声を聞いて、手前の部屋の入り口から部屋に踏み込み。 既に破られている窓に向かって行くと、庇の屋根に飛び降りた。


一階からは、土間から勝手口から庭の側面に出たゲイラーが。


「何処だっ、フン捕まえてやるっ!!!」


と。


ハンセンの姿を雪の積もった庭の上でヘルダーが確認。 下に飛び降りた。


「う゛・・うぅぅ・・・」


呻きながら顔を上げたハンセンは、ヘルダーがまた現れた事に驚き。


「マジかよっ」


と、這い出して逃げようとする。


だが、この時。 マルヴェリータも、離れていたシスティアナも同時に。 屋敷の裏庭の方から、急激な魔力の膨張を感じる。


マルヴェリータは、昼間に現れた緑色のスケルトンである、古代のゴーレムモンスター“リザードバイター”と同じ気配を感じ。


「気を付けてっ!!! ゴーレムマジックの気配がするわっ!!!!!」


と、叫んだ。


システィアナも、離れた馬車の車内で、


「あわわ・・まっくろマホ~さんのお力がしましゅっ」


と。


イルガは、ポリアの命が有る故に場を離れないが。


(お嬢様、ご無事で)


と、祈る。


さて。 這い蹲って逃げるハンセンの間近に迫ったヘルダーは、マルヴェリータの声に警戒して辺りを窺う。 すると、木製の人でも跨げる低い柵の向こう側から、何かが向かって来るのが解った。


(またモンスターかっ。 ゴーレムモンスターとは、その動く姿に変わるまでは気配が石像と同じなのか。 何とも厄介極まりないっ)


邪魔が入ると悟ったヘルダーは、先にハンセンだけでも捕まえてしまおうと、逃げるハンセンに走った。


・・・。 一方で。


二階でミハエルを助けたポリアは、辛うじて彼に息が在る事が救いだと思う。


「ミハエルっ、解るポリアよっ?!! 今、助けるわっ」


と、担ぎながら落ちそうな彼の意思を揺り動かし、気持ちを保たせる為に声を掛ける。


「あ・・・あぁ・・・。 あ・・に・・・、は・・そろ・・・」


ハソロの安全と家族の無事を心配してか、モゴモゴと呟くミハエル。


「近くに居るわっ!! 彼方のお陰で家族も無事よっ。 しっかりしてっ!!」


ミハエルは、それを聞き。


「よか・・よか・・た」


ポリアは、此処で安心されては困る。 背負う様にミハエルを担ぎ、


「彼方が死んだら、ハソロさんは仕事も出来なく成るっ!!! 生きて安心しなさいっ!」


叱咤しながら、運び出すポリア。


その頃。 ハソロは、死んだ使用人の遺体をやっと探し出し。 外の庭に運んで再度確かめた。 まだぬくい死んだばかりの遺体ばかりで、二人の老女と若者を見ては駄目だったと泣く。


泣きながらハソロが屋敷に舞い戻る所で、ポリアの声が。


「ハソロさんっ!! ミハエルが生きてますっ!!!」


ハソロは、その声に目をガバっと見開き。


「ミハエルっ!!!」


と、ポリアの元に走り寄った。


さて、雪の積もった裏庭では。 ハンセンを取り押さえようとしたヘルダーだが、黒い塊が飛び掛って来たのに驚いた。 攻撃を避け、その相手を見ると・・。


(なっ・・何だ?)


見た事も無いモンスターが、其処には居た。 外観は黒い。 一見すると、獣の・・豹や虎などの骨なのだが、頭蓋骨が盾の様に幅広く。 その口は縦では無く、なんと横に動く。 鋭い10センチは超える牙、猛獣並みの鋭い爪、蛇の如く長い尻尾を持った骨のモンスターである。


(何だっ? こんなゴーレムも居たのか)


ヘルダーは、武器に魔法の加護が無い自分では、このモンスターを倒せるか理解出来なかった。


さて、ポリアと逢ったハソロが、背中のミハエルの姿を見て。


「今助けるぞぉぉっ!! 僧侶が居るから安心しろっ!!」


と、混乱した大慌ての声を掛けた時。


マルヴェリータは、勝手口から。


「ポリアっ、ゴーレムモンスターよっ!!! 貴女の剣じゃなきゃ確実に倒せないわよっ!!」


と、声を飛ばす。


それを聞くハソロは、ポリアへ。


「弟は、ワシが連れて行くっ。 ポポっ・ポリア殿っ! 近隣住民に被害が出る前にっ、モンスターを頼むっ!!!」


ポリアは、それが一番イイとハソロにミハエルを渡す。 青いコートマントにミハエルの血が付き。


「出血が酷いわっ、早くシスティの所へっ!!!」


と、言うと。 マルヴェリータの待つ勝手口に向かった。


ミハエルを背負ったハソロは、もう何時もの彼とは思えぬ必死な感情剥き出しの顔で。


「死ぬなぁっ、死ぬなミハエルっ!!! あの三人の娘を、てて無しにするなぁっ!!! 俺は、まだお前に兄としてしてやる事は幾らでもあるぞっ!!!!!」


と、叫ぶのだ。


(・・あ・・あに・・じゃぁ・・・・)


途切れそうな意識を巡らせるミハエルは、ハソロを兄と知って、初めて兄弟と云う思いを味わった気がした。


さて。


「うおっ!!! 早ぇぇっ!!」


猛獣宛さながらの動きで走り回り。 突進や飛び掛りで攻撃して来る黒いスケルトンモンスターに、大柄のゲイラーは翻弄されそうだった。 ヘルダーも、その動きに互角でしか付いて行けない。 二人の攻撃は、ゴーレム特有の硬い身体で弾かれていた。


だが、其処にポリアが到着し。


「さ、一気に倒すわよっ」


と、声を掛ければ。


「真打登場ってかぁっ?」


と、ゲイラーも、ヘルダーも気力を漲らせる。


三人で牽制してモンスターを囲む。 モンスターが誰に狙いを定めても、脇と後ろから誰が斬り掛かるのだ。 モンスターも、囲みを突破する事を優先して、その攻撃が緩慢に成った。


この隙を見逃す3人では無い。


先ずポリアが尻尾の鋭い先を斬り飛ばし、長い犬歯2本と左の爪を斬り飛ばせば、モンスターの攻撃も怖くは無くなって来る。


ゲイラーは、ヘルダーに見向いて。


「動き止めるぞっ」


と、声を発する。


頷いたヘルダーは、ゲイラーとモンスターの動きを見て、間合いを合わせた。


ゲイラーは、モンスターが注意をヘルダーに逸れている所で、一気に肉薄してモンスターの尻尾を掴み。 ゲイラーに向こうとするモンスターの背中に、今度はヘルダーが飛び乗る。


モンスターとしては、これは堪ったものでは無い。 直ぐにヘルダーを振り落とそうと暴れるのだが。


「おっとっ」


ゲイラーは、モンスターが飛び跳ねるタイミングを狙って、怪力で尻尾を擡げては後ろ足が雪の地面に着かない様にしてしまった。 これでは、モンスターの自慢と成る脚力が発揮出来ないだろう。


そんな状態で暴れるモンスターの肩の骨の間接に、ヘルダーは鉄扇を左右に差し込んで動けなくしてしまう。


完全に動きを封じられたモンスターの正面に回ったポリアは、その盾の様な頭蓋骨を滅多斬りにして斬り飛ばし。 薄い骨の見えた所で、


「終わりよっ!!!」


と、剣を突き刺した。


ーガチガチガチ・・・-


物凄い速さで歯を噛み鳴らしたモンスターだが。 頭部の頭蓋骨の中を満たしていた黒いエネルギーを突かれては、もはや動かなくなる道を直走るしか無い。 動きの完全に止まったモンスターは、冷気が吹き荒ぶ風に襲われパァッと灰に変わった。






      ≪堪える命と、去る命 悲しみに染まる古都に、遂に彼の悪魔が舞い降りる≫




ハソロの屋敷周辺は、深夜も更けてから騒がしくなった。


応援の兵士と、ホプキンスが直々に役人を連れて来たのは、システィアナが半死のミハエルの傷を塞いだ後だった。


その後。 ハソロ邸襲撃を聞き付け、ローラブラムスまでが応援に駈け付けた。 篝火が焚かれ、捕まえられた手下の曲者がその元に集められた。


だが、遺体の回収をする間に。 猿轡を噛ませた曲者の内3人は、不用意に轡を外した兵士のお陰で舌を噛み自決。 残りの曲者数人も、ホプキンスが手記で何かを聞き出そうとしても、喋る気は全く無いと言う素振りであった。


ハソロの家で泊り込む使用人は3人。 その3人全員が殺されていた。 若者は、ハソロが戻って来るまでミハエルと待つ気で居て、運悪く殺されたのである。


ポリアは、ミハエルの意識が途切れ掛けているので、主任騎士長のローラブラムスに掛け合い。 アランの身柄共々軍医施設に収容しては、医師を呼んで看病させたらと提案する。


ローラブラムスも、事件の被害者や捜査陣の方にまで悪党達の魔の手が伸びる現実に。


(確かに、その方が安全だな。 医療施設に兵士を派遣していては、連携も取りずらいし民間人にまた被害が及ぶ)


一応、昼間の襲撃で、その案は兵士からショーターに打診された。 無論、ショーターは聞く耳を持たなかった。 だが、ローラブラムスもまた、その兵士の話も聞いた手前である。 役人のハソロまで襲われると成ると、益々警戒を強めなければなるまいと真剣に思案する。


ローラブラムスは、ポリア達に。


「後の事は任せて欲しい。 君達には、今後も魔法も遣うあの悪党達の捕縛に力を貸して貰うかも知れないから。 今夜はもう帰りなさい。 ハソロ殿のご家族を預かって貰う今夜は、オッペンハイマー様のお屋敷の警備も強化する故。 その乗って来た馬車で、増強の兵士と一緒に向かうが良い」


ハソロとミハエルは、兵士の馬車で軍医施設に連れて行くと言う事に成った。


ポリアは、今は口を差し挟む気にも成らないし。 もう心身共に疲れたので、素直に帰る事にした。


ハソロの馬車が先に出て、それを見送ったポリア達。 意識の薄いミハエルを心配するハソロの姿が、非常に切迫したものだった事が目に焼き付く。


その後。 ポリア達は乗って来た馬車に乗り込み。 兵士20人に騎士一人の分隊と共に。叔父オッペンハイマーの屋敷に帰った。


屋敷に戻ったポリアは、フロマーや執事と共に起きていた叔父に逢い。 騎士を紹介してから、


「叔父様、ハソロさんは無事です。 それから、ミハエルさんもなんとか・・」


「おぉ・・、そうか・・そうか。 それは良かった」


しかし、ポリアは疲れの滲む顔を俯かせ。


「ですが、使用人の4人は、助ける事が出来ませんでした」


叔父・オッペンハイマーは、そんなポリアが可哀想で仕方が無い。 誰かを助けようとすればするほどに何かを失い。 その喪失感に悩んでいると解るのだから・・・。


「・・、そうか。 ポリアンヌ、この事件は身体に悪いね。 多くの人が犠牲になり、誰かの大切な人が失われる・・。 今まで、シュテルハインダーに此処までの事件が起こるのは、私の記憶でもそうそうに無い事。 早く解決出来るように、私も協力を惜しまないつもりだ」


「はい・・」


「ん。 明日は、昼から私もアランの見舞いに行こうと思う。 とにかく、今日は休もう」


ポリア達は、疲れた身体に食事を入れる気にも成らなかったが。 寝る為には、気が昂ぶり過ぎていた。 着替えを取りに行き、離れと屋敷の風呂で男女に分かれて身を暖め。 朝方に間近い頃に離れにて、皆で軽く食事をして横に成った。


ポリアは、悩みながら・・先の事態を憂いながら・・まどろみながら堕ちる様に寝てしまった。


だが、ポリアが長く休める時は続かない。 これが運命なのだろうか。 ポリアが内心で一番味わいたくない出来事が、此処に来て訪れたのである。


皆がどれ位寝た頃だろうか。 その知らせは、もう気が動転したフロマーが朝も遅い頃に離れに入って来て齎した。


「ポリアンヌさまぁーっ!!! たったたた・大変だわさーっ!!!」


と、大声を出すフロマー。 余程に慌てなければ成らない事なのか、フロマーは雪の中を何度も転んで全身雪塗れである。


ハッと飛び起きたポリアは、寝巻きである白いワンピースの衣服のままに下に降りた。 窓の外は薄暗くも視界が利き始める頃だったが、離れの中では誰も起きていなかったから暗いままだった。


「フロマーっ?!! 一体何が在ったのっ?!!!」


マルヴェリータやゲイラー達も飛び起きて出て来る暗いリビングで。 束ねない髪のままのポリアの前に、フロマーは手を着いて座り込み。


「ああああっ、ポリアンヌさまぁぁぁ~~~っ!!! あ・アランさまぁがぁぁ・・死んでしまっただぁぁっ!!!!」


その言葉が、ポリアの全身から力を奪った。


「う・・うそ・・・」


気持ちが砕け呆然としたポリアは、そのまま床に崩れた。


「あっ、お嬢様っ」


イルガは、ポリアの元に走り寄る。


望まない不安が、皆の心中に在った。 それが、現実に成ったのである。




                     ★★★



その頃。


「いいか。 ショーターとミズリーが姿を消した。 皆、解っていると思うが、警戒する中で怪しい者は、片っ端から面体を検めよ。 拒否する者は、最悪引っ張っても構わん。 それから。 もし見つけたとしても、ショーターとミズリーは容疑者として扱え。 最高権限を委ねられた私が命だ」


兵士宿舎脇の雪の積もった軍用広場で、徹夜のままのローラブラムスは、見回りや見張りの交代に向かう兵士に命令を下している。


昨夜から、ショーターとミズリーが消えた。


一部の兵士の証言では、医療施設の敷地で警備に残す兵士に命令を下すミズリーに。 馬で駈け付け、慌てた様子のショーターが会いに来たらしい。 そして、その後。 ショーターとミズリーの元に、下級兵士が急いで掛け付け、何か深く話し合っていたと言う。


その駈け付けた兵士は、朝方に捕まった。 取調べの中で、ローラブラムスがショーターの身柄を押さえる命を出した事を、ショーターに告げた事を認めていると言う事だ。


兵士達は、街中を巡回しながら。 悪党達の行方と、ショーター・ミズリ-の両名の捜索が主な任務に成りそうだった。


そして、同じ頃に。


警察局の依頼として、斡旋所にも捜査協力の依頼が入った。


ブロッケンのチーム、リリーシャのチーム、学者の殺されたチームの中、5チームが参加を申し出てきた。 他には、ウコォンのチームも参加を申し出て、その他に炙れていた3・4のチームも参加する事に。


毎日、昼と夜の交代で6チームが見回りに参加し。 休憩などは、兵士や役人が利用する場所を借りる事に成った。 やはり、相手が相手なだけに、冒険者にも兵士や役人が利用する場を共同で利用出来るようにしてある手配は、必要とされている証だった。


ウコォンやリリーシャは、ポリア達はどうなるのか気にしていた。 参加と云うより、もう捜査陣の一部に入るポリア達だから、参加と云う形に成るかは微妙だと云う判断で落ち着く。


今日の昼から、ウコォンとブロッケンのチームに、駆け出しの一チームを加えた3チームで見回りを開始する事になった。


斡旋所には、逆に兵士や役人も休憩を取れる事にしてあるので、商業区の休憩所と成り。 連絡が取り合える環境に成った。


だが、その日にポリアが斡旋所を訪れるなど無理だった。 叔父夫妻と共に、仲間共々医療施設に向かう。


入院患者を受け入れたり、手術などをする左翼院の地下は、霊安室などが在る。 オッペンハイマー夫妻と共に、ポリア達はアランの遺体と対面する事に成った。


ランプが左右に灯るだけの薄暗い霊安室へと伸びる廊下は、非常に寒い空気が立ち込めていた。 その廊下を歩くポリアは、足取りが非常に重く。 ゲイラーやヘルダーは、ポリアが遺体と対面出来るか心配に見えた。


暗い面持ちで先に霊安室と踏み込んだのは、オッペンハイマー夫妻である。


「・・・」


寒さと悲しみに打ち震える夫妻。


寝台の上。 白い衣服を着せられたアランは、血色を無くしたままの顔が眠っている様に死んでいる。


「アラン・・あぁっ」


その姿を見たオッペンハイマーは、遣り切れない悲しみが込み上げ、横に顔を逸らす。 奥方は、夫に泣き付いた。


ポリアは、夫妻二人の後から部屋に入った。 髪の毛は、結わずにストレートのまま。 鎧も着けず、剣すらも落としそうな感じで手に持っているのみ。 白い婦人用コートを背中に掛けるだけで、その下はオッペンハイマー夫人から借りた女性用の黒いドレスだ。 気が失せてしまったポリアは、寝た時のネグリジェのままに出ようとしたので、フロマーが止め。 婦人が服を着させたのである。


「あ・嗚呼・・・、せ・・んせ」


ヨロヨロと寝台に進んだポリアは、決して起きる事の無いアランを見て辿り着けなかった。 絶対に目を開けると信じて、襲撃の後も気張って来たが・・。 此処に来て、遂にその元が断たれた。 アランの横たわる手前の冷たい床に崩れ。


「うっ・・ううぅ・・・。 私じゃ何も救えなかった・・、アラン先生も、捕まったロバートも・・」


と、蹲り。 静かに泣き出した。


「ポリア、そんな事無いわよ」


ポリア前に屈んだマルヴェリータが、ポリアを抱く。 その潤んだ目は、ポリアと共に悲しみに暮れていた。


泣き出したポリアの姿を見るイルガは、ゲイラーとヘルダーの間にて。


「嗚呼・・、ヨーゼフ様がお亡くなりに成った時と同じじゃ・・」


ゲイラーは、必死に抑えた小声で。


「クソっ・・、どっち道アイツ等に殺された様なモンだ。 何だって、こんな悲しい事ばかりが・・」


システィアナは、静かにアランの冥福の為に祈る。 声を上げぬが、その瞳からは大粒の涙が溢れていた。 ポリアの悲しみも解り。 自身でもアランの非業の死は悲しいからだ・・・。


ヘルダーは、自分の命を張ってでも追い掛けるべきだったと、昨日の戦いを悔やむ。 やはり、主要メンバーの誰かは抑えるべきだったと・・。


冷たい部屋に、ポリアのすすり泣く嘆きが響く。 アランは、あの襲われた時から、目を一度も開ける事無く逝った。




                     ★★★




夕方前。


ウコォンは、仲間共々役人の指揮官であるホプキンスに呼ばれた。 場所は、斡旋所の3階だ。


ホプキンスは、キワモノと美女・美少女の混ざるウコォンのチームを見て唖然としたが。 その仕事をこなす態度は変えず。


「あ~、呼びたて済まない。 冒険者の君達に少々頼みたい事が在ってな」


ウコォンは、仲間を振り返って見てから。


「あ~ら、なぁ~にかしらぁ~?」


「ん。 実は、これから或る事件の重要人物と接触する。 万が一、その輩が悪党の場合も十分に考えられる。 もしもの為に、同行を願いたい」


ウコォンは、事が飲み込めず。


「“万が一”って・・どうゆう事ぉ~?」


同じ仲間で、男勝りな強気の女性エアリノアも、短めの黒髪の頭を掻き。


「何でハッキリしないのに、接触するんだい。 とっ捕まえればイイじゃないか」


ホプキンスは、あまり深い事は語れなかったが。


「実は、これは今の大事の事件とは、少しズレた別件なんだ。 だが、オッペンハイマー様とアラン殿と云う学者二人が、ポリアと云う女性の冒険者チームに護衛を依頼した学術調査に端を発した事件で。 今起こってる事件と螺旋の様に絡み合っている。 政治的に、事件は明るみにすると国家間の諍いにもなるからな。 此処で内々に処理したい訳だが、まだ確実に別々の事件として分けられるところまで調べが進んでいない。 だから、接触して真偽を確かめたい訳だ」


豊満な胸を持った美女のレヴィックは、麗しい流し目で。


「それなら、ポリアさん達に依頼するのが筋じゃない? 私達が、彼女のお株を奪うなんて、とっても面倒だわ」


ウコォンも同意見。


ホプキンスは、少し俯き。


「確かに・・。 実はな・・、今は緘口令を敷いているがな。 昨夜、ポリアと云う女性のチームは、夜に襲われたハソロ殿と云う役人を助ける為に、あの事件の後も朝方まで動いていた。 それに・・、親しい御仁が今日の午前中に亡くなったらしい。 流石に、喪に服す人物を強引に引き出せないだろうと・・思うてな」


ウコォン達は、このホプキンスと云う役人が礼節や心の機微を理解する人物と見て取れた。


中年の自然魔法遣いユマは、


「ウコォン。 遣りましょう」


ウコォンも、静かに申し出を了承した・・・。










               ★そして、事態は終盤に堕ちて行く★



寒さが、日々一段と厳しくなっていく年の終わりの月。 一年最後である星の月の中頃、シュテルハインダーの街は、怯えているかの様な静けさが散ばっている。


一見。 緩やかに事件は解決の方向に向かい出した・・、かの様に見えていた。 だが、その先の見通しは立たないままだ。


学者を狙った悪党達の目的は? あの図形の意味は?


アルロバートを遣わしてまで、商人が欲した宝とは何か?


悪党達は、何処に潜伏し。 また、消えたショーターとミズリーの行方は?


そして、ショーターやミズリーの背後には、更に大きな影が見え隠れし。 その陰謀に巻き込まれた雪の山岳地帯に広がる古都は、不安の影に包まれている。


悪党達が潜伏して、姿を現さなくなって。 その不安は付き纏う様な不気味な静けさへと変わる。


そして、3日後・・・。


静かに雪が降り続く昼間だ。


(街道の雪掻きが済んで歩き易いな。 久々にヴォルグホアルダーの隠居面でも拝んでやるかぁ。 アランのジジイは、どうするかな~)


そう思うのは、街道を行く旅人である。 真っ白い雪のく街道上を、シュテルハインダーの街に向かっている。 もう、その入り口である大門が近付く。 その旅人の姿を、真っ白いミミズクが小枝に留まって見ていた。


その旅人は、少し変わっていた。 漆黒の襟がやや高いロングコートを羽織り、怪我でもしているのか顔には包帯が巻かれている。 雪で濡れた髪の毛は、丸で闇の如く黒く。 その黒尽くめの姿は、悪魔の貴族と見えるかも知れぬ。


この悪魔の訪れは、冬の嵐が吹き荒れる前触れだった・・・。




中篇・完=後編に続く。

どうも、騎龍です^^


ポリア編も中盤が終わり。 次は、セイルとユリア編か、ウィリアム編をお送りします^^


ご愛読、ありがとうございます^人^

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