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エターナル・ワールド・ストーリー  作者: 蒼雲騎龍
K編
65/222

ポリア特別編サード・中編

ポリア特別編~悲しみの古都オールドシティ~中篇・古都で惹かれ合う絆






                  ≪もがくままの一日≫





ポリア達とハソロが長く話し込む間に、遅くなって小雪がチラつく中でオッペンハイマー夫妻が戻って来た。 ハソロは、挨拶にポリアと共にオッペンハイマーに会い。 そのままオッペンハマイー宅に泊まった。 


次の日。 


屋敷の方で朝食を共にしたポリア達。 ポリアは、共に席を並べて食事するハソロに。


「ハソロさん。 アラン先生のお見舞いを私達だけでも出来ますか?」


アランが運び込まれた寺院病院は、兵士の警護管轄である。 オッペンハイマーをなくして見舞いに行けるか聞いてみた。


「難しいね。 アラン殿とオッペンハイマー様は重要参考人であり、兵士達が警護する最重要対象者だ。 あのショーターが、統括のフロイム殿に直接言ってそうした様でな。 見舞うのでも見張りが厳しい上に、時間の制限も有るだろうな」


「そうですか・・」


俯くポリア。 今日は、オッペンハイマーが都庁府に赴き、彼方此方で顧問や相談役を買っている部署に顔を出す予定で。 明日も忙しい。 ポリアとするなら、居なくなった冒険者達の事も心配だが。 今だに意識不明のままのアランが心配だった。


(・・・私、何を戸惑っているんだろう)


オッペンハイマーが言うに、フロイムの家はポリアの実家の親戚筋と深い縁が在り。 ポリアが名乗り出れば優遇は間違い無い。 しかし、フロイムをそうしてしまったら、ポリアの素性が公に成る可能性が有り。 それは、ポリアとしてはまだしたくない事だ。 あくまでも、一冒険者を貫いているポリアだから、周囲には最低限しか教えたくない。 統括をしているフロイムと云う人物を知らないポリアにしてみれば、自分の国内だから利用される恐れもあるのだ。


食事の終ったハソロはロビーにて、見送りに出て来たポリアに、


“一応兵士には言って見る”


と、残し。 ミハエルを伴って家へ帰った。


気も落ち着かないポリアの元に、フロマーに連れられたマシュリナが来たのは朝の食事後少ししてだ。 離れに戻ったポリアの元に、兵士のおまけ付きでマシュリナが来た。 とても心配そうな困惑した様子で、ポリアに逢うなり間近まで来て。


「ポリア様、きっ・昨日・・家に兵士長と仰る方が来られました」


震える小声で言うマシュリナの顔を見るポリアは、ザワっとする不安感が身を走り。


「それで?」


と、話を聞く事に。


ショーターは、腹心のミズリーを伴って来たらしく。 訪ねる礼儀も無しに家に踏み込み、クシュリアントへ痛烈な言葉などを吐いてアルロバートの事について訪ねたらしい。 クシュリアントは、静かなままに受け答えをしたらしいが。 脅し文句で、立って歩けないクシュリアントを捕まえ取り調べる様な事も言ったと・・。


(おのれぇ・・、横暴にも程がある)


我が祖父の執事へ無礼な聞き込みをしたと云う事にカッと怒りを覚えたポリアは、兵士が何の話かを聞いてくるのに対し。


「彼方は、護衛が目的であろう? 私が身内と何を話そうが詮索の言われは無いっ。 大体、何時まで其処に居る」


と、貴族の態度を露に言い返した。


オッペンハイマーの遠縁で隣国の貴族とされてるポリアだから、ムカっと来た兵士だが下がらずには居れない。


ポリアは心配する仲間を他所に、マシュリナを連れて屋敷に舞い戻った。 膨大な本と研究資料に囲まれるオッペンハイマーの私室に入ったポリアは、スカーフネクタイを締めていたオッペンハイマーと夫の仕度の手伝いをする奥さんに会う。


「ポリアンヌに、・・マシュリナまでどうしたの?」


初めての二人の組み合わせに驚いた婦人が目をパチパチさせ。


「ポリアンヌ、何か有ったのかい?」


と、叔父が言って遣す。


「叔父様、クシュリアントを此処に連れて来ても宜しいですか?」


登庁の準備をしていたオッペンハイマーは、突然の話に驚いた。 だが、ショーターの横暴な態度を聞き、準備の手伝いをしていた夫人が怒りを露にすると。


「構わない。 そうゆう事なら連れて来なさい。 フロイム殿には、今から私が掛け合う」


「叔父様、ありがとうございます」


ポリアは、また急いで離れに戻り。 仲間とクシュリアントを運ぶ為にマシュリナを連れて迎えに行った。



                     ★★★



この日は、誰もが忙しくも悶々と心配ばかりが募る一日だった。


先ず動き出したのは、仲間が消えた冒険者達。 チームそれぞれで雲行き怪しく暗い空の下、街中を探し回る。


しかし、その街中も普段とは違っていた。 犯人の凶行で、馬車の急ぎ走行は規制され。 顔をフードなどで隠している人物を兵士が見掛けると人相検めをされる。 冒険者8名が行方不明と為った事が張り紙で店や酒場に張られ、情報提供が呼びかけられていた。 厳冬の中でゆったりと時を刻むシュテルハインダーの街が、一変したように物騒な雰囲気に包まれた。


さて。 仲間を探す冒険者達だが、逆に事件の事を聞かれたり。 話の種にと彼らを尾行する冒険者と公論するなどイライラするだけの一日だった。


一方で。


登庁したオッペンハマイマーは、真っ先に統括のフロイムに面会する。 自分の父親に仕えたクシュリアントを、紳士的な対応無く横暴に事情聴取したショーターへ厳重な抗議をし。 病気で動けない彼へ強引な取調べ等はさせないと、身柄を自分で預かると言った。


此処で解った事だが。 クシュリアントへの事情聴取が高圧的な尋問だと、ショーターの脅迫染みた暴言が外に聞こえており。 施しなど出来る財産など何も無いながらに、何かと周囲へ気を配っていたクシュリアントの奥さんを知る住民が苦情を訴えて来たらしい。


「オッペンハイマー殿、真に申し訳ない」


流石のフロイムも謝罪一つを添えてクシュリアントの身柄を預かる事に同意した。 間違って死なれては、フロイムも地位が危ないからである。


さて。 その頃に。


クシュリアントを連れ出そうとしたポリアだが、観念しているクシュリアントはこれを固辞した。 嫌がる相手を勝手に連れては行けないと思う一同だが。 ポリアだけは違った。 打ち棄ててあった物を組み合わせた様なクシュリアントの寝るベットの脇に座り、クシュリアントを必死に説得していたポリアだったが。 皆が言葉を失う中で、痺れを切らせたのかスクッと立ち上がった。 


そして・・。


「クシュリアント、そなたに問う」


と、突然に凛とした貴族の口調に変わった。


「は・はっ」


クシュリアントもまた、ポリアの態度が生きていた頃のヨーゼフの如く思えて、ベットに身を起したままの状態ながら身を正して受け答える。


「クシュリアント。 そなた、我が祖父が初めて私とお前を対面させた折。 そなたへ、祖父ヨーゼフが何と言うたか覚えて居ろうな」


「はい。 我が孫ポリアンヌは、我が身と同じと・・」


「うむ。 クシュリアント、祖父は我が身と同じと言ったのは、私の言うことが自分と同じだと云う意味である事を理解してるはず、だな?」


「は」


「なら、何故に私に迷惑を掛ける?」


クシュリアントは、ポリア達に刃を向けた息子アルロバートを思い出し。


「息子めの事は・・」


と、頭を下げるのだが。


ポリアは、鋭く。


「違うで在ろうっ!」


その言葉の強さに、仲間もマシュリナも驚いた。 極夜が続く中で、ランプも点いて無い薄暗い部屋の中だが。 驚きポリアを見上げたクシュリアントの姿だけは、皆が影ながらハッキリ見えた。


「ポ・ポリアンヌ様・・」


弱弱しく云うクシュリアントへ、ポリアは。


「そなたの身を心配する叔父や叔母、そして此処に居るマシュリナ。 その心配を知り、急いで来た私の言いつけを無視するそなたは、主従に背く者と同じではないかっ」


「あっ」


小さく声を出したクシュリアントは、グッと下を向く。


ポリアは、クシュリアントの間近に踏み寄り。


「御主の身柄の事、祖父は叔父や母に頼んでいた。 その母への言伝は、私が持ち帰り伝えたのだ」


「へぇっ?!」


ヨーゼフが死んだ後に、何故か自分の身柄を引き取りたいと言って来たポリアの母親の事に驚いたクシュリアントだったが。 それは、ポリアにもしもの時には後を頼んだヨーゼフの意向だったのだ・・。 当時は妻を看病し、ヨーゼフへ最後まで仕えると移住を断ったクシュリアントだが。 今にポリアに言われて、その驚きは隠せない。


ヨーゼフの気遣いを知ったクシュリアントは、小刻みに震えている。 それを見るポリアは、


「良いか。 この命は、祖父に代わってこのポリアンヌがそなたに命ず。 ・・・クシュリアント。 貴方の身の安全と、マシュリナの安全はこの私が引き受けます。 良いですね?」


最後だけ、クシュリアントに甘えていた頃の言い方に戻して云うポリアの言葉に、


「はい・・。 お任せいたします」


と、クシュリアントは折れて従った。


(嗚呼、何とヨーゼフ様と似た方だ・・)


クシュリアントの目には、貴族の口調で言うポリアと、仕事などで毅然とする生前のヨーゼフの姿が重なって見えてしまったのである。 まさか、こんなにもだぶるとは思わなかった。 


態度を変え貴族の口調を使って喋るポリアの周りは、瞬時に空気が凛とする。 この様子を目の当たりにする仲間は、ポリアの中に真の貴族としての風格をまた見る気がする。


ゲイラーがヨーゼフを抱き抱え、ポリアが持って行く奥さんの位牌などを纏めた。


ポリアは、ヨーゼフの様子を気にするマシュリナへ。


「一緒に。 クシュリアントをお願いね」


「はい」


マシュリナは、クシュリアントが横暴な兵士の危険から救われたと安心した笑顔で返す。


その全ての有様を見ていたイルガは、ポリアの今の姿を主であるポリアの父親に見せてやりたい思いがした。 なんと立派に成ったか、である。






                     ★★★





さて。


ハソロの指揮の下で、役人は冒険者達の捜索と事件についての聞き込みに奔走していた。 だが。 役人が幾ら聞き回っても、王立図書館などで見掛けられた姿を最後に、それぞれの冒険者達の目撃情報はプッツリ途絶える。 4人は、図書館で。 3人は、大型施設“キャタピコーム”(硬い殻の家)の彼方此方で。 チームに属して無い一人は斡旋所を最後に、である。


ただ、図書館での二人と大型施設での一人は、顔を隠したマントでスッポリ全身を覆った誰かと一緒だったと言う証言が聞けた。 


ハソロがイエナスの他に二人の上級捜査官を指令に据え。 現場で聞き込む作業にイエナスも組み込んでやらせていた。 思い込みから、怪しい人物を勝手に推理して暴走しそうなイエナスを、下級役人達が頑張って抑えながらの聞き込みであったとか。


そんな中。 この街に紅いマントをした何者かを先頭に、6人の旅人が街の入り口に来た。 南側の首都へ延びる山道街道が雪掻きをする兵士達により開通し。 荷馬車や旅人と共に入って来たのだ。 


当然、街に入る全ての門は検問対象で。


「そのマント達。 顔を改めさせて貰おう」


と、やや強気な兵士の言葉で止められた6人。


すると、紅いマントを纏う長身な者の後ろを行く黒いマントのやや低い背の者が。


「何で、兵士に偉そうな口調で言われなきゃ成らないんだい? 街に入るだけじゃないか」


と、女性の声で意見を述べる。 男っぽい口調で、少しトーンが低い。


同じく、白いローブとマントを着た後ろの者が、目だけ見える様相のままに。


「理由は在りますの?」


と、柔らかい物腰で言うのだが。 声は、男性なのか女性なのか区別の付き難いヘンな感じである。


兵士は、奇妙な者達だと思いながらも。


「今、シュテルハインダーでは学者を狙った殺人・誘拐事件が起きている。 事件の被害者も数多く、街の出入りには検問を敷いて対処しているのだ。 入る入らないに関わり無く、顔を検めさせて貰う」


すると、先頭の長身人物が。


「あらぁ~ん。 それじゃぁ~仕方ないわねぇ~」


と、身をクネらせて云うのだ。


聞いた兵士は、完全に野太い男の声が何故かオネェ調で喋るのに固まった。


「なっ・何者・・」


自然的に貞操の危機まで感じた兵士達。


紅いマントを羽織った長身の者が後ろを振り返り。


「みぃ~んなぁ、お顔を見せるわよぉ。 んふ」


その言葉で、6名が一気にフードを取った。 その顔を見た兵士達は、


「うわ゛ぁ~・・・うへぁぁ・・・うおぉっ」


と、一人一人がが上がり下がりを繰り返す口調に変わる。


先頭の長身な人物は、声を大きくして云うなら“明らかにっ!!!”男だ。 厳つく大きな面長の顔で、日焼けした浅黒い肌に骨ばった燻し銀の中年面。 なのに、アイシャドゥを厚みが出来る程にし、唇には塗った食った様なピンクのルージュをしている。


所が、その後ろには、パッチリとした目の15・6の少女と云った感じで、耳が鋭く目が黄緑色した亜種人の可愛らしい者と、釣り上がり気味の目に痩せた細身の強気な感じを見受けれる女性が居る。


「ん゛~?」


首を傾げる兵士達は、この一団が怪しい者なのか判断が出来かねた。


どうも受け入れがたい先頭の人物とその直ぐ後ろの女性らしい二人に対し。 更に後ろの三人は、女装した男性の様な男っぽい金髪の者や、40近い年齢の大人びた黒髪の女性。 そして、澄み切った碧眼で高めの鼻にやや褐色の肌ながら色香漂う紅い髪の美女と云う取り合わせ。


(何だ・・こいつ等)


理解の出来かねる一団は、一部に見る所は麗しく。 また、別に目を向けると異界の住人の様な者達の集まりと云った具合。


そんな兵士達へ、先頭の明らかに男と思える者が体をクネらせ。


「強気なオ・ト・コ、嫌いじゃ無いわぁ~。 ね、通っていい?」


と、兵士の一人ににじり寄る。


「うわぁっ!!!」


寄られた男は仰け反り。 別の者が、


「ぼうっ冒険者なら気を付けろっ。 はい・入れっ」


と、許可を出す。


「ウコォン、入っていいってさ」


目の釣り上がり気味な男っぽい口調の女性が云う。


「解ったわぁ~」


と、ルンルンした足取りで街に入ろうとした先頭の男を見た、仰け反った兵士が。


「ウっ・ウンコだとっ?」


と、口走った瞬間。


歩き始めた他の仲間5名が立ち止まって。


「あ゛」


と、一斉に驚く。


同じく立ち止まった先頭の長身な人物は、後戻りして兵士の下に来ると。 いきなり兵士の胸倉を掴み上げた。


「うわぁぁっ」


驚く兵士に、


「“糞”じゃねぇっ!!!!  ウコォンだぁっ!!! おんどれっ、二度と間違えるんじゃねぇぞっ!!!」


と、ドスの効き捲くった声で怒鳴る。


「すっ・すす・・しゅみませんっ!!」


裏返る焦り声で誤る兵士。


「フン」


雪の上に兵士を放るウコォンは、先ほどのルンルンした様子とは打って変わり。 ノッシノッシと大きな猛獣が歩いて行くが如く街に向かう。


後から続く仲間は、呆れたり首を傾げた様子で続くのだった。


最後。 顔は悪くないが、明らかに女装していると思われる金髪の白いローブとマントを身に纏う人物が。


「私達のリーダーが済みませんね。 代わって、謝罪いたしますわぁ」


雪に塗れた兵士は、震える唇で裏返った声のままに。


「はいっ・・ですわぁ」


他の兵士が、この兵士に近づくのを中断したのは何故だったのか・・。







                  ≪悪魔達の戯れ≫





行方不明と成った学者達の事を知ったポリア達が2日に渡って動く時、隠れた裏側では悪党達も暗躍していた。 見えない所で、犯人達はそれぞれに蠢いていた。


それは、ハソロを招いてポリアが話し込んでいた夜も更けた深夜の出来事である。


「いやぁっ!!!! いやっ、止めてぇぇぇっ!!!!!」


暗がりの中で、女性の絶叫が木霊する。 


「おいっ!!! お前達は一体何なんだっ?!!」


直ぐに、低い男の声も上がった。


其処は、何処かの廃墟だった。 石窟寺院の様な古い遺跡が、打ち捨てられてしまった様な場所だろうか。 石の壁は所々崩壊し、表面が風化している様な様子で。 この寒い中でも、壁の多くは湿気で濡れて苔むしている。 そんな廃墟の広い一角に、冒険者らしき男女が転がされている。


「触らないでっ!!! いやっ、いやよっぉ!!」


大声を上げる女性は、大柄の男に白いローブを引き千切られた。 少し丸みのある肉体の女性で、顔を見る限り30代と思われる成熟し始めた良い顔だ。 下着姿を露にした雰囲気は、色艶も瑞々しい。 両手首をローブで縛られていて、そのロープは首にも回っている。 無理に体を動かそうとすると、首が絞まる様に成る拘束の仕方だった。


「キャーキャーうるせぇがなっ。 直ぐに殺してやろかぁ?」


悲鳴を上げたローブ姿の女性の衣服を毟る男が、ギラギラした目でナイフ片手に訛声で脅しを掛ける。 地方の訛りも滲むこの男、ゲイラーと戦った大柄のハンマー遣いだった。


一方で。


「縛られてンのに綺麗事言うな。 大した知識も無ぇ学者がよ」


と、垂れ目の真面目そうな皮のマントを纏った男性の前に屈んだのは、ゲイラーに細剣を弾き返された細身の悪党である。


縛られている真面目そうな男性は、この寒い中で裸にされそうな知識神を信仰する中年女性と訛声の大男を見て。


「止めろっ!!! 彼女だけは逃がすんだっ!!」


と、必死に大声で叫ぶ。


すると、細身の曲者男がスラりと細剣を抜いた。


「ホントうっせーなぁっ!!!」


苛立つ声と共に、真面目そうな冒険者男性の喉に細剣を突き付けた。


「はっ」


息を呑み、転がったままに身を硬直させた冒険者風の男性は、細身の男を見上げて。


「さっ・最初から殺す気で俺達を?」


髪が長く背中にまで届き揺れる細身の男。 壁に掛けられたランタンの明かりで見えるこの男の目は、非常に残忍な目つきだ。 垂れ目加減の目が、ギロギロと凶暴な光を宿すのが尚更不気味である。 黒い厚手の皮ズボンに、今はプロテクターなどを脱いで長袖の襟の在るシャツ姿だ。


細身の男は、真面目そうな男性を見下して笑い。


「あぁ、端っからそのつもりよ」


「くっ・くそう・・・」


その二人のやり取りを、手を止めて見ていた大柄の男。 屈んだ前には、手首と首を縄で縛られる黄色い下着を露にした女性が怯えていて。


「そ・そそ・・・そんな・・かっ神よ・・・」


と、涙を流した目で絶望的な縋りの言葉を漏らした。


その時だ。


「う゛ぎゃぁぁぁぁぁーーーーーっ!!!!!!!!!!」


ランタンの掛けられた柱と柱の間に見える暗黒の口の様に暗い階段の入り口から、寒い空気を切り裂いて絶命染みた男の叫び声が響いた。


「あ゛っ」


真面目そうな男性が怯える様に声のした階段の入り口を見て。 女性僧侶も目を向いた。


髪の長い細身の男は、声のした階段の方をニヤニヤと見て。


「あ~ぁ、カシラがキレた。 早速一人死んだな」


“死んだ”と聞いて、真面目そうな男性は憤りと無念の混じる顔を男に向け。


「私と彼女以外にも冒険者を攫ったのかっ?!」


女性僧侶のローブを引き千切った所で手を止めた大柄の男が、汚らしい笑みをを浮かべれば。 歪んだ片目が不気味に細まり、見ている相手に嫌悪感を彷彿させる形相と為る。


「あ~、お前等の他にも招待したぜ? 男5人に、女一人。 しぃ~んぱいすんなぁ。 男は、用無しならすぅ~ぐに殺してやるださ」


と、云ってから。 大柄の男は、怯える女性僧侶を見て。


「ぐへへへ。 女は、すこぉ~し長生き出来るゼ。 用が在るのは、体の方だがンなぁ。 あはははは」


その嫌らしく薄汚い笑みを見て、辱めを受ける事を知った女性僧侶は恐怖でワナワナと顔を震わせて。 身動きの思う様に出来ない体を蠢かす。


「やっ・・・」


細身の男に細剣を突き付けられながらも、暴行を止めさせようと言葉を発した男性だったが。 声を上げた瞬間に細身の男も反応し、男性の喉笛を斬った。


「あぁっ!!! そっ・そんな・・・いぃやぁぁぁぁぁぁーーーーっ!!!!!!」


大柄の男が迫って来た中で、激しく血を噴出させて呻き伏した男性を見てしまった女性僧侶。 必死に自分を護ろうとしてくれた同業者の末路が、こんなにも無残になろうとは。 そして、自分の肉体に伸びた手に対して出来たのは、泣き叫ぶ事だけだった。


階段の方からは、新たに若くトーンの高い男性の悲鳴が上がった。


「うぎゃっ!!! 助けてっ、し・しらな・・いぎゃぁぁぁぁっ!!!!」


拷問でも受けているかの様な悲鳴は、然程長くは続かなかった・・・。


ポリアがハソロと話した夜は、誘拐された者には地獄の様な夜だったのである。






                      ★★★




その日は、オッペンハイマーが行政都庁府に出向いた日だった。 街に奇抜な冒険者達が来た昼過ぎから、昼下がりを過ぎた頃合だろうか。 寒い暗がりの牢獄の奥で。


「吐けっ!! 吐けぇぇっ!!!」


鬼の様な形相で、木の棒を手に折檻している者が居る。


「あぐぅ・・うぶぁ」


この凍える様な寒い中で、石の床に崩れたのはアルロバートである。 上半身は衣服を着けて居らず、木の棒で殴られた打撲の痕が全身に付いて浮腫んでいる。 顔もまともな素顔とは云えない。 鼻血が飛び散り歪んだ鼻、口の両端から唾液と血の混じった物が幾度も乾いた跡を重ねてまた濡れてる。


木の棒を持ったショーターは、眉間にシワを寄せたままに見下ろし。


「フン。 強情な野郎だ」


狭い四角の部屋の中。 共に入り見届けているミズリーが。


「ショーター様、これ以上すると死にます。 午前に受けたフロイム様からの話では、こ奴の父親をオッペンハイマー様が引き取ったとか。 親子揃うなら構いませんが、一人で殺しますと後処理が難しいです」


これだけの拷問を前にして、顔色も声音も変わらぬミズリー。 どんな生き方をしてきているのか不気味な男である。


木の棒を脇に捨てたショーターは、


「フン。 “あのお方”から出来る事は全てしろと通達が有った。 コイツの狙った物が“あのお方”の求める物なら、狙ってる相手が解れば情報に成る。 それより、アッチの方はバレない程度にしておけと云えよ。 死体も一応は出せと」


「解りました。 ですが、御気を付け下さい」


「ん? 何がだ?」


「オッペンハイマー様の血縁は中央に多く、政府や王とも所縁の深い方々ばかり。 ハソロも古い貴族で方々(ほうぼう)に協力者が多い様です。 強引に事をいで、中央権力を呼び寄せる事に為りますれば、アノお方からのお役目が無になるかと」


ショーターは、ミズリーから話を嫌う様に視線を外し。


「解ってるっ。 だから、オッペンハイマーの屋敷に踏み込まないんだ」


と、云うと。 一人で苛立ち。


「しかし、本当に超魔法時代前の山岳王国の情報とはアレなのか?」


「・・・」


ミズリーは、黙って気を失ったアルロバートを見下ろした。


(まだ死んでくれるなよ。 お前の主が解るまでは、な・・・)






                    ≪絶望との面会≫





そして、遂にその日は訪れた。 朝から深深と雪が降り始めた。 風は無風に近く。 シュテルハインダーの街中を切り裂く様に分断して流れる川には、街中の雪解け水が流れ込み温度差で水煙が立ち上る。 


冒険者の学者8名が行方不明に成ったと解ってから2日後。 街中を巡回警備する兵士により、街を二分する川岸に流れ着いた冒険者達の遺体が発見された。 


川から雪の積もった土手岸に引き上げられた遺体と対面した冒険者達は、その変わり果てた仲間の姿に怒りを通り越した悲しみと衝撃を受けた。 男性は、酷い折檻と云うか拷問を受けた痕が全員に見られ。 女性の遺体は、まともに見られる物では無い程に暴行を受けた姿だった。 


痣と傷だらけの姿に、ポリアやゲイラーなどは殺意を覚えた程だった。 ポリアとシスティアナは、枯葉や川のドロで汚れた遺体の顔を泣きながら綺麗に拭い。 死んだ仲間を悼み祈りを捧げる同業者と共に、システィアナは祈った。


「こ・・・こんな事って・・・嘘よッ! ジーマン・・ジぃぃぃマぁぁぁーーーんっ!!!!!」


首を斬られて死した男の遺体に縋ろうとするリリーシャが、遺体の回収をする役人に止められる姿が煙る川面にぼんやり映る。


「クソッタレっ!!! 殺ッた奴等っ、絶対に許さねぇぇっ!!!!」


ブロッケンは、元の素顔が判らない程に殴られ傷だらけの仲間ヨレイムの遺体脇に泣き伏した。


チェインバースは、男なのだが暴行も受けた様子の見える痣だらけの従兄弟シビクの遺体を抱き上げようとして役人に止められ。


「嘘だぁぁぁっ!!!!! こんなのうそだぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!! シビクーーーっ、シビク死んじゃ嫌だよぉぉぉーーーーっ!!!!!! わぁぁぁぁーーーっ!!!!!!!!!」


と、もがき喚く声が、対岸へ見に来た冒険者達や街の人達にも居た堪れない程に悲痛な叫びと聞こえた。


現場に来たハソロとイエナスだが、イエナスは遺体を見て嘔吐してしまう。 ハソロとて、慣れていないなら同じだろうと思わずに居られない。


遺体を全て見回ったハソロは戦慄すら覚える。 長い捜査官人生の中で様々な死体を見て来たが、此処まで出来る相手を犯人とするのはそうにない事だと青褪めた。


(犯人は狂ってる・・。 嗚呼、これは異常だ)


冷たい川の中に浸かっていた遺体は、どれも硬直していた。 そして、遺体の中の一つに、また記号なのか暗号なのか、果てまた只の悪戯書きか解らない物の書かれた紙切れが在った。 “丁寧に”とでも云えばいいのか、皮の胸当ての内側に入れられていた。 酷く締め付ける様に胸当てが装着させられているのに、兵士が気づいたのだ。


遺体を回収するように役人に命じたハソロは、その作業を見守っている。 其処に、下級兵士隊を束ねる副補佐の一人でショーターの腹心であるミズリーが来た。 ポリアと余り変わらない背丈の冷静と云うか、冷たい感じのするいい男である。


「ハソロ殿。 死体や事件関連の調査が纏まったら、こちらに連絡を貰いたい」


「解っている。 それより、都市の巡回をしている兵士方の不審者等の情報が回って来ないのは何故だ?」


ハソロに噛み付かれた言い方をされた防寒具を鎧の上から纏うミズリーは、瞬時に斬り付ける様な目でハソロを見て。


「遺跡調査で我々などに仕掛けて来た者共との関連を調べる上で、我々はそちらと合同の任をしているまで。 学者を殺された事件はそちらの管轄だが、オッペンハマイー様が襲われた以上。 二つの事件が関連してるとも思える。 その為、確かな情報や捜査内容のみ、そちらへ報告するとショーター様がお決めに為った。 渡される情報だけに気を回せば良いのだ」


ハソロは、目の前に残酷な犠牲が出ているのにも関わらず。 こうも秘密を守る兵士達に怒りが込み上げる。


「そうか。 だが、これだけは覚えておけ。 御主達の不手際で何か起こった場合、ワシ直々に統括へ掛け合いお前達を捕まえ詮議する。 我々は、役人であろうが兵士であろうが調べる権限を持っているからな」


「フン。 お前などに調べられる覚えは無い」


と、踵を返すミズリー。


下級の兵士を束ねる隊長がショーターだが。 騎士の配下としてショーターが駐屯兵士を含めた一個大隊の兵士長に為ってから、兵士と警察局の溝は深まるばかりだ。 ハソロは、貴族でない上に固執した実力エリート主義のショーターを忌み嫌っていた。 だが、今の統括フロイムの息子へも剣術を教えるショーターは権威が強く。 騎士ですら無視出来ない所が有る。


(クソっ)


ハソロは、重要な証拠を押さえるショーターにイライラを募らせた。 残された物証や容疑者は、全てフロイムの頼みで兵士の方に預けて有る。


「うえ・・うう゛っ」


近場で吐き続けるイエナスの姿に、ハソロは目を向くなりに。


「この軟弱がぁっ!!! まともに仕事が出来ぬなら帰れっ!!!」


と、怒鳴る。 だが、運ばれる遺体に体を戻すと、向こうの冒険者側から見てくるポリア達を見つけ。 静かに軽く一礼をする。 


頷くポリア。


(済まない。 何も出来ずに・・・)


ハソロの声が聞こえて来そうで、ハソロの苦悩が伺えた。


ポリアは、このまま被害者の居たチームの冒険者達を斡旋所に戻しては、興味本位の情報収集で地元組の輩共に聞き捲くられる事が十分に理解出来る。


「ブロッケン、それに皆さん。 私が全員分の宿を借り受けるわ。 少し斡旋所からは距離を置いた方がいいと思う。 大部屋男女に分けて借りるわ」


40人前後に成る宿代5日と云うなら、7・8千シフォンに成るだろう。 皆、遠慮するも。


「こんな時の為にかな。 私達が有名に成り出した最初の事件で大金貰えたの。 稼ぎは自分達でも出来るし、私達は宿代要らないから。 それより、噂が溢れて混乱すると役人の方が情報収集しずらいわ。 犯人が判ってる訳じゃ無いし。 少し休んで」


大型施設のキャタピコーム内に有る大衆宿屋にて部屋を借りたポリア。 即金で1万を払われた店側とするなら、ポリア様様だろう。


そして、ポリアは仲間を連れて斡旋所に向かった。 主に事の次第を伝える為だ。 ブロッケン達が居ないままに騒がれても困る。


だが。 斡旋所には、ポリアを新たな道にいざなう者が居るのだった・・・。

どうも、騎龍です^^


ご愛読ありがとうございます^^

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