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エターナル・ワールド・ストーリー  作者: 蒼雲騎龍
K編
64/222

ポリア特別編サード・中編

ポリア特別編~悲しみの古都オールドシティ~中篇・古都で惹かれ合う絆





                  ≪事件は緩やかに悪化して≫





ポリアの一声に、警備する兵士達の連隊長のゾセアは目つきを鋭くして。


「冒険者が失踪したから、この俺達に出張れと云うのか? そんなのは、警察局の上級管理官にでも言え。 警察局の副総長のハソロだか貴族が捜査指揮をしていた筈だ」


と、ポリアの言葉を蹴る。


ゲイラーは、その傲慢染みた態度にイラっとして。


「アンタ兵士だろ? 事件が続いてるかも知れないのに、動かないってか?」


しかしゾセアは、どうでもいい様な素振りで鳥の羽飾りが伸びる丸いミンク製のハットを撫で。


「冒険者に指図される筋合いは無い。 第一、我々の任務はオッペンハイマー様を護衛する事。 此処を無闇に離れるのは、命令違反だ。 能無しが、偉そうに言うな」


見ていたマルヴェリータがポリアに寄り。


「ポリア、オッペンハイマー様に馬車をお借りしましょ。 此処で議論する時間が勿体無いわ」


その通りだと思うポリアは、ゾセアでは無く役人を束ねる方の隊長らしき中年男性に向き。


「もう、ハソロさんは出勤してるかしら?」


黒いベレー帽に似た丸帽をフードの下に被る役人は、邪険な態度をしたゾセアに一瞥してから。


「はい、恐らくは。 ハソロ様は、貴女方に何か在っても連絡を遣す様にと云われておりました。 警察局に用が在るなら、一人付けますが?」


あのハソロと云う役人は、流石に歳相応の考えを持った人物の様だ。 ポリアは、行方不明者が出ている事態を考え。


「では、私達はこのまま斡旋所に行きます。 そのお一人を、警察局に向かわせてくれませんか? 冒険者の学者達が行方不明となっていて、もしかすると事件に巻き込まれた可能性があると。 至急、事情を聴いてくれる方を向かわせて欲しいって」


「ハッ。 貴女の言は、自分と同じだとオッペンハイマー様からお言葉を受けております。 事件解決のため、一人馬で向かわせます」


敬礼して承諾してくれる役人を見て、ポリアは、叔父がささやかに手を回してくれていると理解した。 何か在った時、この場に自分が居なくても困らない様に、ポリアを優遇する言をハソロにでも言ったのだろう。


「ありがとう。 事件に繋がる証拠は、全て役人さんに渡します」


ゲイラーは、ゾセアと云う男を脇目に。


「偉い違いだな」


と、マルヴェリータに小声で言う。


「捜査と警護の任務の違いでしょ? ま、アッチはエリートみたいだしね」


マルヴェリータも、偉そうな兵士達の連隊長ゾセアに嫌悪の目を向ける。


ポリアは、役人に冒険者達と一緒に斡旋所へ行くと告げ。 屋敷に戻り、叔父からあの図形の描かれた紙を受け取り出掛ける事を伝えた後。 


「叔父様。 一時出ますが、夕方までには戻ります。 とにかく、気を付けて」


「あぁ、解った。 ポリアンヌ、とにかく危ない事は避けてくれよ」


オッペンハイマーは、そう言って幌付きの中型馬車をフロマーに用意させた。 大人数を乗せれるのは、荷馬車しかなかったからだ。


さて、馬車を外に出し。 押し掛けて来た冒険者7名とポリア達6名の13人を乗せた馬車は、大通りに出て斡旋所に向かう。


その中で。


大柄な大剣を扱うチームリーダーのブロッケンと云う男が、


「役人も出て行った様だが?」


ポリアは、向かい合う彼に対し。


「学者が狙われたなら、多分叔父やアラン先生を狙った相手と同じよ。 これは事件だわ。 私達だけで勝手な行動は控えるべきだし、記憶の中に事件の手掛かりがあるかも知れないでしょ? だから、来てもらうの」


自然神を信仰する薄目の大人びた女性僧侶リリーシャは、ポリアに祈りを見せ。


「あぁ、感謝するわ。 どうしたらいいか、チームの皆が心配してるの。 役人に言いに後で皆で行こうって決めてたから、助かります」


落ち着かない冒険者達を見てイルガが。


「居なくなったと気づいたのは、今朝か?」


頷く皆の中、小柄な初老のハンマー遣いであるイブリフムが。


「そうだ。 昨日の吹雪で身動き取れない俺達は、斡旋所の地下や一階で屯してた。 こっちの2チームは、斡旋所付属店の大型施設に寝泊りしてたらしい。 朝に為って、向こうの魔法遣いが仲間が居なくなったって言い出してな。 一緒にチームを組む筈だった冒険者達も一緒に騒ぎ出して、俺達も仲間内で確認し合ったら一人居ないし。 その内あっちこっちで居ない奴が出てきてしまったのさ」


ゲイラーは一応の確認に。


「暇な時はバラけてたんだろう? 何処かに行ってるとかじゃ無いんだな?」


すると、若い魔法遣いで泣きそうだったチェインバースが、


「従兄弟のシビクとは、今日に他の3人と組んでチーム結成するハズだったんだっ! 冒険者として初めてチームを結成する時に、何処に行くのさっ。 あぁ、シビクが居ないなんて、信じられない・・・」

 

その学者であるシビクは、弓も使う若い青年だそうな。 女の子とも見間違える風貌で、年上のチェインバースとは兄弟の様な仲だとか。 初めて結成を決めた仲間内で、一番結成に意欲を見せていたシビクが突如として居なくなる訳が無いと云う。


すると座っていたリリーシャは、ポリアに膝を寄せて。


「私の仲間である学者のジーマンは、非常に真面目な方で夜遊びや飲み歩きもしない人です。 昨日も、日中にあの吹雪の中を図書館に行き、仕事で請けようと話していた薬草採取の下調べに向かいました。 ですが、他の仲間に因るとそのまま帰って来てないと言うのです。 図書館に行っても居ません。 大型施設内や、斡旋所の中で遅くまで飲んでいた冒険者の方に聞いても、ジーマンらしい人物を見てないと・・・。 正直、懐が寂しい私達ですから、一人で宿に泊まったとかも在り得ません」


それぞれのチームリーダーが事情を語る中、ブロッケンは難しい顔で俯き。


「夏ならいいが、今は冬だ。 寒いから、皆がフードを被ったり厚着したりしてるし。 時々、斡旋所の地下の最下層を利用しに浮浪者も来る。 不審者なんて聞き回ったら、それこそ幾つ情報が聞けるか解らないし。 その何処までが正しいのかも解らない」


ポリアは、その話を聴くにまた目の前が暗くなる思いがして。


(これは大変だわ・・。 あ~、学者の人に話し聞きたかったのに、これじゃ意味無い)


と、オッペンハイマーが書き出してくれた記号の様な物が書かれた紙を見る。


揺られる馬車の荷台の中。 ポリアの両隣に座っているシスティアナとマルヴェリータが、広げられた紙を見てくる。


「コレ?」


と、マルヴェリータが言えば、システィアナも見て。


「お三角さんばぁ~かですぅ」


マルヴェリータは、アランの家に残された物も含めて4つの少し歪な三角形とその中心に記号の様な丸や点の集まりなどが描かれる物を見て。


「確かに、イタズラ書きみたい」


と、呟き困った。 ポリア同様に全く意味が解らなかったからだろう。


石の都市の隙間を走る冷たい風が馬車の荷台入り口の幌をバタつかせる音を聞くポリアは、事件現状に残されたモノを見下ろし。


「ケイが居たら、解るのかな。 こんなの見た事無いわよ」


と、溜め息を漏らした。


そして、馬車は街中の斡旋所に到着した。


馬車から降りたポリア達。 すると、斡旋所の入り口を開いて中に入るなり、いきなり“地元組”と呼ばれるこの場所に居座り続ける冒険者達が。


「おいおい、ホール・グラスの皆さんが来ましたで」


「ヒューっ! あの学者を殺してる悪党達を撃退した凄腕かよ」


事件も解決しておらず、手掛かりも無いままに居るポリア達を持ち上げようとして来る。


(何コレ、最低っ)


空気を読めないバカ共の姿に、イライラを顔に浮かべるマルヴェリータやヘルダー。


ポリアは、こんな様子では事情聴取など無理と思い。 奥のカウンターに行って、主である夫婦の旦那に話をしに行く。


「おはよう・・、マスター」


動物の毛がそのまま残されたコート着ている偉丈夫な主人は。


「おう、来たのか。 ご活躍ならしいな」


怪訝な顔すらするポリアは、飲み屋としてのカウンター脇の奥。 隣の大型施設から出前も受けれる事も可能な事務所にマスターを招く様に首を動かし。


「話が在るの。 奥で、イイ?」


暖炉脇のカウンターからポリアの前に来る主人は、


「聞かれたく無い話なら、4階遣うか? アンタ等なら、難易度の高い依頼も回せるから入れるゼ」


「なら、お願い」


レンガ造りの古い頑丈なだけと見える1階は、冒険者達が屯したり食事もする雑多な場所だ。 どうも雰囲気としては、難しい話をしずらい。


ポリアは、ゲイラーやイルガに。


「此処に居て。 役人の人来たら、直ぐ教えて」


事務所の様な小部屋と1階の間にある階段に向かう主を先に行かせ、マルヴェリータと共に上るポリアだった。


主は、ポリアが斡旋所に役人を呼んだ事を途中で聞くに。


「そうか、手配したのか。 なら、ウチの奴にも言って置こう」


と、3階で一般依頼を受け付けている主の奥さんに逢い。 役人が来たなら、3階に上げて留まらせろと言い置いた。


4階に上がると、其処は半円ドーム状のフロアで。 中々な職人が作ったと思わせるソファーとテーブル

が備わる。 緑のタイル床は安物とはいかない絵の描き入れられた物、丸い円状の壁には外を見回せる窓がカウンターの後ろ以外をグルっと囲む様に作られている。 ガラスの幅は、ポリアの掌二つ縦にしたほどしか無いが、曇り出した外の雰囲気が、良く解る。


「全く、貴族のお屋敷に押し掛けたのか。 朝っぱらから仲間が居ないって騒いでた奴等が急に見えなくなったと思ったら、オッペンハイマー様の所に居る君を訪ねていたとはね」


カウンターへ向かう主は、不躾な行為に不満も匂わせる。


だが、ポリアからするなら、彼等の行為も人としてなら当然だ。


「仲間が居なくなったのよ? 心配するなら、心当たりの有る誰かを訪ねるのって当然だわ」


「普通は、な」


と、カウンターに回った主は続け。


「押し掛けて行った上に逮捕者が出たら、斡旋所としても聞こえが悪い」


その話を聞いたマルヴェリータは肩を竦めて見せ。 ポリアは、意外にクールな性格だと思う。 だが、事態はそれ処では無い。


「マスター、叔父の家とアラン先生の所に襲撃が来たのは知ってるわよね」


「おお。 警察局と軍部は緘口令を敷いて、襲撃の情報を広げない様にしようとしたがな。 民間人に犠牲出たし。 街一番太い大通りでも、逃げた犯人達が乗った馬車で酔っ払いの住民とかの轢き逃げが続出してな。 もう噂なんかに歯止めが利かなくなってしまったみたいだぞ。 実は、斡旋所にその話が広がったのは、昨日の昼過ぎみたいだな。 事件の事を隣の大型施設で聞いた奴等や、別の場所で聞いた奴等が金欲しさに此処でバラ撒いた。 何せ被害が大きく、犯人を撃退した者が居て。 それが侯爵家に寝泊りする特別な君達だと言うから、噂話は大盛況。 地元で屯してるバカ共、結構小銭を稼いだんじゃないか? 噂を聞きたいと冒険者達が集まってたしな」


ポリアは、仕方ない事だと呆れ。


「そう・・。 でも、居なくなった学者達は、進行してる緊急事態だわ」


すると主は、少し淋しそうに。


「だな・・」


と、呟く様に言うのだ。


前の会話とはガラリと変わる口調なだけに、マルヴェリータは短い一言で。


「随分と冷静だわね」


棘を含む言われ方だと感じた主は、ポリアとマルヴェリータを見て。


「悪いが、安否は絶望的だろうな。 相手が悪すぎる」


ポリアはその言葉に諦めを感じ、まだどうなったか解らない今で絶望視するのは気に食わないと感情を露にして。


「どうゆう意味? まだ、見つかってないのにっ?!」


しかし。 言い返す処か溜め息を吐いた主は、暖炉に向いてポリア達に背を向けた。 そして、灰の燃え残りを火掻きする鉄の棒で弄りながら熾きを探しつつ。


「だって、犯人らしい奴等は民間人の居る住居区で魔法を平然と使用したんだろ? もう、何人も街に住む学者が殺され、おまけの大それた事にオッペンハイマー様やアラン殿を狙った。 その犯人とか云う奴等は、義理人情や普通一般の気持ちを理解する心を持ち合わせちゃいない」


ポリアは、憤り始めたままに主に近づき。


「だからっ?! このまま見過ごすの?」


熾きの紅い炭に、小さい小枝を投げた主は。


「まだ若いな」


「えっ?!」


小枝が焦げるのを見た主は、上がる煙を確かめながら。


「最初の事件から考えても、奴等が学者を捕まえて数日して殺すとかならまだいい。 だが、殺られた様子を踏まえるに、押し込んだ後に然程の時間も置かず殺してる。 その答えは、犯人達の学者に対する用件は酷く簡単で。 相手が求める何かを持っていないなら、用は無いと殺すんだ。 折檻の痕も在ったらしいが、それでも一昼夜掛けてなんて長い時間じゃない。 居なくなった学者は、皆昨日には姿を消してる。 それから、もう夜が明けた今日だ。 生きてる奴が居ると考える方が不自然と思わんか?」


ポリアとマルヴェリータは、その話にビクリと体を硬直させた。 





                       ★★★




さて、ポリアとマルヴェリータが絶句した直後。 斡旋所に、役人を乗せた馬車が到着した。


黒塗りの乗用馬車の扉を開き右手に降りた男が。


「ふぅ~。 民間・役人・貴族と続いて、最後は冒険者の学者か」


雪に染まった斡旋所の表を見上げて云う人物は、警察局上級捜査官副総長のハソロである。 訝しげな小男の様に見える太ったイルガと似た背丈の彼だが、年齢は50を過ぎ、実際の捜査に出れば仕事人の様な威厳を持つ。 黒く固いつばを持つ丸帽子に、緑のロングコートを羽織り、軍服の様な造りをした繋ぎの制服を着ていた。 寒い中で外に下りても、情けなく震える様な仕草もしない。


「ハソロ様。 本当に宜しいのですか? たかだか居なくなった冒険者風情の為に、この様な場所に入って直々に事情聴取など・・」


ハソロにこう言う後から降りた頼り無さそうな役人は、繋ぎの上等な正装姿であり。 馬車の外後部に捕まって来た3人の役人は、オッペンハイマーの屋敷に居た役人と同じ下級役人の服装である。 ハソロは、その頼り無さそうな役人男性を片眉を上げて見上げた。 優男の様な細い身で、剣の心得も素人並みの30代男。 少し知恵は回るが、思い込みの激しい所がある上に、侯爵家の次男で親戚の伯爵家へ養子に入ったこの男は、ハソロの悩みの種である。 この頼りなさ気な男性が、どうも今回の事件を軽視している様に思えるハソロは。


「イエナス君。 もう多数の死傷者を出した事件だ。 我々が出向かずにどうする」


“イエナス”と呼ばれた男性は、どうも冒険者の居る斡旋所を嫌々な目で見上げ。


「はっ。 では、早速者共をとっ捕まえて事情を・・」


その言い方にイラっとした顔をしたハソロ。 イエナスの服の袖を引き。


「犯人でもない冒険者をとっ捕まえてどうするんだっ。 全く、中央から来る貴族はコレだから困る。 犯罪を犯したもの以外、我々が手を下せる相手は居ない。 例え相手が冒険者であろうとも、権力を傘に着る様な行為はイカン」


「あ、は・・・はぁ」


同じ伯爵を頂くハソロは、イエナスを見ては頭を振るい。 呆れた様子で斡旋所の中へと入った。


イエナスは生まれが良い為に、下級役人を経ずして上級役人に成ったエリートである。 捜査官としての勉強の為にハソロに付き従う事が多く。 訝しげで在りながら犯人逮捕の際は厳格たる猛者に変わるハソロとは対照的だ。 第一印象で周りに良く見られがちのイエナスは、後々に為るにつれてひ弱な性格と思い込みの激しさが露呈して呆れられる。 捜査官としては、非常に不向きな人物だった。


さて。 斡旋所に入ったハソロ達役人を出迎えたのは、100人以上の冒険者達の視線。


「わっ。 徒党だ・・・」


と、呟くイエナスに対し、ハソロは。


「一連の学者殺害及び傷害の事件を担当するハソロだ。 事情聴取に参った」


すると、気付いたゲイラーが奥より。


「役人さんよ、上に上がってくれ」


「ん?」


ハソロは、老いも見える丸顔を声の方に向け。


(オッペンハイマー様の屋敷に居た・・・)


と、ゲイラーを思い出しながら。


「上に用が?」


「今、俺達のリーダーが主と話してるが、此処は聞く者の数が多い。 上で関係者だけ集めて話を聞いたらどうか、と」


ハソロは、事件の内容を余り噂にされたくない心情から。


「それは有り難い。 あの美人の女性は一緒かな? 確か・・・ポリア殿とか」


「ああ。 上で、主と話してる」


だが、此処でイルガは。


(はて? 何故にこの御仁は、お嬢様に“殿”などと・・)


敬う言い方では無いが、相手を呼び捨てにしない作法の言い方を付ける役人を見て。 イルガは、ハソロと云う人物が気に成った。 ただ付ける者も居るのだが、オッペンハイマーの親戚と聞いた後のハソロは、ポリアに対して大声を出したり、鋭い口調や権力を滲ませる態度は出さなかったのが思い出される。


ハソロは、イエナスと役人3人を連れて階段の在る奥に向かう。


其処に、丁度降りてきたポリアとマルヴェリータ。


「あら、ハソロさん・・でしたか?」


ポリアは、ハソロを見て道を開ける。


ハソロは、気を無くしたポリアしか見て居なかったので。


「おぉ、少しは落ち着いた様だね。 丁度いい、この前の事情聴取をもう一度行いたい。 済まないが、居なくなった冒険者達が属したチームなどの関係者のみと、君達は上の階に同行して貰おうかな」


ポリアは、仲間達を見てから。


「いいわ。 事件解決に繋がるなら、喜んで協力します」


ポリアとマルヴェリータを見て目を奪われてしまったイエナスに、ハソロは向いて。


「イエナス君、階段の所に見張りを一人置くよ・・。 イエナス君、イエナス君っ聞いてるのかっ?!」


怒鳴られ加減の言葉にビクンと驚いたイエナス。


「はっ、はははい? 身柄確保ですか?」


ハソロは、二人の美女に現を抜かしたイエナスにムカっと来て。


「このっバァッカモーーーーーーーンっ!!!!!!!」


と、凄まじい怒声を張り上げた。


そして・・・。 クスクスと笑うシスティアナ。 一番最後に見張りで立たされるイエナスと下級役人を見て、階段を上がる時まで笑っていた。


さて、4階に上がったハソロは早速とばかりに。 冒険者達それぞれから、居なくなった学者の足取りの出来る所まで解る範囲の事情を詳細に聞き抜く。 曖昧な部分には助けを出したり、思い出すまで少し待ったりと。 その事情の聞き方には、ポリアも驚く程の根気の入れ様であった。


(あの人、役人としては出来るわね)


マルヴェリータは、下がって待つ中でポリアに耳打ちする。


(うん。 話の聞き方が上手いわ。 驚いちゃった)


随分長い事情聴取だった。 昼も過ぎた頃である。 居なくなった学者8名の内、7名分の事情を聞き終えたハソロは。


「大体良く解りました。 ですが、不明な点がでたら、また事情をきかせて貰う事になりますよ」


ブロッケンを始めとしたリーダーが、ハソロの言葉に返事を返す。


ポリアは、其処で。


「後一人居ないのって、誰?」


すると、リリーシャが座ったままに振り返り。


「ソロの方みたいですわ。 魔想魔術を遣う30そこそこの男性で、何か噂も宜しくない様で誰も関わり合いをしなかったとか・・」


すると、其処にブロッケンが口を挟み。


「恐らく、カフレヴンの奴だろう。 去年に流れてきた奴で、非常に金にウルサイ奴だ。 報酬の取り分を決める事に煩く細かい注文をつける上に、仕事を進行する中で自分の役割が多いと報酬を多く求める厄介な奴さ」


ハソロは、誰もその人物の事情を知る者が此処に居ない事を憂慮し。


「なるほど、それでチームに属して無い訳か」


メモを取るハソロに向いたブロッケンは。


「ああ。 それもあるが、今は雪に閉ざされて新米や内輪の少ないチームが来ない。 野郎も、口車に乗せる相手が居ないからソロなのさ。 ま、噂を飯の種にしたり、人を強請る事もしたカフレブンだ。 この時期は、冒険者ってより悪党に近い奴だろうな」


マルヴェリータは思わず。


「随分詳しいのね?」


すると、ブロッケンのチームの一人が。


「ウチのリーダーって、“根下ろし”だから、この街の事は詳しいよ」


ポリアとマルヴェリータは、見合って頷いた。


ブロッケンは、このシュテルハインダーの街を地元とした男で、雪の降る半年間だけ冒険者をする“根下ろし”している者だ。  結婚もしているし、子供や家族も一緒に居る。 出稼ぎの代わりに冒険者を時期だけする住人をこう言う。 “根下ろし”と。


ハソロは、事情を聞き終えた冒険者達を1階へ戻す傍ら、下級役人を一人遣わしてカフレブンと云う人物の事を深く知る誰か探して来る様にと伝える。


ブロッケンは、親しい相手はもう居ないと伝えた上で、自分も何か知ってる者が居ないか下で手伝うと進み出た。 “蛇の道は、蛇”。 役人が聞くより、同業者が聞いたほうがいいかも知れないと思うハソロは、それを許可した。


さて、行方不明者を出したチーム達と入れ替わりで、ハソロの前に座ったポリア達。


「さて、その後何か変わった事は?」


ハソロは、ポリアに聞く。


ゲイラーが。


「昨日のブリザードで外に出てない。 何も無いさ」


ハソロは、頷き一つを返し。


「では、何か思い出した事。 それから、気づいた事などは?」


マルヴェリータは、短く。


「無いわね」


すると、ハソロは腕組みをして。


「いいかね。 今回のオッペンハイマー様を狙い、アラン殿を刺した犯人達は今までに無い行動をした。 解るかね?」


ポリアは、仲間達と見合い。


「それは・・・人の居る所で魔法を遣った事ですか?」


「いやいや、それは君達に見つかった事による対処措置だ。 問題は、馬車なのだ」


ポリア達は、難しい顔をして理解出来ないと見せた。


ハソロは、もう冷めた紅茶を飲み。


「おう、いい茶葉だ」


と、言い置いてから。


「今まで、それまでの殺人3件は何れも人の住む中で被害者宅か、帰宅途中の夜分に襲われた。 だが、犯人が馬車で逃走するなど、一度も無かった事だ。 二件目の被害者で学術局資料部門の准責任者だった若者は、帰宅の途中で襲われた。 この時、仕事帰りの工房職人数名が叫び声を聞き付け、若者が殺された現場に踏み込んでいる。 だが、犯人は二人で走って逃げた。 更に3件目に殺された博物館館長の初老である人物は、かなり大きい豪邸に住んでいてね。 襲撃された時、館長に仕える従者で住み込みの者は手向かい惨殺され。 メイドや家族の女は酷い暴行の上に殺されておる。 この時も、泣き叫ぶ娘の声で通報が来てな。 逃げる犯人を追った役人と兵士二人が返り討ちに遭い、瀕死寸前の大怪我をした。 だが、犯人はこの時も走って逃げた」


ポリアは、事件の中身がこんなにも酷いのかと絶句してしまった。


代わりに、イルガが。


「それが? 逃げるのを迅速にするために馬車を用意しただけでは?」


「いや。 犯人の奴等は、非常にこの街に詳しい様だ。 何れの犯行時も、逃げて行く道は入り組んだ小道やわき道だ。 入り組んだ道を使って行方を眩ませるやり方なのだよ。 逆に馬車の通れる道など、冬の今では数える程しかない。 都市の内部の道は石で出来た上に、急な直角の曲がり道が多いのでな。 逃げるに馬車を使うのは不便だと思う。 しかも、犯人が君達から馬車で逃げる際に人を態と轢いたのには、怪我人を増やして混乱させる為なのだと思う。 だからか、郊外に出たら馬車の目撃がぷっつりと途絶えてるのがその証拠だ」


死傷者が非常に多い事件を聞いて、消えた学者達を思うポリアは心配に成った。


(あぁ、無事で・・・)


ゲイラーは、ふと気づき。


「そう言うなら、今回は誘拐だな。 殺人じゃない」


ハソロは、ゲイラーに指を向け。


「そうだ。 今まではその場その場で殺して来た犯人の手口が、此処に来て変わったと言って良い。 いや、想像を働かせるなら、君達の関わった事件から・・と考える方がいいか」


ポリアは、ハソロが何か問い掛けをしている様で。


「私達に何を聞きたいのですか?」


しかし、ハソロは意外にもゆったり事を構える様に。


「急いではイカン。 それでは、推理や想像が未熟で事件を掴めない」


ポリアは、もう夕方に向かう薄暗い曇り空を窓から見て。


「ハソロさん。 では、これから私達の寝泊りする屋敷に来ませんか?」


驚いたハソロと仲間達。 ハソロは目を丸くし。


「オッペンハイマー様のお屋敷にかね?」


「はい。 私達は、離れに逗留させてもらって居ます。 もし、ハソロさんさえ宜しいのなら、私達の意見も聞いて貰いたいんです。 実は、まだ隠してる部分が在ります。 それは、叔父や私達の偽りでは在りませんが、叔父やアラン先生と私達が知り合う事の内容です」


ハソロは、目を丸くしたが。 直ぐに深い事情が有る事を知り、態度を平静に戻して。


「フム。 明日は私も休みだ。 構わないよ。 ただ、私も一人だけ腹心を連れて行くが・・良いかね?」


ポリアは、頷いた。 叔父が心配だったので、早く戻りたかったのが理由だった。









                    ≪緩慢な夜≫







暗くなった夕方。 先に屋敷へ戻ったポリアは、叔父と逢って安全を確かめ合った後。 


「叔父様・・。 これから屋敷にハソロさんが来ると思われます。 離れで会いますので、お構いなく」


正直、オッペンハイマーも貴族としての仕事が在る。 今夜は、騎士の率いる兵士小隊を二つ従えたまま、友人の開く晩餐会に行く予定だ。 日中では、オッペンハイマーも王立図書館学術顧問・都政運営顧問と云う肩書きの元、様々な客と逢ったり、時には都政を司る都庁府へ出向かなければならない時もある。 今夜の晩餐会も、襲われたオッペンハイマーの安否を確かめ、その事件の事に関して各方面の政府要人が集まる場を設ける意味で高官騎士の貴族が開いたもの。 出向かない訳にはいかないし、かなり極秘な晩餐会に成りそうだ。


「ポリアンヌが招いたなら、私は何も言わないよ」


晩餐会の事を此処で聞いたポリアは、護衛に自分を連れて行かないと言うオッペンハイマーを心配するも。


「大丈夫。 妻と二人に騎士3人と兵士40人は付く。 極秘の晩餐会で、関係者以外知らない事だ。 寧ろ、中央の役人だった貴族も来るからね。 ポリアンヌの事を知ってる相手が居るかも知れない。 ポリアンヌが居ると、心配が増えそうだ。 だから、黙ってた」


こう言われては、ポリアも他に言葉を繋げない。


風が冷たく強い中。 二人乗りの馬車にめかし込んで乗る叔母と正装した叔父を、母屋の屋敷の窓から見送るポリアは・・・。


(叔父様、ご無事で)


出て行く馬車と付き添う騎士や兵士を見送ったポリア。 いくら身を隠したと言えど、位の高い貴族の集まりに出れば身元がバレる可能性がある。 ポリアは、この一件が終わったら国を離れようと心に決めた。


さて、ハソロが遣って来たのは、その直ぐ後である。 執事が出迎え、警備に当たる役人達がハソロの姿に驚いた。 


ハソロは、事情聴取だと言って無用な気遣いはしなくていいと下級役人達を下がらせ、ポリアと共に従者一人を連れて離れに来た。 しかし此処で、ポリアが極自然な様子で離れに入るのを見たハソロは。


(うむぅ。 はやりこの方は・・・)


ポリアの実態に気づき始めていた。 


ハソロを招き入れたポリアは、食堂としても応接の間としても使っていた場所にハソロを招く。 ハソロの後ろには、小柄ながらヘルダーの様な無口で生真面目そうと云うか、“頑固で寡黙”と云う言葉が似合いそうな中年の色白男が付き添う。 ポリアは、その隙の無い動作に、何か武術の心得が在ると看破した。


ハソロは、ポリアへ。


「この者は、ミハエル。 私の腹心で、時々役人達の運動不足を解消させる為に稽古相手をさせておる。 昔、冒険者もしていた男だが、口が堅いのは折り紙付きだ。 ま、同席を頼む」


「はい」


ポリアは、素直に応じた。


さて、ポリアの仲間と、ハソロ、ミハエルが揃い。 フロマーが持って来てくれた紅茶などで席に落ち着く。 ポリアとハソロは、ティーテーブルを向かい合う形で一人掛けのソファーに座り。 イルガとシスティアナ、ゲイラーとヘルダーがそれぞれのソファーに一緒に座る。 マルヴェリータの脇を進められたミハエルは真面目に固辞し。 システィアナがマルヴェリータの脇に行き、イルガの隣に座る事でミハエルも座った。


マルヴェリータが悪戯っぽく。


「私も嫌われるのね」


と、微笑んで言うと・ 何故かミハエルは俯き横を向く。


「何じゃ、家庭持ちで娘3人も居るのにテレるのか?」


と、ハソロに突っ込まれて、ミハエルの顔がムズムズと歪んだのには、ポリアなども純な男なのだと思えた。


さて、ポリアはハソロに、アランとオッペンハイマーとの関係を軽く語った。


「オッペンハマー様は、我が叔父です。 その叔父がアラン先生と崩壊市街地に行く上で護衛の仕事依頼をし。 私達が請け、付き従いました」


ハソロは、白いフサフサした帽子も抜いで禿げ頭を晒し。


「なるほど。 しかし、ポリア殿は余程にオッペンハイマー様のお気に入りならしい。 この離れは、オッペンハイマー様のお父上が使っていた場所。 其処を、見ず知らずの冒険者と一緒の姪御を泊めるとは、余程に・・余程に・・・」


ポリアは、ハソロが元は中央に住んでいた貴族とオッペンハイマーから知らされていた。 だから・・。


「この場で、ハソロさんを信用して言いますが。 ヨーゼフは我が祖父です。 私は、幼い頃からこの屋敷に来て祖父と一時を毎年過ごしていました。 この離れは、私にしてみれば第二の実家みたいな物ですね」


ハソロは、その話を聞いて。


(あぁっ! やはり、か)


と、納得した。 実は、オッペンハイマーとアランが襲われた夜。 取調べにポリア達を連れて行こうとした際に、オッペンハイマーが大激怒をしたのだ。 ならず者と云う印象も拭えない冒険者だから、役人とするなら捕まえて取り調べる所。 だが、この街でも指折りの権力者でもあるオッペンハイマーがポリア達の潔白と身柄に責任を持つと断言したのには、ハソロ以下役人や兵士も困惑した程なのだ。 だが、ハソロはその意味が解った。


「ポリア殿の身の上、このハソロはしかとご理解しました」


ポリアは、神妙な面持ちで。


「はい・・」


仲間の見るポリアは何処と無く弱い彼女で、何時ものポリアでは無かった。 やはり、親しい誰か以外に知られるのは、まだ嫌なのだろう。


だが、ハソロは微笑んでポリアを見る。


「ははは、どうやらポリア殿。 あの強引な結婚が御嫌だったらしいですな」


その話にハッとしたのは、ポリアとイルガ。 ポリアは、驚いた様子で。


「知ってるんですか?」


「うふぁふぁ、ええ・・。 貴女のお父上は、今から20年ほど前でしたかな。 騎士や貴族の風紀の乱れを憂いで、3年ほど中央警察部の内部調査をする場所に席を置いていたのですよ。 私にするなら、嘗ての上役のご家族ですから、噂は自然と耳に留まりますわい」


ポリアは、知らなかった事に口に手を当て驚き。 イルガと共に見合ってまたハソロを見る。


紅茶を飲みながら思い出す素振りのハソロは、遠い目で小振りのシャンデリアを見上げて。


「私がこの地に赴任したのは・・10年近く前でしたか。 ヨーゼフ様も居られまして、貴女の事を一・二度訪ねられた事がある。 縁とは、何処かに繋がっている物なのでしょうな。 まさか、事件でアノ方のご息女に出会うとは・・」


ポリアも不思議な感覚だった。 此処まで来ると、本当に祖父に呼ばれて来た様な思いに駆られる。


カップを台に戻したハソロは、顔を平静に戻すと。


「実は、ポリア殿。 貴女方の捕まえてくれた曲者ですが、どうもこの国の者では無い悪党組織の一味のようです」


ハソロの口調が、ポリアに向けて柔らかく成る。 やはり、嘗ての上司の娘であり、この国の最高の貴族というのが理由であろうか。


ポリアは、その耳慣れない“悪党組織”と聞き、仲間の皆を見ながら。


「それは・・一体?」


「いえ、ね。 仲間に殺された曲者達も含めて、捕まえたあの者の服を脱がせましたら、首筋に異様な刺青が在りましてな。 模様とその在る位置でどの組織か特定出来るのですが。 この世界には、幾つかの悪事を請け負う組織が在るのですよ。 高額な金で依頼を請け、悪事をを成功に導く集団を貸し出すと言う悪い意味の人夫出しの様な形態を取っています」


イルガは、初めて聞いた事に。


「ハソロ殿。 それは・・・つまりは計画的な犯罪組織が絡むと言う事ですな?」


「そう言っていい。 問題なのはこの組織の内情で。 大抵の悪事に対しては、近場の街などに屯している組織所属の悪党集団に、指揮をする頭を派遣して遣らせるのだ。 だが、組織は非常に優秀で残忍な暗殺集団を抱え、常にしくじった集団などを暗殺する。 家族も仲間も諸共だ。 だから、捕まった者は直ぐに自殺を試みる傾向にある。 そして、今回も・・」


ポリアは、あの捕まえた曲者が死んだのではと思い。 身を少し前に出す様にして、


「もうっ、死んでしまったのですか?」


「いや、間一髪の所で阻止はしたそうです」


「“阻止した・・そうです?”」


ポリアは、その間接的なハソロの表現に首を捻る。


「実は、今回の事件は兵士と合同でしてな。 あの者の取調べですが、私は衣服を脱がして組織の者だと理解した所で終ったのですよ。 直ぐ後に、兵士の上役で兵士長のショーターが身柄を奪いましてな。 私の進言も無視して轡を外し自殺に・・・」


マルヴェリータは、何ともマヌケな事態だと呆れて。


「まぁ、救い様の無い・・・」


ハソロも、自分の力が及ばない領域に連れて行かれただけに悔しそうに。


「本当に、だ。 舌を噛んで傷つけてしまったらしく、医務担当の僧侶が魔法で治療したらしいのですが、どうも経過がよろしくない。 このままですと、様子を見た私からしますと命が危険です。 食事もさせられないし、詮議も無理。 ま、組織が関わっている事が解っただけでも収穫ですが。 それは、解決には繋がりません」


ゲイラーは、世界的な視野で悪事の集団組織が在る事を聞いて腕組みし。


「なぁ~んてこった。 あの冒険者崩れみたいな奴等も、その仲間ってか。 厄介過ぎるだろ」


と、唸る。 隣のソファーでは、システィアナも腕組みしてゲイラーの話にウンウンしている。


ポリアもまた、そんな大掛かりな相手が絡むと聞いて悩む格好で。


「依頼って誰が、どんな内容で出したのかしら。 目的が解れば、対処のしようも在るけど・・」


ハソロは、ポリアに指を向け。


「其処、其処なんですよ。 そして、私はその依頼の内容に関わるのは、あの紙に残された物だと思います」


ポリアは、まだ持っている叔父に書いて貰った物を取り出し。


「やっぱり、コレ・・・」


と、紙を見る。 


「お持ちでしたか」


「はい、私も気に成って叔父に書いて貰いました」


「その記号とも暗号とも思える形の意味が解れば、事件は解決に近づくと思うのですよ」


ポリアは、4つの三角形のような物を見て。


「でも、犯人はどうしてこんな物を態々現場に残して行くのでしょうか?」


ハソロは、熱い紅茶の御代わりをしようとして、システィアナが代わりにしてくれるので御礼を述べた後に。


「恐らく、この意味を知る者を探す為だと思います」


ポリアは、自分と同じ考えをするハソロに。


「あ、やっぱり・・。 私もそう思います。 あの、ハソロさん?」


「なんでしょうか?」


ポリアは、自分の意見が間違いかどうか聞きたくて。


「ハソロさんから見て、アラン先生の襲撃はどうだと思いますか?」


紅茶を先に啜り、甘いケーキにフォークを伸ばしたハソロは。


「恐らく、連れ去る目的だったのでしょうな。 只、アラン殿が何かしたか。 或いは、嘘でも言ったか。 犯人達は、予定に無い殺しをしたのでしょう。 アラン殿の傷は綺麗過ぎるし、傷ついたアラン殿が裏手から逃げたのを放置してた。 いや、何か用事をした後で最後に止めを刺せばいいと思っていたのかもしれない。 とにかく、アラン殿の事は突発だったと思います」


マルヴェリータは、随分と言い切ると思い。


「確信有るみたいですわね」


ハソロは、麗しいマルヴェリータに肩を竦ませて見せ。


「ああ。 自信が有るよ」


システィアナは、座りながらピョンピョン跳び。


「すごぉ~いですぅ~。 ケイさんみたいでしゅ」


ケーキを食べる手を止めるハソロは、


「“ケイ”?」


ポリアは、話の続きが聞きたく。


「ケイは、私達が以前に出会った優秀な冒険者です。 それは、別にして。 その自信の根拠をお聞かせ願えませんか?」


「あぁ。 馬車の事は語ったからいいとして、先ずその紙ですよ。 3件目の事件まで、その記号の様な物が描かれた紙は、必ず死体の衣服に付けられていた。 “コレを見ろっ”と言わんばかりにです。 しかし、アラン殿の襲われた時は、部屋の床に折った物を投げ捨ててあった」


ヘルダーが見たのが、まさにそれだった。 机の上に置かれたかもしれないが、自分が見た時は床の上に落ちていた。 頻りに頷くヘルダーを見たポリアは、


「では、他にも理由が?」


ハソロは、ケーキを残して皿を戻すと。 ポリアに向いて。


「有ります。 上げるなら、その残された紙が最初から続いた3件の事件とは異なった上質紙で、アラン殿部屋に有った物である事。 次に、部屋が異常に荒らされているのも今回だけの特徴。 もう一つ言えるのは、オッペンハイマー様の襲撃に大掛かりな人数で仕掛けた事や、手下と思われる者共を殺したのも初めてですよ」


聞けば聞くほどに良く解らず。 イルガは深読みし。


「丸で、最初からの3件起こった事件を誰かが真似たみたいにも思えるの。 だが、学者が今度は誘拐されるとなると、尚更解らん」


だが、ポリアはふと思い。


「あの、ハソロさん」


「ん?」


「殺害された3人と、アラン先生や叔父は面識が有る様でした。 特に、殺された3人とアラン先生は学者と云う意味でも面識が有ったとか」


「おお、そうだね。 確か、最初に殺された学者で骨董品屋を営んでいだモンテルローと云う老人は、アラン殿と似た年頃で、若かれし頃はモンテルロー氏がアラン殿をライバル視する関係でも在ったとか。  2件目の被害者である若者も、一時アラン殿を師事して勉学に励んでいた者の一人。 3件目の被害者である博物館館長などは、アラン殿やモンテルロー氏から研究を盗んで有名に成ったと噂される人物で、幾度か空き巣容疑で逮捕された経緯も有る人物です」


ポリアは、全ての被害者がアランと深い関わりを持つ者だと知って驚き。


「そ・そんなっ。 では、他に狙われるとしたらアラン先生と所縁の在る誰かって事では?」


しかし、腕を組んだハソロは深く溜め息を吐き。


「ふぅ~。 それが、ですな。 アラン先生の弟子で才能の有る他の者は、王都やアハメイルに行ってしまった。 他に古い付き合いや関わり合いを調べるなら、魔術師で学者だった男“メンファルース”と云う70過ぎの人物が居たそうだが。 この男は、4年前に失踪してる」


「“失踪”・・。 事件ですか?」


ポリアの問う声に、仲間一同が神経を集めた。


ハソロは、腕組みを解き紅茶に手を伸ばしながら。


「それが、事件の被害者としてでは無く。 加害者として逃走したとも言える」


「逃げたんですか?」


ポリア達は、消えたダグラスを思い出して暗い思いを心に握る。


「はい。 どうやら、古代の暗黒秘術の研究に死体を用いていたらしい。 自分で手を下した訳では無いが、殺人を企む輩に手を貸し。 遺体の引き取り手に成っていた様ですな。 ゾンビの進化で、死んだ遺体を生きているかの様に復活させて使役する研究だったとか・・」


僧侶のシスティアナは、神をも冒涜する行いに怒り。


「そんな事はいけないんですっ。 ご遺体は、安らかにねむねむさせてあげなきゃいけないんですぅ!」


ゲイラーは、ウンウン頷き。


「システィの云う通りだ。 そんなのは、してはいけないのだ」


二人だけが胸を張り頷き合うのを無視したポリアは。


「その研究は、成功したのですか?」


「いや。 死霊ばかりを生み出していた様で。 御蔭で、踏み込んだ際にモンスターと戦闘になってしまい。 密告してくれた冒険者達が居なかったら、我々が危ない所でしたよ」


マルヴェリータは、魔術にのめり込み過ぎると研究に暴走する魔術師が多い事に憂い。


「研究魔術師の悪い癖だわ。 当たり前の事が解らなく為る」


イルガは、更にハソロへ。


「他には、居らぬのですか?」


「うむ。 ま、面識があるだの知人だのと云う間柄は居過ぎて調べが付かない。 学者が多いこの街だし、古代研究や歴史研究の中心都市だからな。 アラン殿を訪ねる者等、年にどれ程居るか見当も付かぬ。 他にアラン殿と親しいとするなら、彼の愛弟子の一人だっら学者のルフィムアイリーンと、中年の頃に彼へ師事を乞うた祭事・法事局の主任をしてるモハドゥニー氏ぐらいだと思う」


ポリアは、直ぐに返す剣の様に質問を返し。


「そのルフィムと云う方は?」


「それが、4年ほど前から行方が知れません。 モハドゥニー氏の話では、結婚したとか・・。 この街から出て行ったのかも知れませぬな」


ゲイラーは、


「しかし、ルフィム・・ん? 長い名前だな」


「あぁ。 彼女は、両親を天災で失った貴族の娘でな。 勝気な所も有るが、随分と綺麗な女性らしい。 今、年齢は27・8とかで、アラン殿の弟子の中でも一番の才女だったとか」


ポリアは、非常にその女性が気に成った。


(あぁ、この街に居なければいいのだけれど・・・)


これ以上の被害者など、聞きたくはなかった。


だが。 この夜は、攫われた冒険者達にとっては、最後の夜であった。 その末路をポリア達が知るには、少しの時間が必要だった・・・。

どうも、騎龍です^^


ご愛読、あいがとうございます^人^

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