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エターナル・ワールド・ストーリー  作者: 蒼雲騎龍
K編
63/222

ポリア特別編サード・中編

ポリア特別編~悲しみの古都オールドシティ~中篇・古都で惹かれ合う絆






                ≪ブリザードの中で・前≫






ポリアは、皆に押し留められた格好で離れに戻った。


昼間まで弱く降り続いた雪だが。 昼下がりの暗い曇天の下、吹雪に変わりそうな様子を見せる。 まだ、今年最後の月も半ば。 “冬の監獄地方”とも喩えられたこの豪雪地帯の冬は、これからが本番だろう。


さて、嘗ては祖父の寝室であった部屋に入ったポリアは、一気に噴出した疲れで眠りに落ちた。 夕方までポリアを心配し、マルヴェリータや離れに来たオッペンハイマーが何度も部屋を覗いたが。 ポリアは、昏々と眠りに墜ちていた。


そして夜。 やはり外は、非常に強い猛吹雪となった。


ほんの数十歩外を歩いて軽い食事を運んでくれたフロマーは、雪の人形の様に成って来た。 屋敷の食事の用意が終わった後に来たフロマーだから、ゲイラーなどの勧めで一緒に食事する事に成った。 離れにの一階には、ポリアの祖父が使っていた食堂があり。 そこでテーブルを広げる事にした。


暖かいジャガイモのバター添え、凍らせた凍み野菜のスープ、鹿の干し肉のステーキに焼きたてのパンと云う内容の夕食。


皿によそわれたスープに手を付けたゲイラーは、この猛吹雪の中でも明かりの強い外を見て。


「今日は、向こうのお屋敷は随分と騒がしいな」


すると、フロマーが態々端に回って着席しながら。


「んだなぁ。 何でも、街を統括する御偉い様は、我が主様の昵懇のお人様だぁ~とか。 襲われた事を心配なすてぇ、兵士さん5名と、警察役人さん10人だかがまぁ~いにち警護するんだとさぁ」


ド田舎出身のフロマーは、どうも田舎訛りが酷い。 だが、その人柄がいいからか、フロマーを知った皆は、聴いていても嫌だとは思えない。


イルガは、オッペンハイマーがポリアの実家とも浅からぬ縁の在る、この街筆頭の侯爵だと理解しているので。


「なるほどの。 それは、統括殿も必死だな」


ヘルダーやゲイラーは、意味が解らずイルガを見る。


システィアナに至っては、全く意味が解らないので。


「イルガしゃん一人でな~とくぅ。 ずるぅ~い」


ホロ苦く笑ったイルガは、


「ずるいとは酷いな」


と、言ってから。


「オッペンハイマー様は、この街で最も由緒ある貴族様だ。 公爵家の殆ど誰もが首都か、アハメイルの都市に住んでいる。 この街に住む最高位の爵位家は、侯爵家となる。 この都市の統括者として誉れ高い評価を受けたイオッペンハイマー様が襲撃されたと云う事実ですら、今の統括の任に付く者には落ち度が在ると云われても仕方ない。 他にも学者が殺され、まだその事件も解決しておらぬし、の」


マルヴェリータは、ジャガイモにバターを塗りながら。


「確かに、そうね」


「もし、この街一番の由緒を持つオッペンハイマー様が殺されたと成ったら。 事件を放置し。 襲撃後も対処しなかった・・と、統括殿は罪を問われかねない。 しかも、それが昵懇の間柄だと云う事なら、人としての品位と云うか、仁義と云うか、大切な人すらも守れない愚か者と、世間から後ろ指ものだ」


ゲイラーは、長いパンを毟って。


「なるほど。 自分の保身の為にも、一生の遺恨を残せないと云う訳か」


ヘルダーも意味が解った。


其処へ、フロマーも。


「さぁすがはイルガさんだぁ、んだんだ。 主に起こった事だけでも処罰ものなのに、ポリアンヌ様に何か在ったら自害ものだすぞ。 ま、我が主も自分の身より、ご家族とポリアンヌ様の事を案じて警備警護をお受けなさったらスい」


パンとジャガイモにバターを付けたゲイラーだが、アランの姿を発見した後のポリアの事を思い出すから手が止まる。


「でも・・、昨日のポリアの声にはおでれぇ~たな。 正直、聴いてる俺まで気がおかしくなりそうな位に慌てたぜ」


フロマーは、直ぐに。


「アラン様の事け?」


「あぁ。 助けを求めて形振り構わずって云う度合いじゃなかった。 もう、錯乱してた。 ヒステリックと云うより、完全に錯乱だ」


マルヴェリータは、システィアナが駆け付けた時のポリアが、気の狂った様にアランを抱き上げ雪の地面に座って泣き叫んでいたと云うから、その状態を想像出来た。


「多分、アラン様がポリアの御祖父様の記憶を持っていたし、一緒に冒険した間って聞いて親近者に為ってたのね。 突然亡くなられた御祖父様の代わりが出来た様だったのかも知れないから、こんな事は受け入れられなかったのかも」


ヘルダーは、あまり食事の進みが良くなく。 俯いてスプーンを弄るばかり。


「食えよ」


と、云うゲイラーの声に。


「・・・」


頷くだけ。 やり取りを見るマリヴェリータに、逆にポリアの事を心配する様にサインする。


「大丈夫。 今はぐっすり寝てる」


システィアナも続き。


「ポリしゃんは~だいじょ~ぶ。 ぜぇ~ったいアランせんせーもだいじょうぶ」


と、ヘルダーに“食べろ”とジェスジャーした。


フロマーは、スープに入れたパスターをフォークで捏ね繰り回し。


「ポリアンヌ様は、祖父で在られたヨーゼフ様にぁ~そりゃ可愛がられたんだぁ。 我が主は、家出みたいに来るポリアンヌ様を、はんやぐ(早く)ご実家に戻してご家族を安心させようとしてたンだけンど。 ヨーゼフ様は、なるべく長く居させようと為さっててなぁ。 ポリアンヌ様に剣を教えたり、この街の事さぁ~熱心に教えたり。 ポリアンヌ様が男勝りな処さ、すん~ごく喜んでたんよ」


イルガもまた。


「お嬢様も気持ちは、正にヨーゼフ様と一緒じゃったの。 ご実家に戻れば、やれレディーの躾けだのと上流階級のお嬢様の仕草を教わるのが嫌だと。 思う存分に剣の稽古が出来るこの地が、ヨーゼフ様もおわすから好きだと云われとった。 でも、ポリア様のお父上様もお嬢様の気性を解ってか、ワシを守役にした・・・。 男なら良かったと、何度影で御呟きに為られたか・・・な」


ゲイラーは、まだ然程知らないイルガの事を聞きたくて。


「イルガは、ポリアが生まれる前から仕えてたのか?」


「あぁ。 ポリアンヌ様が生まれる1年以上前には、仕えておったよ」


「仕官みたいな成り行きか?」


「いや。 ワシは、冒険者をしててある仕事を受けての。 かの有名な二剣士が内のハレイシュ様とご一緒出来た」


「何っ?! あ・あの斬鬼帝ハレイシュか?」


「そうじゃ」


「かぁ~、凄いな」


超が付く程の有名人である。 聴いたゲイラーは、ヘルダーを見合って驚いた。 この話は、まだ良く聴いて居なかった。


するとイルガは、その皺の見える深い顔を微笑みにして。


「じゃが。 今に思えば、ケイの方が強いかも知れん」


ゲイラーとヘルダーは、あの包帯男を思い出し。


「なぁ~とく」


と、云ったゲイラーであり。 言いたげなヘルダーである。


イルガは、その仕事で貴族の護衛をした。 闇に染まった商人の娘を遊びで抱いた男で、その身柄をバクチで成り立つ国から本国であるフラストマド大王国に運ぶと云う仕事だった。 イルガのチームは、頭数で4人居たが。 それでも手が足りないと入ったのが、有名なハレイシュ。 


ワインを軽く飲んだイルガは、昔を思い出す様に遠い目をし。


「まぁ~ったく、船旅で20日。 陸路で10日だったが。 襲われた回数は、両手指に足の指を足しても足りん」


マルヴェリータは、抱いただけで逃げ出す男に興味は無かったが。 その冒険話には興味が湧き。


「そんなに襲われたの?」


「あぁ。 何せ、世界に闇商人として名を轟かす男の娘を傷物にしたんだ。 大変じゃったよ」


関心を顔に滲ませるフロマーは、


「んでも、なぁ~んでそれがお引き立ての要因になったべか?」


「ん。 実は、その貴族と云うのがだな、ポリアンヌ様から見て遠縁の血族になられる方でな。 ワシは、何度かその御仁を身を呈して護った事が印象に残ったのじゃろ。 深い傷を負って、フラストマドにチームからはずされて取り残されたワシを、ポリアンヌ様の家にお引き立て頂く様に計らってくれたのだ」


ゲイラーは、ポリアの寝る二階を見上げ。


「それで、付き人か」


イルガは、何処か嬉しそうに。


「ポリアンヌ様がお生まれになって良く泣く赤子の頃に、我が主は新しきお役目に就く時期でな。 ご夫婦揃って忙しかった。 乳母は要らなかったが、世話係と護衛の誰かが必要での。 ワシがそのお役目に成った」


マルヴェリータは、事件の事で陰気だった気持ちが和らぐ話だと思い。


「イルガの顔で良く選ばれたわね」


フロマーは、大きく笑って。


「あはは、マルヴェリータ様も口が悪いぜお」


システィアナも、


「ぜおぜお~」


微笑み頷くイルガだ。


「ま、そう云われても仕方ないの。 ワシは、主の付き添いとして居てても、他の護衛の騎士様などから煙たがられた。 ・・悪党面とな。 だが、忙しい最中でワシがポリアンヌ様を負ぶった時、ポリアンヌ様が泣き止んでのぉ~。 それからと云うもの、ワシが護衛に成った。 成長する中で、ポリアンヌ様にワシよりイイと取り入る護衛の使用人や騎士が居たらしいが。 都度都度ポリアンヌ様が、ワシ以外は好かぬと蹴ったらしい」


ゲイラーは、解る様な気がして呆れ笑いで。


「今の関係見れば解る。 ピッタリだ」


イルガは、一つ頷くと。


「ポリアンヌ様は・・、まだ幼い頃にワシの顔が好きだと云いなさった。 人を護れるいい顔だとな・・。 ワシが語る冒険者の頃のお話を、男のお兄様達より熱心に聴いていたものポリアンヌ様じゃ。 貴族の流れに逆らい、自分の運命は自分で決めると。 それでも、ワシは一生の只一人の従者と決めてくだすった。 ワシは、貧乏人の子でな。 奉公に出された店で、顔が強面だと働き人に合わんと出された身だ」


フロマーは、驚き。


「あんれ、イルガさんでそったら事言われるンけ?」

 

「あぁ。 ワシは、それで行く当て無く冒険者に成ったクチだ。 自分の居場所も、自分の存在も無かったに等しい。 だが、ポリアンヌ様はそれをくれた方だ。 ワシは、ポリアンヌ様が御幸せに成るその時までご一緒する気持ちのみよ」


イルガがポリアの付き人として彼方此方に行く際、見目醜い従者だと馬鹿にされる事が多かった。 だが、物心付き。 活発な子供に成ったポリアは、それを許さなくなっていく。 


“イルガは、このポリアンヌ第一の従者ぞっ!!! イルガを馬鹿にする者は、このポリアンヌとイルガを選んだ我が父を愚弄すると心得よっ!!!”


まだ6歳のポリアが、イルガを馬鹿にした騎士に護身用の短剣を差し向けて言った言葉だ。 イルガは、ポリアを護りながらも、護られていると実感した。 その後も、イルガ以外の従者など要らぬと、剣術に打ち込むポリアには、イルガは従者で在ると同時に理解者になり。 結局、イルガ以外の従者を一人も受け入れなかった。 生じ美しいポリアだ、男の欲望の色目交わる視線も向かうし。 求婚も多かった。 潔癖染みた男嫌いの中でも、イルガだけは嫌わなかった。 ポリアの父親も、理解者で唯一の身近なイルガを居なくしては、ポリアの男嫌いに拍車が掛かると悟ったのだろうか。 イルガには、相応の手当てを出して居させたのである。


ゲイラーにしても、イルガとポリアの関係は他人の入り込む余地の無い固い絆だと理解している。


「なぁ~るほど」


フロマーも。


「そぉかぁ、ワスがなぁんで二番目の従者なのか、それでよぉんぐ解った。 一番目は、イルガさんに決まってるって言われたスよ」


ヘルダーは、和やかになるテーブルを見て。


(ポリアは、皆の光だな。 俺も、今なら解る)


だが、それから誰もが言葉を少なくする。 猛吹雪の音が悲しい唸り声を上げるのかの様に聞こえて、事件に因って齎された陰痛な空気がぶり返してきたのである。 フロマーは、皆に。 夕方に在った警察役人と兵士達の縄張り意識の火花を散らせた一件を語る。 滑稽な話だが笑い話にも成らず、皆は事件の闇に思いが流れた。








               ≪ブリザードの中で・後≫







次の日だ。


「おはよう」


イルガが寒い中で起きてきたら、ポリアが一階の食堂に居た。 もう二つ在る暖炉も灯っていて、ポリアはお湯を沸かして紅茶を飲んでいた。


「おはようございます、お嬢様。 眠れましたか?」


少し顔色が白いポリアだが、感情は戻っていた。


「ええ。 随分寝たわ。 気絶したみたいに寝てたから、お腹空いちゃった」


イルガは、食欲が出たポリアに安堵し。


「それはそれは、朝はしっかり食べて下さいませ」


「そうね」


ポリアは、そう返して厚いガラス窓の外を見る。


「吹雪き出したみたいね」


「あ、はい」


芝が所々に見え隠れしていた広大な庭一面が、真っ白に雪で覆われている。 変わらずの吹雪は、強弱を付けながらも続いていた。


「お、下が暖かいぜ」


と、ヘルダーに言って一緒に降りてきたゲイラーは、ポリアを見て。


「起きたのか。 大丈夫か?」


ヘルダーも心配そうな顔つきだった。


ポリアは、二人に微笑み。


「昨日は迷惑掛けちゃったね。 ごめん」


ゲイラーは、あのアランを助けるべく狂った様なポリアを思い出しながら。


「仕方ないさ。 起こった事が事だ」


ゲイラーは、ヘルダーと見合ってからそう言う。


「うん。 ・・・だね」


ポリアは、紅茶に目を落とした。


イルガは、外の猛吹雪を見ながら。


「しかし、部屋は暖かいですな。 下で寝れば良かったかな?」


ゲイラーがイルガに。


「歳で寒さが堪えるか?」


云われたイルガは、ゲイラーに脇目を振って。


「フン。 意気地なしの様に股引穿いてる御主に言われるかよ」


ゲイラーは、我先にと股引を穿いただけに。


「うぐ」


と、言葉を詰まらせた。


ポリアは、嘗ては生前の祖父ヨーゼフが使っていた一人用のモスグリーンのソファーから壁を見て。


「この内側のレンガ壁って、空洞を挟んでるのよ。 空気が暖炉の熱を孕んで、冷気が伝わるのを抑えるの。 地下の床には、温泉の通ってる水道があるわ。 床も壁も、冬の対策万全なのよ」


ゲイラーは、その場に屈んで絨毯を捲くり、黒い材質の床を触る。


「あ、マジで暖かい・・・」


ポリアは、懐かしむ様に。


「相当大きい地震が来ない限りは、壊れる心配無いみたい。 ただ、温泉を通す太い地下水道が根詰まりすると大変よ。 スンゴク寒くなる」


「勘弁ねがいてぇ・・・」


ゲイラーは、困った顔をした。 意外に寒がりな彼である。


システィアナが起きて、マルヴェリータを連れて来た。


「ポリしゃんお~きてるぅ」


「ポリア・・大丈夫?」


起き抜けの低血圧なマルヴェリータは、掠れる様な声で言った。


「マルタの方こそ大丈夫?」


「毎朝の事よ」


皆で紅茶を飲みながら、ソファーに各自が座って寛ぐ。 


ポリアは、皆に。


「夕方以降何か在った?」


イルガは、警察役人と兵士がオッペンハイマー一家を警護する事に成ったと告げる。


「そっか・・・。 でも、少しは安心ね」


早速紅茶の御代わりを作るゲイラーは、


「だが。 俺達の相手した奴等じゃ、役人だの兵士で太刀打ち出来る相手とはいかんぞ。 殺された下っ端辺りならまだしも、あの冒険者崩れみたいな奴等は、相当危険だ」


ポリアも、其処が一番の困り処である。


「確かに・・・」


ティーカップを両手に、飲み飲みしながらポリアの前に来たシスティアナは。


「ポリア~、これからどぉ~するの?」


あどけない仕草で言うシスティアナだが、目は真面目だ。


「・・・」


無言でカップをテーブルに置いたポリアは、間を置いてから。


「とにかく、犯人を捜さないと。 叔父さんやアラン先生がまた狙われても困る」


あまり賛成したくないイルガだが、狙われたのがオッペンハイマーである以上は、ポリアを止められないと解っている。


「ですがお嬢様。 一体、どうやって犯人を捜しますか?」


ゲイラーも、水分の凍ったミルクのシャーベットを紅茶に溶かしながら。


「問題は、先ず其処だ」


ポリアは、顔を上げると。


「残された紙に書かれた記号みたいな物が何なのか、それが解ればいいのだけれど・・・」


マルヴェリータは、緩い偏頭痛のする額に手を当てながら。


「じゃ、オッペンハイマー様にその形を聞いて、図書館で調べてみる?」


と、力無く言う。


だが、イルガは。


「オッペンハイマー様やアラン殿の友人ですら解らなかった物じゃぞ? 図書館で調べて解る物なら、もう役人でも調べが付くと思うのだがな」


ポリアは、アランがどうして刺されたのかが気に成っていたので。


「私・・気に成るのは先生だな」


ゲイラーも。


「そうだな。 意識不明のままだしな」


「それが一番だけど・・。 他にも在るわ」


「何が?」


「どうして、刺されただけなんだろう」


「ふむ」


ゲイラーは、砂糖を紅茶に入れて掻き回すヘルダーと見合う。


「・・・」


ヘルダーは、一つ頷いて腹を指し示した。


ゲイラーは、その場所を確かめて。


「確かに、な。 腹は内臓近くで、致命傷に成り易い場所だが。 殺すなら、確実に即死を狙える場所は他に在るよな。 しかも、アラン教授の傷口は綺麗だった。 抉ったり捻ったりして、内臓をヤった痕は無い・・。 短絡的にただ刺したんだろうな」


ポリアも其処までは理解出来ていた。 だから、逆に理由が解らない。 アランの家の入り口に倒れていた年配女性は、心臓を刺されていた。 下から抉る様に・・。 普通なら即死だが、犯人が焦っていたのか。 ふくよかな女性の鳩尾辺りの少し上から斜めにナイフを刺した為、心臓を傷つけても即死にまで至らなかった様だ。 だが、彼女も死んだ。


「私ね、良く解らないんだけど。 思うの。 アラン先生・・・犯人達を騙そうとしたんじゃないかって・・」


俯き加減だったマルヴェリータは、顔を前にして。


「“騙す”?」


「うん。 事件の起きた時間帯考えても、叔父の襲撃とアラン先生の襲撃って大きなズレは無い同じ頃だと思うの」


マルヴェリータは、自分達が戦っていたのは然程の長い時間では無いと思うから。


「そうね。 多分、似た頃だわ」


ポリアは、仲間の皆を見て。


「もし・・もしよ。 アラン先生が襲われたとして、叔父様も襲われた事を知ったら、私達がそのうち助けに来るかもしれないって思わない?」


皆は、否定も肯定も出来にくい話に黙る。


ポリアは、想像を仮定にして言っているの重々承知で。


「もし、アラン先生が時間稼ぎをしてたとしたら?。 犯人達と激しい口論を演じたから、隣人の人が様子を見に行ったんでしょ? あの頭の良いアラン先生よ。 態々刺される様に犯人と接するとは思えない。 アラン先生が刺された事が咄嗟か、もしくは仕方無くなのは間違い無い様な気がするの。 犯人とアラン先生の間に何が在ったか解れば、グッと何か見えてくる気がするのよ」


ゲイラーは、甘いミルクティーを飲み干し。


「ま、ポリアの考えを頭から否定出来るとは思わない。 だが、俺達も事件に巻き込まれた一部だ。 何をするにしても、慎重にいきたいな。 一昨日みたいに市街地で遣り合うのは、正直どうもな。 役人に協力して、じっくりやろう。 この吹雪だ。 流石に犯人達も動かないだろうし」


ポリアは、ゲイラーの意見も最もだと解っている。


「うん。 先走って何かするにも情報が無さ過ぎる。 アラン先生の回復を何よりも待つわ」


イルガは、吹雪く音が途切れる事の無い窓の外を見て。


「建てつけがしっかりしてますな。 この風の中でも窓があまり揺れていません。 北限に近い山の中とは、こうも吹雪くものなのですなぁ」


皆、ポリア以外は、こんな強烈な吹雪が初体験だ。 積もりながらも、強風が雪を削って舞い上げる。 白いベールが千切れて、舞い踊る様な強烈な吹雪であった。







             ≪雪に閉ざされた地で、更に暗躍する者達がいる≫







吹雪が去るまで動かないと決めたポリアだが、次の日には薄曇ながら吹雪は収まった。 寒さ厳しい北の地では、こんな日は続かない。 次の吹雪が来る前に、用事を済まそうと外には市民が出た。


早朝も遅くなった頃。 兵士と警察役人が朝に入れ替えの交代をしていて。 オッペンハイマーの庭先が久しく騒がしい。


「お~お~、新しい人との交代がよ」


オッペンハイマーの屋敷に、ポリア達が朝食を呼ばれ。 その支給に動くフロマーが、窓から交代作業をする兵士と役人達を見て言った。


「帰宅総員、回れー右っ!!」


兵士も役人も、オッペンハイマー宅の庭と云う事で元気に動いている。 今は貴族と云う人に見られる現場なだけに、格好良く見せているらしい。


叔父と叔母の前に座るポリアは、


「叔父様。 警察局の刑事部で拝見した記号の様な模様ですが、書いて下さいませんか? 斡旋所で、冒険者の誰か知らないか聞いてみます」


「えぇッ?!! ポっ・ポリアンヌ、君が事件を調べるのかい?」


お坊ちゃん育ちの叔父である。 ポリアのする事為す事が心配になるらしい。


しかし、奥方は。


「まぁ~アナタ。 どうしてそんな顔を為さるの? また、何時犯人が襲って来るかも知れないのですよ。 アラン先生も意識不明で、このまま警察や兵士に任せて黙って居る気ですの?」


「いや、お前・・。 相手は、凶暴な奴等なんだよ? ポリアンヌに何か在ったら・・、嗚呼。 もしそうなったら、姉や向こうの方々に何て言えばいいか」


ポリアは、頭を抱えるオッペンハイマーへ。


「叔父様。 犯人を捕まえる事はしなくても、情報提供ぐらいは出来ると思います。 解った事は、叔父様と役人に報告しますから。 調べるだけでもさせて下さい」


ポリアの脇からイルガも口を挟み。


「失礼ですがオッペンハイマー様」


オッペンハイマーがイルガを見て。


「何かね?」


「はい。 犯人は、今までいずれも学者を殺害して参りました。 恐らく、しくじったのは今回が初めてかと」


「・・、事件として解っているのだけを踏まえるなら、そうだね」


「はい。 もしそうなると、刺されたアラン殿は詳しく話を聞くまで何とも言えませぬが。 犯人に尋問されずに襲撃を逃れたのは、オッペンハイマー様のみ。 そうなると、犯人が学者を狙うとするなら、またの襲撃が起こってもおかしく在りません」


「・・・、なるほど。 目的を達成していないから、また来る可能性は否定できないね」


「そうです。 残念ながら、警備をする兵士や役人の方々の動きから力量を推し量るに。 我々が最初に撃退した手下の様な曲者共なら大丈夫でしょうが。 冒険者と同じ技能を有する方に出張られては、死人の塁を作りますぞ。 少しでも情報を集め、犯人と思われる曲者共を捕縛しませぬと、被害は更に増える可能性があります」


「そ・そうなのか?」


警備に不安を突き付けられ、不安丸出しの表情を見せるオッペンハイマー。


ゲイラーも。


「イルガの言う事もハッキリしてるぜ、教授。 何せ、魔法を民間人の居る街中で躊躇しねぇで遣う奴等だ。 その気になれば、この屋敷に魔法をブチ込んで来る可能性もある。 捜査をするのは役人任せでも構わないが。 事件解決に向けた協力は出来るだけした方がイイ。 正直、俺達でも遣り合って勝てるとは言い切れない。 悪い奴等ほど、何でもして来やがるからな」


「あ・あぁ。 わわ・・解った」


オッペンハイマーも、漸く相手の危険性が認識でき始めた。


だが、この日も波乱に満ちた一日と成る。


その手始めは、ポリア達が食事を終えた朝であった。


「ん?」


紅茶で食堂にそのまま落ち着いていたポリア達の耳に、正門の方から喧しい声が聞こえて来た。


「えっ?!」


一緒に居たオッペンハイマー夫人が、何か襲撃でも来たのかと驚く。


正門を見れる窓に集まったポリア達は、遠くの正門前で兵士や役人達と言い争う様な人の姿を見た。 目の良いヘルダーが、凝視しながらジェスチャーをする。


ポリアは、ヘルダーを騒ぎと交互に見ながら。


「えっ? あの騒いでるの斡旋所に居る人?」


ヘルダーは、どうやら冒険者数名が押し掛けて来ている様だと云う。


そして・・・。


「ホール・グラスの奴等に会わせろっ!!!」


「俺達は怪しい者じゃねぇっ!」


「頼むっ、話だけでもさせてくれっ」


と、叫ぶ声が響いて来た。


ポリアは、直ぐに。


「ヘルダー。 イルガ、システィと一緒に此処に居て。 叔母と叔父の安全をお願い。 マルタ、ゲイラーと一緒に来て」


話を聞きに出ると解った面々は、直ぐに武器を手にしたりして指示に従った。


鎧を纏わない格好でマントだけを羽織ったポリアは、蒼いマフラーを巻くマルヴェリータとマントを背に回したゲイラーを連れて外に出た。 前後に長い純白のスカートが冷たい風に靡き、防寒の為に穿く白のズボンにすら寒さが突き刺さる。


「はぁー、寒いっ」


毛糸でしっかり編まれた黒のドレスローブを、普段の長袖ドレスの上から重ね着するマルヴェリータだが。 外に出れば寒く、白い息が中々消えないのが珍しいと思えた。


さて、急いで正門に近づけば、門を閉じて冒険者風の者達を追い返そうと怒鳴る兵士が見え。 役人達は、庭を見回る者達が整列して様子を見守っている。


ポリアは、その門の前に集まる者達の様子が必死で、様子がおかしいと思い。


「待って、私が聞くわ。 ホール・グラスのリーダーで、ポリアよ」


と、役人達の脇に出る。


兵士を纏める連隊長が、ポリアを睨み。


「ふん、迷惑な奴等だ。 なんでオッペンハイマー様の屋敷内に、冒険者風情が居るんだ?」


その偉そうな口調をするのは、まだ若い剣士風の男。 鎧は正式な物だが、剣や衣服は気取った貴族風の物である。


若者の連隊長の口調にムッとするのは、ゲイラーとマルヴェリータ。


だが、ポリアは冷静に。


「私が、叔父の家に居て悪いの?」


そう云われて、若者は情報を思い出したらしい。 美しいポリアを見て、


「そうか、君が。 ま、それなら騒ぎを早々に鎮めてくれ」


と、仕方ない半分、ポリアの容姿に免じた様子を半分に見せて。


「おい、本人が話し合うそうだ。 門越しに話させる」


と、兵士に声掛ける。


ゲイラーは、その偉そうな若者だが、剣の腕の遣いはまぁまぁと判断。 ポリアや自分は負けないだろうが、イルガだと時間を必要としそうな相手だと推察する。


引いた兵士達の間を縫う様にして、雪の上を足早にポリアは門前に出た。


「ポリアさんか?」


「あぁ、この人だっ」


動物の毛皮丸出しと云った感じのフード付きのコートを羽織る者や、使い古した厚手の皮の厚着をした者達は、ポリアを見て確かめ合い。 門にへばり付いて。


「なぁっ、事件の経過を教えてくれよっ?!」


「犯人解ったのかっ?!」


「何か襲撃した奴等の情報ないか?」


と、総勢7人の冒険者達が口々に聞いてくる。


いきなりの事に、ポリアは唖然としてしまい。 成り行きを見守る気だった連隊長だったが、事件についての話だけに腕組みを解いた。


ポリアは、必死に聞いてくる皆を見回し。 ゲイラーやマルヴェリータを見てから。


「皆、急にどうしたの?」


すると、細い目つきで大人びた女性は、左手に杖を持ちながら。 厚いドレスローブと皮コートの二重のフードから覗ける顔を昂揚させ。


「ウチのジーマンが居なくなったのっ。 学者なのよっ!!」


別の豊かな髭を蓄えた小柄の初老男性は、腰脇に片手用の鉄槌を揺らしながら。


「ワシのチームに居る若い学者のサモンが消えた。 冒険者に成り立ての青年だ」


背の高い厚手の服に皮の胸当てやプロテクターを纏う男性も。


「俺のチーム居る古株な学者のヨレイムが消えた。 昨日の朝からだ」


ポリアは、事件絡みだと直感し、役人と兵士の方を向くと。


「馬車をっ、事件は続いてるっ!!!」


と、叫んだ。

どうも、騎龍です^^


ご愛読、ありがとうございます^人^

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