ポリア特別編サード・中編
ポリア特別編~悲しみの古都~中篇・古都で惹かれ合う絆
≪犠牲は、付き物・・・なんて≫
ポリアは、目の前で生き証人の曲者達全てを殺されて、残る生き証人は厨房に居る者と思い直ぐに厨房に舞い戻った。 厨房には、リヒターの怪我を手当てするシスティアナが居て、泣いているメイドとそのメイドを抱きしめる中年の使用人が居て。 この場に居る者の安全を見たポリアは、急ぎ奥へと。
「叔父様っ!!!」
イルガをその場に残し、ポリアは屋敷内へ走った。
二階から玄関ロビーへと降りる流麗優美な蛇行階段の一番下にオッペンハイマーは居た。 ロビーへ飛び出してきたポリアを見たオッペンハイマーは、
「おおっ、ポリアンヌっ!! 無事かっ?!!」
「叔父様?!」
声に反応し、オッペンハイマーの居る方へ向いたポリアが見た者は。 顔に怪我をし、唇の端を切っていたオッペンハイマー本人と、髪を乱して疲れ果てた様子ながら夫を立たせたオッペンハイマー婦人。 そして、オッペンハイマーの脇に屈んで手当てをする傷だらけの執事だった。
婦人は、ポリアを見るなりに。
「あぁ、ポリアンヌっ! この曲者はっ、一体何なのっ?!!」
この時、二階からヘルダーが降りてきて。 奥の応接室などからマルヴェリータとゲイラーが出てくる。
ポリアは、仲間を見て。
「みんな無事?」
だが、三人は厳しい顔で。 マルヴェリータが、
「ポリア、この曲者達って普通じゃないわ」
ゲイラーが続いて。
「俺達の気絶させた奴等、魔法で殺されたぞ」
ポリアは、ギョっとして。
「ホントなのっ?!!」
マルヴェリータは、庭の方を見て。
「遣っていたのは自然魔法だわ。 土の中から大きな石くれが出てきて、気絶した仲間も逃げる仲間も構わず殺した・・。 一回私達にも魔法が飛んで来たけど、私が身の回りの纏わせたミラージュ・ストームで弾き落としたら、直ぐに気配が消えたわ。 実力は良く解らないけど、冒険者が手伝ってる」
ゲイラーは、ポリアへ寄って。
「システィは大丈夫か?」
「えぇ、向こうで怪我したリヒターを治癒してる。 念の為に、イルガを残して来たわ」
マルヴェリータは、この非情な犯人が気懸かりで。
「ポリア、そっちはどう?」
ポリアは、怪我した執事と二人で婦人に助けられて此方を見ている叔父を見てから。
「こっちも、逃げ出した者や動けなくした者全て殺されたわ。 手負いにした二人は、ダガーで急所を刺されて死んだし。 垣根の壁を越えて逃げた曲者の仲間たちも、皆・・喉や心臓を遣られてダメ」
それを聞いていたヘルダーが、階段の途中で止まって俯く。
ゲイラーは、悔しがり。
「ちきしょうっ!! 生き証人は無いか・・」
ポリアは、役人への連絡を聞くと、オッペンハイマーが。
「あぁ・・。 それなら、フロマーを御者のイブハムの運転で行かせたよ」
それを聞いて一先ずは落ち着こうと思うポリアは、ゲイラーに。
「一人だけ居るわ。 メイドに悪戯しようと先走ったのが、シェフ達に返り討ちされて気絶してる」
ゲイラーは、ヘルダーを見上げて。
「よし、役人に引き渡すまで見張る」
ヘルダーも、階段を飛び越えてロビーに飛び降り。 ゲイラーに合流する。
ポリアは、叔父と叔母と執事の元に寄り。
「ご無事で・・」
オッペンハイマーは、返り血の飛沫を顔に少し付けたボリアを見回し。
「怪我は無いのか? あぁ・・、危ない目に遭わせたな、ポリアンヌ」
オッペンハイマーと婦人の下にも、曲者が二人現れた。 だが、その場には、フロマーと執事が居た。 フロマーは、ああ見えて腕っ節があり、力は強い。 執事の初老男性も主の身を護る意味で、若い頃から武術に嗜みが在った。 短い細剣を使う曲者二人は、オッペンハイマーを誘拐しようとしたらしい。 逃げ腰で殴られたりしたオッペンハイマーに代わり、置物や花瓶を死に物狂いで投げ付けた婦人の御蔭で、曲者達に隙が生じた。 フロマーの捨て身の突進などで身を崩した曲者の所へ、執事が斬り掛かってなんとか撃退出来たと云う訳である。 だが、もう死に物狂いの取っ組み合いと云う乱戦だ。 相手に加減する余裕も無かった執事の一撃を受けた曲者二人は、手負いの身で無理やり窓から飛び降り打ち所が悪く死んでいた。
ポリアと叔父達が安否を確かめ合って居る間に、厨房ではイルガが曲者に鋭い尋問をしていた。
「イルガ、コイツか?」
ゲイラーとヘルダーが厨房に入って来て、イルガは。
「うむ。 皆に怪我は?」
ゲイラーは、システィアナの安全とイルガの無事を見て。
「俺達は大丈夫だ。 だが、オッペンハイマーさんとかは少し怪我してる。 二階からも賊は侵入してきたらしい。 撃退は出来たが、かなり激しく遣り合ったらしい」
イルガは、それに驚き。
「して、曲者は?」
「執事の人に斬られて、慌てて二階から飛び降りた。 だが、落ち方が悪くて首イってる。 もう、駄目だ」
「・・・、そうか。 しかし、コイツ等何者だ?」
システィアナを始めに、使用人達から頭を強か殴られた曲者だ。 脳震盪もあるから意識が朦朧としている様子。 覆面を剥がれた顔は、殴られ痣が多数あるボコボコ顔であった。
この時。 ポリアは、襲撃での犠牲者が此方側に少ないのに安堵して。
マルヴェリータは、ポリアの代わりに窓から外を窺っていた。
ポリアは、叔父に。
「叔父様、この曲者は最近学者を襲う仲間ではないかと。 とにかく、無事で良かったですわ」
すると、オッペンハイマーは、急激に顔色を変えて唖然とし。
「あっ、そうか・・・」
そして、次の瞬間。
「ポリアンヌっ、アランは大丈夫だろうか?」
と、ポリアを見た。
これに、マルヴェリータがハッと虚空を見上げる。
ポリアは、叔父を見返し。
「アラン先生も危ない?」
血相を変えた様に焦りだすオッペンハイマーは、ポリアを見て。
「ポリアンヌ、私の元にあの学者を狙う賊が来たなら、アランも危ないっ」
マルヴェリータもポリアを見返し。
「ポリアっ、この前の仕事よっ! あの仕事の成功で、古代に詳しい学者の噂が湧いたのよっ。 だから、オッペンハイマー様を狙いに・・」
ポリアは、色々有った今日だっただけにそこまで頭が回らなかった。 アランにも誘拐の魔の手が伸びたら・・・。
「マルタっ、此処をお願いっ!!」
ポリアは、舞い戻る様にして厨房に駆け込んだ。 其処には、怪我を治して貰ったばかりのリヒターが、主であるオッペンハイマーの無事をゲイラーに聞いていた所で。 ヘルダーが曲者に猿轡して新たに縛り上げた所でもあった。
飛び込む様に踏み込んできたポリアを、厨房に居た皆が見る。 慌てた必死の顔であるポリアは、直ぐにイルガを見て。
「イルガっ、リヒターと一緒に役人が来るまで曲者を見張ってっ!!!!」
切羽詰った声に皆が驚く中、ポリアはゲイラーとヘルダーの間に走り寄り。
「ゲイラーっ、ヘルダーっ、私と来てっ。 システィっ、叔父の怪我を看てっ」
鋭く口走り、厨房裏口に走るポリアを見るゲイラーが。
「ポリア、どうした?」
ポリアは、裏口を開いて。
「アラン先生も危ないっ!!!!」
ゲイラーとヘルダーは、“あっ”と見合った。 その一言で事態を理解した。
ポリア達三人は、厨房に有ったランプから明りを貰い、アランの家へと急いだ。 雪舞う夜の裏庭を離れ裏に向かえば、ボリアが腕を斬った曲者すら殺されている。
「此処もかっ、皆殺しだ。 クソっ」
唸るゲイラー。 死体と変わり果てた曲者の首には、鋭い針型のダガーが刺さっている。
ヘルダーは、最も鋭いスカウト技能を、感知能力を持つ自ら道路に飛び出し、辺りを伺う。
ポリアは、ヘルダーの後ろから出て、アランの家の方に走り出した。
夜更けに向けて、風と雪は強さを増す雰囲気を見せていた。 降ったサラサラとした雪の舞う夜道。 アランの家へ急ぐ3人の脳裏には、混乱にもにた疑問が渦巻いた。 一体、何が起こっているのか。 学者を狙う一味は、何をしたいのか。 こんな大集団の徒党を組み、侯爵家のオッペンハイマーまで狙うなど常軌を逸脱しているとしか思えない。
だが、アランの家が黒い影ながら聳える様に見える場所まで来た3人は、
「誰かぁぁぁっ!!!! 誰か来てっ・あ・・ぐぶっ」
と、助けを求める尋常では無い叫び声が、途中で途切れる処まで聞こえた。
「ポリアっ!!」
「解ってるっ!」
ゲイラーの焦った声に対し、ポリアの返事は裏返りそうなヒステリックな声。
3人が急いでアランの家に向かうと、アランの家の入り口が開き、何者かが倒れて居るのが見える。 しかも、馬車一台通れるかどうかと云う道の先には、民家の前に挟まれた道の合流地点に馬車が停められ、乗り込む人の影が見える。
「その馬車待てぇぇぇっ!!!!」
大声を上げてゲイラーが向かうと、道の上、ゲイラーの目の前に立ちはだかる黒い影が二つ。
一方、倒れている玄関前の人に走り寄ったポリアとヘルダーは、助け起して見ればふくよかで色黒の年配女性である。 見知らぬ人物で、口から血を流し、腹部に衣服を染める程の大量の出血が見られた。
「大丈夫っ?!! しっかりしてっ!!!」
大声を上げるポリア。
「あ・・・アラ・ン・・・せん・せ・・・・」
女性は、最後の弱弱しい手つきで家の中を指し示す。
ポリアに見られたヘルダーは、頷きと共に立ち上がって入り口から中に踏み込んで行く。
その時、
「邪魔するなぁぁっ!!!!」
「死ねがっ!!!」
訛声の大男と低い通りの良い声をした男が、突然ゲイラーに攻撃してきた。
「うらあああああっ!!!!」
ゲイラーは、馬手(右手)に持った大剣を、闇の中で振り込まれた武器らしき物二つを弾き上げる様に振り上げた。 “ガキンっ!!”と云う激しく噛み合った金属音がした。 ゲイラーは、噛み合った瞬間の衝撃や感触から、大きい武器はハンマーらしき物と思う。 もう一つの細剣らしき物は、噛み合わせた勢いで押し返した様だった。
「うぬぬおぉぉっ!!」
大柄の影の男は、夜の影の中で激しく唸った。 全力の力で押しても、ゲイラーの大剣を捻じ伏せる事が出来ないからである。 寧ろ、逆に捩じ上げられる。
ゲイラーは、弾かれた勢いで態勢を大きく崩した背の低い影の男も含めて睨み見て。
「オメエ等ぁぁっ!! 一体何者だぁっ!!!!」
と、ハンマーらしき大男の武器を押し返した。
この時、離れた先の馬車より。
「早く乗れお゛っ!! 魔法で諸共ブっ殺すぞっ!!」
と、別の男の声が。
(魔法っ?!)
ゲイラーが緊張した時、馬車の荷台らしき場所で魔法の光が起こる。
「魔想魔術かっ?!」
狭い住宅地密集地のド真ん中である。 ハッと見たゲイラーは、
「何事だよ? 夜に大声なんか出しやがって」
と、通りで出て来ている人陰も見ているから、馬車へと逃げ出す男二人の影を追うにも躊躇が出た。
「家に入れっ!!!! 魔法がぶつかるぞぉぉぉっ!!!!」
ゲイラーは、逃げる男の影を追いながら、青白い剣を生み出す魔法を唱え終えた馬車の男を指差した。
「げぇっ!!」
「魔法だってぇぇっ?!!」
「喧嘩だぁぁっ!!!!」
住民が大騒ぎする時、顔を隠したローブ男の口元がニヤリと笑ったとゲイラーは見えた。 青白い魔法の光で、逃げる男二人の後ろ姿と此方を振り返る顔が見える。 大男は、片目を歪めて開く日焼けした悪漢染みた男。 背の低いもう一人は、長い後ろの髪を束ねた鋭い視線の垂れ目である。
「モンマルトンっ、野郎強えぇぇっ!!」
大男が、馬車に乗り込みながら言った。
「しゃらくせぇっ!!!!! 俺の魔法でぶっ飛ばしたるガっ!!!」
杖を持つ手を上に掲げ、“モンマルトン”と呼ばれた魔法遣いが、10数歩まで迫ったゲイラーに魔法を飛ばそうとした。
(やべぇかっ?!!)
逃げて民家に被害を与える事に戸惑うゲイラーの耳に、ポリアの声が飛び込む。
「ゲイラーっ!!! 避けてぇぇぇっ!!!!!!」
ゲイラーの脳裏に、自分の背後真っ直ぐの路上にポリアが居ると解った。
「死ねやがっ!!!」
地方の訛りが酷い魔法遣いの男が、ゲイラーに杖を向ける。 稲妻が走る様に、青いエネルギー体の剣の魔法が放たれた。
「うおっ!!」
民家に被害を出したく無いゲイラーは、剣の魔法を完全に自分へ飛んだ所まで見届けてから全力で民家の入り口に飛び退いた。 瞬く間の速さで走る剣の魔法が左腕を掠った。 肩の衣服が薄く切れて、火傷する様に痛みが走る。
途中からゲイラーを追って道に出たポリアは、魔法が飛んで来るのに合わせて剣に風の力を集めた。 薄く青白く光るポリアの剣を収めた鞘。 相手が魔法にだけ狙いを定めたポリアは、限界まで感性を研ぎ澄まして目を凝らし・・・。 目の前に魔法の剣が迫るのに合わせて、居合い抜きの様に剣を振り上げた。
「鋭っ!!!!」
ゲイラーが腕の痛みも捨てて道路に走り出れば、ポリアが剣で魔法を弾き飛ばし雪の降る空へ跳ね上げるのが見えた。
「すげぇ。 剣に風の力を纏わせて、魔法を弾いたのか」
この時。
「馬車だせがっ!!! 早ぉ(早く)せいがっ!!!」
魔法を放った男の怒声が飛ぶ。
「あ゛っ、奴等っ!!!」
逃げ出す馬車を見たゲイラーがその後を追おうとするも、馬車に人が追い付ける訳も無い。
「うぎゃぁっ!!!」
「きゃあぁぁっ!!!」
逃げる馬車は、路上に出た人をも轢き倒して大通りの方に曲がる。
「クソっ!!!」
こうなると、ゲイラーは馬車処では無い。
「ゲイラーっ、無事っ?!!」
走って来るポリアの声がする。
「ああっ、俺は大丈夫だっ!! それより奴等っ、人も構い無しに轢き倒したっ!!!! システィを呼ばないとっ」
轢かれた人に駆け寄る家族か誰かが叫び寄る声がする。
ポリアは、余りの事態に一気に焦った。 家の中に、血の跡だけ残してアランが消えている。 思わず焦って外に出れば、悪党を追うゲイラーと魔法を遣おうとしている馬車の上の男が見えた。
「誰かっ!! この辺に医者か寺院を知りませんかっ?!!! 瀕死の人が居るのっ!!!! 誰かっ!!!」
ポリアの声が、雪の降り続く闇夜に響いた。
すると、各家々から漸く人が出てきた。
「もう喧嘩は終わったのかい?」
酷く迷惑そうな面持ちで玄関を開いて、ポリアに言って来る民家の住民が居て。
「喧嘩じゃないわっ!!! 学者を狙った悪党よっ!!」
ポリアが、アランの家から逃げた馬車に向かって4軒目の家先で、出てきた住民の男性に答える。
「あっ? マッマジかっ?!!!」
ポリアは、焦るままに。
「アラン先生が居ないのっ!!! 住民の人も刺されたわっ!!!! 医者か寺院はこの辺りに・・・」
焦るポリアが住民の男性に問い返す途中で、
「あ・・・ポ・・・ポ・・ア・・・ど・・・・」
微かな、微かな呻き声がする。
ポリアとその男性が、闇に染まる雪の集まった場所を見ると、緩く蠢く黒い何かが在った。
ポリアは、全身に戦慄が走った。
「あ・・アラン先生・・・?」
住民の男性が、ランプを片手に不審な面持ちで見ている玄関先の子供に。
「灯り貸せっ!!!」
と、怒鳴り。
「アラン先生っ?!」
と、その呻く何者かに寄ったポリアは、助け起す時にランプの明かりでアランの瀕死状態の姿を確認出来た。
「アランせんせぇぇぇっ?!!! うそっ、そんなっ!!! いやぁぁぁっ、誰かぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」
今までのポリアに無かった声だ。 その声の湧き上りを聞くゲイラーと、アランを探し路上に出て来たヘルダーは、二人して最悪の事態を思った。
≪深い、深い闇に沈む真相≫
オッペンハイマーへが襲撃されたと通報を受けた警備・警察局は、兵士の居る軍部と一緒に来た。 軍部の兵士を纏めるのは、ショーターの腹心で、ミズリーと云う冷めた雰囲気の若い男であり。 警察の役人を纏めるのは、ハソロと云う中年の訝しげな小男であった。
オッペンハイマー宅に来た二人の内、ミズリーと云う若い副兵士長が犯人を受け取ると云うので、警察上級捜査官の幹部であるハソロが噛み付いていた。
だが、其処にポリアの使いで住民がアランの襲撃も伝えたのだから、更に事件は大きくなった。
アランを襲った曲者達は、どうやらアランの家の異変を物音で聞いて心配になり訪ねて行った向かいの家の奥さんを刺した様だ。 システィアナが雪の中、役人とイルガを共にポリアの元に来た事で、医者の手当てを待つ怪我人の治療は出来た。
だが、刺された向かいのふくよかな奥さんは死んだ。 馬車に轢かれた数人の内、若い女性が重症。 老人の男性が死亡。
ポリア達は、オッペンハイマーの計らいで、屋敷にて事情聴取をされた。
「では、相手は冒険者から身を崩した奴等ですか?」
小男のハソロは、赤いクラッシクなソファーに腰を下ろし、テーブルを対面に座ったポリア達から事情を聞く。
「はい、恐らくは。 魔法を扱う者、それぞれ武器の扱いに達した者が混じっていました」
マルヴェリータが、ポリアの代わりに答える。 放心したポリアは、虚空を見つめて相手に成らないと判断した仲間だった。
アランは、実はまだ生きている。 システィアナが傷を塞ぐ時、アランの傷口は凍傷を起し始めていて。 それが血の流出を抑えていた様だ。 意識不明ながら、アランは命を繋いだのである。 警察は、入院の必要な被害者を寺院病院に送った。 僧侶と医者が同居する大型寺院病院らしい。
ポリアの今日一日の行動を聞くハソロは、
(オッペンハイマー様の姪だとな。 だから、アラン先生やあの捕まった男の父親にも逢ったか?)
ポリアの事をオッペンハイマーは遠縁の姪とだけ言って身柄に全責任を負うと主張し、警察も兵士も連行を見送った。 ハソロは、放心しているポリアの美しい顔を見て。
「ま、また事情を伺いに来ます。 事件の解明の為にも、この街から出ない様に」
と、言い置いて。 兵士や役人と共に部屋から出る。
「ポリア・・しっかり」
マルヴェリータがポリアを抱き寄せ、システィアナがポリアの手を握る。
「アラン先生が・・アラン・・・先生がぁ・・・」
泣き出すポリアには、アランの瀕死の姿が死んだと思えた。 その衝撃が強かったのだろう。 ポリアの声に気づいて近づいたゲイラーとヘルダーは、余りの衝撃に錯乱して助けを叫ぶポリアに驚いた。 祖父の死んだ時に2日も泣き通しだったと云うポリア。 ポリアにとって、このシュテルハインダーの思い出は唯一無二の大切な思い出の様だ。
「マルタ・・どうして・・どうして・・アタシ気付けなかったの。 アラン先生・・・危ないかもって、今考えれば・・・」
「ポリア、考え過ぎ・・。 起こってからじゃないと、確証持てない事だって在るわ」
マルヴェリータは、Kをこうゆう時は嫌に思える。 あの完全な男なら、この状況を回避したかも知れない。 ポリアがKを目標にするばかりに、ポリアには重荷が増えた。 ポリアに、Kは重過ぎる。 嫌、誰にでもKは重過ぎる。
さて、イルガは、ポリアを見て重苦しく俯く。 其処へ、ゲイラーが。
「なぁ、イルガ」
「ん?」
「アランの家の中見たか?」
「ああ、随分と荒らされた様じゃったの」
「ああ。 あいつ等、アランの教授に何しに来たんだろうか。 殺す目的なら、止めまで確実にする奴等だと思う。 しかも、あの家の中の荒らし様は、なんだか妙だ」
「だな・・。 何かを探したのか、果てまた暴れたのか・・。 何でも、アラン様も折檻を受けた痕が在ったとか?」
ヘルダーが頷き。 ゲイラーが。
「おう。 顔に何回か打たれた痣が見えたな。 だが、学者を狙ってた奴等で犯人は間違い無さそうだ。 今回も、何だか悪戯書きの様な物が残されてた。 見たら、三角形の中に点が在った様なものだな」
イルガは、そんなのは誰でも書ける物だと思い。
「それだけか?」
「おう、それだけ。 紙の裏にもなんも無いし、他に変わった処も無かった」
「ふむ・・、暗号か何かなのか。 只の目晦ましか・・、理解できんの」
ゲイラーもヘルダーも、イルガと共に此処で話を終えた。 ポリアの嘆き様が心配に成った。 身内を襲われ、尊敬した師を殺され掛けた様で。 もし、アランが死ねばどうなるやら・・・。
次の日。 朝も早い頃。 オッペンハイマーと共に、大雪の中をアランなどの見舞いに向かったのだが。 アランは意識が戻らないままに昏睡状態へと陥っていた。
一方、重態となっていた若い女性は助かったが、走り去った馬車については何も知らないと云う。 他にも轢かれて担ぎ込まれた誰かが、死んだらしい。 あの馬車で逃げ去った曲者達は、大通りまでに他何人もの通行人を轢き、大通りに出てからも危険な馬車の操り方で被害者を増やしていた様だ。
一旦、オッペンハイマーの屋敷に戻った一同。 皆で応接室に入り休憩しようと云う中で、
「行かなきゃ・・」
ポリアは、憔悴したままに、午後には聞き込みに出ると皆を心配させる。 冒険者の集う酒場や斡旋所を回り、話を聞こうと。 アランや叔父を襲った何者かを、絶対に探し出すと・・、終いには食事の席を急に立ち上がって。
マルヴェリータが引き止める為に云っても聞かないポリアだったが。
「ポリア~のバ~カ。 な~んにも食べてないし、ぜ~んぜん寝てないし。 先にポリしゃんが倒れちゃうよぉぉ」
と、システィアナが泣き出した。
システィアナを宥めるゲイラーを見たポリアは、力無く席に墜ちる。
「だって・・このままじゃ・・・」
血の気が失せたポリアの顔は、もういつもの彼女では無い。 普段の美しさが棘の様に変わり、亡霊の様だった。
イルガは、システィアナを見てから。
「お嬢様、ケイの言葉を思い出して下さいませ。 目の前に切羽詰った何かが見えているなら別ですが、曲者共も目を晦ませて手掛かりが見えませぬ。 この様な折に、自分を痛めて無理してもそれは自滅。 曲者共を探すなら、先ずは御自分をしっかりと為すって下さい。 無駄な無理など、それこそ阿呆のする事で御座います」
ポリアの心に、見えぬ包帯男の思い出が湧き上る。 今、此処にKが居たら、自分は失笑を受けるだろう。 ダグラスの心配、ロバートやクシュリアントの心配、アランの心配に事件の心配で、完全に疲れ始めたとポリアは実感した。
オッペンハイマーは、アランの事を含んでポリアにこれ以上危険に足を突っ込んで欲しく無いと思いながら。 一方で、自分に出来る事は情報を集めることぐらいしかないと解っていた。
「ポリアンヌ、仲間の皆さんの言う通りだよ。 事件の事やアランの事は、直ぐに連絡が来る様に手配しておく。 なぁ~に、僕にもそれなりの人脈がある。 だから、せめて1日2日は離れでお休み。 またあの危険な曲者達が来ても、今の君では太刀打ち出来ない」
オッペンハイマーは、此処まで言うと。 ポリアの仲間一同を見回して、
「皆さん、ポリアンヌを頼みます。 皆さんの御蔭で、今回も被害が少なく済んだと私は思っています」
と、礼を述べる。
マルヴェリータは、ポリアの代わりに頷きを返した。 だが、脳裏では。
「終わらない・・。 この事件はこれだけじゃ無い。 また、オッペンハイマー様を含めて誰かが狙われるわ・・。 あいつ等の目的って一体何よ?)
どうも、騎龍です^^
間隔が開きましたが、更新です^^
ご愛読、ありがとうございます^人^