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エターナル・ワールド・ストーリー  作者: 蒼雲騎龍
K編
61/222

ポリア特別編サード・中編

ポリア特別編~悲しみの古都オールドシティ~中篇・古都で惹かれ合う絆





                    ≪再会した主従≫





ポリアは、仲間と共に意気を落として外に出た。


「ポリア、まだ落ち込む時じゃ無いわよ」


マルヴェリータは、ポリアがアランに拒絶された様な雰囲気を感じて元気が無くしたのだと感じる。 元は、ポリアの祖父を共にして冒険をしていたと云うアランだ。 ポリアが祖父を敬い、その共に過ごした時間が思い出深く綺麗で在れば在るほどに、何か有れば後から受ける深刻さも大きく成る事がポリアを見れば一目瞭然だった。


「マルタ、解ってる」


イルガは、ポリアの心情をおもんぱかれるだけに、


「お嬢様、これから・・デヘアナー様の下へ? そろそろ夕方を迎えますし、お屋敷に戻られてお休みされた方が宜しいのでは?」


だが、ポリアは。


「ううん。 ロバートが捕まった以上、クシュリアントにも何か害が及ぶかも・・。 それが一番心配だわ」


ポリアにしてみれば、祖父の執事として自分を娘の様に面倒見てくれたクシュリアントの記憶も深く心に刻まれる。 ロバートに対しては、厳しいと云うより冷静に接する父親であったが、ポリアには本当に優しい小父さんの様な存在だった。


クシュリアントの家は、アランの家からそう遠くないスラムの入り口ならしい。 雪の積もった公園まで戻り。 住居区の奥に進んでいけば、隣の家と壁一枚しか隔たりの無い様な石造住宅の密集地にぶつかる。 アランの家の周りも然程に庭間が在る訳では無いが。 こちらは、もう道以外の家々の間に、人が通れる隙間さえ無い程に密集している様子なのだ。


薄暗い中。 ポリアは、叔父から聞いた情報を頼りにクシュリアントの家を探した。 帰宅途中の労働者に尋ねたりして、家を探し出した。


「此処か」


ゲイラーは、その外見からしてもかなり古びた民家を前にして言う。 その家は、間取りが二間しか無い小さな家だ。 厚い扉の木は、随分と上下の隅が腐食して表面が剥げて凍っている。 


ポリアは、家の前で皆に声を少し抑えて。


「不正した御蔭で、こっちに一家揃っての夜逃げみたいなものだったみたい・・。 お祖父ちゃんが雇わなかったら、没落してたって何度も呟いてたわ」


と、言ってから扉を叩いた。


「はい、何方ですか?」


ノックに返って来たのは、若い女性の声だ。


「ポリア・・・」


マルヴェリータは、家を間違えたのではと思ってしまった。


だが、ポリアが。


「済みません。 此処は、デヘアナー様の御宅でしょうか?」


と、尋ねれば。


「は、はい。 そうですが・・・」


と、扉が開いた。


夕方前でも、極夜の地方では暗い。 明りでも無いと人の顔などハッキリと確かめられない状態だ。 その応対に現れた女性は、剥げ掛かった緑色の屋根をしたランプを片手に現れた。 田舎の町娘風で、赤いスカートが足元まで延びる上にエプロンをしている。 頬に雀斑そばかすの目立つポリアよりも若い印象の女性だった。


「何方様でしょうか?」


小さく丸い目でポリアを見る女性はそう尋ねるが。 直後には、ポリアの背後に立つ壁の様なゲイラーや、厳しい顔のイルガに警戒心を窺わせる目の動きであった。


ポリアは、穏やかな声音で。


「私は、ポリアンヌと言います。 クシュリアント殿が昔仕えてくれましたのが、私の祖父です」


すると、その女性が“アッ”と云う顔をして。


「あ・・オッペンハイマー様の庭先に住んでらした・・・ヨーゼフ様の?」


ポリアは、ニコリと微笑み。


「はい。 孫のポリアンヌです」


その返事を聞いた若い女性は、大慌てで頭を下げ。


「あっ! こっこれは失礼を・・。 大公爵様のセラフィミシュロード様の御一族様ですね・・ああっ、恐れ多い非礼をっ」


と、俄かに慌てて非礼を詫び出す。 


しかし、ポリアは、それを悪いとも思っていない。


「いいのよ。 今は、冒険者で身分を隠してるから、只の人だから・・。 処で、クシュリアントは元気ですか? 顔を見に来たの」


「はいっ、今っ・・少しお休みに」


「あ、そうだったの・・」


そこへ、部屋の奥から。


「マシュリナ、何方かいらしたのか?」


と、かなり老いた男性の声が、ゆっくりと聴こえた。


“マシュリナ”と呼ばれた若い女性は、


「はいっ、クシュリアント様っ」


と、声を出してから、ポリアに。


「ささっ、中へ。 クシュリアント様も、お喜びになります」


と、中へ通してくれた。


マシュリナは、先に中へと走り。


「クシュリアント様っ、ヨーゼフ様のお孫様のポリアンヌ様がお見えに成られましたっ」


と。


ポリアは、その簡素で家具もろくに揃っていない家の中をを見て、クシュリアントの苦労を見て取った。 木の丸いテーブルは小さく、色の変色した無地。 椅子は、造りも頑丈なだけの質素なものである。


「おおっ、ポリアンヌ様がっ?!」


老いた声の老人の物は、扉が無い枠だけの先の部屋で聴こえる。 ポリアは、仲間を連れて先の部屋に踏み込んだ。


狭い部屋。 宿で言うなら差し詰め二人部屋だろう。 その窓側に、子供用と思えるくらいのベットがある。 枠を取り払い、足元に附けたした台が歪な凹みを見せる。


「おお・・・、真にポリアンヌ様・・・」


皆は、痩せこけた老人を見た。 ベットの上で、身を座らせようと不器用にぎこちない動きをするのは、体が云う事を利かない所為だろう。


ポリアは、直ぐに。


「クシュリアント、そのままに」


身体の思うように動かない老人は、情けない自分を嘆く顔でポリアに頭を下げる。


「ポリアンヌ様、この様な醜態を晒してベットの上より済みません・・・。 御懐かしゅうに・・」


ポリアは、皆に顔を横に向けるだけで制し。 自分一人だけクシュリアントに近付いた。


「ホントに懐かしいわね。 クシュリアント、歳を取れば誰でも同じよ。 さ、ちゃんと布団を」


「あぁ・・、済みません」


身を起こした状態に戻るクシュリアントの膝へ、ポリアは近寄って布団を直す。 布団と云っても、敷布団の綻びを仮縫いしただけの粗末な物だ。


部屋中央にあるランプが薄暗いのは、オイルの消費をギリギリに設定してる上に安い油だからだろう。 ランプを見上げたゲイラーは、貧しかった自分の昔と似た生活の貴族が居るのかと驚いていた。 どう見ても、目の前の老人はギリギリの貧困生活をしていると思える。 壁を飾る絵も無いなら、花瓶を置く台すら無い。 ベットの上で食事をする為に遣われる簡易的な木枠の台は、積荷を入れる木箱を解体して作った様な物である。


(これも・・貴族・・)


驚くゲイラーの目の前で、白い厚手の上着を着ただけのクシュリアントがポリアを見て微笑んでいた。


マルヴェリータは、吐く息が白く外と変わらないのに驚いていた。


(暖炉は?)


竈と一体と成る暖炉が手前の部屋に在るが、火が点いていない。 傍らに置かれた薪が凄く少なく。 一日で使い切りそうな量だ。


(まさか・・、夜の食事とかに使う一時のみ?)


マルヴェリータは、爵位降格を受けた貴族のどん底を見る気分だった。


面長で髪が乱れて伸び放題ながら、老人でもまだ薄らと貴族らしい雰囲気を見せるクシュリアントの傍らに座ったポリアは。


「此処に来たから、立ち寄ったの。 クシュリアント、お祖父ちゃんが死んでから初めてね」


「はい・・、ポリアンヌ様。 この様なむさ苦しい処へ・・・、ご足労ありがとうございます」


「何言うの。 お母様が、貴方を自分の元に呼び寄せたいと言っていたのに・・。 こんな所で、こんな生活・・・」


ポリアは、人目でクシュリアントの生活を読み取ったのだろう。 声が、涙声になりそうだ。


だが、もうこの生活の中で死ぬ覚悟の出来たクシュリアントは、ポリアへは笑みしか無い。


「いえいえ、これ以上のご迷惑を掛けるのは、私には出来ません」


「強情ね」


と、笑ったポリアは、浮かんだ涙を拭かないままに。


「今、私は冒険者をしているの」


「えっ、ポッ・・ポリアンヌ様が・・冒険者・・・」


「うん。 色々有ってね、家を飛び出したまんま」


「おお、何と・・。 ヨーゼフ様とそっくりな・・」


「うん。 でね、一昨日、アラン先生とオッペンハイマー叔父さんの護衛をして、崩壊市街地に行ったの」


「ああ、またそんな危険な・・・」


困った顔をするクシュリアントだが、ポリアは。


「クシュリアント、そこでね」


「はい?」


「ロバートに会ったわ」


「えっ?!!」


クシュリアントの顔が、瞬時に強張った。


ポリアは、全ての経緯を話した。


「あぁ・・・、あのバカっ・・。 選りによって、アラン様やポリアンヌ様に刃を・・・おぉぉぉぉ」


クシュリアントは、死人の様な顔を両手で覆い、堪え切れずに呻き出す。 


だが、ポリアは、それで事態が終わっていない事を予感した。 だから・・・。


「クシュリアント、ロバートは・・役人に捕まったわ。 でも、ロバートがこの街に戻っていたのは知ってたの?」


ポリアに問われ、涙をそのままに打ちひしがれるクシュリアントは頷き。


「はい・・、3年前に突然戻り。 “俺が仕官して、家を再興させる”と・・。 迷惑を掛けるなと叱りましたが、この動けない身故に通じませなんだ・・。 まさか、ポリアンヌ様などに過大なる迷惑を御掛けしようとは・・。 このクシュリアント、先立ったヨーゼフ様に何とお詫びすれば良いか・・ううっ」


(“仕官”? ・・・)


ポリアは、意味が理解出来ない。 “仕官”とは、国に仕える事であり。 ロバートのしていた事は、略に真逆・・。 


「クシュリアント。 ロバートは、仕官の口利きの伝でも在ったのかしら・・。 仕官は、毎年春の一時期に退役する人数の補充に伴って出来るけど、この都市を運営する統括長官に一任されているわ。 ロバートは、戻ってからその仕官を目指していたのなら、どうしてあんな悪党の手先みたいな真似を?」


「解りません・・・。 あぁ、私には・・・もうあの子が解らない・・・」


泣きながらそう言い、頭を振るクシュリアント。 見るポリアも、クシュリアントにそれ以上を聞いても得る物は無いと思える。 


ポリアは、マシュリナと云う若い女性に向くと、


「貴女は、この周りの人?」


ポリアがクシュリアントの仕えていたヨーゼフと孫子の間柄と知ったマシュリナは、顔をかなり強張らせたままに。


「いっ、いえ・・。 私めは、クシュリアント様と共に住み暮らす者で御座います」


「では、彼の身の回りの全てを?」


「はっ・・はい」


涙に塗れた顔を上げたクシュリアントは、ポリアへ。


「ポリアンヌ様、この・・マシュリナが・・私めの命を繋ぐ手で御座います。 我が父の不正が暴かれる以前から仕えてくれた者の、・・孫でしてな。 一家でこの地に移ると成った時から、私の身の回りを世話してくれるこのマシュリナの祖父と共に来たのです。 ヨーゼフ様が死んでから少しして、連れ添った妻を私が看取って・・。 直後に大病を患いましてからは、このマシュリナが私めの面倒をみてくれています」


マシュリナは、涙を流すクシュリアントの身を案じながら。


「私の両親は、クシュリアント様の御一族が格下げを命じられてから別の貴族に仕えています。 ですが・・・。 祖父は、クシュリアント様と奥様を案じて、まだ幼子の私を連れて来ました。 今は、昼間に売り子として店に働きに出ながら、両親が仕送りしてくれる物と合わせてクシュリアント様を支える手助けを・・・」


ポリアは、思わずイルガを見た。 貴族に仕える者は、その恩義や忠義で時として金云々では無い強い絆を生む。 没落したデヘアナーの一族からして、使用人を抱える金など持ち合わせていないだろう・・。 マシュリナと云うこの女性は、両親が送る金と自分で働いた金を使ってクシュリアントの世話をしているのだ。 恐らく、祖父から受けた教育の所為も在るだろうが、誰でも出来る事では無い。 自分の我儘に付き合うイルガも、同じ精神を持ち合わせている。 ポリアには、マシュリナとクシュリアントが、家族と主従の合わさった強い絆を持っていると感じた。


(まだ、こんなに若いのに・・。 クシュリアントと一緒に痩せて・・・、お祖父ちゃん・・私は、この街に来れて良かったわ)


ポリアは、クシュリアントの身体を心配して、何か在ったら直ぐに叔父のオッペンハイマーを頼って欲しいと言い残す。 そして、雪がチラつき始めた外に仲間と出たポリアを見送りに出たマシュリナが。


「ありがとう御座います。 クシュリアント様をお訪ね頂き、私も嬉しい限りです」


丁寧に外まで出て、ポリア達に頭を下げるマシュリナ。 ポリアは、マシュリナに近付き。


「マシュリナさん、コレを」


と、金の入った白い小分け袋を渡す。


「あ、これ・・は」


持った感触や音で金銭の入っている事を感じるマシュリナが、驚きの眼でポリアを見返す。


暗い夕方。 もう重々しく垂れ込める雪雲で、夜の闇が支配する中。 ポリアは、僅かな明りが漏れるクシュリアントの家の窓を見てから。


「我が祖父に仕えてくれた礼です。 祖父の急死で、財を纏めて始末するいとまないままだったでしょ? クシュリアントの身体をお願い。 もし、患っている病気が酷くなる様なら、叔父オッペンハイマーの下を尋ねて。 私が、貴女とクシュリアントの面倒を見れる分だけの用意を残しておくわ」


「ポ・・ポリアンヌ様・・」


金の入った袋を握り締め、また頭を下げるマシュリナ。


だが、ポリアからするなら当然だ。 いや、この巡り会わせは、祖父が望んだことだ・・引き合わせたのだと信じたい。


「マシュリナさん。 私の幼い頃から、クシュリアントは第二の執事だった。 お祖父ちゃんの処に来たら、クシュリアントに抱き付くのが当たり前だった・・。 そのクシュリアントの今を訪ねれたのは、お祖父ちゃんの導きに因る巡り会わせの御蔭。 クシュリアントには、ロバートの事も在るから大変だけど、まだ死んで欲しくないの。 貴女が居るなら、安心してクシュリアントを任せられる。 それに、貴女自身の幸せも考えなければね」


「あぁ・・、ポリアンヌ様の様な方に心配して頂けるとは・・。 私は、光栄です」


と、頭をまた下げるマシュリナ。 クシュリアントが仕えていたポリアの祖父の事を知るマシュリナなら、ポリアの地位も知っていた。 クシュリアントの性格からして、ポリアやオッペンハイマーに迷惑を掛けないように生きる事を常々マシュリナに語るのは当然。 だから、ポリアが今にしてクシュリアントとマシュリナの事を気に掛ける事が、マシュリナにしてみれば恐れ多い事なのだ。 


「いいのよ。 抱える者を養い、面倒を見切れるまで勤めを果たすのが貴族の仕事。 祖父ヨーゼフに代わって、このポリアンヌが貴女とクシュリアントの面倒を見ます。 その分のお金は、叔父オッペンハイマーに預けますから。 貴女も、無理はダメよ」


「は、はい・・」


マシュリナは、膝を折って臣下の礼をポリアに見せる。 クシュリアントの語るヨーゼフとポリアは、真の貴族だった。 そして、今、マシュリナの見るポリアは、真の貴族に見えた。 


培われたマシュリナの主従へ対する姿勢が本能的に現れたのを見る一同。


ゲイラーやマルヴェリータは、ポリアの貴族としての真の姿を見た気がする。 Kからポリアが譲り受けた金は、まだ数十万シフォンの物が在った。 ガラッド硬貨を世界規模の私営銀行に預け。 時折、こうしてポリアは他人に使う。 チームの為にも使うが、本当に困っている人に使うその仕様を弁えるポリア・・。 ゲイラーや居ないダグラスなどの貧しい者にしてみれば、ポリアの様な裕福な貴族の者にこうゆう才が在るのは驚きだ。 だが、今まで二・三度在ったこうゆう場面で、ポリアが金の使い方を過った事も無い。 やはり、生きる場が違っている故の経験なのだろうが。 ゲイラーには、またそれがとても凄いことだと感じられた。







                 


                    ≪突然の襲撃≫





真っ暗になった下町の住宅街は、街灯もない。 各家々の窓から木漏れる様な明りが、夜の中にか弱い明りを忍ばせる。 屋敷に戻るポリアの足取りは重く。 小雪が降る中で擦れ違う住民が、冒険者の一行であるポリア達を態々擦れ違ってからまた振り返る。 こんな場所にうろつく冒険者など珍しいからだろう。


フードを深く被って無口になったポリアの脇には、何故かシスティアナが居て。 ポリアの左手を握っていた。


アランの沈黙・・、クシュリアントの現在・・、ロバートの思惑・・、そしてロバートを雇っていた何者か・・。 疑問は山積し、これから何をすべきかすら、ポリア達には思い浮かばない。 


仕事を終えて帰宅してきた住民と何度も擦れ違ったポリア達は、気が付けばオッペンハイマー邸の目の前まで来ていた。 貴族や商人や役人などが多く住み暮らす区域で、カンテラをぶら下げた馬車と擦れ違って気付いたのだ。


この辺に来れば、曲がり角などに街灯も在り。 行く馬車が、良く見える。 馬車を行かせて、通りを渡って裏の格子門を潜れば、ポリアの祖父が暮らしていた離れの裏手に出るのだ。


所が・・・。


(えっ?!)


ポリアは、走って行くカンテラをぶら下げた馬車が、オッペンハイマー邸の裏手の通りを行く中。 その明りの中に人影を見た。 庭の中に潜んで居ると、格子柵の内側の庭木の陰にチラついて見えた気がした。


ヘルダーがポリアの横に来たので、ポリアは思わず。


「ヘルダー、見えた?」


ヘルダーは、緊張した面持ちで頷く。


ポリアの様子がおかしいのに、ゲイラーもイルガも気付き。 イルガが。


「お嬢様、如何しましたか?」


ポリアは、剣の留め金を外し。


「叔父の敷地に曲者が居るっ」


ヘルダーも、鋼鉄扇子を取っていた。


ゲイラーが、確信めいた様に。


「やっぱりかっ、あの人も学者だからっ!」


と。


慌てたポリアが裏手の入り口に走り出そうとした時。 オッペンハイマーに仕える中年の剣士で、護衛や雑務をするガラガラ声の男の声が。


「何者だっ?!!」


と、遠目に上がった。


ポリアは、唇を噛みながら。


(叔父までもっ!!)


と、裏手の格子門に走り寄って押し開いた。


すると、祖父の離れの裏手に、布切れで覆面をしている曲者と鉢合わせしたのである。


「うおっ、誰だコイツっ」


曲者が、覆面の所為で少し篭った声を出して慌てた。


が、叔父の窮地にポリアは、言葉より手が先に動く。 グっと曲者に踏み込み、


「せいっ!!」


と、剣を抜き打ちに斬り上げた。


「うわぁっ!!」


曲者の左腕を斬り飛ばし、一気に戦意を失わせる。


「クソっ」


曲者は、他にも潜んでいた。 ポリアに斬られた仲間の声に反応し、木の陰や離れの陰に隠れていた曲者が姿を見せる。


ポリアは、屋敷の裏手で喚き散らす様な大声が上がるのを耳にし。


「ヘルダーっ、ゲイラーっ、マルタっ、此処から表入り口に向かって曲者を倒してっ!!! イルガっ、システィと一緒に裏手に回って皆を助けるっ!!!!」


ゲイラーとヘルダーは、ポリアの言葉の前に他の曲者の影に向かっていた。


マルヴェリータは、杖に光の魔法を宿して。


「解ったわっ、行ってっ!!」


と、杖を頭上に掲げた。


「任せたわっ」


ポリアが、戟槍を構えたイルガと背中にシスティアナを庇いながらオッペンハイマー邸の脇に向かって行く。


小雪が舞う中、マルヴェリータが魔法を唱える。


「生み出されし魔法よ、我が意思に添い従い我が身を照らせ。 我が身を追随するモノとなれ」


杖に宿った魔法の光が、マルヴェリータの頭上に浮き上がる。 “フォロー・ソーサリー”(追随の秘術)は、魔想魔術の一部の魔法を、宿る杖などの発動体から離して一定時存続させる魔法だ。 問題は、想像を絶やす事無くイメージし続ける必要がある。


マルヴェリータは、ゲイラーとヘルダーが三人の曲者を叩き伏せる中で。


「想像の力は創造の起源、魔力を我が身に敵を寄せぬ風の壁に・・・」


マルヴェリータの頭上に光の魔法が在り、視界が良くなったゲイラーとヘルダーは、マルヴェリータの成長を見る。 ジョイスには及ばないが、薄い風の竜巻の様なカーテンが、マルヴェリータを包んで吹き上げていた。


魔力を宿したマルヴェリータの紫の目が、雪が舞う夜に光って怪しい。 マルヴェリータは、ゲイラーとヘルダーに。


「私が表の玄関前で蓋になるから、二人は庭の曲者を」


ゲイラーは、内心恐れを覚える。


(あ~ぁ、魔女を怒らせたな。 ポリアの血縁襲ったからブチキレたぞ~)


正しく、今宵のマルヴェリータは、“魔女”たる風格が在った。 仲間二人の先頭に出て、自分たちの寝泊りするポリアの祖父が住み暮らした離れの脇から、堂々とオッペンハイマーの屋敷の表玄関に歩き出す。


恐らく、度肝を抜かれたのは曲者達だろう。 小雪が風で舞う中。 赤紫の目を光らせた美女が、頭上に光を掲げ、身につむじ風を纏って現れたのだから。


どうやらポリア達は、襲撃の仕掛りに出くわしたらしい。 広大な庭を腰を屈めて忍び寄る曲者達を、広い馬車を出迎えられる表玄関前で迎え撃てたのだから。


「なっ、何だあの女っ?!!」


「まっ・まま・・魔女じゃないかっ?!!」


「バカヤロウっ!! 森の奥で住み暮らす魔女がこんな所に出るかっ?!!」


10人近い覆面の曲者は、マリヴェリータの出現で一気に狼狽える。 其処に、名うての冒険者と成りつつあるゲイラーとヘルダーに襲われたのだから、曲者達は戦う所では無かった。


一方。 メイドやシェフなどの悲鳴と怒声が上がる厨房が在るオッペンハイマー邸の裏手に回ったポリア達は、6人もの曲者相手に一人で戦う従者を見た。


「リヒターっ!!」


「助太刀いたす」


ポリアとイルガが、暗がりの闇の様な屋敷脇から飛び出して来たのに曲者達が動揺する。 システィアナは、この間に騒ぐ厨房へと裏口から入った。


従者リヒターは、肩と右手の甲に浅い斬り傷を負っていたが、ポリアの登場に顔色が色めき。


「おぉっ、お嬢様っ!! ご無事でしたかっ?! 曲者一人が中にっ」


頷くポリアだが、この人数を相手にイルガ一人に任せるなど出来なかった。 システィアナが厨房に入ったのは見えた。 曲者一人なら、システィアナなら魔法でなんとか成ると信じる。 それに、この曲者達をメイドなどが居る厨房に踏み入れる訳にも行かない。 先ず、この者共を撃退するのが先決と決めた。


ポリアとイルガの出現に動揺した曲者達。 だが、従者リヒターを襲う曲者達の後ろで、余裕を見せ下がって傍観していた者が動き出す。 背の大きい者と、頭二つ低いポリアと同等の背丈の者が前に出て来た。


「冒険者風情だ、臆するな。 女は生かせ、ジジィとこっちの使用人はブッ殺せ」


と、大男が命令して6人の曲者に加わって来る。


だが。 この突如の襲撃に、悶々とした悩みの感情が戦意へと変わったポリアは、剣を下段に構えながら大きく足を踏み込んだ。


「笑止っ。 夜襲などするしか能の無い曲者に負けるかっ!!」


ポリアの罵声の様な言葉に、曲者が一人飛び出してきて。


「女ぁぁっ!!」


従者リヒターを襲っていたボロ布を覆面にした曲者の一人だ。 ポリアにダガーを持って威嚇染みた攻撃をしたのだが。 その隙だらけのいい加減な攻撃は、ポリアには火に油である。 二度目の曲者が見せた威嚇の突き込みを、ポリアは払う形で剣を振り込み。 


「わっとっ・・」


と、驚いてよろめく曲者を、ポリアは蹴倒した。


イルガが、其処にタイミングを合わせて踏み込み、もんどりうった曲者の腹部に返した柄の突き込みを入れる。


「あぶぁっ!!」


座ったままに後ろへと突き飛ばされた曲者。 激痛で、曲者は目を回したのか動かなくなる。


ポリアとイルガの前に、後ろに下がって視ていた二人が進み出た。 背の大きい者は、繋ぎの様な服の上に皮のベルト型をした胸当てを付けている。 


「美人の割りに中々遣るじゃないか」


と、大剣を抜いた。


ポリアと同じ背の者は、イルガの前に出て。


「長いのが有利なんて思うなよ」


と、腰から湾曲した“ショーテイル”と呼ばれる特殊な剣を引き抜く。


確かに、この二人は、見てからに他の曲者とは格が違った。 だが、モンスターと幾度と死闘を重ねたポリア達は、個々も成長しているが、仲間内の連携も磨かれていた。 人を襲う盗賊や強盗の格上など、歯牙に掛ける相手では無い。


「ウルサイっ!! 下郎おおおおっ!!!!!」


何時に無い低いトーンの怒声を吐いたポリアは、二人の曲者の間に隙を見つけて踏み込む。 素早い斬り上げで、大剣を持った大男に防がせてその攻撃を封じる時、


「このっ、アマぁっ!!!」


と、慌てたもう一人が、ポリアへ鉤爪型に丸まった剣を薙ぎ付ける。 しかしポリアには、それを受け止める余裕が在る。 そこへ、イルガが猛烈な突進で踏み込んで来るのだ、ショーテイルを持った男には、不意の更に不意で退くしかない。


「くっくそうぅっ」


「フン、そりゃっ!」


鋭い突きからの払い上げて、槍の部分と戟の部分を巧に使うイルガの攻撃に、飛び退いた後もショーテイルを持った曲者は武器を撥ね飛ばされそうになって防戦に。


大剣を持った大男は、隙無く二人で並んでポリアとイルガを引き受けようとしたのに、瞬時に態勢を崩されて怒りが心頭した。 ポリアを舐めて掛かったからだろう。


「この女風情がぁぁぁっ!!!」


形振り構わない様子で、怒声を上げて大剣を振り上げた。


だが。 懐近くに飛び込まれているのに、大剣の様な大型武器を闇雲に怒り任せで振り上げるなど、ゲイラーに言わせたら“アホか天才”と云うだろう。


ポリアは、その隙だらけとなった大男の膝に、剣を“グサリ”と突き立てる。


「う゛ぎぃっ」


痛みと云うより、膝に炎が突き立った様な火傷に似た刺激が大男を固まらせた。 


これが例の学者を殺してる犯人とするなら、オッペンハイマーも殺されると思われた。 その事件を知っていたポリアは、叔父を襲われた事に怒り狂いそうで、冷静では居られなかったのだろう。 剣を引き抜き、


「この外道っ!!」


と、大男の大剣を構える左腕の低い裏側に剣撃を見舞った。


「うぎゃっ!!!!!!」


滾る様な大男の声が上がり。 ショーテイルを持った相手を突き飛ばして、他の曲者達に威嚇したイルガが。


「お嬢様っ!!! 殺しては成りませぬっ!!!!」


と、諌めの叱咤を言う。


足を刺されて腕を斬られた大男は、態勢を大きく崩して地面に尻餅を付いた。 大剣を持てずに雪の上へと落とし。 今にも追撃をしてきそうなポリアから、血の溢れ出る腕を押さえながら仰け反る様に逃げようとする。


「うぐぅぅ・・、たっ・たた助けて・・・」


その一言を聞いたポリアは、カァっと頭に血が上り。 にじり寄る様に大男に踏みより。


「逃げる気かっ?! 叔父を狙って来たのに、遣られたら逃げるのかぁっ!!!」


と、大男を自身の剣の柄で殴り付けた。


「あぎゃぁぁっ!!!」


最初の一撃が鼻に当たって、骨が折れ。 二撃目が大男のこめかみ近くに当たって気絶してしまう。


大男を意図も簡単に倒したポリアが、残る曲者に怒り向いたので、戦意を失った曲者達がたじろいだ。


「うわぁぁぁっ」


その時。


ーポリアよ。 怒りを鎮めなさいー


ポリアの剣が淡く蒼く光り、ポリアの心にブルーレイドーナの意思が流れた。 剣にブルーレイドーナの力を宿し、月日が経ち。 ポリアの心にブルーレイドーナの意思がしっかりと響き出している。 力を遣う事に慣れ始めた御蔭か、ブルーレイドーナとの交信もポリアは馴染み始めているのだろう。 初めてブルーレイドーナの声を聞き出した頃は、少しぼやけた様な片言の様な物が。 今ではしっかりと声に聞こえているのだ。


「んっ!」


厳かながら、エネルギーの波動の様な意思を受け。 ポリアは、ハッと我に返った。


この時。 先に厨房へ一人で踏み込み、若いメイドを乱暴しようとした曲者が、システィアナとシェフや太った中年の使用人女性に殴られ気絶した所だった。


「うぅっ、うわぁぁっ」


服を引き千切られて下着を見せるメイドが、太った中年の使用人女性に抱き付いて助かった事に泣き伏せる。


システィアナが、厨房から。


「ポリアーっ、ア~ブない人やっつけたぁぁ~!!」


と、間延びした声で叫ぶ。


曲者達の残りが裏庭でポリア達と対峙しているのを見たシェフが、見習いの若い者二人に。


「あの野郎共にその辺に在る物投げ付けろっ!! もう中に入れるんじゃねぇっ!!」


「解りましたっ!!」


「親方っ、がってんですっ」


若者二人が、バンと窓を開けてボウルや包丁を曲者に投げ出した。


ポリアは、その物音に厨房の方を見て。


(ごめんなさい・・・)


心でブルーレイドーナに謝る。 すると、剣が緩やかに共鳴して光り。


ーそなたの気持ちは解る。 だが、怒りに我を忘れては、剣の腕がたつだけに行き過ぎる。 強くなるなら、その強さを制する心も持たなければ成らぬー


ポリアは、ブルーレイドーナの声に、Kを思い出し。


(私・・、まだまだだわ・・・)


と、自分を心配するイルガとリヒターを見て。


「もう大丈夫」


と、言い置いてから、その顔を今度は逃げ出そうとし始めた曲者達に向け。


「逃げるなっ!!!」


と、裂帛の一喝を云う。


「ああぁっ」


「うわはっ」


裏手の庭を植物の模られた鉄格子の壁に向かって走ろうとした曲者達の二人が、ポリアの声に驚き足を縺れさせる。 雪の所為で、“ドタァ”っと倒れ込んだ。


ポリアは、自ら動きながら。


「イルガっ、一人も逃がさないわよっ!」


「はっ」


逃げようとする曲者を捕まえようとするポリアとイルガだったが。


突然に。


「うぎゃっ!!!!」


「ぐぶっ」


と、声が上がる。


(えっ?)


ポリアは、慌てて立ち止まって見返ると。 


「あぁっ」


自分が深手を負わした大剣を使う曲者が、喉笛に鋭利な針型のダガーを突き刺して絶命したのだ。


イルガも、自分が打ちのめしたショーテイル使いの曲者が、眉間に同じダガーを突き刺し黒い血飛沫を宙に撒いたのを見た。


「お嬢様っ、まだ曲者の仲間が居りますぞっ!!」


ポリアがイルガの声を聞いた時、自分では無く腕を押さえて立つリヒターに向けて何かが雪舞う闇を光り。


「はっ!」


剣で反射的な踏み込みで弾き落とすと・・・。 雪の上に落ちたのは、曲者二人を殺した針型のダガーである。


「リヒターっ、屋敷に戻って!!!! イルガっ、気を付けてっ!!!」


ポリアは、逃げる曲者よりもリヒターを庇う様に動く。


イルガもまた、ポリアの脇に引いた。


この間に曲者共は、裏庭の中央にある井戸の横を走り、ポリアの声に驚いた仲間を助けて納屋として使われる石造りの二階建て倉庫の裏に逃げた。


ポリアは、闇の中を今度は自分とイルガに向けて投げられたダガーを剣で弾き落とす。 投げる相手は、庭を囲う外壁である格子壁の外から投げていると解った。 


(くっ。 この雪が降る夜の中でも、相手は正確に私やイルガの急所付近を狙えてる。 気配を感じるに一人だけど、さっきに投げられてたら大変だったわ)


相手の手練は確かだ。 夜の投擲など、狙いが随分外れる。 それが正確に出来るとなれば、腕に自信のある達人者だ。


しかし、ポリアが愕然とさせられるのはこれからだった。


(あっ、気配が移動したっ!!)


ダガーを投げていた気配が、格子壁沿いに曲者共が逃げた裏庭の倉庫裏に向かい始めたのだ。


「待てっ!!」


ポリアが気配の向かった方に行こうと走り。 厨房の裏口から数歩ほど行った庭にある井戸に差し掛かった時だ。


イルガが、リヒターが厨房に入ったのを再確認し、ポリアの後を追おうとした時と同時に。


「うぎゃぁぁっ!!!」


「まままっ・待って、あぎゃっ!!」


「そんなぁぁっ!!!!!」


男の必死な声が響く。


ポリアは、その声に驚き。


(まさかっ?!!)


イルガと共に、倉庫の裏手に回って庭木の下を潜って格子壁にぶつかると・・・。 雪を吹き付ける風に乗って血の臭いが押し寄せた。


厨房の中に居るシェフが、曲者を追うポリアを心配して。


「ポリアンヌお嬢様っ!! 危険ですからお戻りをっ!!!」


その声が耳に入らないポリアが、裏道などの曲がり角に燈る街灯のか弱い明りを頼りに見たのは、裏路地に積もる粉雪を掻き毟りながら息絶える曲者達だった。


(失敗したから・・・口封じと制裁で殺したの?)


只の盗賊や強盗なら、仲間に対して此処までしない。 ポリアは、叔父の命を狙った一味に身震えを覚えた・・・。

どうも、騎龍です。 


(あとがきの書き方忘れてるし)(-0-:) 


長々とお待たせ致しました。 再開致します(謝り 


間隔を空けてダラダラする内容では無いので、なるべく早く次話も仕上げて行こうと思ってます。 自分が欝でPCが壊れ掛かったのが原因ですが。 今は、どちらも状態がイイので、なんとかなると思います(謝り


皆様、ご愛読ありがとうございます。

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