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エターナル・ワールド・ストーリー  作者: 蒼雲騎龍
K編
60/222

ポリア特別編サード・中編

ポリアが冒険者として、避けて通れない道にまた踏み込んだ。 この場に居合わせた事は運命なのか・・。 だが、それは悲劇でもあり、ポリア達の未来を切り開く扉の前に立ちはだかった試練の障壁でも有った・・・。


アランとオッペンハイマーを遺跡へ護衛したポリア達。 だが、其処で何故か現れたポリアの旧知の人物アルロバート。 その出来事を一つの軸にして、この古の古都を舞台にした事件に巻き込まれる事になる。

ポリア特別編:悲しみの古都オールドシティ~中篇・古都で惹かれ合う絆~




         


                    ≪不可解な連鎖≫






アランとオッペンハイマーを伴った遺跡調査に行ってから2日目。


ポリアは、仲間と共に斡旋所に居た。 仕事を請ける気には成れなかったが、噂を聞きに来たのである。 殺されたカオフと云う冒険者は、喉を斬られ。 もう一人の学者と云う男メズロは、一撃を受けて昏倒した後に首を斬られて死んだらしい。


だが、門の出口付近で殺された男の素性が依然として掴めないらしい。 しかし、その男は、誰かを相手に激しく戦った可能性が在る事は解って来たとか。 死んだ男が使っていたらしい剣には、何度か剣を噛み合せた真新しい削り痕が何箇所も残り。 強く剣と剣を打ち合った際に剣の一部が欠け、死んだ男の間近に落ちていたからだ。


ダグラスの事よりカオフの事を聞きまわるポリアも、逆に屯している冒険者達に聞かれる。 ダグラスの離脱や遺跡調査の話を。 或るゴロツキ風の冒険者へポリアがビア(ビールの地方呼び)を奢ると。


「なぁ、ダグラスの奴・・・殺しを遣ったんじゃないか?」


と、ポリアに小声で言う。


仲間の皆はムッとした顔に変わり、ゲイラーなどは、


「勝手な事を言うなぁっ!!」


と、怒る。 迫力或るゲイラーの怒声だ、別に屯する冒険者達に次々と見られる。


だが、ポリアはムカムカしながらも。


「どうしてそう思うの?」


垢染みた顔の冒険者は、ゲイラーに怯えて彼を見てから。


「実は・・、死んだカオフのチームには、数日前まで色っぽいネ~ちゃんが居たんだ。 名は、クリスティー。 そのネ~ちゃんの顔を、この数日全く見ない」


ポリアは、男の前に座り。


「コレ、何か判る?」


と、金色の硬貨を取り出した。


男は、城の模様が描かれた金貨を見てギョッとする。


「そっ・そそ・・ソイツは・・もしかして・・・ゴールダー金貨?」


シフォン銀貨は、各国同じデザインで作られるが。 ゴールダー金貨は、金の量に基準が有るだけで、デザインには基準が無い。 だから各国は、ゴールダー金貨へは500シフォンと同じ価値を持たせるために独特なデザインを施すのだ。 


古びた表面の剥げが目立つ頑丈さだけがウリの様な木のテーブルの上に、ポリアは金貨を立て指で支えて男に表を見せた。


「その女性の事を含めて、詳しい事全部教えて。 そしたら、コレあげてもいいわよ」


男の目が、グッと大きく為って。


「解った。 話す。 ・・・場所を変えようか・・」


男は、店を選ぶと言う。


そして、雪の降り続く中、斡旋所から程近い屋台の集まる小さな公園に来た。 博物館や図書館などに囲まれた古びた公園で。 雪で遊ぶ子供達や、野良猫に餌をやる老人などが居る。


「店って此処か、あ?」


ゲイラーは、公園の一角に有るベンチを見て言う。 断続的に雪は降り続き、外は非常に寒さが厳しいのだ。


男は、暖かい紅茶を買って東屋の下のベンチに座った。


「此処が一番。 聞き耳を立ててる奴が居れば直ぐに解るからさ」


と、言うその男を取り囲む様に面々は立つ。 唯一、ポリアだけがベンチに座った。


男は、陶器の器に入った紅茶を啜りながら。


「ズズズ・・・、ふぅ~。 斡旋所には、他に意地汚い奴等が多いからな。 場所を変えさせて貰った。 だが、俺は、アンタ等だから嘘無く喋るが。 居なくなったダグラスがクリスティーと逢ってるのをこの目で見たんだ」


ポリアは、男の顔を覗いて。


「どうして知ってるの?」


「ヘッ、俺はチームから捨てられた口だぜ? クリスティーみたいなイイ女がソロに成ったんだ。 二人でチームを組みたいって思うだろ?」


マルヴェリータは、男の下心を如実に見た気分でイイ気はしない。


だが、男は続け。


「クリスティーが泊まっているホテルに挨拶に行った時、クリスティーがどっかに行こうとして出て来た。 跡を尾行けて行ったら・・、住宅区の中に出来た夜の飲み場でダグラスとクリスティーが出会うのを目撃しちまったって訳。 ボロい小屋みたいな所で飲んでたが、ダグラスとクリスティーの二人は意気投合したのか、最後は一緒にクリスティーの泊まったホテルに時化込んで一晩出て来ない・・。 デキちまったと確信したね」


ポリアは、ダグラスが叔父が依頼した仕事の前日の夜に、クリスティーと男女の関係を持った事を理解する。


「それで?」


「ああ。 だが、その同じ日の夜。 斡旋所にカオフが仲間のメズロを連れて来てたらしい。 カオフは、クリスティーをモノにしようとしてしつこく言い寄ってて、この街に着いた所で嫌われて逃げられたらしい。 だから、チームを抜けたクリスティーを憎むぐらいに探し始めたみたいだ」


執念深いだけの偏執症だとマルヴェリータは呆れて。


「男って、ホントに勝手ね」


喋る男は、絶世の美女のマルヴェリータに言われて首を竦めた。


「かもな。 だが、クリスティーは、斡旋所から逃げる様にホテルに引き込んだ。 カオフを恐れてだろう。 そのクリスティーが新しい男を作ったなんて聞いたら・・・、カオフが激怒しちまうよ。 何せ、アンタ等が遺跡に行く朝。 ダグラスとクリスティーが旧大公園広場で口付けし合ってたのを見たって云うチームが出て来たんだ。 殺された日の日中も、カオフは斡旋所にてクリスティーの事を嗅ぎ回ってたって云うからな。 多分、仕事を終えて戻るダグラスの後をメズロ辺りが尾行けてたんだろうさ」


ポリアは、更に踏み込んだ質問をする。


「所で、そのカオフって男のチームにクリスティーって女性が居たのは解ったわ。 ダグラスとも関係が有った事もね。 でも、死んだ二人とクリスティーって女性は3人でチームを組んでたの?」


すると、男は半分ビックリ半分呆れの顔で。


「まさかっ。 あんな凶暴なカオフと意地汚いメズロの中にクリスティーだけが居たら、毎晩何をされるか解らないゼ? 他に、戦女神を信仰する神官のネ~ちゃんと、自然魔法を使うチビ助が居たな。 恐らく、カオフの横暴さにその二人も愛想を尽かしたんじゃ~ないか? この都市で、カオフのチームはバラけたのさ」


ポリアは、話を聞いて沈むゲイラーを一瞥して。


(ああ・・、やっぱりダグラスが殺人の犯人かも知れない・・。 少なくても、カオフとメズロって二人の斬られ方は手練てだれの誰か。 ダグラスの可能性は強い。 ああ・・、もっとダグラスに突っ込んで聞くべきだったわ・・)


と、思った。 クリスティーと云う女性が居なくなっているとしたら、その可能性は益々高い。


「さて」


男は、顔をポリアに向ける。


「ええ、ありがとう」


ダグラスの犯行が濃厚な可能性に気を落としたポリアは、ゴールダー金貨を男に渡そうとする。


すると、男はポリアの手を陶器の器を持った手で押し返し。


「おいおい、ポリアさんよ」


いきない言われて、ポリアはハッとする。


「え?」


男は、お人よしを見る嘲笑を浮かべ。


「人が良すぎるぜ、アンタ。 そんな大金渡すなら、もう少し突っ込んで質問して全部聞き出し終えてから渡すモンだ」


男の言う事を理解し切っているゲイラーは、目をギラ付かせて。


「俺がやろうか?」


そのドスの効いた声に、男は首を竦めて。


「勘弁勘弁っ」


イルガは、男に。


「何かまだ有るのか?」


「ああ。 実は、此処からがアンタ等をこっちまで呼んだ本題さ」


ゲイラーは、ポリアと視線を交わしてから。


「何の話だ?」


男は、少し温く為り始めた紅茶をグッと呷ってから。


「ふう。 うん、実はよ。 あの死んだカオフとメズロ、なぁ~にか仕事を請けてたみたいだゼ」


ポリアは、素直に。


「仕事って、斡旋所から?」


「いんや。 クリスティーの事を嗅ぎ回りながら、“遺跡の調査を請けたチームが居るか?”とかなんとか聞き回ってた。 しかも、アンタ等があの仕事を引き請ける前日からな」


これには、チームの全員が驚いた。 ポリアは、グッと男に顔を近づけて。


「え? それって・・、斡旋所に依頼された仕事の内容が外に漏れたって事?」


「そうとしか思えないな。 俺は、2ヶ月半前からこの都市に居る。 俺が居る間に来た名の売れたチームは、アンタ等とモンスターキラーの異名を持った“バブロッティ”の奴等のみだぜ。 だが、一月前にバブロッティのチームは南方に移動しちまった。 奴等は、モンスターを倒す仕事を粗方やって消えちまう奴等だからな。 遺跡調査の仕事は請けて無ぇ~はずだ。 だが、カオフとメズロは、アンタ等が下水道に湧いたモンスターを倒した日から、何故かその事を聞き回っていた。 あのカオフが金に成らない事を本気でやるのは、女の事だけ。 ・・・何でも、アンタ等遺跡で襲撃されたって? な~んか臭うゼ」


ゲイラーは、直ぐに。


「何で俺たちに教える?」


「ふん。 大金くれるって云うしな。 それに・・カオフみたいな奴は死んで当然さ。 アイツは、今まで女をチームに引き込んでは暴力働くし。 俺達みたいな炙れた一人狼を捕まえてチームに入れる。 だが、仕事が失敗しそうなら見捨てて俺達に責任をおっ被せるし。 成功しそうでも見捨てて報酬をメズロと独り占めみたいにしやがる。 あんな悪党みたいな奴なんかに義理立てして秘密を黙る必要無い。 俺だって、2度も捨てられたしな」


マルヴェリータは、聞けば聞くほどに最低な男だと思い。


「まるでガロンみたいな奴ね」


ポリアは、鈍く頷く。


しかし、此処で男は、ガロンの名前に驚き。


「い゛っ!! アンタ等・・あの極悪のガロンを知ってるのか? 野郎、まだ生きてやがるんだ」


ポリアは、流石に悪い意味で有名なガロンを思い出して気分が悪い。


「でも、もう死んだわ。 何でも、首を斬られてね」


「ほえ~、そうかい。 あのガロンも、遂に観念の時が来たって訳だ。 だが、野郎は相当に剣の腕も達はず・・。 斬った相手はもっとスゲぇ~な」


Kを脳裏に思い出すポリアは、金貨を男に渡し。


「ありがとう。 凄く参考に為ったわ」


「おおっ、こりゃ~有り難ぇ~」


男は、金貨をマントの下の懐に仕舞い込む。 そして、


「でも、アンタ等も気を付けな。 最近、このシュテルハインダーは奇妙な事ばっかり起きてる。 数日前もまた学者が殺されたし。 2・3年前からは、冒険者のチームが突然行方不明に成ったり、盗賊の大きな組織が動く噂も有る。 久しぶりに気の合いそうな有名チームのアンタ等だ、巻き込まれて死ぬなよ」


と、紅茶を最後まで呷る。


ポリアは、その殺人の方に気が引かれた。


「え? 学者が殺されてるの?」


最後の一滴まで飲んだ男は。


「おう。 最初は・・確か骨董品屋の主で、元が冒険者の学者をしてたって爺さんさ。 次は・・確か凄い博識で、国の若い学術役人だったかな。 三人目は・・5日前か。 住宅区で、元博物館館長のご~つく爺さんが殺されたってよ」


マルヴェリータは、アランやオッペンハイマーも学者だから怖くなる。


「ねっ、その事も詳しく教えて」




                      ★




一方で、ポリアの話が気に為ったオッペンハイマーは、それとなく市街統括長官のフロイムに会って、捕まった悪党達の事を尋ねていた。 


白い雪が大窓の外に降る。 嘗ては、オッペンハイマーも座した重厚な机が窓前に置かれている。 恰幅で大らかな40代の紳士、それがフロイムである。 豊かな鼻髭に、大きく真一文字に結ばれた口、やや下に垂れ下がった耳など印象に深い人物だ。


椅子に座ったフロイムは、オッペンハイマーに席を勧めて。


「聞きたいって・・、あの捕まえた3人の事かい?」


「うん。 あの中の一人が、昔に祖父の元に居た執事の息子さんと似ているんだ。 今になって、なんとなくそう思えてきてね」


「そうか・・。 だが、ショーターの朝の話だと、口の悪い二人はもう一人に金で雇われただけと一点張りで。 その雇ったと思われる男は、何を聞かれても全く口を開かないらしい。 手荒い事をしてでも吐かせていいかどうか聞かれたよ」


「えっ?!」


驚いたオッペンハイマー。


フロイムは、違法行為なだけに苦く笑って。


「許可は出してないさ」


「そっ・そうか・・」


「だが、オッペンハイマー殿。 最近、学者が何者かに次々殺される被害も有る。 私としても、同友の君やアラン先生の事を考えると心配なんだ。 もしものときは、少し強引でも調べるよ。 だから、その執事の名前と息子さんの事、もう少し詳しく教えてくれないか?」


「・・・」


オッペンハイマーは、どう応えていいか解らなかった。


そして。


「・・・」


冷たい暗闇の中、静かに黙る男が一人。 


真っ暗に近い場所が在る。 石と鉄格子で出来た地下牢だ。 空気穴が地上に向けて拳大で開くのだが、極夜の昼過ぎでは日の光も鈍い。 日当たりの悪い場所に向かって開けられている空気穴からは、光と云えるモノは差し込んで来なかった。


「ふぅ・・・」


捕まった男達3人の中で、唯一口を開かないあの男が、その暗くさめざめしい牢屋の中で静かな呼吸をした。 


この人物、捕まった日の深夜までと、昨日の昼前から深夜まで厳しく取り調べられた。 ショーターは、気性通りの男で。 警察役人を指揮して捜査する刑事部の役人を権力で押し退け、自分と一緒に連れて来た兵士の男達と共にこの人物を取り調べていた。 もう、男の首筋や腕には痣が見れる。 口元にも痣を作って傷が出来ていた。


与えられるのは水で、早く飲まないと凍ってしまう。 食事もパンと冷える直前のスープのみ。 しかも、一日に一度だ。 他の房に入れられた容疑者には、一日2度のマシな食事が出されているらしい。 多分、ショーターの指図だと思われた。


寒い牢獄の中。 ベットの上に座って黙っている男の耳に、鉄の具足を着けた兵士の足音がしてくる。


(またか・・・)


叩かれ、怒鳴られる時間が遣って来たのだと悟った。


「おい、取調べの時間だ」


優しい感情など微塵も無い役人の言葉が、格子戸の向こうの廊下から掛かった。


「・・」


足に鉄球、両手には鎖で繋がれた枷が付けられている男は、返事も無く立ち上がった。


だが・・。 男は、何故か足に科せられた鉄球を外されたのだ。


「?」


疑問に思う中で、何故か手械まで取られた。


「付いて来い」


役人に云われるままに、厚手の麻布で簡単に作られた囚人服を衣服の上に着た男は、そのまま二階まで歩いた。 何時もの窓すらない狭い取調べ室・・・では無く。 開放感の在る部屋に案内された。 雪が都市に降るのが見える窓、窓の棚には観葉植物が小さな鉢植えで置かれている。 暖炉には火が熾きて、温かな部屋だった。


「やあ、今日も取調べを始めようか」


簡素な向かい合う2人用のテーブルには、ショーターが座っていた。


(何だ・・何か在る)


男は、ショーターの姿に返って警戒をする。 その予感は、的中だった。


「・・・」


椅子に座った男を見たショーター。 鬼の様に怒って暴力を振るったりしてこの男を取り調べしていた昨日までの彼では無い。


「さて。 君。 今日は、全て喋ってくれるな?」


ショーターは、友人の様に親しげに話し掛ける。


だが、この男にはショーターと馴れ馴れしく話す筋合いが無い。 だから、


「・・・」


これまで通りの黙秘である。


しかし、ショーターは腰から紙を取り出して。


「一昨日、君が忠告した冒険者が護衛していたのは学者の先生で、侯爵様のオッペンハイマー様だ」


「え?」


捕まってから初めて男が声を出した。 ショーターは、何かの陰謀も在る可能性を考え、遺跡調査に関する個人情報は一切話さなかった。 あの場所で、何をしていたのかが聞きたかっただけだからだろう。 何より、一度は警告だけで引き下がろうとしたこの男と他二人。 オッペンハイマーやアランを狙ったとも言い切れない。


だが。 今日は、ショーターは名前を出したのである。 顔色を変えた男を見て、ショーターは笑う。


「あははは、そうかそうか、驚きか? だろうなぁ~・・、お前の父親が、嘗てはあの屋敷の離れに居た老人の執事をしていたのだろう? お前の名前は、アルロバート。 アルロバート・モルツァ・デヘアナー・・、違うかな?」


ショーターの声に、男は顔色を変えた。 今まで、叩こうが怒鳴ろうが冷めた目を湛えて人形の様に黙秘して来た男が、狼狽える顔色をしたのである。


ショーターは、落とす気合いを込めて。


「おいっ!!」


と、テーブルを叩いて怒鳴る。


「違うっ、俺はそんな名前じゃないっ!!」


と、男が慌てて突っ撥ねる様に言う。 だが、どう見ても苦し紛れの様な素振りが見え隠れしていた。


「ほう、そうか。 なら、確認手段を取らせて貰う」


「何?」


男は、ショーターの言っている意味が解らなかった。


ショーターは、急激に顔を睨み付ける形相に変え。


「オッペンハイマー様の離れに居た執事の男は、今は身体を壊しているが存命だ。 お前が息子かどうか、引き摺り出してでも確かめさせるまで」


「なっ、何だとっ?!!! そんな横暴なっ!」


ショーターは、この男の焦る様子に何かの手応えを見た。 直ぐに平静の顔に戻し。


「フン。 デヘアナーの家は、確か昔に政治汚職をして格下げされた家なのだろう? そんな輩の一族で、しかも死に損ないの誰かが死んでも大した事じゃない。 問題なのは、この我々も居た調査隊に立ち退きを要求するお前達の企みだぁっ!!!。 崩壊市街地の捜索権は、全て国に既存する。 お前が誰の命で見張っていたのか、それが問題なのだっ!」


男は、拳を握り締めて悔しむ顔をショーターに向く。


だが、こうなるとショーターは優位を確信し。 逆に、男へニヤリとした笑みすら見せたショーター。 男に机上から前に身を乗り出す様に顔を近づけると。


「そんな目をしようと関係は無いぞ。 あの遺跡周辺一体には、どの貴族や学者からも調査保障を求める請求は出されていない。 つ・ま・りっ!!! お前はっ、盗賊、若しくは宝を狙う何者かに雇われた三下だっ!!!! その者の素性を知るのが我々の目的っ。 ・・先ず、お前が何者かが問題だ。 ハッキリ名を言えないなら、情報を頼りに捜査するまで。 不正で落ちぶれた貴族に一々気を遣うかぁっ!!!!!!!」


と、ショーターは激しく机を蹴り上げた。


「きっ貴様ぁ・・」


思わず言葉を吐いた男は、兵士長ショーターを強く睨んだ。


男の悔しがる表情にショーターは、完全に優位な立場を得たと更なる笑みさえ浮かべる。


「いい顔してるゼ、アルロバート殿。 その怒りに歪んだ感情的な顔・・あぁ~見たかったね。 今まで、俺等役人を冷笑する様な面してたアンタを、俺達が冷めて見れる」


男は、これまでと思って自分の舌を噛もうと思った。 今を耐え抜き、一時の休憩を見計らって自決を思う。


だが、盗賊などを取り調べる事に関しては、ショーターも上手だ。


「さて、ぜ~んぶ喋って貰うぞ。 お前がもし変な真似するなら・・、父親も獄中死させてやろう」


「何ぃっ?! 父には関係の無い話だぁっ!!!」


俄かに怒って、椅子を倒す程の勢いで立ち上がった男。


すると・・。


“パチパチ”


ショーターが拍手をし出す。


「クックックッ、偉い偉い。 ホレ、ちゃんと“父親”と認めた。 そうだ、それでいい。 成る程、お前はやはりアルロバートと云う名前か」


男・・いや。 アルロバートの全身から、一気に力が抜ける思いがしてその場に崩れた。


・・・。





                        ★





その頃。 公園で男から不穏な話を聞いたポリア達は、心配に為ってアランの元に来ていた。


「ふむ、その話なら、ワシもフロマーや知人から聞いた」


キノコの家の中にポリア達を通したアランは、凹みの段差内に下がったリビングに皆を座らせ紅茶を振舞いながら云う。


ポリアは、その殺人事件に共通点が有ると聞いたので。


「先生、事件に共通点が有ると云うのは、不可解です。 もしかして、何か目的が有るとか考えられませんか?」


アランは、アルロバートの事から殺人事件にまで波紋を広げようとするポリアに。


「麗しの皇女様は、何が心配なんじゃ?」


ポリアは、アランにだけは全てを話す心を持った。 ダグラスが殺したかもしれないカオフと云う冒険者が、オッペンハイマーが依頼を出した遺跡調査の事を知ってたと云う事を・・。 斡旋所の主は、紹介はポリアが始めてだと云う。 もし、冒険者に遺跡調査の内情を調べさせる何者かが居たとするなら。 あの捕まったアルロバートと二人のゴロツキを雇う何者かが居る可能性が在る。


紅茶を手に揺り篭の様な椅子に座ったアランは、


「ふむぅ。 確かに・・、その話が本当なら可能性は有るのぉ。 だが、問題が有るぞ」


マルヴェリータが、


「問題・・ですか?  アラン様、それはどの様な?」


「うむ。 ・・・今回の遺跡調査は、宝物や金品の捜索よりも学術的な調査が本意なんじゃ。 じゃから、スコットが発見された宝物を譲れと同行した。 じゃがの、初めて入る遺跡と云うだけで、あの辺は崩壊市街地の入り口じゃ。 もう盗掘などならとっくの昔にやられとるはず。 あの遺跡調査を人殺ししてまでどうこうする理由が解らないの~」


ポリアは、それよりも殺人事件が気懸かりだ。


「先生、殺人事件の共通点と遺跡に何か関係は?」


「う~ん。 殺された者は何れも考古学の知識が深い者ばかりだ。 ワシは、殺害された3人とも面識が有る。 それから、発見した者に因ると・・何やら紙に書かれた文字とか・・紋章が残されていたとな。 実の所ワシは、遺跡に行く前の日の朝方まで郊外の友人の家に行っていて知らなかったが。 オッペンハイマーは、その紙に残された印だか何かの鑑定を依頼されたみたいじゃ」


「えっ?! 叔父様がですか?」


「ああ。 だが、オッペンハイマーはさっぱり解らないから依頼を断ったとな。 丸で子供の悪戯書きの様な物だったらしいとフロマーに言っていたとさ」


「子供の落書きの様な・・文字や印・・・」


呟くポリアに、アランは続け。


「後、どの遺体にも酷く折檻された形跡が在ると・・・。 何かを聞かれたのは間違い無いのかも知れん」


ゲイラーは、


「数年前から、盗賊が動いてるって噂あるみたいなんだが・・、そっちに何か知ってるか? 教授」


「おお、それも確かだ。 何でも、盗掘の手伝いを嘘の依頼で勝手に請けた冒険者のチームが、結局何も見つけられず皆殺しされたらしい。 去年の話じゃ。 それから・・・2・3年前じゃったか、この街から北東に行った山の中に古代都市がそのまま眠っていると噂が立ち。 盗賊や冒険者が良く話を聞きに来た。 ま、そんなもの無いがな。 何せ、古代都市とはこのシュテルハインダーがそうだからの。 有る訳が無い」


「だが、根も葉も無い所から噂が出るか? 何か有ったから、そんな噂が立ったんだろう?」


「さぁ・・・」


アランは、急に黙った。 突然に近い空気でだ。


ゲイラーは、俯き。


「やっぱり何か知ってるんだな?」


「・・。 事件に繋がるかどうかは解らんよ。 ただ、ワシと最初の被害者で骨董品屋の主モンテルローは、昔からの付き合いで色々有った訳さ。 君たちに語る事では無いよ」


その姿には、強い拒絶が見え隠れする。 


ポリアは、アランに頭を下げ。


「先生、もしかしてロバートも、そして死んだ冒険者の二人も、遺跡や過去の何かを求める誰かに動かされているのではと思います。 私、ロバートのお父さんのクシュリアントさんに会って来ます。 もし、先生が私に話してもいいと思えたら、その昔の事を教えて下さい。 私、宝や学術的な事は欲しいとは思いません。 ただ・・、この街に起こってる事については、関連が有ると思います。 このままでは、ロバートもどうなるか解らないし。 殺人事件がもっと続くなら、叔父や先生の身も心配です。 祖父ヨーゼフとのこの地での想い出は、・・私にとっては掛け替えの無い物です。 この地で、祖父と深い所縁が有る人達の不幸など・・見たく無いです」


と、仲間に立ち去る事を告げる。


皆、立ち上がりながらアランへ一礼をする。


「突然押し掛け、済みませんでした」


と、謝るポリア。


「・・・、済まない。 考えてみよう」


何か憂鬱な面持ちと変わるアランは、そう呟く様に言った。

どうも、騎龍です。  ポリア編をお送り、間にウィリアム編の別話を入れます。 私生活の影響で更新が伸び伸びになります^^;


ご愛読、ありがとうございます^人^

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