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エターナル・ワールド・ストーリー  作者: 蒼雲騎龍
K編
59/222

★番外編・特別話 四★ 

特別編、Kの下話です。

特別編:K編




                 別話 記憶を運ぶ者 後編





                      ★★★




それは、ヤイコフの話を過ぎて。 ケイトに、セロが預けられた後の生い立ちを語り終えた頃だ。 夕方の日差しが、テラスを赤く染める頃。


遠くから廊下を慌しく駆ける音がして。 Kが、


「誰か廊下を走ってこっちに来てるな」


シーキングは、足音もまだ聞えないので。


「誰も・・」


と、言い掛けた処でバタバタと走る音を耳にする。 足音は、離れのこの部屋の前で止まり。


「奥様っ、奥様大変ですっ」


と、ドアが勢い良く開かれ、まだ若い少女の印象が見えるメイド姿の女性が飛び込んで来た。


ケイトは、客前だと思い。


「シーマ、何を騒々しい。 何が有ったのですか?」


すると、シーマと云うメイドの女性は、軽くKやセロにスカートを上げて挨拶するや否やケイトの脇に走り。


「大変です奥様っ、あっ・・あのヤイコフ様が・」


ケイトは、凝りもせず来たのかと思い。


「また来たのですか?」


「来ただけでは有りませんっ! “セロを出せ!”と、武器を持った者と共に・・・」


これに驚くセロやベンソン。


だが、ケイトは、顔に怒りを上らせ。


「ヤイコフっ、今日と云う今日はっ」


と、立ち上がる。


ケイトを先頭に、セロやKも含めた一同は、ヤイコフが喚くロビーに向かった。 流石は大商人の家のロビーは広く。 一度通ったセロも舞踏会でも開けそうな広さのロビーには来る時に驚いた。 今、その白亜の床のロビーには、湯気の様に立ち昇りそうな様子で殺気立ったヤイコフとその連れた剣士2名が居た。


「セロを出せっ!!!! この家を継ぐのはこの俺だっ!!!」


ギョロリとした目に細面で色白の長身男が、派手な刺繍を背や胸に入れたバロンズコートを纏う。 黒いベストに白いズボンと着ていて、剣を持った姿は中々見栄えの利いた格好だ。 キチンと左右に分けられた髪も金と銀の間の色で、パッと見れば中々しっかりした男の様である。 だが、怒りに狂った今の顔は、確かに近寄り難い雰囲気を纏う。


広いロビーの奥は、離れや食堂に行く廊下と、一階の彼方此方に行く廊下に挟まれ、二階へ向かう堂々とした大階段が在る。 その大階段の踊り場から奥の壁を見上げれば、Kがダジェドに聞いた通り、ケイトの夫のデーヴィスの肖像画を見る事が出来る。


その肖像画が見下ろすロビーで、オタオタと怯える使用人達が、各部屋の出入り口や階段、更には物陰から喚くヤイコフを見ている。


其処へ、皆を引き連れたケイトが遣って来た。


「ヤイコフっ!!! 何を叫んでるのっ!!」


ケイトを見たヤイコフは、怒りを更に燃やす目の色で。


「ケイトっ、セロを出せぇぇっ!!!! あの男の子供など俺が殺してやるっ!!!」


だが、ヤイコフと対峙するケイトも負けてはいない。


「喧しいっ!! お前っ、何時から商人の掟も忘れて、格上の商家に怒鳴る権利を持ったのっ?!! ヤイコフ、此処にはエルスの一族の方で、国の騎士様をされているシャンテ殿が来られてる。 騒ぎを起こすなら、役人に突き出すわよっ」


ケイトの一言を聞き、ヤイコフは後ろに立つベンソン・シーキング・シャンテを見て。


「そんな脅しが通じるかぁっ!!」


だが、これは尋常では無いと読み取ったシャンテが、直ぐにケイトの前に出て。


「貴様がヤイコフか?」


「うぬっ?」


ヤイコフは、自治国の紋章入りの鎧を着るシャンテを見て言葉を呑む。


シャンテは、剣を抜く事も辞さない構えで前に踏み込み。


「貴様、セロ殿に多額の金を賭けて、その命を悪党共に狙わせたな? それだけでも十分な大罪だぞ、先ずは私と役所へ赴いて貰おうか?」


ヤイコフは、見てからに屈強な戦士の様なシャンテに言われて顔を赤くさせる。 怒りと躊躇が混同しているのだ。


其処へ。


「ヤイコフさん、僕が一体何をしたのですか?」


何と、シャンテの脇にセロが出た。


「セロっ」


「あ、セロっ、危ないよ」


ベンソンとケイトが言い。 ヤイコフは、念願のセロを見た。


「あ゛っ・・・」


誰もがヤイコフに驚いたのは、この時だ。 凄まじい剣幕で怒り狂っていたヤイコフだが、セロを見た瞬間に驚愕と云った驚き顔に変わったのである。


「僕の生まれが悪いのですか?」


と、踏み込むセロへ。


「あっ・・あわああ・」


ヤイコフは、たじろいで一歩引き下がったのだ。


「?」


そのヤイコフを見たKは、直感的に。


(どうしたよ・・・、まさかっ。 ・・・あぁ、そうか、そうゆう事か・・)


まだ解らなかった部分に、推理ながら回答を見つけたのである。


ケイトは、殺気立って乗り込んで来たヤイコフが、一転して急に泣きそうな顔へと表情を変えて言葉を失うのを見て、セロとシャンテの前に再度進み出る。


「ヤイコフ、剣を収めて直ぐに帰りなさい。 そして、セロに賭けたバカな依頼を取り下げなさいっ。 ・・私は、従姉弟のお前を役人に突き出したく無いわ。 さっ、早くっ」


ヤイコフが、引き抜き構えていた剣を持つ手をダラリと力無く下げた。


その時だ。


「奥様・・・」


ヤイコフの後ろから、先程の案内の時よりも低い声を出したダジェドが進み出て来る。


Kは、ヤイコフとダジェドの履く鉄の具足を見て。


「アイツ変だ」


と、短く呟く。


「あ?」


と、聞えたシーキングがKへ呟き返す。


「ダジェド、お前今まで何処に・・」


と、ケイトがダジェドに歩み言った瞬間だ。


「ウルセェっ、クソババァ!!!!!!」


今度は、怒声と共にダジェドが剣を引き抜いた。


「あっ!」


「義母様っ!!!」


シャンテとセロが驚き声を上げる時、ケイトの首にダジェドの引き抜いた剣が突き付けられた。


「・・・」


黙るケイトに、剣士ダジェドは獣の様な目を向け。


「死にたく無ければ黙れ」


と、言い放ち。 ケイトに近付くと、その肩をを掴んで引き寄せる。


「あぁっ」


ダジェドに捕まるケイトを、誰もが見るしか術が無かった。 いや、Kならなんとでも出来たのだが、Kは、ダジェドがケイトを殺すに集中してない事を読みきった。 だから、成り行きをもう少し見据える処に落ち着いたのである。


(さぁ~て、これでど~なるか)


Kが、そう思う時。


「貴様っ!!」


「何の真似だぁっ!!」


ベンソンとシャンテが、剣の柄に手を掛けて踏み込もうとするのだが・・。


「動くなぁぁっ!!!!」


ケイトを羽交い絞めにして、その白い肌をした喉元に剣を突きつけるダジェドである。


セロは、意味が解らずに混乱し。


「何をしているのですかっ?!! 貴方は、父の友人で雇われた用人でしょっ?!」


ダジェドは、さっきまでは見せなかった下衆な笑みを見せると。


「うるせぇンだっ、この捨て子っ!!!」


此処で、漸くKがセロの横に来た。


「セロ、コイツは、ヤイコフとグルだ」


セロは、気付かぬ間に脇に居たKを見て。


「え?」


フードを被ったままのKは、ダジェドを見て。


「おっかしいと思ったンだよなぁ~。 何でヤイコフが、此処にセロが居るのを判ったのか・・。 ホレ、コイツの具足。 ヤイコフのもそうだが、昨日の驟雨で抜かるんだ地面を一緒に通って来たんだ。 似た様な泥の着き方してる。 セロが来た事を確認して、さっき屋敷を抜け出してヤイコフに密告したんだ」


一同は、ヤイコフとダジェドの具足を見て泥を確認した。 確かに、飛沫した泥が膝辺りまで履く具足に飛び散っていて。 具足の地面との付着面辺りが泥で汚れていた。 それは、ヤイコフの両脇にに居る剣士二人も同様だった。


シャンテは、ギリリと鋭くダジェドを睨み。


「貴様ぁぁっ、グルだった訳かっ!!! 主従関係を隠れ蓑にてし主を騙し、最後には主へ刃を向けるとは何事だぁっ!!!」


ダジェドは、セロや使用人などを見回しながら。


「うるせぇって言ってンだろうがぁっ!!!!!! ・・・デーヴィスの旦那とは、幼馴染みの誼で仕えてやったのさぁっ。 しっかし、このババァは俺を顎で使いやがるっ。 他の女に、一度は旦那を寝取られた負け女なのによぉ」


ダジェドは、此処でセロに剣を向け。


「セロっ、お前が生まれる前後に、このババァが旦那とお前の母親に狂った姿を見せてやりたかったゼっ!! デーヴィスの旦那の親は、このババァを締め出して、お前とお前の母親を後妻に迎えようとしてたのさぁっ。 なのに、あのデーヴィスの旦那がそれをさせなかった。 お前も、このババァが憎いだろ? あっ? 憎いだろうがよっ?!!」


と、ダジェドは、ケイトの首元に剣を付き付ける。


セロは、豹変したダジェドを見て言葉が出ない。


ダジェドは、セロへニヤリと笑い。


「何なら、お前が俺達と釣るんでくれてもイイんだぜ? ババァが受け取った多額の遺産金を、俺達で山分けしようぜっ?! ン?」


この話で、Kは全てを読めた。


「ははぁ~ん。 お前か、お前が首謀者だな?」


セロやベンソンなどが、Kを見る。


Kは、フードを取り。


「今まで、ど~しても解らなかったのは。 一商人に過ぎないヤイコフが、いっくら多額の金を賭けたにしろ、どうして裏社会の方々に手を回せたか・・。 そうか、お前がヤイコフを唆して金を出させ、セロの暗殺を触れ回ったンだろう?」


と、口元を笑ませてダジェドを見据える。  


Kを悪党面で見返すダジェドは。


「何だオメェ。 ・・フン、まぁそうだ。 ヤイコフがデーヴィスの旦那を憎むのが面白く為ってな、コイツと共謀すればこの家の財産と店を手に入れられると思った訳さっ」


Kは、呆れた笑いを見せ。


「はは、悪知恵が回るねぇ。 だが、セロの存在は誤算だったか?」


ダジェドは、セロを睨み。


「おうよ、コイツの存在はムッかついたぁ。 このババァっ、自分が原因で二人を捨てるハメに為ったのによっ。 数年したら一人で子育てする愛人に同情し出しやがった。 病気を患って、30半ばでガキが産めなく為ったのが拍車を掛けたよ。 唯一の男の子であるこのセロへ、旦那にも黙って密かに金を送り出すわ。 ガキを面倒見てたクソジジィの薬代、このガキの母親の薬代を態々肩代わりしクサって!!! 俺には、長年勤めてる褒美もありゃしねぇ、いい加減ウンザリなんだよっ!! このクソババァにもっ、この家にもなぁっ!!!」


と、ケイトの首筋に当てた剣を食い込ませる。


それに、セロやシャンテは驚いた。


だが、此処でKまで驚かす行動に出たのは、なんとケイトである。 乱れ始めた髪を肩に落としたケイトは、


「あ・・こっ・殺しなさい」


と、俄かにこう言って、剣を当てられた首を動かそうとしたのだ。 


「おぁっ」


パッと剣をケイトの首から離すダジェドは、激高するままに驚き。 


「ババァっ、死にたいのかぁっ?!!」


と、怒鳴った。 自分から死のうとしたのだから、流石のダジェドも冷や汗が出ただろう。 ケイトが死ねば、まともに強そうなシャンテやベンソンと戦わなければならないのは必定だった。


見ていたセロも、義母の首元に血の筋が見えたので焦る。


「義母様っ、動かないでっ!!」


だが、ケイトはもう覚悟を腹に据えていた。 


「ダジェド、お前は本当に大バカ。 お前が仕事を引退するのに合わせて、ウチの人は5万シフォンもの金を私に渡せと残したわ」


「な・何?」


初耳な事に驚くダジェドへ、ケイトは更に。


「お前が、ウチのメイドだった今の執事クァールに手を出して、子供を孕ませた。 私は、お前達二人を結婚させ、長く雇って働けなく前に二人分の引退費を用意してた。 この私を殺すですって?」 


と、云ってからセロを見るケイトは、嬉しく微笑んでいた。


「私は、セロを見つけた、もう死も怖くないわっ。 セロを護って死ねるなら、あの世でアイリスに謝る口実が増えると云うもの。 母親の意地を、女の意地を見たいと云うなら、幾らでも見せてくれようぞっ」


流石は、大商人の跡を継ぎ。 店を傾ける事もなく遣り繰りして来たケイトである。 プライドを秘めた人間の意地を、此処で、この状況で見せるとは・・。 見ていたKですら、少し驚き天晴れだと感じる。


其処へ。


「奥様っ」


叫んだのは、ダジェドの妻で執事をしているクァールと云う女性だ。 左の部屋とロビーの境のその場で、夫の凶行におかしくなりそうな思いで震えヘタり込む。


シャンテも。 ベンソンやシーキングも。 そして、セロも。 ケイトの気持ちを見て母親の芯の強さを見せつけられた。 夫を亡くしたケイトは、主の代行として強い心を養っていたのであると思い知らされた。


「義母様・・・そこまで・・」


ケイトと目を噛み合わすセロは、この状態で微笑むケイトに母親であるアイリスと似た強さを見た。 思わずケイトを助けたい衝動に駆り立てられたセロは、


「Kさんっ、僕っ!!」


人に対して、初めて魔法を使う気持ちを抱いたセロ。


そのセロの肩に、


「気持ちだけでいい」


Kは、手を置いて云うと、ダジェドの前に進み出た。


「来るなっ」


叫ぶダジェドに合わせて、ヤイコフの左右に居た冒険者とも思える剣士二人が前に進み出た。


「旦那っ」


「金を奪って逃げやしょうっ」


と、云う二人の中年剣士。 一人は、ボサボサ頭で垂れ目に分厚い唇の小男。 もう一人は、ガッチリとした体系で、顎が長く顔の幅が広い強面。 視線を交わすだけでダジェドは何も云わない。 ダジェドとこの二人の剣士は、付き合いが長そうな感じである。


Kは、ダジェドだけを見据えて。


「お前、その状態で勝った気に為ってるのか? もしそうだとしたら・・、死ぬぞ」


ダジェドは、ケイトを盾に取る絶対強者側だ。 こんなに軽々しくも“死ぬぞ”と云われるのは心外だった。


「なぁにぉ? この状態が解らねぇのかぁっ?!!!」


その時だ。 シャンテやシーキングにベンソンが、俄かに膨れ上がる強烈な殺気を感じて。


「あ゛っ!!!」


「うぉっ!!!」


「何だとぉっ?!!!」


と、驚く。


ニヤリと笑ったKの全身から、異常な殺気が放たれたのだ。 その殺気は、瞬時にこのロビー全体を包んだ。 ベンソンやシャンテも全身に鳥肌を立てて戦慄を覚える。 ウィンフィールズ家持ちの広大な庭の入り口で、屋敷ともかなり離れた外に在る桜に木。 其処に留まっていた鳥が一斉に逃げ出した。 大人の歩く足で数百歩も離れた場所の鳥が逃げると云う事は、人にそなわる危険感知能力で十分に解る。 剣の修行などすら必要無い程に解るのだ・・。


“Kは危険だ”


「あわわ・・こっ・ごわい・・」


「ひぃぃっ、おっ・・お助けをぉぉ・・・」


怯えて見ていた料理人が、ヘタヘタと妻か使用人かの女性を背にして一緒に床へ崩れる。


しかし、Kと対峙するダジェドを含めた剣士三人が大慌てで怯えるのは、その事の他にも理由が在る。


「あっ?!」


「こっちかぁっ?!!」


「なっ・何だこりゃっ?!!」


「前だっ!! あ?」


放たれたKの殺気が、三人のあらゆる方向から感じられるのだ。 強烈な殺気を孕んだ気配が、突然に背後からしたと思えば、次は上。 右からしたと思えば、瞬時に正面から。 ダジェドへ加勢をしに来た二人の剣士は、ダジェドの代わりに殺気を感じて前後左右をオロオロと・・。


ケイトを人質に取っているダジェドが顔面を蒼白しにて、パクパクと陸に上げられた魚の様に口を動かしKへ。


「あ・・お・オメェ・・いいい・・一体・・」


魂そのものを恐怖に掌握されてしまった様に、心へ恐怖が居座り全身を凍り付かせるダジェド。 頭に浮かんだのは、“暗殺者”と云う謎のベールに包まれた殺人集団である。


「あっ・・おま・・お前っ、金で動いた・・暗殺者・・?」


だが、Kは。


「アホウ、あんな古びた奴等と一緒にするな。 それより・・」


と、睨み付けたダジェドへ一歩踏み込み。


「お前を殺すなど簡単だ。 死にたく無いなら、そのひとを放せ。 嘘だと思うなら、それでもいいぞ」


Kの言葉に、心底怯えたダジェド。 包帯の隙間から見えるKの目が、スゥ~ッと細まった。 その仕草に音など無いが、細まる音を聞いた錯覚を覚えたのは、余程に怖くて集中して見つめていたからだろう。


Kが、微かにコートを揺らしたのと。


「殺さないでぇっ!!!」


と、叫んだケイトの声が同時だった・・・。


ケイトの叫び声で、Kを見たセロやベンソン達。 だが、其処にKは・・・、居なかった。


「・・・」


くうを見て黙るケイトは、自分に刃を向けるダジェドが一度だけ小刻みにピクンと震えたのが解った。


「あがぁ・・」


一方、身体を震わせ呻いたダジェドも、そのまま一点を見つめて止まった。


「ケイさんっ」


セロが、Kを探した時。


「あっ」


ヤイコフは、見ていたダジェドの背後に黒尽くめで包帯を顔に巻く男が見えて、やや長い刃渡りの短剣を持ってユラ~リと立っているのを確認する。


ダジェドは、違和感を覚え出す右腕が思う様に動かせず。 何が起きたかを知る。


(す・・凄ぇ・・も・モンスター以上に・・・バケモンだぁぁ・・)


全身から力が抜け、剣を持つ重みで右腕がケイトの胸元から落ちて行くのが解った。 “ドサッ”と云う音がして、シャンテやセロが見ている目の前で、剣が床を甲高く跳ね落ちて転がる。


自由に成ったと、セロに向かってダジェドから離れたケイトは、直ぐにダジェドを見返した。 何故なら、自分と苦楽を共にして執事を務めるクァールのお腹には、三人目の子供が居たのだ。 “死んだのか”、それが気懸かりだった。


だが・・。


「ア゛・・あぁ・・・」


口を押さえて驚くケイトの目には、右腕を無くして血を流し出すダジェドが映る。


ダジェドと背を合わせる様に立つKは。


「願い通り殺さない。 だが、悪事も出来なくするさ」


と、背を向いて言いながら、前を見るのに合わせてヤイコフへ向かう。


「旦那っ、くそっ!!」


「何だコイツはっ?!!」


と、ダジェドの左右に来た剣士二人がKに向かおうとすると。 だが、動き出す事で利き腕に瞬間的な違和感を覚える剣士二人。


「あっ、うぎゃっ!!」


「い゛・・ぎゃぁぁぁっ!!!」


既に、剣を持つ腕を真ん中から縦に斬り裂かれていたのだ。 動き出す事で斬られた肘辺りの骨肉が離れて、熾烈な痛みを湧き上がらせる。 剣を離し、血を腕からダラダラと零す二人は、痛みに絶叫しながらその場に崩れた。


シャンテは、人の所業では有り得ないKの手練に。


「な・何と凄まじい・・。 モンスターですら勝てる訳が無いだろうが」


と、その場を動けない。 全身に溢れる冷や汗は、恐ろしさで止まらないのだ。


ベンソンやシーキングも、怖くて動けなかった。 20人近い悪党を相手に、たった二人で戦うこの二人ですら、Kの殺気には恐怖したのである。


だが、Kが目前に遣って来る事で戦意を完全に喪失したヤイコフは、その場に崩れて。


「あぁ・・・、こっ殺してくれ・・」


と、涙を浮かべる目で懇願してくる。


一方で、対するKの目や身体から殺気は消えていた。 何故なら、ヤイコフを見下ろすKは・・・。


「アンタ、今は何て哀れな目をしてるんだ? もしかして、アンタはセロの・・」


Kがそう言うと、ヤイコフはKが自分の心を読んだと悟る。


「言うなぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!!」


ロビーに共鳴する程の大声だった。 その大声に、セロやケイトも斬られた剣士二人から、ヤイコフとKを見る。


Kは、開かれっ放しの玄関からヤイコフを赤く抱き染める夕日に侘しさを覚えた。 そして・・。


「死んでも、意味無いぞ。 あの世に気持ちを封印して持って行っても、アンタへ渦巻く皆の疑問が何時かは・・・真実を晒す」


ヤイコフは、そのKの言葉で叫び上げたままの口を開いた姿を小刻みに震わせる。


「あああ・・・、あ・・あああ・・」


ヤイコフの目から大粒の涙が溢れ、次第に慟哭へと変わるそのままに。 皆が見る中で、ヤイコフは影ごと身を床に伏せて泣き出した。


Kは、脇目にデーヴィスの肖像画が掛けられる奥の壁を見て。


「人のコト言えた義理じゃ無いか・・、クソ野郎だな」


と、憎しみめいた呟きを吐いた。




                      ★★★




陽が落ちて、夜に為った。 騒ぎの有ったロビーには、シャンデリアの明りが煌々と灯り。 連行されるヤイコフ以下三人が居た。 シャンテが役人と連絡をつけ、こうなった。 


近場から呼ばれた僧侶の老人は、Kの追わせた怪我を見て腰を抜かしたのが皆の記憶に焼き付く。 


連行するヤイコフやダジェド達と共に、今夜は役所へ一緒に行くシャンテを見るKは。


「なぁ」


「ん?」


玄関口で、シャンテを呼び止めたKは、庭を見て。


「あのヤイコフの動機は、徹底的に調べるのか?」


シャンテは、Kらしからぬ問いだと思い。


「御主が同情か? そんなのは当たり前だろう」


Kは、庭に停められた黒い幌馬車へ、役人と一緒に連行されたヤイコフの後を見続け。


「いや・・、多分。 その事は喋らないと思うぜ。 拷問しても・・な。 ヤツ、死ぬ覚悟出来てるしさ」


「何だ? それは・・」


「いや。 ヤツは欲したんじゃない、ヤツは消したかったのさ。 それだけさ」


(・・・、どうゆう事だ?)


シャンテは、何が言いたいのかさっぱり解らなくなってしまった。


意味深な言葉を残すKは、セロに向いて。


「お~い、セロ」


大階段付近で義母のケイトと寄り添うセロは、Kに向く。


「何ですか?」


Kは、気の無い言い方で。


「もういいだろう? 俺は、此処で別れる。 全て、終わったからな」


そう言うKに、セロは。


「あ、はい・・。 ありが・・」


と、礼を言おうとする。


だが、首に包帯を巻くケイトは、


「待ちなさいっ」


と、Kを呼び止めたのだ。 鋭い声に、セロや、遠目に居たベンソンやシーキングですら、鋭く言い放ったケイトを瞠目した。 


Kは、面倒臭そうな様子で。


「んぁ?」


ケイトは、Kに真剣な眼差しを向け。


「貴方、ヤイコフの何を知ったのっ?!! 最後のヤイコフは、元に戻った・・。 まだ若く子供の頃のヤイコフに戻ったっ、どっ・どおしてっ?」


と。 やはり、歳の違いからか、従姉弟と云うより弟の様な感情を持って、ケイトはヤイコフへ接していたのだろう。 姉と弟の絆は、時に夫婦ですら入り込む余地の無い程に強い場合が在る。 


Kは、ケイトを見つめると。


「そんなに・・・、子供の頃のヤイコフは可愛かったか? ヤイコフの今更をまだ救おうと、これからまた気持ちを掬う気か?」


ケイトは、Kに進み出て。 涙を浮かべるままに・・。


「ヤイコフは、気のおかしくなった私の・・・私の唯一の話し相手だった・・。 今からがセロなら、あの一番苦しい時はヤイコフだった・・。 どおして・・、どおしてヤイコフは・・・教えてっ!!」


俯くKは、迷った。 だが、ヤイコフの刑は微罪だろう。 ダジェドがヤイコフの心の乱れに漬け込んで、ウィンフィールズ家の乗っ取りを画策したに違いない。 ヤイコフもまた、利用された者なのだ。


(仕方ない・・ヤイコフの心を汲み取れるのは、血の繋がったセロとこの従姉弟しか居ない)


そう心に思って目を開くKは、


「シャンテ、ベンソンやシーキングを連れて外に出ろ」

  

と、言ってから、使用人達を見回し。


「全員ロビーから離れろ。 少しの間、セロとケイトだけにしてくれ」


シャンテは、自分が役人なだけに。


「私もか?」


Kは、ギロリとシャンテを見ると。


「お前、あのヤイコフを助ける気が在ンのか? 役人だからって、何処でもズケズケ入るな」


Kに怖く睨まれ、そう問われたシャンテは二句を繋げられなかった。 “助けたい”などと、簡単に言える言葉では無かった。


ロビーに、Kとケイトとセロが残る。


Kは、ケイトの亡き夫のデーヴィスの肖像を見上げた。


「なぁ、ケイトさんよ」


髪を乱し、修羅場を終えた直後のケイトは、少し憔悴した顔をKに向ける。 実年齢以上に老けて見えたケイトには、此処までの今日一日が大変な出来事だっただろう。 だが、ヤイコフをまだ可愛いと思えるケイトは、Kに語り掛けにしっかりとした声で。


「何?」


「さっき、何でヤイコフがあれほど殺気だってたのに、直ぐ驚きへ変わったか・・解るか?」


セロは、直ぐに。


「僕を見て・・、ヤイコフさんは僕を見て驚きました」


ケイトは、


「そう云えば・・」


と、セロを見て頷く。


Kは、女性的な雰囲気を併せ持つセロへ振り返り。


「そうだ。 セロ、お前は相当母親に似てるだろ?」


セロは、そう言われても。


「え? あ・・あぁ・・どうでしょうか。 周りの人からは、似ていると言われましたが」


今度は、ケイトが。


「似てるわ、肌から輪郭から・・、本当に男としてアイリスが甦ったみたいに・・」


Kは、二人を見て。


「恐らくヤイコフは、憎む全てを壊したかったはずだ。 この家、このデカい肖像画も、ウィンフィールズの全てを奪うのでは無く。 壊して消してしまいたかった・・・」


セロもケイトも、その意味が解らない。


セロは、Kへ近付き見上げて。


「ケイさん、それはどうゆう事ですか?」


ケイトも、


「ハッキリ言って」


Kは、二人を見て。


「ヤイコフが、どうしてもセロを殺したかったかは、セロが居てはこの家が存続するからだろう。 だが、長年に亘って憎み続けた怒りが、セロを見て消し飛んだのさ。 そう・・、出来なくなった」


ここまで来て、ケイトはハッとして。


「まっ・まさか・・」


と、夫の肖像画を見上げる。


Kも同じく肖像画を見て。


「そう。 ヤイコフもまた、アイリスと云う女性を愛した一人なんだろう。 いや、時期としてはヤイコフが先なんじゃ~ないかと俺は思う」


セロは、その言葉に雷に撃たれた様な衝撃を受けた。


ケイトは、一気に過去を思い出す。 そのKの一言が、深く深くケイトの心の片隅で、海の藻屑の様に成って沈んでいた記憶を呼び覚ましたのだ。


「あぁ・・、そう云えば・・アイリスと初めて会ったのは・・夫との関係じゃない・・。 そうだわっ、ヤイコフが幼い頃から遊んでた子供達の中に・・アイリスが居た・・」


それは、本当に些細な関係だった。 結婚する前のケイト達一家が営む店に、時折の日雇いとして来ていた男の娘が、ヤイコフと一緒に子供達と混じって遊んでいた事が有った。 その顔を思い出すケイトは、アイリスだったと・・確信した。


Kは、ケイトを見ると。


「アンタの旦那は、本気の心で愛情を燃やした初恋のアンタを、確かに本気で愛した。 だから、どんなにアンタが嫉妬で狂っても手放さなかった。 だが、ヤイコフは・・・その逆だぁ~。 本気で恋した・・、いや。 もしかしたら、求婚してたかも知れない。 その相手を、御宅の旦那に奪われたのさ。 下級市民は、こんな大きな商人を相手にどうこうなんて・・、権力や見えない階級の格差で出来る訳ねぇ。 まして、もしアイリスとヤイコフが恋愛関係に有ったとして。 ヤイコフの一家は、事実上ではウィンフィールズ家の付属系列だ。 彼女が、もしアンタの旦那に逆らってヤイコフと一緒になったとして・・、アンタの旦那は許したか? アイリスを、諦めたか?」


「あぁ・・・、そんな・・こんな事ってっ」


全ての長年に亘る疑問が一つの答えとして繋がる。 ケイトは、夫の仕出かした事が、実は従姉弟のヤイコフの心を無残にも踏み躙った可能性が在ると解っただけでもおかしくなりそうだ。 湧き上がる悲しみで、力を失いその場に崩れるケイトを、セロは慌てて抱き留め。


「義母様っ、しっかりっ」


Kは、セロとケイトを見て。


「今の所は、俺の読みでしか無い。 だが、全てを考えると、ヤイコフの深く激しい憎悪の原因は、それしか考えられない。 ・・・お互いで愛し合って、お互いの醜い部分を見て醒めるならいいが・・。 いきなり奪われたら、相手は遣り様が無ぇよ。 だから、ヤイコフはぁ・・狂った。 だが、ヤツも驚いただろうな。 アイリスの息子が、相当に母親と似ている事にさ」


床に座り込んだ二人へ、Kは更に続けて。


「奴の悲しみを掬ってやるか、見捨てるかは勝手だ。 だが、ヤイコフってヤツがセロを見て驚き、直後に壊れてしまいそうな程に哀れな目をした。 アイツは、“人でなし”なんかに成っては居ない。 怒りと悲しみと憎悪と・・愛情の吐き出し場所を失って、心に閉じ込められた愛情に因って溺れて壊れたのさ。 そんな男の目だった。 あのヤイコフの目は、そんな目だった・・・」


セロは、涙で滲む目でKを見た。 何故か、Kの目に光る筋が見えた気がした。 この目の前に立つ最強の男は、人の心の全てを映し出す鏡の様な気がするセロ。 ヤイコフを見て、怒る処かその心の中に渦巻く悲しみを見抜いたのだから・・・。




                     ★★★



語り終えたKは、嘆き悲しむケイトと義母を支えるセロをロビーに残して外に出て来た。


庭に、石造のランプで、“明り塔”と呼ばれるオブジェ型をした照明搭が在る。 植物の“藤”をモチーフにした物で、木に絡む姿を優雅なランプ仕立てで現すのだが。 其処に立って待っていたベンソン・シーキング・シャンテ。


「あ、出て来た」


シーキングがKを見て云う。


シャンテは、睨まれては怖いと動かなかったが。 今度は、Kから近付いて来たではないか。


(おいおい、怒るのは止めてくれ)


と、シャンテは思ってしまった。


だが、Kは三人の前に来ると。


「ベンソン、シーキング。 セロとケイトは泣いてる・・、少し長そうだ。 使用人にでも言って、中で休ませて貰え」


二人は、そう云われてはズケズケとセロの元には戻れない。


「ああ・・」


「そうしようか」


と、屋敷に向かう。


Kは、二人を見送ると。 シャンテと擦れ違う形で肩を近づけ。


「シャンテ」


「ん? 怒るのはナシで頼む」


「違うさ・・。 恐らく、セロとケイトの二人は、刑に服したヤイコフを救おうとするだろう」


「かもな・・」


シャンテは、優しいセロと、ヤイコフを今だに可愛いく思えるケイトならそうすると思う。


そこへ、Kが。


「だから・・、ヤイコフの過去を調べろ。 根こそぎ、丸裸にしろ」


「えっ? なんだと?」


シャンテは、その言葉に驚いてKを凝視すると・・、真剣な眼差しの彼が居て。


「シャンテ、セロの父親の家系を含めて言うが。 あのウィンフィールズ一家は、このスタムスト自治国に長く根付く一族だがな。 非常に大陸北部の民族の血が薄い様だ。 歴代の当主が、他国の貴族や上流階級の者を娶ってるからだろう。 だが、セロは違うぞ。 あの抜ける様に白い肌、青緑の碧眼に金髪で、あの女性的な印象が絡むのは、大陸北部で女性血統が非常に強い一族の流れが見せる特徴なんだ」


シャンテは、一緒に見た廊下に飾られた代々の当主の肖像画を見ても、確かにセロの様な者は一人も居なかったと思う。


「なるほど・・。 だが・・それがヤイコフとどう関係するんだ?」


Kは、大きく一息付くと・・。


「ふぅ~、思い出せ。 ケイトは、何で旦那に浮気された?」


「それは、ケイト殿に男の子がぁ・・・あっ」


シャンテは、其処で気付いた事で言葉を止め、口を開いたままにKを見る。


頷くKは。


「もしかすると、セロは、ヤイコフとアイリスの子供かも知れない。 セロの雰囲気を皆がデーヴィスと重ねるのは、セロがこの先の当主で、アイリスとデーヴィスの子供だと思い込んでいるからだ。 だが、肖像画の男と、セロは似ていない。 似ているのは、アイリスと云う母親にだけ。 多分、アイリスとヤイコフは、もう結婚する予定だった可能性があるぞ」


推理上だが、事実ならとんでもない事に為ると思うシャンテは、Kに。


「ヤイコフに事実を聞くのは?」


「バカ、今のヤイコフが話すか。 ヤツこそ、セロを一目見てそう思ったのさ。 だから、本当の事を自分が云ったら、セロが家督を継げないと思って死ぬ気に成ったのさ。 完璧に調べて、セロとケイトに教えろ。 そうすれば、絶望に堕ちたヤイコフの心を、あの二人が心の手で掬えるさ。 何時までもこんな事で、下らなぇ遺恨を蟠らせるのも面倒だ」


「わっ・・解ったっ!!」


シャンテは、急いで待つ馬車に走って行った。


Kは、別の階に明りの灯り出した屋敷を見返し。


「本気で惚れた女を保険にして、他に女作って面倒だけ残すなんてバカ野郎が。 愛想尽かされろ」


と、侮蔑を吐き残して姿を消したのである。


さて、それから数日が過ぎた。


Kの読みが当たっている事を役人は調べ上げた。 何故なら、アイリスの父親が生きていたからである。 娘逢いたさに、この街へと密かに戻っていた父親は、小汚い浮浪者姿だった。 その彼が語るのは、Kの予想通り。 幼馴染みとして、恋愛関係まで共に成長したアイリスとヤイコフの二人。 ヤイコフと結婚する予定だったアイリスだが、父親が宿無しだっただけに、施設に預けられて育った。 だが、仮にもウィンフィールズと所縁の在るヤイコフの一家に、流民で宿無しのアイリスが嫁ぐのも変な噂が上る。 そこで、ウィンフィールズの店に働きに行って、彼女に社会的な意味で家と生活を与え。 その後に正式な手順を踏んで結婚しようと二人は考えていた。


しかし、其処でデーヴィスの目にアイリスが止まってしまう。 彼女に恋して、ヤイコフの恋人と知りながら強引にアイリスを愛人にするに当たって、デーヴィスは日雇いの下級市民であるアイリスの父親を追放した。 宿を持たない流民な上に、娘を連れて逃げようとしたのが理由だった。 


アイリスの父親を追放するのに、デーヴィスはあろう事か、その我儘をヤイコフの父親に押し付けた。 ヤイコフにとっては、もうアイリスとの結婚の話を、


“何時に周囲へ云おうか”


と、考えてる時に起こった悲劇で。 デーヴィスに睨まれて仕方なく、アイリスの父親を隣国の地方へと追放する事を決めたヤイコフの父親。 その父親に激怒したヤイコフだが・・、金と地位で政治的な権力と繋がる大商人のデーヴィス一家に逆らうなど父親には出来ない。 姉の様なケイトは、デーヴィスへ妻と為って嫁いでいるし。 ケイトの妹のエルスはその血縁に嫁いだのから、実質、格上の身内に奪われた形である。 


随分とデーヴィスに掛け合い、アイリスを身篭っていてもいいから、息子に戻して欲しいと嘆願したヤイコフの父親だったらしい。 息子の思いと、店の運営の権限を握るデーヴィスの狭間で苦悩した父親。 毎日、夜な夜な泣いていたヤイコフの父親・・。 そんなヤイコフの父親の心情を理解するアイリスの父親は、仕方なく追放を承知した。 


ヤイコフは、アイリスの事で嫉妬の炎に身を焦がすケイトに、最後まで相談出来無かった。 事実を言って、従姉弟親子の生活を壊しかねない事に戸惑っていたからである。 そして、遂に追放されるアイリスの父親に、約束をしたらしい。


“アイリスを必ず取り戻します。 親子揃って暮らせる様にしますっ!!”


だが、その後直ぐに身篭っている事が発覚するアイリス。 半年ほどして、アイリスが元気な男の子を出産し。 その事が原因で、最後には気のおかしく成ったケイトだった。 デーヴィスは、育児放棄し掛けたケイトを思って、アイリスをヤイコフも全く知らない処へと預けてしまった。 


突然のアイリスの失踪に、ヤイコフは狂ってしまったのである。 後に、アイリスが病気で死んだと聞いて、ヤイコフのウィンフィールズへの憎悪は絶頂まで膨らんだのだ。


実は、アイリスの父親が全てを話した事で、内々に秘められたその事実を知る者が他にも居ると発覚した。 ウィンフィールズ家の元老僕として勤めていた男性の妹と。 ケイトの親の頃に下働きで、ヤイコフの父親がアンダクィルの店を継ぐ時に手代の長に成った老人そうである。 かなり高齢なその二人も、アイリスの一件を全て知っていて、真実を語ってくれたのだ。


その二人に因ると、デーヴィスの女遊びはアイリス一人では無かったらしい事も解った・・。 そして、アイリスの妊娠期間や、ヤイコフとアイリスの関係から云っても。 セロは、デーヴィスでは無く、ヤイコフの子供であると考えられる事も・・。


シャンテの相談を受けて、全てを調べきった役人の長は。 ケイトとセロの元を訪れ、全てを語った。 昼過ぎ。 ロビーで、帰る役人の長を見送った二人。 


ヤイコフの悲しみを自分の事の様に感じて涙を流すケイトは、ギィっと目を見開いて夫の肖像画を見上げる。 その目は、純粋に怒ってる目で。


「なんて・・、なんて夫っ。 アナタっ、私は・・今日と云う今日はアナタに愛想を尽かしましたっ!!! 自分の夫ながら、情けない限りですっ」


横に居たセロは、強くなる女の声を聞く。 若き頃を経て、様々な経験を踏んで尚も強く生きる女の声を聞いた。


ケイトは、ロビーから階段に向かって左のドアを向き、控えている使用人を呼ぶ。


「テイラーっ!! テイラーは居ますかっ?!!!」


セロの肩に手を回し、毅然と立つケイトの元へ。


「はっ、奥様っ。 お呼びで御座いますか?」


と、ドアを開いてロビーに入って来たのは、背むし男の初老使用人。 ずんぐりむっくりの体系で、庭仕事や力仕事の雑用を長く経験するケイトの従者だ。


「テイラーっ、明日に夫の肖像画を外します。 手配しなさい」


「はぁ? あ・・え?」


驚く使用人を見て、まだ心配で居残るベンソンは、シーキングを脇に苦い笑みを見せる。 二人、一族の肖像画が並ぶ廊下側の物陰に居た。


(あ~ぁ、遂に男が捨てられるぞ)


そう小声で呟いたベンソンに、横に居たシーキングは意味が解らず。


(どうゆう意味だ?)


と、聞き返す。 シーキングに、物事を想像するのは無理そうだ。


ベンソンは、ケイトを顎でしゃくり示し。


(見てろ)


二人とセロに見られるケイトは、使用人テイラーに向かいながら夫の肖像画を指差し。


「もうこの絵は不要ですっ!! ウィンフィールズの家を傾ける愚か者の絵を、今更何時までも飾って置けますかっ!! この家の当主は、このセロです。 セロの絵を飾りますから、絵師も呼びなさいっ!!」


愛しては居ても、過去に捕らわれて不幸を引き摺るのは賢く無い。 人生経験を踏んだケイトは、従姉弟の悲しみを知り決断したのである。 居ない者より、生きる者が優先だ。


さて、後にKは風の噂で知る。


数年の労働刑を経て戻ったヤイコフは、セロに乞われて再度商人としてケイトの元実家である店を営む事になる。 セロが、商才の在るヤイコフを信用して、立ち直らせたのが経緯であった。 


ヤイコフもまた、アイリスとの愛の証であるセロに乞われては断れる訳も無い。 しっかりした奥方のケイトと、商才の在るヤイコフを右腕にして、セロの引き継いだウィンフィールズ家は、更なる発展を遂げると噂されたのである。




                      ★★★




                   ≪記憶の辿り着く場所≫






其処は、雲を眼下に見渡せる高原が広がる山地の中のひなびた農村だった。


「ほら、故郷の山だ」


Kは、骨の入った壷を手にして、目の前に広がる自然の雄大な美を見渡す。 春の高原には、まだ雪も多く残っていたが。 死んだ男が指定した場所は日当たりが良く、もう春の植物が青春を謳歌していた。 高原を好む黄色いランの花が咲き誇り。 砂利の向き出た場所の悪い所には、アザミの花が濃い紫色の花を見せる。 


だが、山へ続く起伏のある草原は、何処までも草花の光景が続くが。 少し平たい地形の村の近場には、十字の印を所々に突き刺した墓場らしき所も有った。


Kは、薄黒い骨壷の蓋を開き、白い粉末を風に乗せて撒いた。 崖の上から風に乗って舞い上がる骨は、雲の見える山に散っていく。


「いい所だな・・。 俺の落ち着いた農村とは違うが・・、此処もいい所だ」


朝に村へ入ったKは、昼前の今に麗かな陽の光を浴びて草原に腰を下ろした。 霧の様な雲が千切れては、別の雲に合流して。 谷を何処までも彼方へと流れていく。


Kは、そのまま草原に横に成って寝た。 草の匂い・・飛ぶ虫の羽音・・暖かい日差しの熱を和らげる冷たい風・・春を生きる全てが息吹き、心地良かった。


Kに散骨を頼んだ剣士ソトマイオニールは、死ぬ間際に森の中でKに言った。


“俺の・・生まれたマウワ村・・・世界で一番・・き・・綺麗な・・んだぁ・・。 死ぬ・・なら・・せっ・せめ・・て・・・かえり・た・・いよ・・・”



身体が半分以上食い千切られ、動く内臓が見えていた。 返り血で飛沫を被ったソトマイオニールの顔は、死を目の前にした恐怖で強張っていたが。 彼へ、Kが。


「俺が連れて行ってやるさ。 安心しろ」


と。 


その言葉を聞けたのか、彼の顔が穏やかに為って死を迎えた。


山の夕暮れは早い。 Kが、人の気配を遠くに感じて目を覚ました頃は、もう赤く為り始めた陽が、西の山の陰に近付いている。


「・・・」


座ったままに立膝となり。 Kは、村を貫く山道を外れて草原の此方に向かってくる二人の人影を見ていた。


Kの前に来たのは、夫婦らしき男女。 年齢はまだ30どうかと云う雰囲気で、男のほうは朴訥とした感じで筋肉質の大男。 女性の方は、山の農村には不釣合いな垢抜けした細身の小奇麗な容姿だ。 だが、ブラウスの上にゆったりとした服を着ていて、身体のラインがお腹だけ微かに膨らんでいる。


Kは、二人から視線を外し。


「俺に用か?」


すると、女性が少し気を昂ぶらせ気味の口調で。


「貴方、何で私達の両親の墓を聞いたの?」


男の方も。


「アンタ、冒険者・・・だろ? 兄貴に・・なんか云われたのか?」


「・・・」


黙るKは、赤く為り始めた陽の光を受ける雲の流れを見ている。


女性の方が、直ぐに焦れて。


「チョットっ、何か言ってよっ!!」


と、Kの脇に屈んだ。


Kは、この二人を朝の時点で見ている。 農作業へ行く夫と妻なのだが、どうも奥さんの方は不機嫌そうで。 彼等以外の者にこの草原の場所を聞いたのだが。 一緒にこの若い夫婦の事を聞くと、返って来る話では、奥さんが不機嫌なのは昨日今日の話では無く。 村に二人で戻ってから、当たり前の様な感じだとか。


Kは、ソトマイオニールからこの二人には何も話さなくていいと云われた。 だが、仕事の成功の報告をしに街へ戻った時。 死んだソトマイオニールの親しい女性と話が出来、色々な話を聞けた。 何も云わないつもりだった。 他人の事など・・、Kからすればそうなのだが。 この今苛立っている女性は、嘗てはソトマイオニールの事を好いていた。 今だ、その気持ちを残して消化して無いのだろう。 だから、流れで結婚した今に不満が在るのだ。


(一つ、御節介するよ)


Kは、心にそう云って、女性に。


「アンタ、アリサか?」


女性は、尖った目を向いて。


「そうよ」


「そうか・・、残念だったな。 ソトマイオニールはぁ、アンタを迎えに来ないゼ」


その言葉に、アリサと云う女性の目つきが更に鋭く為った。 明らかに怒ったのだ。 その場で立ち上がり。


「ホラっ、やっぱりね。 ニール(彼の愛称)は、あの時の娼婦と遊んでるんだわっ!!! 親も村もほったらかして、最低の男っ!!!」


と、吐き捨てる。


だが、大男の方は。


「アリサ、そんな事無い。 兄貴は、アリサを忘れたりするもんか」


と、ソトマイオニールを庇う。


アリサは、大男にキツイ視線を向け。


「ヨーベルっ、何で貴方は解らないのよっ!! 貴方は私の夫でしょ?!!! どうして私の気持ちが解らないのよっ!!」


其処へ、Kが。


「喧嘩の最中に悪い。 ソトマイオニールは、村へは帰って来たさ。 ただ、君を迎えに来れないだけだ。 其処だけは、勘違いするなよ」


「えっ?」


と、Kを見た二人。


Kは、山に囲まれた谷を見て。


「此処は・・、綺麗だな。 ソトマイオニールが、死ぬ前に言ったよ。 此処は、世界で一番綺麗な村だって・・な」


そのKの話に、二人はKを挟む様に屈んで。 先にアリサが。


「嘘っ!! ニールが死ぬだなんて嘘でしょっ?!!」


大男の方も、信じられないと云う素振りで。


「兄貴・・本当に死んだ・・のか?」


と。


Kは、雲の彼方を指差し。


「奴の最後の願いは、骨を村のこの場所から撒いてくれ、とさ。 アンタ等二人を、何時までも見守れる様にだと」


アリサは、震え出しながら泣き声に変わるままに。


「うぅ・・、そっ・・そんな勝手なっ」


弟のヨービルは、ガックリと草むらに項垂れ。


「兄貴・・あ・兄貴ぃぃ・・・」


嘆く二人を見ず。 Kは、雲を見ながらに。


「奴、相当賭け事が好きだったらしいなぁ。 冒険者として得た自分の金は、殆ど博打に使い。 それに応じて、大量の飲酒と葉巻・・、身体壊す訳だ」


Kに顔を向けた二人。 確かにその通りだった。


Kは、アリサに向き。


「二年前、アンタの母親。 そして、ソトマイオニールとこっちの弟二人の父親が、相次いで亡くなったらしいな。 残ったのは、お互いの身体が不自由な片親。 その知らせが来て、アンタは冒険者を辞める決意をした。 それなりに貴金属で金を持ってたし、引退しようと・・。 ソトマイオニールと結婚して、一緒に親の面倒を看ようと持ち掛けたんだろう?」


「あ、どっ・どうして・・その話を? ニール・・から?」


「いや、ユミル・・解るか?」


すると、その名前にアリサは、泣き顔に憎しみを滲ませ。


「あの・・娼婦っ」


と、呻く。


「ああ、そうだ。 ソトマイオニールの芝居を手伝った女さ」


「芝居っ?! 私と村に帰るはずだったニールを誘惑した汚い娼婦よっ」


アリサの目には、ユミルと云う女性に対する激しい憎悪が見えていた。


Kは、


「フン。 アンタ、奴の打った芝居にまんまと騙されたんだな。 今でも。 だから、この村に不満ながら留まってる」


ヨービルは、Kに寄って。


「どうゆう事ですか?」


「ソトマイオニールは、二年前のその時点で、内臓に“しこり”(癌手前の瘤)を持ってた。 恐らく、もう内臓に肥大し腐って腫瘍化した“しこり”を持っていて、人生長くなかったのを知ってたんだろうさ」


「え゛っ・・・・」


アリサは、心臓が止まるほどの衝撃を受ける。 徹夜して賭け事を続け、朝に仕事へ旅立つ事も珍しくなかったソトマイオニール。 いい男で、インテリ然としたスマートな剣士だ。 何をするにも幼い頃から村一番で、村の若い女の子や冒険者の若い女性にも好かれる。 そんな人物だった。


Kは、弟に。


「奴は、自分と比較されて普段は無口のアンタを、本当に信用してたよ。 自分は、出来が良い様に見えるが落ち着けず。 チームの皆に失敗をすぐ問い詰める駄目な人間だが、弟のアンタは、人の気心を理解して、落ち込ん仲間を何処までも励ます。 自分に出来ない事を出来るのが弟だ、だからアリサも弟と結婚した方が正解だ・・とな」


「あ・あに・・あに・ぎぃぃ・・・」


何も語らずに死んだ兄だが。 ヨービルも出来の良い兄を慕っていた。 こんな事を、今に言われては遣る瀬無い。


Kは、黙ってしまったアリサへ。


「ソトマイオニールは、死病を患った事で村に戻るのを怖がった。 だから、アンタと弟の二人を帰す事を強引に決めた。 だが、アンタは、ソトマイオニールに別の女が居ると怒って取り合わなかった。 だから、ソトマイオニールは、ユミルと云う娼婦に金を渡して頼んだのさ。 自分の女として振舞って欲しいとな。 ま、アンタも驚いただろうよ。 いきなり奴が別の女と冒険者続けるって、夜の女とべったりで別れ切り出されたンだからな」


アリサは、信じたくないからだろう。 Kに向いては掴み掛かり。


「嘘言わないでよぉぉっ!!! あの時・・ニールは、あ・あの女と宿に・・ずぅ~と・・ずっと泊まってたのよぉ?」


掴まれたままに、Kは大きく頷き。


「ああ、其処で血を・・吐いたらしい」


「えっ?」


「奴、宿から君達を見ている最中でな、初めての吐血したんだよ」


「う・・嘘・・」


アリサの目に、気持ちが戻ったのを見るKは、全てを話した。


アリサへ強引に別れ話を切り出したソトマイオニールは、ユミルと云う娼婦を連れ立って宿に入った。 それを、このアリサと弟のヨービルに見せ付けて、愛想を尽かさせるのが彼の狙いだった。


しかし、中々アリサは宿を見張りながら夜に成っても諦めない。 ソトマイオニールは、窓から二人を逆に見ている処で急に咳き込んで血を吐いた。 一緒に部屋で一晩過ごすだけで、500シフォンの大金をくれると言う話に飛び付いたユミル。 長い黒髪へウェーブを掛け、メリハリの効いた身体に丈の短いワンピースを着る化粧の派手な美女ユミルは、冗談で快楽欲しさにソトマイオニールに抱き付いたりしたが、彼にその気は無かった。 詰まらなそうに思い、ベットで酒を飲もうとした矢先の出来事だったらしい。 


「ちょっ・チョットっ。 大変っ・い・・医者」


と、ソトマイオニールに駆け寄ってから、医者を呼ぼうとしたユミルの腕を掴むソトマイオニール。


「呼ぶな・・どうせ・た・・助からない」


「えっ? ちょ・・嘘でしょ?」


と、ソトマイオニールの腕を振り解こうとしたユミルだが。 彼はその病気の身体では信じられない気力でユミルを引き寄せ、そして抱きしめる。


「チョットっ」


驚くユミルだが、薄い黒のカーテンが引かれた窓の前。 絨毯の上に、ユミルを抱きしめたままに仰向けで倒れたソトマイオニールは、柔らかいユミルの髪の毛を触れながら。


「今、下で・・俺を見張ってるの・・弟と・・初恋の女・・なんだ・・よ」


「え・・じゃぁ・・」


キスする間合いで顔を近づけ合ったユミルは、その二人を呼ぼうと思うのだが・・。


「いいん・だぁ・・。 俺は、な・永く・・ない。 田舎にの・・残した親・・彼女の・お・・おやの面倒・・看れない。 あの二人・・あの・・・二人なら・・出来る。 憎まれてもいい・・俺への思いを・・すっ・捨て・・・させたいんだ・・」


死ぬ自分より、周りの幸せを願って、この男が自分を金で付き合わせた事を知るユミルは、急にソトマイオニールへ愛情が湧いた。


「お兄さん・・イイ男ね・・」


何故か、ユミルの目が潤むのを見たソトマイオニールも。


「君・・だって・・。 娼婦に・・しとくのが・もっ・・勿体無い・・ゼ」


まだ、死ぬまで少しの時間を残すソトマイオニールの発作は、ユミルが水を飲ませたりして次第に治まった。


気付けば、もう街の大部分が寝静まる深夜で、窓の外には雨が降り出している。 アリサとヨビールの姿も何時の間にか消えていた。


「ユミル、こっちに来てくれ」


ベットの上に寝かされたソトマイオニールは、自分の世話をするユミルを呼び。 身を起こして彼女を抱き寄せる。 そして、彼女にキスを軽く交わすと。


「女は・・不思議だ。 死の恐ろしさも和らげる・・」


と、ユミルの服をずらし、ソトマイオニールは露となった彼女の肉体を触り始める。 


ユミルは、彼が本当は死ぬのが怖く。 何かに縋りたい気持ちを押し殺していると悟る。 そして、また・・。 この男も、初恋の彼女の事を忘れ去りたいと怯えている事を、何年も男へ肌身を許す事で培った経験と勘で知ったのだ。


「お金・・一杯くれるんだからね。 ちゃ~んと、元は身体で取ってよ。 うふ、今夜は・・・自由でいいよ」


ユミルは、ソトマイオニールに身体を明け渡し。 ソトマイオニールは、朝まで彼女の肉体を離さなかった。


だが、ユミルは、ソトマイオニールに惚れてしまい。 それからずぅ~っと一緒に居た。 


実は、Kが残った彼のチームと共に、死体を街まで持ち帰った時。 Kに近付いて来たのがユミルであり、ソトマイオニールから聞いた全てを話してくれたのだ。 死んだソトマイオニールは、アリサとヨービルには構うなとKに言ったが。 ユミルは、


「もし・・、アリサって女性がソトマイオニールを忘れていないなら・・彼は浮かばれない。 自分の幸せを・・思って欲しいよ。 ニールは、それを願ってた・・」


と、Kに泣いて全てを語ったのである。


Kは、陽が山に隠れ、暗くなり掛けた中。 


「アリサ、ユミルからの伝言だ。 ソトマイオニールは、恐怖と寂しさで時々自分を求めたが。 心では、アンタを求めてた・・とさ。 自分は、死ぬまで彼に尽くしたが・・、一度として君に勝てた事は無かったと・・。 だから、自分をいくら恨んでもいいから、ソトマイオニールだけは恨まないで欲しいとよ・・」


「ニール・・ニールっ!!!」


泣くアリサから、Kは弟のヨービルに向くと。


「ソトマイオニールは、最後まで冒険者だった・・。 アンタ、奴に苦言を言った事有るんだって? “仲間を護り切れないリーダーなんか、必要なリーダーじゃないよ”・・だか?」


「あぁ・・。 怪我した仲間を・・駆け出しの頃に兄貴が見捨てようとした・・事在って」


「ん。 ソトマイオニールは、アンタ等二人と別れてからそれを実践してた。 まだ駆け出しの奴等と組んで回って、身体を張って彼等と一緒に冒険をしてた。 “俺の弟は、人生の師だ”が、奴の口癖だとさ。 アリサの事、最後まで護ってやってくれ。 死んだ奴の為にもな」


頷くヨービルは、ただただ泣いていた。


夕日が落ちて、完全に夜空が主役として空を彩る頃。 Kは、立ち上がり。


「さ、もう帰れ。 お腹の子供に、山の冷え込みは障る。 今夜は、ソトマイオニールへ一杯手向けてやってくれ」


と、村の方に歩き出す。


アリサは、Kへ。


「ど・何処へ? 今夜は・・」


と、言い掛けるのを、Kは遮る。


「いい。 夜空の星を眺めながら、ウォルムに行く。 じゃな、元気な子供を産めよ」 


Kは、村の方に消えて行く。


ヨービルは、アリサに寄り添って。


「さ、アリサ。 俺達も帰ろう」


「ええ、アナタ・・・」


初めて、アリサがヨービルをこう呼んだ。

どうも、騎龍です^^


さて、続きましては、ウィリアム編短編か、ポリア編の続編をお送りします^^


ご愛読、ありがとうございます^人^

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