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エターナル・ワールド・ストーリー  作者: 蒼雲騎龍
K編
56/222

二人の紡ぐ物語~セイルとユリアの冒険~2 前編最終話

                 セイルとユリアの大冒険 2




             ≪冒険者が、暇? 仕事しか無いでしょ?≫





セイル達は、数日の間は何事も無く過ごした。 


先ず。 大雪の影響も有り、2泊して。 御者の男性が王都へ向かうべく、騎士と兵士の交代に合わせて一緒に王都へと戻って行った。


その見送りで、クラークとアンソニーは、テトロザと面会して雑談をした。 元王子に対してのテトロザの態度は、臣下の態度であり。 クラークに対しては、同じ武人として礼節の整った対応のテトロザである。 二人は、感心と信頼の一念を持ったのは当然の事だった。


その後。 連日暇な日中に、世界最大の大都市アハメイルを堪能しようと、彼方此方へ出かけて見る。 何より、冒険者としての衣服しか持ち合わせないセイルとユリアが服を買ったり。 歌や演芸好きなクラークの案内で、歌劇をハシゴしたり。 アンソニーの要望で、絵画や博物館巡りをしたり。


しかし、5日も経つと、ユリアは飽きて来て暇に為り。 朝、朝食後に軽く仕事を探してみようと言い出した。


アンソニーは、紅茶の用意をするシンシアに優しい礼を言ってから。


「夜は忙しいから、昼間でどうこう出来るのがいいね」


シンシアは、アンソニーの専属メイドの様な存在に為っていて。


(まぁ、アンソニー様ったら・・)


と、顔を何故か赤らめる。


このシンシアは、この数日で身体が痩せて来ている。 恐らく、アンソニーから、毎日エナジーを吸い取られているからなのだろうが。 アンソニーと交わる前は、二周り以上も体格の幅が有っただろう。 だが、今では、少し太めで優しそうなお姉さんとしか見えない。 しかも、健康に全くの支障を来す素振りすらも無い。 いや、アンソニーと共に居る時は、それは笑顔が美しく。 挨拶に来たエメラルダと云う姪御も、返って困惑していた程。


ユリアやクラークは、夕食後も馬車で劇場や博物館へ行くが。 アンソニーは、絶対に夜は出歩かない。 シンシアと、何に耽っているやら・・・。


アンソニーとシンシアの視線が絡む所を見るユリアは、鬼の様な表情で拳を握り。


(うむむむ・・、このエロモンスター野郎がァァァァァっ!!!!!!!)


もう悟っているセイルは、脱力した俯きで苦笑い。 クラークは、何故か羨ましそうにしている。


セイルは、とにかく一度斡旋所に行ってみようと云う事に。


朝もだいぶに遅く為ってから、セイル達一行は斡旋所に向かった。 商業区の中心から、少し飲み屋街に外れた場所に在る斡旋所。


だが、斡旋所を一目見てユリア。


「なぁ~にコレ?」


と。 ウサギさんの格好をしたセクシーな女性が、誰に向けているのかウィンクする看板が目立ったパブでしか無い外装。 何とも言葉が出ずに呆れ果てる。


北の大陸の粗方を知り尽くしたクラークが、ユリアへ。


「ユリア殿、この地下一階から下が斡旋所ですぞ。 地上は飲み屋ですが、地下が斡旋所なのです」


「ふぅ~ん。 貰った金を、さっさと上で使えって訳ねぇ~」


ユリアの感想を聞くアンソニーは、200年以上昔と基本のスタイルを変えていない斡旋所に微笑む。


「昔は、それこそ冒険者などと云っても、僧侶や魔法使いなど以外は、殆どが男性だった。 男性の割合が多かったから、こんな風に成ったのかもね」


其処へ。 着替えて帰宅しようとしていた若く化粧っ気の濃い女性達が、セイル達が見ているガラスドアを開いて出て来る。


見ていたセイルは、


「働いている人が、まだ居たみたいですね。 朝まで働いてるんだ・・。 もう朝から働く人なんかの出勤は、とっくに終わってるのに」


と、云えば。 其処へクラークが、


「ですな。 朝まで飲み倒す者も少なく無いようです」


出て来た女性は、セイルとアンソニーを見て、酒で腫れた目を細めて色目を見せる。


「あら、カッコイイお兄さんとカッワイイお兄さん。 冒険者ぁ?」


アンソニーは、微笑んで肯定し。 セイルも頷いて肯定。


女性は、手と腰を甘やかに振り。


「夜に来てねぇ~。 う~んとサービスしちゃうから~」


此処まで来ると、ユリアは、最早怒る気力も消え失せる程に呆れ顔。


クラークは、しみじみと。


「顔がイイのは、産まれ付きの才能ですなぁ~」


そのパブのガラス戸へ逆に入り、廊下が伸びた先が女性達が働いている飲み屋の様だった。 さて、ガラス戸を入って左右に有る階段を下ると、斡旋所へ入る扉が有る。 重厚なマットが表面に施された防音効果の有る両開きの扉で、斡旋所へ行く雰囲気では無かったが。 


「・・・」


階段を下る途中の踊り場に、目つきの良ろしくない中年の冒険者が2・3人で立っていたりして。 睨み合ったユリアは、気分が悪く思えた。


「今の何?」


と、不機嫌に扉前でクラークに聞けば。


「強請りや集りをする為のカモを探してる阿呆です。 最近では、この斡旋所の出入りを禁止されて、仕方なく立っているだけに近いみたいですな。 ただ、駆け出しで二人とか三人とかの人数の少ないチームへは、金を恐喝する為に絡む事もあるそうで」


ユリアは、大の大人がやっているので、なんだか情けない。


「冒険者って、悪党の一歩手前みたいな者なの?」


「気持ち次第ですな。 誰でも憧れて成りますが、やはり人としてちゃんとしないと、冒険者と云う仕事もちゃんとしないですな」


セイルは、クラークに。


「勉強に成ります。 深いッス」


アンソニーも頷き。


「人格は、自分で作る自分の証明書みたいな物だな」


と、呟いた。


さて。 扉を開くと、眩い昼間の様な光が溢れ。 ユリアは、目の前に広がる光景に。


「あ・え? 此処・・斡旋所?」


盛大に人を呼んで、ダンスパーティーなどでも出来そうな広いフロアが広がり。 白い壁に、デカい豪華なシャンデリアが天井に幾つもぶら下がる。 絨毯の敷かれた床を少し入った先から、大小のテーブルが散らばり。 其処に冒険者達が座って、ガヤガヤと雑談をしたりしている。 軽く見ても、100人以上の冒険者達が居ると見て取れた。


クラークが先んじて中に入り、セイルに半身を向けて。


「一番奥のカウンターに、一般向けの仕事を斡旋してくれる係りが居ます。 手前側のフロアは、屯したり、仕事について話し合ったり。 ま、情報交換や・・チームの相手を探したりする、待合い・寄り合い場みたいな所ですな」


中を見回すユリアは、貴族の館の中みたいで、


「こんな豪勢な場が、必要な訳ぇ~?」


アンソニーも見るのが初めてで。


「いや、中々雰囲気はイイね」


セイルもまんざらでも無い顔でニコニコし。


「明るくてイイですねぇ~」


だが、奥へ行こうと冒険者達の中を行く。 すると・・。


(おい、あれって・・クラークじゃないか?)


(あっ、ホラッ! 私がこの前言ったじゃないっ。 クラークさんが、若い二人と組んだってっ)


(ええっ?! あのクラークさんの隣に居る、若いコと後ろのカッコイイ人誰ぇ??)


(御近付きに成りたいわね・・・、はぁ~)


(ケッ、槍のクラークも堕ちたねぇ~。 子守りに成るなんざぁ~幻滅だぜ)


(でも、何かあのチーム強いって聞いたぜ?)


(クラークさんの名前が先走りしてんだよ~)


(だろうな。 少なくても二人は、只のガキだしな)


クラークを知る冒険者達が、俄かにセイル達を見てコソコソと噂を始める。


ユリアは、痛い視線と陰口に、セイルとクラークの間で。


「ヤな感じぃ~」


クラークも、意外に不満げな顔で。


「ハッキリ物も申せぬ輩に、グダグダ言われるのは嫌ですな~」


まだ、午前と云う事も在り。 成功報告をしてのんびりしたり、仲間で請けれる仕事が無くて炙れて居た冒険者達ばかり。 チーム名が国を越えて知れ渡る者も居ないのか、名乗りあう事も無い無駄な陰口が花を咲かせて居た。


そのチームの中には、アジェンテも居る。 ウィリアムのチームに居る、スティールやアクトルと知り合いの女性である。 


だが。 カジノなどでお目に掛かる半円のカウンターへ、セイル達が向かい。 ダンディーな鼻髭を整える中年男性に、仕事の斡旋を頼む。


しかし。 中年男性は、クラークを見て驚き。


「あ・・貴方はくっ・・クラークさんか?」


クラークは、男性に笑って。


「お久しぶりですな」


ダンディーな男性は、俄かには信じられないと云った顔でセイルを見て。


「君がリーダーか?」


ニコニコ顔のセイルは、テレ気味に。


「はいぃ~」


「チーム名は?」


それには、ユリアが強気に。


「ブレイヴ・ウィングよ」


その一言で、遠回りに聞いていた冒険者達が、更にザワついた囁き声を上げる。 中には、声を態と上げて、非難がましい陰口を言うのも居た。 偉大なる二大剣士が一緒に居た時のチーム名に、非難を言う者が出るのも仕方ない。


だが。 ダンディーな中年男性は、何か黒い皮の本の様な物を開いて見ながら。


「騒々しいっ!!」


と、一喝。 周りは、水を打った様に静まり返る。 その中で、男性はセイルに顔を上げて。


「君達は、王都の方で討伐作戦にも参加していた様だな。 荷を運ぶ仕事の合間にも、モンスターを倒したと記録が来てる」


セイルは、控えめに笑って。


「少し、お手伝いを」


「そうか。 王都の方から王国名義で、君たちに報酬が支払われた。 下のカウンターに行って、報酬を受け取ってくれ。 それから、君たちを見込んで回せる大きな仕事は、今はこっちに無い。 下の主に、仕事の有無を聞いてくれないか」


「下・・ですか?」


と、セイルが仲間と見合って尋ねれば。 クラークが。


「セイル殿、下の方へはあちらから行きます」


と、白いドアに、黒い取っ手が優雅に備わる両開きの扉を指差す。


セイルとて、依頼には一般向けと上級の特別依頼が有るのは、十分に知っている。 いきなり下に案内されるとは、正直思っても居なかった。


それを見たアジェンテは、悔しさを顔に湛えて目を凝らした。


(またか・・。 結成仕立てで、クラークが居るってだけだろうっ?!!!)


今年、地下二階の上級特別依頼の仕事を請けれるフロアに降りれたチームは、5チームしかいない。 世界最高峰のチームと謳われた“スカイスクレイバー”。 続いて、ポリアのチームの“ホールグラス”。 そして、サーウェルスがリーダーの“グランディス・レイヴン”に。 連続して仕事を成功させ、突発的な仕事で下に呼ばれたステュアートのチーム“コスモラファイア”。 そしてウィリアムがリーダーの“セフティファースト”。


アジェンテのチームは、この5つのチームを抜いたら、このフロアでは知名度トップのチームだろう。 この大都市アハメイルでは、彼女のチーム知らない冒険者は居ない。 だが、今まで一度も、下に案内された事は無かった。


(どうして・・どうして先を越されるっ?!!)


クラークの案内で、地下二階へ行くセイル達を睨み見るアジェンテ。 カウンターには、ダンディーな男性に食って掛かって、この事態へ質問をする若い冒険者が居た。 


「どうしてっ、結成仕立てのアイツ等が下に行けるんだっ?!!」


「そうだっ!! 不公平だっ!!」


「クラークが居るってだけで、そんなに評価が上がるのか? 大体、チームの二人はまだガキだぞっ?」


「一体、アイツ等が何したんだっ?!!」


その問い詰める冒険者達の姿は、怒りだけでなく。 自身への焦りや、セイル達への羨む嫉妬の念も含まれる気がする。


だが。 ダンディーな男性は、冷静な対応で。


「大っぴらに言えない話だが。 あのセイルって若い彼が率いるチームは、仕事でケルベロス・ストライカーとも戦ったツワモノ揃いだ。 仕事は3つ請けて、どれも成功に導き。 グランベルナード王陛下にも、イクシオ達と謁見してる。 結成したばかりってだけで、チーム名に見合う働きをしてるぞ」


そのゴーレムモンスターの名前に、この場が騒然と成った。 一人の中年剣士が、ワナワナと怯え出し。


「ケッケケケ・ケル・・ケルベロス・・ストライカーだってっ?!! ン年前に、あの“オウガ殺し”って異名を取ったボーガンズのチームが、皆殺しされたっていうゴーレムじゃないかっ!!」


別の冒険者は、流石に子供の様なセイルやユリアに、自分が負けると云う屈辱だけは味わいたく無いのか。 カウンターの男性に、


「クラークさんが戦ったンだろっ?!! 若い二人なんて、まだ年端もいかないガキじゃないかっ?!!!」


だが、ダンディーな男性は、疑う素振りも無い。 淡々と、


「さぁ。 あのセイルってリーダーは、エンチャンターで在りながら、剣士としての腕も達つようだ。 ユリアって娘は、呼吸のように精霊と会話して、自由に呼び出せる特異の力を備える。 こんな所で屯してるお前達とは、自力が違う。 何より、あのクラークが認めて加わってるのが、イイ証拠だと思うがな」


物言いをした冒険者達は、反論出来ずに黙る。 クラークと云う有名な人物に気を取られて、完全にセイル達をバカにしていたが。 だが、クラークが加わるだけのコネでも理由でも在ると云う事だけでも、自分たちとは違っていると理解したのだ。 そして、ハッタリだけであのチーム名をおいそれと付けれない事は、セイル達も結成時に知っているハズである。


ダンディーな男性は、横の回覧板にファイリングされた依頼を指差し。


「仕事は未だに余ってる。 他人にいちゃもん付ける暇が有ったら、仕事して実力を示せ。 地下に行きたいなら、それが手っ取り早いゼ」


誰も、返す言葉が出ないままに、カウンターの前から引き下がった。


見ていただけのアジェンテは、新しく加えた神官戦士の若者に。


「ハデなチームだね。 クラークさんの加わったチームって」


この神官戦士の若者は、実は王都から来たのだ。 セイル達が荷を届ける少し前に。


蒼い目をした長髪の神官戦士の若者は、赤いアテネ=セリティウスの刺繍された前掛けを、金属鎧の上に着ている。 そして、アジェンテにこう云った。


「アジェンテさん。 多分、彼等の若い子供の様な二人は、あの二大剣士のどちらかと所縁が在るのかも知れません」


「? それって・・子供か孫?」


「ハッキリとは言えませんが。 彼等がチームを結成する時、チーム名の御蔭で大騒ぎでした」


アジェンテの隣に居る魔想魔術師の中年男ミハエルは、想像が出来るだけに。


「そりゃ~そうだろうなぁ。 あのチーム名は、誰も付けちゃいけない雰囲気在るし」


「ええ。 ですが、若い娘の方が、“許可がある”と、古びたダガーを斡旋所の主に見せたんです。 近くに居た年配の冒険者が云うには、そのダガーに彫られた紋章は、あのエルオレウ様の家紋に似ていると・・」


アジェンテは、何と無く腑に落ちて来た。


「なるほど・・。 今、思い出した。 確か、エルオレウって人は、隣の国のマーケット・ハーナスで最高の位に就く商人なんだった。 彼の営む孤児院には、捨て子や親無しの子供が引き取られてるって話、聞いた事が有る」


若い神官戦士は、


「もしかして、彼等はエルオレウ様の孤児院で育った子供ですかね?」


「多分。 だから、そんな家紋入りのダガーを持ってたんだろう。 いや、勝手に持ち出したのかもね。 チーム名を付ける為にさ」


アジェンテのチームは、彼女の予想に納得した。 実際は少し違うが。 彼等にしてみれば、それが一番腑に落ちる処なのかも知れない。


一方。 一階を賑わせたセイル達は、地下に向かう螺旋階段を下る。 クラークは、セイルの後姿を見て。


(凄まじいのぉ・・、此処に結成して直後に来るとはな。 ワシが冒険者に成って、初めて上位依頼を請けれたのは、4年も経ってからだったか・・。 セイル殿も、ユリア殿も、光る何かを持っている運命なのかも知れないの)


クラークは、この濃密な半月ばかりを考えて、王都での数日が如何に濃く激しいモノだったを感じた。 正直、あのケルベロス・ストライカーと戦った時は、勝つまで勝てるとは思って居なかったし。 アンソニーの一件でも、丸で運命の意図に操られる思いがした。 今でも、不透明な不安が渦巻く中に浸っている。 だが、セイルと居ると退屈せずして、時の流れに飛び乗れる感じがするのだ。 どんな困難も、突き進んで悔いは無いと思える。


地下二階へと下りたユリアは、また冒険者とはカンケーのなさそうな場所に来たと思い。


「なぁ~に此処、どっかの高級飲み屋みたいじゃん!!」


アンソニーも、ストゥールの並んだカウンターや、数人で洒落たガラステーブルを囲んで座れるソファーを見て。


「フム。 上以上に場違いな・・」


だが、セイルは、カウンターの裏側の右奥に黙って立つ初老の紳士を見て。


「どうも、ブレイヴウィングのリーダーで、セイルと云います」


すると、その初老の男性も微笑み。


「ほほう。 アクストムの方で、凄いチームが久々に出来たと聞きましたが・・。 こんなにお若い方がリーダーとは、驚きですね」


ユリアは、別に動じる気配も見せず。


「あの~、上で聞いたら、こっちに来る様に言われちゃったんですけど」


「ええ、王都の斡旋所から、彼方方に報酬を払う様に仰せ付かっております故。 それに、国王様から直に賜った報酬ですし。 仕事の内容が、他人に知られては面倒な・・・部分が有りますからね」


「ふ~ん。 見ても無いのに、良く知ってるわね」


「ま、企業秘密で、良いツールが在りますから」


「へぇ~」


ユリアは、今の所は宿代が浮いているだけに金には、困っていない。 身銭は、彼方此方行って買い物したりしたから寂しいのだが。 今は報酬より、運び出した宝物を狙って来た襲撃。 それを企んだ犯人の方が気に成った。 だがら、か。


「ねえ、向こうから襲撃の犯人の事は、何か伝わって無いの? 運んだ積荷、もう無事なのか全く解らないンだけど~」


初老の男性は、カウンターの裏の下から金を包んだ白い布袋を取り出しながら。


「さ~、向こうからのお話は、彼方方が着いたらお金を渡す様にと・・。 封鎖区域と云う場所のモンスター退治は、ポリア様率いるチームとサーウェルス殿の率いるチームが、合同で終わらせたと云う事だけですね」


セイルは、ユリアのズケズケとした所に対して一つ謝りを入れた後、仕事の受付は上でした方がいいかどうかを尋ねる。


だが、主である初老の男性は、


“一つ変わった仕事が御座いまして・・・”


と、昨日に入って来たばかりの仕事を紹介してくれた。 内容は、“幽霊退治”と云った所の内容だった。





                 ≪暗雲の中で殺意が牙を向く≫





その夜は、冷え込みが一段と厳しい夜だった。 雲が晴れた夜空には、弧月が美しく金色に輝いていて。 物音一つ立てる事すら、憚られる様な静まり返った深夜だった。


王都アクストムの王城から、北西に向かった一角に、一部の貴族が構える住宅が密集する地域が広がる。 一般市民の住宅側と最も近い境に伸びる大通りを挟んだ所へ、森の庭を備えた4階建ての屋敷が有る。


“緑の騎士様の屋敷” 


そう渾名されたのは、ハレンツァの屋敷だ。 ハレンツァは、サードネームが有名過ぎて、もう通り名にすら為ってしまったが。 正式には、バルロッハ・コンテリューヌ・ハレンツァが正式名であり。 正しくは、バルロッハが名前。 “ハレンツァ”とは、正しくはサードネームに成る。 だが、先代の王とは、兄弟の様に仲が良く。 王を護るために幾度と身体を張ったハレンツァは、“王国の盾”と自らを称して有名に成った。 それが、セイルと居たハレンツァなのだ。 いまのハレンツァ家の当主は、息子のエリウェンが継ぐ。 上に6人の姉を持った長男であり、ハレンツァとは40近い歳の離れた孫の様な息子だった。


「・・・」


自分の部屋で横に為ってたハレンツァは、虫の動く音より微かな物音に目を覚ました。 最近は、何時もベットの中に側める中剣を握り。


「何者だっ!!!!!」


と、身を起こして大窓の方を向いた。


瞬間。


「っ!!!!」


心臓に程近い胸元へ、焼け付く様な熾烈な痛みが走った。 ハレンツァは、目の前に立つ影を睨み見て。


「なぁ・・何も・・の?」


背が高い影は、ハレンツァを見下ろし。


「運び込んだ宝物の行き先は?」


と、甲高い男声で云う。


ベットの頭上側の壁に設けられた小窓から差し込む月明かりが、ハレンツァの胸に突き立てられた短剣ダガーの柄を照らしていた。


ハレンツァは、ニヤリと笑った。


「ふ・・ふふ・・・見つけた・・・見つけたぞっ!!!」


胸をダガーで刺されて尚も、全く闇の中を捜査していた最近のジレンマを払拭する様な笑みを見せて言う。


遠くの廊下で、


「何事だっ!!! 父上の部屋だっ、急げっ!! 急げぇぇぇっ!!!」


ハレンツァの息子であるエリウェンの怒声じみた声がする。


影の男は、


「言えっ、宝物は何処だっ?!」


と、突き刺したダガーをグリグリと動かしては、ハレンツァに凄む。 だが、ハレンツァは自分を睨み返しているだけだ。 影の男は、ダガーを一気に引き抜くと。


「チッ。 皆殺しにするか」


と、ドアに向いた。 だが、


(何っ?)


俄かに、ハレンツァが動く気配を見せたのに驚き。 影の男は、スッと2・3歩下がった。


「・・・」


灯りの無い部屋の中だが、鞘のままの剣を振り上げていたハレンツァ。 息荒く立ち上がると、ゆっくりとドアの前に行く道筋に立ち塞がった。 灰色のナイトガウンローブに滲んだ血が、腰帯の辺りまでを濡らす。 ハレンツァの口の中には、肺すら傷付いているからだろう。 血が噎せ返って広がる。


影の男は、70半ばを過ぎた老人が、自分を“とうせんぼう”をしているのだと悟る。


「へぇ~。 胸を刺されても、息子を護るってか? 気構えは大したものだな。 だが、俺に勝てるのか?」


すると、闇の中で息を荒く立つハレンツァが。


「お・・お前は・・誰の差がね・・だ?」


影の男は、血に塗れたダガーをブラブラと揺らしながら。


「“裏切り者”呼ばわりのお前に、言う必要は無いってさ」


と。


この一言で、ハレンツァは黒幕に予想が知付いた。 ギラっと見開いた目は、影の男を見ていたが。 その脳裏には、首謀者の顔を見ていたのだろう。


「父上っ!!!!」


勢い良くドアが開き、片手にランプを持った若い青年が現れる。 精悍な顔つきで、ハレンツァと面影が似通っていた。 面長な所も、目つきの真っ直ぐな所も・・。


そして、ハレンツァは、息子の持ったランプの灯りで、黒い布の覆面をした影の男の姿を見て。


「エリウェンよっ、今すぐ城へ向かうのだぁっ!!!!! リオン王子に会えっ!!!」


と、右手で剣を抜き、鞘を捨てた。


「ちっ・父上何をっ?!!!!」


エリウェンは、部屋に踏み込んで来た。


が、ハレンツァは。


「それ以上入るなぁぁぁっ!!!!!!!」


と、吼える。 ハレンツァは、この自分を殺しに来た男が、殺し屋の類で相当に剣も遣う相手だと悟った。 夜の中で相手をすれば、剣の腕に一目置かれる息子のエリウェンでも、かなり危ないのは承知だ。 今は、何よりも息子の安全と、リオンへ襲撃を伝えなければ成らない。


「父上っ」


何が起こっているのか良く解らないエリウェンは、怒声を上げた父の声に立ち止まった。


覆面の男は、ギラギラした目をハレンツァに向け。 


「胸を抉られて、良くそんな大声が出せたものだ。 もう直ぐ、死ぬなぁ」


エリウェンは、目をこれ以上はと云う所まで開いて、


「父上ぇぇっ!!」


と、声を迸る。


だが、ハレンツァは同時に。


「来るなぁぁっ、早くっ、早ぐ城へっ!!! この一大事を伝えるのだっ!!!! 200年前に一度追放された貴族の内情を調べろとっ、リオン王子に伝えろっ!!!!!! これはっ・・これは国家の存亡の危機ぞおおおっ!!!!!」


ハレンツァは、影の男に踏み込んで叫ぶ。


その話を聞いたエリウェンは、愕然とした顔に変わるが・・。 


一方で、覆面をした男も目に焦りが浮かぶ。


「何っ、ジジィっ!!!」


覆面の男は、自分を雇う主の手掛かりが、ハレンツァの口から出たのではと瞬時に焦った。 このままでは、ハレンツァを殺しても意味が無い。 部屋の入り口には、執事らしき男やメイドなども居る。


「事がバレたっ!! 表口や裏口に回って皆殺しにしろっ!!」


覆面の男は、開きっぱなしの大窓にそう怒鳴り、自身はハレンツァへ睨み。


「死ねぇぇぇぇっ!!!!」


と、ハレンツァに飛び掛る。 だが、ハレンツァは、男のダガーの突き込みを弾いて、ヨロめくも踏み止まり。


「ソロントっ!! メイドや使用人をっ、方々に逃がせぇぇっ!!! エ・・エリウェン・・、父が・・父がこの者を防ぐ故に・・行けっ。 此処で・・皆殺しにされてはイカんっ!!!」


老人の動きとは思えない剣捌きで、曲者の男の進行を踏み止まらせたハレンツァだが、更に口から血を洩らす。 口から出た血が顎を伝って床に落ちたのを、息子エリウェンは見た。


「ちっ・父上・・・」


自分の親が目の前で殺され掛けるのを見て、子が気を動転させない訳が無い。 剣の師であり、人生の師である父親なのだ。 エリウェンは、父親の心情を理解出来て、返って足が踏み出せない自分が憎らしい。


ハレンツァは、急所を刺されて死期が目前なのかも知れないのに、鬼気迫る目つきを曲者の男に向けて。


「息子よっ、王国の盾として・・し・・死ねるワシは本望っ!!! 父の最期のた・・頼みを聞けっ!!! ・・ゆ・・・行けぃっ!!!!」


涙を流すエリウェンは、中年の執事ソロントを横に見て。


「ソロントっ、皆を馬車に乗せて逃げろっ!! 妻と娘を頼むっ。 皆の者っ!!! 襲撃だっ!!! 他の屋敷に逃げよっ!!! 襲撃を知らせるのだぁぁっ!!!」


と、廊下に戻るのだ。


この時、父と息子の心は一つだったであろう。


(父上っ!!!! うわああああああああーーーーーっ!!!!)


(息子よっ、礼を言うぞっ!!!)


これで焦るのは、覆面をした曲者の男だ。


「ジジィ・・テメェェェっ」


だが、ハレンツァは、年期の入った男でもある。 ひょうひょうとした人生の玄人くろうとは、最後まで玄人だ。 ニヤッと老いた顔を笑わせると。


「お・・怒ったか? おいぼれ一人も直ぐに・ご・・殺せぬ無能がよ」


覆面をした男の目が、ハレンツァに向かって殺気に狂った。 ハレンツァとて、この男が自分から宝物の在り処を聞き出す為に、自分を半殺しにしているのは明確だ。 だが、息子を殺しに外へと出られては、手負いのハレンツァも追えない。 何せ、男の背後には大窓が有る。 だが、この男が、少しでも自分に時間を掛ければ、それだけ息子夫婦を含めた皆の逃げる時間を稼げる。 この一番危険な男は、どうしても自分に釘付けしておく必要が有ると思うハレンツァは、態と相手を詰ったのだ。


「こぉの死に損ないがぁぁっ!!! 宝は何処だぁぁっ!!!!」


覆面の男が、ハレンツァに遂に剣を抜いて襲い掛かった。


しかし、この時。 玄関ロビーに下りたエリウェンも、別の覆面をした曲者達に襲われた。 ランプと剣を片手ずつに、白いバロンズコートのエリウェンが、3人の覆面の曲者に囲まれた。


「誰かっ、玄関に馬を回せっ!!! 曲者は私が倒すっ!!! 馬だっ!! 馬をっ!!」


その時だ。 シュッと何かが飛んで、空を切り裂く音が聞こえ。 曲者の一人が。


「ギャっ!!」


と、倒れる。


エリウェンの目に、男勝りで父親譲りの武芸にしか関心の無い5女の姉が、弓を片手に一階奥から現れたのを見つける。


「エリウェンっ!! これは一体っ?!!」


母親似の赤髪を三つ編みにした髪を揺らし、姉は弓を持って別棟の離れから駆けつけたのである。


エリウェンは、これには勇気が溢れ。


「姉上っ、父上を狙った何者かの差がねですっ!!! 城へっ、リオン王子に会えと父上がっ!!!!」


事態を悟る姉は、


「して父上はっ?!!」


エリウェンは、曲者一人の膝に剣を突き立てて。


「構うなとっ!!! 国の存亡の危機とっ!!!」


此処で、裏庭からエリウェンの妻の悲鳴が上がる。


「ハッ!! ロザンナっ?」


剣を抜いて驚くエリウェンに、姉は。


「エリウェンっ、私が行くっ!! 馬を回すからっ、お前は外に出なさいっ!!!!」


姉クーレスは、裏庭に走った。


「貴様等ぁぁぁっ!!!!!」


緊急の事態と襲撃へ怒るエリウェンは、怒声を吼え上げて立ち塞がる最後の曲者に斬り掛かった。


エリウェンが、逃げ出す使用人やメイドを外に逃げさせ、他に隠れていた曲者二人を倒した時。 馬を引き連れた御者が来る。


「おおっ、家族はっ?! 姉はっ?!」


執事が怪我をしたが、家族はクーレスが執事と一緒に裏口から連れ出したと聞けたエリウェンは、雪の積もった大通りへ馬に乗って飛び出した。


さて。


貴族と言っても、誰もが怠けでは無い。 寧ろ、お役目に就く下級・中級貴族は、真面目で忠義に厚い人物も多い。 ハレンツァの家から逃げてきた使用人やメイドを匿うばかりか、何人もの貴族が早馬を城へ飛ばし。 剣の腕が有るものは、使用人の武術に心得の有る者を従えて、ハレンツァの家に救援へ駆けつけた。


そして、其処で見つけたのは・・。 壮絶な相打ちで、曲者の男ごと自分に剣を突き立て死んでいるハレンツァの最後だ。 曲者の短剣と長剣が心臓と腹を抉っていたのに、曲者に抱きつき剣を後ろから自分ごと突き刺した姿。 執事とエリウェンの家族を知人の屋敷へ逃がし、直ぐに舞い戻ったクーレスと共に駆けつけた貴族は、ハレンツァの姿に涙を流して賞賛を送る。


生きて捕らえられた曲者が3人。 死人は、12人を数える。


そしてリオンが、エリウェンと共に数人の騎士と駆けつけたのは、その後だ。


「ハ・・・ハレンツァ殿おぉぉぉっ!!!! ああああ・・・この様な・・・」


あのリオンが、絶命したハレンツァを見て膝を崩したのを、騎士や貴族も見た。 リオンは、あまり涙を見せずに、周囲ともクールな付き合いしかしない王子なのだが。 声を押し殺してすすり泣くリオンの背を見た貴族は、リオンの別の一面を垣間見た気がしただろう。


だが、リオンは、駆けつけた貴族や使用人を匿った全ての貴族を、ハレンツァの使用人や家族も含めて深夜に城へ連れて行った。 無論、ハレンツァの遺体や、曲者達の遺体も全ての証拠も。


そして、誰も盗み聞きの出来ない部屋に集めて、襲撃の事も含めた緘口令を言い渡した。 だが、ハレンツァ一家の身の安全を保障する為に、次の日の昼に家族の身柄は、なんとポリアの家に預けられる。 両親の旧家がこの地に有るのだ。 父方の別宅も有る。 リオンから事を聞いたポリアが、城に詰める兄に掛け合った結果だった。


リオンは、1日明けた後。 ハレンツァの国葬葬式の夜に、謁見を申し出て来たエリウェンと二人きりで城にて会う。


「エリウェン殿、ハレンツァ殿が調べていた事・・私とやるか?」


リオンは、父親の死に悔しさを滲ませるエリウェンを見て。 父親の仕事を継ぐのは、エリウェンを置いて他には居ないと思って聴いたのだ。


形を改めたエリウェンは、リオンに膝間付いて。


「ハレンツァ家は、父の通り“王国の盾”で御座います。 リオン様が“王家の盾”に成られると在らば、我は父同様にこの命を捧げます。 この様な謀略は、我が国家に在っては成らぬ事。 是非、お願い致します」


と。


リオンは、エリウェンに。


「王家の一人として、エリウェン殿のお気持ちに感謝を」


だが、エリウェンには心配が有る。


「あの、リオン様。 所で、陛下は大丈夫ですか? 父の葬儀を執り行い、椅子に座して居ましたが・・・お痩せした様な印象でしたが」


リオンは、苦く頷き。


「父は、ハレンツァ殿の死を知って気を落とされた。 母も心配しているが、食事を取ろうとしない。 今は、兄も父と同様だ・・」


「そうでしたか・・。 王子の御心、御察します。 恐らくトリッシュ様も、陛下も、剣の手解きの最初は父がしました。 そうゆう意味では、師でしたね」


「嗚呼・・。 そうだったですな」


リオンは、自室の窓を向いて目を閉じる。 王家とは、ある意味では隔絶された一族だ。 その生活の中で、勉強や剣の手解きで出会う師は、外の人間であり。 稽古や勉強と為る時間は、師事と云う特別な親交を持つ。 リオンにとっては、テトロザがそうだ。 その心の支えが、父クランベルナードも兄トリッシュも一つ亡くなったのだ。


(絶対に許さない・・。 どんな手を使っても暴き出してやる)


リオンは、心に誓った。 葬儀の後。 リオンは、密かにセイルへ早馬の知らせを飛ばす。 どんな危険が迫るか解らないから、宝物を預けたマーリの身共々細心の注意を払う様にと。 そして、テトロザに、自分のチームの仲間に、セイル達とマーリの博物館の警護を頼む内容だった。 


この日は、セイル達が斡旋所で仕事を請けた日、だった・・・。 

どうも、騎龍です^^。 


長い内容に成りそうなので、此処で前編と後編に分けたいと思います^^ 次回は、特別編を挟むか、ポリア編中篇を進行させます^^                                      

ご愛読ありがとう御座います^人^

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