二人の紡ぐ物語~セイルとユリアの冒険~2
セイルとユリアの大冒険 2
≪アンソニーの身体と雲行き怪しい依頼≫
予測した襲撃をかわして、セイル達は墓地の外に出た。 馬車の操作などは、セイルでもクラークでも出来る。 逃げ出した曲者達の数人は捨て置き。 手傷を負わせて動けなくした曲者6名を捕らえたハレンツァは、門の外で見張りをしていた騎士達を叱責していた。
「この大馬鹿者ッ!!! この怪しい曲者共は、一体何だっ?!!! 曲者と冒険者の区別も付かぬかっ、馬鹿者めっ!! そんな事で、平和の象徴たるこの宮殿をっ、我が王を護れるのかっ?!!!!」
ハレンツァに怒られ、土下座に近い様子で謝る騎士達と兵士。
セイル達が門の外に出た時、騎士と兵士達は眠り込んでいた。 飲み水か差し入れに、薬が仕込まれていたのかもしれない。 だが、コレは由々しき事態だった。
ハレンツァは、曲者共を騎士に引渡して投獄を命じ。 後で、自分が直々に取り調べると云い付けた。
馬車と共にその光景を見ていたアンソニーは、セイルに頭を下げる。
「危険に巻き込んだ、済まない」
だが、セイルは気にした様子は無く。
「ま~、何事も無く良かったです~」
しかし、ユリアは、アンソニーの手を見て。
「あっ、アンソニー様っ! 手っ」
「ん?」
クラークも、ユリアの声にアンソニーの手を見ると。 なんと、干からびて骨に皮が着きそうに為っている。
「これは・・、一体どうした事だ」
驚いたのは、アンソニーも同じで。 干からびた自身の手を見て、目を凝らして言った。
其処へ。 闇の精霊のシェイドが、ユリアの肩からアンソニーに言う。
「王子様。 貴方は、まだ完全なモンスターでもない。 でも、まだ少しだけ人でも在るの。 魔想魔術は、魔力と想像と云う人の生きてるエネルギーの領域を力にしてる。 暗黒魔法や死霊魔法は、魔力と闇や魔の力を母体にするけど。 魔想魔術は、根本的に違うわ。 高等な魔法を、強い魔力と熟練した経験で省エネの使い方してもね。 生と死の狭間の肉体には、歪みが出てしまう。 強い魔想魔術を使えば、生きている貴方を生み出す生命的な気力が失われて、モンスターの姿に突き進んでしまうのよ。 使い処は、自分でよ~く考えてね」
アンソニーは、シェイドを見てからまた干からびた手を見る。
「なるほど、そうゆう事ですか・・」
シェイドは、ユリアの肩で足を組み替えて。
「貴方が人を食い殺すまで出来れば、幾らでも姿を留める事は出来る。 でも、性的交わりのエネルギーでは、存続に必要な微量のエネルギーしか吸わないの。 命を壊す時、強いエネルギーが爆発的に弾け飛んで命と意思は失われる。 その全てを吸収して、糧にして来たのがモンスター。 貴方は、そのモンスターのして来た事をしないで居る。 客観的に云って、性交搾取でのエナジードレインって、エネルギーを搾取する効率は一番悪い方法なのよ。 だからヴァンパイアは血を吸い、悪魔は死ぬまでエナジーを吸う」
ユリアには親しげで可愛い闇の精霊だが、アンソニーを見る目は、悪戯な眼差しの小悪魔的な様子。 明らかに、何処か楽しんでいる様な雰囲気が在る。
ユリアは、困った顔でシェイドを見て。
「シェイドちゃん、そんな悪戯っぽく言うの酷い」
するとシェイドは、ユリアにケタケタ笑う。
「だぁ~ってぇ~、こんな矛盾したモンスター見るの、初めてで面白~い。 何処まで人で居られるか、すご~く見物だも~ん」
闇の精霊は、何事でも他人事は椿事にする時が在る。 ユリアには、そこは困りの種だった。
だが、アンソニーは、自分の手を見ながら。
「これも一つの枷か。 私の罪の表れですね。 どこまでも人の・・、いや。 人で居られる様にしないと」
と、淡々と言う。
セイルは、クラークと見合って、アンソニーの干からびた手をまた見た。 真のノーライフ・ロードとは、完全に干からびた骨と皮だけのミイラだと云われる。 つまり、アンソニーの身体には、その原型が潜んでいるのだ。 二人は、その姿が見る時が来ない事を祈るのみだった。
さて。
ハレンツァの用事が終わり。 一同は、馬車を引き連れて王城まで護衛をした。 墓地は、王城の裏庭と程近い。 裏庭に入る為に、城を囲う裏の防御城砦壁を迂回し、裏門より敷地の中に入った。
冷え込みがキツく、寒さに兵士達が震えるが。 セイル達とハレンツァは、震えてなど居られない。 明日、明後日と成すべき事が山積し、緊張と遣り切ろうと思う意思が心身を高揚させたのかも知れない。
“襲撃”
この一つの事件で、行き先に暗雲が掛かっている事を薄らと感じたのだ。
王城の裏庭に在る厩舎へ行き、其処から城の内部と繋がる倉庫に入った。 普通の木戸の3倍は在りそうな立派な木戸を開いて入った場所は、大きな石を積み上げて作られた広い倉庫。 もう、迎えのヘンダーソン卿と騎士数人が居た。
(この人が、ヘンダーソン卿ですな)
セイルに耳打ちしたクラーク。
頷いたセイルは、長身で色白ながら強い視線を崩さない紳士を見上げた。 歳は40から50前後と云った感じだが、剣の心得など感じられないのに、何処か強権的圧力を纏っている強さが見える。
「ヘンダーソン卿、王から仰せ付かった荷物を届けます。 保管と引渡し、お願い致しますぞ」
ハレンツァは、黒いピアリッジコートを羽織るヘンダーソンに、密かに修正をした積荷一覧の目録を渡した。 馬車の荷台が横開きでき、積荷が示される。
「ハレンツァ殿、お寒い中ご苦労です。 何でも、襲撃が在ったと今聞きましたが・・」
目録を受け取ったヘンダーソンは、吐く息白くしながら襲撃の事を口にする。 だが、視線は積荷にのみ向いていて、大して大事でも無さげに淡々と。
ハレンツァは、大いに頷き。
「おお、もうお耳に。 一足先に此方に参った騎士に、捕らえた曲者を連れさせたと思うが、その通り。 しかも、周到な計画性が見られる。 誰ぞやかの・・・、策謀かも知れませんの」
ヘンダーソン卿から下がった後ろには、あの太った貴族が控えている。 この寒い中で汗を休まず拭いていて、目つきが少し遊んで気が落ち着かない様子だった。
ヘンダーソン卿は、目録を見ながら。
「“策謀”とは、穏やかでは在りませんな」
その冷めた言い回しに、ユリアはセイルに顔を寄せて。
(な~んか落ち着き過ぎてるね、あのヘンダーソンって人。 名前通りに“ヘンな人”なんじゃないの?)
セイルは、苦笑いをするだけ。
クラークは、アンソニーに。
(昔からの旧家ですか?)
(えぇ。 我が兄の頃には、もう子爵から伯爵に格上げを受けた名家ですね。 政治に明るく、文官一家でした)
(なるほどに・・)
皆が報告の成り行きを見守る中で。 ハレンツァは、ヘンダーソンへ。
「封鎖区域を警備する騎士と兵士が、今夜に限って全員眠りこけると云うのも、警備上は異常ですな。 もし、何かそうなる要因が見つかれば、事は計画的と云わざる得ない。 彼らが口にした食事と水は、しかと保存を命じました。 これから、それを調べるつもりです」
すると、ヘンダーソン卿は目録より面を上げる。
「ハレンツァ殿、勝手な事をされては困りますな。 その様な国の内情にも関る事なら、王に許可を取らないと」
すると、ハレンツァは柔らかく笑い。
「ふははは、これは可笑しな」
「“可笑しな”? ハレンツァ殿、私を愚弄する気か?」
「いやいや、当たり前の事をとやかく言うので、此方もそう言ったまで。 警備に当たる兵士や騎士に、作為的な不審な落ち度が有るなら。 それを正しく調べるのは、騎士団総ご意見番としての私の責務。 王室事務官ヘンダーソン殿に、とやかく言われる筋合いがまず無い。 それに、ヘンダーソン殿は、まだ王よりお聞きに成られていないらしい」
ヘンダーソン卿は、ギラリとした目つきで。
「何が、ですかな?」
「私は、王から別の言い付けを仰せ付かった。 その領域には、この事態は含まれる。 御主は、王に代わって、明後日まで宝物を管理する事を言われたまで。 宝物の事以外に、余計な口出しをされるな。 それとも、調べられては疚しい所でも?」
「・・・」
ヘンダーソン卿は、ハレンツァに言われて言葉を見失った。
ハレンツァの話では、このヘンダーソンと云う男は、王妃の家系に近い。 王妃の身の回りを世話する者には、ヘンダーソン一族の者が多いとか。 クラン王が身の回りの用事を言い付けるお傍用人として、王室事務官と云う役目を与えてから、何かと政治以外でも権力を見せ付ける様になったとか。
ハレンツァは、馬車から馬を放して、厩舎に連れて行く世話係を一瞥してから。
「襲撃など、普通なら秘密裏に行われた計画には、似合わない事態です。 このハレンツァは、老いたとは言え“王国の盾”と呼ばれた精神は、失って居りませんぞ。 何処から秘密が漏れ、今夜の襲撃に成ったか・・。 私は、調べる必要は在ると考えますな」
すると、ヘンダーソンは目録を前に出し。
「ハレンツァ殿。 では、一つ窺いたい」
「む、何事ですかな?」
「この目録には、大切な物が記載されていないと思うが」
この言葉に、セイルとアンソニーとハレンツァは、まさに“来たっ”と思う。
ハレンツァは、平静の好々爺の顔に戻り。 惚けた言い回しで、
「ほう、大切な物・・。 はて、何でしょうかな」
「うむ。 王子のお屋敷に行ったと在らば、彼の身を証す何かが含まれる筈。 此処には、美術品や衣服のみだ。 御貴殿は、何か隠して居るのではないか?」
これに、ハレンツァは・・・。
「うふふ・・あはははは」
と、大きく笑ったのである。
ヘンダーソン卿を始め。 彼の後ろに居る騎士や、王の使いとして来たの太った男性貴族は、急な事で驚きを見せる。
「何が可笑しいっ、ハレンツァ殿っ!」
バカにされたと思ったのか、ヘンダーソンは、強い口調を始めて出す。 ハレンツァを見据える目は、鋭い睨み目だ。
逆に、目に涙を浮かべる程に笑ったハレンツァは、大きく被り。
「いやいや、ヘンダーソン殿とも在ろうお方が、余りにも間抜けな事を言うので思わず。 これは、失礼した」
「なぬっ、私が間抜けですとっ?!! 説明次第では、只では許しませんぞっ」
ユリアは、こんな夜中で修羅場が待っていようと思わない。 精霊達と目をパチパチさせて、固唾を呑む。
ハレンツァは、ヘンダーソン卿に手を向け。 “落ち着け”、とばかりに振り。
「まぁまぁ、ヘンダーソン殿、良く考えても見られよ。 王子の印字や権限を証す物などを、態々今までほったらかす王家が在りますか? アンソニー様の屋敷が封じられたのは、王子が死んだ後。 王家とて、その後に葬儀を挙げた事は、記録にも残りますぞ。 ちゃんと回収されたのですよ、ですから目録にも無い。 極自然な事では在りませんか。 それとも、そう云った国家に危うい品が在ると、王から云われましたか?」
ヘンダーソンと云う男は、ハレンツァに云われて、グッと何かを飲み込む顔つきに変わった。 クラークやユリアにも、その顔は憤りを滲ませるものと解る。 セイルやアンソニーにとっては、疑惑を持たざる得ない顔だった。
だが、ハレンツァは、ただただ微笑み。
「では、ヘンダーソン殿。 私は、老体に鞭打って取り調べを致しますわい」
頃合いを見計らったセイルは、少し離れた所から。
「では、我々もこれで失礼致します」
と、一礼をする。
クラークやアンソニーに釣られて、ユリアが一礼する時。
「待て」
ヘンダーソンが、棘の有る声を出す。
セイルは、何時ものニコニコ顔で。
「はい、なんでしょ~か」
すると、ヘンダーソンは険を露にした目つきで。
「キサマに用は無いっ!!! そこもとだっ」
と、アンソニーを指差す。
苦笑いのセイルと、その言い方に気に食わないユリアが見合う。 クラークも、セイルに高圧的なヘンダーソンを嫌う顔で横を向いた。
アンソニーは、あえて貴族の嗜みを知る素振りで優雅に。
「私め、ですか?」
と、一礼を示す。
隠す必要が有るとは云え、アンソニーにこのような挨拶をさせる事に、ハレンツァは拳を握り締めた。 だが、顔や口には出さないが。
ヘンダーソンは、肩を唸らせてセイル達の方に一歩踏み出し。
「そうだっ!! 先日、何故に王へ目通りしたっ!! 何故に、封鎖区域の奥の屋敷を知っていたっ!!!」
と、怒鳴った。
アンソニーは、もはや王家や政治に興味も未練も無い。 穏やかに微笑み、
「ああ、その事でしたか。 私は、異国の貴族でして、クラン王とはパーティーなどで昵懇の間です。 偶々この王都に来た時に、この彼らと子供達の捜索に加わりまして。 墓地の奥で、王子様の屋敷を見て来ました。 魔法の心得も在り、宝物庫を見つけましてね。 このままでは・・と思い。 密かに回収を進言するため、クラン王に伺ったのですよ。 随分と古い美術品が在りましたから、文化的にも共有出来る財産と思いまして」
と。 そして、そのかわす言い訳に同調する様に、ハレンツァも。
「お、そう云えば。 ヘンダーソン殿、王はまだ御起床か? 出来るなら、報告もしたいのだが」
口裏を合わせられている様な運びに、ヘンダーソンは口元を震わせ。
「・・・王は、数日御用事にて御不在だっ。 公爵家、サージネル卿の先代が、御危篤で在らせられる為に・・。 従兄弟故に、看病をしに行くと云う事だっ!」
ハレンツァは、5大公爵家の一家の事なだけに目を伏せ。
「そうか、あのサージネル卿のホファン様が・・・。 なら、出来る雑用は、我々で速やかに片付けねばの。 それからヘンダーソン殿、知らぬ様なので云って置くが。 このセイル殿達は、王の大切なご友人達だ。 無碍な言い掛かりは、控えた方が良いぞ」
「なぬっ、高々一度目通ったぐらいで“ご友人”だとっ?!!」
ヘンダーソンの高圧的な言い草に、困ったちゃんを見た気のするセイル達だが。 少し怒った顔のハレンツァは、セイル達の前に立ち。
「ヘンダーソン殿、いい加減に口も態度も慎まれよ。 此方のセイル殿は、隣国マーケット・ハーナスの大商人オートネイル家のご一族だ。 それにあちらのクラーク殿は、水の国ウォッシュレールの公爵家・エステムルスの御次男で“槍のクラーク”と異名を取る武人ですぞ。 下手な失礼は、御主の為に成らんと思うがの」
事実を知り、存在を理解した瞬間のヘンダーソンが見せたギョッとした顔。 見ていたセイル達には、そうそうに忘れられる物では無かった。 もし、アンソニーの事まで言ったなら、ヘンダーソンは気を失ったかもしれない。 セイルの祖父のエルオレウは、クランベルナード王の親友で、剣の師として敬愛している人物。 クラークの一族は、このフラストマド大王国に、過去には后を出した事もある名家。 セイルとクラークの事だけでも、ヘンダーソンの常識が一瞬で破壊される程の衝撃だった。
ハレンツァに見送られ、馬車で宿まで送って貰えた一行。 馬車の中では、ヘンダーソンの顔が笑いのネタだった。
宿に戻った一行だが・・。 あの昨夜の女性僧侶が、アンソニーを待って起きていた。
「アンソニー様・・ご無事で」
待ちに待ち焦がれた恋人同士が、長き間を挟んで再会を果たす場面が繰り広げられて。 ユリアは、横を向いて誰かに。
「あ~あ~、今夜もかいっ」
だが、見詰め合う二人の世界は、別世界。
「遅くまで待って頂けましたか。 こんなに麗しい御手を、冷たくされて・・」
と、女性僧侶の手を摩るアンソニー。
女性僧侶も、骨と皮だけのアンソニーの手を摩り。
「まぁっ! アンソニー様・・、御手が」
「はい。 今日、仕事の為にですが、まだ慣れないままに魔法を使いましてね」
「あぁ、おいたわしや。 お仲間が未熟な為に、アンソニー様がご苦労を・・・」
悲しむ女性僧侶に、ユリアは目くじらを立てて。
「ンだとぉっ、このエロ似非僧侶があああっ」
セイルは、必死にクラークと一緒にユリアを止める。
「ユっユリアちゃんっ、もう真夜中だって~」
「そうですぞっ、ユリア殿。 此処は落ち着いて・・」
アンソニーと女性僧侶は、手と手を取り合ってまた上に消えて行く。
釈然としないユリアは、斡旋所西側の通りを挟んだ向かいの飲食店に、セイルとクラークの首根っこをフン捕まえて入った。 此処は、オークションに来た客などを相手にするので、朝まで開けている店だった。
[ま・・・、愚痴巻き散らかしたんでしょうね。 ウチのユリア番長は](作者、苦笑)
≪封鎖された場所に舞い戻る冒険者達≫
赤い鎧を着た、端正な顔立ちの剣士が居る。 ゲイラーと似た大型の大剣を構えて、“屍竜”(ロトンドラゴン)と呼ばれるゾンビ姿の小型ドラゴンへと斬りかかった。 彼の背後では、大人びた麗しい女性僧侶が居て、神聖魔法を唱えている。
次の日の早朝に、また作戦は再開されていた。
世界を股に駆ける冒険者チーム“グランディス・レイヴン”の戦いぶりは、獅子奮迅とも言うべきだった。 同じく行動を共にするポリア達を庇い、戦っている位の勢いが在ったのだ。
「ポリアっ、霧に紛れたゴースト共は任せるっ!! 肉弾戦で相手に出来るのは、我々に任せろっ!!!」
まだ暗く霧の立ち込める中、剣士サーウェルスの声が飛ぶ。
墓地のあちらこちらに出来上がった、強く大きなヘイトスポット。 大小の溜池が広がる池群の様に、封鎖区域の北西側に広がっている。 そのヘイトスポットに近付くと、集まっていたゴーストやモンスターが襲って来るのだ。
「解ったわっ。 ヘルダーとイルガを応援に残すから、一気に蹴散らしてっ!! オリビアとミュウは、こっちで借りるわよっ!!」
霧に隔たれた中。 サーウェルスは、肉食モンスターの大型カタツムリを斬り倒し。
「おうっ。 ヘイトスポットの浄化は任すっ。 手が足りないならっ、デルも応援に出すぞっ!!」
合流したこの二チームは、過去に何度か仕事を手伝い合う仲。 気心が知れたお互いだから、チームをこうゆう形で二分出来る。 ポリアは、魔法の掛かった剣を持つ自分とゲイラーに、マルヴェリータやシスティアナ。 そして、サーウェルスのチームの僧侶オリビアと、学者のミュウを従え。 ヘイトスポットに集まった死霊や亡霊などを祓いながら、浄化を試みる。
寺院から聖水を大量に持ち込んだイデオローザの隊と共に、墓地の更に奥へ奥へと浄化を行う討伐作戦。 怖気づく他の聖騎士や騎士の率いる隊を尻目に、ポリアとサーウェルスの組んだチームは、ドンドン霧の立ち込める森の奥へと進む。
さて。
ポリア達も驚きだったのは、ヘイトスポットが段階を経て成長すると云う事実だった。 通常のヘイトスポットは、目に見えない不気味な気配程度なのだ。 だが、暗黒の力が流れ込んで時間を経ると、黒い靄が見える形で蟠る様に成る。 その中に、常時ゴーストやモンスターが住み着く様に成って。 更に暗黒の地場が強まると、小さな溜池程度で血の池の様な、赤い光の蟠る物に変わる。
司祭の洗礼を受けたオリビアですら驚いたのは、黒々とした靄を渦の様に蟠らせて、随分と成長したヘイトスポットを見てだ。
「なんと・・。 紅き色に変わりつつあるなんてっ!」
システィアナも両手を頬に当てて驚き。
「ンまぁ~っ、ですぅ~。 これ以上成長すれば、地獄と通じて悪魔を呼び出せる“ファンタム・ゲイト”(悪魔の門)を開く基点に出来ましゅうぅぅ」
その事実に青褪めるのは、ポリアだ。 最も平和と云われる自分の国。 しかも、王都でこんな現状を目の当たりにしようとは・・。
「誰がそんな事させるモンですかっ!!」
息巻くポリアは、黒いエネルギーの渦が木の下の暗闇の中で蟠り。 その渦の中から、次々と現れる亡霊に斬りかかる。
加勢に剣を構えたゲイラーも、ワラワラと出て来る亡霊を見て。
「此処までデカく成るなんてな。 ど~考えても、なんか在っただろうがよっ」
と、マルヴェリータが照らす魔法の光の中で、間近に迫ったモンスターへと向かう。
極夜と云う環境が続くこの時期。 闇の力は活性化し、モンスターの動きを肉眼で確認するには、明かりが必要だ。 墓地に踏み込む冒険者達も、明かりを持ち込む量が増え。 下手すれば、森を焼く火災も懸念される。
墓地の中で、激戦が今日も繰り広げられた。
この日は、昼前からセイル達もモンスター討伐に加わる気でいた。
一方。 疲労で動きの鈍ったイクシオ達。 傷付いた者達を探す行動に、マガルとカミーラのチームを含んで墓地を回っている。
さて。 遅めに起きたセイル一行が、昨日に襲撃を受けた墓地に舞い戻った。 昼前で東の空が白み、朝焼けの曇り空の様な天気。
女性僧侶をベットに残したままに来たアンソニーの手は、もう干からびてはいなかった。 だが、アンソニーの顔色は優れない。 心にそうさせる靄が有るのだろう。
毎日元気なユリアは、霧も大分に晴れた墓地の中に踏み込みながら、マントの襟首を絞め直す。
「さ~て、頑張るぞ」
やや真顔のクラークは、人目も無くなった処で。
「誰も見えないので云うのだが。 昨夜の襲撃をした首謀者は、解ったかのぉ」
マントのフードを後ろに外したセイル。
「さぁ。 解ったら大変なんじゃないですか? それこそ、お城の中で悶着起こりますね~」
と。
アンソニーは、浮かない顔のままに。
「解らなくてもいいさ。 あの重要な証などが、悪用の手を免れてくれれば、それでな」
だが。 セイルは、それには異論を問う。
「王位交代前で、王家と権力層の誰かとの遺恨を残すのは、いい事では有りませんよ。 放って於ける様な事ならいいですが、王子の証を手に入れようとするなんて、かなりの計画性有っての事でしょう。 第二王子のリオンなら、真っ直ぐの一本木だからいいですけどね~。 長男の人は、優し過ぎて流されるみたいですから。 遺恨を残して放ったらかしだと、後々が危ないですよ」
アンソニーは、セイルの言い方を聞くに。 どうやら第二王子のリオンと云う人物を、随分知っている様な素振りなので。
「セイル君は、あのリオンと云う御仁を知っているのかな?」
と、尋ねてみた。 自分の自殺を止めた男であり。 今は、この国の全軍を率いる近衛騎士団団長でもある。 剣の技量は、確かに凄い天賦の才に恵まれていると思えた。
さめざめしい森を北に向かう中。 珍しく精霊を肩に乗せていないユリアが、セイルに顔を向けてこう言った。
「お父さん同士の関係からね。 セイルとリオン王子は、かなり幼い頃からの付き合いよ。 リオン王子って、剣の師のテトロザってオジサンと、良くセイルの所に遊びに来てたわ。 王宮暮らしが好かないみたいで、剣術道場に朝から晩まで出ずっぱりだったりしてたよね」
セイルは、もう辺りの気配を感じる事で、ニコニコ顔では無く微笑み顔。
「だね。 リオンは、飛び出す性格だから、凄くやんちゃしてたましたよ。 何度か、ならずの冒険者と喧嘩したし。 一人でモンスターと戦おうとして、御付の人とか大騒ぎさせたしね。 勝手に冒険者のチームに加わって、モンスター退治して。 怪我した仲間を馬に乗せて、斡旋所に帰って来たって事も有ったです」
アンソニーは、自分の見たリオンはもっと大人びていたので。
「なるほど、随分と成長したのだな」
しかし、だ。 セイルはそれ以上は言わなかったが。 今回の一件は、穏便に済む事では無いと読んでいる。
何故なら・・・。
昨夜の夜中。 あのハレンツァに論破されたヘンダーソンが言っていた。 クランベルナード王は、親類の危篤に王城を空けていると・・。 つまり、今の王政府は、留守を預かる王子達が王の代わりで仕切っている。
ハレンツァは、王の帰還まで証を持ち隠す様な危険を冒さないだろうと思える。 最も安全な事を考えるなら、密かにリオンに証を委ねるのが当然だろう。 審議の沙汰は、有耶無耶にして。 もし証を持っているとしたら、自分達かハレンツァのいずれかと、昨夜にヘンダーソンなどに思わせたからだ。
実際。 ハレンツァは、確かにその通りにしたのだ。 曲者共を取り調べ。 セイルと戦った曲者以外は、金で雇われたゴロツキだと解ると、後の調べを騎士に任せ。 自身で何かの手配をする素振りで、休んでいるリオンの元を密かに訪れた。 そして、全ての事情を話して、屋敷から持ち帰った重要物件を渡したのである。
リオンと云う人物は、真っ直ぐで正義感の強い男だ。 何より、王家を揺らがす様な事は毛嫌いする方で、“王に成るのは兄。 俺は、王家の盾に成る”と、ハレンツァと似た意思を持っている。 王家の証を悪用しようとする誰かが居れば、それを根絶しようと動く性格だ。
(多分、誰かが犠牲に成る)
もう昨日の一件は任せて安穏として前だけ見てるユリアの横で、セイルはそれを薄らと予期した。 だが、何が起きるかは解らない。 セイルは、何が起こっても不思議は無いと思った。
さて。
墓地の森の奥から北の塀に沿って、東に移動しようとするセイル達。 聖なる結界を張る聖騎士の一団に出会うぐらいで、モンスターに遭う事も無く。 北の壁沿いまで辿り着けた。 そこから、壁に沿って東に移動し始めると・・。 なんと北側の壁が、部分部分で崩壊していた。 湖の方角に向かう森と繋がっていたのである。
壁を越えて森に入ったユリアは、瞬時に身体へと伝わる感覚に驚いた。
「大変っ!! この森・・魔の力で魔域に変わろうとしてる。 セイルっ、真東に凄いヘイトスポットの波動を感じるよ。 目茶苦茶デッカい・・・闇と魔の混じる蟠りが有るっ!!」
セイルやアンソニーは、ユリア以上に顔を青褪めさせる。
「セイル君っ。 この波動は、死霊か亡霊モンスターの強者の波動だ。 墓地のヘイトスポットや結界に隠れて、こっちの森の中からの波動が感じられなかったんだ」
苦い表情のセイルも。
「ホントですね。 しかし、なんて毒々しい瘴気を纏った波動だか・・」
焦るクラークは、セイルに寄り。
「セイル殿。 如何致すのだ?」
セイルは、森の前方を見渡し。
「とにかく、此処から近くを駈けずり回って、モンスターの討伐をしましょう。 ヘイトスポットの浄化は、僧侶さんが居ないと無理ですし。 我々が行った処で、ヘイトスポットが成長していたら、全く手出しが出来ません」
ユリアは、セイルに。
「んでっ? なんでモンスターの討伐すんのよ。 聖騎士様でも呼びに行こうよっ!」
「ユリアちゃん。 多分、あの波動の中心にいるモンスターなら、即死の魔法とか楽勝だよ。 普通のモンスターに手間取る聖騎士様じゃ、死んじゃうよ」
「ならっ、ど~すんのよっ!!」
「落ち着いて。 ポリアさん達に、あの本体は任せよう。 それより、余計なモンスターを排除して、聖なる結界の領域で、あのヘイトスポットを包囲したほうが安全だよ」
クラークは、その意味が解る。
「おおっ、なるほど。 結界でヘイトスポットを囲んで、モンスターを孤立化させようと云う訳ですな」
「はい。 モンスターの絶対数が多い中で、迂闊に親玉を叩きに向かえば。 辺りから助けを呼ばれて挟み撃ちされるのは、目に見えてます。 我々は、明日にはこの王都を去らなければなりません。 最も短時間でお役に立てる事は、モンスターの絶対数を減らして、討伐作戦を推し進める事ですよ」
ユリアは、戦力として幅の狭いチーム事情を理解した。
「解ったわ。 でも、呼び出せる精霊は限られるよ」
頷くセイルは、アンソニーに。
「アンソニー様。 途中で逢った聖騎士様の一団を呼んで来て下さい。 アンソニー様が戻ったら、僕とクラークさんが、モンスターに積極的に向かいますから。 ユリアちゃんの守りを頼みます」
アンソニーは、モンスター故に対不死モンスターでは、最も不利な自分を考えてのセイルの指図だと理解している。
「解った。 ユリア殿の護りは、任せて貰おう」
その時。 ユリアは、背後の崩れた壁の向こうから、聖なる力を感じる。 神聖な力とは、精霊力云うなれば“光”と同じ性質なのだ。
「壁の向こうで、結界が張られたわ」
セイルとアンソニーが見合って頷き合った。 結界を張りながら移動する聖騎士の隊が、この間近に居る証だ。
踵を返すアンソニーを、見るセイル達。
其処でだ。 ユリアの肩に光が鈍く輝いた。
「え゛っ?!!」
俄かに驚いたのは、ユリアである。 パッと自分の右肩を見た。
「・・・」
光を感じて見たクラークは、ユリアの肩に現れた光る何かを見て言葉を失う。 純白の光を放つ百合の花の中に、小人の様な少女が佇んでいた。
セイルも、その現れた精霊に目をパチパチさせて。
「セーラ・シェリール・・・。 出て来ちゃった」
と、呟く。
ユリアは、丸でか弱い病人に話し掛ける様な様子で、光る少女に声を掛ける。
「セラちゃん、無理しなくていいよ。 ・・・闇や魔の波動が強いんだから、出て来たら衰弱しちゃうよ。 ね?」
だが、おかっぱ頭で純白の光に包まれる少女は、ニコやかに微笑んで。
「ユリア、大丈夫よ。 近くで神聖魔法の波動がしてるもの。 此処なら手助けが出来るわ。 今まで出て来れなかったから、陽が落ちるまで頑張る」
「セラちゃん・・」
ユリアは、光の少女に労わりの視線を向ける。
クラークは、セイルに耳打ちで。
(セイル殿、あの少女も精霊ですな)
セイルは、周りにジリジリ忍び寄るモンスターの気配を感じ、真剣な顔に変わりつつ。
(はい。 あの精霊は、魔法の本に封印されていた古い古い下級精霊です。 恐らく、あの精霊を呼び出す呪言は、今は無いかも知れません。 ユリアちゃんが子供の頃に、我が家の宝物庫に仕舞われていた魔道書より封印を解き。 共に生きるのを約束した、契約の友達精霊なんです)
(ででで・・ではっ、あの精霊以外に同じ精霊は居ないと申すのですか? ユリア殿のみが力を借りられる精霊・・・)
(ええ。 光の精霊は、確認されている種類が少なく。 あの精霊は、唯一無二の存在。 ユリアちゃんと生きれば、存在が知られて新たに生まれる可能性は有りますが・・・。 でも、あの精霊は非常に不安定ながら、他の下位精霊とは異なる強い力を持っています。 精霊の中では、精霊神にまで成長出来なかった古代精霊みたいなんで。 下手な下位精霊など、問題に成らない精霊力ですよ)
(ほほぉ・・。 なんか凄いですな)
(ですが、ネックも有りましてね。 闇の力との摩擦をモロに受ける様で、呼び出せる場所が限定されるんですよ)
クラークは、此処では危ないと理解出来る。
(此処では、存在するだけで大変そうな・・・)
セイルは、ユリアと精霊の絆の強さの現われだと語った。
セイル達が、森から現れるモンスターを迎え撃つ準備を始める頃。
ポリア達は、最も墓地の東側の壁に近付いていた。 変化したヘイトスポットを、一つ一つ浄化しながらの進行だが。 その間近には、別の寄せ集め合同チームが居る。
墓地全域の浄化は、昼過ぎで終わった。
だが、墓地の壁端まで来て、やっと最も大きなヘイトスポットの存在を知る事に成る。 墓地を封印する結界に阻まれ、その気配を感じる事が出来なかったのだ。 セイル達同様、壁の崩壊した場所から湖へ伸びる森の中に踏み込む時、マルヴェリータやシスティアナなどがその存在を感じて、瞬時に悲鳴を上げた。
「ポっポリアぁぁっ!!!」
驚きヒステリックな悲鳴を上げるマルヴェリータに、サーウェルスのチームの面々ですら驚いた。 無論、サーウェルスのチームに居る司祭オリビアや、魔想魔法遣いデルも感じている。 墓地の浄化を終えたイデオローザ隊も森に出てきて、あまりの強い波動に愕然として、地面に屈み込んだ程の物だ。
ポリアは、セイルと同じ考えを持った。 モンスターがこっちの森にも蔓延っているのは、マルヴェリータやシスティアナが教えてくれる。 本体に突入する前に、ヘイトスポットからモンスターが出て行けない状態を作りたいと思ったのだ。
ポリアは、イデオローザへ、墓地の外の森まで討伐作戦の展開を打診して於き。 サーウェルスのチームや寄せ集めの合同チームと一緒に、こっちの森のモンスター掃討に動き出した。
無駄な論議をする余裕は無いと思ったイデオローザは、直ちに動いた。 聖騎士隊を各冒険者チームと組ませて、最大のヘイトスポットを結界で包んで、孤立化させようと作戦を立てた。 他の聖騎士達も、この状況で冒険者達と組む事が嫌だと云う無駄なプライドを主張するのは、得策では無いのは理解している。 誰も死にたくは無いので、その伝令には各隊が従った。
死霊や亡霊モンスターの数は、討伐作戦の経過で一気に減った。 だが、霜と雪で凍える森の中には、自然地下洞窟が彼方此方に風穴や氷穴を生み出していて。 其処が全身を凍らせた肉食の大型ワームを始めに、スライム系モンスターの棲家に成っていた様だ。 代わって、森に目を向けると。 昆虫系や怪鳥系などのモンスターが、今や森全体に巣食っていた。
“ギャーギャー”
けたたましい赤ん坊の様な怪音を上げる怪鳥ジャルダージュと云うハゲワシを、飛び上がって斬り倒したポリアは、木々の枝に逃げた他のジャルダージュを睨みながら。
「通りでっ!! 最近、湖を通る船が、突然モンスターに襲われる被害とか多発してるって・・。 これが原因ねっ?!!」
猟師・漁師が、森や湖で忽然と行方不明に成っただの。 霧の中で貨物船が夥しい血痕を残して、無人と成った事件など有ったが。 その理由が解った。 これだけモンスターが繁殖していれば、被害が出て当然だった。
ゲイラーは、ヘルダーと二人で、長さ20メートルを超える大蛇をぶつ切りにし終えて。
「王都でこのモンスターの量は、在り得ね~だろう? 良く王都の方に出て行かなかったモンだぜ」
「・・・」
頷くヘルダーも、顔中にモンスターの返り血を飛沫かせていた。 彼の得物である鉄の扇二振りが、刃毀れするほどモンスターと戦っているのだ。
「むんっ、うぬぬぬ・・・」
この時イルガは、肉食の類人猿モンスター“イエローデビル”に突き込んだ槍を掴まれて、一進一退の押し合いをしている。
其処へ、サーウェルスのチームで、大戦斧遣いの戦士ダイクスが殴り込んで来た。
「うぉらあああああっ!!!!」
背後から、大きな斧の一撃を喰らった二足歩行の猿モンスター“イエローデビル”は、真っ二つと為って瞬時に絶命する。
「助かったっ」
云うイルガに対し。 ダイクスは大らかに笑い返して、次のモンスターに指を指す。
「うむ」
イルガは、森の枝の下に降りて来た怪鳥ジャルダージュへ、突撃の構えを取った。 長い柄の槍は、空を低空で飛空するモンスターを突くのに最適。 デルとマルヴェリータは、イルガの攻撃でよろめいたジャルダージュや鮫鷹と呼ばれるモンスターを、魔法で次々と打ち落とす。 ダイクスは、落ちたモンスターへ止めを刺して回った。
サーウェルスのチームに居る剣士オリバーと云う中年紳士は、整えられた口髭にシルクハットを被る気取った男。 だが、オリビアとシスティアナを護りながら、モンスターへと変貌したモグラの“ショベルシーカー”を何体も倒している。 モグラ特有の土の盛り上がりが目立つ所に、狼の如く大きなモグラが死体を晒していた。
サーウェルスは、“ムーンスラッシャー”と云う変わったブーメランを扱う女学者ミュウと。 勝気な印象を受ける姐御肌っぽい美人のアリューファの三人で、森の中から出て来るモンスターを次々と死体に変貌させる。 イエローデビルを撫で斬りにして、ミュウの打ち落とした鮫鷹を真っ二つにし。 更には、細剣の使い手であるアリューファが手傷を負わせた肉食ワームへ飛び掛り、首の辺りから刎ね飛ばす。 サーウェルスの両親がこの国の出身なのだ。 親類も住む王都に、モンスターの脅威を残すなど在り得ない。
「ミュウっ、上に新手だっ!! アリューファ、前の風穴から唸り声がする。 デルかマルヴェリータさんを呼んでくれ。 突入するぞっ!」
応援に来たのは、デルとマルヴェリータの二人。 ミュウの加勢にマルヴェリータが付き。 風穴への突入には、デルが従う。 2年前に助けられた時には、インテリ然としたお坊ちゃんみたいなデルモンド=通称デルは、男らしさを顔に滲ませる30前後の人物へと成長していた。
一方。 ポリアへの応援に、イルガとダイクスが向かった。
ポリアは、イエローデビル3体と、吸血蟷螂のブラッドトルーパー2体に囲まれていた。 人間の10歳ぐらいの子供と似た大きさを持つブラッドトルーパーは、蚊の口の様に管へと変化した部分で、狙った獲物の血を吸い尽くす昆虫モンスターだ。 鋭い鎌の両手は、人の首など簡単に切断する。 しかも、面倒な事に数体で常に群れる。
「お嬢様っ、ご無事ですかっ?!!」
「ポリアっ、応援に来たぞっ!」
ポリアは、イルガとダイクスの声を聞き。
「ありがとう。 一気にカタ付けるわよっ」
と、自身の剣を地面に刺す。
イルガは、それを見て。
(お遣り為さる)
と、看破。 直ぐにダイクスへ。
「ダイクス殿、お嬢様が敵を蹴散らします故。 一気に止めを行きますぞ」
ダイクスは、ポリアが剣の柄を両手の掌で挟む様にしたのを見て、目を見張った。
ポリアに向かってモンスターが四方から襲い掛かる時、ポリアは蒼く輝くオーラを身に纏い。 目をカァっと開かせると。
「風よっ、吹き上げてっ!!」
その裂帛した声と共に、剣から強烈な突風が噴火する様に四方へ吹き上げた。
「うおっ」
ダイクスの目の前で、ポリアに襲い掛かったモンスターが風に押し飛ばされる。
イルガは、槍を構えて。
「今ですぞっ!!」
と、間近のイエローデビルに突撃した。
「おうっ、おおっ!!」
応えて、走り出すダイクス。
ポリアは、直ぐに剣を引き抜いては、樹木の幹に飛ばされてぶつかったブラッドトルーパーへ走り出す。
協力し合うポリア達は、モンスターにヤられる隙は無かった。
さて。 その同じ頃。 セイル達に襲い掛かろうと、森を移動するモンスター達。 これを駆逐して回っているチームが居た。 ステュアート達のチームだ。
Kが間借りするように数ヶ月一緒に居たチームなのは、前にも書いたが。 仕事をこなしながら、北の大陸を縦横に移動できる冒険者チームに成り上がったステュアート達。 鎖鎌を扱うリーダーのステュアート。 魔法の掛かった矢を、特殊銃で撃つエンチャンターのセシル。 青のエルレーンと異名を取る剣士エルレーン。 男性が一度見たら忘れない巨乳の美人僧侶アンジェラ。 そして、禿げ頭ながら、自然魔法を扱わせたら世界でも指折りと云われ始めたオーファー。
彼らは、ポリア達が戦う大きなヘイトスポットの区域より更に手前で、北にの森へ抜け出た。 水生モンスターやスライムなどの、倒すのに面倒なモンスターを重点的に引き受けたのだ。 初老の聖騎士が率いる隊と協力しつつ、この場から結界化を試みている。
「アタイの弾丸、受けてみなっ!!」
黒いラバースーツの上着が、背中だけコートの様に長く。 極短いスカートから伸びる肢体が細めに見える女性が吼えた。 両手で抱える様な銃を構えて、紅くゼリー状の体内に動物の骨を残すスライムに狙いを定める。 その女性の顔は、14・5歳の少女の様な感じなのに、チョット長めに伸びた八重歯や鋭い目つきは、小悪魔的な性的魅惑を兼ね備える。 エンチャンターと云う、特殊な魔法遣いの部類に入る技術を扱うセシルだ。 銃のトリガーを引けば、青いオーラに包まれた鉄のニードルが飛んで行く。 紅いスライムの体内に浮かぶ核を、見事に打ち抜いて倒す。
「ナイス、セシル」
と、ステュアートが声掛ける。 Kと一緒の頃に比べると、随分青年らしく大人びたステュアート。 鎖鎌の鎖で、ブラッドトルーパーの足を絡め取っている。
「そりゃっ」
弛みを一瞬作り、直ぐに鎖を引き捻ってブラッドトルーパーのバランスを崩す。 其処へ、脇から走り込んで行ったエルレーンが、ブラッドトルーパーの首を刎ねた。
禿げ頭の自然魔法遣いオーファーは、アンジェラを護りながら森の木々の隙間から空を見上げる。 奇怪な声を上げ、怪鳥モンスターがこちらの隙を窺っていた。
「よし。 自然の大気よ、気候の恩恵を我に。 願わくば、我が敵の全てを凍る世界へ。 “アイスシュリーマー”」
詠唱に集中したオーファーが、杖を天に向けると・・。 空を飛行してセシルやステュアートなどを狙う怪鳥達に、突如異変が起こる。 瞬時に、羽が凍結し出したのだ。
「まぁ」
見ていた美女アンジェラは、初めて見る魔法に驚く。
体中が凍ってしまった怪鳥モンスターは、翼を砕いて次々と落下。 硬い木々や地面からむき出す岩にぶつかると、木っ端微塵に砕け。 地面に落ちた物は、全身に皹の様な亀裂を生じさせながら突き刺さる。
エルレーンは、何十匹ものジャルダージュや鮫鷹を撃ち落したオーファーを絶賛。
「オーファーっ、今日は凄いじゃん。 エロ禿げだけが能じゃないね」
微妙に褒められたオーファーは、まんざらでも無い表情で。
「今の極寒地でしか出来ない魔法だ。 自然に畏敬の念を捧げなさい。 ついでに、奢れ」
と、杖を構えて次のモンスターに備える。
そして、最後にセイル達だ。
今日は、ユリアが燃えていた。 光の精霊“セーラ・シェリール”が、無理して出て来た事が元で、何時もに増してマジに成る。 風の精霊である“テング”を呼び出し、精霊遣いの異能を遣う気だった。
森の中より、セイル達を狙って這い出て来たナメクジや、カタツムリのモンスター。 それに加えて、森側に徘徊していたゴーストやスケルトンなども、一緒に現れる。
ユリアは、セイルに。
「セ~イル、明日はアタシを負ぶってね」
セイルは、ユリアが何をするのか解った。 だから、
「クラークさん、下がって」
クラークは、ユリアを前に押し出すセイルにビックリして。
「セっ・セイル殿っ」
下がるセイルは、剣を抜いて。
「ユリアちゃんの魔法の邪魔になります。 魔法が終わったら、一気に突撃しますよ」
クラークは、ハッとして下がる。
ユリアは、モンスターとの間に誰も居なくなると、サッと杖を構え。
「風の精霊テングさん、風の飛礫を生み出してっ」
ユリアの左肩に立つテングは、ヤツデの葉っぱを靡かせて。
「おいさ。 風の飛礫、御廉い御用」
ユリアの数歩前の宙に風が巻き上がり、小石程の風の集まりが無数に生まれる。 ユリアは、右肩の光の少女を見ると。
「セラちゃん、いっくよぉ~っ」
「はいな」
光の精霊は、ユリアの元気な声に微笑んで祈る。 すると・・・。
「うお・・、こっ・コレは?」
クラークは、目の前で起こった事に驚いた。 突然に、風の飛礫が淡く白い光を孕むのだ。 無数に出来上がった風の飛礫が、それぞれに光り出す。 ホタルが光を点灯させる様に、風の飛礫が淡く白い光を点滅させる。 その光の届く所まで踏み込んできたスケルトンが、光の点滅を感じると・・進行を止めたではないか。
(戸惑って・・いるのか?)
ギザギザした歯を剥き出しにしているカタツムリが、光に反応してだろうか。 身の丈2メートルを超える身体を、巻貝の様な殻の中に戻そうとする。 モンスターは、明らかにユリアの魔法に怯えていた。
ユリアは、杖を大きく後ろに引くと・・・。
「今日はガンガン行くからねっ。 いっけえぇーーっ!!!」
と、杖を振り込んだ。
光を孕んだ風の飛礫は、瞬く間のスピードでモンスターに襲い掛かる。 最も先頭に居たスケルトンは、その飛礫が全身を貫く通過だけで瞬時に塵と崩れる。 その後ろに迫ったカタツムリやスライムなども、飛礫をモロに喰らう。 ぶつかる瞬間に光って弾ける飛礫は、モンスターを倒すのに威力十分だった。
クラークは、自分とセイルが突撃する間も無く、最初のモンスターが退治されたのをただ見ていた・・。
≪新たなる交わり≫
激戦の二日目が、夜に為った。 セイルの想像は、大まか当たっていた。 異常に成長している最もデカく強いヘイトスポットは、明日に浄化を試みる事になって。 その周囲の森のモンスター討伐と、聖なる結界化を施した一日だった。
斡旋所は、夕方前から次々と戻ってくるチーム達と。 その情報を聞きたがって待っていた、棄権組が話し合って煩い喧騒状態である。 夕方、外が真っ暗に成る頃には、もうワイワイガヤガヤと煩く。 カウンター前の広間が冒険者だらけとなり。 何時ものこの頃の斡旋所ではなかった。
噂のネタは、異常にモンスターを駆逐した5チームの事。 最初に話題と為ったのは、イクシオとカミーラのチームの活躍だ。 怪我をしたエルキュールなどの代わりに気合いを吐いたのは、協力で加わったマガルやダッカ達。 怪我した冒険者達を助けながら、モンスターを掃討しているのが印象に残ったのだろう。
その次に話題に上がったのは、ステュアート達のチームだ。 異色な武器を扱うセシルを始めとして、モンスターの討伐を飛び入りで受けながら。 一線級で活躍したのが、随分と印象に残ったのだと思われる。
その次が、セイル達。 光の精霊の助力を得たユリアの魔法の強力さには、聖騎士なども唖然とさせる程。 後から追い付き加勢した冒険者達は、クラークを筆頭に、セイルとアンソニーの素早い戦いぶりに目を奪われた。 特に、セイルが少しだけ遣った魔法剣を見た者は、驚愕の一言である。
そして、世界に名を馳せるチーム15指に入るポリア達とサーウェルス達の二チームは、語り草に成りそうな褒め称え様で話題に上っている。 倒したモンスターだけでも、300は超える上。 ヘイトスポットを15箇所は浄化して回った。 その様子を所々で見られているから、騒がれるのも当然だった。
最初に斡旋所へ戻って来たのは、セイル達。 ユリアが陽が暮れる頃にはヘバっていたし、アンソニーも無理して両手を干からびさせてしまった。 明日からは護衛も在る為、早めに戻ったのである。 セイルに背負われて戻ったユリアは、直ぐに寝かされたベットで懇々と眠りに堕ちてしまった。
セイルは、クラークと二人で煩く絡まれるのを嫌がって、外に食事に出る。 ユリアに、何か持ち帰りの出来る物を買う気で在った。
アンソニーは、あの女性僧侶に捕まった。 これ以上生気を吸えば、女性僧侶とてまだ20代の若さでも、疲労で1日・2日ぐらい起き上がれなくなる。 別のチームに属している彼女だ、心配するアンソニーだが。 今夜が別れと知っている愛に燃えた女が、命どうこうでビビるものでも無い。 結局、部屋に二人で消えた。
さて、真っ暗に成った頃に戻って来たのが、イクシオ達とマガルとカミーラ達の協力チーム。 流石にチーム内で怪我人も多く出た様だ。 マガルやカミーラなども軽傷を受け、セレイドは骨折もしたらしい。 仲間の為に限界まで魔法を使ったキーラは、エルザと怪我人のエルキュールに肩を借り。 モルカは、ダッカの背に背負われて戻った。
イクシオは、チームとして明日の最後の作戦に参加するのは、見送る事を決める。 行くと決めたカミーラに、まだ動けるイクシオとエルザとボンドスだけが協力すると決めた。
次に戻ったのは、ステュアート達。 怪我の目立つ者は居ないが。 エルレーンやステュアートなどは顔・腕などに薄い傷を作っていた。
最後に戻ったのは、ポリアとサーウェルスのチーム。 ポリアが戻って来る途中で、なんと様子を見に来ていたリオンに噛み付いたので、此処まで遅くなった。
“話と全然違うじゃないっ!!! こんな状況放って於くなんて、王家は一体何考えてた訳っ?!! 明日は、アタシ達の屍晒すのも視野に入れて於きなさい。 あんなに成長したヘイトスポット、初めて見たわっ”
若い頃から、時折一緒に剣の稽古をしていて。 しかも自分の父親が是非に養女にしたいと零していたポリアに怒られては、リオンも後味が悪い。
「だから俺も行きたいんだが・・、父が危篤の親類を看に行って戻らない。 とにかく、墓地の事を調べる。 明日の朝までに解るなら、手配する」
ポリアは、リオンが密かに冒険者をやっている事は、十分に知っているのに青筋を浮かべて睨み。
「これで報酬がチンケだったら、城に怒鳴り込むかんね。 アタシやサーウェルスの処だけ値上げなんて、情っけ無いケチしないでよ。 み~んな命張ってるんだからね」
後頭部を掻くリオンは、ポリアには弱い姿勢で。
「解った解った、財務大臣に掛け合うよ。 墓地の中が凄い事に為ってるのは、もう噂で広まってるしな」
天下に剣の腕で名前を轟かすリオンを、強気で怒るポリアの姿。 仲間やサーウェルスのチームでも、呆れ笑いを生む。 イルガは、疲れた上に王子に恥を掻かせたと思って、苦い顔しか出来なかった。
ポリア達までが斡旋所に戻った時点で、斡旋所の主は皆に伝えた。
「みんな、聞いてくれ。 明日は、かなり危険なモンスターが相手だ。 だから、今回の掃討作戦に明日まで参加するなら、十分に気をつけてくれ。 今日で駄目でも、報酬は満額払う。 良く話し合って、明日に望んで欲しい」
初日で半減した参加チーム。 今日で、初日の5分の1までに減った。 だが、墓地の浄化は終わり、最初の契約は達成されている。 だがら、今日まで参加したチームは、棄権扱いでは無く。 成功扱いと見做された。
さて、この夜。
疲れても、食事だけしに出ようとしていたポリア達。 サーウェルスとオリビアは、二人でまだ2歳の子供と食事に行くと言い。 皆とは別れる。 逆に、ダイクス達は、酒を理由にイクシオやエルザなどを誘って来た。 あのKと関った面々が集まって、飲み食いに出ようとした時。
「あの、ポリアさん」
斡旋所の出入り口で、声が掛かった。
「ん、誰?」
ポリアが応えて声の方を見ると。 其処には、バンダナを巻いた褐色の肌をした青年を始め、彼の仲間らしい冒険者達が居る。
ポリアは、名前だけ聞いているチームなだけに。
「あ、コスモラファイアの皆さんね。 今日は、お疲れ様」
そう、声を掛けたのはステュアート達だった。
セシルは、軽い目礼の後に。 ググッとポリアににじり寄って、マジマジとポリアの顔を見る。
「えっ、あああ・・・・あの」
意味が解らずに、驚くポリア。 マルヴェリータなどは疲れも在るから、セシルの態度にいい思いはしない。
だが、セシルは、ステュアートの方に向き。
「やっぱり、ケイの言ってた通りの人だわ。 スンゴイ美人」
「っ?!!!!!!!」
驚いたのは、ポリア達。 “K”の名前を口走る事が、なによりの驚きだった。
ステュアートは、呆れた顔でセシルを見返し。
「セシル、失礼だよ。 ケイさんの事聞こうとしてるんだから」
Kを知らないエルザは、何の事かとキョトンとするし。 唖然としたイルガ達。 ポリアは、ステュアートとセシルを交互に見て。
「ケイを・・知ってるの?」
ステュアートは、頷いた。
雪がチラつき始めた街中。 ポリアは、知り合いの高級レストランに全員を誘った。 全員で18人と為ったので、普通の店ではバラけるし迷惑に為ると考えたのだ。
落ち着いた感じの広い個室を借りたポリアは、ステュアート達を円卓の同じ席に迎えて話を聞いた。 ステュアート達も、別のKの話が聞きたかったらしい。 自己紹介などをしながら、チームが混ざって話をした。
ポリア達は、Kと別れた後にもう一度再開したものの。 ゆっくり世間話をする余裕も無く、また別れたのだ。 ステュアート達の話すKの事は、初耳だった。
逆に凄腕の冒険者と、Kの事を理解していたステュアート達だが。 ポリア達の話を聞いて、Kの凄さを再認識した。
特にポリアとしては、ジュリアとの一件で見せたKの姿は、確かに男としてのKが滲む。 ポリアは女として、そのジュリアと云う騎士が羨ましく思えた。
どうも、騎龍です^^
内容をどうするかで、3パターン程書いて迷って更新が・・・^^: 遅れました:>: 今回のお話は、ちと長くなると思いますが、宜しくお付き合い下さい^人^
ご愛読、ありがとう御座います^人^