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エターナル・ワールド・ストーリー  作者: 蒼雲騎龍
K編
51/222

二人の紡ぐ物語~セイルとユリアの冒険~2

                セイルとユリアの大冒険 2





                     ≪回収作業≫




「オーロテム・・・グラトルナ・・」


暗い石壁に挟まれた石階段の踊り場。 黒い鉄の扉の前にて、アンソニーが魔法の詠唱を行っていた。 


(セイル、此処って・・塔みたいだね)


(だね)


とぐろを巻く様に螺旋階段が取り巻く中。 上下各階に、部屋が有る。 アンソニーが眠っていたのは、最下層の地下8階。 この宝物庫は、その一つ上に当たり。 かなり深い地下であった。


アンソニーの魔法の詠唱が終わる時、アンソニーの目が黒い炎の様なオーラを光らせる。 見ていた兵士達が、異形の者を見たと怯えた。 魔法の詠唱が終わると、宝物庫を閉じていた鉄の扉が消えてゆく。 そして、部屋の中には、物が所狭しと置かれた黒いシルエットが見えた。 アンソニーは、指輪に宿した光を向けると・・。


「わっ」


兵士の一人が驚く。 黄金で作られた装飾宝剣の類の物を見つけて、その目が欲望の色に変わる。 金で作られた柄に、幾つも填め込まれた宝石の様な石。 鞘も、炎の鳳を描いた素晴らしい装飾が施されている。


ハレンツァは、中に一歩踏み込み。


「これは、流石に」


と、感嘆の一言。


扉の外から中を覗くユリアは、


「ふぅあ~、絵とか壷とか一杯あるぅ~」


と、宝を初めて見た感想を表現した。


アンソニーは、ユリアに微笑み向いて。


「これらは全て、古い古美術品だ。 金や宝石は少ないが、私が生きていた当時の物だから、価値はそれなりに有ると思う。 中には、王国から賜った軍服や宝剣も有るから、運び出すのも少し仕分けしないと」


セイルと並んで見るクラークは、売って見た事を妄想し。


「この狭い部屋一つの物でも、売れば一生楽に暮らせましょうな」


脇のセイルも。


「デスね」


と、同意。


200年以上の時を経て、封じられていた扉が開かれた。 宝物庫の中に明かりが入れられ、アンソニーとユリアが一緒に仕分けをして。 セイルやクラークと兵士達が運ぶ。 ハレンツァは、宝物が納められた木箱を改めて、個数と中の物を品書きする。 紛失を恐れてだろう。


この屋敷内に隠された塔の部分の別の出入り口をアンソニーガ開いた事で、馬車への運び出しは夕方頃には終わった。 積み込みを終えて外に出ると、霧が晴れて、すっかり暗くなった空が見えていた。


「では、夜まで休もうか」


アンソニーは、ハレンツァに伝える。


「はっ」


兵士達は、アンソニーを“王子”だの云って、臣下の態度を示すハレンツァが良く解らなかった。 今の時代にアンソニーの事を理解出来るのは、一部の人間だけだろう。 訝しげな表情で、ハレンツァの指示を受ける兵士が火を熾し始める。


さて。 クラークとユリアが並んで、アンソニーと共に休む用意をするのに対して。 セイルは何故か、ハレンツァの元に。 そして、彼の手を触る。


「?」


ハレンツァは、触られた事に気づいてセイルを見る。


「・・・」


セイルは、態との様に馬車の後方に向かう素振りでハレンツァを見た。


(何か?)


一目で何か用事が有るのだと解る。 頷いたハレンツァは、セイルの脇に着いた。


ユリアとクラークが相手で、アンソニーと腰を下ろして雑談をし始める。 その姿を馬車の後ろから見ているセイルは、小声でハレンツァに。


(昨日の夜からですが。 何者かが我々を尾行してます)


(なっ、本当か?)


(はい。 気配が凄く少ないので、もしかしたら玄人(本業者)かも・・・)


(何故に、尾行が・・・)


ハレンツァは、王の命で昨夜にこの命令を受けた。 今日に選んだ兵士は、王の云い付け通りに、朝方に兵舎へ登庁してきた兵士を無作為に選んだのだ。 その事をセイルに告げると。


(ん~、王城を出た後に、気配を一度感じて・・・。 後は、外で夕食を頂いて戻った時に、また。 今日の朝は、斡旋所を出る時と、この封鎖区域に入る門の前です)


(それでは、君達の行動が筒抜けではないか)


(えぇ。 考えるに、誰かが手引きしているような・・・)


(うむ・・・)


考えてしまうハレンツァに、セイルは。


(とにかく、あの荷物をしっかり管理して下さい。 我々があの荷物を護衛するのは、明後日の朝。 それまで、誰にも触れさせない様にお願い致します)


セイルの心配は、アンソニーの持ち出した王家所縁の品だ。 王子の証の宝剣や、軍を動かせる指揮権の証まで有った。 これが紛失すれば、面倒な事になる。 偽物では無いから、本当に困るのだ。 ハレンツァも確かめたが。 今の軍を動かせる最高指揮権を持つリオン王子が持つ証と、全く同じ物。 もし、これが他国にでも渡れば、悪用も選べる。 売る方とて、相当な額の金を手に入れる事に成るだろう。


何故にセイルがこうも心配するのかは、後々で書くが。 王家の者が有する権力は強く、そして与えられた権限の代わりと成る証は、大昔から諍いの元にでも成るのだ。 アンソニーの持つ様々な証は、今まではモンスターと封印によって護られて来たが。 モンスターが退治されれば、人の出入りが可能と成る。 そうなれば、土地の由来を知る少ない権力者は、利用を考える可能性も出て来る。 


長く政務に携わって来たハレンツァとて、何度か語られぬ危機に直面した事も在るだろう。 だからか。


(セイル殿。 では、証などは・・直接王に変換しては如何か?)


(はい、その予定です。 ですが、直接王様に始末を・・願い出た方がイイと思います。 昨夜、アンソニー様も同じ事を仰ってましたし、秘密裏にやってしまって構わないかと)


(うむ。 だが、問題は持ち帰った時だな)


(どうしてですか?)


(あ、いやな。 私に持ち帰る品の目録を依頼したのは、王御付きの用人で、侯爵のヘンダーソン殿だ。 彼には、この馬車ごと全てを預けねばなるまい)


(預けるんですか?)


(うむ。 王から管理を仰せ付かったのは、彼だからな)


セイルは、王以外の誰かが間に入る事に胸騒ぎを覚えた。


一方のハレンツァも、こんな話が出て来た事で心配を募らせ始める。


(実は、セイル殿)


(えっ? あ・・はい。 何でしょう)


(王の元に、早くも封鎖地区の奥に見回りを進言した者が居ると聞いた。 王がおいそれと名前を言わなかったのも、それなりの地位に居る誰かだと思う。 数年後には、王が王子に王位交代を言い渡すそうでな。 今や、王城の中で新たな勢力争いが始まっている。 王子に親密な一派と、取り入ろうと動く一波の讒言が、水面下で国王と王子に向けて起こり始めて居るらしい。 何より第一王子様より、世間では剣に誉れる第二王子のリオン様が王に相応しいと・・王に進言する輩も居るとか)


(面倒なお話ですね~)


(うむ。 セイル殿の様なまだ若き者に愚痴るのも何だが、貴族の権力欲は恐ろしい。 私とて今の地位を維持するのに、情けない話だが付き合いは外せぬ。 今年の春先には、国を揺るがしかねない大事件も起こった。 波乱は避けねば・・・避けねばなるまい)


ハレンツァの言った大事件とは、ウィリアムがアハメイルで解決したダレイ殺人事件の事だ。 盗品を買い漁る商人や、爵位ある貴族の大失態に加え。 公爵の中でも、選ばれし5大公爵のある一家が刑死すると云う、前代未聞の大事に成った。 そして、近々その空いた選ばれし公爵家の穴埋めとして、新たな5大公爵が決まるらしい。 元の4家に加え、新たに1家が加わるのだとか。   


(あらら。 この国にも、今は見えないゴタゴタ抱えているんですねぇ~)


(そうなのだ。 今、国は一番デリケートな時期なんじゃ。 そこに、アンソニー様の一件が降って湧いた。 しかも、封鎖区域にモンスターが出ると、誰かが王都で言い触らし始めたらしい。 昨夜から、封鎖区域の隣に住まう他国の大使から、心配の書状が届いたともな)


セイルは、事件に繋がりが在るように思えて。


(何かこう・・用意されてるみたいですね)


(うむ。 だから私は、その調べも王から秘密裏に仰せ付かった。 一番不可解なのは、教えられたとは云え、だ。 子供達が、封鎖区域のあんな奥まで入れた事自体が解せぬ。 見張りも立たせておいて在るのに・・・)


セイルは、益々裏が在りそうだと思う。


ハレンツァと云う人物は、国王からセイルの素性は聞いていた。 だが、それにしても砕けたと云うか、柔軟な人物で。


(のう、セイル殿。 もし、所縁の品が危ないとしたら、私はどうすれば良いか。 内々に品物を抜き取り、目録を書き換える事は可能じゃ。 だが、此処までの一部始終は、一般の兵士に見られておる。 彼らに口止めをしても、別の権力から干渉が在れば、彼らとて喋らないとは言い切れんのだ。 何か妙案は・・、無いかの?)


と、セイルに聞いて来る。


セイルは、直ぐに。


(それなら、ハレンツァ様がこっそりとお渡しに成ればいいと思います)


(ほほう。 して、どうやって?)


セイルは、ヒソヒソと考えを言ってみた。


(おお、成る程。 ならば、此処はこうしてみてはすんなり行かぬか?)


話を進める二人は、夜を待った。






                  ≪激震の奥底・・・新たなる応援≫






夕方前、引き上げて来たポリア達。 その姿は、全身を汗で濡らし、泥の汚れを跳ね飛ばした飛沫の跡が鎧やマントに夥しい。 一目で相当に激しく動き回り、戦ったと見て取れた。


そんなポリア達と、門の外で待っていたイクシオ達が合流した。


ポリアへ近寄ったキーラが、開口一番に。


「ポリアさんっ、大丈夫ですかっ?!!」


キーラの声に顔を向けたポリア達一同は、腕に怪我をしているキーラや、片足を引き摺るエルキュールを見る事と成った。


(やっぱり)


墓地の中で合流して来なかったイクシオ達を、ポリア達は逆に心配していた。 案の定、イクシオ達もモンスターとの激しい戦いで、それぞれが怪我をしたのだろう。 イクシオやボンドスなどは、鎧や衣服を泥で相当に汚していて。 近付くのに合わせて、露出した肌には細かい傷跡が生々しく見えている。 アンソニーの事件で、イクシオ達は相当に無理をしていた、エルキュールやボンドスなどは、正に手負い状態で参戦したのだ。 途中で引き返しても、全くおかしく無かったハズなのだ。


ポリアは、キーラとイクシオを前にして。


「随分酷い様子ね。 やっぱり、壁沿いまでモンスターが来てたのね?」


キーラを一瞥したイクシオは、ほろ苦い笑顔で。


「あぁ。 それに、俺達だけならまだしもな。 足手纏いの怪我人とか抱えてちゃ~、合流は厳しいゼ。 途中で、聖騎士様率いる一団が来てくれたが、アンデットモンスター以外のモンスターが、何体も出てきてよ。 俺達と協力して、やっと全部排除した。 向こうにも怪我人出たみたいだ」


ポリアは、険しい眉間のままに、今出て来たイデオローザの隊を見返し。


「こっちもよ。 アンデットモンスターに対しては、優秀でも。 普通のモンスターと、私達みたく常時戦って無い彼らでは、通常モンスターの排除は大変みたいね。 やっぱり、経験が無いのが理由ね」


そこに、マルヴェリータも来て。


「イクシオ、それにキーラ」


二人が、絶世の美女を見る。 顔に疲れが見えるマルヴェリータは、何時もよりやや目つきがキツく。


「奥まで行ったら、溜池並みのヘイトスポットが出来上がってたわ。 倒したモンスターの中には、生まれ立ての“カーズボルベリン”まで居た・・」


そのモンスターの名前に、イクシオはギョっとした。


「何だってっ?!!」


その声に、間近の木陰に蹲っていたエルキュールまでもが顔を上げる。


キーラは、サッと引いた血の気に震えを催しながら。


「長く存在して力を付ければ、相手を一撃で呪い殺す“コール・デス”の暗黒魔法を使えると云われるモンスターまでが・・・。 これは由々しき事態・・」


マルヴェリータは、二人に。


「明日は、来るのを止めてもいいわよ。 アレが主で、他が手軽いモンスターならいいけど。 他に元凶が居そうなの。 だから、深手を負ってるなら、無理しないでね。 一昨日の事件でも、結構ボロボロに為ったんでしょ? 僧侶の魔法で怪我は見えないけど、体の中まで完全に治ってる訳じゃ無いから」


イクシオは、直ぐに返事が出来ずに黙った。 “カーズボルベリン”とは、全身の骨に腐った赤い血肉がこびり付いた骸骨モンスターだ。 だが、片言だが言語を話せ、暗黒魔法の一部を扱う中級モンスターの強者。 暗黒の力が染み渡った身体の骨は、非常に硬く。 例え武器が神聖な力を宿した武器で在ったとしても、その暗黒の力を断ち切る技量を持ち合わせなければ、太刀打ちは難しいのである。


「解った。 仲間の状態にも因るが、無理の無い救護専門に動く」


疲れが滲んだ顔のポリアは、泥を擦った跡をそのままに微笑み。


「無理はしないでね。 イクシオ達のゾンビなんて、私は斬りたくないわ」


イクシオも、このジョークには笑って。


「お互い様だぜ」


キーラは、まだマガルやカミーラが出てきていない事が心配だ。


「所で、セイルさん達は、確か・・夜中に出て来るんですよね? まだ、マガルさんのチームと、カミーラさんの一行が戻って無い様ですが・・」


ポリアは、出て来たイデオローザを見て。


「夜中にモンスターの拡散を防ぐ為に、森の木々を支点に結界を張ったわ。 北の壁沿いに討ち洩らしが無ければ、セイル君達に危険は少ないハズだけどね」


イクシオは、セイル達よりもマガルやカミーラが心配だ。


「ま、あのセイル達は、早々に死ぬ戦力じゃないが・・。 マガル達は、チョット危ないな。 マガルのチームは、古株のマガルに頼り切ったチームだし。 カミーラ達は、今だ魔法使いを欠いた肉弾戦のみの戦力。 まともにモンスターと連戦されたら、非常に危険だ。 早く出て来りゃいいものを・・」


もう、辺りに夕闇が更ける。 極夜の続く地で、少しでも雲が出る夕方は、星空が見える夜の入りと似たものだ。 少し待って、ポリア達も、イクシオ達も、見張り立つ騎士と兵士に、後から出て来るチームの事を頼み。 疲労困憊の身体を宿に戻した。


その頃。


セイル達を待つマガルのチームとカミーラ達の一団は、雑魚モンスターの襲撃を2度退けていた。


マガルもカミーラも、出来るならセイル達が出て来るのを待って護衛して戻りたかった。 だが、朝から墓地の中に入って、寒い中で緊張しっ放しのマガルのチームの面々は、もう誰もが顔色が悪く。 戦いでモンスターには幾分慣れたが、これ以上の長居は出来ない状態に陥ってしまった。


「マガル。 モンスターの出もチョボチョボだし、対して強いのも居ない。 コレなら、セイル達は安全だ。 一度引き上げよう。 他の討伐状況も気に成る」


カミーラは、唇を青くさせて震えているマガルの仲間を視野に入れながら、マガルに進言した。


「ああ、仕方無いな」


マガルも同意。 セイル達が焚き火に当たって暖を取っている頃に、墓地の外を目指した。


夜。 マガルとカミーラが斡旋所に戻ると。


「戻ったか」


と、声が。


「ん?」


カミーラが直に顔を向けるのは、その声が耳に慣れ親しんだ声だからだ。 見れば、イクシオの座るテーブルの所に、モルカが座っているではないか。


カミーラは、仲間と見合ってからテーブルに近付く。


「モルカっ、もう大丈夫なのっ?!」


カミーラの顔が、サッと女の色を見せる。


モルカは、カミーラを含めた仲間を見て。


「ああ、この通り。 明日は、俺も墓地に行くよ」


ダッカが、モルカの様を見ながら。


「もう大丈夫なのか?」


ジャガンも心配そうな顔で。


「あの深い傷が、もう癒えたのか?」


モルカは、ニヒルな笑みを見せ。


「あぁ。 仲間が金をたんまり置いていったからな。 色気の多い僧侶様が、全力尽くしてくれた御蔭よ。 横に成ってれば女性は見放題だし、メシは美味いし、治りたく無いのに早く完治しちまった訳さ」


軽愚痴が出るのがモルカの口癖。 どうやら、随分と寺院も手を尽くしてくれた様だと思う。


マガルは、仲間に自由を言って解散した後に、イクシオのテーブルに来た。


「イクシオ殿、討伐の状況はどうだ?」


エルキュールやボンドス・セレイド・キーラを先に休ませたイクシオは、エルザと共に晩酌をしていたらしい。 二人が語る内容は、実に厳しい状況だった。


今回のモンスター討伐作戦の公募依頼を請けたチームは、総勢90を超える。 参加した冒険者は、実に400人近くだ。 中には、この王都の住人で。 モンスターの脅威を排除しようと、態々助太刀として入った元冒険者も居たほどだ。


だが。 今日一日で、その参加した中から出た怪我人が、優に100人を超えたらしい。 寺院に担ぎ込まれた者だけで、50名以上。 当然、仕事の棄権を訴えるチームも出てきて、危険手当と討伐参加費用の一部を受け取って仕事を終えたチームは、40チーム以上と云うのだ。 


マガルやカミーラ達が此処まで聞いただけで。 明日に成れば、更に棄権するチームは増えると予想出来る。 参加チームの中でも、実力最高のチームはポリア達なだけに、その負担は益々増すだろうと思われた。


マガルは、もう寝たと聞くポリア達が疲労していると読み。


「そうか。 明日は、俺一人でもポリア殿のチームに加わるかな。 出来る限り、今回の討伐には参加したい」


イクシオは、薄い傷跡生々しい頬を触れていながら。


「だが、朗報も在る」


カミーラは、鋭く。


「何だ?」


エルザは、グイっと杯を飲み干してから。


「今日、この王都に来たチームで、実力の在るチームが2チーム討伐作戦に加わったわ。 1チームは、“コスモラファイア”(たゆたう炎)ってチームで、バランスの取れたいいチームよ」


マガルは、聞いた事の無いチームなだけに。


「ふむ、知らないチームだな。 して、もう一つのチームとは?」


「“グランディス・レイヴン”」


マガルもカミーラも、そのチーム名に驚きを隠せなかった。 マガルは、ガラガラの斡旋所の中を見回してから。


「あの大剣士サーウェルス殿の率いる、グランディスか?」


頬の瘡蓋を弄るイクシオは、ニヤリとして。


「おうよ。 昼頃に来てな。 命の恩人である俺等やポリア達が参加してるって聞いて、問答無用で参加決定したと。 明日は、ポリア達と合流して、危険な奥に踏み込むだろうな」


マガルもカミーラも。 もう世界に飛び出して、数々の冒険をしている有名チームの参戦には、驚きだ。 明日の作戦に、これで人員的な支障が出る事は薄らいだと思える。


マガルは、安心した顔に為り。


「では、私はこれで失礼する」


と、何故かカウンターに向かった。


カミーラ達は、モルカの周りに椅子を持って来て、出前で運んで貰える軽食を頼む事にするのだった。






                   ≪心配の種≫





マガルは、カウンターの内側に立つ主の手代に話をして、奥の広間に入った。 この広間では、昨日にセイルが、主へ王様から請けた仕事の話を継げた場所であり。 また、今は、クリームスープのいい匂いが漂い。 斡旋所を運営する者達の休憩所でも在った。


「お、マガル。 戻ったかよ」


斡旋所の老いた主が、アツアツのスープをパンと共に食べている最中だった。


「ああ、今戻った所だ。 それより、主よ」


「ん?」


「今回の王様の依頼とやら、もう危ない所に踏み込んでいるかも知れんぞ」


マガルのこの言葉に、主は救い上げたスプーンを止める。


「・・・、どうゆう事だ?」


マガルは、主の座るテーブルの前まで来ると、周りを一度見てから声のトーンを落とし。


「これは、セイル殿にだけ言うたが。 我々が脱出した後。 今日の作戦が始めるまでに、どうやら何者かが侵入した形跡が在る」


主は、目をギラリと光らせ。


「何だと?」


マガルは、今日の早朝に他の冒険者と共々墓地内に侵入し。 一直線に、警戒しながらアンソニーの住まいが在る門へと直進した。 だが、この時マガルは、半分凍った人の死体を見つけている。 冒険者の者と云うよりは、無頼の冒険者崩れと云った人相の悪い男達2名。 それから、黒いローブを着ているが、かなり身形の良い初老の男性で、ローブの下には礼服を着ていた。 


主は、直ぐに理解し。


「その様子からするに・・・。 その者達が侵入したのは、お前さん達が子供達を連れて脱出してきた後。 半凍りって事は・・昨日の昼か夜だな」


「うむ。 しかも、一人二人では無い。 他にも、槍を持った兵士らしき遺体も在った」


「っ?!!!」


主は唖然として、ナプキンを首から引き抜く。


「まさか・・・、もうアンソニー様の屋敷に・・か?」


マガルは、主に見られて、重く頷いた。


「恐らく。 更にセイル殿が、昨日から薄々とだが、何者かの尾行の気配を感じたと。 今夜持ち出す積荷、もう危ないのではないか? 討伐作戦が開始されるまで、あの墓地の入り口は、兵士や騎士に依って厳重な警戒がされて当然。 東の侵入防止壁はかなり高く、大使館が犇く要所通路だから兵士の監視も在る筈。 それなのに中に侵入出来るとするなら、何ぞやかの権力が働いていると見るのが・・確かだと思う」


「うぬ。 ・・・」


主は、事がそうであるなら、もうポリアに力添えを頼むしか無いと思える。


(セイル・・無事で帰って来い。 権力が絡んだら、ワシの力では何とも難しい)


マガルの顔も険しい。 


彼が見つけた死体は、どれもモンスターに食い荒らされた物で。 まともな遺体は、何一つ無かった。 兵士らしき者の遺体などは、鎧も食い千切られ、槍を掴む手や具足を履き残す足だけ。 転がった正式支給品である鉄のハットは、へしゃげて紋章が確認出来ない状態だ。 無頼の二人も、首や上半身の一部を残すのみ。 一番まともなのは、腕を食い千切られて失血死したと思われる、身形の良いローブの男。 50代と思われ、金髪の髪を油で後ろに流し。 貴族や執事が好んで着ける様な、片目用のリーディンググラスを着用していた。


マガルと主の心配・・。 それはセイルにとって、もはや決定事項と同じ思いだった。


・・・。 その頃。


「う゛~、さぶっ」


また流れて来た雪雲で、曇り渡る暗黒の夜空。 軽く上を見上げたユリアは、次に近くでうつらうつらと寝ている兵士達に、細めた目を向けて。


(良ぉ~っくこんな状態で、そんな簡単に寝れるわね)


ユリアの肩には、闇の精霊のシェイドと闇玉が座って兵士を見ていた。 様子は、ユリアと似たり寄ったりの目つき。


さて、小用を足したクラークがユリアの脇に戻り。 屋敷内の見回りから戻ったアンソニーも、ユリアの元に戻った。


ハレンツァと細かい話し込みをしたセイルは、その仲間が集まり。 そして兵士の注意が削がれている今を、チャンスと見て。 


(あの、ちょ~っといいですか~)


背後から仲間3人に声を掛けて、こっそりと馬車の裏側に移動する。 一方で、ハレンツァが代わって、兵士達の前に戻った。 


影に隠れたセイルへ、ユリアは詰まらなそうな顔で。


「なぁ~にしてんのよ」


クラークは、平静のままに。


「セイル殿、どうしましたか?」


「はい。 兵士の皆さんに聞かれると不味いので、此処で。 実は、マガルさんが早朝に、不審な遺体を発見したそうです」


凡その説明は、マガルと同じ。 その話を聞くクラークやアンソニーも、マガルと斡旋所の主が話した事と同じ所に至る。


セイルは、更に。


「昨日の夜から、今朝に掛けて尾行らしき気配が在りました。 下手をすると、荷物の持ち運び途中で、誰かに闇討ちされるかも知れません」


アンソニーは、積荷の入った馬車を見て難しげに眉を顰め。 


「全く、王家と離別する時まで厄介事とは・・・情けない。 権力に縋る馬鹿共の所為で、何処までも迷惑が掛かる」


セイルは、其処でハレンツァとの計画を打ち明けた。 ハレンツァは、もう王子の証と軍を動かせる紋章などを引き抜いた。 ハレンツァ自身が王に直に謁見して、引き抜いた物を渡す手筈にしてある。 問題は、それを自分達が知らん顔でこれから先も馬車を護衛して、アハメイルまで送り届ける事。


ユリアは、ニヤニヤして。


「フフフ・・・面白そう~じゃん」


闇玉も、ニヤニヤして。


「秘密サイコー、嘘つきバンザイ」


シェイドは、闇玉に苦笑い。


「まだまだ子供ねぇ~」


一方のクラークは、陰謀めいた気配に顔を厳しくする。


「私は、他国ながら貴族の家に生まれはした。 だが、こうゆう権力闘争の類は、いまだに大嫌いじゃ。 全く、誰が王に成ろうと、犠牲を払ってやるなどとは馬鹿馬鹿しい。 襲撃なら望む所。 逆に捕まえて、その不穏な芽を摘み取ってくれる」


アンソニーは、セイルを含めた皆を見て。


「皆さん、仲間ながら迷惑を掛けます。 まだ、私一人では事を収めるのは難しい様だ。 どうか、お力をお貸し願いたい」


ユリアは、無論そのつもり。


「当ったり前じゃんっ、阿呆の好き勝手なんてのが腹立つ。 阻止して潰そ」


セイルは、物騒な事を平気で言うユリアに呆れて。


「ユリアちゃん、僕達まだ16歳だよ・・あははは・・」


アンソニーは、自分の仲間に入ったチームが心強かった。 


さて。 随分と夜が更けて。 


セイル達は、馬車を動かして敷地の外へと動き出した。 馬の引く荷車の屋根四隅にカンテラをぶら下げ、暗い庭を進み出す。


「ファ~・・・」


欠伸をして、涙を薄ら浮かべる若い兵士の暢気そうな事。


代わってハレンツァは、厳しい目つきを辺りに向ける。 流石は老いたとは云え、つわものである。 鎧を着ている身体にブレは無く。 疲れる処か、気合いが顔に滲んで精悍な老練者と云った感じを受ける。 鼻息の水分が、髭を白くさせていた。


馬車を前に先行して引っ張るのは、ユリアとセイル。 クラークとアンソニーは、馬車の荷台を左右から挟んでいた。


アンソニーの屋敷の敷地から、門を開いて墓地へ。 元々、アンソニーのこの屋敷に入る道とは、今の大使達の住まう特別区へ向かう道が花道だった。 だが、アンソニーの屋敷や庭諸共封印する為に、高い壁を造り。 そして、墓地の一部として隠されたらしい。


墓地とアンソニーの屋敷を隔てる門の外に馬車を出して、その門を硬く閉じて鎖を絞めたハレンツァ。


セイルは、辺りを見て。


「良かったですね~。 マガルさん達引き上げたみたいです」


兵士達は、何故にそれが良かったのか解らない。 こんな凍えて暗い夜だ。 もっと誰か居た方がいいに決まっていた。


極夜の夜は、この静けさが永久に続くと思えるほどに静まり返る。 凍える空気、雪と氷に閉ざされる大地、冷厳なるその白銀の世界には、不純なものは不要に思える。 だが、真夜中頃に墓地を抜け出そうと木々の茂る森を抜けた場所で、セイルが突然に。


「誰ですかっ?!!!」


と、大声を上げる。


そう。 いきなり、太い大樹の裏側から影が現れた。 


「むっ!」


警戒して辺りを見回すクラークは、他にも影が現れて囲まれていると察知。


「取り囲まれておりますぞっ」


一方。 急に怪しい人影が現れた事で、兵士二人は驚いて悲鳴を上げるだけ。


ユリアを庇う様に立ち、此方に近付いてくる影に対峙したセイルが。


「何用ですか?」


すると、セイルと間10歩を空けたぐらいか。 カンテラの明かりが届き難い所で、足元のみを見せた影は止まり。


「用件は簡単だ。 馬車の荷物を渡して貰おう」


その声は、口元に布を宛がっている様な篭った男の声だ。


ユリアは、ムカっとした顔をそのままに。


「な~んで大切な物を、アンタ等にあげなくちゃいけないのよっ!! そっちこそ、顔も見せられない変態なら、回れー後ろして病院行ってよっ」


歯切れのいい罵声に、アンソニーは柔らかく笑った。


金属の具足を履いた何者かは、


「大人しく渡さねば、力ずくだぞ」


と、脅しめいた言い草をする。


怯えてその場に蹲る兵士達を他所に。 ハレンツァは、馬車後方から周りを取り囲んだ曲者を牽制しつつも。


「フン、この“王国の盾”と謳われた私を、卑怯者如きが倒せるか? 力ずくとは面白い、掛かって来いっ」


と、剣を引き抜く。


クラークも、背中の槍を二本構えて、


「“双槍のクラーク”、仁義により宝は護るっ」


と、マントを閃かせて一歩前に踏み込んだ。


アンソニーは、皮の手袋に金属の板を仕込み、拳の部分に丸みの有る小さい金属の瘤を持つ武具を嵌め。


「久しぶりの戦いだ。 冒険手始め、準備体操させて貰おうかな」


と、キザに構えを決める。


剣を構えるセイルに、ユリアは。


「サッサとやっちゃうわよっ、闇の精霊よっ」


と、杖を構えた。


これに驚いたのは、曲者達だ。


「おいっ、いきなりをそっちがかっ!!」


怒鳴ったのは、足元のみを見せる曲者。 


セイルは、“お約束”を無視して先制を奪ったのが笑えながらも。


「問答無用ですん」


と、足元だけ見える相手に飛び込んだ。


「やれいっ!!」


焦って武器を構える曲者が吼えた。 一斉に、残りの曲者達が蠢き出す。


相手は、15人程度。 セイルと足元だけ見せた曲者が打ち合った時、ユリアは早くも魔法を唱える。


「闇の力よっ、我が敵の目を奪えっ!!! ブラインド・ダークネスっ!!!」


杖を振り上げると、ユリアの頭上にシェイドと闇玉が二匹並んで応呼して、闇のガスを作り出す。


「ソレっ!!」


「ソ~レ~っ」


闇の精霊二体は、セイルに飛び掛ろうと迫った曲者や。 横からユリアに迫ろうとした曲者に、ガスを千切る様に切り離して投げる。


「わっ」


顔にガスを受けた曲者は、一気に視界が無くなった事で驚き。 立ち止まる。


ユリアは、其処で驚いている兵士に。


「ホラっ、ササッと倒してっ」


だが、怖気づいた兵士は、腰を抜かしてしまって這う這うの始末。


「もうっ、訓練してないのっ?!!」


ユリアは、兵士の情けなさに呆れを通り越して憤る。


馬車の後ろで、3人を相手に互角のハレンツァ。 ボロ布で覆面をし、ショートソードやダガーを手にしている曲者共。 鎧は動きやすい皮製とか、厚手の布服を着るならず者の様な風体。 暗殺者や悪事を引き受けるのを生業にしているプロとは、違っていた。


だが、それは只一人を除いて、だ。


「どりゃあああっ」


クラークの掛け声が上がり。


「うわあっ」


「ぐぶっ」


クラークのなぎ払いを受けて、二人の曲者が払い飛ばされた。 一人は飛ばされて木にぶつかり、もう一人は地面を転がって闇の中へ戻された。


だが。 セイルと戦う曲者だけは、セイルの太刀筋を受け切っていた。


「くっ、やるなっ」


焦った声は、曲者だ。 セイルの剣術は、斬り込む角度が的確で、その速さは天才的。 自分の間合いで余裕を持てる防ぎならいいが、差し込まれた防ぎでは、打ち返すのも払い除けるもの後手に回る。


セイルは、一応この相手が出来ると見た。 更に、剣を打ち合った睨み合いで。


「アナタですね、昨日から僕達を尾行してたのは」


覆面の布の間で炯炯と光る目の曲者を、セイルは臆せず見つめている。


曲者は、目元を憎らしげに凝らし。


「お前ぇ、襲撃を察知してたって訳か」


「解り易い所に居ましたから、あははは」


このセイルの言い草は、曲者には屈辱だ。


「お前ぇぇぇ・・・。 俺の襲撃で済ませりゃ!! その命は在ったものをっ! コレで、もっとヤバイ奴等が狙うぞっ?!!」


しかしセイルは、曲者を見返しながら笑った。


「っ!!!」


気を削がれた曲者と噛み合せた剣を、ゆっくりと捻ったセイル。 曲者の握る細剣は、ジリジリと流される様に右へ。 二人は、更に肉薄して顔を近づける。 セイルは、声を押し殺して。


「もう、全部王へ献上します。 それでも終わらないんですか?」


「なんだとっ」


セイルの剣を跳ね上げようと力む曲者と、それをさせじと押し込むセイル。


同じ時。 曲者4人を相手にしているアンソニーは、魔想魔術の瞬間移動の魔法を、なんと格闘に組み合わせていた。 遠くに飛ぶ事は出来ないが、瞬間的に1・2歩先へは、少ない魔力で飛べる。 魔想魔術でも、攻撃魔法より幻惑魔法の才に突出したアンソニーならではの戦法だ。


「フン」


パッと一人の曲者の背後に回り込み、その首筋に手刀を打ち込む。


「あっ」


激痛で気を失う曲者を見た他の曲者達は、一瞬だけでも消えるアンソニーに驚く。


「バっバケモノかっ?!」


「消えたぞっ」


その曲者共の言い草に、アンソニーは呆れ。


「徒党を組んで国の宝を奪いに来るそなた達に、この期に及んで“バケモノ”呼ばわりされるのも虚しい話だ」


「ウルセぇっ!!」


薙ぎ込まれた小剣ショートソードを、着けた籠手で受け止めたアンソニー。 更にその小剣を掴んで、曲者を手繰り寄せては鳩尾にまた一撃を突き込む。


「う゛ごほっ!!!」


ボンっと持ち上がった曲者の身体は、そのまま表面の凍る地面に落ちた。


「ええ~いっ!!」


杖を構えて、目を潰された曲者の頭に思いっきり一撃を打ち込むユリア。 魔法を使っては、遣り過ぎる可能性が有るので。 ユリアは、自分で殴り掛かったのだ。


形勢は、明らかに曲者共が不利で、セイルと打ち合う曲者は歯軋りをして。


「このっ!!」


剣を持つ手を片手にして、セイルに掴み掛かろうとする。


だが。 ケンカ戦法もセイルは得意。 身を後ろに反らす形で掴み掛かりを逃れながら、左足を跳ね上げて曲者の頭部に蹴りを見舞った。 その間合いは、絶妙なクロスカウンターであり。 前に踏み込んだ曲者の耳から即頭部に、セイルの蹴りが決まった。


「ぬわあっ」


反動で大きく蹴飛ばされた曲者だが、地面を転がって起きる時に短剣ダガーを引き抜き。


「くそっ」


と、ユリアに向けて投げ付けた。


これにはセイルもハッとして、空中を走るダガーの軌道に身体を向けて、剣で打ち落とすのが精々。 逃げ去る為に飛び退いた曲者の後を追うには、時が足らなかった。

どうも、騎龍です^^


この話の内容で、最初に名前の間違いなどを訂正しながら、更新と成りますので矛盾が出る所は追々訂正します^^: G.Wですね^^。 作者は作成作業オンリーですが、皆様は何処かお出かけに成りますでしょうか? そんな皆様の暇潰しになれば幸いです^^。



ご愛読、ありがとう御座います^人^

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