二人の紡ぐ物語~セイルとユリアの冒険~2
セイルとユリアの大冒険 2
≪不死の魔術はアホらしい・・・≫(ユリア)
さて。 一同は、斡旋所に戻って来た。 宿とカジノ・オークションの場を併せ持つ斡旋所は、新たな仕事の依頼が舞い込んで色めき起っていた。 王国からの依頼で、モンスターの討伐を公募依頼の形で広く募集されたからだ。
「なぁ、俺達一緒に組まないか?」
「嫌だ。 誰がお前のチームなんかに入るか」
「おいおい、請けないのかよ」
「ね~、僧侶居なくて大丈夫? 一応、寺院のシスターさんに加わって貰おうよ」
「リーダーがお前だってっ?!! そんなの聞いてないぞっ!!」
「あーっ!!! 私を外す気っ?!!」
扉を開いて斡旋所の中に踏み込んだセイル達は、広間にごった返す冒険者達に目を見張った。
中でもアンソニーは、所々で喧々諤々を言い合ったり。 挨拶を交わしていたりする冒険者の集団を見て、寧ろ感歎とした表情に変わり。
「随分と人が多いですね。 私の頃は、此処まで盛るギルドは見た事が無い。 なるほど、長く戦争も無い世界が続き、冒険者を選ぶ人が増えたのですね」
斡旋所に来る途中で、武器屋と服屋を梯子し。 御蔭で言うアンソニーの井出達が変わっていた。 赤いシルクYシャツに、灰色の皮ズボン。 青いマントが目新しく、ボロい今までの衣服を脱ぎ捨てたから、随分と若々しく見える。
ユリアは、服をコーディネートしてやった手前で。
「アンソニー様も、直ぐにこの生活に慣れるわよ」
セイルは、物珍しさに目を見張るアンソニーの前に出て。
「では、マスターの所に行きましょうか」
一同は、冒険者達の間を抜けてカウンターに向かい出す。
すると・・・。
(おいおい、ホラっ)
(おっ。 王城に行ったあのガキ共と、クラークさんが帰って来たぜ)
(うはぁ~、誰あの人・・・。 顔色悪いケド・・・カッコイイ~・・・)
(ホントっ!! あぁ・・・お近づきに成りたいわ・・)
(王城に何しに行ったんだ?)
(さ~、王様に逢ったんじゃないか?)
(くゥ~。 あのガキ共、まだ駆け出しだろっ?!!)
(多分、クラークさんやポリアさんの御蔭だよ。 一緒に帰って来ただけでも、有名に成れる)
あちらこちらで、セイル達を見つけては噂話が始まった。
だが、僧侶ならアンソニーが不死者と一発で解る。
「なっ・・何故だ? あの者・・・不死者だぞ・・」
「マジか?」
「だが、モンスターって雰囲気してないぜ?」
また、場がセイル達で騒がしく成る。 そんな中で、カウンター間近のテーブルに座っていたポリア達も、戻って来たセイル達を見つけた。
「あら、戻って来たの・・・って、え?」
ポリアは、アンソニーが一緒に居るのに驚いた。
システィアナも、眼をパチパチさせ。
「死んでるイケメンさんですぅ~」
マルヴェリータも同意して。
「ま~イケメンは・・イケメンねぇ・・・。 でも、イイ訳? 人目に触れて?」
テーブルの脇に近付いたセイルも、ポリア達に気付いて。
「ども。 今戻りました~」
と、セイルは笑う。
ポリアは、アンソニーとセイルを見比べて。
「へ? 何が有ったの? まさか、明日からの討伐作戦に加わる為ぇ?」
すると、アンソニーが微笑み前に身を曲げて。
「麗しき同族よ。 私は、これから冒険者として生きる道を決めたのですよ。 セイル殿のご好意に甘えて、同じチームに加わります」
ポリア達は、ギョっとした顔を見せて仲間で見合い。
マルヴェリータが、周りに聴こえない小声で。
「ずっと・・ですの?」
アンソニーもまた、腰を屈めてマルヴェリータに近寄り。
「ハイ。 お城で生きていく訳には行きませんし。 私の居場所はもう無くなります。 なら、いっそう流離った方が・・・」
ポリア達が見るアンソニーは、何処と無く割り切った様子が見えていて。 自分での決断なら仕方ないとも思えた。
ユリアは、ポリアに近寄り。
「後で話してあげる」
「うん。 お願い」
「ポリアさん達は、明日からの作戦に参加するの?」
「一応。 此処で死人は出したく無いし、場所が場所だから用心も込めて参加するわ。 ま、率先して戦うのはしないかな」
イルガは、一番壁側の奥の椅子から、ポリアとユリアを見て。
「ま、我々は差し詰め救護担当ですな」
自分の心を代弁して貰ったポリアは、緩やかに微笑んだ。
セイルは、カウンターに向かうべく、一端の別れをテーブルに置いた。
イクシオ達は、そこでポリア達の前に残るので。 チーム“ヴレイブウィング”の面々のみが、忙しく冒険者達の詰め寄るカウンターに向かったのである。
セイルを見つけた老いたマスターは、受付を配下として働く二人に任せて。
「おいっ、お~い。 戻ったか」
と、カウンターの内側を横に移動して、セイルの前に来てくれた。 疲れが少し滲み、額に薄らと浮かぶ汗。 赤く為った顔色は、意外に元気な様で。 主人は、セイル達が行ってから忙しかったのだろう。 ポリアに見せた昨夜の主人は、もう何処にも無かった。
セイルは、仲間の皆を見てから、主人に身を乗り込ませる様に近づけて。
「あの、奥でお話出来ませんかぁ~。 色々と込み入った事に成りまして~」
喧騒脇立つ斡旋所の中。 主人は、アンソニーを見てからセイルを見て顔を近づけると。
「まさか・・・コチラさんは・・」
「はい、まさかデス」
「・・・なんと、こりゃ魂消た。 解った、カウンターの脇から奥に入ってくれ」
こうして、セイル達は斡旋所の奥に入る。 それを見ていたカウンター外の冒険者達は、何か有ったのだろうかと興味を惹かれた。 だが、それは許された者だけが知れる事。 昨日まで、子供達を救う仕事を放棄した者達に、その許可は下りなかった。
一昨日までは、子供達の帰りを待つ親達が留まっていた部屋。 応接としての広間だが、主人や斡旋所で働く者達の居間でもある。 生活の色が濃く覗ける場所であり、大仰な凝った王城の様な場所とは別世界だった。
「紅茶煎れるから、好きな席に座れ。 んで? 一体どうしてその人物を連れて来た?」
セイルは、クラークと共に背凭れも無い木の椅子に座り。 ボロけているががっしりとした木のテーブルを前にして、王城での出来事を語る。
主人は、セイルがエルオレウの孫で在る事以上に。 国王と面識が有った事に驚いて、竈の前で立ち竦む。
「お・おいおい・・、国王さまのお忍び旅で知り合いだったぁ~? んな・・、確かにエルオレウ様と国王陛下は、歳も近くご友人だったとは聞いていたが・・。 世界は、広い様で狭いな」
ユリアは、細めた眼で頷くと。
「ホ~ントだわ。 あの陽気で弱っちいクランのオッサンが、今日に出会ったら国王様だなんて。 正直、驚き越して呆れたわよ」
クラークもセイルも、国王を“オッサン”呼ばわりするユリアと、そのユリアに驚く主人の顔を見ると、失笑と脱力感が襲って来る思いだ。
さて。 国王とアンソニーの依頼の話に入ると、主人は老いた顔を引き締めた。 紅茶を配る中で、
「そうか。 そうゆう事なら、マガルに話しておこう。 掃討作戦の中で、お前さん達や王子様に護衛は要らないが。 この依頼自体がバレると、かなり面倒だ。 密かに一緒に向かう様に行動して貰って、奥の屋敷の敷地内に入る時の見張りをして貰うといい」
ユリアは、何でそんな事をするのか解らず。
「何で見張りなんか必要な訳?」
老練な主人は、まだ若いユリアには、その心配する意味が解らないのは仕方ないと思う。 説明を入れる為に、テーブルの間近に有る椅子に座ると、ユリアを見て主人は云った。
「いいか。 事がそうゆう事なら、隠密行動と一緒だ。 冒険者なんてのは、長くやってると身を崩す輩も出てくるし。 悪い盗賊なんかと知り合う輩も居る。 チーム丸々が、深く気心知り合っている訳では無い場合も多い。 炙れた身の上が長い奴に、金にしか執着しない・・そうゆう奴が居るのさ」
「ふぅ~ん・・・で?」
ユリアは、まだ今一解らない。 肩に座るサハギニーと、土の精霊である土蜘蛛と云う紫色の小型の蜘蛛が居て。 ユリアと主人を見交わしていた。
「ん、んでな。 そうゆう奴は、宝物や金品の情報を金で盗賊に売ったりする。 下手すれば、襲う阿呆も居る。 何より、明日に一緒で指揮系統に回る騎士も、実は侮れん。 貴族や王国政府の重鎮達が幅利かせ、派閥の権力勢力図が世間のあちらこちらに加味してるからな。 王国の王家所縁の品物と聞けば、出世や名誉欲などに駆られて欲しがるのさ。 だから、お前さん達が、王子様の屋敷の敷地内に踏み込む所を、他人に見られるのは宜しくない。 例え、御偉い騎士様にでもな」
そうと聞いたユリアは、ムスっとした剥れ顔に変わり。
「全く、どいつもこいつも・・。 でも、国の騎士様までそんなのって、なんだか有り得な~い。 さ~いて~」
クラークと精霊は、大いに納得でウンウン頷くし。 セイルとアンソニーは、生まれが生まれなだけに苦笑い。
しかし、主人は真顔を崩さず。
「だが、王子として賜った王家所縁の品物の中には、一族の証を示す物も含まれるかも知れない。 手に入れて悪用すれば、それなりの収入を約束するだろうし。 また、売ってもかなりの金に換わる。 モンスターの存在で手出しの効かない今が、その宝物を持ち出す機会。 しっかり頑張れよ」
言われるユリアは、
「当ったり前よ。 アンソニー様加える以上、コレをしくじったらチームの恥だわ」
と、頷く。 その意気込み釣られたセイルとクラークに加え、アンソニーまで一緒に。
「お~」
と、拍手。
ユリアは、セイルにジロリと眼を向け。
「お前、気張れよ」
セイルは、その視線に殺気も感じる。
「ハイ・・・」
アンソニーを加える事と、隠密行動をする事を聞いた主は、一同をこの部屋に残し。 直ぐにカウンターに戻って、その加盟作業を行った。
セイル達は、その間に紅茶を頂きながら明日の事を話し合った。 馬車は、国王の腹心が騎士と共に連れて来る。 問題は、人目に付くのを少なくして、奥まで行く事だ。 朝は、一斉に墓地へと入るらしいから人目に付くし。 手柄を焦る冒険者達は、形振り構わず奥に突撃するだろう。
そう言えば。
受付カウンターの有る待合い広間には、やけに僧侶が多く。 集まった冒険者達の中に見えていた。 宿に寝泊りしていた僧侶が、此処に来て持て囃された為だろう。 流れてくる冒険者達の中でも、僧侶は二人三人と固まって流れて来る事が有り。 不死モンスターに対抗する手段としては、僧侶は定石の人材だ。 まだ何処のチームにも組み込まれて居なかった僧侶は、まさに今は引っ張りダコだったであろう。
セイル達は、その点では僧侶が居ないのに、良く大丈夫だと思う。 セイルの魔法剣に然り、ユリアの精霊魔法が万能な力を発揮するし。 クラークの武器が白銀製と云う事も、理由に在るからだろう。
「終わったぞ。 明日は、少し遅めに出て行きな」
老いた主人の皺枯れた声が聞こえて、セイル達は忙しい広間に戻り。 ポリア達やイクシオ達と軽く雑談を終えて。 夕方の暗い曇天を外に出て望んだ。
大きく白い息を吐いたクラークは、オークションにやって来たと思われる貴族風の男性を下ろした馬車を、右の先の路上に見つけながら。
「今夜は、しっかり食べたいですな。 何処か、いいレストランにでも入るとしようか。 セイル殿」
マントのフードを被ったセイルは、雪が踏み固められた路面に出るユリアを気にしながら。
「そうですねぇ。 筋肉痛いし~、あま~い物が一杯在るお店とかいいデスね」
「うむ。 ケーキなどデザートにいいの」
クラークは、見た目に似合わぬ大甘党で、酒の肴にケーキを食べれるらしい。
さて。 ユリアが今宵の最後に大激怒を見せたのは、夕食を終えて斡旋所の宿屋に戻った夜の深け始めた頃。 大いに食べて飲んで語らい、満足した4人が斡旋所の中に入ると・・。
「フム、主の姿が見えない」
と、クラークがほろ酔い顔をカウンターに向けて一言。
カウンターには、配下の中年男性が居るだけ。 討伐依頼に沸き立った広間には、僅か1組の冒険者チームと、手酌の一人酒をする数名が残るのみで。 あの騒がしかった昼過ぎは、既に此処に無く。 暖炉にくべられた木の乾き燃える音が、広間に響いていた。
広間の奥に在る、宿の各部屋に向かう階段へと向かう中で。
「ランプが、半分以上は落ちてますね」
見る物全てが真新しいと思えるアンソニーが、薄暗く為って静けさが立ち込める広間を見る時だ。
「?」
ユリアは、自分の前を人が通ったと見た。 同じくその気配に、セイルやクラークも壁に沿い上る階段前で立ち止まった。
「・・・」
アンソニーの前に、ユリアの前とセイルの後ろの間を抜けて来た女性が立つ。 立ち止まったアンソニーは、白いローブを纏った女性を見下ろして。
「何か御用ですか?」
と、微笑んだ。
緊張したのは、クラークとユリアだ。 そう、女性は僧侶だった。 背中には、自愛の女神の刺繍が入り、一点にアンソニーを見上げた様子は、魔法でも遣うかの様に凛と引き締まっている。 微笑むアンソニーと、少し凝らした女性僧侶の目が噛み合っていた。
女性僧侶は、アンソニーに敵意に近い印象を向け。
「貴方は、不死者ですね? 何故に、このチームに加わったのですか?」
理由を言おうとするユリアとクラークの顔から、楽しんだ緩みが消えた時。 アンソニーは、二人に視線を向けて喋るのを制した。 そして、女性僧侶に向かって・・。
「私は、不死ですが。 実は、モンスターにも成り切れない半端な存在なのです。 訳在りまして、このチームの方々に助けられました。 死ぬ決心が着きましたが、何せ200年も過ぎた今に甦りましたからには、この世界を今一度旅して見回ってみたいと思いつき。 此方のセイル殿に頼んで、加えて頂きました」
すると、俄かには信じられないと云う感情を顔に出した女性僧侶。
「何とっ? 私には、貴方が信じられません。 普通、不死と為った者は全身が脂漏化し、骸の姿を留めるのみと為るはずなのに・・・。 貴方は・・、生前の姿を生き生きと残している。 仮初めの姿なのですか? それとも奇跡なのですか? 有り得ない・・。 モンスターと化して尚も、人としての確固たる精神や感情を持つ貴方が・・・」
栗色の髪を、フードから胸元に下ろす女性僧侶。 不死者を祓う使命を授かる僧侶と云う職業ながらに、アンソニーと云う有り得ないと存在が目の前に居る現実に、酷く困惑しているのだ。
アンソニーは、寂しく笑い。
「恐らく・・心・・でしょうか」
「こっ・心?」
女性僧侶は、生きる生命のみが持つと云われる心を、アンソニーから聞いて唖然と返した。
対して、アンソニーは落ち着いていて。
「はい・・。 私は・・生涯に愛した女性が居ました。 貴女の様に美しく・・そして聡明な女性でした。 その人が権力の犠牲で死に・・。 私は、その愛する女性を忘れて消し去る事を、情け無い話でしょうが躊躇った。 ・・・ですから、無謀と云うべきか・・。 理、摂理を冒涜してしまった。 200年も過ぎて、この身がモンスターに成り切らなかったのは、あの女性を思う愛情と云う心の所為なのかもしれません。 その心が薄らがない限り、私は、この姿で人として在り続けるでしょう・・」
語るアンソニーの容姿は麗しく、言葉遣いにも気品が漂う。 そして、その身の上が、儚さと侘しさを纏わせるのだ。 悲劇の王子・・。 まさしく、異性が同情してしまいたくなる存在だ。
「まぁ・・なんとおいたわしや。 貴方がモンスターに成り切らぬ様・・私が出来る事は在りますか?」
女性僧侶は、アンソニー魅入ってしまった。
アンソニーは、女性僧侶に笑い掛け。
「貴女のお心、お手を煩わせる事など・・」
見ているユリアは、方向がヘンに為って来たのに訳が解らず。 少し離れて見ているセイルに、ススっと近寄った。
(ねぇ。 なんか・・物々しい雰囲気から、ヘンな雰囲気に為ってきたよ)
ユリアの耳にセイルは口を近づけながらも、視線はアンソニーに残したままに。
(多分、チャームミステリアの妖術だよ)
ユリアは、暗黒魔法の部類に入る“妖術”と聞いて、セイルに驚いた顔を向け。
(ちょっ・チョットっ!! それってっ!! まっ・まさかっ?!!)
ユリアは、アンソニーが女性僧侶に、何か危害を加えるのではないかと思ったのだが・・・。 セイルは、アンソニーを見ながら苦笑を見せて。
(多分、少しエネルギーを貰う為じゃないかな~)
ユリアは、ガバッとセイルの胸倉を掴み。
(どーゆう事よっ?!!)
(ぐっ・ぐるちい・・・・)
そこに、間近に居て聞いていたクラークも遣って来て。
(セっ・セイル殿っ!! あの女性僧侶とアンソニー殿が、一緒に夜を過ごすとか言い出しましたぞっ!!!)
と、セイルの肩を掴んでグワングランと揺らかす。
(うげぇ~・・食べた直後にゆらすのおお~?)
そうこうしている内に。 顔を赤らめた女性僧侶の肩を抱いたアンソニーが、セイル達を上がり始めた階段の途中から見下ろして。
「皆さん、明日にまた。 私は、この女性に今晩を掛けて説明して参ります」
「え゛っ?!!!」
驚きギョっと目を見開いたユリア。
「なぬっ?!!!」
同じクラーク。
グッタリしたセイルは、弱弱しく手を振り。
「吸い過ぎては・・いっ・イケませんよおぉ・・・。 おえええ・・・」
アンソニーは、緩やかに微笑み頷くと・・・。 女性僧侶と共に、上に消えて行く。
さて、これはどうゆう事だろう。 青褪めて瀕死のセイルの説明に因ると・・・。
アンソニーは、もはやモンスターと変わりは無い。 ただ、心の強さの所為で、人とモンスターの狭間に立つ存在なのだ。 その存在は、人の世界に住む悪魔と変わりは無いらしい。 生きている死人は、もう人のように食べ物で肉体を維持出来ないのだ。
では、その肉体を維持している源はと云うと・・魔力と心である。 アンソニーの場合は、あの自分をノーライフロードにしようとして、長きに亘って魔力を送り続けた悪魔の存在が在り。 維持を魔力に委ねられた。 魔界で生きるなら問題無いが、人の世界で魔物が生きるにも、それなりのエネルギーは必要だ。 普通のモンスターなら、人や動物の血肉を喰らうのだが・・・。 高位の悪魔などは、人の生命エネルギーを吸い取る技能、“ライフスティール”・“エナジースポイル”と云う妖術を身に付けているらしい。
ユリアは、人気の殆ど無い広間の中で、セイルに鬼の形相で詰め寄り。
「おめぇ・・、それっじゃーモンスターと変わらないじゃんかっ!!!」
苦笑うセイルは、言い訳染みた説明を続ける。
普通の悪魔などは、人を狂わせて性的な狂行に及び。 その中で、エネルギーを根こそぎ吸い取るのだが。 人の中に溶けて生きる魔物と、人の間に生まれた魔人と云う種族は、異性との性的な交わりの中で、人から命に支障の起こらない具合でエネルギーを得るのだと云う。 恐らく、アンソニーもそうして生きる以外に、もう肉体を維持出来ないのだろう。 容姿がイイだけに、異性を魅了する妖術も長けていると見える。 あの連れて行かれた女性僧侶と、今夜はお楽しみで。 少しエネルギーを貰うのだろうと説明した。
ユリアは、淫らな話にイライラを燃え滾らせ。
「愛するのは一人じゃねーのかよっ?!!! えっ?!!! オイコラぁぁぁっ!!!!!」
一方のクラークは、物欲しそうな顔でアンソニーと女性僧侶が消えた上を見上げ。
「う・羨ましい。 あの僧侶殿・・中々の美人であった・・・。 御身体も・・なかなかの・・う~ん」
セイルも苦笑いを続けて。
「ですね~。 後々面倒に為らなきゃイイけど・・ですねぇ~」
マリアンヌへの、一途な愛情に感心していただけに。 ブチ切れたユリアは、呆れてるシェイドと炎の下位精霊で火蜥蜴である“サラマンドラ”を肩に乗せつつ。
「うおおおおおおーーーっ!!! ふしだらじゃああああっ!!!」
と、吼え上げた。 サラマンドラとは、炎を身に纏うサンショウウオの姿をした精霊で。 髭をを生やした老人の様でもある。
「ユリアちゃん、もう夜だし。 大声は不味いって・・・」
と、ユリアを宥めるセイルに対し。
「はぁ~。 ワシも、アバンチュールしたいのお~」
と、嘆くクラークが居る。
(なっ、何なんだ、アイツ等ってよ・・・。 顔色の悪いヤツ・・、上手くヤりやがったなぁ~。 うっ・羨まし・・)
こっそりと出来事の大半を見ていたのは、カウンターから喧しいユリアに驚いて覗き見ていた斡旋所の働き手だった。
次の日の朝。
「え゛? ・・・マジ?」
起きて来た冒険者がごった返す広間の隅で、丸で恋人の様に見つめ合っているアンソニーと女性僧侶を見つけたユリア。
初恋に恥ずかしがる少女の如く、頬を赤らかに染めた女性僧侶。 トロ~ンとしたうっとりした瞳で、アンソニーを見つめ上げ。
「ああ・・・、どうして同じチームでは無いのでしょう・・。 アンソニー様・・今宵も・・一緒に過ごしては頂けないのですか?」
その女性僧侶の顎を指先で触れ、擽る様に撫でるアンソニー。
「私は、半分魔物です。 長く一緒に居ては、貴女の健康を害する。 私は、ただ・・・。 無闇に矢鱈に危害を加える魔物に、私が成り下がって居ない事を理解して頂けたなら・・・。 それでいいのです」
「嗚呼、・・それは。 昨夜に寝具の中で、特と・・・解りましてよ」
その二人を見て。 恥ずかしさに顔を真っ赤にするユリアは、何故かイライラし。
「うがあーーーっ、変態王子めがあああああーーーーっ!!!!」
クラークは、指を咥えて。
「うらやま・・・」
と、云い掛けた所で、モンスターの様なユリアに睨まれるから。
「・・・しくは無い・・。 でも・・・イイなぁ~」
セイルは、ユリアに首を絞められたく無いので、マガルの元に逃げていた。
どうやら、アンソニーが加わっても、このチームの賑やかさが消える事は無い様である・・・。
・・・・、羨ましいなぁ・・・(作者)
≪地獄と化した古き墓場≫
「んじゃ、行こうか」
斡旋所の外で。 斡旋所から出て来たセイル達へ声を掛けたのは、イクシオである。
「はい、よろしくお願いしま~す」
と、微笑むセイルの後ろには、アンソニーに訝しげな眼を向けるユリアが居て。 邪気一つ無い笑みのアンソニーと、ユリアに胸倉捕まれて、相当悲しんだクラークが居る。
理由を密かに知るイクシオ達に、事を知ったポリア達も強力してくれると云う事に為った。 マガルは、自分のチームを連れては、ポリア達と一足先に封鎖地区に向かっていた。
イクシオ達は、出遅れてセイル達と一緒に向かう気で、待って居てくれたのだ。
王家の一員としてアンソニーは、イクシオ達に頭を下げ。
「皆さん、先々までのご助力感謝いたします」
エルキュールもエルザも、女としてアンソニーに男性的な性的魅力を感じる。 死人で無いならと思うから、直ぐに苦笑いが漏れた二人だった。
「仕方ないわ、関っちゃったんだし。 偉そうな貴族に、あの王子様の記憶が残る館を好き勝手されるのも癪だしね」
と、エルキュールが云えば。
「そうね。 ま、僧侶の端くれとしても、死者の心残りを放っておくのも心痛いわ。 出来る事は、協力してバチは当たらないわよ」
と、エルザも続く。
イクシオは、キーラに小声で。
「女って、ど~して顔の良い男に弱いかね~」
だが、キーラは、緩く笑い。
「絶世の美女だったら、イクシオさんは本気で頑張るでしょ?」
「・・・、ちげぇねぇ」
納得せざる得ない言い返しに、イクシオはテンガロンハットを深く被る。
「不純だ・・」
大柄のセレイドの呟きが、イクシオの耳には痛かった。
さて。 早朝の終わり頃に出て行った討伐作戦参加の冒険者達から遅れて、少し。 暗い中を出勤する工夫や働き手が見える。 暗い朝で、街灯が朝まで点いている光景が当たり前のこの時期。 歩き出したセイルの横には、不機嫌なユリアが居た。
セイルの背中には、安物の剣が一振り。 腰に、もう一振り差してある。 一緒に並んだクラークとアンソニーは、セイルが何故に二振り買ったのか。 今に為って、気に為った。 モンスターの数は減っているし。 アンソニーの屋敷に、モンスターは居なかったハズだからだ。
一行は、封鎖区域の近くに来ると。 篝火の焚かれた木陰に、もう怪我して運び出された冒険者達が居るを見た。 大怪我の手前だが、鎧を引き裂かれて白い布を巻いている男性剣士。 横には、木に寄り掛かって、僧侶の手当てを受ける弓使いの男性も見える。
イクシオは、怪我人を見掛けるなりに。
「おーおー、早速かよ」
怪我していたのは、ポリアの合同チームに入りたがった生意気な冒険者達のチームだ。
開かれた格子門の前にセイル達が来ると・・。
「お待ちしてましたよ」
と、昨日の朝に、セイル達を斡旋所まで迎えに来た固太りの中年紳士が、スッと物陰から現れる。
セイルの横に居たユリアが、紳士の登場に唖然とした顔を見せて。
「えっ? オジサン・・騎士なの?」
甲冑や鎧を纏い、剣や槍を扱う騎士のイメージからかけ離れた人物の登場に、そう思ってしまった。
紳士はニコッと笑い。
「いえいえ。 私は、取り計らう役目です。 御付の騎士は、もう中に馬車と入って待機してますよ。 ポリアンヌ様とご一緒かと」
「ポリ・・アンヌ? ・・・誰?」
ユリアは、名前を聞いても誰か解らなかった。
セイルが脇から。
「ポリアさんの事だよ」
「あ~」
頷くユリアに、イクシオなど知り合いの面々は笑っていた。
その雰囲気を嫌ったのは、怪我をした冒険者の剣士。 苦しむ顔をセイルに向け。
「一回成功したからって、良いご身分だな。 ・・・随分遅い到着じゃないかっ!」
その言い草に、ムッとした顔を見せたのは、ユリアとエルキュール。 呆れたのは、他の面々。 だが、肝心のセイルは、左の庭木が生い茂る物陰に顔を向けた。
怪我した剣士は、セイルが無視したのだと思って目つきを鋭くする。
だがセイルは、直ぐに顔を封鎖区域に向けると。
「早く行きましょ~」
と。
ユリアは、セイルが人を無視するのが珍しい事だと思って。
「セイル、どしたの?」
セイルは、何処か心配すら浮かべた顔で森の中を見つめて。
「う~ん。 森を覆っていた霧は晴れたのに・・。 どうして怪しい空気が消えてないのか、気に為るの。 モンスターって、そんなに強いの居たっけ?」
この言い草にムカついたのは、怪我した剣士だ。
「舐めてるンじゃねぇぞっ!!! ギガースゾンビや、レブナントが居やがるんだっ!!! 強いモンスターがウヨウヨしてるぜっ!!!」
怒鳴られたユリアは、セイルとの話に邪魔な怪我した男が目障りに思え。
「ルッサイっ!!! そんなのセイル一人で勝てるしっ、強いモンスターじゃ無いっ!!!」
「っ?!!!」
怒鳴って黙らせる。
“強いモンスターじゃない”と云ったユリアの一言に、顔を険しくさせていた別の冒険者も俯いた。
エルザは、アンソニーの脇にて。
「確かに・・瘴気の靄は消えたケド。 モンスターの気配は、全然弱っていないわねぇ」
モンスターでもあるアンソニーすらも、湖から流れて来る霧が煙る森を見つめて。
「不思議な感覚がする・・。 とにかく、中に入って行きましょう」
セイルを先頭に歩き出す皆。
セイルとユリアを見つめるままに、唖然とした怪我した剣士。 自分が怪我させられたモンスターを、キッパリ強くないと言われては・・。 返す言葉が無かったからだ。
クラークは、最後に剣士の前を通り。
「怪我して怒ると、出血が再発するぞ。 連れ出されたなら、大人しくしておれ」
と、言葉を残した。
敷地内に踏み込んだセイル達。 昨夜の寒さで枯れた芝生の葉を凍らせた霜が、具足で踏む時に囁く様にシャラシャラと奏でる。 肌を凍らせる様なキーンとした冷気が、封鎖区域を支配している様だった・・・。
さて。 森の中に差し掛かる所で、先に入ったポリア達と合流出来た。 用意の良いポリア達は、光る魔法を発する小石を持っていて、見つけやすかった。
セイル達とイクシオ達を向かえたポリアは、森を険しい眼で見ていて。
「気をつけてね。 一昨日から、嫌な気配が消えてないみたいだから」
クラークは、怪我をした冒険者達の手前で心配が在り。
「マガル殿のチームが見当たらないが・・」
と、辺りを見回しながら聞く。
マルヴェリータが直ぐに反応してくれて。
「カミーラって女性のチームと一緒に、先立って奥に向かったわ。 屋敷に向かう内門の所で、見張りをするって言ってたわよ」
出会った一同が、それぞれ誰かと話し出す中で。 セイルは、ポリアに近付き。
「あの・・・」
と、声を掛ける。
「ん?」
ユリアとアンソニーは、馬車を引く騎士の老人と兵士3人に挨拶した所で、ソレを見ていた。
セイルは、何時ものヘラヘラした顔を消し。 どこか緊張を含む済ました顔で、問う。
「ポリアさんは、このまま此処に?」
「どうゆう事?」
「はい・・。 僕達が向かう北側より、北西・・西側かな。 嫌なモンスターの気配の塊が、チラチラしてます。 そっちに冒険者の皆さんが行ったなら・・危ないと思うのですが・・」
「解るの?」
セイルは、ホロリと笑って。
「な~んとなくですが」
アンソニーは、少し離れた場所からそれを聞き。
「フム。 彼の感知能力は、凄い・・・」
「えっ?」
アンソニーを見上げたユリア。
アンソニーは、セイルから視線を外さずに。
「私が幾ら病み上がりの様な状態でも、此処からかなり深い西側に向かった場所で、モンスターの波動を朧気に感じられるのだが。 モンスターの私と同じ感度を持っているとは・・・。 人ながらに凄い事だよ」
ユリアには、西側の全体が、ボンヤリ大きく不気味にしか感じられない。 精霊としての力の感じ方と、セイル達の感じる感じ方に、大きな違いが在るのかは、ユリアも解らないのだが・・。
その時、ポリアは。
「解ったわ。 私達が西の奥まで行くから、封鎖区域の事は任せて。 聖騎士と僧侶の合同部隊も、直に来るみたいだし。 此処は、大丈夫そうだから」
セイルは、ポリアに一つ頭を下げて。
「ありがとうございます」
「いいのよ」
セイルは、後ろのクラークと一緒に、ユリアとアンソニーの居る馬車に向かった。 木陰の下に停めてある馬車は、荷物を運ぶ箱型の馬車だ。 幌馬車よりランク上の様な、赤い車体の木製荷車である。 大きく丸い車輪は、軽い泥濘みぐらいではビクともしないだろう。
「ご苦労様です。 王より直々に命を受けました、ハレンツァと申します」
老いた騎士が、姿勢正しく礼をして来る。
「あ、どうも。 セイルと言います。 今日は、宜しくお願い致します」
何処かの商店街で、バッタリ会った知り合いにでも挨拶する様なセイルだが。 クラークは、老騎士に眼を見張った。
「あ・・、失礼ながら」
と、老いた騎士に近付き。
「御貴殿は、前々の近衛副騎士長ハレンツァ様ですか?」
すると老人は、微笑みクラークに頷いた。
「いや、私の昔を知っておいでの方が居ましたか。 如何にも、御恥ずかしながら、私がハレンツァです」
クラークは、身を正して一礼し。
「ご無礼を、私はクラークと申します」
「おお、冒険者にその名を轟かす“双槍のクラーク”殿かな? 背中の槍・・中々の一品ですな」
クラークは、恐縮した顔を恥ずかしくさせて。
「いや、貴方のお耳にまで、私の下らない噂を入れましたか。 今日は、不束ながら宜しくお願い致します」
「はいはい」
ユリアは、クラークが凄く嬉しそうなのに気が向き。 セイルに、耳打ちで。
「このおじいさん・・有名なの?」
「うん。 僕のお祖父ちゃんとも知り合いの騎士様だよ。 もう、70歳を超えてると思うけど。 元は、スッコイ有名な騎士様なんだ」
「お・お前ぇぇ・・。 そんな有名人って知ってて、あの挨拶かぁ~?」
「あはははは~」
そんな二人を見るアンソニーは、挨拶以上に深く話しに加わらなかった。
馬車を伴い、霧が煙る暗い森の中を、奥へと向かって行く。 馬車を引く兵士が誰も新米の様で、挙動もぎこちなく寒さに震えている様子。 セイルとアンソニーは、馬車を前から挟む形に先行し。 ユリアは、馬車の左。 クラークとハレンツァは、ユリアの後ろで馬車を護る構えだ。
だが、暗い夜明け前の様な視界の中では、確かに警戒が自然と滲み出る。 風に揺れた木の音や、枝に積もった雪が重みで落ちる音に、兵士達が敏感に反応していた。
死人であるアンソニーは、寒さも関係無いのでコートは着ていない。 兵士達は、アンソニーの様子も気に為る所だが。
「止まれ」
急に言ったアンソニー。 立ち止まった時に、髪の毛を濡らしていた滴が落ちた。
セイルは、剣を抜いて北側よりやや西の方向に向く。
クラークが、ユリアに。
「何事か?」
杖を握るユリアは、薄暗い森の奥を見て。
「モンスターが・・・、でもヘン」
「ぬぅ? “ヘン”?」
ハレンツァが、ユリアとクラークの方に来て。
「何事かな?」
ユリアは、ハッと顔を険しくさせて。
「戦ってるっ!! 誰か二人・・・ううん。 地面にへばり付く人も入れて、3人っ!!」
セイルは、クラークに振り返り。
「ユリアちゃんとクラークさんは、此処にっ」
アンソニーも森の奥に蠢く幾つもの波動を感じ抜いて。
「スライムか何か、不死では無いモンスターだ。 私とセイル殿で、十分に対処が効く相手だ」
セイルは、アンソニーを見ずして。
「行きます」
「解った」
森の奥に走り出したセイルと、応えるのと同時に霧の様に消えたアンソニー。
「ひぃっ!!」
「消えたっ?!!」
馬車を率いていた兵士が、途端に情けない声を上げるが・・・。 もう、二人は居なかった。
ハレンツァは、クラークに寄り。
「あの二人は・・・何者ですか? 片方の御仁は、魔法遣いとお見受けしたが?」
これには、クラークとユリアは、逆に驚きだった。 クラークは、ハレンツァ程の人物なら、それは無いと思って思わず。
「あ・・ハレンツァ殿は、アンソニー様の事を、陛下より聞いていないのですか?」
「いや・・。 陛下からは、極秘の任務として、王家所縁の品を持ち帰る事を命じられました。 あの顔色の悪い御仁が、その所縁の品を全て知っているとは聞きましたが・・」
「そ・そう・・ですか・・・」
クラークの覚えが確かなら。 現・国王の父親の忠実なる剣と謳われたのが、このハレンツァである。 今、近衛騎士団総団長をしているのが、第二王子のリオンであり。 ハレンツァの跡を一人挟んで継いだのが、王国剣術指南役を続ける剣士テトロザだ。 その二人以外で、前王の心許した側近のハレンツァに事を伝えていないとは・・・。
(何か、深い理由でも在るのだろうか・・・)
ユリアの心配そうな顔は、助太刀に行ったセイルの身の上だけでは無いのを、見下ろしたクラークは見て取っていた。 自分の驚いた顔が、そうさせたのであろう。
さて。
助けに向かったセイルとアンソニーは、程なくして戻って来た。 一緒に居たのは、助けられた冒険者達3人。 一人は、右足を食い千切られていて。 止血だけされて、仲間に肩を貸して貰って立っている状態だ。
それを見たハレンツァは、
「コレは酷い。 御主達だけで戻れるのか?」
と、近寄って聞く。
兵士の一人で、入隊したばかりの新米兵士を、一人一緒に付けさせたハレンツァ。 クラークは、彼に確かな人間性を見つけた。 冒険者などの安否を気遣う貴族や政府重臣は、先ず少ないからだ。
セイルは、アンソニーに馬車前で。
「どうやら長年の間に、別のモンスターが住み着いているのでは在りませんか? お屋敷側では無く、此方側に」
眉間を少し険しくさせたアンソニーは、深く俯き。
「の、様だ。 恐らく、支配者が消えたと思って、支配の触手を伸ばし始めたのだろう。 かなり離れた湖の近くに、強い死霊の気配を感じる・・。 先程のポリアさんの一団でないと、相手は難しいやも知れぬ」
セイルは、ユリアとクラークを一瞥してから。
「早めに回収を終えて、明日は我々も掃討作戦に参加しましょうか。 少しでも、我々で潰しましょう」
その言葉に、アンソニーは瞑目して頷く。
「嗚呼・・。 冒険者とは、仲間を思うと聞いていたが・・。 思われてその温もりを感じるよ」
ユリアとクラークが見るアンソニーは、明らかに罪の意識を蟠せる奥深い淵の底に居る。 セイルは、その罪の意識を少しでも拭おうと言ったのだろう。
クラークは、セイルに関心して。
「まだ・・若いのにの」
だが見つめているユリアも、細々とした声で。
「色々見て来てる・・。 お金が在る分だけ、汚い事も見てるモン」
これには、クラークも家柄で身に覚えが在り。
「人一倍在ると云うのも、面倒が多いな」
冒険者と兵士を見送り、直ぐに進み始めた。 マガルとカミーラが待つ屋敷の敷地入り口の門前まで、更に2回も冒険者を助ける戦いをした。
兵士の安全を考え。 モンスターの気配を感じると、直後に馬車を停めてセイルとアンソニーが向かう。 クラークとユリアを残すのは、万能に魔法を使えるユリアと戦い慣れたクラークを残す事で。 セイルとて、安心出来るからだろう。
馬車に迫った亡霊を、クラークと連携して倒したユリア。 モンスターに怯えて腰を抜かす兵士を、セイルが心配する気持ちが解った。 そして、どうしてこんな弱腰の兵士を国王が遣したのか・・。 疑問だった。
どうも、騎龍です^^
ちょっと間隔空きましたが更新です^^>
今回は、少し文面が荒いままですがそのまま入れました。 読み難かったらスイマセン^人^
ご愛読、ありがとうございます^人^