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エターナル・ワールド・ストーリー  作者: 蒼雲騎龍
K編
48/222

二人の紡ぐ物語~セイルとユリアの冒険~2

                 セイルとユリアの大冒険 2





                   ≪王と王子と冒険者≫






世界で最も平和を訴えるフラストマド大王国にて。 セイルとユリアは、クラークを加えて新チームを結成した。 そして、密かながらに、国の危急存亡の大事態の可能性を孕んだ、子供達の行方不明事件を解決した。


明くる日。 現・フラストマド国王に呼ばれて、城に赴いたセイルとユリア。 其処で、自分の身を恥じて、その及ぼした迷惑を死ぬことで消そうとした王子、アンソニーの事を王妃より聞かされる。 王妃は、国王の意思をセイルに伝えた。 アンソニーを冒険者として、セイルのチームに同行させて欲しいと・・。


セイル達は、アンソニーの過去を知り得ていて。 また、彼を否定しなかった。 だから、藁をも縋る思いだったのかもしれない。


セイルは、アンソニーの意思が重要だと言った時。 その場に、時の国王が入ってきた・・・。


平伏すクラークや頭を下げたイクシオ達。 だが、セイルとユリアは、驚いた顔でその国王である男性を見た。


ユリアが、先に国王を指差して。


「うっ・うそおおおっ?!!!!」


セイルも、目を見開いて。


「あ・・クランの小父さん?」


姿を見せた国王とは、60を過ぎた感じの白髪男性だった。 温厚そうな長身の初老紳士で、微笑む顔は印象的な人物である。


クラークは、セイルが国王の顔を知っているらしい素振りに、正直度肝を抜かれた表情を見せて。


「お・お知り合いか?」


慌てる様子のセイルは、国王とクラークを見交わしながら。


「いえ・・あっ。 お祖父ちゃんの知り合いで、吟遊詩人だって・・・昔から何度も」


部屋の中に歩いて来た国王は、金の王冠を頭部に頂き、シルバーの錫杖を片手に白いマントを靡かせて来る。


イクシオ達は、何が何だか解らない顔で、セイルと国王を見ていると。 


「ふふふ、御久しいな。 セイル殿に、ユリアちゃん」


と、国王は言って来るではないか。


王妃が、隣に来た王を見て。


「まぁ、アナタ。 本当にお知り合いだったの?」


「うん。 お忍びでエルオレウの所に行ってた時は、この二人に毎回世話に為ってたよ。 ウハハハ、セイル殿とユリアちゃんが、まさか冒険者として来るとは、私も思わなかったケドね」


語尾が砕ける国王の口から、あの有名な冒険者の剣神皇エルオレウの名前が出る。 イクシオ達は、驚きを見せた。


王妃は、呆れた顔をして。


「まぁ、アナタったら。 こんな子供にまで迷惑を掛けて・・」


「いやいや。 セイル殿は、実に優秀な剣士じゃよ。 私は、彼が10歳ぐらいから手合わせしてるが、未だ負けっ放しじゃし。 エルオレウが剣の相手してくれないから、孫にお願いしてるまでじゃ。 ユリアちゃんには、馬鹿にされっ放しだったケド」


と、嬉しそうに微笑む国王。


セイル以外の全員が、恐れ多いユリアに向いた。


見られたユリアは、苦々しい笑みで。


「だ・だってさ・・、すっ・すす凄くドン臭いから・・。 あははは・・・」


国王は、ユリアを見て笑い。


「ドン臭いは無いでしょう~に。 セイル殿が強過ぎるんだよ~。 全く、流石はエルオレウの孫だよ、うんうん。 全く歯が立たないんだもの」


と、国王は、なんとも気さくな表情でセイルを見る。


まだセイルの素性を知らなかったイクシオ達は、その余りの衝撃に。


「うそおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーっ!!!!」


大声の所為か、お城の屋根に被った雪が落ちた・・・。


さて、国王を囲んで話が再開された。 其処には、王妃に促されてアンソニー王子も同席している。


国王・クランベルナードは、アンソニーの同行をセイルに頼んだ。 アンソニーもまた、冒険者としてこの世を流離う事をセイルに望む。


話が真面目な内容なだけに、セイルは、アンソニーに再度意思を確かめた。


「アンソニー様、一度冒険者と成られたら・・もう王子では居られませんよ」


死人の顔ながら、何処か悟りの境地に踏み込んでいる表情のアンソニーは、静かに頷く。


「ああ、それは構わないよ。 寧ろ、しがらみから解き放たれるのだ。 これ以上の望みは無い。 それに、我が国の危機を。 私の身に掛けられた暗黒呪術を断ち切って、あの悪魔の企みを阻止してくれた君達に、出来る力添えはしたい。 そして何より、200年以上も過ぎた今の世界を・・見てみたくなった」


セイルは、アンソニーを見て微笑んだ。


「では行きましょうか。 王子様も、僕と同じ居場所の無い厄介者みたいですし、丁度イイですね。 悲しむ人が少ない・・・」


セイルの言葉に、その場の皆が黙った。 ユリアは横を向いて急に黙り。 クラークは、少し驚いた顔をする。


国王は、セイルを見つめて。


(やはり・・か。 エウオレウ、お前はハレシュには敵わないよ。 人としてな・・・)


セイルは、直ぐに旅立つ事を申し出た。 


アンソニーもまた、了承する。


国王クランベルナードは、セイルに膝を向けて。


「のお、セイル殿。 もし旅立つとして、やはり南へか?」


「はい。 世界最大の交易都市、アハメイルに立ち寄ってみたいので」


微笑む国王は、緩やかに頷くと。


「では、其処に行くのに、一つ仕事を頼まれてくれんかの~」


急な申し出だった。 キョトンとしたユリア。 国王を見返すセイルやクラーク達。


アンソニーは、国王に。


「陛下。 それは、昨夜の事ですか?」


「うむ。 輸送も危なっかしいから、丁度イイと思う」


セイルは、二人を交互に見交わして。


「“輸送”? 何かの護衛ですか?」


すると、アンソニーが先に。


「そうです。 私の眠っていた地下には、まだ手付かずの宝物が少し眠っています。 もし、他人の手に触れられてしまえば、その宝物はどうなるやら。 私が王子の頃に預けられていた印字や、マリアンヌと兄上から寄贈された品も在ります」


その後、国王が代わって。


「実は、その品を護って貰える様に。 アンソニー殿は、信頼置ける美術館に寄贈を希望したのだよ。 丁度アハメイルには、王国の歴史を研究する若い貴族が居ての。 ワシとその貴族とは血縁で、美術館も営んでいるから丁度良いと思うたのよ」


ユリアは、どうも訳の解らないので率直に。


「何で、私達に護衛させるの?」


国王は、幼い頃から知人として知り合ってたユリアには、対等の姿勢で。


「う~ん、それがさ~。 一々兵士や騎士を動かして品を取り寄せると、色々と回りにバレるでしょ~。 それに、国で動けばさぁ~、金を積んででも王族所縁の品を欲しがる意地汚ぁ~い貴族とか~。 かっぱらってでも、何処かに転売しようとかすると~ぞくとか出る訳なのさ。 だから、さっさとアンソニー殿に、宝物を検めて貰って。 その上で、信用の出来る美術館に一筆添えて、そのまま寄贈したほ~が早いかな~と思ったんですよ。 ユリアちゃん」


その砕け切った会話に、セイルは呆れて横を向き。


(あの~、僕と言葉遣い似てるんですけど~。 今、国王でしょ? お忍び旅の時と同じに為るの、ヘンじゃ~ないっすか?)


しかし、ユリアも気性が気性なだけに、こうなると平然とタメ口に為り。


「なっさけないわねぇ~。 貴族ってのも、ダメ人間ばっかじゃん」


その口の利き方に、イクシオ達は卒倒しかけ。


クラークは、頭痛がして来る。


(おいおい、ユ・ユリア殿・・・相手は国王陛下だぞ)


だが、国王もとことん砕けた者で。


「そ~なんだよっ。 どいつもこいつも、金目の物に為ると、国の遺産でもへ~ぜんと欲しがりやがるのさ。 意地汚いって思うでしょ?」


「うんうん、クランのオッサンの言う通りだと思う。 ・・あ、国王様の」


「いやいや、オッサンでいいって。 大体さ~、貴族がさあ~・・・」


そんなユリアを挟んで、長いソファーに座り直しているセイルとクラークは、背もたれの方に逃げる。


(セ・セイル殿っ!! ユリア殿が・・国王陛下を・おおおおオッサンと・・・)


(お忍びで祖父の友人と思ってた頃は、平気で“オッサン”と・・・。 抜けませんね、ヤバイっす)


だが、この楽しい雰囲気に、王妃がジトっとした目に変わって。


「アナタ。 お忍びの旅は、各国の平和の情勢を伺うハードなスケジュールだと聞いてましたが? 随分と楽しそうに、ご旅行してらっしゃったのね」


王妃の睨みに、国王はビクんと背伸びし。


「いっ・いやっ・・。 帰りに、ちと・・立ち寄ったまでだよ。 あはは、ホラ、私も剣術で鍛えんと。 いざ有事の際には、格好付けてでも戦闘に行くしさ。 あはっ・あははは・・・」


だが、そんな国王の態度を見たユリアは、疑る様に目を細め。


「ウッソだぁ~。 セイルに半ボッコにされて、泣きべそ掻いて飲み屋に行ってたじゃんっ。 売り子の若い女の子にさぁ・・・」


国王は、パッとユリアに向いて。


「わーっ、わああーーーっ。 ユリアちゃんっ、シーっ!!」


と、大慌てで止める。


すると、王妃の顔は鬼の如く激変し。


「ア・ナ・タっ!!! まさかっ、他の下々の娘とおおおおお・・・」


王妃の怒った顔を見る国王は、真っ青な顔に為って。


「ちちち違うってっ! たっ・偶々・・ののっ・飲み過ぎて・・、その・・かっ介抱されたアアアア・・・・」


ユリアは、必死に言い訳をする国王に向かって。


「嘘つきっ。 しみじみと奥さん死んで居ないって言って、売り子のオネ~サンの肩抱いてたじゃん」


国王は、止めを刺されたと思い。


「あ゛」


哀れな男の末路を予想したアンソニーは、目を瞑り。


「フッ、終わったな」


王妃は、国王の襟を掴むとスクッと立ち上がり。


「オホホホ、皆様。 少し、席を外させて頂きますわね」


と、国王を椅子から引き摺り下ろした。


誰も、何も言えない中で。


「うわあああっ、ごっ誤解だってっ!! 話せば解るぅっ、お前ええぇぇーーーーっ!!!!!」


ズルズルと引き摺られて行く国王を見たセイルとクラークは、瞑目して合掌。


ユリアは、半笑いで。


「ジゴージトクじゃん。 あはははは・・・」


隣の部屋に、国王と王妃は入ったらしい。 必死で誤る国王の泣き声と、ヒステリックに怒り散らす王妃の声が少々続いた。


イクシオは、独り身の自分に安堵するように。


「オンナはおっかね~。 ふう~、相手居なくて良かったゼ」


そこに、腕組みのエルザが呆れた感じで。


「アラ、イクシオ。 お相手が居たら、疚しく思われる筋合いが在るの?」


いきなり言われてもどかしいイクシオは、セレイドやキーラを見て。


「そりゃ~なぁ~、男ならそうゆうのは一つ二つなぁ~」


だが、瞑目して余所見もしないセレイドは、


「さ~。 私は、女性には縁が無いので。 サッパリ解らないですな」


と、アッサリと否定。


キーラも、静かに瞑目して。


「僕も同じですね。 相手にされないので、良く言ってる意味が解りません」


セレイドが、墓穴を掘ったイクシオに。


「御主も、一度は誰かに怒られた方がイイのではないか? そうすれば、少しは酒癖の悪さが収まるかも知れんぞ」


テンガロンハットを被り直すイクシオは、どうも居心地が悪くなった場を嫌って。


「ウルセっ、ハゲ坊主に言われたかないねっ!」


と、威勢を通した。


さて。


少しして、顔中に痣を作った国王と、荒事を済ました王妃が戻って来た。


ユリアは、セイルに。


(ソ~ゼツだね)


セイルは、可愛そうな顔をつきを国王に向けつつ。


(原因作ったの、ユリアちゃんでしょ)


(浮気が悪いっ!!!!)


(そーですか)


クラークは、全く威厳や尊厳の見えない国王に驚いた。 自分達の様な下々の者に、壁を作らずに在りのままを曝け出せる王族は、非常に少ない。


(なるほど。 現フラストマドの国王は、各国の王達が相談を寄せる上。 信頼の置ける人物と兄上が言っておったが・・・。 小さき事に拘らぬ人物らしい。 我が国の国王とは、すこ~し違うの)


フルボッコされたままの姿で、国王はセイルに仕事の内容を打ち明ける。 アンソニーと共に、朽ち果てた邸宅に赴き。 宝物や王族所縁の品を探し出して、それを確保し。 南に在る世界最大の大交易都市アハメイルに、無事送り届けると云う内容だ。 その輸送に使う馬車等は、国王が自ら手配すると云う。


更に。 アンソニーは、セイルに。


「セイル君。 恐らく、私の屋敷の敷地内を徘徊する一部のモンスターは、奥の森から這い出て来ているに違いない。 国の為にも、なるべくモンスターを排除する方向で踏み込んで貰いたい。 明日から、冒険者達にも、再度国として応募を募り。 騎士と寺院の僧侶達の合同討伐隊を組織して、モンスター掃討行動を起こすそうだ。 その中に紛れ、遺体回収の名目で奥に踏み込むのがいいだろう。 掃討行動は、3日間で行われるそうだから。 初日の深夜に奥で物を回収し。 次の日は一日休んで、明々後日に旅立つのが、最も最善だと思う」


セイルは、ユリアとクラークを見て。


「請けますか?」


ユリアは、直ぐにセイルの背中を叩く。


「当ったり前じゃんっ!!」


「いったぁ~い、ユリアちゃ~ん手加減してよぉ~」


「うるさい、お前とゆ~ヤツはっ。 アンソニー様助けて仲間に入れたんだから、仕事は請けてト~ゼンでしょ?」


「うぃ~、解ってますけど~。 一応は、確認しないと~」


ユリアは、クラークを見て。


「請けないって話無くない?」


いきなり振られたクラークは、咳払いを一つして。


「オホン。 ま、請けてイイと思いますな。 ど~せ、他においそれと回せる仕事でも無いしの」


ユリアは、セイルを見て頷き。


「ホレ、許可取った」


セイルは、アンソニーに向いて。 


「請けます。 では、これからアンソニー様をチームに加盟しに、斡旋所へ行きましょうか」


頷くアンソニー。 


その様子を見たクラークは、国王に。


「陛下」


「ん? 何だろう」


「はい。 今回のお仕事は、国王様からの直々の仕事ですから。 一々斡旋所を通さずとも、直接我々が請けた形として主に報告致しましょう。 成功の後に、報酬を遅れて斡旋所経由で受け取っても構わないと思います。 内々の仕事ですし、噂やチーム名の拡大援助は、今回に限っては要りますまい。 どうか、安全な方法を取って下さい」


国王は、クラークを見返して柔らかい微笑みを返し。


「はいはい、エステムルス家の御内縁クラーク殿。 流石に、有名な冒険者だけありますなぁ~。 御思慮深い・・」


「詰まらぬ噂をお耳に入れまして」


クラークは、確かに貴族のソレを身に付けていた。 


セイル達は、アンソニーを伴って城を後にする。 イクシオ達と喋りながら、雪色一色に染まる街に出た。





                    ≪剣士のアレコレ≫





マントのフードを深く被るユリアは、雪の舞う中に聳える王城を見返して。


「王様ってのも、色々面倒なモンね。 一番偉いのに、周りに翻弄されてるなんてさ~」


クラークも、王城を見上げて。


「仕方ないですな。 一人で、王の仕事は出来ない。 様々な配下の者を動かす立場であるからこそ、あの様に為られたのだ。 いや、確かな人物ですよ」


イクシオは、仲間の一同を見て。


「よし。 んじゃ、俺等は明日から始まる掃討活動の方に参加してみるか。 斡旋所に戻って、話し聴こう」


赤いマントをキッチリ閉めたエルザが、イクシオに。


「それより、鞭でも買い換えたら? あんなに短いので戦う訳?」


「あ゛」


骸骨戦士に、鞭を短く斬られた事を思い出したイクシオ。


同時に、ユリアもセイルに横目を向けて。


「セ~イル、アンタも剣ぐらい買いなさいよ。 無駄の多い剣士サン」


「あははは~、なるべくヤッすいの探したい」


エルザは、昨日のセイルの強さを思うとむず痒い。 もっと素晴らしい剣でも持っていて、当たり前と思えたからだ。


「ホント、その辺の鈍ら剣じゃお話に為らないわよ。 セイル君の家って、世界最高峰の大金持ちなんでしょ? スッゴイ名剣でも、御祖父様に買って貰えば良かったのにさぁ~」


すうるとセイルは、大いに苦笑い。


「あははは・・・はぁ~。 旅して探そ」


街中に向けて歩き出した一同。


ユリアは、クラークと並んでアンソニーの横に付け。


「アンソニー様って、魔法使えるンだよね?」


死人の肌ながら、麗しく感情豊かな微笑みを見せる不死の王子は。


「そうだよ。 魔想魔術が遣えていたんだが、今では暗黒魔法も使えます。 ま、暗黒魔法の大半は、人に悪影響を及ぼすのでね。 極力遣わない様にしますが」


話に乗るクラークは、ユリアの横から。


「剣は、如何ですか?」


「剣術は、カラキシですね。 運動は得意でしたが、魔法以外では体術を少し習っていました」


ユリアは、肩にヒョッコリ現れた水の精霊サハギニーや、闇の精霊シェイドと見合い。


「格闘技だって、セイルみたい」


アンソニーが闇の力を強力に有し。 極夜と云う環境が、昼間にシェイドが現れる事を許す。 アンソニーは、精霊と語るユリアを微笑ましく見ていて。


「素晴らしい・・・。 本当に、精霊に愛された加護を持っているのだね」


ユリアは、アンソニーを精霊達と見返して。


「そ、産まれ付き精霊達がアタシの家族。 以外は、セイルと孤児院のみんなかな」


アンソニーは、深く一つ頷いた。 細かく尋ねなくても、ユリアの苦労が解る様だった。


クラークは、ユリアを見てからアンソニーに顔を移し。


「ユリア殿の能力とは・・、そんなに凄いのですか?」


「ええ。 時代時代の世界に、一人二人居るか居ないかの異能者です。 先ず。 こうして精霊が、我々と意思の疎通が出来ている事自体が、とても特別なのですよ」


ユリアは、サハギニーと頷き合い笑い合う。


「だって~」


「ユリアは、チョー特別だゼ」


クラークは、初めての精霊使いがユリアなだけに。


「ふむぅ・・・。 全く解らない」


アンソニーは、雪を見上げて。


「この目に見える雪も、風の精霊と水の精霊が交わる季節と云う中で、この様に生み出した現象です。 普通、精霊は人には見えず。 自然の所々に溶け込んで生きています。 精霊と意思の疎通をしようとしても、火が話す訳でも無く。 水が感情を持っている訳では無い。 精霊の力を感じる人は、確かに偶に生まれますが。 それは、居ると云うのを解るだけに過ぎないのです。 しかし、ユリアさんの加護は、特異の中でも特異。 精霊と会話が出来るし、こうして我々ですら意思の疎通を可能にする。 精霊がユリアさんの加護を通し、真に信頼をして人と同じ感情表現を得ている」


クラークは、ユリアをマジマジと見て。


「す・凄いですな~」


サハギニーは、魚の身を偉そうに踏ん反り返らせ。


「うむ。 ユリアはエロ・・いや、偉い」


ユリアとシェイドは、半目で。


「おいっ!!」


誤るサハギニーを見るアンソニーは、確かにと頷く。


「普通の精霊術師は、魔法の呪文に組み込まれた召喚法を遣っているに過ぎない。 意思の疎通も無いので、その辺に居る精霊を感じては、呪文にて強引に使役する遣り方なのです。 ですから、このユリアさんの元に居る精霊達の様に、感情も有りませんし。 また、使役する道具でしか無い様です。 その為に、精霊遣いの大半は、50半ばで死んでしまいます。 過度に自然の力である精霊を使役して、強引に召喚する為に。 己が命も、微量づつ削って居ると云われますね」


ユリアは、それには初耳で。


「うはっ、ソレ知らない。 アタシ、元から精霊サンとは家族だから、呪術要らないし。 遣った事無いモン」


「でしょう。 ユリアさんには、呪文など必要の無い物です。 精霊は、元から神が遣わした四季と云う自然と、生きる全ての物が有する生命を支えるエネルギーが共に融合して、大いなる一年の流れを生み出した大地と空と水と火の営み。 その力を強引に引き出して遣う以上は、何らかの代償が必要なのだと思います」


クラークは、詳しく語られて大いに納得。


「なるほど・・なるほどに」


ユリアは、精霊達と見合って不満顔に。


「そんな強引に召喚するからイケないのよ。 精霊を呼ぶ魔力が有るなら、魔想魔術か自然魔法でも遣えばイイんだわ。 強引に自然の精霊を使役するなんて、サイテー」


サハギニーも、シェイドも、腕組みしてユリアに同意する。


アンソニーとクラークは、感情を見せる精霊を見ると、それが確かだと思えた。


さて、一方で。


セイルの周りに居るイクシオやエルザ。 イクシオは、セイルに。


「しかし、あのエルオレウ様の孫た~ねぇ・・・。 確かに、剣捌き凄かった訳だ」


エルザも半ば呆れた顔で、


「良く冒険者に成ったわねぇ~。 歩くお金持ちだよ~」


と、セイルを検めてマジマジと見る。


セイルは、ヤケクソ染みた笑いを見せた。


その話の中でセレイドは、ふと何かを思い出して。


「そういえば・・。 魔法学院の更に東方には、多くの島と大陸の極一部だけを有する小国が有ったが・・。 そこで作られる“カタナ”と呼ばれる剣は、数が非常に少ないながら。 切れ味恐るべき名剣とか。 セイル殿、旅の中で訪れて見ては如何かな?」


その話に、エルザはセレイドに。


「“カタナ”? あの、細身の刀身で、値段のバカ高い装飾剣の事?」


「うむ。 何でも、我々が各地で目にする装飾派手やかな“カタナ”とは、その小国が生み出す剣のレプリカらしい」


セイルも、セレイドに向いて。


「レプリカ・・紛い物ですか」


話の連鎖で、学者としての知識を引き出したイクシオが云うには。


「確かに、東方の最果てで生み出される“カタナ”ってヤツは、造り手が一子相伝の隠遁生活を送ってる鍛冶屋だけが造るらしい。 非常に質のイイ素材を使うから、年に何振りしか造られない業物だとか。 ただ、聴くに“カタナ”の製造者達は、何故か持ち手を選ぶらしい。 店に卸すのでは無く、何らかの形で自ら認めた相手だけに、自分の剣を売るそうだ」


エルザは、眉間にシワを寄せて。


「まどろっこしいやり方だねぇ~」


「聴いた話だがな」


そんな話をしている中で。 エルザが有名な過去の話を思い出す。


「そ~いえば・・、確かセイル君のお祖父さんと共に居た斬鬼帝ハレイシュ様って、黒い鞘のカタナを持ってたんじゃ無かった? 晩年は遣ってないみたいだったケド。 息子さんと一緒に冒険してた頃は、まだ遣ってたよ~な」


セイルは、その事は良く知っている。 斬鬼帝ハレイシュとは、過去に自分が幼いながらに2度会っていたからだ。


「黒霊刀“テラ・ナ・レイドルク”。 名前は、“天上の至宝”と云って、稀代の名剣ですよ。 確か、畏霊いれいシュツルムヘイドと云う神の魂が宿る、インテリジェンス・ソードだと思います」


ハッとしたイクシオ。


「あっ、そうそう」


などと言っては思い出した。 漆黒の鞘に、白銀色の柄をしたカタナ・・、ハレイシュの持つ名剣だ。 


エルザは、瞑れた様な細い眼をニコニコさせて。


「ね~、セイル君。 君の御祖父さんが持ってた剣って、どんなのだったの?」


「あ~、お祖父ちゃんですか。 持ってた剣は、大剣と長剣の間ぐらいで、火炎剣と呼ばれる類の“フランベルジェ”ですね。 ただ、刀身に遣われたのが特殊な鉱物で、持ち手の覇気を宿す力を持っているんです。 剣自体より、扱う側の技量を問われる至極の名剣です」


聞いたエルザは、ポカ~ンとしてしまう。


「何?」


咄嗟にイクシオに聞いて見る所が、実に仲間らしい。 イクシオは、テンガロンハットに積もる雪を払い落とし。 近くを走る馬車に顔を向けながら。


「俺は、イマイチ・・」


説明が足りなかったと思うセイルは、柔らかく笑う。


そこに、離れて聞いていたアンソニーが。


「その剣の違いは、話に出た二人の剣士の質の違いを表しているのだよ」


聞いたセイルは、静かに頷いた。


大柄な僧侶戦士セレイドは、不死者ながらに冒険者と成ったアンソニーへ、少し雲行きの悪い顔を向け。


「“剣士としての質の違い”・・、益々意味が解らぬ」


と、呟く。


アンソニーは、クラークに向いて。


「恐らく貴方なら、意味が解るだろう?」


クラークは、短く。


「凡そは」


と、言った後。 前を向いて、大通りの雪の世界を見つめて。


「セイル殿の祖父殿であるエルオレウ様は、剣技を得意とされた方だ。 闘志や覇気などを剣に纏わせ、鋭い剣圧で生み出す烈風の刃である“ソニックブレード”の使い手だったとか。 他にも、セイル殿と同じ魔法剣を扱えた。 しかし、一方ハレイシュ様は、剣術の技量そのものに優れた剣士。 技のエルオレウ、剣術のハレイシュと分けられた。 剣だけを扱わせるなら、ハレイシュ様に分が在り。 多彩な技として見るなら、エルオレウ様に優が上がる。 あのお二人は、そうゆう意味では永遠のライバルであるのだ」


エルザやイクシオは、セイルを見て。


「貴方って、御祖父さんの生き写しなのね」


「はぁーっ、血って争えないモンだわな~」


しかし、クラークは更に。


「いや、セイル殿はまた別だ」


聞いていたユリアは、興味津々っと云った顔で。


「どう違うの?」


「ウム。 エルオレウ様は、魔術の力は差ほども無く。 魔法剣は、魔力を宿して、不死などのモンスターにも致命傷を負わせる方便としていたに過ぎない。 そして、セイル殿の今の力量では、まだエルオレウ様程の覇気や気力を吐き出して、剣圧の烈風波などは生み出せない。 セイル殿が遣われる魔法は、本物の魔力を礎とした魔法その物で、それを剣に宿して戦うなど前代未聞の事だ。 大昔には、剣と魔法を両立した異才が居たと聞くが。 セイル殿の魔法剣は、まさにその入り口。 磨き切れば、エルオレウ様とも、ハレイシュ様とも違う剣士に行き着く。 私は、それを見届けてみたくてな。 こうして御一緒しているのだ」


クラークの説明に、満足のアンソニーは微笑んで。


「ま、まだまだ未熟な入り口ですけどね。 この若さで体得しているのですから、先は面白いでしょうね」


と、セイルに笑い掛ける。


「えへへ・・スゴイってさぁ~」


照れるセイルに、ユリアはススス・・っと近寄り。


「おい、チョーシこくなよ。 あと剣を幾つ無駄にすれば、その剣術ってヤツは完成するんだ?」


セイルは、途端に頭を抱え。


「ううう・・・無駄な出費があああ・・・」


ユリアは、ローブの上に着込むコートの腰に手を当て。


「全く、無駄が多過ぎンのよ。 大成する前に、剣不足で足手纏いに成るんじゃないでしょう~ね?」


セイルは、ユリアに縋って。


「ユリアさまぁ~、奢って~」


「フン。 仕事での分け前、アタシに半分くれる? アンタの半分よ」


「きっ・厳しーよおぉぉ~」


「当たり前じゃ」


セイルは、ユリアに頭が上がらずにゲンナリである。


笑う皆だが。 生まれの良いハズのセイルが、ユリアへ対等の扱いをしているのが驚きでもあった。 ま、一国の国王でも知人なら対等に接するユリアだから、有りでも在るが。


しかし、ユリアとセイルの二人が居る所に笑いは絶えず。 イクシオ達から見て、アンソニーの居場所として、コレほどに適したチームも無いと思えた。 恐らく、行く先々で色々と冒険に挑み。 燻る要素が見えない分だけ走って居られる。 立ち止まったり振り返る時は、自ずと遣って来る訳だ。 だから、意味深な過去を持つ者ほど、こうゆうチームは有り難いだろう。


アンソニーもまた、気楽に笑える自分の居場所を、若きセイルとユリアに見つけていた・・。

どうも、騎龍です^^


セイル編の続きと成ります^^ 内容が長いので、少し間隔を開けて一話一話を長文にするか。 細かく繋ぐかの繰り返しに為るとは思いますが、ごゆるりとお付き合い下さい。


ご愛読、ありがとうございます^人^

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