二人の紡ぐ物語~セイルとユリアの冒険~2
セイルとユリアの大冒険 2
≪王と王子と冒険者≫
世界で最も平和を訴えるフラストマド大王国にて。 セイルとユリアは、クラークを加えて新チームを結成した。 そして、密かながらに、国の危急存亡の大事態の可能性を孕んだ、子供達の行方不明事件を解決した。
明くる日。 現・フラストマド国王に呼ばれて、城に赴いたセイルとユリア。 其処で、自分の身を恥じて、その及ぼした迷惑を死ぬことで消そうとした王子、アンソニーの事を王妃より聞かされる。 王妃は、国王の意思をセイルに伝えた。 アンソニーを冒険者として、セイルのチームに同行させて欲しいと・・。
セイル達は、アンソニーの過去を知り得ていて。 また、彼を否定しなかった。 だから、藁をも縋る思いだったのかもしれない。
セイルは、アンソニーの意思が重要だと言った時。 その場に、時の国王が入ってきた・・・。
平伏すクラークや頭を下げたイクシオ達。 だが、セイルとユリアは、驚いた顔でその国王である男性を見た。
ユリアが、先に国王を指差して。
「うっ・うそおおおっ?!!!!」
セイルも、目を見開いて。
「あ・・クランの小父さん?」
姿を見せた国王とは、60を過ぎた感じの白髪男性だった。 温厚そうな長身の初老紳士で、微笑む顔は印象的な人物である。
クラークは、セイルが国王の顔を知っているらしい素振りに、正直度肝を抜かれた表情を見せて。
「お・お知り合いか?」
慌てる様子のセイルは、国王とクラークを見交わしながら。
「いえ・・あっ。 お祖父ちゃんの知り合いで、吟遊詩人だって・・・昔から何度も」
部屋の中に歩いて来た国王は、金の王冠を頭部に頂き、シルバーの錫杖を片手に白いマントを靡かせて来る。
イクシオ達は、何が何だか解らない顔で、セイルと国王を見ていると。
「ふふふ、御久しいな。 セイル殿に、ユリアちゃん」
と、国王は言って来るではないか。
王妃が、隣に来た王を見て。
「まぁ、アナタ。 本当にお知り合いだったの?」
「うん。 お忍びでエルオレウの所に行ってた時は、この二人に毎回世話に為ってたよ。 ウハハハ、セイル殿とユリアちゃんが、まさか冒険者として来るとは、私も思わなかったケドね」
語尾が砕ける国王の口から、あの有名な冒険者の剣神皇エルオレウの名前が出る。 イクシオ達は、驚きを見せた。
王妃は、呆れた顔をして。
「まぁ、アナタったら。 こんな子供にまで迷惑を掛けて・・」
「いやいや。 セイル殿は、実に優秀な剣士じゃよ。 私は、彼が10歳ぐらいから手合わせしてるが、未だ負けっ放しじゃし。 エルオレウが剣の相手してくれないから、孫にお願いしてるまでじゃ。 ユリアちゃんには、馬鹿にされっ放しだったケド」
と、嬉しそうに微笑む国王。
セイル以外の全員が、恐れ多いユリアに向いた。
見られたユリアは、苦々しい笑みで。
「だ・だってさ・・、すっ・すす凄くドン臭いから・・。 あははは・・・」
国王は、ユリアを見て笑い。
「ドン臭いは無いでしょう~に。 セイル殿が強過ぎるんだよ~。 全く、流石はエルオレウの孫だよ、うんうん。 全く歯が立たないんだもの」
と、国王は、なんとも気さくな表情でセイルを見る。
まだセイルの素性を知らなかったイクシオ達は、その余りの衝撃に。
「うそおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーっ!!!!」
大声の所為か、お城の屋根に被った雪が落ちた・・・。
さて、国王を囲んで話が再開された。 其処には、王妃に促されてアンソニー王子も同席している。
国王・クランベルナードは、アンソニーの同行をセイルに頼んだ。 アンソニーもまた、冒険者としてこの世を流離う事をセイルに望む。
話が真面目な内容なだけに、セイルは、アンソニーに再度意思を確かめた。
「アンソニー様、一度冒険者と成られたら・・もう王子では居られませんよ」
死人の顔ながら、何処か悟りの境地に踏み込んでいる表情のアンソニーは、静かに頷く。
「ああ、それは構わないよ。 寧ろ、柵から解き放たれるのだ。 これ以上の望みは無い。 それに、我が国の危機を。 私の身に掛けられた暗黒呪術を断ち切って、あの悪魔の企みを阻止してくれた君達に、出来る力添えはしたい。 そして何より、200年以上も過ぎた今の世界を・・見てみたくなった」
セイルは、アンソニーを見て微笑んだ。
「では行きましょうか。 王子様も、僕と同じ居場所の無い厄介者みたいですし、丁度イイですね。 悲しむ人が少ない・・・」
セイルの言葉に、その場の皆が黙った。 ユリアは横を向いて急に黙り。 クラークは、少し驚いた顔をする。
国王は、セイルを見つめて。
(やはり・・か。 エウオレウ、お前はハレシュには敵わないよ。 人としてな・・・)
セイルは、直ぐに旅立つ事を申し出た。
アンソニーもまた、了承する。
国王クランベルナードは、セイルに膝を向けて。
「のお、セイル殿。 もし旅立つとして、やはり南へか?」
「はい。 世界最大の交易都市、アハメイルに立ち寄ってみたいので」
微笑む国王は、緩やかに頷くと。
「では、其処に行くのに、一つ仕事を頼まれてくれんかの~」
急な申し出だった。 キョトンとしたユリア。 国王を見返すセイルやクラーク達。
アンソニーは、国王に。
「陛下。 それは、昨夜の事ですか?」
「うむ。 輸送も危なっかしいから、丁度イイと思う」
セイルは、二人を交互に見交わして。
「“輸送”? 何かの護衛ですか?」
すると、アンソニーが先に。
「そうです。 私の眠っていた地下には、まだ手付かずの宝物が少し眠っています。 もし、他人の手に触れられてしまえば、その宝物はどうなるやら。 私が王子の頃に預けられていた印字や、マリアンヌと兄上から寄贈された品も在ります」
その後、国王が代わって。
「実は、その品を護って貰える様に。 アンソニー殿は、信頼置ける美術館に寄贈を希望したのだよ。 丁度アハメイルには、王国の歴史を研究する若い貴族が居ての。 ワシとその貴族とは血縁で、美術館も営んでいるから丁度良いと思うたのよ」
ユリアは、どうも訳の解らないので率直に。
「何で、私達に護衛させるの?」
国王は、幼い頃から知人として知り合ってたユリアには、対等の姿勢で。
「う~ん、それがさ~。 一々兵士や騎士を動かして品を取り寄せると、色々と回りにバレるでしょ~。 それに、国で動けばさぁ~、金を積んででも王族所縁の品を欲しがる意地汚ぁ~い貴族とか~。 かっぱらってでも、何処かに転売しようとかすると~ぞくとか出る訳なのさ。 だから、さっさとアンソニー殿に、宝物を検めて貰って。 その上で、信用の出来る美術館に一筆添えて、そのまま寄贈したほ~が早いかな~と思ったんですよ。 ユリアちゃん」
その砕け切った会話に、セイルは呆れて横を向き。
(あの~、僕と言葉遣い似てるんですけど~。 今、国王でしょ? お忍び旅の時と同じに為るの、ヘンじゃ~ないっすか?)
しかし、ユリアも気性が気性なだけに、こうなると平然とタメ口に為り。
「なっさけないわねぇ~。 貴族ってのも、ダメ人間ばっかじゃん」
その口の利き方に、イクシオ達は卒倒しかけ。
クラークは、頭痛がして来る。
(おいおい、ユ・ユリア殿・・・相手は国王陛下だぞ)
だが、国王もとことん砕けた者で。
「そ~なんだよっ。 どいつもこいつも、金目の物に為ると、国の遺産でもへ~ぜんと欲しがりやがるのさ。 意地汚いって思うでしょ?」
「うんうん、クランのオッサンの言う通りだと思う。 ・・あ、国王様の」
「いやいや、オッサンでいいって。 大体さ~、貴族がさあ~・・・」
そんなユリアを挟んで、長いソファーに座り直しているセイルとクラークは、背もたれの方に逃げる。
(セ・セイル殿っ!! ユリア殿が・・国王陛下を・おおおおオッサンと・・・)
(お忍びで祖父の友人と思ってた頃は、平気で“オッサン”と・・・。 抜けませんね、ヤバイっす)
だが、この楽しい雰囲気に、王妃がジトっとした目に変わって。
「アナタ。 お忍びの旅は、各国の平和の情勢を伺うハードなスケジュールだと聞いてましたが? 随分と楽しそうに、ご旅行してらっしゃったのね」
王妃の睨みに、国王はビクんと背伸びし。
「いっ・いやっ・・。 帰りに、ちと・・立ち寄ったまでだよ。 あはは、ホラ、私も剣術で鍛えんと。 いざ有事の際には、格好付けてでも戦闘に行くしさ。 あはっ・あははは・・・」
だが、そんな国王の態度を見たユリアは、疑る様に目を細め。
「ウッソだぁ~。 セイルに半ボッコにされて、泣きべそ掻いて飲み屋に行ってたじゃんっ。 売り子の若い女の子にさぁ・・・」
国王は、パッとユリアに向いて。
「わーっ、わああーーーっ。 ユリアちゃんっ、シーっ!!」
と、大慌てで止める。
すると、王妃の顔は鬼の如く激変し。
「ア・ナ・タっ!!! まさかっ、他の下々の娘とおおおおお・・・」
王妃の怒った顔を見る国王は、真っ青な顔に為って。
「ちちち違うってっ! たっ・偶々・・ののっ・飲み過ぎて・・、その・・かっ介抱されたアアアア・・・・」
ユリアは、必死に言い訳をする国王に向かって。
「嘘つきっ。 しみじみと奥さん死んで居ないって言って、売り子のオネ~サンの肩抱いてたじゃん」
国王は、止めを刺されたと思い。
「あ゛」
哀れな男の末路を予想したアンソニーは、目を瞑り。
「フッ、終わったな」
王妃は、国王の襟を掴むとスクッと立ち上がり。
「オホホホ、皆様。 少し、席を外させて頂きますわね」
と、国王を椅子から引き摺り下ろした。
誰も、何も言えない中で。
「うわあああっ、ごっ誤解だってっ!! 話せば解るぅっ、お前ええぇぇーーーーっ!!!!!」
ズルズルと引き摺られて行く国王を見たセイルとクラークは、瞑目して合掌。
ユリアは、半笑いで。
「ジゴージトクじゃん。 あはははは・・・」
隣の部屋に、国王と王妃は入ったらしい。 必死で誤る国王の泣き声と、ヒステリックに怒り散らす王妃の声が少々続いた。
イクシオは、独り身の自分に安堵するように。
「オンナはおっかね~。 ふう~、相手居なくて良かったゼ」
そこに、腕組みのエルザが呆れた感じで。
「アラ、イクシオ。 お相手が居たら、疚しく思われる筋合いが在るの?」
いきなり言われてもどかしいイクシオは、セレイドやキーラを見て。
「そりゃ~なぁ~、男ならそうゆうのは一つ二つなぁ~」
だが、瞑目して余所見もしないセレイドは、
「さ~。 私は、女性には縁が無いので。 サッパリ解らないですな」
と、アッサリと否定。
キーラも、静かに瞑目して。
「僕も同じですね。 相手にされないので、良く言ってる意味が解りません」
セレイドが、墓穴を掘ったイクシオに。
「御主も、一度は誰かに怒られた方がイイのではないか? そうすれば、少しは酒癖の悪さが収まるかも知れんぞ」
テンガロンハットを被り直すイクシオは、どうも居心地が悪くなった場を嫌って。
「ウルセっ、ハゲ坊主に言われたかないねっ!」
と、威勢を通した。
さて。
少しして、顔中に痣を作った国王と、荒事を済ました王妃が戻って来た。
ユリアは、セイルに。
(ソ~ゼツだね)
セイルは、可愛そうな顔をつきを国王に向けつつ。
(原因作ったの、ユリアちゃんでしょ)
(浮気が悪いっ!!!!)
(そーですか)
クラークは、全く威厳や尊厳の見えない国王に驚いた。 自分達の様な下々の者に、壁を作らずに在りのままを曝け出せる王族は、非常に少ない。
(なるほど。 現フラストマドの国王は、各国の王達が相談を寄せる上。 信頼の置ける人物と兄上が言っておったが・・・。 小さき事に拘らぬ人物らしい。 我が国の国王とは、すこ~し違うの)
フルボッコされたままの姿で、国王はセイルに仕事の内容を打ち明ける。 アンソニーと共に、朽ち果てた邸宅に赴き。 宝物や王族所縁の品を探し出して、それを確保し。 南に在る世界最大の大交易都市アハメイルに、無事送り届けると云う内容だ。 その輸送に使う馬車等は、国王が自ら手配すると云う。
更に。 アンソニーは、セイルに。
「セイル君。 恐らく、私の屋敷の敷地内を徘徊する一部のモンスターは、奥の森から這い出て来ているに違いない。 国の為にも、なるべくモンスターを排除する方向で踏み込んで貰いたい。 明日から、冒険者達にも、再度国として応募を募り。 騎士と寺院の僧侶達の合同討伐隊を組織して、モンスター掃討行動を起こすそうだ。 その中に紛れ、遺体回収の名目で奥に踏み込むのがいいだろう。 掃討行動は、3日間で行われるそうだから。 初日の深夜に奥で物を回収し。 次の日は一日休んで、明々後日に旅立つのが、最も最善だと思う」
セイルは、ユリアとクラークを見て。
「請けますか?」
ユリアは、直ぐにセイルの背中を叩く。
「当ったり前じゃんっ!!」
「いったぁ~い、ユリアちゃ~ん手加減してよぉ~」
「うるさい、お前とゆ~ヤツはっ。 アンソニー様助けて仲間に入れたんだから、仕事は請けてト~ゼンでしょ?」
「うぃ~、解ってますけど~。 一応は、確認しないと~」
ユリアは、クラークを見て。
「請けないって話無くない?」
いきなり振られたクラークは、咳払いを一つして。
「オホン。 ま、請けてイイと思いますな。 ど~せ、他においそれと回せる仕事でも無いしの」
ユリアは、セイルを見て頷き。
「ホレ、許可取った」
セイルは、アンソニーに向いて。
「請けます。 では、これからアンソニー様をチームに加盟しに、斡旋所へ行きましょうか」
頷くアンソニー。
その様子を見たクラークは、国王に。
「陛下」
「ん? 何だろう」
「はい。 今回のお仕事は、国王様からの直々の仕事ですから。 一々斡旋所を通さずとも、直接我々が請けた形として主に報告致しましょう。 成功の後に、報酬を遅れて斡旋所経由で受け取っても構わないと思います。 内々の仕事ですし、噂やチーム名の拡大援助は、今回に限っては要りますまい。 どうか、安全な方法を取って下さい」
国王は、クラークを見返して柔らかい微笑みを返し。
「はいはい、エステムルス家の御内縁クラーク殿。 流石に、有名な冒険者だけありますなぁ~。 御思慮深い・・」
「詰まらぬ噂をお耳に入れまして」
クラークは、確かに貴族のソレを身に付けていた。
セイル達は、アンソニーを伴って城を後にする。 イクシオ達と喋りながら、雪色一色に染まる街に出た。
≪剣士のアレコレ≫
マントのフードを深く被るユリアは、雪の舞う中に聳える王城を見返して。
「王様ってのも、色々面倒なモンね。 一番偉いのに、周りに翻弄されてるなんてさ~」
クラークも、王城を見上げて。
「仕方ないですな。 一人で、王の仕事は出来ない。 様々な配下の者を動かす立場であるからこそ、あの様に為られたのだ。 いや、確かな人物ですよ」
イクシオは、仲間の一同を見て。
「よし。 んじゃ、俺等は明日から始まる掃討活動の方に参加してみるか。 斡旋所に戻って、話し聴こう」
赤いマントをキッチリ閉めたエルザが、イクシオに。
「それより、鞭でも買い換えたら? あんなに短いので戦う訳?」
「あ゛」
骸骨戦士に、鞭を短く斬られた事を思い出したイクシオ。
同時に、ユリアもセイルに横目を向けて。
「セ~イル、アンタも剣ぐらい買いなさいよ。 無駄の多い剣士サン」
「あははは~、なるべくヤッすいの探したい」
エルザは、昨日のセイルの強さを思うとむず痒い。 もっと素晴らしい剣でも持っていて、当たり前と思えたからだ。
「ホント、その辺の鈍ら剣じゃお話に為らないわよ。 セイル君の家って、世界最高峰の大金持ちなんでしょ? スッゴイ名剣でも、御祖父様に買って貰えば良かったのにさぁ~」
すうるとセイルは、大いに苦笑い。
「あははは・・・はぁ~。 旅して探そ」
街中に向けて歩き出した一同。
ユリアは、クラークと並んでアンソニーの横に付け。
「アンソニー様って、魔法使えるンだよね?」
死人の肌ながら、麗しく感情豊かな微笑みを見せる不死の王子は。
「そうだよ。 魔想魔術が遣えていたんだが、今では暗黒魔法も使えます。 ま、暗黒魔法の大半は、人に悪影響を及ぼすのでね。 極力遣わない様にしますが」
話に乗るクラークは、ユリアの横から。
「剣は、如何ですか?」
「剣術は、カラキシですね。 運動は得意でしたが、魔法以外では体術を少し習っていました」
ユリアは、肩にヒョッコリ現れた水の精霊サハギニーや、闇の精霊シェイドと見合い。
「格闘技だって、セイルみたい」
アンソニーが闇の力を強力に有し。 極夜と云う環境が、昼間にシェイドが現れる事を許す。 アンソニーは、精霊と語るユリアを微笑ましく見ていて。
「素晴らしい・・・。 本当に、精霊に愛された加護を持っているのだね」
ユリアは、アンソニーを精霊達と見返して。
「そ、産まれ付き精霊達がアタシの家族。 以外は、セイルと孤児院のみんなかな」
アンソニーは、深く一つ頷いた。 細かく尋ねなくても、ユリアの苦労が解る様だった。
クラークは、ユリアを見てからアンソニーに顔を移し。
「ユリア殿の能力とは・・、そんなに凄いのですか?」
「ええ。 時代時代の世界に、一人二人居るか居ないかの異能者です。 先ず。 こうして精霊が、我々と意思の疎通が出来ている事自体が、とても特別なのですよ」
ユリアは、サハギニーと頷き合い笑い合う。
「だって~」
「ユリアは、チョー特別だゼ」
クラークは、初めての精霊使いがユリアなだけに。
「ふむぅ・・・。 全く解らない」
アンソニーは、雪を見上げて。
「この目に見える雪も、風の精霊と水の精霊が交わる季節と云う中で、この様に生み出した現象です。 普通、精霊は人には見えず。 自然の所々に溶け込んで生きています。 精霊と意思の疎通をしようとしても、火が話す訳でも無く。 水が感情を持っている訳では無い。 精霊の力を感じる人は、確かに偶に生まれますが。 それは、居ると云うのを解るだけに過ぎないのです。 しかし、ユリアさんの加護は、特異の中でも特異。 精霊と会話が出来るし、こうして我々ですら意思の疎通を可能にする。 精霊がユリアさんの加護を通し、真に信頼をして人と同じ感情表現を得ている」
クラークは、ユリアをマジマジと見て。
「す・凄いですな~」
サハギニーは、魚の身を偉そうに踏ん反り返らせ。
「うむ。 ユリアはエロ・・いや、偉い」
ユリアとシェイドは、半目で。
「おいっ!!」
誤るサハギニーを見るアンソニーは、確かにと頷く。
「普通の精霊術師は、魔法の呪文に組み込まれた召喚法を遣っているに過ぎない。 意思の疎通も無いので、その辺に居る精霊を感じては、呪文にて強引に使役する遣り方なのです。 ですから、このユリアさんの元に居る精霊達の様に、感情も有りませんし。 また、使役する道具でしか無い様です。 その為に、精霊遣いの大半は、50半ばで死んでしまいます。 過度に自然の力である精霊を使役して、強引に召喚する為に。 己が命も、微量づつ削って居ると云われますね」
ユリアは、それには初耳で。
「うはっ、ソレ知らない。 アタシ、元から精霊サンとは家族だから、呪術要らないし。 遣った事無いモン」
「でしょう。 ユリアさんには、呪文など必要の無い物です。 精霊は、元から神が遣わした四季と云う自然と、生きる全ての物が有する生命を支えるエネルギーが共に融合して、大いなる一年の流れを生み出した大地と空と水と火の営み。 その力を強引に引き出して遣う以上は、何らかの代償が必要なのだと思います」
クラークは、詳しく語られて大いに納得。
「なるほど・・なるほどに」
ユリアは、精霊達と見合って不満顔に。
「そんな強引に召喚するからイケないのよ。 精霊を呼ぶ魔力が有るなら、魔想魔術か自然魔法でも遣えばイイんだわ。 強引に自然の精霊を使役するなんて、サイテー」
サハギニーも、シェイドも、腕組みしてユリアに同意する。
アンソニーとクラークは、感情を見せる精霊を見ると、それが確かだと思えた。
さて、一方で。
セイルの周りに居るイクシオやエルザ。 イクシオは、セイルに。
「しかし、あのエルオレウ様の孫た~ねぇ・・・。 確かに、剣捌き凄かった訳だ」
エルザも半ば呆れた顔で、
「良く冒険者に成ったわねぇ~。 歩くお金持ちだよ~」
と、セイルを検めてマジマジと見る。
セイルは、ヤケクソ染みた笑いを見せた。
その話の中でセレイドは、ふと何かを思い出して。
「そういえば・・。 魔法学院の更に東方には、多くの島と大陸の極一部だけを有する小国が有ったが・・。 そこで作られる“カタナ”と呼ばれる剣は、数が非常に少ないながら。 切れ味恐るべき名剣とか。 セイル殿、旅の中で訪れて見ては如何かな?」
その話に、エルザはセレイドに。
「“カタナ”? あの、細身の刀身で、値段のバカ高い装飾剣の事?」
「うむ。 何でも、我々が各地で目にする装飾派手やかな“カタナ”とは、その小国が生み出す剣のレプリカらしい」
セイルも、セレイドに向いて。
「レプリカ・・紛い物ですか」
話の連鎖で、学者としての知識を引き出したイクシオが云うには。
「確かに、東方の最果てで生み出される“カタナ”ってヤツは、造り手が一子相伝の隠遁生活を送ってる鍛冶屋だけが造るらしい。 非常に質のイイ素材を使うから、年に何振りしか造られない業物だとか。 ただ、聴くに“カタナ”の製造者達は、何故か持ち手を選ぶらしい。 店に卸すのでは無く、何らかの形で自ら認めた相手だけに、自分の剣を売るそうだ」
エルザは、眉間にシワを寄せて。
「まどろっこしいやり方だねぇ~」
「聴いた話だがな」
そんな話をしている中で。 エルザが有名な過去の話を思い出す。
「そ~いえば・・、確かセイル君のお祖父さんと共に居た斬鬼帝ハレイシュ様って、黒い鞘のカタナを持ってたんじゃ無かった? 晩年は遣ってないみたいだったケド。 息子さんと一緒に冒険してた頃は、まだ遣ってたよ~な」
セイルは、その事は良く知っている。 斬鬼帝ハレイシュとは、過去に自分が幼いながらに2度会っていたからだ。
「黒霊刀“テラ・ナ・レイドルク”。 名前は、“天上の至宝”と云って、稀代の名剣ですよ。 確か、畏霊シュツルムヘイドと云う神の魂が宿る、インテリジェンス・ソードだと思います」
ハッとしたイクシオ。
「あっ、そうそう」
などと言っては思い出した。 漆黒の鞘に、白銀色の柄をしたカタナ・・、ハレイシュの持つ名剣だ。
エルザは、瞑れた様な細い眼をニコニコさせて。
「ね~、セイル君。 君の御祖父さんが持ってた剣って、どんなのだったの?」
「あ~、お祖父ちゃんですか。 持ってた剣は、大剣と長剣の間ぐらいで、火炎剣と呼ばれる類の“フランベルジェ”ですね。 ただ、刀身に遣われたのが特殊な鉱物で、持ち手の覇気を宿す力を持っているんです。 剣自体より、扱う側の技量を問われる至極の名剣です」
聞いたエルザは、ポカ~ンとしてしまう。
「何?」
咄嗟にイクシオに聞いて見る所が、実に仲間らしい。 イクシオは、テンガロンハットに積もる雪を払い落とし。 近くを走る馬車に顔を向けながら。
「俺は、イマイチ・・」
説明が足りなかったと思うセイルは、柔らかく笑う。
そこに、離れて聞いていたアンソニーが。
「その剣の違いは、話に出た二人の剣士の質の違いを表しているのだよ」
聞いたセイルは、静かに頷いた。
大柄な僧侶戦士セレイドは、不死者ながらに冒険者と成ったアンソニーへ、少し雲行きの悪い顔を向け。
「“剣士としての質の違い”・・、益々意味が解らぬ」
と、呟く。
アンソニーは、クラークに向いて。
「恐らく貴方なら、意味が解るだろう?」
クラークは、短く。
「凡そは」
と、言った後。 前を向いて、大通りの雪の世界を見つめて。
「セイル殿の祖父殿であるエルオレウ様は、剣技を得意とされた方だ。 闘志や覇気などを剣に纏わせ、鋭い剣圧で生み出す烈風の刃である“ソニックブレード”の使い手だったとか。 他にも、セイル殿と同じ魔法剣を扱えた。 しかし、一方ハレイシュ様は、剣術の技量そのものに優れた剣士。 技のエルオレウ、剣術のハレイシュと分けられた。 剣だけを扱わせるなら、ハレイシュ様に分が在り。 多彩な技として見るなら、エルオレウ様に優が上がる。 あのお二人は、そうゆう意味では永遠のライバルであるのだ」
エルザやイクシオは、セイルを見て。
「貴方って、御祖父さんの生き写しなのね」
「はぁーっ、血って争えないモンだわな~」
しかし、クラークは更に。
「いや、セイル殿はまた別だ」
聞いていたユリアは、興味津々っと云った顔で。
「どう違うの?」
「ウム。 エルオレウ様は、魔術の力は差ほども無く。 魔法剣は、魔力を宿して、不死などのモンスターにも致命傷を負わせる方便としていたに過ぎない。 そして、セイル殿の今の力量では、まだエルオレウ様程の覇気や気力を吐き出して、剣圧の烈風波などは生み出せない。 セイル殿が遣われる魔法は、本物の魔力を礎とした魔法その物で、それを剣に宿して戦うなど前代未聞の事だ。 大昔には、剣と魔法を両立した異才が居たと聞くが。 セイル殿の魔法剣は、まさにその入り口。 磨き切れば、エルオレウ様とも、ハレイシュ様とも違う剣士に行き着く。 私は、それを見届けてみたくてな。 こうして御一緒しているのだ」
クラークの説明に、満足のアンソニーは微笑んで。
「ま、まだまだ未熟な入り口ですけどね。 この若さで体得しているのですから、先は面白いでしょうね」
と、セイルに笑い掛ける。
「えへへ・・スゴイってさぁ~」
照れるセイルに、ユリアはススス・・っと近寄り。
「おい、チョーシこくなよ。 あと剣を幾つ無駄にすれば、その剣術ってヤツは完成するんだ?」
セイルは、途端に頭を抱え。
「ううう・・・無駄な出費があああ・・・」
ユリアは、ローブの上に着込むコートの腰に手を当て。
「全く、無駄が多過ぎンのよ。 大成する前に、剣不足で足手纏いに成るんじゃないでしょう~ね?」
セイルは、ユリアに縋って。
「ユリアさまぁ~、奢って~」
「フン。 仕事での分け前、アタシに半分くれる? アンタの半分よ」
「きっ・厳しーよおぉぉ~」
「当たり前じゃ」
セイルは、ユリアに頭が上がらずにゲンナリである。
笑う皆だが。 生まれの良いハズのセイルが、ユリアへ対等の扱いをしているのが驚きでもあった。 ま、一国の国王でも知人なら対等に接するユリアだから、有りでも在るが。
しかし、ユリアとセイルの二人が居る所に笑いは絶えず。 イクシオ達から見て、アンソニーの居場所として、コレほどに適したチームも無いと思えた。 恐らく、行く先々で色々と冒険に挑み。 燻る要素が見えない分だけ走って居られる。 立ち止まったり振り返る時は、自ずと遣って来る訳だ。 だから、意味深な過去を持つ者ほど、こうゆうチームは有り難いだろう。
アンソニーもまた、気楽に笑える自分の居場所を、若きセイルとユリアに見つけていた・・。
どうも、騎龍です^^
セイル編の続きと成ります^^ 内容が長いので、少し間隔を開けて一話一話を長文にするか。 細かく繋ぐかの繰り返しに為るとは思いますが、ごゆるりとお付き合い下さい。
ご愛読、ありがとうございます^人^