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エターナル・ワールド・ストーリー  作者: 蒼雲騎龍
K編
46/222

ポリア特別編サード・上編 最終話

ポリア特別編:悲しみの古都オールドシティ




             ≪引き上げて・・・様々な中で別れは突然に≫




ポリア達は、夕方に差し掛かる頃に外に出て来た。 隠し通路は、アノ不気味な拷問器具の有った更に奥深くまで伸びていたが。 構造自体は簡単な一本道であった為に、見回るのには難しくなかった。


さて。 地上に上がったポリア達一同は、曲者を捕らえた事をダグラスとイルガから報告された。 兵士達は、スコットとショーターにその同じ事を報告している。


「曲者ねぇ・・・。 何者かしら」


「さぁ・・、盗賊かも」


目元のみを噛み合わせるポリアとマルヴェリータに、ダグラスは、戻ってきたチームの仲間を前に距離を近くして、小声で。


「それが、どうも一人盗賊とか無頼の何者でも無い感じの人物が紛れてるんだ。 雇われた目的は、この辺見回りであって争いは含まれてないとか言うし。 他の二人はゴロツキと思えるんだが、ど~も一人だけその男は礼儀もそれなりに弁えた人物に見える。 良くは解らないんだが・・・、何と無く薄気味悪い」


ポリアは、ダグラスの報告を受けて。


「確かにそうね。 何処に居るの?」


「ホラ、あそこに座らせてある。 捕まえた後に、兵士達がチョ~シこいて暴力振るうから。 こっちに引き離した」


すると、顔を覆う布から見えているポリアの目が、柔らかく微笑む。


「ダグラス、イルガ、ありがとう」


イルガは、直ぐに目礼をして。


「は」


ダグラスは、急にポリアが優しく為るので。


「おっ、おお」


驚くダグラスとイルガの間を分け行く様に歩き出したポリア。 その後を着いて行くゲイラー達を見送るダグラスは、ポリアの反応に時を止めてしまった。


それに気付いたイルガは、ダグラスを見上げ。


「お嬢様は、御主が兵士の暴力を止めさせた事に喜んだまでよ」


と、説明してやる。


「・・・・そうか」


イルガの説明を聞いたダグラスは、解った様な・・・解らない様な心持ちで頷いた。


ポリアが貴族と知ってからダグラスの心はポリアから更に離れた。 だが、ポリアが貴族として、この国の一員として、役人と云うべき兵士の横暴を止めて貰えた事に感謝した訳だと解ると。 確かにポリアの貴族としての振る舞いが理解も出来る。 複雑な心境だ。


さて。


ポリアは、もう陽の暮れ掛かった夜の様な中、崩壊市街地の瓦礫前に歩み寄った。 太い円形の石柱の脇に、石の路面に座らされている3人の曲者を見に来たのだ。 ポリアが近付いたのを気付く3人の内、ガタガタと震えながら恨めしい目を向けたゴロツキ風体の男が。


「何だおめえ等っ、見せモンじゃねえーぞっ!!!」


震えて呂律が微妙な罵声であったが、まだキレる元気は有るらしい。 唇が青く、かなり寒いのだろう。 だが。 ポリアは、済まして前を向き座っている中年男を見て目を見張った。


(あっ・・・ロバート・・嘘っ!!!)


ギョッと見開いた目に映るその人物は、幼きポリアの脳裏に記憶が焼き付いて居る。 少し年齢を重ねているが、見間違いの無い顔だった。


そこに、ショーターが、


「よしっ、都市に戻るぞっ。 お前達は捕らえた3人を引っ立てろ。 万が一の事が在っても、守りは俺と冒険者で事足りる」


「ハッ」


兵士達が、ショーターの命に敬礼をする。


ポリアは、叔父を探した。


「いや、アラン殿。 それは・・・」


オッペンハイマーは、アランに何やら頼んでいる様子だ。 アランは、あの拷問器具を見つけてから喋らなく為った。 オッペンハイマーは、逆に興奮を交えて饒舌に・・。


「お・・」


思わず、オッペンハイマーに“叔父”と言い掛けたポリアの前で。


「よ~し、引き上げだっ」


と、元気を取り戻したスコットが言う。 自分だけ罠に掛かり、間抜けな所を見せて少し苛立ち気味である。


「ポリア・・どうしたの?」


マルヴェリータが、急に様子の変わったポリアに声を掛ける。


「えっ?」


ポリアは、自分を見る仲間を見た。 ゲイラーとシスティアナの並ぶ隙間から、こっちにやって来るイルガとダグラスが見える。


ポリアは、此処で何かを言うのはマズいと思った。 だから、直ぐに歩き出したショーターを見て。


「ううん。 出発を言おうと思っただけ。 さ、戻るだけよ。 最後だから、気を引き締めて行きましょう」


「?」


仲間一同、ポリアの態度に疑問を浮かべる。 何か言い掛けるのを止めるポリアが珍しいし。 濁した様子が丸解りだった。 だが、役人達の居る手前でそれを問い質す皆でもない。 普段どおりの様子で歩き出す。


そして、夜も深ける前に都市部に戻った一同。 スコットとショーターは、兵士達と共に噴水広場で別れて市政の中心に戻って行く。 


一方、アランを今夜は招きたがったオッペンハイマーの御蔭で、ポリア達はアランを送らずにオッペンハイマーの屋敷に直行する。 ただ、ダグラスは噴水公園で。


「んじゃ、俺は今夜も飲みに行ってくらぁ~。 明日、オッペンハイマーさんのお屋敷に戻るよ」


と、別れる。


ゲイラーは、ムッとしたヘルダーの脇にて。


「おい、ダグラスっ。 おい、おいって!!」


だが、ポリアは呆れた顔ながら笑みも浮かべていて。


「ゲイラー、いいわ」


と、去って行くダグラスを夜の闇の中で見送る。 冷たい風が吹きつけ、また雪が降る公園内だった。





                 


                     ★





「まあ~、ポリアっ!! お帰りなさいっ、寒かったでしょ? 夕食の準備は出来てるわよ~」


オッペンハイマーの奥さんである夫人が、屋敷に戻り次第にポリアに飛びついた。 


雪を払い落とすゲイラーは、ポリアがこの国の公爵家筆頭の家柄と知ってこの光景を見ると、何とも言えぬ思いがする。 平民出の自分達が一生肩を並べられないと想像する階級の皇女が、今やリーダーとして共に同じ目線の場に居るのだ。 ポリアは、自分の素性を隠していた。 だが、偉ぶった事も無かったし、仲間達と自分に変な階級の敷居や礼儀も持ち込まない。 丸で、平民出のお嬢様と云う存在でしか無かった。 だが、時折見せる気高さやその気品は、“公爵”と聞いて頷けるし。 また、自然と礼節を守りたくなる雰囲気を醸し出す。 そして、ポリアと居ると、貴族も色々で自分の抱えた偏見が壊れて行く思いがする。 貴族もまた同じ人であり、その地位に居る事を保ち、示し、予想を遥かに超えた苦労や気遣いをして生きているのだと解った。


(確かに、俺達がいざ貴族になっても、こんな暮らしは出来ない。 垣間見れるこの人たちもまた、色んな物を背負って生きてるんだな・・・)


オッペンハイマーが、立ち尽くすゲイラーに、


「寒いだろう? ささ、中に。 疲れて腹も空いたし、夕食を共にしよう」


と、語り掛けて来る。


「あ、お気遣いどうも・・・」


咄嗟に返したゲイラーだが。


「な~に、ポリアンヌの友人だ。 今日の仕事の礼も含むし、気にして下さるな」


と、オッペンハイマーは気さくに返してくれる。


(俺達は、視野が狭すぎる。 結局、誰も誰かの一面しか見てないで物事を語ってるんだな~)


ポリアと共にオッペンハイマーの奥さんと話しているマルヴェリータやシスティアナは、何処にも遜った素振りは無く。 婦人もまた、蔑む素振りは無い。 ゲイラーは、また何かを納得した。


さて。 大きな暖炉が部屋の左右に備わる食堂にて。 白いテーブルクロスが掛かる長いテーブルを挟んで、向かい合って食卓に就く一同。 食事が始まり、メイドさんなどに支給されながら会話は仕事へ自然に。


ポリアが、執事の男性にワインを注がれる中で。


「アラン先生、明日はどうしますか?」


ステーキを切っていたアランは。


「うむ。 明日の捜索は取り止める。 今日で粗方神殿の構造は解ったし。 一度市政を預かる統括部に報告をして、規模を大きくした調査隊を組もうと思うて居る」


イルガが、横から。


「では、護衛は今日で終わりですか?」


アランは、フォークで肉を刺すと。


「いや、ちと違う」


マルヴェリータも、システィアナも、チームの一同がアランを見る。 アランは肉を食べてから。


「今回の仕事を終わりにして、もう一度皆に護衛と調査協力の仕事を頼みたい。 半月ばかり、共に神殿調査に加わって欲しい」


ポリアは、長期依頼だと目を瞬きさせる。


マルヴェリータも、少し驚いて。


「わ・私達に・・あの遺跡の調査のお手伝いを?」


アランは、テーブル向かい側のオッペンハイマーを見て。


「うむ。 オッペンハイマー君とワシが共に信頼出来て、しかも実力に富んだ冒険者は御主達以外に居るまい。 これから少し長期に調べるにしても、兵士達は慣れぬ仕事故に微妙に頼りに為らず。 スコットやショーターは欲が多くてイカん。 ポリアさん達とて、雪が終わる頃まではこの都市を強引に出て行く事は難しいだろうし。 その・・好都合だと思うてな」


ポリアは、依頼主としてアランを見て。


「先生がそう思って下さるなら、喜んで仕事を請けさせて頂きます」


と、姿勢を正して頭を下げる。


すると、アランは笑い。


「フフッ。 快諾ありがとう。 コレで、孫と祖父の二代で関るわえ。 うははは」


ポリアは、ハッとして顔を上げた。


「え? お祖父ちゃんですか?」


「おお、そうだよ。 ヨーゼフ殿は、私の遺跡探検に何度か一緒に来た事が在る。 ワシとヨーゼフ殿は、言ってみればパートナーに近い」


コレには、オッペンハイマーも含めた皆が驚いた。


「お祖父ちゃんは、先生と冒険を・・・」


ポリアの驚いている顔を見るアランは、煌びやかなシャンデリアを見上げ。


「ヨーゼフ殿の剣技は、聴くにポリア殿のお父上の剣の師と同じと聴いた。 確かに剣筋鋭く、ワシなど足元に及ばない技量だった。 まさか、孫の御主と冒険出来るとはな・・・。 ヨーゼフ殿のお導きかの」


ポリアの脳裏に、大らかな指導で剣を握る初歩から教えてくれた祖父の事を思い出す。 早々と宮廷勤めに入り、自分の父親と周囲の忠告を振り切る様に結婚をしてしまった母。 祖父のヨーゼフも、可愛がった娘が別の男に奪われた様で、ポリアの父親とは顔を合わせるのを嫌ったらしい。 だが、唯一孫の中でも女の子のポリアを取り分け可愛がったヨーゼフ。 ポリアが剣の教えを乞うと、喜んで教えてくれた。 

(お祖父ちゃん・・・また、一緒だね。 見てる? アラン先生と、一緒だよ)


俯いたポリアの心が、感慨深さで染まった。


しかし、マルヴェリータは冷静に。


「しかし、アラン様。 兵士の方々が多数同行する中で、私達が必要なのですか? 優遇ならば、それで嬉しいのですが。 危険が在るなら、教えて下さい」


アランは、鋭い読みを見せたマルヴェリータにワイングラスを手向けて。


「ああ。 確かに、危険も在るよ」


ポリアが、スッとまた顔を上げた。


「実は・・な。 あの神殿の調査に託けて、もう一箇所調査したい場所が在る。 住居区の先で、大型の施設が崩壊している場所が在る。 其処はモンスターも出るし、兵士では手に負えぬ。 ついでと云えば軽々しいが・・・其処も、一緒に調査したい。 ポリア殿のチームの面々には魔法遣いも居るし、僧侶様も居るしの~。 ポリア殿本人の剣は、退魔の力を兼ね備えた物じゃし、丁度イイと思うての」


目を輝かせるポリアは、薄く微笑み。


「アラン先生。 懐が御寂しいのでは? お金を掛けて優秀な冒険者を雇う事が面倒なので、私達に手伝わせる気ですね?」


「うふぁふぁふぁ、バレたか」


すると、オッペンハイマーは驚いて。


「あっ・アランっ。 ポリアンヌを危険な場所に連れて行く気か?」


「は~。 過保護な叔父だのぉ~」


詰まらなそうな顔をしたアランは、横を向いて大きく溜め息を吐く。


ポリアは、マルヴェリータと見合って苦笑した。





                      ★




ダグラスは、クリスティーと雪のちらつく夜の街中で落ち合った。 


シュテルハインダーの都市を囲む山岳地帯は、世界でも指折りの活火山地帯であり。 その火山活動が豪雪の中でも川を凍結させず。 温泉を山々のあちこちに沸き立たせる。 地熱の強さで、一部の山は雪を真冬でも溶かすのだ。 その蒸気が風で集められ、高い山々のコートを羽織る様な都市部の上空で毎日雪雲を生み出す。 


繁華街に出たダグラスは、クリスティーと共に明かりが灯る飲食店街を歩く。 雪の中でも人通りは多く、一杯引っ掛けに来ている冒険者や役人などが多く目立つ。  雪を乗せた馬車が、居住区の方に何台も走って行くのを見たダグラスは、フッと空を見上げて。


「良く降る雪だな」


白いロングコートを着たクリスティーを連れて歩くダグラスは、本格的に振り出した雪を落とす空を見上げて溜め息を吐く様に呟いた。 


雪が積もる石畳の大通りを共に歩くクリスティーは、滑らない様に足先を選びながらダグラスの腕に腕を組み付かせて。


「此処じゃ、毎日よ。 水の月が近付く頃までは、雪が当たり前。 ウフフ、嫌い?」


赤いルージュを付けた彼女は、前日よりも色香に溢れる。 甘えてくる彼女の顔を見るダグラスは、何処と無く短絡的に満たされていて。


「いいや。 長くベットに入って繋がってられるから、嫌じゃないさ」


「淫らな言い方・・・。 でも、嫌いじゃないわ」


クリスティーとダグラスは、笑い合って恋人の様に絡む。


だが、ダグラスには、この日は運命の日だった。


その訪れは、宿の密集する地区へと繋がる路地に曲がった直後に起こった。


「ん?」


ダグラスは、街灯の無い大通りと大通りを繋ぐ路地に踏み込んだ背後から、殺気を含む気配を感じる。 確かに、少し離れた後方から鉄の具足をした足音が微かに・・・。


「どうしたの?」


緩い微笑みを浮かべたクリスティーが尋ねると、ダグラスは小声で。


(振り向くなよ。 誰か、俺達を尾行けて来てる)


すると、クリスティーは顔色を変えた。


ダグラスは、その顔色に。


(心当たり在るのか?)


クリスティーは、ダグラスの腕をギュッと掴んで。


(ままっ・前のチームのリーダーかも・・。 わっ・わ私・・彼の女みたいに為るの嫌がってチームを離れたから・・・)


ダグラスは、背後から尾行して来る一人。 そして、見る先の大通りに出る所に立ち塞がる様に立つ何者かの影を見て、その腹を決めた。


ダグラスはクリスティーと二人でで立ち止まり、暗い中で背後に振り返って誰何すいかしたのである。


クリスティーの予想は正しかった。 追い掛けて来ていたのは、彼女の元のチームに居た学者の小男で、盗賊のスキルを身に付けた怪しい中年男だったのだ。


「クリスティーっ!! カオフから新しい男に乗り換えたって訳かっ!!」


いきなり怒声で返された声が、クリスティーには脅しに聴こえる。 暗い建物の狭間を抜ける路地上で、ダグラスはナイフを抜く小男を迎え撃ち、一撃の柄突きで昏倒させる。


だが。


「おいっ、その女をこっちに渡せっ!!」


宿屋街の方に道を塞ぐ形で立っていた男が、ダグラスに走り寄って来て言う。


「カオフっ!!」


自分を要求する男の名前を言うクリスティーは、ダグラスの背後に逃げた。


「・・・」


ダグラスは、気を引き締めた。 それ程に、クリスティーを取り返しに来た男の気配は強そうに見えたのだ。


殺気立ったカオフと云う大柄の剣士は、ダグラスに斬り掛かって来る。 一撃を受け返すダグラスは、その剣筋の鋭さに。


(チィっ、手加減の出来る相手では無いな。 何とか、手負いにするか隙を突くしかない)


夜も深ける路地で、本気の斬り合いが始まってしまった。


オロオロと怯えてしまうクリスティーは、建物の石柱の影に隠れて二人を止める。 だが、もう気が狂ってしまう程に激怒したカオフと云う男の気は静まる訳も無く。 次第に、剣を打ち合うダグラスも本気に為ってしまい。


クリスティーが驚く中で、ダグラスはカオフと云う相手を斬ってしまったのだ。 


その瞬間は、斬り込んだ双方が鎬を削り合う睨み合いの直後だ。 打ち合わせた剣を競上げ、噛み合いを外すのと同時に右に払い抜けるダグラス。 見事なまでに斜めに斬り払った剣は、カオフの纏う鎖鎧チェーンメイルの一部を切断した。


「う゛ぐっ、このおおおっ」


脇に走った火傷の様な痛みに、カオフは振り返ってダグラスに反撃を喰らわそうとした。 だが、振り返る速さはダグラスの方が早く。 剣を弾き返す為に振り上げたダグラスの剣先は、逸早くカオフと云う男の喉笛を裂いたのだった。 


「あっ」


血飛沫を見たダグラスも、ギョっと目を見開き驚く。 見切って殺さずの間合いだと思ったのだが、カオフが強引に斬り掛かろうとして足を雪に滑らせたのだろうか、先に体が前に出てしまったらしいのだ。


「ぐぶぶぶ・・・」


黒いシルエットの血を撒き散らして雪の積もる路上に倒れたカオフ。


ダグラスは、自分が殺人を犯した罪人に成った事を瞬時に悟る。


「ああっ、ダグラスっ!!」


押し殺した声と共に、クリスティーが驚いて物陰から飛び出して来た。


ダグラスは、絶命したカオフの黒い遺体を見下ろし。


「殺した・・・。 俺は・・終わりだ」


と、悔やむ言葉を。


だが、恐怖に慄き。 事実から逃避したいクリスティーは、ダグラスにしがみ付いて。


「逃げてっ、わっ私と逃げてっ!!! お願いっ、一人にしないでっ!!」


「だが・・・」


罪の意識から苦渋の顔をして戸惑うダグラスに、クリスティーは抱きついてキスをする。 そして・・。


「私が悪いのっ、貴方を・・巻き込んだ・・・。 お願い・・お願いっ、遠くに・・遠くに一緒に逃げて・・・」


クリスティーの声が、ダグラスの心を惑わせる。


「・・・逃げるなら、少しの間は俺達だとバレない方法を取るしかないぞ」


ダグラスは、一つの決意を固めた。







             ≪終わりは静かに告げる 始まりの鐘の音を・・・≫

 





次の日の朝。


「ポリアっ、たたっ大変だっ!!!」


二日酔いで遅くまで寝ていたポリアの部屋に、ゲイラーが大慌てで駆け込んで来たのだ。 何事かと思ったポリアは、突き出される様に受け取ったダグラスの置手紙を見る。




ー ポリアへ


ポリア、悪いが今日でお別れだ。 


・・・、好きな女が出来たんだ。 その相手も冒険者で、二人でチームを組む事にした。 


勝手な事をして済まないと思っている。 


だが、ポリアのチームに俺は不要だ。 俺は、ゲイラーやヘルダーの様には成れないし・・・ポリアをリーダーとして心酔も出来ない。 俺は、自分の道を彼女と探してみようと思う。 


別れを面と向かって言うのも苦手だし、気恥ずかしくも思えた。 それに、彼女がこの都市を一刻も早く離れたいと云うから、黙って出て行く。 


君やチームの皆と過ごしたこの半年以上は、俺の最高の経験に成るだろう。 これから、のんびり冒険者をやるにしても、今までの経験は役に立つ。 ありがとう、ポリア。


ゲイラー。 我儘で済まないな・・。 ずっと一緒で・・天辺まで行きたいと思ってたが・・さ。 少し疲れたよ。


じゃ、何処かで逢ったら  -



手紙は、それで終わっていた。


「・・・」


最後まで読み終えたポリアは、不思議と悲しくなかった。 最近のダグラスの様子からして、遠くない何時かに別れる時が来ると思っていた。 ま、こんな形は、意外だったが・・・。


ダグラスの急なチーム脱退に、ゲイラーは必死で謝る。 だが、ポリアもマルヴェリータも、驚きだったが気は悪く思えない。 寧ろ、あの不満面だったダグラスが、新たな道を見つけた事を喜ぼうと言い返す。


しかし。


仕事の成功と、違う新しい依頼の為に。 ポリア達は、アランとオッペンハイマーを加えて斡旋所に向かう昼間。 街中が、妙に慌しい事に気付く。


薄暗い曇りの空模様の下、古い石造建築物の建物が立ち並ぶ大通りを歩く一行。


アランが、勢い良く走る馬車を見送り。


「フム。 アレは、刑事部の役人が使う馬車じゃの。 通りの角や、店先に刑事役人の姿も見える。 なんか在ったかの~・・・」


斡旋所に行く途中で、その意味が解った。 今朝、繁華街の中でも宿屋の密集する通りに抜ける細い路地にて、殺人が在ったらしい。 殺されていたのは、冒険者らしき男二人。 一人は、大柄で天然パーマをした剣士。 もう一人は、人相の宜しくない中年の学者だとか。


「物騒ね、ケンカかしら」


と、マルヴェリータ。


だが、ポリアは、急激に胸騒ぎを覚えた。


(・・・ダグラス。 まさか、急に旅立つ訳って・・・コレじゃ無いよね?)


黙り、顔行きが曇るポリア。


ゲイラーも同様だった。


だが、斡旋所に着くと、別にもう一つ殺人が起こっていたと云う事が解った。 同じく今朝だ。 都市から出て行く南門の近くで、奇妙な遺体が発見された。 斬られたのは間違い無いのだが、身なりが冒険者とに近いのに、旅の用意も見られない男性であったと云う。


街中で起こった冒険者二人の遺体も、南門で見つかった遺体も凍っていたが。 昨夜に殺されたらしい遺体だと解った。


アランとオッペンハイマーが斡旋所の夫婦に仕事の終了を報告し。 近々、再度調査に対する仕事を依頼する旨を伝える。 


オッペンハイマーの用意した報酬が、ポリア達に渡された。


さて、一通りの用事が終わった。 昼間からまた雪がチラつき始めた街中。 外に出たポリアは、鈍く白む雪雲を見上げる。 辺りは人が往来する雑踏が聞こえ、こんな極夜の地にも活気が在る事を教えている。


ポリアの様子を気にし始めていたオッペンハイマーが、黒いコートの襟を絞めながら。


「ポリアンヌ、さっきからどうした? 別れた仲間が心配かい?」


問われたポリアは、胸騒ぎを仕舞い込む様に微笑んで振り返る。


「いえ、叔父様。 それよりも、一つ気に成る事が・・・。 お屋敷に戻って、聴いて頂けませんか? アラン先生にも、是非」


アランとオッペンハイマーは、互いに見合った。


マルヴェリータは、ポリアに何か言い出せない事が在るのだと悟る。


ゲイラーは、消えたダグラスが何か事件に巻き込まれたのではないかと思えて表情が険しくなったままに。 昨日から気に為っていた事を尋ねて見る。


「ポリア、それは昨日の事か?」


ポリアは、イルガを脇にして。


「ええ。 此処じゃ言えない・・・」


皆、ポリアの話が気に為った。 特にアランは、ポリアの様子がヘンなので尚更だ。


「ふむぅ。 ポリア殿がそう云われるなら、家に帰る前に聞いて行かねば為るまい」


こうして、昨夜の夕食時にチームの皆で観光でもしようかと言い合っていた事等もう消え失せた。 屋敷に戻る間、ポリアとゲイラーは酷く無口に変わり。 会話をしようとも、直ぐに途切れてしまうほかの面々。 ヘルダーは、喋れない自分がこんな時は恨めしく思えた。


さて。 屋敷に戻ったオッペンハイマーは、直ぐに応接室に皆を通し。 執事の老人に、誰も話が済むまでは入れないで欲しいと言い付ける。


さて、応接室では急いだ用意が出された。 極寒のこの地は、紅茶の飲み方も多彩だ。 アルコール度の低く抑えられたリキュールに、砂糖漬けしたドライフルーツを入れ。 それを紅茶に入れたりして香りと甘みを楽しむ。 ポリアの心を案じたオッペンハイマーは、一番イイ紅茶を出して皆に振舞わせた。


メロンのリキュール漬けを落とした紅茶をティーテーブルに残し。 揺り篭の様に揺れ動く椅子に座ったポリアは、鮮やかな赤い鳥の絵が描かれる天井を見上げると、直ぐに本題に入った。


「叔父様、それにアラン先生。 私・・昨日あの崩壊市街地で捕まった曲者達の一人を知ってます」


イルガを抜いた仲間の面々は・・。


(やっぱり)


ソファーに並んで、少し間を空けて座るアランとオッペンハイマーには驚きだ。 先に、アランが。


「本当にか?」


続いてオッペンハイマーが信じられないと云った顔で。


「ポリアンヌが・・あんなゴロツキを?」


昼下がりの夕方前。 もう真冬の夕闇の様に暗くなり始める外。 火の入れられた天井のシャンデリアを見たポリアは、椅子を揺らし始めて。


「他二人は知りません。 ですが、イルガの捕らえたあの人だけは・・知っています。 あの頃に比べて、随分とおじさんになっちゃったけど・・・」


イルガは、あの三人の中でも度胸の座っていたあの男性だと思い出し。


「お嬢様、あの捕まってもジタバタしなかった人物ですか?」


「うん。 あの人の名前は、ロバート。 正式には、アルロバート・モルツァ・デヘアナー・・・」


その名前に、アランとオッペンハイマーはギョっとした。


「なっ・・なんじゃとっ?」


驚きの余りに、声を出したアラン。


「ま・・まさかっ」


誰か思い当たって、それ以上言葉が出無かったオッペンハイマー。


チームの面々は、名前を聞けばアランもオッペンハイマーも解る人物に興味を覚えた。


ゲイラーが、システィアナの座る椅子の後ろから窓に寄り掛かる立ったままの姿で。


「誰なんだ?」


ポリアは、瞑目して椅子に揺られながら。


「私のお祖父ちゃんに仕えていた執事さんの息子さん。 お祖父ちゃんに・・・剣の手解きを受けた一人よ」


説明されて、皆も驚いた。


アランは、苦い顔をして。


「なんと云うことじゃ。 よりによって・・ロバートじゃと? ワシがあやつに会ったのは、まだ子供の頃だ。 全く解らなんだ・・・ああ、解らなんだ」


ソファーから立ち掛けるぐらいに身を乗り出すオッペンハイマーは、ポリアに。


「ポリア・・ほっ・本当にあのロバートかい? 父の執事をしてくれたクシュリアントは、まだ生きてるのだよ?」


だが、ポリアは。


「お祖父ちゃんが死ぬまで、毎年此処に来て剣を交えた人を忘れる訳無い・・・。 冒険者に成るって・・・言ってたのに・・。 まさか、あんな所で・・・」


其処にイルガが。


「お嬢様、ですが・・・。 ダグラスと話したその御仁は、妙な事を言っていた様です。 なんでも゛戦うのは契約に無い”ですとか・・。 恐らくですが、あの者には主従関係を持つ誰かが居ると思われますが・・・」


ポリアの目が、パッと開いた。 だが、何も言わなかったポリア。


もうロバートの身柄は兵士の下に在る。 オッペンハイマーでも働き掛けて兵士に事情を聞かない限りは、どんな事を詮索されているのかは解らないだろう。 


渋い顔をしたアランは、オッペンハイマーに。


「のう。 明日にでも、ショーターに聞いてみてはどうだ?」


「はっ、はい。 是非に・・・」


二人の話の間に、ポリアは昔の事を思い出す。 祖父の元に行くと、何時もロバートと云う青年が居た。 ニヒルな若者で、汗を流すのが好きでは無いのに、何故か剣術を習うのだ。 少ない素振り、少ない打ち合いで、如何に多くを学ぶか考えていたロバート。


天稟てんぴんとしては、ロバートはポリアンヌに負けぬ。 じゃが、アレは大成しないじゃろう。 無駄を知らぬから”


まだ12歳を過ぎたばかりのポリアと二人の時、祖父のヨーゼフはポリアに言った。 その時は、何の意味か解らなかったが。 今に思えば、意味が解る気がする。 ポリアの知るロバートと云う人物は、何処か異常染みた出世思考の強い若者だと感じれた人物だった。 寡黙ながら、時折壊れたかの様に練習をしたり。 ポツリポツリと、ポリアに夢を語ったり・・。

  

ポリアの心に深く刻まれた思い出の中でも、祖父ヨーゼフと執事クシュリアントの会話は忘れられない。 それは、まだ少女のポリアが或る夜にトイレに起きた時だ。 明かりの灯るリビングにて、祖父のヨーゼフが執事であるクシュリアントを対等の如く椅子に座らせて話をしていた。


「・・・のお、クシュリアント」


「は」


「アルロバートに剣を教えた事は、ワシの間違いだったのかも知れぬ。 先々、御主に迷惑が掛からねば良いが」


と、ワインを傾ける祖父。


長身で、細身の礼服姿である執事のクシュリアントは、もう白黒で斑の髪をしている初老の男性だ。 自分の主である祖父ヨーゼフに頭を下げ。


「いえ、ヨーゼフ様は、私の願いを聞き届けたまでで御座います。 悪い事が起こったならば、全ての責任は親の私めに・・・」


すると、ヨーゼフは赤いナイトガウンを着た身を椅子から立たせた。 そして、春先の星が輝く空を窓越しで見上げる。


「我が孫のポリアンヌは、素直で心が真っ直ぐじゃ。 だから、剣を危うい使い方で振るおうとは考えぬ。 だが、アルロバートは、出世や立身の為の道具としてしか考えておらぬ。 クシュリアント・・御主の父親であるイヌラマー殿が政治不正で捕まり。 デヘアナー家は、伯爵から男爵の地位に格下げを受けた。 実質、お役目を奪われたから没落と変わらない」


ヨーゼフの言葉に、クシュリアントは深く項垂れた。


「はい・・、如何にも」


「だが、御主はその責めを正しく受け止め。 今では、こうしてワシの執事じゃ。 じゃが・・アルロバートは、己が家の没落を恥じて野心が先に成ってしまった。 剣の修行でその心を正そうと試みたワシと御主だが・・・、事態は悪化しとる。 先日、アルロバートが無頼の冒険者に腕を貸していたと斡旋所の主から報告を受けた。 何か・・何かいい手立てを打たないと、アルロバートは人を殺める可能性が有る。 クシュリアント・・病気のグレイスの為にも、考えねばな・・」


「はい・・、我が妻も・・病床より案ずるのは一人息子ののロバートの事・・。 娘二人は、ヨーゼフ様の御蔭で嫁ぎ先が見つかり。 心配は息子のみとなりまして御座います」


「うん。 ワシは、首都でまだ若かれし頃に、デヘアナー卿の先々代に世話に成った。 不正を起こした御主の父親とは同じ教育学校の先輩後輩で、面識も有った。 この街に来るに当たって、御主と出会えたのは運命と思ったよ。 幼いアルロバートのあの卑屈な目・・今でも忘れられぬ。 没落と云う運命に翻弄されたからこそ、人は己が感ずるままに何かの道筋を決めるのかも知れぬが・・。 御主とアルロバートの方向は正反対じゃ。 虚しいの・・クシュリアント」


「我が主のお心を悩ませる息子・・何とも遣る瀬無い思いで御座います。 ああ・・親で無ければ・・・一思いに斬り捨ててしまいたい・・」


何時もは温和で微笑を絶やさない執事のクシュリアントから、この言葉を聴いたポリアは愕然とした。 

ポリアは、16歳の頃まで祖父の元に来ていた。 最後に、亡くなる半年前に逢った頃の祖父はまだ元気で、剣の稽古もして貰えた。 だが、その頃にロバートは居なかった。 祖父ヨーゼフやクシュリアントに尋ねても、“冒険者に成ったのでないか”としか返って来なかった。 今にして思えば、何か在ったのかも知れない。


(お祖父ちゃん・・ロバートと何か在ったの?)


若いながらに、そう心に疑問を残したポリア。


それから、半年で祖父は急死した。 ポリアが学校も何もかも休んで、イルガと共に母親の乗る馬車に飛び乗ったのは、知らせを聞いた秋の夕暮れだった。






                      ★





恐らく、ポリアが冒険者としての最大の過渡期は、この時が一番だったかも知れない。 Kと共にした冒険より、ポリアにとって此処から始まる一時の事件は人生最大の大事件だった。


何故ならば、この夜に何者かの襲撃を受けたのである。 そして、アランが瀕死の重傷を負うのだった・・・。




【次話は、ポリア特別編 中 に続く】

どうも、騎龍です。 ポリア編の上を、今回で終了致します。


次回からは、K編・セイルとユリア編・その他のどれかから一番早く行けそうな物を掲載して行きます^^


ご愛読、ありがとう御座います^人^

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